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ダウン症者の姿勢保持能力について

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Academic year: 2021

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(1)

ダウン症者の姿勢保持能力について

善次郎

Stady on Postual Control Ability of Pupils with Down's Syndrome

Zenjiro MIZUTA

 精神薄弱児は知的面だけでなく,運動面においても,健常児に比べて遅れている。その 中でも運動の基礎的能力であるバランス能力(平衡機能)に著しい遅滞のあることが報告 されている。

 立位姿勢の調整能の場合は,平衡能を指すことが多く,この平衡能を体力の一つのまと まった要素として取り上げることも出来る。

 平衡機能(バランス能力)は静的なものと動的なものとに大別できる。静的バランス能 は一定の姿勢を維持するものである。それに対して,動的バランス能は運動しているとき に刻々と変化する身体重心を安定した状態に位置させようとするもので,静的バランス能 に比べ,実際の運動場面でより重要な役割を果たしている。

 動的バランス能の測定は,主として平均台や不安定板(Stabilometer)が用いられてい る。不安定板の形式はさまざまであるが,基本的には被験者に不安定な台上でバランスを 保たせるものである。精神薄弱者に関した不安定板テストでは,いずれも健常児より低い

        (1》(2} (4)

得点を示している。

 そこで,われわれは不安定板を用いて,ダウン症者の動的バランス能の短期間の練習効 果を測定し,彼らの不安定板上での姿勢保持態勢および姿勢保持能力を単純精薄者と比較 することによって明らかにしたい。

研究方法

1)被験者

被験者は養護学校の中学部,高等部に在籍するダウン症4名(以下D群という)と,対

Table 1 被験者の構成

N

M F T CA MA

IQ  始歩期

D群

3

1

4

15.6 6.6

42

1.8

nD群

3

1

4

15.6 6.8

43

1.8

長崎大学教育学部教育心理学教室

(2)

照群として単純精薄4名(以下nD群という)である。なお, D群とnD群とは性別,

CA, MA, I Q,副読期においてマッチしている。 Ssの構成はTable 1の通りである。

2)不安定板

 本実験で用いた不安定板は,山本(1978)のものを参考にして作成したものである。プ ラットホームは縦70cm,横30cmで,その中央に直径2cmのシャフトを長軸と直角になるよ うに設置し,シャフトの両端はボールベヤリングつきの軸受けで支えている。プラットホー ムを水平にしたときの高さは13cmで,シャフトを軸として±20度回転する。

3)実験手続き

 実験は個別に行われ,全員が4回忌練習と9回の本実験を実施する。一人のSsが練習 および本実験を行うとき,他のものは実験場の周りに腰を下ろし,Ssの様子を観察して

いる。

①最初に験者が不安定板に乗って見せ乗り方の説明をする。不安定板の乗り方は,シ   ャフトに対して足が直角になるように横向きにのることになる。

②1回目から4回目までは,不安定板に慣れるための練習で,Ssの全員が5分間ず   つ不安定板に一人で乗って練習をする。練習中,験者がSsの手を持ってやったり,

  不安定板の乗り方(乗る向き,足の位置,手を動かすなど)の指導をする。

③5回から9回までの本実験は,Ssの全員が一人で1分間ずつ不安定板に乗って練   習をした後,一人10試行の姿勢保持時間を計測し,姿勢保持の様子をVTRに撮り記   録する。

   験者の一人がSsを不安定板上に誘い, Ssは験者の手を胸元で持ってプラットフ   オームで起立し,バランスをとるのに最適な足の位置を決める。そして,安定した後,

  験者の手を離す。その間に,「今から,上手にバランスをとって出来るだけ長くプラ   ットフォームの上に立っておられるようにしてください」と指示をする。

   Ssの中には,いつ手を離してよいのか分からないものがいるので,その時は験者   から手を離してよいことを知らせてやる。

④本実験の2回目からは,試行ごとに前回の姿勢保持時間の平均を表した棒グラフを   示し励ますことにした。実験試行の順番は1から8までのSsが順に第一試行を終わ   つた後に,全員が順に第二試行を実施するという方法で第十試行まで行った。

4)観察方法

 験者の中の他の2名が姿勢保持の観察を行った。各Ssの姿勢変化を側面から観察しチ ェックリストに記録した。姿勢変化はVTRにも撮り,実験後に羽撃3名が個別にVTR からチェックリストに記録した。それらを基に生の記録を修正した。

