平成
30年度 修士論文
赤道圏界面領域観測のための
全固体レーザによるオゾン
DIALシステムの検討
Study of all-solid laser for ozone DIAL in the equatorial tropopause area
首都大学東京大学院 システムデザイン研究科
システムデザイン専攻 情報通信システム学域
17890508
大場みさき
指導教員 柴田泰邦 准教授
目次
第
1章 はじめに
1.1 背景…1
1.2 対流圏オゾンと成層圏オゾン…2 1.3 赤道付近の対流圏界面オゾン…3 1.4 全固体レーザの必要性…5
第
2章 差分吸収ライダー
2.1 オゾンDIAL
の原理…7
2.2 ライダー方程式…82.3 気体濃度と気体平均濃度導出…10
第
3章 統計誤差シミュレーション
3.1 統計誤差シミュレーションによる波長選択…11 3.2 統計誤差シミュレーション結果…14
第
4章
Ce:LiCAFレーザを用いたオゾン
DIALの送信パワーの検討
4.1 Ce:LiCAF
の特性…18
4.2 Ce:LiCAF
入出力特性シミュレーション…19
第
5章
Ce:LiCAFレーザ実験
5.1 共振器設計…24 5.2 発振実験…25
第
6章 まとめ
参考文献…28
謝辞…29
1
第
1章 はじめに
1.1 背景
オゾンは地球温暖化物質や大気汚染物質の一つとして知られている.フロンやハロン,
臭化メチルによりオゾン層は破壊され,そのオゾン層の濃度は年々減少傾向にあった.近 年各国のフロンをはじめとするガス排出制限の効果によって,オゾン層は回復傾向にある.
オゾンは紫外域と赤外域の両方に吸収帯を持っている.成層圏のオゾンは太陽光からの紫 外線を吸収して生物にとって有害な紫外線が地表に到達するのを防ぐ役割を持つ.そのた め,成層圏のオゾンが減少すると,皮膚がんや白内障にかかりやすくなってしまうなど,
人体への影響が問題視される.また,対流圏のオゾンは地表からの赤外線を吸収し熱に変
換されるため,二酸化炭素,メタンに次いで
3番目に影響のある温室効果ガスとされてい
る.オゾンは酸化力が強く,大気汚染物質の一つであるオキシダントの大部分を占め,光
化学スモッグを引き起こして人間の呼吸機能や植物の光合成活性を阻害することが知られ
ている.
2
1.2 対流圏オゾンと成層圏オゾン
地球の大気の層は高度により対流圏,成層圏と区別され,中緯度では地上
0km~10kmを 対流圏と呼び,地上
10km~50kmを成層圏と呼ぶ.大気中のオゾンの約
90%は成層圏に存在し,一般的にオゾン層と呼ばれる層は成層圏を指し,残りの約
10%は対流圏に存在する.界面の高度は緯度や季節によって変化する.
成層圏のオゾンは太陽からの紫外線によって大気中の酸素分子(O
2)が直接分解されて酸素原子(O)が生成し,他の酸素分子(O
2)と結合しオゾン(O3)が生成される.対流圏のオゾンの起源は工場や自動車から排出される窒素酸化物
(NOx)と一酸化炭素 (OC)や揮発性有機化合物(VOC)との光化学反応で生成されるほか,成層圏のオゾンから流入していることがあげられ,主に中高緯度で初春に最も盛んである.図
1.1に大気中オゾ ン濃度分布を示す
図 1.1 オゾンの濃度分布
3
1.3 赤道付近の対流圏界面のオゾン
成層圏と対流圏の大気の物質の交換が特に赤道付近では顕著であり,赤道付近の上空の オゾン濃度の鉛直分布を観測することによって,成層圏と対流圏の境目である対流圏界面
(赤道付近では約18km)でのオゾンの動きを明らかにすることができる1,2
.
図
1.2に
SHADOZによるオゾンゾンデ観測地マップを示す
3.赤道域での観測地域はマ
レーシアやケニア,エクアドルなどで行われているが観測頻度は月に数回程度である.図
1.3にクアラルンプールでの高度
12kmと
15kmのゾンデ観測のオゾン濃度分布を示す.図
1.4にクアラルンプールでのゾンデ観測オゾン濃度の高度分布を示す.図
1.3,1.4から対流 圏界面高度(約
18km)直下の15kmでは,日によりオゾン濃度は大きく変化しており,これ は成層圏からのオゾンの輸送があると考えられるが,月に
1,2回程度の観測しか行われて いないため,詳細は明らかとなっていない.
