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墨の物性について(?)煤の分散度と誘電率
著者 市川 米太
雑誌名 奈良学芸大学紀要
巻 7
号 2
ページ 55‑57
発行年 1957‑12‑15
その他のタイトル Studies on the Sumi Colloid. (II) Dielectric Constant of Carbon Black Dispersions
URL http://hdl.handle.net/10105/4883
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墨 の 物 性 に つ い て (II)煤 の 分散度 と 誘電率
市 川 米 太 (自然科学教育教室) (昭和32年10月1日受理)
Yoneta ICHIKAWA : Studies on the Sumi Colloid. CH) Dielectric Constant of Carbon Black Dispersions
1緒 育
第一報の墨の電子顕微鏡的研究によって,墨色の優劣は墨をすったときに,墨コロイドが水中 によく分散しているか否かによって決められることを知った。又墨コロイドの分散は現,硯水, 墨のすり方,謬等によって影響を受けていることもあきらかになったが,その外に墨の原料であ
る煤の形状や性質もまた墨色の要素になっていることは,墨の製造において,墨の上等下等を煤 の品質によってきめていることからも当然のことである。墨の製造に使われている煤は松から採 集した松煙煤と,菜種油から採集した油煙煤の二種類があり,更に最近は石油やガスを原料とす るカ‑ボン,ブラックも使われている。松煙煤は障子をめぐらした室の中で栂を燃し障子につい た煤を集めたものであるが遠方に飛んだ煤を上質としている。油煙煤は菜種油の入った皿の中に 燈心を立てゝ燃しこれを土器,銅器等に受けて採集するものであるが,燈心の数の少ないもの, 皿と器の距離の大きいものを上質としている。いずれの場合も煤の粒子の少さいものが上質とさ れているわけである。
これ等の煤の墨の原料としての良否は前報の結果からもわかるように煤の分散度の良否による と見るべきである。煤のような粉体の分散度については誘電率による研究が最近進められかなり の結果が得られているO著者も松蛭煤,油煙煤について誘電率の体積分率による変化について測 定し,その分散度との関係をあきらかにしようとした。
2 資 料 と 実 験
資料は油煙煤,松煙煤I,松煙煤Ⅲの三つである。油煙煤,松煙煤tは古梅園において実際に 上質の墨の製造に使われているものである。松煙煤Ⅲは一般に市販されているもので,選別され ていない粗悪品に属するものである。粒子の形状は写真に示されているように大体球状とみなさ れる。粒子の直径はTableI に示さ
れているように油煙煤,松煙煤工,松 煙煤Ⅱの順に大きくなってゆく,松煙 煤Ⅱは他の二つの資料と違い粒子直径 の分散が大きく,大体直径の平均が 250ai」」のグル‑プと, 140muのグル ープと50m^グル‑プの集ったもので
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ある。表にはその全体の平均を示しているo誘電率の測定にはこれらの資料をひまし油とTラン ス池を分散煤として,充分授拝することによってこれ等の液体中に粒子を懸鴻して使用した。
測定器は横河のQメ‑タ, QM‑102型によったO測定周波数は100KCに保ち周波数変化は行わ なかった。測定のCellほ零容量5pFの対向円盤電極の問に試料を入れ,絶縁テープで側面を封 じた。恒温装置は特に使用せず19.5‑c± 1の室温の中で実験を行ったO
Fig13に.トランス池中に油煙煤,松煙煤I 松煙煤Ⅱを懸濁したときの体積分率に対する 誘電率の曲線が示されている。油煙煤,松煙 煤Iは体積分率の小さいときには誘電率eは 体積分率≠とともに直線的にましている。体 積分率が大きくなると 告一声曲線は直線から はずれ急激に増加している。叉両者の曲線の 勾配は油煙煤の場合よりも松煙煤の場合の方 が大きくなっている。
松煙煤Ⅱについては前の二つの資料よりは るかに大きなEの値を示し殆んど最初から直 線からほずれた急激なカ‑プを示している。
Fig14にはひまし油中に油煙煤,桧煙煤I, 松煙煤Ⅱを懸濁したときのe‑声曲線が示さ れている。この場合は油煙煤,松煙煤工,紘