5)計測方法

 姿勢保持時間はSsが験者の手を離したときからプラットフォームが床に着いたときま たはプラットフォームからSsが離れた時までの時間である。姿勢保持時間は観察者2名 で計測し,2名の平均で求めた。

(3)

3.結果および考察 1)姿勢保持時間の推移

 不安定板上の姿勢保持時間の測定は,Ss 全員に対して1回10試行を9回行った。1 回から9回まで行われる期間は約40日であ る。Fig.1は各回のD群およびnD群別の 姿勢保持時間の最高値,最低値そして平均 値を図示したものである。

 Fig.1が示すように, D群とnD群を比 較すると,姿勢保持時間の最高値,最低値,

平均値とも移封に有意差は認められない。

しかし,D群はnD群に劣っている傾向が 見られる。さらに,両群とも健常児に比し

     (2)(3)

劣っている。

 また,1回目のD群の姿勢保持時間は最

高値(2.47±0.34秒)最低値(0.00±0.00 秒),平均値(1.10±0.17秒)で,nD群

のそれは(2.63±0.42秒),(0.41±0.47秒),

(1.47±0.24秒)であり,9回目のD群の 最:高値(3.26±1.45秒),最低値(0.90±

0.27秒),平均値(1.77±0、35秒)でnD 群のそれは(3.89±1.21秒),(1.19±0.29 秒),(2.20±0.51秒)であり,D群nD群

ともに姿勢保持時間の1回目から9回目へ は有意な増加は見られない。しかし,両全

とも漸増の傾向は見られる。

 Fig.2は各回の平均値の推移を個別に示 したものである。Fig.2が示すように,1 回目から9回目へ漸増するタイプ(漸増型)

があり,1回目から9回目まで増減がなく 水平を維持するタイプ(水平型)がある。

また,1回目から2回目,3回目あるいは 4回目と漸増し,そこでピークに達し,そ の後は下降するか水平を維持しているかの タイプ(前半漸増型)もある。健常児には

       (2) (3) (4)

このタイプが多いようである。

 D群,

Fig.1 各回のD群とnD群の姿勢保持時間

,ll亀

2.00

1.00

間 回

     

    R    煮

∴/鴻:鑑

ld〆

臣一一cD群(A,B,C,D)

σ一一一.◎nD群(P, Q, R, S)

※印は1回目の姿勢保持時間より   有意に優れている時間を示す

F量g.2 個人別による各回の平均値の推移

Table 2 D群nD群と三つの型との関係 漸増型 削半漸増刑 水平型

D群 1(B) 1(C) 2(A,D)

nD群

2(P,Q) 1(R) 1(S)

    nD群を三つの型にまとめると, Table2のようになる。 D群はnD群に比し漸 増型は少なく,水平型が多いような傾向を示している。

 漸増型(B,P),前半漸増型(c, R),水平型(D, s)を図示したものがFig.3,

(4)

sec

4.00

3.00

2.00

1.00

時 間 回

 数

 、

, 、

●『◎D群のB ひ_・nD群のQ

、、

sec・

3.00

2.00

1.00

123456789

Fig.3 姿勢保持時間の漸増型の例

 時 間 回  数

、、

一D群のC

ひ_◎nD群のR

4,5である。いずれも分散が大きく各回と も10試行の値が不安定であることが分かる。

漸増型にその傾向が著しい。

sec

3.00

2.00

1.00

、、

」一●D群のD

←一◎nD群のS

123456789

Fig.4 姿勢保持時間の前半漸増型の例 Table 4 姿勢保持状態のチェックリスト

時 間 回  数

項目

回数

D nD

①足元

29(81) 36(100)

②前下

0( ) 3(8)

③正面

24(67) 20(56)

④不安 0() 0()

①まっすぐ A前へ傾く

21(58)

Q9(81)

22(61)

R6(100)

上 ①まっすぐ

28(78) 15(42)

半 ②前へ傾く

36(100) 36(100)

③後へそる

25(69) 16(44)

①つっぱる

18(50)

0()

②上へ出す

9(25)

0()

③下へ降ろす

17(47) 9(25)

腕 ④前へ出す

15(42) 18(50)

⑤横へ開く

10(28)