現在オゾン観測は気球を用いたオゾンゾンデやレーザを用いた差分吸収ライダー
(DIAL:Differential Absorption Lidar)によって世界各地で行われているが,観測頻度は一定ではないため,対流圏界面付近でのオゾンの振舞いが明らかとなる直接的な観測はない.
図
1.2 SHADOZによるオゾンゾンデ観測地マップ
4
図
1.3 クアラルンプールでの高度12kmと
15kmのゾンデ観測によるオゾン濃度分布
図
1.4 クアラルンプールでのゾンデ観測によるオゾン濃度の高度分布5
1.4 全固体レーザの必要性
我々の研究グループではインドネシアのコトタバン(0.2S,100.3E)にオゾン
DIALを設置 している.赤道対流圏界面用オゾン
DIALの概要図を図
1.5,現有のオゾンDIALに使用し ている色素レーザと,色素ポンプを図
1.6,1.7に示す.オゾン
DIALで使用する
on波長に
は
314nm,off波長
355nmを用いる.図
1.8にオゾンの吸収断面積とオゾン
DIALに使用し
ている波長の組み合わせを示す.現有のオゾン
DIALの
on波長(314nm)off 波長(355nm) の 組み合わせでは,波長差が大きくエアロゾルの波長依存性を無視できない.
DIAL
に用いる
off波長は
Nd:YAGレーザの第
3高調波から
355nmを得る.また,on 波
長は
Nd:YAG第
2高調波(532nm)を励起源とした色素レーザ(媒質:
DCM,628 nm)の第2高調 波から得る.色素レーザは大型装置で管理が複雑なこと,レーザ媒質が発がん性であり危 険であること,劣化が早く定期的な交換が必要とされることが問題視されてきた.このた め,定期的なメンテナンスが必要とされ,年
2回程度の渡航時のみ観測を行っている.
そこで,本研究では従来の色素レーザに替えて固体レーザを用いたオゾン
DIALの改良 を提案する.固体レーザは寿命性,安全性に優れているため,定期的なメンテナンスが不 要になり,また,インターネット回線を用いて遠隔制御し自動運転による定常的な観測が 可能になると考えられる.
本研究では赤道付近上空のオゾン観測のため,DIAL に用いる
on波長
off波長の組み合 わせを数値シミュレーションにより明らかにした.さらに,波長の取得のため色素レーザ に替わる媒質として,Ce:LiCAF 結晶を用いて全固体レーザの設計を行った.
図
1.5コトタバンに設置している色素レーザを用いたオゾン
DIALの概要図
6
図
1.6 オゾンDIALに使用している色素レーザ
図
1.7オゾン
DIALに使用している色素ポンプ
図
1.8 オゾンの吸収断面積とオゾンDIALに使用している波長の組み合わせ
7
第
2章 差分吸収ライダー
2.1 オゾンDIAL
の原理
差分吸収ライダー(DIAL:Differential Absorption Lidar)は気体成分の測定手法の一つであ る.エアロゾルや大気分子による散乱と,レーザ光が散乱される位置までの往復間に受け る測定対象分子の吸収を利用する.対象気体へ,対象気体の吸収の大きい波長(on 波長)と 吸収の小さい波長(off 波長)の
2つの波長のレーザ光を放射し散乱光を測定する.
DIAL
の概要図を図
2.1に示す.on 波長は対象気体に吸収されるため,off 波長に比べて 信号の減衰が大きくなる.この
2つの波長の信号の差分の比を取ることによって濃度を求 めることができる.
図 2.1 DIAL の概要図
8
2.2 ライダー方程式
得られる
on波長と
off波長の受信信号強度は式
2.1,2.2に示すライダー方程式を用いて 求めることができる.
