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糸山景大*・後藤ヨシ子**

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(1)

教科教育の学間的位置関係に関する一考察 糸山景大*・後藤ヨシ子**

(昭和61年10月31日受理)

A Discussion on the Relation between Science of Education,

     Basic Science and Curriculum and Teaching Kagehiro ITOYAMA and Yoshiko GOTO

(Received October31,1986)

 あらまし 教科教育の研究において,それぞれの研究の類似点や相違点あるいは方向性 等を明確にし,研究の進展を画るために,教科教育,教科専門および教職専門の問の学問 的位置関係をこれまでの教科教育の定義等を基にして再検討した。即ち教科教育が教科専 門と教職専門の両方に基盤を置きながら,その研究の成果が教育の場を通して教科専門に も教職専門にもインパクトを与えうる科学であるべきであるという理念のもとに,それぞ れの学問的位置関係を論じ,一つの図式化したモデルを示した。またこのモデルによって,

教科教育の研究がもつ本来的な特質を論じた。

1.まえがき

 教員養成において教科教育の重要性が叫けばれて久しい。その研究も同一教科,同一領 域においてさえ,視点や方向性あるいは扱う教材等々,多角・多様な広がりを示している。

このような研究の多角・多様な広がりは,日本教科教育学会結成時(1976年),会長平野智 治が「研究の分野,領域も従来の文化の領域区分にとらわれない自由な発想のものや,伝 統的なもの,あるいは実証的試論など多様であることが望ましい。このような多角・多様 な追究が相互に作用し合って教育の最適化を実現する道を確立することは本学会の大きな

*長崎大学教育学部工業技術科教室

**長崎大学教育学部家庭科教室

(2)

課題である」と述べているように(1),多角・多様な研究が今日きわめて重要であるという指 摘は他にも見られるものであり(2),まったく正当なものである。

 しかしながら,教科教育研究の多様な広がりは,時としてそれぞれの研究の問の関連性,

方向性あるいは研究の相対的位置関係を見失わせ,極端な場合同一教科,同一分野の研究 であるにもかかわらず論議がかみ合わない場合が出現する。これでは「多角・多様な追究 が相互に作用し合って教育の最適化を実現する」ことなどは望むべくもない状態と言わざ るを得ない。このような研究の現状は,教科教育そのものの定義や教科教育と教科専門お よび教育専門との学問的な位置関係が不明確であるために起因する問題であると考えられ る。かつこれらの不明確さが,自他の教科教育研究の方向性,類似点や相違点あるいは研 究領域のお互の境界等を明確に意識しえないというような研究上の問題点につながってい ると思われる。

 そこで,上に述べた教科教育研究の問題点を克服する一つの手だてとして,これまでの 教科教育の定義,あるいは我々が知見しえた教科教育研究のあり方を基にし,教科教育,

教科専門および教職専門のそれぞれの学問的位置関係を再検討し,学問的位置関係に関す る視覚化されたモデルを提起してみた。またこのモデルによって,教科教育の研究がもつ 本来的な特質を論じるとともに,各論の一つとして技術科および家庭科における教科教育 の領域として,どのような領域をどのように設定しうるかを考察してみた。

2.教科教育に関する議論と性格

 教科教育の学問的位置関係を考察してゆくために,戦後における教科教育に関する議論 を概観してみたい。

 戦後の新しい教員養成に関するカリキュラムの具体的形態は,1949年の教育職員免許法 及び同法施行規則によって規定されることになった。この中で大学における単位履修基準 が示され,小学校教員養成(一級普通教諭免許状)の場合, 教科に関する専門科目として

「教材研究」12単位を,中学校,高等学校教員養成の場合,教職に関する専門科目として

「教科教育法」を位置づけ,3単位を履修するようにした。

 1952年第9回教育指導者講習会の「教員養成カリキュラム」を主題とする研究集会にお いて,「教材研究」と「教科教育法」とは同一性格であるべきもので,この二者を合して「教 科教育学」なる名称を付するのが適切であるとしている。かつ教科教育学は,教育学,心 理学,教科に関する専門科目を融合した学習内容を学習者の発達に即応して構成し,学習 者と一体連関的に指導法を創案し,結果を評価して,学習指導を効果的に遂行し得る能力

