中小企業の経営・管理(マネジメント)
に関する一研究
――「基礎的考察」の再検討――
川 上 義 明
はじめに 1.生産の組織体
2.経営・管理(マネジメント)の規定
3.経営・管理(マネジメント)の階層化と職能分化 4.「経営学をそのまま適応できない研究領域」という意味 5.各経営管理階層における経営者,管理者,作業者のスキル むすび
は じ め に
筆者は以前,「中小企業経営・管理研究に関する基礎的考察」
1)(以下「基
1)川上義明[2007 年]を参照。
礎的考察」と略記する)において,「企業」とはどのように規定しておけば よいかを検討した上で,「経営管理」という機能・職能はどのように自立化 してきたのかに触れ,経営管理の中小企業・大企業間の相互浸透(中小企業 側からみれば回帰)を論じ,最後に一般的な中小企業経営論の内容・体系に ついて言わば総論的に述べた。
それを踏まえて,前稿「特殊経営学としての中小企業経営論――中小企業 研究の経営学的アプローチ――」
2)以下「経営学的アプローチ」と略記する)
で,筆者は規模の小さい「企業」から大きい規模のそれまで,すべての企業 を研究対象とするのが「経営学」であるとみた。
とはいえ(もちろん例外はみられるのだが),実質的にはあるいは特には と言ってよいであろうが,「株式を公開し,証券取引所に上場している企業」
=大企業を研究対象としているのが「一般経営学」であるとした。
そして,筆者はよほど断らない以上は経営学の研究者が研究対象としない,
企業数では圧倒的に多い中小企業を研究対象とするのが「特殊経営学」=「中 小企業経営論」であるとした。
「経営学的アプローチ」で示したように,その論拠の 1 つは,研究対象と なる企業数が圧倒的に多いということもさることながら,中小企業は大企業 とは質的に異なっていることである。その 1 つが,一般経営学を論じる者に は何も問題とはならない,規模の小さい「用役(サービス)・製品生産の組 織体」(以下,「生産の組織体」と略記する)は「企業」という概念に入れて よいか否かということである。実質的には個人経営でありながら,法人化し,
「会社企業」になっている企業も数多い――法人化現象。「基礎的考察」で考 察した「管理の自立化」,さらに言えば「管理の人格的自立化」が起こって
2)川上義明[2014 年]を参照。
いるのかどうか,管理対象がみられない場合等が一般経営学には含まれない 問題領域であろう。「経営学的アプローチ」では最後に,中小企業経営論が 取り組むべき分野ないしは課題を示しておいた。
それを受けて,本稿では中小企業と経営管理について,まず再検討してお きたい。本稿では「基礎的考察」と「経営学的アプローチ」での検討と重な る部分が少なくはないであろうが,そのことは厭わず,「マネジメント」と は何か,「経営学的アプローチ」でそう呼んだ一般経営学からのアプローチ との差異を探ることから始めたい。
1.生産の組織体
(1)2 つのタイプの生産の組織体
われわれが住んでいる社会には活動目的を持った様々な組織がある。それ らの組織は,何らかの用役(サービス)を生産し,社会・市場に提供・供給 しているし,あるいは「製品」
3)を生産し,社会・市場に提供・供給している。
加えて,用役と製品の双方を生産し,社会・市場に提供・供給している組織 もある。ここではこれらを「生産の組織体」と呼ぶことにしよう。
生産の組織体には,「〔A〕利潤獲得を目指さない生産の組織体」(よくい う「非営利の組織体」)と利潤をその活動の目的ないしは動機とする「〔B〕
利潤獲得を目指す生産の組織体」(よくいう「営利の組織体」)という 2 つの 組織体がみられる。この〔B〕を「私企業」と,ふつう「企業」という(図 表 1 を参照)
〔A〕はまったく収益事業を行わないというわけではない。とはいえ,こ
3)ここでいう「製品」(products)とは完成品(finished products,
finished goods)のみを指すのではなく,原料や資材,半製品・中間製品,部品など一切を含む。法律用語を使えば,「製
造物」のことである。
の収益事業はその組織の本来の目的ではない。反対に,〔B〕が社会的な要 請があるにせよないにせよ利潤獲得につながらない活動をしていることも多 い。そうはいっても,この利潤獲得につながらない活動は〔B〕の本来の目 的ではない。
図表 1 用役(サービス) ・製品生産の組織体のカテゴリー
(2)生産の組織体と分業,協業
一般的に言って,ここでは簡単化のため組織論は引き合いに出さないが,
何か仕事をする場合,1 人で行うよりは複数人が集い力を合わせた方が,仕 事は効率的に・能率よく進む。1 人では不可能な仕事もある。その場合,い わば当然のこととして,仕事の内容に合わせて組織が作られるであろう。
上の〔A〕の場合も〔B〕の場合も,両者とも社会に役立つ用役や製品を生産 する場合には,組織内で手分けをして作業を進めるであろう――いうところの分 業である。そして,分業化された作業は協働的・組織的にまとめられるであろう
[A]利潤獲得を目指さない用役・製品生産の組織体 ……学校,病院,軍隊,NPO 団体
(1),ソーシャル・
ビジネス
(2),慈善(チャリティ)団体,スポー ツ団体,宗教団体,公企業等々
用役・製品生産の組織体
注(1)「NPO 団体」とは,日本では,「特定非営利活動促進法」(1998 年施行)
に基づいて設立される民間非営利活動法人である。一部の NPO は福祉や教育 などの分野において中小企業と変わらない規模で事業を行っている。
(2)最近,とくには若者を中心に注目されるようになっているのが, 「ソーシャ ル・ビジネス」 である。法人形態としては,株式会社や NPO 法人をとるこ とが多いように思う。