𝑃𝑜𝑛(𝑧) = (𝐸
ℎ𝜈) 𝑀𝐴𝜂𝑞𝛽(𝑧)𝛥𝑧
𝑧2 𝑒𝑥𝑝 (−2 ∫ (𝛼𝑚𝑜𝑙+ 𝛼𝑎𝑒𝑟𝑜+ 𝛼𝑜𝑛𝑜3)𝑑𝑍
𝑧
0 )
(2.1) 𝑃𝑜𝑓𝑓(𝑧) = (𝐸
ℎ𝜈) 𝑀𝐴𝜂𝑞𝛽(𝑧)𝛥𝑧
𝑧2 𝑒𝑥𝑝 (−2 ∫ 𝛼𝑧 𝑜𝑓𝑓(𝑍)𝑑𝑍
0 )
(2.2)
ここで用いられているパラメータは以下の通りである.
𝑃𝑜𝑛, 𝑃𝑜𝑓𝑓 : on
波長, off 波長の受信光強度
E :パルスエネルギー[J]
h :
プランク定数
ν:レーザ周波数[Hz]
M :
積算回数
A :受信望遠鏡の面積[𝑚
2] η :ディレクターの量子効率
q :光学系の全効率
β(z) :
大気の後方散乱係数[/m]
c :光速[m/s]
Δz:
距離分解能
α(z) :消散係数
後方散乱係数
βはエアロゾルによる後方散乱係数𝛽
𝑎𝑒𝑟𝑜と大気分子による後方散乱係数
𝛽𝑚𝑜𝑙の和として求めることができる.
𝛽 = 𝛽𝑚𝑜𝑙+ 𝛽𝑎𝑒𝑟𝑜 (2.3)
後方散乱係数は単位厚さの大気層から,散乱角
180度の単位立体角への散乱を表す係数 であり数密度で表すことができるため,大気分子による後方散乱係数𝛽
𝑚𝑜𝑙とエアロゾルに よる後方散乱係数𝛽
𝑎𝑒𝑟𝑜はそれぞれ以下の式のように表すことができる.
𝛽𝑚𝑜𝑙 = 𝜎𝑟𝑎𝑦𝑁 (2.4) 𝛽𝑎𝑒𝑟𝑜 = 𝐴𝑒𝑟𝑜 × (710
𝜆 )
(2.5)
9
ここで𝜎
𝑟𝑎𝑦はレイリ―散乱断面積,N は大気密度,𝐴𝑒𝑟𝑜はエアロゾルの数密度である.
レイリ―散乱断面積は波長の
4乗に反比例に変化し以下の式ように与えられる.
𝜎𝑟𝑎𝑦= 5.45 × 10−32(550 𝜆 )
4
(2.6)
エアロゾルの数密度は次式に従う.
Aero = 36.31 exp(−0.878z) 𝛽𝑚𝑜𝑙( 𝜆 710)
4
(2.7)
on
波長,off 波長それぞれの消散係数
𝛼𝑜𝑛,
𝛼𝑜𝑓𝑓は大気分子による消散係数
𝛼𝑚𝑜𝑙,エアロ ゾルによる消散係数
𝛼𝑎𝑒𝑟𝑜,オゾンの吸収による消散係数
𝛼𝑜𝑛_𝑜3,
𝛼𝑜𝑓𝑓_𝑜3の和で表すことが できる.
𝛼𝑜𝑛= 𝛼𝑚𝑜𝑙+ 𝛼𝑎𝑒𝑟𝑜+ 𝛼𝑜𝑛_𝑜3 (2.8) 𝛼𝑜𝑓𝑓 = 𝛼𝑚𝑜𝑙+ 𝛼𝑎𝑒𝑟𝑜+ 𝛼𝑜𝑓𝑓_𝑜3
(2.9)
大気分子による消散係数
𝛼𝑚𝑜𝑙,エロゾルの消散係数
𝛼𝑎𝑒𝑟𝑜はそれぞれ以下の式のように近 似できる.
𝛼𝑚𝑜𝑙 = 8𝜋
3 𝛽𝑚𝑜𝑙 (2.10) 𝛼𝑎𝑒𝑟𝑜 = 𝑠𝛽𝑎𝑒𝑟𝑜 (2.11)
ここで
sはエアロゾルの粒形,波長,屈折率などで変化する散乱パラメータである.
