書 評
植村 和 秀著
﹃ 日 本 の ソ フ ト パ ワ ー
﹄
所 功
著者 の植 村 和秀 氏︵ 昭 和四 十 一年 生 まれ
︶ は︑ 京 都大 学 法学 部 で政 治 学︵ 思 想史
︶を 専 攻し
︑ 学卒 後 直ち に 助手 と なっ た 俊秀 で ある
︒ その 四 年後 に京 都 産業 大 学法 学 部へ 着 任し た 同氏 は
︑私 よ り二 十 五歳 も 若い が︑ 昨 春ま で 二十 年 間︑ 何 でも 尋 ねれ ば 的確 に 答え て くれ る 耳学 問の 先 生で あ った
︒ この 植村 教 授が
︑五 冊 目の 単 著︵ 他 に共 著 三冊
・ 訳書 二 冊︶ と して
︑ 昨秋
︵ 平成 二十 四 年九 月
︶本 書 を創 元 社か ら 上梓 さ れた
︒ 受贈 し て主 題 と副 題﹁ 本 物の
復興
が世 界 を動 か す﹂ に 心惹 か れ︑ 一 昼夜 か けて 一気 に 読み 通 した
︒ それ ほ ど魅 力 的な
︑ しか も 深く 考 え込 ま せる 快著 で ある
︒ 本書
︵四 六 判二 一六 頁
︶は
︑ 全八 章 から 成 る︵ 末 尾に 目 次を 付
記 した
︶︒ 各 章末 に挙 げ る参 考 文献 など を 活用 し な が ら︑ 全 般 に 極 めて 高 度な 内 容が
︑ 努め て 平易 に
﹁で す
・ま す﹂ 調 で語 り 尽く さ れて い る︒ 主題 に 使わ れ た﹁ ソ フト パ ワー
﹂ とい う 用語 は︑ 二 十年 程 前︑ ハ ーバ ー ド大 学 の国 際 政治 学 者ジ ョ セフ
・ ナイ 博士 が 提示 し た︑
﹁︵ ハー ドな
︶ 強制 や 報酬 で はな く⁝
⁝
︵ソ フ トな
︶ 国の 文化
︑政 治 的な 理 想︑ 政 策の 魅 力に よ って 生 れる
﹂ もの
︵ 同 著
・山 岡 洋 一 氏 訳
﹃ソ フ ト
・パ ワ ー 21 世 紀 国 際 政 治 を 制 す る 見 え ざ る 力
﹄ 二
〇
〇 四 年
︑日 本 経 済新 聞 社
︶ に基 づ く︒ しか し 著者 は
︑こ れ を人 間 なら ば
﹁人 柄 の魅 力と 信 用の よ うな も の﹂
︑ま た 国家 なら ば﹁ 国柄 の 魅力 や信 用 によ っ て相 手 を 動 か
一 四七
す⁝
⁝ 文化 力 の発 揮﹂ と 捉え 直 す︒ し かも
︑ 身近 な
﹁日 本 のソ フ トパ ワ ー﹂ に 注目 して
︑ とり わ け﹁ 復 興を ソ フト パ ワー の 基軸
﹂ に 据え
﹁復 興 を 日 本 の国 柄 に ま で 高 め る こ と が で き れ ば︑ 日 本 は︑ 国 柄 の 魅 力 と 信 用に よ っ て︑ 世 界 の人 た ち の こ こ ろ を 動 か し︑ 世 界に 本 腰を 入れ て 貢献 で きる
﹂ とま で いう
︒ それ が決 し て牽 強付 会 でも 大 言壮 語 でも な いこ と は︑ 本 文で 具 体的 に 論証 さ れて いる
︒ とく に 私が 共 感を 覚 えた の は︑ 戦 後あ ま り使 わ れな く なっ た﹁ 国 柄﹂ と いう 言 葉に 光 を当 て
︑そ れ は﹁ 先 人の 美 徳と 悪 徳を 理解 し つつ
︑ 現在 の 人間
︵ われ わ れ︶ が それ ら を組 み 直し
︑ 未来 に向 か って
⁝
⁝世 界 に向 か って 提 案し て いく べ きも の
﹂と 積 極的 に考 え られ て いる こ とで あ る︒ 著 者 が