[B]利潤獲得を目指す用役・製品生産の組織体 (利潤獲得を目的とする用役・製品生産の組織)
……企業(私企業)
( 資料)筆者作成。
――いうところの協業である。
それはそれとして,計画経済システムの社会とは異なって,われわれが住んで いる社会は, 自由競争が建前となっている。許可事項や認可事項,届け出事項など,
様々な規制があるから「原則として」と言わなければならないが,〔B〕は(もち ろん,場合によっては〔A〕も)他の生産の組織体との競争にさらされることに なる。競争に勝ち抜くためには,〔A〕も〔B〕も,その内部においては綿密な計 画を策定し,いかなる手段・方法が適切かを検討し,実行に移すであろう。そし て,その結果と目標値との間に差異が生じたら,その原因を分析し,次の計画へ とフィードバックするであろう(言うところのマネジメント・サイクルを念頭にお けば理解しやすい)
(補注)。
(補注)「生産の組織体」は〔A〕も〔B〕も 1 つの経済的単位である。したがって,
用役(サービス)や製品を生産し,提供・供給する場合の経済的過程(経済計算的側面)
を見落としてはならない。
上の〔A〕は,なるほど利潤獲得は目指さないが,しかしどのようなことがあっても 採算はとられなければならない。1 経済的単位として自立的でないならば,すなわち 採算がとれないならば,やがてその組織は破綻するであろう。ちなみに,公鉄道企業 や病院の経営破綻はよく目の当たりにすることである。
すぐ上でも指摘したとおり,われわれが住んでいる社会は自由競争が建前である。
「多くの場合」と断らなければならないであろうが,〔A〕の間でも競争が存在する。
学校や病院にしても競争に敗れれば,経営破綻が俟
まっている。しかして,この場合 もその生産の組織体の経済的過程に関して計画,組織化,直接的作業の管理,人事,
財務やその他,経営管理活動が不可欠となるであろう。とくにはこうした組織におけ る経営管理をノンプロフィット・マネジメントと呼ぶことがある
4)。
図表 1 の注でもふれているが,日本では, 「特定非営利活動促進法」 (NPO 法:1998 年)
も整備され,NPO が多く設立されるようになっている。さらには,ソーシャル・ビジ ネス(社会事業,社会的企業)や社会企業家も若い人々を惹き付けている。
4)このうち例えば,あるスポーツ団体(スケート競技)の状況をみると,乱脈経営とでもすぐに 批判されそうな経営状態を観察することができる。筆者は「企業論」の中で考察することにして いるが,そうした経営者あるいは経営陣に対するガバナンス・システムの検討と構築の必要性を 痛感している。なお,中小企業のコーポレート・ガバナンスについては,川上義明[2005 年 a],
1 ~ 9 ページを参照。
2.経営・管理(マネジメント)の規定
(1)クーンツ=オドンネルの指摘
一般的に,「経営」とは「継続的・計画的に事業を遂行すること。特に,会社・
商業など経済的活動を運営すること」をいい,「管轄し処理すること,良い状態 を保つようにすること,とりしきること」 を「管理」というとされる(広辞苑) 。
さて,上の〔A〕にしろ〔B〕にしろ生産の組織体においては,直接的な 作業(現場作業―労働)だけではなく,そこではマネジメント(経営,管理)
という「職能」
5)6)がみられることになる。
最も簡単な場合として,オーケストラの指揮者と演奏者の例や船における 船長と船員の例がよく引き合いに出される
(補注)。
(補注)① オーケストラのケース
よく経営学の教科書で,マネジメントを説明する際,オーケストラのケースが 引き合いに出される。このケースは中小企業の経営・管理の場合にそのイメージ は近い。 さて,オーケストラが 1 つの曲を演奏するためには,1人の指揮者の指揮のも とで演奏者 1 人ひとりが演奏しなければ,その曲はばらばらでまとまりのある曲 とはならないであろう。後に検討するシェルドン(Oliver Sheldon)も「あたかも オーケストラが指揮者を必要とするように,人間の結合した努力によって進めら れる事業は指揮と規制,調整を必要とする」
7)と言っている。
② 航海する船の例
航海する船舶のケースもよく引き合いに出される。船長の的確な判断に基づく 指揮がなければ安全な航海を続け,目的地に到着することはできまい。シェルド ンも企業という「帆船は毎日ますます重い貨物を積まれるようになり,いよいよ 強くなる嵐といよいよ大きくなる危険に満ちた海を航海する。それ故,その帆船 の舵をとる仕事についてはそれに比例していよいよ複雑さと責任とが増すのであ る」
8)と言っている。
5)以下,「生産の組織体」内における
function(機能)は,「職能」という場合が多い。6)尤も,この場合,その者はこうした機能だけを果すのではなくて,ことに規模が小さくな れば , 管理者も経営者も自ら現場作業(労働)をすることがある――念のため。
7)Sheldon, Oliver [1924], p.33. 邦訳書,43 ページ。
8)Sheldon, Oliver [1924], p. ⅸ . 邦訳書,3 ページ。
タイタニック号(4 万 6,328 トン,乗客定員 1,314 人,乗組員数 899 人)が処女 航海で 1912 年 4 月 14 日深夜に氷山に接触し,翌日未明に沈没した。出航後,流 氷原が行く手の海域に存在するという警告を他船から無線で受信していたが,船 長はさほど深刻には受け止めていなかった。この有名な海難事故は,後には映画 化もされた。犠牲者は乗員・乗客合わせて 1,513 人とも 1,517 人とも 1,490 人とも いわれた。なお,エドワード・ジョン・スミス船長は自らの意思により船と運命 をともにした――海上技術安全研究所のホームページ他による。