𝛼𝑜𝑛_𝑔
,
𝛼𝑜𝑓𝑓_𝑔は
on波長
off波長それぞれの波長でのオゾンの吸収による消散係数であり,
オゾンの気体濃度
𝑁𝑔[/𝑚3]と吸収断面積𝜎𝑜𝑛,
𝜎𝑜𝑓𝑓[𝑚2]の積で表せる.
𝛼𝑜𝑛_𝑜3 = 𝑁𝑔𝜎𝑜𝑛 (2.12) 𝛼𝑜𝑓𝑓_𝑜3 = 𝑁𝑔𝜎𝑜𝑓𝑓 (2.13)
10
2.3 気体濃度と気体平均濃度導出
前節で与えられた受信信号
𝑃𝑜𝑛,
𝑃𝑜𝑓𝑓を用いて距離
𝑅1,
𝑅2間( 距離分解能
∆𝑅 = |𝑅1− 𝑅2|[𝑚])の気体平均濃度n[㎥]は次式で与えられる.n = 1
2𝛥𝜎|𝑅1− 𝑅2|𝑙𝑛 [𝑃𝑜𝑛(𝑅1)𝑃𝑜𝑓𝑓(𝑅2)
𝑃𝑜𝑛(𝑅2)𝑃𝑜𝑓𝑓(𝑅1)] (2.14)
∆σ[m2]は吸収断面積の差であり,on
波長と
off波長の吸収断面積の差によって与えられ
る.
オゾン
DIALにおいての誤差要因としてレーザ波長の不安定性,受信信号に起因する統 計誤差,他分子の吸収の誤差などが挙げられるが,今回の研究では受信信号強度に起因す る統計誤差についてのみ考慮する.受信信号強度に起因する統計誤差は式
2.15によって与 えられる.
∆𝑛
𝑛 = 1
2𝑛∆𝜎|𝑅1− 𝑅2|[∑ ∑ {(𝑃𝑖𝑗+ 𝐵𝑗)𝐹 + 𝐷 𝑃𝑖𝑗2 }
2
𝑗=1 2
𝑖=1
]
1 2
(2.15)
ここで,
i=1,2は距離
𝑅1,
𝑅2に,
j=1,2は
on波長,
off波長に相当する.
𝐵𝑗は背景光雑音,
F
はディレクターの雑音指数,D はダークカウントに相当する.
11
第
3章 統計誤差シミュレーション
3.1 統計誤差シミュレーションによる波長選択
赤道域の対流圏界面高度領域のオゾン鉛直分布を精度良く測定するため,波長の組み合 わせを統計誤差シミュレーションにより求めた
5.図
3.1に紫外波長域に対するオゾンの吸 収断面積を示す.これより
200~300nm帯にオゾンによる吸収があることが分かる.先行研 究において対流圏オゾンの観測に
Ce:LiCAF結晶を用いた波長可変固体紫外レーザと
Ba(NO3)2結晶並びに
KGd(WO4)2結晶の誘導ラマン散乱(SRS)を利用したラマンシフタの適 用可能性が検討され,on 波長
282nm,off波長
292nm前後での最適な組合せが報告されて いる
6.よって,今回開発する
DIALは対流圏界面高度を測定するため,よりオゾンの濃度 が高く,高度
18km付近とより遠方になることから,これより吸収断面積の小さい波長を 選択する必要がある.したがって今回のシミュレーションでは
300nm近辺の波長を用いる こととする. また,
Ce:LiCAF結晶は図
3.2に示すように
Nd:YAGレーザの第
4高調波
266nm付近に吸収帯を持ち,281~316nm に放出帯を持っている.
以上の点を考慮の上,赤道域の対流圏界面高度約
18kmを挟んだ
14~22km高度範囲を 対象に, オゾンの吸収線と
Ce:LiCAFの可変領域から
on波長
284~298nm,off波長
302~312nmにおいて,前節で導出した統計誤差の式を用いて数値シミュレーションを行った.各波長 の刻みは
1nmである.シミュレーションに用いたパラメータを表
3.1に示す.パルスエネ ルギーは図
3.4に示す
Ce:LiCAFの放射帯の強度の近似曲線を参考に
290nm付近をピーク 値
40mJとして波長ごとに変化させた.また,赤道域のオゾンの濃度には図
3.3のモデルを 使用した.
