概念能力と概念命名が分類学習に及ぼす影響
宮崎正明1・龍 祐 吉2
TThe Effects of Conceptual Ability and Labeling Concept
Names on Children's Sorting BehaviorMasaaki MIYAZAKI and Yuukichi RYU
To examine the effects of conceptual ability and labeling concept names on a conceptual sorting task,6_yr._old with high and low ccnceptual ability were divided into the group,
with labeling concept names, instance names, or no labeling names(as a control group)by
experimenter. The result revealed that Ss with high conceptua正ability learned almost at the same rate among three groups and that Ss with low conceptual ability learned the fastest in
the grqup of labeling concept names but there was no singnificant difference between thegroup of labeling instances names and of no labeling names. It was concluded that S s conc−
cept utilization in learning sorting task depended upon S s conceptual ability and labeling concept names.
目 的
Kendler, Kendker&Marken(1969)は,弁別移行学習事態において身近な名義的概念 の利用に関する発達的研究を行った。その結果,年齢の関数として原学習での標的事例を 移行学習で全て入れ代える全逆転移行の方が,半分しか入れ代えない半逆転移行よりも速 く学習されることを見出した。Kendler, et al(1969)は,この実験から年齢とともに概念 利用能力が高くなると解釈した。Kendler, et al(1969)の研究では,事例として幼児にも
なじみのある名義的概念に属するものを用いていた。従って,より実証性が高いという点 で一応評価できるものであった。しかし,弁別移行学習を通じて,概念利用能力を査定す ることに対して次のような疑問が残る。即ち,年少児の転移能力は年長児や成人の転移能 力よりも脆弱である。そして,弁別移行学習は原学習において獲得した内容が,移行学習 へ転移するという前提に基づき,移行学習の成績により概念利用の可能性を吟味する。従っ て,年長児および成人はともかくも,転移能力の弱い年少児の概念利用の可能性の有無を 弁別学習移行において推測することは適当でないように思われる(Cole,1976)。
この点を考慮して,移行学習を含まない分類学習で,子どもの概念利用を検討した研究
(杉村,1974)がある。この研究では2つのタイプの分類課題が用いられていた。1つは 概念分類課題であった。この課題は4つの事例(例えば,ニンジン,ダイコン,バナナ,
ミカン)を概念(野菜,果物)に基づき,2つのグループに分類することができる課題で あった。もう1つは半概念分類課題であった。この課題は(例えば,ニンジンとミカンを 対,そしてダイコンとバナナを対というように)概念に基づき分類することができない課
1長崎大学教育学部教育心理学教室
2広島大学附属小学校教諭
題であった。杉村(1974)は,もし被験者が分類の際に概念を利用できれば,概念分類課 題を半概念課題よりも速く学習するが,もし概念を利用できない場合には,両分類課題の 成績はほぼ等しくなると仮定した。実験の結果,被験児は年齢の関数として,概念分類課 題を半概念分類課題よりも速く学習した。この結果から,杉村(1974)は年齢の増加とと
もに概念を利用する能力が高くなると解釈した。
しかし,たとえ同一年齢であっても,同課題の成績に個人差のあることは周知の通りで ある。従って,概念利用の可能性の有無を年齢要因に単純に帰することに対して疑問が 残る。概念利用とそれに影響する先行条件との関連を明確にするためには,年齢の要因を 除いて検討することも必要であろう。
Sugimura&Terao(1976b),はたとえ同一年齢であっても概念利用は他の要因に依存 することを報告している。Sugimura&Terao(1976b)は鳥・昆虫・果物・野菜に関する 概念能力検査(杉村・寺尾,1975)を6歳児に実施して,彼らの概念能力を検定した。そ