を育成する学問的領域であると論じている。

 1950年代後半から60年代にかけて,教科教育の改善充実への志向がいくつかの大学でな され,教科教育を重視する機運が生まれていた。1966年日本教育大学協会(いわゆる教大 協)教員養成課程検討委員会は「教科教育学の基本構想案」をとりまとめ,教科教育学の 概念規定,学問的位置関係等を提示している(3)。すなわち,「教科教育学は当該教科に関す

る基礎科学と教育科学とを踏まえて,その教科の目標・内容,及び方法を明らかにし,教

授学習過程の理論的実践的研究を行なう科学である」と規定し,「その教科に関する基礎科

学(教科専門)と教育科学(教職専門)との交叉領域に統合的関係位置を占める」とした。

(3)

かつ,この学問的位置関係を図1のように視 覚化して示している。学問的性格として「2

      一般教育 つの要求の交差の上に立つ中間領域の学であ る」とし,教育科学と基礎科学の統合的な中

間領域の学で,独自の研究方法をもつことを 主張している。しかしながら,図1に示され

た学問的位置関係では,教科教育学が教科専         教科教育学 門と教職専門との交叉領域であることは示し

得ても,独自の研究方法をもつ独自の科学と

       図1従来の教科教育に関する学問的位置関係 しての位置を示してはいない。

 そもそも視覚化されたモデルがモデルとしての意味を持つのは,そのモデルによってモ デル化された対象の性格や問題点が具体性を帯びて明確にされてゆくからに他ならない。

教科教育学に関する図1のモデルについて言及すれば,このモデルによって教科教育学の 性格や特質,研究方法の独自性を示し得るものでなければならない。視覚化されたモデル がそういった点を示し得ていなければ,教科教育学の性格や特質,方法の独自性といった ものをより不明確なものに導きかねないことに注意を払うべきであろう。教科教育学を独 自領域に関する独自科学たらしめるためには,図1に示す学問的位置関係では不十分なも のと言わざるを得ない。

 教科教育に関する学問的な位置関係については,その後大筋においては図1の関係を踏 襲しているように思われる。1971年から1973年にかけて,教大協は教員養成制度の全般的 な改善方策を検討する過程で,「一般と専門,更に専門内の教科と教職を有機的に統合する 教育科目」として教科教育学を位置づけていることからも(2),このことがうかがわれる。

教科

幸塗猫萎魏

3.教科教育の学問的位置関係に関する提案

 教科教育がその教科に関する教科専門と教 育学,心理学等の教職専門の両方にその基盤 を置いていることは誰しもが認めるところで あろう。しかしそれと共に教科教育はその成 果が教育の場の中で,教科専門にも教職専門 にもインパクトを与えうるものでなければな るまい。教科教育学が独自の研究方法をもつ 科学であるということは,とりも直さず教職 専門にも教科専門にもフィードバックされた 成果が影響を与えうるという理念に立つべき であろう。かつ,すでに指摘されているよう に,教科教育学は学習内容を学習者の発達に 即応して構成し,学習者と一体連関的に指導 法を創案し,結果を評価する必要がある以上,

教育現場と同一面上に存在するはずである。

教科専門領域

誼訓

   教科教育学  実践平面   ノ  /  鋸

 /  騨

       、

!      ¥

        \ 教職専門領域

図2教科専門、教職専門および教科教育の

 学問的位置関係に関する立体モデル

(4)

 教科教育に関する以上のような要件をまとめると,学問的位置関係に関して図2に示す ような教科専門,教職専門および教科教育のそれぞれの位置関係が教育現場を含めて提示 できる。この図において教科教育を含む現実の教育の場を実践平面,これに垂直な方向を 理論空間と呼ぶことにする。理論空間のうち教科教育を支える下方の空問は教育科学(教 職専門)領域であり,上方の空間が教科専門領域である。それぞれの高さ,深さはその学 問領域を形成する論理を系統だてた,即ち学問の階層性を意昧している。この学問的位置 関係を示すそれぞれの専門領域を実践平面上に投影した図を考えれば,それは図1に示さ れた位置関係と同じものになる。このことは,ここに提起した教科教育のモデルの正当性 を示すだけでなく,中間領域としての教科教育の位置づけを初めて明確にしたものと考え ている。なお教職専門領域にしろ教科専門領域にしろ基本的にそれらを支えているものは,

人間の「教育の場」としての思想(哲学)であろう。    教科専門領域  図2のモデルの断面を考えると,図3に示         s

教育のとるべき位置と結論が生み出されるこ とになる。このとき,教科教育の研究として 教育科学(教職専門)の立場,視点から教科 専門のある分野を取り上げる方向と,教科専 門のある分野から教育科学のある分野を取り 上げつつ研究する方向の2つの方向があるこ