以上より
on波長と
off波長の各組合せの統計誤差を高度
2kmごとにシミュレーションを 行った.
図 3.1 オゾンの吸収帯
12
図 3.2
Ce:LiCAFの放射帯(実線)と吸収帯(破線)
図 3.3 統計誤差シミュレーションに用いたオゾンモデル
13
表 3.1 統計誤差に用いたパラメータ
M 積算回数 36000 Φ 受信望遠鏡直径[m] 0.4 Η 量子効率 0.3 Q 光学系の全効率 0.2 Δz 距離分解能[m] 1000
D ダークカウント 0 F ディレクターの雑音指数 1
B 背景光雑音 0
図
3.4 Ce:LiCAFのゲイン特性
14
3.2 統計誤差シミュレーション結果
on
波長
284~298nmと
off波長
302~312nmでの各組合せにおいて,統計誤差を
14~22kmの高度範囲で
2kmごとにシミュレーションを行った.図
3.5~3.9に高度
14~22kmでのそれ ぞれのシミュレーション結果を示す.赤道対流圏界面高度
18kmでは
on波長
292nm,off波長
311nmの組み合わせで測定精度最小値
2.5%となることが分かった.さらに,on波長
290~293nm,off
波長
302~312nmの組み合わせで測定精度は
4%以下となり,波長同調精度は高くないことが分かった.
図
3.10に高度
14~22kmに対するいくつかの波長の組み合わせの誤差の関係を示す.な
お,高度
18kmで誤差
10%以下となる波長組み合わせのうち,代表的な組み合わせの4つ
をここでは示す.on 波長
292nm,off波長
311nmでの組み合わせでは,14~21km 高度範囲 において,測定精度
10%以下で測定可能であることが分かった.高度21km以上では
on波
長
295nm,off波長
305nmの組み合わせで統計誤差最小となった.高度
14~22kmに対する
統計誤差において,統計誤差
10%以下で測定可能な組み合わせがいくつかあるが,本研究では赤道対流圏界面
18kmの測定を目的としているため,高度
14~22kmに対して統計度 差を小さく抑える事ができ,高度
18kmにおいて統計誤差が特に小さくなる組み合わせ,
on
波長
292nm,off波長
311nmを最適波長とする.また,波長同調精度は±2nm 程度の範囲
で十分であることが分かった.
図 3.5
14kmでの統計誤差
15
図 3.6
16kmでの統計誤差
図
3.7 18kmでの統計誤差
16
図 3.8
20kmでの統計誤差
図
3.9 22kmでの統計誤差
17
図
3.10 様々な波長組み合わせにおける高度に対する統計誤差18
第
4章
Ce:LiCAFレーザを用いたオゾン
DIALの送信パワ ーの検討
4.1 Ce:LiCAF
の特性
Ce:LiCAF
結晶の他にも様々な
Ceイオンドープフッ化物レーザ媒質としたレーザが開発
されたが,励起状態からの再吸収やカラーセンサーなどの光損傷が起きやすいという欠点 があった.このような欠点を改善した結晶が
Ce:LiCAFである.
Nd:YLFレーザの第
4高調 波(263nm)を励起光としており,Nd:YAG レーザの第
4高調波(266nm)でも発振可能である 最初の
Ceドープ紫外レーザ媒質である.波長可変領域は
280~320nmとされている.市販
の
Nd:YAGレーザを励起源として利用できる.ソラリゼーションによる劣化が少ないとい
った特徴を持つ
7.
Fromzel
による等によって報告されている
Ce:LiCAF結晶を用いた固体レーザを用いた航
空機搭載型オゾン
DIALについての例を挙げる.Nd:YLF レーザの第
4高調波(263nm)を励 起光としており,Nd:YAG レーザの第
4高調波(266nm)でも発振可能である.Nd:YLF レー
ザの第
4高調波
263 nmで
1 kHzのパルス繰り返し率で励起されたとき,約
0.15 nmの狭い
波長帯域幅を持つ波長
290 nmの
Ce:LiCAFレーザの入出力性能の図
4.1に示す.Nd:YLF レーザの第
4高調波(262nm)によって励起されたとき,Ce:LiCAF スロープ効率最大約
46%得られることが報告されている
8.