して,高概念能力児と低概念能力児とを抽出し,概念能力が分類課題の成績に及ぼす影響 について検討した。その結果,高概念能力児は概念分類課題を半概念分類課題よりも速く 学習した。これに対して,低概念能力児には両課題の差がみられなかった。以上の結果は,
概念能力が概念利用に影響を及ぼすことを示している。
ところで,もし低概念能力児の概念利用が高概念能力児よりも劣っている理由として,
事例問に共通する概念を抽出できないことにあるとすれば,予め事例に概念名を命名する ことにより,低概念能力児の概念利用が促されることが予想される。以前の研究(例えば,
Sugimura&Kamimura,1978)において,年少児の概念利用が概念命名により促されたと いう報告はあるものの,年齢水準を一定にして,概念能力と概念命名との関連から概念利 用における影響を検討した研究はこれまでなされていなかった。
そこで,本研究では概念能力検査(杉村・寺尾,1975)を用いて6歳児の概念能力を査 定し,高概念能力児と低概念能力児とを抽出した。そして,高概念能力児と低概念能力児
を各々,概念命名条件群,事例命名条件群,命名なし条件群(統制群)に割り当てた。概 念命名条件群では,事例名に引き続いて概念名を命名するので,事例名を単に知っている かどうかという点も概念利用に影響する可能性がある。そこで,この可能性を検討するた めに,事例名のみを命名する事例命名条件群を処遇条件の中に加えた。
以上の観点から,本研究では(1)概念能力の差が分類課題の成績に如何なる影響を及ぼす のか,(2)事例に事例名や概念名を命名することが,高概念能力児と低概念能力児の分類課 題の成績に如何なる影響を及ぼすのか,という2点を検討することを目的とした。
方 法
本実験を行う前に,概念能力を高・低に分類するための概念能力検査を行った。
1.概念能力検査
概念能力検査は,抽象検査と識別検査の2つの下位検査から成っている。
(被験者) 被験者は,幼稚園の年長児196名である。年齢は5才7か月から6才6か
月の範囲で,平均6才1か月であった。
(材 料) 杉村・寺尾(1975)の「鳥」「虫」「果物」および「野菜」の概念について の抽象検査と識別検査を用いた。
(1)抽象検査 Table 1に示したように,検査は鳥,虫,果物,および野菜に関するも のそれぞれ4セットからなっている。鳥セットでは見本事例が鳥で,選択事例は鳥,虫,
乗物であり,虫セットでは見本事例が虫で,選択事例は虫,鳥,乗物である。果物セット では見本事例が果物で,選択事例は果物,野菜,花であり,野菜セットでは見本事例が野 菜で,選択事例は野菜,果物,花である。
(2)識別検査 Table 2に示したように,鳥に関するものは鳥に属する4事例と鳥に属 さない4事例(虫と乗物2事例ずつ)からなり,虫に関するものは,虫に属する4事例と Table 1抽象検査
見本事例 選択事例 概念
ホタル・トラック・ッノてメ
チューリップ・バナナ・ハクサイ
wリコプター・トンボ・ツル 『
caEサクラ・タマネギ
Jキ・レンゲ・イモー
Jラス・ヒコウキ・アリ ー
gマト・メロン・ユリ セ ミ
a@ モ
潤@ シ^ ケ ノ コ
=@ ロ ン
eントウムシ
nクサイ
nクチョウ R オロギ
J ボチ ャ
X ズ メ カ ンJブトムシ
C モ
J ラ スpイナップル
カブトムシ・ツバメ・フネ nクチョウ・キシャ・カマキリ Aサガオ・ミカン・ダイコン
・bト・ペンギン・コオロギ
^ケノコ・タンポポ・サクランボ
Zミ・スズメ・ゲンシャー
iス・パイナップル・バラ 二 Eテントウムシ・バス ヒマワリ・カボチャ・リンゴ (注) 下線は標的事例を示す。
虫に属さない4事例(鳥と乗物2事例ずつ)からなっている。果物に関するものは,果物 に属する4事例と果物に属さない4事例(野菜と花2事例ずつ)からなり,野菜に関する
ものは,野菜に属する4事例と野菜に属さない4事例(果物と花2事例ずつ)からなって
いる。
抽象検査と識別検査に用いた事例はすべて線画にし,抽象検査では1セットずつ,19×
26.5cmの白い厚紙の上部に見本事例1つを,下部に選択事例3つを貼りつけた。識別検査 では,5×6.5cmの白い厚紙に1事例ずつ貼りつけた。用いた事例とその呈示順はTable 1
とTable 2に示したとおりである。
これとは別に,抽象検査の練習用として三角形を見本事例とし,三角形,正方形,円を
選択事例とするセットを用いた。
Table 2識別検査
鳥 虫 果 物 野 菜
ツ ル ア リ リ ン ゴ ダイ コ ン
ヨ ッ ト
I オ ムハクチョウ
Jマキリ
ユ リ pイナップル
カ キ i ス ト ン ボ
s コ ウキ 潤@ シ
ヘリコプター
c バ メ Z ミカ ボチャ
o ラ o ナ ナ
ヒマ ワ リ
=@ ロ ン
^マネギ
ペ ンギン ホ タ ル サクランボ ト マ ト