最近では,クルーズ客船コスタ・コンコルディア号(2006 年竣工,総トン数 11 万 4,147 トン,乗客定員 3,000 人〔最大 3,780 人〕,乗組員 1,090 人)は船長が 航路について,判断を誤り,通常航路を大きくはずれ,イタリア西部ジリオ島に 異常接近し,浅瀬に乗り上げ座礁し,損傷した船底から浸水し,やがて転覆し た。2012 年 1 月 17 日までに 11 人が死亡し,多数が行方不明になっている(日本 人乗客 43 人は難を逃れた)。同島に異常接近した理由は,船長が乗員に郷里の島 を見せるためだったという。事件発生後,船長は船を離れ,船に戻ることもなく,
港湾当局との電話連絡では重大事故の発生を隠そうとしたという(『読売新聞』,
2012 年 1 月 18 日付他による)
9)。
部下の乗組員に的確な指揮をするどころか,持ち場を離れた船長の行動は語る 価値もない論外の海難事故である。
これとは別の例だが , 本稿校正段階の 2014 年 4 月 16 日 , 韓国南西部の海上で 修学旅行中の高校生ら 476 人が乗った韓国籍の船舶「セウォル号」が沈没した。
韓国政府当局やメディアの間で情報は錯綜し ,「旅客船が沈没したが , 乗客の高校 生及び教師は全員救助された」という誤報が伝えられた。現実は , メディアが伝 えるところでは,6 月 9 日現在死者 292 人 , 行方不明 12 人である。
事故の際 , 潮の流れが速い難所だったにもかかわらず , 船長(68 歳)は寝室で 休息していたという。事故に気づいた後は , 乗客を見捨てて , 船から脱出し ,「一 般人」と身分を偽って救命船に乗り込んでいたという。船長は , 遺棄致死などの 容疑で逮捕された。
上の船の 2 例では , 船体には問題はなかったという仮定をしたが , セウォル号 の場合 , 過載できるように購入当初の船体を改造していたという。また積載物を 固定する装置も不完全であったし , 実際過積載した日数は過半数にも及ぶという。
正確な判断は後日の検証を待つことになるが , 企業全体のマネジメント(経営・
管理)と部門(船舶)におけるマネジメント(経営者・管理者)の在り方につい て強く考えさせられるできごとである。
ところで,中小企業の経営・管理においても,規模の小さい船の公開に喩える ことができる。
大きな船舶の場合には,多少波が荒くても,風があっても,船はそう揺れるこ とはあるまい。ところが小さい船の場合にはまともに波や風の影響を受けるであ ろう。したがって,船長以下刻々と変わる自然条件(気象条件)をみながら航海
9)なお,同船は約 1 年半横倒しになったままだったが,2013 年 9 月 16 日に船体の引き起こ
し作業が始まった。全長 290 メートルの船体は痛みがひどく,別の場所に移すのは 2014 年春
になる予定だという(『朝日新聞』,2013 年 9 月 17 日付)。
を続けていかなければならない。また,他の大きな船舶と接触しただけで大きな ダメージを受け,場合によっては沈没の危険にさらされるかもしれない。適切な 船長の判断と船員の操舵が求められることになる。
かつて,クーンツ=オドンネル(Harold Koontz and Cyril O’Donnell)は,
マネジメントをめぐって,次のように言った。企業や軍隊,宗教団体,チャ リティ団体,教育機関,その他の社会的な集団において,人間が取り組 むことに対する調整はあらゆる集団の活動に必要不可欠である。この集団
(association)の基本的構成要素はマネジメントである。マネジメントとは, 「自 分以外の者を通じてものごとをなさしめるという機能」(management -
the function of getting things done through others)である 10)と。
また,これに少し遅れてクーンツは別のところで同様のことを言った。す なわち,マネジメントとは,「組織化された集団の中で働く人々にものご とをなさしめるプロセス」(management -
a process of getting things done by people who operate in organized groups)であると 11)。
これからすると,マネジメントとは企業における階層的組織内部において 機能する,個々の人間に対する管理主体によるコントロール(支配,統制)
の機能ということになるであろう。平たく言えば組織内において,「上司(トッ プ・マネジメント)が策定した仕事・業務内容を部下に伝え,なさしめるこ と,人を管理すること」 だということになるであろう。
ところが,後には
Principle of Management(第 3 版)以降,クーンツにお10)Koontz, Harold & Cyril O’Donnell [1955], p.3. なお,邦訳書(大坪檀訳)があるが,意訳 すぎるので引用しないことにする。この研究をみたのかハイマン(Theo Haimann)も少し 遅れて同様に「マネジメントとは他の人々を通じて物事をなさしめる機能」(Management is
the function of getting things done through people)であるとし,さらに「諸個人の努力を〔組織〕全体の目的に方向づけることである」(directing the efforts of individuals towards a common
objective)としている――Haimann, Theo [1962], p.1, p.11。11)Koonz, Harold [1962], p.25.