図
4.1 Nd:YLF第
4高調波(263nm)励起
Ce:LiCAF入出力特性
19
4.2 Ce:LiCAF
の入出力特性のシミュレーション
第
3章より統計誤差シミュレーションにより検討されたオゾン
DIALに用いる波長の組
み合わせ
on波長
292nm,off波長
311nmを用いた
Ce:LiCAFレーザの送信パワーの見積も
りと共振器のミラーの反射率の検討をする.固体レーザの構成を図
4.2に示す.
図 4.2
Nd:YAGレーザ第
4高調波(266nm)励起
Ce:LiCAFレーザの構成
シミュレーションに用いた式を以下に示す
9.
𝑃𝑜= 𝜂𝑐𝜂𝑝𝜂𝑞𝑑𝜂𝑎𝜂𝑚𝜎𝑔𝑎𝑖𝑛
𝜎𝑒𝑚 (𝑃𝑖𝑛− 𝑃𝑡ℎ) (5.1) 𝜂𝑐= 𝑇
𝐿𝑖+ 𝑇 (5.2) 𝜂𝑞𝑑=ℎ𝜈𝐿
ℎ𝜈𝑝 (5.3) 𝜂𝑎 = 1 − 𝑒𝑥𝑝(−𝛼𝑎𝑙) (5.4) 𝜂𝑚 =𝜔𝑜2(𝜔𝑜2+ 2𝜔𝑝2)
(𝜔𝑜2+ 𝜔𝑝2)2 (5.5) 𝐿𝑖= 2𝛼𝑎𝑙 (5.6) 𝑇 = − 𝑙𝑛(𝑅1𝑅2) (5.7) 𝜎𝑔𝑎𝑖𝑛= 𝜎𝑒𝑚− 𝜎𝐸𝑆𝐴 (5.8) 𝑃𝑡ℎ= ℎ𝜈𝑝𝐴𝑒𝑓𝑓
2𝜂𝑝𝜂𝑎𝜎𝑔𝑎𝑖𝑛𝜏𝑓(𝐿𝑖− 𝑇) (5.9) 𝜂𝑠 = 𝜂𝑠𝜂𝑝𝜂𝑞𝑑𝜂𝑎𝜂𝑚 (5.10)
20
ここで
Poはレーザ出力パワー,
ηcは結合効率,
ηpは励起量子効率,
ηqdは原子量子効率,
ηa
は励起光吸収効率,η
mはモードマッチング効率,σ
emは誘導断面積,P
inは入射光励起パ ワー,P
thはレーザ閾値,T は結合損失,L
iは共振器の残留損失,α
aは励起波長における吸 収係数,L はレーザ媒質長,l は共振器長,R
1はインプットミラーの反射率,R
2はアウト プットミラーの反射率,σ
ESAは
ESA断面積,h はプランク定数,A
effはレーザ光の断面積,
τf
はレーザ上準位蛍光寿命,η
sはスロープ効率である.図
4.3に
Ce:LiCAFの吸収帯と放射 帯,図
4.4,4.5に
ESAの断面積を示す
10.
今回のシミュレーションではアウトプットミラーの反射率
R2は
on波長
off波長それぞ
れ
10~90%を想定し,送信パワーも見積もりとミラーの反射率の検討を行った.表 4.1に
シミュレーションに用いたパラメータを示す.
図
4.3 Ce:LiCAFの吸収帯・放射帯
(π偏光,
σ偏光)
図
4.4 Ce:LiCAFの各種断面積(a:放出
b:利得 c:ESA)π偏光21
図
4.5 Ce:LiCAFの各種断面積(a:放出
b:利得
c:ESA)σ偏光表 4.1 ミラー反射率シミュレーションに用いたパラメータ
λp励起光波長[m]
266× 109λl
出力光波長[m]
on波長
292× 109,off 波長
311× 109𝜂𝑝
励起量子効率
1𝜂𝑚
モードマッチング効率
0.75𝜎𝑒𝑚
誘導断面積[m
2] on波長
7.2× 10−22,off 波長
2.3× 10−22 nレーザ媒質の屈折率
1.41𝛼𝑎
励起波長における吸収係数[m
-1] 400 𝐿レーザ媒質長[m]
9× 10−3 𝑙共振器長[m]
120× 10−3 𝑅1インプットミラーの反射率[%]
100 𝜔𝑝励起光ビーム径[m]
1× 10−3 𝜔𝑜出力光ビーム径[m]
1× 10−3 𝜏𝑓レーザ上準位蛍光寿命[s]
25× 10−9 𝜏𝑑パルス幅[s]
10 × 10−922
図
4.6,4.7に
on波長
292nm,off波長
311nmにおいての反射率
R2ごとの入出力特性の シミュレーション結果,表
4.2,4.3に閾値を示す.