とに留意する必要がある。この方向の違いを 明確にしておくことは,自他の研究の類似点

評価

    VP

   教職専門領域

図3教科教育に関する断面モデル   VP:視点

  S:教材

  S :教材教育における位置

や相違点,方向性を明確にしてゆくことにつながり,教科教育の研究を進める上では重要 なことと言わねばならない。また図4に示しているように同一の教科専門の同一の分野を 取り上げたとしても,教育科学の立場・視点の違いによって,異なった教科教育の研究に

なるであろう。例えば,中学校技術・家庭科のある分野を異なる方法論で取り上げれば,

当然異なった研究の成果が得られるであろう。更に,同一の方法論によって異なった分野 の研究を行う場合も,当然異なった研究の成        教科専門領域

果となる。このように,例えば教育方法論の      3 違いを比較・検討する場合に,図3に示した

モデルはそれぞれの研究の違いを明確にしう

る点で有益である。       教科教育        Sl Sを

 図3および図4から,教科教育の研究の成

      → 果を教育現場で実践し,その結果を評価する 作業も,立場・視点の変化に応じてすべて異

なったものとなる。教科教育に関する多角・

       → 多様な研究とはまさにこのようなことであっ

      VPI VP2 て,教育科学領域での立場・視点の変化や,     教職専門領域

教科専門における領域の変化に応じて現われ  図4視点の変化に伴う教科教育の位置の変化

(5)

てくるのである。しかも教科教育の研究にとって重要なことは,教育現場で実践された結 果を評価し,その成果を教科専門にも教職専門にもフィードバックする必要があるという ことである。従来の教科教育研究では,この点はあまり論ぜられずに看過された点ではな かろうか。教科教育の独自性を確立するためにも,図3に示された教科教育から教科専門 および教職専門に向う矢印の線を今後とも強化してゆく必要があろう。

 教育学とは関係の薄かった教科専門の多くの分野で,その専門教科に関し 何を , 何 故 , いつ , いかに , 教授するか を問うことを通して,教科専門の体系や階層化の 再検討を行う動きがあるが,そのような作業はまさに教科専門から教職専門(教育科学)

に向う方向での教科教育的研究を専門領域ヘフィードバックさせようという試みに他なら ない。教育実践の場から専門領域ヘフィードバックされる情報によって,専門の各分野の体 系や階層性を問い直すことは,専門と称する種々の学問分野を次の世代へ円滑に引き渡し,

受け継がせるためにも非常に重要な事柄と言わねばなるまい。

 以上のことから教科教育の平面に立って教科専門および教職専門を見れば,これらの専 門は教科教育にとって相対的な位置関係しか有していないことがわかる。図2に示したそ れぞれの学問の位置関係が,物理学における相対論的時空と類似の構造をもつのは,必ず

しも偶然ではないであろう。

 4.教科教育研究への本モデルの適用

4−1.教科教育の内容について(技術科および家庭科を例として)

 教科教育の個々の分野に関して,技術科および家庭科を例にとり,図2の学問的位置関 係を適用しながらその内容について検討してみる。

 すでに述べたように教科教育は教職専門もしくは教科専門のいずれかに視点を据え,そ の視点から他方の専門分野をながめた際に,教科教育平面に写し出された点に教科教育と してのとるべき学問領域が現われてくる。

 今,教職専門の各分野,即ち教育哲学,教育原理・方法論,教育史,教育心理,発達心 理等々の分野に視点を移し変えながら,技術科および家庭科をそれぞれ一つの分野として ながめた場合,教職専門の各視点から以下の様な教科教育の研究領域が設定されてくるで

あろう。

教職専門

○教育哲学

○教育原理 及び方法論

○教育史

○教育心理

○発達心理

  技  術  科

○技術史・技術論 比較文化(文明)論

○技術科教育論,教授法

 カリキュラム論,学習指導要領

○技術科教育史,比較技術論

○教育実践論,測定・評価法

○学習論,創造性教育

  家  庭  科

○生活科学論(家政学論)

 比較文化論

○家庭科教育論,教授法  カリキュラム論,学習指導要領

○家庭科教育史,比較家政論

○教育実践論,測定・評価法

○学習論,創造性教育

また,教職専門の側を固定し,教科専門の各領域を変化させ,その視点からながめた研

(6)