テントウムシ バ ス イ モ チューリップ (注) 下線は概念に属する事例を示す。
(手続き) 実験は被験者の所属する幼稚園で個別に行った。被験者に氏名や年齢など を尋ねてから,抽象検査を先に実施し,そのあとで識別検査を行った。これは識別検査で は実験者が概念名辞を与えるので,それが抽象検査に影響するのを防ぐためである。
(1)抽象検査 被験者に抽象検査用のセットを呈示し,実験者がその見本事例を指さし て,「これは○○です。」と見本事例名を言う。それから,「これと同じ仲間は,下の3つ の絵のうちどれですか?」と尋ねて,被験者に絵を指さすように求める。そこで,被験者 が正事例を指さしたら,「これとこれはどちらも何ですか?」と尋ねて,共通概念を言語 化させた。なお,被験者が正事例を選択した時にのみ,それらの共通概念を言語化させた。
(2)識別検査被験者に,「これからいろんな絵を1つずつ見せます。その絵が鳥であ れば はい ,鳥でなければ いいえ と言って下さい。」と教示してから,鳥リストの事 例を1つずつ呈示し,事例ごとに「これは鳥ですか」と尋ねた。鳥リストの8事例につい て検査を行った後,虫,果物,野菜リストの順に同様の手続きで,検査も実施した。
(採点法) 抽象検査では,被験者の正しい選択に対して各1点,さらに正しい共通概 念の言語化に対して各1点を与えた。Table 1に示した概念名辞が言えたときに正しい言 語化とみなした。従って,正選択のみで16点,それに言語化が正しければ16点加わるので,
満点は32点になる。識別検査では,各リストとも正しく識別できた反応,すなわち概念に 属する事例に対して はい と答える反応と,概念に属さない事例に対して いいえ と 答える反応にそれぞれ1点を与えた。従って,全部正しく識別できれば,32点になる。抽 象検査と識別検査の合計点を概念能力検査の得点とするので,満点は64点になる。
2.分類学習
(実験計画) 2×3の要因計画である。第1の要因は概念能力(高・低)であり,第 2の要因は命名条件(概念命名,事例命名,命名なし)であった。
概念能力検査全体の結果は,得点範囲が最低16点から最高63点であった。Table 3には,
各群に割り当てられた被験者の人数と平均月齢と概念能力検査の平均得点と得点範囲が示
されている。尚,ここでは概念能力検査の結果,上位から36名を高概念能力者,下位から
36名を低概念能力者とみなした。
Table 3 高,低能力児の概念能力検査の平均得点と範囲*
命 名 概念能力
人数 月齢
概 念 事 例 な し
高 36 74
58.6(55−63) 58.6(56−63) 58.0(54−61)
低 36
70 30.3(16−36) 33.3(30−38) 32。9(26−37)
*()は範囲を示す
高概念能力者と低概念能力者との年齢間にはわずかではあるが(4か月)有意差がみら
れた。
(材 料) 分類箱は白色のボール紙を使用し,27×17cmの底面をもち,前面の高さ3cm,
後面の高さ11cmの傾斜した箱の上面に,刺激カードを入れるための細長い穴があけられて いる。分類カードは白色の厚紙に,黒色線画を施した絵カードを用いた。練習用としてネ コとカサを用い,各事例につき4枚,合計8枚を1セットとした。本学習に際しては,野 菜の概念から2事例(キュウリ,ホウレンソウ),果物の概念から2事例(スイカ,ブドウ)
を概念カテゴリー規準表(杉村・市川,1975)から選んだ。各事例につき10枚,合計40枚 を1セットとした。尚,分類カードの大きさは5×6.5cmであった。
(手続き) 概念能力検査から2日後,同じ場所で個別的に実験を行った。被験者と実 験者は分類箱をのせたテーブルをはさんで対座し,記録者は実験者と隣り合わせに座わっ
た。
最初に,分類の仕方に慣れさせるため,練習用カードを用いて練習を行わせた。練習の はじめに「これから郵便ごっこをしましよう。ここにネコとカサのカードがあります。カー
ドの入る方はいつも決まっています。どちらかはこちらの方に入れると あたり で,ど ちらかはこちらの方に入れると あたり です(それぞれ左右の投入口を指で示す)。今 から1断ずつカードを渡しますから,どちらに入れたらよいかを考えながらカードを入れ て下さい。当たっていたら あたり ,はずれていたら はずれ と言いますから,でき るだけたくさん続けて あたり と言われるように頑張って下さい。」という教示を与えた。
その後,「これはネコ(カサ)です。」と言いながら,一枚ずつカードを手渡し,被験者カー ドを投入する度に あたり はずれ の情報を与えた。事例と左右の穴との対応は被験 者の半数を逆の穴に入れさせることで位置の効果をカウンターバランスした。練習では,
8枚のカードをくり返し3回(24試行)呈示しても,4回連続正反応の学習基準に達しな いものは,そこで中断し,対象から除外した。尚,カード1枚の呈示(分類)は1試行と
する。