図
4.6 292nmにおける
Ce:LiCAFレーザの入出力特性シミュレーション結果
図
4.7 311nmにおける
Ce:LiCAFレーザの入出力特性シミュレーション結果
表 4.2
292nmでの閾値
表 4.3
311nmでの閾値
ミラー反射率[%] 閾値[J/㎠]10 0.228 20 0.161 30 0.123 40 0.095 50 0.073 60 0.056 70 0.041 80 0.028 90 0.017
ミラー反射率[%] 閾値[J/㎠]
10 0.076 20 0.054 30 0.041 40 0.032 50 0.024 60 0.019 70 0.014 80 0.009 90 0.006
23
図
4.8 ミラーの反射率に対するスロープ効率シミュレーションによって求められたアウトプットミラーR
2の反射率に対するスロー プ効率の変化を図
4.8に示す.出力レーザのエネルギーは励起レーザのエネルギーに比例 して増加することが分かった.また,アウトプットミラーR
2の反射率が高くなるほど,閾 値は低くなることがわかる.同様にスロープ効率は低くなり,スロープ効率は
37~65%となった.式
5.2,5.10からもスロープ効率はミラーの反射率に依存することがわかる.
また,統計誤差シミュレーションで要求される出力エネルギー292nm で
0.53J/cm2 (38mJ)を満たすためには,反射率
20%のミラーを使用した場合,1.31J/cm2(91mJ)つぎ込む必要があることがわかった.また,
311nmで
0.14J/cm2 (10mJ)を満たすためには,反射率70%のミラーを使用した場合,0.31J/cm
2(20mJ)つぎ込む必要があることがわかった.24
第
5章
Ce:LICAFレーザ発振実験
5.1
共振器設計
第
3章で統計誤差シミュレーションにより決定した最適波長の組み合わせ(on 波長
292nm,off
波長
311nm)を得るため,Nd:YAGレーザの第
4高調波(266nm)を励起とする,
Ce:LiCAF
結晶を用いた固体レーザの開発を行った.図
5.1,5.2に共振器設計概要,実際に
作製した共振器を示す.
励起レーザのビーム直径
10mmをコリメータで
3mmにし,Ce:LiCAF 結晶に入射する.
共振器のミラーは第
4章のスロープ効率と閾値を踏まえ,今回は反射率
60%を選択した.図
5.1 Nd:YAG第
4高調波励起
Ce:LiCAFレーザ構成
図
5.2 Nd:YAG第
4高調波励起
Ce:LiCAFレーザ構成
25
5.2
発振実験
図
3.4に示す
Ce:LiCAF結晶の入出力特性との比較を行うため,まず波長選択のための分
散素子を挿入しない図
5.3に示すファブリ・ペロー型共振器を構成し,発振実験を行った.
実験で用いた器具およびパラメータを表
5.1に示す.
図
5.3分散素子を挿入しない
Nd:YAG第
4高調波励起
Ce:LiCAFレーザ構成
表
5.1 Ce:LiCAF共振器発振実験に用いた器具のパラメータ
Ce:LiCAF
結晶のサイズ
5mm×5mm×9mmNd:YAG
第
4高調波出力 約
33mJNd:YAG
レーザ第
4高調波ビーム径
3mmプリズムスペック 等辺分散プリズム,フッ化カルシウム(CaF2)製,180 nm~8 µm
プリズムの大きさ
10mm×10mm×10mm26
図
5.4 Nd:YAGレーザの第
4高調波(266nm)励起
Ce:LiCAFのスペクトル
実験で得られたスペクトルを図
5.4に示す.266nm に
Nd:YAGレーザ第
4高調波の励起 光,
286~290nmに
Ce:LiCAFレーザの出力を得た.約
288nmがピーク値となり,図
3.4の スペクトルピーク波長と一致した.しかし
O3-DIAL観測に必要な
292nm,311nmでの出力 が確認できなかった.今後,
Ce:LiCAF結晶温度制御,励起パワー密度の増加などを行うこ
とで,
Ce:LiCAFレーザの出力増加を図るとともに,波長選択のためのプリズムを共振器に
挿入する.