究領域として,各科の教材研究が現われる。

 以上の様な教科教育の研究領域に関し,異論もあるであろう、し,領域の不足を指摘する こともあるであろう。その点に関してはより広範な討議が必要であろう。しかし,ここで 重要なことは,図2に示した学問的位置関係によって,対象と立場・視点を固定すること によって研究領域を設定しうると共に,その研究領域の性格や方向も明確にしうるという 点にある。先に掲げた技術科および家庭科の教科教育の研究領域については,すでに多く の研究者によって言及されており結果的には同様の研究領域の設定といえるが(4!それぞれ の研究領域の視点と方向性が明確化された点を考えるとき,図式化されたモデルの利点が 生かされたものと考えている。

 4−2.教科教育の実践に関する提言

 教科教育の実践に対する本モデルの適用例として,当学部附属中学校で行われている コース別学習に対する研究について考えてみた。

 コース別学習の最大のねらいは,生徒の興味・関心に応じ,いくつかの学習コースを設 定し,授業内容を教授しようというものである(5もこの時,学習コースとして設けられたも のは,生徒の興味・関心に応じて教育方法論が同一ではない。発見学習的コースもあれば stepbystep式に積み重ねてゆくコースも設定されているようである。このような方法論に 差のあるコースを同一授業内に押し込め,そ

の実践を評価する場合,方法論の差異,関連 性および方法論の差異が与える結果への影響 をある程度予測する必要があろう。方法論の 差,即ち視点の差は教科教育の立場に差を与 え,そこから導かれた授業実践にも差を与え るために,当然評価の対象となるものも変わら ざるを得ないであろう。コース別学習に関し

て,方法論の差が生み出す影響についてほと    VP、    VP,

んど言及されていなかったが,検討の必要が    図5視点の変化に伴う あると思われる。      形成関係の変化

 授業実践においては,それぞれの単元について教材の構造化を行い,形成関係を明らか にしている。この教材の構造は,本質的には教科専門の特定領域の学問的構造(階層性と 並置性)に依据せざるを得ない。今,教科専門の特定領域について教材の構造化を行った 時,図5に示すようにS、→S2(階層性),S2→S3(並置性)の様な形成関係であったとす る。この形成関係を方法論(視点)VP、から見れば,教科教育平面に写し出された形成関係 もSl→S5→slとな1),教材の構造と同一の形成関係が得られる。しかし,視点を変えvp2 からこれらの教材を見れば,錺→sl→slという形成関係が現われてくることになる。即ち,

方法論の違いは,生徒の側における形成関係が変化する可能性のあることを示唆しており,

生徒の受ける教育的印象に違いを生じさせることにつながるであろう。だからこそ,「個 に応じた学習」としてのコース別学習の意義があるといえる。ここで何よりも大事なこと は,方法論の違い,即ち視点の違いが,形成要因等に深くかかわっていることを教師自身 が明確に意識することではなかろうか。

S2 S3 S1

Sを   Sる   Sl Sも

IS5

(7)

5.むすび

 教科教育に関する学問的位置関係を立体的にとらえ,図式化し,教科教育研究のあり方 と特質を論じてみた。教科教育の研究に際し,それぞれの研究の方向性,視点,教育現場 とのかかわりは,ここに提起されたモデルによって大まかに説明がつけられる。しかしな がら,このモデルを実際の教育実践と結びつけてゆくためには,より広く,多方面からの 討議を必要としていることは言うまでもない。多角・多様な研究が相互に作用しあって教 育の最適化をはかるためにも,多くの方々の御批判や御助言を切にお願いするしだいであ

る。

 最後に,本報告のモデルに関して当教育学部福山 豊,上薗恒太郎,古谷吉男の諸先生 に貴重な御助言をいただいた。深く感謝の意を表します。

      参考文献

(1) 「日本教科教育学会誌」第1巻1号,1976年.

(2〉山田「教員養成における教科教育の研究と教育一教科教育の位置づけとくに教科専門との関連  についての史的検討一,「教育学研究」第48巻4号,1981年.

(3)日本教育大学協会教員養成課程検討委員会「教科教育研究の基本構想案」,1966年.

(4)教員養成大学・学部教宮研究集会家庭科教育部会「家庭科教育の研究」,1978年.

(5) 「一人ひとりが生きる授業の創造一個が生きる学習材を求めて一」,長崎大学教育学部附属中学

 校研究紀要,1986年.

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