s.k<!蝣h三上 : 二三;・‑}∴・∴、蝣‑. !'ここI
濁したときのように曲線になることがない。
e一声曲線が直線になっているときほ粒子の 凝集状態に変化がなく体積分率の増加とゝも
に誘電率が増加してゆくものとみられるが, e‑声曲線が直線からほずれ急激に増加する のは凝集状態が単なる凝集状態から鎖状また は網状の構造を′っくるものと考えられること はvoetの論文にも見られることである。即 ち, Tランス池に比較して,ひまし油は粘度
二 J.二/、∴, ‑ ∴I'一・
が鎖状または網状の構造を体積分率の小さい 中からなすのに対してひまし池中では粒子が このような構造をなすことが困難のために曲 線の部分が出てこないものと思われる。松煙 煤Ⅲについてはトランス池の場合と殆んど同
じである。
3 議 論
分散糸の凝集状態については, Bruggeman
1 2 3 4 5 6 7 8 リ LU
Fig. 13 Change of dielectric constant with concentration for di申ersions of carbon black in mineral oil
1 2 3 4 5 6 7 8 0 1り
Fig. 14 Change of dielectric constant with concentration for dispersions of carbon black in castor oil
墨 の 物 性 に つ い て
(57)voetの誘電的研究があるO 誘電率elの媒質中に誘電率e2の物質が球形粒子の形で分散している 糸の誘電率をe,分散質の体積分率を声とするとBruggemanの理論によれば次式が成り立つ。
i‑1軽言語(窓%
告2≫elの場合を考えると
稀薄懸濁液について柱声≪1であるから
e‑ei(l+3≠)
(1)
(2)
(3) と蝣̲C‑I"1̲‑
Voetほ球形粒子でない一般の粒子に対して
s‑si(l+3/声 (4)
なる関係がなり立つと考えfをform factorと呼び分散媒を変えても変らず,粒子の形状を示 すものとした。
煤の場合には電子顕微鏡写真からもわかるように粒子は殆んど球形とみられるので, (3)式に一 致しf‑1になる筈であるが,実験によればf>1であるO これは粒子の凝集のため球形からは ずれていることを示していると思われる。又fの値はTaele工 に示しているように三つの資料 について夫々異っている。同じ煤であっても勾配は粒子の小さいもの程小さく,粒子の大きいも の程大きくなっている。これは粒子の小さいもの程凝集し難いことを示していると考えられ,同 じ形状でも直径の大小によりfの値が巽っている。従ってVoetがfを単にform factorと 呼んだことは不適当であって, !ほform factorであると同じにagglomeraとion factorとみ
るべきである。特に同一物質で形状が同じで大きさのみ異なる物質においては勾配は凝集因子と みなされるものと思われるO この事はe‑声曲線よりfの値の測定によって懸濁液の分散度ある
いは凝集状態の測定ができることを示している。
粒子の直径が小さいとき,粒子が凝集しにくいことを示しているのは,粒子が小さい場合にコ ロイド粒子間のフアンデル,ワ‑ルス引力に対してコロイド粒子間の電力的斥かが大なるためと 考えられるが更に研究の必要がある。
4 結 語
墨の原料としての煤がよい墨色を出すためには煤が墨の製造過程において熱日参質汁とよくこね られ惨質中に充分分散されること,墨が脱水におろされたとき水中によく分散することが必要で あるo このためには凝集し難い煤であることが必要ごあるが粒子の小さいもの程この要求を満足 していることがわかった。また分散糸において媒質中に同質同形の分散質がよく分散しているか 否か,即凝集のすゝむ程度を1の値の測定によって知ることが出来ることが認められた。
この研究に対する奈良女子大重永教授,古梅園,本学服部講師の御厚意に対し感謝致します。
文 献
(1) A. Voet J. Phys. Colloid. Chem. 51 ; 1037 (1947) (21 D. A. G. Bruggeman. Ann. d. Phys. 24 5 626、 C1935)
(3)岡 小天 誘電体論
(4)市川米太 奈良学大紀要 第5巻 第2号 C1955〕