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視覚教材を利用した理科、化学分野の創造教育の再 構築

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Academic year: 2021

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視覚教材を利用した理科、化学分野の創造教育の再 構築

著者 松村 竹子

雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要

巻 3

ページ 57‑63

発行年 1994‑03‑31

URL http://hdl.handle.net/10105/4419

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視覚教材を利用した理科、化学分野の創造教育の再構築

松 村 竹 子

(化学教室)

和文要旨

映像メディアを用いて科学的関心の端緒を開き、創造性を育てる化学教育を目指した大学の授業 実践例について紹介する。映像メディアを授業の中で活用することによって「参加する授業」が可 能になる。また、学生白身が映像メディアを用いて化学演示実験のビデオ教材の企画・制作を行い、

化学の研究に対する主体的な研究心が惹き起こされた。

Keyword VisualAids,CreativeEducation,ChemicalEducation l.はじめに

1960年代米国の理科教育運動は我が国の理科教育にも大きな影響を与え、理科の分野で活発な教 材開発研究が行われた。化学分野においては、CBA(ChemicalBoundApproach)教科書やC HEMS(Chemistry:AnExperimentalScience)の翻訳とその啓蒙活動が、日本の化学教育界を 風靡した。科学研究費の特定研究部門(現在の重点領域研究に相当)においても科学教育研究のプ ロジェクトが組織され、当時の奈良教育大学理科教育の教授岡崎良書氏(故人)は「理科教具の開 発の研究」を中心テーマとして積極的にこのような理科教育運動に参画した1)。

今日の理科教育における教材、教具に関する研究の状況は、個別的にはコンピュータ教育、メディ ア教育にみられる教育情報工学的研究、種々の新しい教材の研究、先端技術に結びついた啓蒙活動 や教材研究など新しい展開を示している。しかし一方では、中学生高校生の理科離れ、理科嫌いと いった受け手側の変化が深刻になり、社会問題となってきている。このような状況を改革するには、

1.自然科学の原点にかえって生徒の自然に対する関心を呼び起こし、「観察」と観察に根差した

「探究」を重視した理科教育の復興が必要である。2.理科教育の在り方について現場の教育者と 科学研究者の研究交流と活発な意見交換による総合的な検討が必要である。

筆者は自然科学の原点にかえって、「観察」に根差し「探究」を重視した理科教育の復興を願い、

視覚教材を活用して、科学的関心の端緒を開き、観察力を養って、創造性を育てる科学の授業方法 を検討してきた。今回教育学部における授業実践例を紹介する。

2.授業における視覚教材の利用とその教育効果

これまで授業においてOHP、ビデオを積極的に取入れてきた。これらの映像による視覚教材の 用い方については様々な意見と評価がある。私の関わった授業の中での用い方とその反響について 述べてみたい。

〈化学概論〉

中等教育の教科専門であるこの授業の受講生は、理科専攻の学生達である。授業の内容は高校の 化学教科書に出てくる化学単元のうち、無機化学・溶液化学に関連したものが主である。化学の基

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礎概念の獲得と具体的な化学物質の性質を知るという2つの課題を同時に満たすカリキュラムは、

なかなか立てにくいが、それにもまして化学物質の実体に触れることなく中学校・高等学校を終え てきた受講生から具体的なイメージを引き出すことは至難のことである。質問は常に「わかりませ ん」の連発で空まわりしてしまう。学生と対話をしながら授業を進めることはここで見事に挫折し てしまう。しかし、このような受講者の状態を知らずに一方的に講義型の授業を進めたとき、教授 者の意図と受講者の受取り方とのギャップは授業の成立を危うくするであろう。

教授者と受講者が共通の意識をもって授業に向かうとき、教室に緊張と活気が生じる。ここでま ず必要なことは、自然からのメッセージに対して観察者として共通の立場に立っ事である。教授者 は一方的な知識の伝達者であってはならない。また、受講者には固定観念から解き放された自由で 柔軟な考えで新しい世界に踏み込む好奇心や探究心、が要求される。

く授業の始りとビデオ教材〉

このような好奇心や探究心を惹き起こす手助けとして視覚教材の活用による授業展開を図った。

授業の最初の時間はビデオの上映から始る。映像によって新しい事象に触れ、まず視野を広げるこ とから始める。最初の授業で「元素の周期性」(英国オープンユニバーシティビデオテープ)を視 聴する。アルカリ金属と水との爆発的なの反応(図1)には驚きの声が発せられ、視聴後の感想文 にも新しい驚きが述べられていた。この教材を導入部として授業を進め、課題としてクラス全体で、

元素の周期性を調べよう〝 というレポート作成の目標がきまった。授業は元素の周期性から化学 結合へと進む。

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RbinH20

図 1 CsinH20

〈水について:ミクロとマクロな性質を映像でみる。〉

水は私たちの日常に欠かすことの出来ない物質である。水はまた、化学的にも重要な溶媒である。

化学結合の単元で「極性」のビデオ教材を使用する。水道からの水の流れにエボナイト棒を近づけ ると水の流れが曲る現象から始るこのビデオは説明が英語であるため、映像だけから理解する制約 がある半面、集中力が養われる。また環境的視野から「河川の水の現状」についてのビデオを視聴 する。河川水の汚染についてはじめてその重大さに目を見張る学生が多く、後に卒業研究で自らの

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視覚教材を利用した理科、化学分野の創造教育の再構築

研究テーマとして選ぶこともある。これらの素材は後の授業で折りにふれ取上げ発問する。水分子 の中の電子分布の偏りによって生じる様々な水の特性を系統的に理解する力と自然界の資源として 生命を維持し生活を支える水の働きの原理を思考する力を育てる。(図2、図3)