いては「人々の物事をなさしめること」という表現が消えて,マネジメント をめぐる環境適応の問題が前面に押し出されている
12)。
井上善海教授は, 「部下,広くは人を管理することなどできるものではない。
顧客を管理できないのと同じである」。ちなみに,「営業部長は,営業という 業務のマネジメントを行う役職であり,営業部のメンバーを管理するために 選任されたわけではない」
13)と言っている。
(2)マネジメント――2 つの意味――
(a)機能的な意味
それでは,差し当たりマネジメントをどのように規定しておけばよいであ ろうか。
マネジメントという用語には,2 つの意味がある。その 1 つは,「経営」と いう機能的な意味である。これからすれば,「マネジメントとは,生産の組織 体において,重要な意思決定をなし,それを実施させ,その結果をみてとり,
次なる新しい重要な意思決定に生かすことである」と規定できよう。
もう 1 つは,同様に「管理」という機能的な意味である。これからすれば,
「マネジメントとは,誰かがなした重要な意思決定を他の者に実施させ(場合 によっては自分自身が実施し),その結果をみてとり,重要な意思決定をなし た者にフィードバックさせることである」と規定できよう。このように,マネ ジメントは経営的側面と管理的側面の 2 つの側面から規定できる(図表 2)。
(b)経営,管理の担い手の意味
これとは別に,マネジメントには,生産の組織体のうちとくには企業にお ける労働者ないしは労働側に対して経営陣,経営側という意味がある。
12)南 龍久[2007 年],16 ページより孫引き。
13)井上善海[2011 年],1 ページ。
また,われわれがよく知っている経営,管理の担い手をあらわす用語とし て,トップ・マネジメント,ミドル・マネジメント,ロワー・マネジメント という用語をみることができる(図表 2)。
関連して,経営者,管理者,監督者等を指す用語として,マネジャー
(manager)という用語がある。
図表 2 マネジメントのカテゴリー
(c)経営という用語
日本語で経営という言葉は誰もが知っている言葉であり,日常的にもよく 使われる。経営という言葉は,「工場を経営する」とか「ブティックを経営 する」,「病院を経営する」というように,ふつう機能的な意味に使われる。
この機能的な意味とは別に,経営という用語が組織の意味を持つことがあ る
14)。
経営(business,
establishment,betrieb)という言葉には,一般的に「継続的・計画的に事業を遂行するための組織」 (広辞苑)という意味がある。したがっ てといってよいであろう,次のような意味合いで経営という用語が用いられ
14)経営学研究グループ [1968 年],11 ページ。
マネジメント
①機能的な意味
② ①の担い手の意味
経営
管理
トップ・マネジメント
ミドル・マネジメント
ロワー・マネジメント
( 資料)筆者作成。
ることがある。
①まず,教会,軍隊,学校,企業などの一切の意思統一体〔組織〕を指し て経営という言葉が用いられることがある。
②さらには,企業と同一の意味であるいは家計を指すとする見解がある。
大経営,小経営,零細経営,家族経営と呼ぶ場合には,明らかにこの場合の 経営を意味している。これらの用語は大企業,小企業,零細企業,家計と言 い換えることができる。
③加えて,工場や事業所といった物的設備のみを考える見解もある。
このように組織を意味する経営といってもその用語・概念は一様ではなく,
様々な意味合いで用いられているのである
(補注)。
(補注) こうした用語法とは別に,社会主義的経済システムと関わって企業と 経営が使い分けられることがあり,あるいは「使い分けられていた」といっても よいかもしれない。
ひとまず資本主義的経済システムを問わず社会主義的経済システムを問わず,
生産の組織体を一般的に「経営」と呼び(下の図表の①),その上で,社会主義 的経済システムのもとでの「経営」を「経営」(下の図表の②)と資本主義的経 済システムのもとでの「経営」を企業(下の図表の③)と呼ぶ場合である。
しかしながら,今日では社会主義的経済システム(とはいえ以前とは異なって,
例えば中国は「社会主義市場経済システム」と呼ばれ,市場経済に新規参入して いる)のもとで,この「②経営」を企業と呼ぶことが一般的になってきていると 考えてよいであろう。ちなみに,国有企業,郷鎮企業,企業規模と関わっては,
大型企業,中型企業,小型企業という用語法もみられる。
(3)アドミニストレーションとマネジメント
経営,管理の意味内容を表す用語として,「マネジメント」という言葉が 使われるのが一般的だといってよいであろうが,「アドミニストレーション」
①経営
(=用役・製品生産の組織一般)
②社会主義的経済システムのもとでの「経営」
=経営
③資本主義的経済システムのもとでの「経営」
=企業
という用語が使用されることもある。この 2 つの用語が厳密に区別して使わ れることもあるし,またほぼ同一の意味内容を指すこともある
(補注)。
(補注)ここで,アドミニストレーションとマネジメントについては, 次のよ うな理解の仕方がある。
(1)アドミニストレーション
一般的に administrator といえば管理者のことであるし,administered price といえ ば管理価格のことである。