0()

⑥前回し

8(22) 16(44)

⑦後ろ回し

24(67) 34(94)

①難している A力が入る

17(47)

P2(33)

20(56)

Q5(69)

①まつすく A曲っている

30(83)

P5(42)

36(100)

X(25)

①まっすぐ

30(83) 27(75)

②引く 12(33) 27(75)

N

N

N

NS

1234 56789

Fig.5 姿勢保持時間の水平型の例

NS

(5)

2)不安定板上での姿勢保持態勢

 姿勢保持態勢はTable 3のようなチェックリストに丹念にチェックされた。それをD群 nD群別に集計すると, Table 4の通りである。両群に有意差が認められたものは腰と腕 の動きである。

 D群は腰を引いて重心を後にする動きに乏しい。それに対してnD群は腰の引けてるも のが多く,腰を引くことによってバランスをとっているのである。

 また,腕の動きであるが,nD群は腕を前に回し後に回してバランスをとっている。D 群はnD群より腕を前に回したり後に回したりすることは少なく,腕をつっぱったり,上

に挙げたり下に降ろしたり,横に開いたりすることが多い。

      鉦藪藪賦斑B

        銚熊麺鎗鰻ゼ。

       曝露愈愈翼D

Fig.6 D群(A, B, C, D)の姿勢保持態勢

     謙廻難論簸ま亘Q

        素砥脚継胸懸

Fig.7 nD群(P, Q, R, S)の姿勢保持態勢

(6)

 したがって,D群は一方向だけに耐えて終わっているD群にも倒れないようにしょうと いう気持ちはあるが,どうずればよいか分かっていない。そこで,棒立ちにならざるをえ

ない。

 Fig.6,7はD群nD群の一人ひとりの姿勢保持態勢を示したものである。これは一人 10試行×9=90試行の中で最高の姿勢保持時間を1/3sec毎にカットし,その時の態勢 を図示したものである。この図からもD群は腰の引きや腕の回転の乏しさが分かる。

4.総  括

 一般に,精神薄弱者は運動面でも遅れているが,中でも運動の基礎的能力であるバラン ス能力に著しい遅れがあると言われる。そこで今回,中高生のダウン症のバランス能力を 明らかにすることにした。それは不安定板を用いて実際の運動場面でより重要な役割を果 たすと言われる動的バランス能力についてで毒る。

①D群の1回目の姿勢保持時間の平均値は1.10±0.17秒(mean±S.D.)で9回目のそ   れは1.77±0.35秒であり,練習の効果として漸増の傾向が見られる。

 ②nD群の1回目と9回目の姿勢保持時間の平均値は1.47±0.24秒,2.20±0.51秒で   あり,D群と有意な差は認められないが優れている傾向にある。

③姿勢保持態勢について,両者とも倒れないようにしょうとする気持ちはあるが,D   群はnD群に比し,第一に腕の前回しや後回しをしてバランスをとろうとすることに   乏しい。腕をつっぱったり,上に挙げたり降ろしたり,横に開いたりしている。第二   に腰の動きが乏しい。前に重心があり前に倒れようとするとき,腰を後に引いて重心   を後にする動きが見られない。

 ④両群とも個人差が大きい。また,個人内の分散も大きく値が不安定である。つまり,

  約40日にわたり1回10試行X9=90試行挑戦したが,十分なバランス能力は身に黒い   ていないように思われる。

 今後,第二段の訓練を実施し効果を検討したいと思う。

 最後に,おしみないご協力をいただいた安達宗弘,高谷康文,山口伸一郎の諸君に感謝 申し上げます。

5.参考文献

1)国分 充,松野 豊:;日本特殊教育学会 第21回大会発表論文集 484−485 1983

2)松崎保弘;軽度精神遅滞児の不安定板上の姿勢保持 日本特殊教育学会 第21回大会発表論文集 480  −481  1983

3)山本高司;体育の科学 28(6)406−410 1978

4)Eckert, Helen M.;Factorial analyses of perceptual motor and reading skills. Research Quarterly.

46(1) 85−91  1975

5)Ryan, E. Dean.;Effects of stress on moter Performance and learning. Res. Quart. Amer. Ass. Hlth.

 Phys. Educ. Recr.,33(1) 111−l19 1963

      (1990年10月31日 受理)

参照

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