薗給水に描かれた超{

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視覚教材を利用した理科、化学分野の創造教育の再構築

3.化学演示実験のビデオ制作

教員を志望する学生が大半を占める教育学部の学生は概して発表能力に優れていたが、近年発表 力の低下が目立ってきた。そこで、無機化学実験でプレゼンテーションと高校化学の教材研究を兼 ねた、、化学演示実験のビデオ制作〟の時間を設けることにした。この取組みについては本報告に発 表したが2)、探究心、と創造性の惹起という点で恩わぬ成果をもたらした。

化学演示実験のビデオ制作は次の様なプロセスで行われるが、各プロセスによって学生が行う作 業とその意義について表に示した。

表 化学演示実験のビデオ制作のプロセスとその教育的意義

制作のプロセス 教育的意義

テーマの検索と設定

実験に用いる試薬・器具のリストアップ 実験に着手

実験のビデオ取り ビデオ編集 批評と再編集

ビデオの上映

化学実験書の検索

実験棚の検索、試薬カタログの検索 予備実験と本実験の設計

プレゼンテーションの工夫 メディア技術の修得

マイクロティーチング

教育への活用・啓蒙活動 全体として

I.学生が持っている能力を様々な方向から引き出す。

(イラストレーション、板書法)

Ⅱ.プレゼンテーションの訓練。

Ⅲ.新しい化学現象の観察、実験による教育効果

(化学の新知識、実験法の修得、教卓実験技術、実験 計画法の修得)

Ⅳ.科学的思考力の獲得、創造力の育成

(より探究的研究活動への橋渡し)

Ⅴ.新しい教材の開発 等の教育効果が生じた。

4.学生の取組み

く冊子 元素の周期性を調べよう〟の製作〉

2.で述べた化学概論の授業がある程度進んだ段階で提出されたレポート 元素の周期性を調べ よう〝の編集作業に1時間を用い、学生間で編集方針が話合われた。前期終了後、このレポートは 青色表紙の 元素を調べよう〝前編、後編100ページの読み物となった。50名の目で調べられた事 柄の集大成で、読み応えがあり、書き手のありのままの筆跡が親しみを感じさせる手作りの書物で ある。

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〈紙芝居、、川の自浄作用′′〉

水の単元で川の水質の栄養成分や溶存酵素の分布と水中の生物の関係について生物科の学生の報 告を参考にして、ベーブサートが作成された3)。この作品はその年の理科学習教室(小学校過程理 科専攻生による小学校3−4年を対象とする学習教室)でも用いられて好評を得た。

く奈良市近辺に河川の水質分析〉

毎年、大学祭の時期、化学教室の多くの学生は奈良市近辺の河川の水質分析に参加する。白砂川、

布目川、秋篠川、佐保川を対象として採水作業に続いて栄養塩類の分析が行われる。この行事は学 生の自主的な計画によって毎年引継がれて行われている。河川水の分析は複雑な化学操作を伴うた め、専門家の育成も不充分になって来ている。しかし、環境教育の基本として、実際の測定を行う ことはすこぶる重要である。小・中学校では簡便なパックテスト方式が行われているが、その限界 も指摘されている4)。この水質分析は専門的な分析法によって種々の分析機器を用いて行われる。

現在のカリキュラムの中では展開出来ない重要な事柄を自主的研究で行う積極性と経験は、その後 の卒業研究や卒業後の環境問題の研究・教育に公的にも個人レベルでも大きな力になっている。

5.まとめ

今回は視覚教材として映像メディアを活用した化学教育の展開について報告した。これらの映像 メディアの使用については様々な考えがあり、議論もある。しかし、情報社会の中で育った生徒達 に映像メディアの利点を生かして授業することによって、自然からのメッセージを伝え、自然に対 する関心を呼び起こすことが出来る。また、自ら映像メディア用いる立場に立って、啓蒙的映像を 作り出すことによって科学的思考力、創造力を培うことが出来る。実際、佐保川の水質の研究5 ̄7)、

界面活性剤の研究8)などの研究テーマについて専門的な研究へと発展した例が数多くある事からも、

このような、視覚に訴える教材は化学の魅力に引き込む化学教育を可能にしていると考えられる。

化学現象の中から「色の変化や形の変化が著しいもの」、「ものを作り出す喜びと結びっいた教材」、

「身近な材料や器具を用いた実験」等を抽出すると生徒が親しみ、考え、化学を理解する魅力ある 授業の再構築が可能になる。今後このような教材とこれらを用いる化学教育の展開を検討したい。

謝 辞

この研究は授業の中での発問を受け止め、主体性をもって積極的に企画し、調査し、学んだ成果 をまとめて授業を発展させた学生諸君の力に依っている。このことに謝意を表する。

この研究は平成5年度文部省科学研究費および平成4年度奈良教育大学教育実践研究指導センター 研究費の補助を受けて行われた。

なお、制作したビデオは一部貸出可能である。

文献

1)岡崎良書、理科教育工学の立場から見た教貝の開発(文部省特定研究報告)1969,3月 2)松村竹子、教育実践研究指導センター報告、1992,1.31−38

3)教育実践研究指導センターニュース、1992,第6号 4)藤谷健、理科の教育、1994,44−48

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視覚教材を利用した理科、化学分野の創造教育の再構築

5)森井ふじ、松村竹子、田中好、陸水学雑誌、54,3−10(1993)

6)島田字一郎、森井ふじ、松村竹子、奈良教育大学教育研究所紀要、27,45−65(1991)

7)宮川康代、卒業論文(1990年)

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