アドミニストレーションは,一般的には「経営」の意味も「管理」の意味も含 んでいる。行政管理や行政機関を意味することがある。 Administration といえば 行政機関や行政部(管理局)のことである。business administration といえば「企 業経営」のことであり,library administration といえば図書館管理のことである。
なお, Master of Business Administration(MBA)といえば経営学修士のことである。
(2)シェルドンの指摘(マネジメントとアドミニストレーションの区別)
早くに,シェルドンは(こと企業に限定せず一般的に)アドミニストレーション とマネジメントを検討している。シェルドンはマネジメントの上位概念として,
以下のようにアドミニストレーションを捉える。
①シェルドンが言うには,アドミニストレーション(=経営)とは,企業の政 策の決定,財務・生産・流通の調整,組織構造の決定および業務担当者の最終的 マネジメント(経営,管理) アドミニストレーション(経営,管理) =
③ 同等の場合
① マネジメントが上位概念の場合
マネジメント=経営
アドミニストレーション=管理
② アドミニストレーションが上位概念の場合 アドミニストレーション=経営
マネジメント=管理
統制に関する職能(function)である
15)。アドミニストレーション(=経営)は 効果的に指揮することである。
②マネジメント(=管理)とは,アドミニストレーション(=経営)によって 定められた範囲内での企業の政策の執行および(その企業の特定の)目的を遂行 するために組織を利用することに関する職能である。マネジメント(=管理)と は効果的に職務を遂行させることである
16)。
③オーガニゼーション(=組織)とは,個人または集団が遂行すべき作業をそ の遂行に必要な能力と結合する過程である。作られた組織は,利用できる努力を 能率的に,体系的に,積極的に,調整的に適用するための最善の手段を与える。オー ガニゼーション(=組織。ここでの文脈からすれば「組織化」と言った方が適切 であろう)とは効果的な機構を形成することである
17)。
この 3 者の間の関係をみると,アドミニストレーション(=経営)が組織(化)
を決定し,マネジメント(=管理)はオーガニゼーション(=組織)を利用する。
アドミニストレーション(=経営)は目標を明確にし,マネジメント(=管理)
はそれに向かって努力する。オーガニゼーションは経営によって決定された目的 達成における管理機構なのである
18)。
つまり,アドミニストレーション(=経営)は設計をする。オーガニゼーショ ンは設計そのものである。マネジメント(=管理)はその設計を利用する
19),と いう関係になるというわけである。
(3)一般的な用語法としての「マネジメント」
ところで,上とは別に,シェルドンは(こと企業に限定されず)一般的には,マ ネジメントという用語は,政策形成やそれの執行,組織設計とその利用を意味す るとしている
20)。
われわれが住んでいる社会にはいろいろな活動目的を持った組織(筆者の用語 を使えば生産の組織体)が存在する。これらの組織は闇雲にその目的を達成する ために活動をするのではない。シェルドンがいうには,教会からギルドに至るま で,自治体から帝国に至るまで,軍隊から大学に至るまで……結合した人間の能 力を行使するのにマネジメントが必要不可欠なのである
21)と。この場合,内容 的にはマネジメントが組織における「経営,管理」(職能)を指していると理解 してよいであろう。
(4)マネジメント――経営,管理,経営管理――
今日においては様々な生産の組織体(上で言った〔A〕の場合も〔B〕の場合も)
15)Sheldon, Oliver [1924], p.32 および p.286. 邦訳書,42 ページおよび 285 ~ 286 ページ。
16)Sheldon, Oliver [1924], p.32. 邦訳書,42 ページ。
17)Sheldon, Oliver [1924], p.32. 邦訳書,42 ページ。
18)Sheldon, Oliver [1924], p.32. 邦訳書,42 ページ。
19)Sheldon, Oliver [1924], p.71. 邦訳書,77 ページ。
20)Sheldon, Oliver [1924], p.33. 邦訳書,43 ページ。
21)Sheldon, Oliver [1924], p.33. 邦訳書,43 ページ。
において,先にも述べたように,アドミニストレーションよりもむしろマネジメ ントという用語がよく使われている。
マネジメントという用語が機能的な意味合いで使用される場合,先にみたよ うに,「経営」という意味も「管理」という意味も持つ。経営と管理を区別する ことが難しい場合があるかもしれないし,区別する必要もない場合があるかも しれない。実際,経営と管理とを区別することは無内容で抽象的な空論を弄ぶ ことになりかねないといわれることもある
22)。
筆者も経営と管理を区別する必要もない場合には,あるいは区別が難しい場 合には,以下,マネジメント=「経営管理」という用語を使用することにしよう。
実際に,中小企業の場合には,ある1人が経営機能も管理機能も担っている 場合が多い。規模が小さくなればなるほどそうなるであろう。その本人ですら,
いま経営機能を果たしているのか管理機能を果たしているのか,自覚しないこ ともあるであろうし,区別できないこともあるであろう。ことに中小企業の場合,
経営と管理を区別することにさほどの意味もない場合もあるであろう。
3.経営管理(マネジメント)の階層化と職能分化