﹁日 本 の ソ フ ト パ ワ ー
﹂の 基 軸 と み る﹁ 復 興﹂ の 契 機 は︑ 単 に東 日 本大 震災 の よう な 自然 災 だけ で なく
︑ 第二 次 世界 大 戦の 敗 北も 日 露戦 争の 勝 利も
﹁ 暮ら し のあ り 方を 根 本的 に 変え ざ るを え なか っ た動 機﹂ で ある
︒ それ ら に日 本 人は
︑ どの よ うな 対 処を し てき た か︑ 多面 的 に検 討 して い る︒ さ らに
︑ 今日 の 情報 社 会や 大 学生
︑ 主要 世界 が 抱え る 現実 的 な問 題 点を 直 視し な がら
︑ 今の 日 本に 可 能な こと
︑ 為す べ きこ と を提 示 して い る︒ 本書 を通 読 して 私な り に気 付 いた こ とは
︑ わが 皇 室の 存 在こ そ
﹁ 日本 のソ フ トパ ワ ー﹂ の 源と み てよ い ので はな い か
︑そ れ に 著
者 が全 く 言及 さ れて い ない の は何 故 だろ う か︒ 現行 の 憲法 で も国 家
・国 民 統合 の 象徴 と 定め られ る 天皇 は
︑二 千 年来 の 皇位 を 世襲 し て︑ 伝 統的
・ 近代 的 な文 化を 体 現さ れ
︑国 家
・国 民 のた め に全 力 で誠 意 を尽 く して お られ る︒ そ の﹁ 魅 力と 信 用﹂ は
︑国 内 のみ な らず 世 界の 人 々か ら
﹁信 頼と 敬 愛﹂ を えて 久 しい
︒ しか し なが ら
︑現 今 の日 本 では
︑ それ が世 俗 的な 政 治力 や 経済 力 など を 遥か に 越え る 至高 の ソフ ト パワ ーだ と は︑ 必 ずし も 十分 に 認識 さ れて い ない
︒ とは い え︑ た とえ ば正 月 の宮 中 歌会 始 でも 内 外へ の 行幸 啓 でも
︑ それ が もた ら す文 化的
・ 社会 的 な影 響 力は 測 り知 れ ない
︒ さら に︑ よ く 考え て みれ ば︑
﹁教 育 勅語
﹂も 日 本 のソ フ ト パ ワ ー とい え るの で はな い か︒ そ れは 起 草者 の 井上 毅が 夙 に配 慮 した と おり
︑ 明治 天 皇の 御 意見
︵ 朕惟 ふ に⁝
⁝
︶を 述べ ら れ︑ 御 希望
︵⁝
⁝ 庶 幾ふ
︶を 示さ れた も ので あ る︒ そ の 内 容 は﹁ 之 を 古 今 に 通 じて 謬 らず
︑ 之を 中 外に 施 して 悖 らず
﹂ と自 負し う る正 当 性︑ 普 遍性 を もっ て いる
︒ それ ゆ え︑ 明 治四 十 年代
︵二
〇 世紀 初 頭︶ か ら︑ 欧 米で も 高く 評 価さ れ たの で あろ う
︵拙 著﹃ 皇 室に 学 ぶ徳 育
﹄平 成 二十 四 年︑ モ ラロ ジ ー研 究 所刊 所 収﹁ 教育 勅 語| 誕 生の 経 緯と 特 徴﹂ 参 照︶
︒ ただ
︑ 戦前 の 学校 教 育で 多 く形 式 に捉 わ れ︑ 少な か らず 強 制も
一 四八 第 18号 2013年 比較文明研究
行わ れ たこ と は︑ 反省 を 要す る
︒し か し︑ 現 在で も
︑あ の よう な 具体 的 諸徳 目 を︑ まず 親
・教 師
・指 導 者た ち が実 践 躬行 す れば
︑ おの ず から
﹁ 信頼 と尊 敬
﹂が え られ
︑ 日本 的 な︑
﹁ソ フト パ ワ ー﹂ とし て 再評 価 され るに ち がい な い︒