27
第
6章 まとめ
本研究では,赤道付近の対流圏界面オゾンを連続観測するため,現在使用されている色 素・エキシマレーザに替えて,固体レーザである
Nd:YAG第
4高調波(266nm)励起
Ce:LiCAFを用いた光源に改良するオゾン
DIALの提案をした.
2
章
気体成分の測定手法の一つである
DIALシステムの測定原理と気体濃度導出方法につい て述べた.
3
章
統計誤差による数値シミュレーションにより
DIALに必要な最適波長の組み合わせを求 めた.
on波長
292nm,off波長
311nmの組合せで,赤道対流圏界面高度
18kmを含む
14~22kmの高度範囲では測定精度
10%以内,対流圏界面18kmでは
2.5%で測定可能であることを示した.
4
章
Nd:YAG
第
4高調波励起
Ce:LiCAFレーザの入出力特性について数値シミュレーション
を行った.共振器のアウトプットミラーR
2の反射率の変化による入出力特性を評価した.
統計誤差シミュレーションで要求される出力エネルギー292nm で
38mJを満たすためには,
反射率
20%のミラーを使用した場合,1.3J/cm2つぎ込む必要があることがわかった.また,
311nm
で
10mJを満たすためには,反射率
70%のミラーを使用した場合,0.31J/cm2つぎ込
む必要があることがわかった.
5
章
4
章でのシミュレーション結果から,共振器アウトプットミラーR
2反射率
60%@300nmを用いて,Nd:YAG レーザの第
4高調波(266nm)励起
Ce:LiCAFレーザの設計を行った.波
長選択のための分散素子を挿入しないファブリ・ペロー型共振器を構成し,発振実験を行
った.Ce:LiCAF のゲイン特性のピークに相当する
288nm付近での出力を確認できた.ま
た,波長の選択のため,今後プリズムによる分光によって調整を行う.
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参考文献
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2 Newchurch, Michael J., et al.,TOLNET – A Tropospheric Ozone Lidar Profiling Network for Satellite Continuity and Process Studies, EPJ Web of Conferences, Vol.119, EDP Sciences, 2016
3 SHADOZ web site, https://tropo.gsfc.nasa.gov/shadoz/Archive.html.最終観覧日2019年1月28日
4 Yasukuni,Shibata, et al., Lidar Observation of the 2014 Kelut Volcanic Stratospheric Aerosols at Kototabang, Indonesia, EPJ Web of Conferences. Vol.119. EDP Sciences, 2016.
5 大場みさき,柴田泰邦,DIAL による赤道圏界面オゾン観測のための全固体レーザ開発, 第36回レーザ センシングシンポジウム,No. P-32,2018.
6 内田行紀, 阿保真,柴田泰邦, 対流圏オゾンDIAL用全固体紫外レーザの検討, 第33回レーザセンシング シンポジウム,No.P-22,2015.
7 猿倉信彦,新固体レーザー媒質を用いた紫外波長可変レーザー, 光学, Vol.25, No.9 1996.
8 Fromzel, Viktor A., et al., Fromzel, Viktor A., et al., Tunable, Narrow Linewidth, High Repetition Frequency Ce:LiCAF Lasers Pumped by the Fourth Harmonic of a Diode-Pumped Nd:YLF Laser for Ozone DIAL Measurements, Advances in Optical and Photonic Devices, Ki Young Kim (Ed.)2010.
9 小林喬郎,固体レーザー,学会出版センター,1997.
10 Semashko, V.V.,et al. Excited state absorption from the 5d states of Ce3+ions in LiCaAlF6 crystals Proceedings of the SPIE, Vol.3239, pp. 240-245, 1997
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