中小企業経営論では,企業概念には入らないような規模の小さい生産の組織 体をも「中小企業」に加え,研究対象にすると先に述べた。そして,規模が小 さい場合には,管理対象がみられない場合もあることを指摘した。親子,家族,
親族等ではなく,他人同士の間での関係=管理がみられないということである。
規模がいくら小さくとも何らかの組織において,用役や製品を生産する場合 には,無計画に生産することはないであろう。
「基礎的考察」で,この点も考察しているが,行論の都合上,再論しておきたい。
22)経営学研究グループ [1968 年 ],11 ページ。
(1)企業規模と経営管理階層
(a)経営管理階層1の場合
企業においては規模が大きくなると,分業と協業の結果,一般的にこの縦の階 層分化と横の職能分化が起こっていく。規模が大きくなるにしたがって,購買,
生産,販売,財務等々,職能が増えていく。
ここで,経営管理階層がない場合(無理に言えば 1 の場合)で,かつ「職 能」
23)もそう分化していない場合が議論の出発点となる(図表 3 の①)。
この場合,経営者ははっきりしているだろうがそれは形式上のこともしばし ばである。この場合,よく組織は必要ないといわれる。経営職能,管理職能 および現場作業(労働)は家族で行われることも多い。正確には本来の意味 での企業というよりも「経営学的アプローチ」で検討した「生業」である
24)。
23)生産,販売,経理といった基本的な仕事のことを「職能」(また「機能」ということもあ る)という。そのうち,生産,販売,開発などを「基本的職能」と財務,経理,人事などを「補 助的職能」と呼ぶことがある。このようにいくつかの職能に専門的に分化していくことを「職 能分化」という(注 5)も参照)。
24)深沼 光・藤井辰紀氏が,日本政策金融公庫総合研究所が行った,日本政策金融公庫国 民生活事業の融資先企業に対して行った,「企業経営と従業員の雇用に関するアンケート」
(2010 年)からまとめたところによると,中小企業の規模別従業員構成は下の表のようになっ ている。規模が小さいほど「家族のみ」の「企業」の割合が高くなり,規模が大きくなるほど「家 族以外のみ」の従業員の「企業」の割合が大きくなっていることがよく示されている。
中小企業における規模別従業員構成
(資料)深沼 光・藤井辰紀[2013 年],59 ページ。
全体・平均 1 人 2 ~ 4 人 5 ~ 9 人 10 ~ 19 人 20 人以上
家族のみ(%) 16.5 - 44.3 0.9 0.0 0.0
家族と家族以外(%) 45.0 - 29.5 68.0 62.7 59.9
家族以外のみ(%) 27.7 - 26.2 31.1 37.3 40.1
従業員なし(%) 10.8 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0
回答企業数(社) 4,003 433 1,470 1,118 638 344
(b)経営管理階層 2 の場合
さらに規模が拡大し,従業員に家族や親族では働き手が足りず,ほかに他 人(賃金労働者)が入ってくるようになると,経営管理階層は,経営,管理 と現場作業という 2 つの層に分化するであろう。かつ職能もいくつかに分化 するであろう。小企業の場合である(図表 3 の②)。
この場合,経営,管理という職能が自立化してくるのであるが,経営者は,
管理機能も果たすであろうし,場合によっては現場作業(労働)も行うであ ろう。
(c)経営管理階層 3 の場合
それよりさらに企業規模が大きくなっていくならば,経営管理階層が 3 に なると考えてよいであろう。従業員として家族や親族はますます後退し(比 率が小さくなり),他人(賃金労働者)が大半を占めるようになるであろう。
この場合には,いっそう職能が分化していくであろう。経営管理階層は,経 営,管理と現場作業という 3 つの層に分化するであろう。中企業の場合であ る(図表 3 の③)。
この場合,経営,管理という職能が小企業の場合よりもより自立化し,よ
り分化してくるのであるが,経営者は管理機能も果たすであろうし,場合に
よっては現場作業(労働)も行うであろう。
図表 3 「経営管理階層 =1 ~ 3」 (広義の中小企業)の場合
(資料)筆者作成。
(d)経営管理階層 4 の場合
企業規模がさらに大きくなり,大企業になるといっそう分業が進み,現場 作業者は増大し,管理階層も増して 4 層になるであろう。すなわち,トップ・
マネジメント,ミドル・マネジメント,ロワー・マネジメントというように 経営管理階層と現場作業層がみられることになる。加えて,職能はいっそう 分化していくであろう(図表 4)。
この場合,複雑さを避けるため,説明は割愛するが,当該企業が多数の事 業部をもつ場合もあるであろうし,実質的にはそうした事業部門と変わらな い子会社や関係会社を傘下に抱える場合もあるであろう。
(本来の)株式会社は数千人,数万人,数十万人の従業員を抱えている。
(なし)
①経営管理階層 =1
②経営管理階層 =2
③経営管理階層 =3
家族企業(生業) 小 企 業
← 職 能 分 化 → 中 企 業
← 職 能 分 化 →
作業者
(家族,親族)
作業者
(家族,親族他)
経営者 管理者
経営者
管理者
作業者
狭 義 の 中 小 企 業 広 義 の 中 小 企 業
経営者・管理者
日常的な事項を何から何まですべて経営者(トップ・マネジメント)が決め ることは不可能である。そこで他の者への(下部への,部下への)権限委譲 が行われることになる。代表取締役は社長として会社の業務も担当すること になるが,管理者や現場の従業員にある程度の範囲で意思決定を任せること になる。