︵平 成 二 十五 年 一 月十 五 日
︶ 追記
参考 まで に 本文 の 目次 は︑ 左 のと お りで あ る︒ 1 ふわ ふわ した ソ フト パ ワー ソフ ト パワ ーの つ かみ 所 のな さ
╱本 当 は恐 い ソフ ト パワ ー
╱ソ フ トパ ワー と 説明 責 任╱ ア メリ カ の魅 力 と信 用
╱オ バ マ大 統 領の 就任 演 説╱ ソ フト パ ワー の 資源 と 戦略
╱ 今の 日 本の ソ フト パワ ー 2 大震 災の あと で 大震 災 のあ とで
╱ 首相 が すべ き だっ た こと
╱ 政府 の 責務
╱ 人は 相 身互 い╱ 復 興と い う国 柄
╱前 向 きに 創 造的 に 取り 組 む姿 勢
╱ソ フト パ ワー を 今考 え る╱ 日 本だ か らこ そ ソフ ト パワ ー を 3 日露 戦争 とソ フ トパ ワ ー 日露 戦 争に つい て
╱日 露 戦争 と ヨー ロ ッパ
╱ 日露 戦 争と 西 アジ ア
╱船 上の 二 人╱ 二 十年 後
╱日 露 戦争 の 戦争 指 導╱ 日
露 戦争 の 一人 歩 き╱ 日 露戦 争 のソ フ トパ ワー 4 昭和 戦 前期 の 挫折 日 露戦 争 の後 で
╱昭 和 の戦 争
╱敗 北 のパ ター ン
╱中 国 問題 と 日本
╱ 内向 き の中 国 政策
╱ 現場 の 苦労
╱あ ま りに も 現実 的 な╱ あ まり に も内 向 きな
╱ 大東 亜 会議
╱昭 和 戦前 期 の挫 5 折
昭和 戦 後期 の 不発 敗 戦の 後 で╱ 敗 北の 経 験者 た ち╱ 企 業と 国家
╱ 大平 総 理の 政 策研 究 会╱ 外 に向 く ため に
╱政 策 研究 会報 告 書╱ 大 平へ の 疑問
╱ 経済 と 文化
╱ 人間 の 顔を し た資 本主 義
╱下 村 の見 切 りと 不 発╱ 昭 和戦 後 期の 不 発 6 今の 日 本の 立 って い る場 所 再 び今 の 日本 へ
╱情 報 の文 明 学╱ 情 報と ここ ろ
╱日 本 を考 え ても ら う╱ 情 報の 窓 口が 必 要╱ 留 学生 や旅 行 者に も 考え て もら う
╱悪 い 癖を 繰 り返 さ ない 7 今の 大 学生 に 欠け て いる も の 読 む力
╱ パソ コ ンで 書 く力
╱文 脈 を読 む力
╱ 情報 化 が奪 っ てい く もの
╱ メー ル は瞬 間 芸╱ ネ ット は見 る もの
╱ 情報 化 とコ ミ ュニ ケ ーシ ョ ン╱ 若 者の 現 在= 年長 者 の未 来 8 今の 世 界を 動 かし て いる も の
『日本のソフトパワー』
一 四九
ここ ろ の時 代╱ 不 安定 な 時代
╱ 第一 次 世界 大 戦の 犠 牲╱ ヨ ーロ ッ パ内 戦╱ 日 本の
﹁ 第一 次
﹂世 界 大戦 は 第二 次 世界 大 戦╱ 戦 時宣 伝の 強 化╱ 敵 対関 係 の強 化
╱二 十 世紀 の 戦争 と テロ と の戦 い 9 日本 に今 可能 な こと 日本 の ミス マッ チ
╱客 観 的す ぎ ると 企 画に な らな い
╱ぼ ん やり と 寄せ てい く
╱目 指 すべ き 社会 像
╱腰 を 据え て 取り 組 む╱ 経 験を 共通 化 する
╱ 経験 を 外部 に 伝え る
╱新 し い危 険 にも 目 配り を╱ 日 本か ら 世界 に
一 五〇 第 18号 2013年 比較文明研究