その企業の戦略的意思決定(経営理念や経営目標,事業領域の決定など)
をトップ・マネジメント(代表取締役社長や副社長,専務,常務)が行い,
部下にその執行をなさしめるであろうが,ただ命令するのではなくて管理活 動も伴うであろう。次いで,ミドル・マネジメント(部長,工場長,課長,
支店長)が部門管理者として経営資源の配分や部門管理に必要な決定を行う であろう。さらに,ロワー・マネジメント(係長等)が現場管理層として日 常的な現場管理活動を行うであろう。最後に,一般従業員が現場での作業活 動(労働)を行うであろう。
こうして,規模が小さい場合には近かった,現場作業者と経営者の「距離」
はいっそう離れたものになる
25)。
25)と,筆者が言うのは,日本企業の場合はともかくとして,テーラー(Frederic W. Taylor)
においてあるいはフォード社においてそうだったように,「経営・管理機能を持つ者=考える
者=頭」と「現場作業を担うもの=手足」の分離はこのことを象徴的にあらわしていると考
えるからである。
図表 4 「経営管理階層 =4」 (大企業)の場合
(資料)筆者作成。
(2)企業規模,企業組織形態と経営管理階層
以上,述べたように,企業規模が大きくなればなるほど横に職能が分化し,
経営活動,管理活動,作業活動(労働)がより階層的に(=縦に)分化する であろう。
むろん,あらゆる企業がこの図表 3 の①~③と図表 4 のすべてに当てはま るとは限らないが,1 つの概念図として,いかなる経営管理階層において,
あるいは経営管理階層のない中で,企業の経営管理活動が――とくには中小 企業の経営管理活動が――行われているかを整理することができるであろう。
株主総会
経営者
(トップ・マネジメント)
中間・専門管理者
(ミドル・マネジメント)
現場管理者
(ロワー・マネジメント)
作業者
← 職 能 分 化 →
大 企 業
4. 「経営学をそのまま適応できない研究領域」という意味
(1)中小企業における経営
大企業=本来の株式会社においては,先にみたように基本的な意思決定は 株主総会で行われ,重要な意思決定は取締役会で行われ,業務上の意思決定 は代表取締役(社長,最高経営責任者「CEO」)が行い,この業務上の意思 決定は下位の管理階層に委任される。
中小企業の場合,ちなみに町工場にしても闇雲に事業活動をするのではない。
われわれが住んでいる経済社会は市場競争が建前である。さらには規模が小 さい生産の組織体の場合には大きな資本は必要としない。したがって新規参入 も容易で,激烈な競争――過当競争――が展開されることも再々である。
基本的な意思決定あるいは重要な意思決定が行われ,さらに業務上の意思 決定が行われ,執行後,チェックされ,次の計画に生かしていかざるを得な いであろう。基本的な意思決定はその企業の生死に関わるような意思決定=
戦略もあるであろう。その意味では規模の小さい企業にしても「経営」が問 題になる。
(2)中小企業における管理
では,「管理」についてはどうか。ふつう「一般経営学」で「管理」を論 じる場合,先にみたシェルドンの場合もクーンツ=オドンネルの場合も,問 題設定は「管理する者と管理される者」との間が社会的関係になっていると いうことである。すなわち,「管理する者と管理される者」とはまったく血 縁のない「赤の他人」同士という関係であり,その中で例えばモチベーショ ンやリーダーシップ,インセンティブなどが論じられよう。
かつて,中山金治教授は,経営学がそのまま適応できる中小企業,すなわ
ち「管理対象」をもつ企業は,従業員数 30 人以上の規模の企業であるとし
た――企業全体の 10%からぜいぜい 15%
26)。残りの中小企業においては, 「管 理する者と管理される者」が親子,兄弟,姉妹,親戚・縁者だった場合には, 「管 理」を経営学が考える場合と同様に論じることはできないであろう。しかし,
どんなに規模の小さい企業の場合でも「管理」抜きの「経営」は語ることは できないであろう。
5.各経営管理階層における経営者,管理者,作業者のスキル
経営,管理が現場労働から自立化し,階層をなすようになり,また分化,
細分化していくようになるのだが,組織を構成する個人からこれをみたらど うなるのだろうか。以下,各管理階層における個人がもつ「スキル」(技能,
能力)に焦点を当てみてみよう。
(1)ハーシー=ブランチャード=ジョンソンの指摘
こうした「経営管理階層 1」~「経営管理階層 4」において,人はそれぞ れ活動するわけであるが,そこで必要とされるスキルについて,例えばハー シー=ブランチャード=ジョンソン(Paul K. Hersey , H. Blanchard and Dewey
E. Johnson)は 3 つ挙げている。① 専門的スキル――特定業務遂行に必要な知識,方法,技術,器材を 使用するスキルで,経験,教育,訓練を通して習得されたスキル。
② 対人的スキル――他人とともに,ないし他人を通して仕事をするス キルと判断力。
③ 概念的スキル――全体組織の複雑さと,その複雑な構造の中の自分
26)渡辺 睦・中山金治[1986 年],5 ページ。
の位置づけを理解するスキル。このスキルによって,直接,集団の 目標や必要を越えた全体組織の目標に向けて行動することが可能に なる。
ハーシーたちによれば,これらのスキルは,第 1 線監督レベルからトップ へと管理階層を上がるにつれて,いわばその構成が変わるという。
彼らはその変化を提示しているが,これは筆者が言う「階層 4」の場合で ある。これを筆者は, 「管理階層 1」から「管理階層 3」まで展開した(図表 5)。
(2)スキルの各経営管理階層における特徴
上でみた職能分化が少なくかつ経営管理階層がない場合(「経営管理階層 1」
の場合)には,ハーシーたちが言う「専門的スキル」も「対人的スキル」も「概 念的スキル」も,その企業の経営者,家族・親族従業員にとっては欠かすこ とはできず,望ましくはこの 3 つのスキルを等しく持ち合わせることであろう。
経営・管理職能が明確化した場合(「経営管理階層 2」の場合)には,経営 者には専門的スキルも求められるが,対人的スキルも,概念的スキルも重要 となる。作業者には,より専門的なスキルが高いことが求められ,対人的ス キル,概念的スキルは低くなっていくであろう。
「経営管理階層 3」から「経営管理階層 4」へと職能が増え,階層化が進むと,
経営・管理職能,監督職能が明確化してくると,専門的スキルよりも経営者
には対人的スキルや概念的スキルが増してくるであろう。一般従業員にはよ
り専門的スキルが増し,概念的スキルは無論一般従業員にも必要不可欠なの
であるが,しかし経営層,管理層,監督層に比べればその割合は低下するで
あろう。
(3)3 つのスキルの蓄積
「基礎的考察」では,中小企業の場合には,経営者のリーダーシップがそ の企業の経営の善し悪しを決定する。その場合,経営者の長年に亘るカン・
直観に頼った経営管理で解決可能な問題も少なくはないであろうと記した。
経営者,家族,
親族従業員
①経営管理階層 = 1(なし = 家族企業,生業)の場合
専門的スキル 対人的スキル
概念的スキル
②経営管理階層2(小企業)の場合
経営者 家族,親族,
一般従業員
概念的スキル 対人的スキル 専門的スキル 図表 5 組織階層において必要とされるスキル(概念図)
(資料)Hersey,Paul,Kenneth H.Blanchard and Dewey E.Johnson[1996]. 翻訳書 ,13 ページ を筆者が展開して作成。
③経営管理階層3(= 中企業)の場合
経営者層 管理・監督者層 一般従業員層
概念的スキル 対人的スキル 専門的スキル
④経営管理階層4(= 大企業)の場合
管理者層 経営者層
一般従業員層 監督者層
概念的スキル 対人的スキル 専門的スキル
ところが,その経営者がこれまであったことがないような経営環境の変化に 遭遇した場合,それまでは顕在化していなかった潜在的な問題が露呈・顕在 化し,その企業に重大な問題を生じさせるかもしれない。ここで言う,必要 とされる 3 つのスキルの蓄積が重要になるであろうということである。
また,若い中小企業ほど死亡率(経営破綻)が高いのは,培われた経営者 のもてるカン・直感が働かないことに加えて,企業内の経営者や従業員のこ うした 3 つのスキルの蓄積の少なさとまたアンバランスが指摘できるかもし れない。
む す び
本稿では,中小企業研究者のうちでも中小企業を研究するものにとって,
マネジメント(経営,管理)をまずどのように考えればよいのか,次いでど のようにこのマネジメント(経営,管理)という
function(機能,職能)を考えればよいのか,「基礎的考察」でみたものを再整理した。
「経営学的アプローチ」でみたように,「一般経営学」では,マネジメン トが現場労働から自立化していない「経営管理階層 1」の場合から説明を始 め,言ってみればいきなり「経営管理階層 4」の場合が考察されることが多い。
だが,小稿ではその間の過程を考察し,そこに中小企業のマネジメントを 位置づけた。もとより,企業が成長するにつれて,このとおりにマネジメン トが自立化し,分化していくことはないかもしれないが,それでもマネジメ ント自立化,分化の事情をみることができ,ロジックをつけることができる であろう。無論,実証を俟たねばならない部分が多いことはいうまでもない。
この作業を行うと,「経営管理階層 1」の場合には,「人と人との間におけ る」 (もう少し言えば, 「赤の他人の人と人との間における」)直接的な「管理」
はみられないかもしれない。かつて,渡辺 睦教授と中山金治教授が指摘し
たように「管理対象」がないわけである。
だが,親子や兄弟,同族の者が何らかの作業を「協働」して行う場合には,
当然,そこにマネジメント(経営,管理)活動が存在するであろう。井上善 海教授が言ったように,業務,仕事をめぐるマネジメントである。
最後に小稿で示したかったのは,以下の点である。すなわち,上で述べた
「経営管理階層 1」~「経営管理階層 4」別に個人からみた必要とされるスキ ルである。すなわち,経営管理階層別にどのスキルが主要になっていくのか ということである。よく言われるように,中小企業においては管理職や一般 従業員と経営者との間の「距離」が近いこと,また「経営管理階層 1」に近 いほど,必要とされる 3 つのスキルが等しく必要とされること,逆に「経営 管理階層 4」に近いほど,経営者(個人)には多くの概念的スキルが必要と され,逆に下層の階層にいる個人には専門的スキルが必要とされるであろう ことである。
これまで筆者は,「基礎的考察」,「経営学アプローチ」そして本稿で中 小企業のマネジメントについて整理を行ってきた。次なる課題は,中小企業 における「企業活動」をみ,その上で,実際の企業行動に先立つ,経営理念,
経営計画といったどちらかと言えば,管理に先立つ経営の側面に具体性を与
えることである。
引用・参考文献
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