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Vol.30 , No.2(1982)072向井 隆健「不空訳『摂無磯経』をめぐる問題」

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Academic year: 2021

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不 空 訳 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ を め ぐ る 問 題 ( 向 井) 二 九 四

﹃摂

一 は じ め に ﹃ 摂 無 磯 経 ﹄ と は 具 に は、 ﹃ 摂 無 擬 大 悲 心 大 陀 羅 尼 経 計 一 法 申 出 無 量 義 南 方 満 願 補 陀 落 海 会 五 部 諸 尊 等 弘 誓 力 方 位 及 威 儀 形 色 執 持 三 摩 耶 標 幟 曼 茶 羅 儀 軌 ﹄ と い い、 別 称 ﹃ 補 陀 落 海 会 軌 ﹄ と も い わ れ、 不 空 三 蔵 訳 と し て 大 正 大 蔵 経 密 教 部 第 二 〇 巻 に 収 め ら れ て い る。 不 空 訳 と さ れ て は い る が、 こ れ は 弘 法 大 師 空 海 の ﹃ 御 請 来 目 録 ﹄ に も そ の 名 は な く、 安 然 の ﹃ 八 家 秘 録 ﹄ に も 載 ら な い も の で あ り、 入 唐 八 家 以 後 の 将 来 と 考 え ら れ る。 従 っ て、 不 空 訳 で あ っ て も 時 代 的 に へ だ た り が 考 え ら れ、 ま た 内 容 に つ い て み て も、 後 に 論 ず る と こ ろ で あ る が、 不 空 訳 と し て そ の ま ま 信 用 し が た い も の の 一 つ と 思 わ れ る。 し か る に、 こ の ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ は 次 に 述 べ る 点 に お い て、 最 近 衆 目 の 的 と な り つ つ あ る。 一 つ に は、 石 田 尚 豊 氏 に よ る ﹃ 曼 茶 羅 の 研 究 ﹄ に は ︽ 同 じ く 不 空 訳 と す る ﹃ 法 華 曼 茶 羅 威 儀 形 色 法 経 ﹄ と と も に、 現 図 曼 茶 羅 の 所 依 の 経 典 と し て と り あ げ ら れ て い る。 ま た、 一 つ に は、 智 山 隆 喩 の ﹃ 秘 蔵 記 拾 要 記 ﹄ 等 に も 部 分 的 に は 指 摘 さ れ て い る と こ ろ で あ る が、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ と の 文 章 の 一 致 が み ら れ る と い う 点 か ら 種 々 な る 問 題 が 提 起 さ れ て い る。 更 に 考 え ら れ よ う と し て い る の は、 ﹁ 理 と 智 ﹂ ﹁ 胎 蔵 と 金 剛 界 ﹂ の 思 想 が 説 か れ る こ と、 或 い は ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ と 類 似 的 性 格 を も つ ﹃ 法 華 曼 茶 羅 威 儀 形 色 法 経 ﹄ も ﹃ 八 家 秘 録 ﹄ に は な く、 ま た 題 目 が 長 い こ と や 不 空 以 後 の も の と 考 え ら れ る 点 な ど か ら、 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ の 成 立 お よ び 日 本 へ の 渡 来 は 比 較 的 後 期 の も の で は な い か と 思 わ れ る の で あ り、 今 後 検 討 さ れ る べ な 問 題 と な っ て い る。 こ の よ う に ﹃ 摂 無 礫 経 ﹄ は、 い ま や 重 要 な 役 割 り を 果 た そ う と し て い る。 そ の 成 立 年 代 や 将 来 年 次 が 明 ら か に な れ ば、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の 成 立 問 題 に 重 要 な 資 料 を 提 供 す る こ と に な り、

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-801-ま た、 中 国 密 教 史 に お け る ﹁ 理 と 智 ﹂ ﹁ 金 と 胎 ﹂ な ど の 不 二 思 想 を 明 ら か に す る こ と が で き、 更 に は 石 田 氏 の ﹃ 曼 茶 羅 の 研 究 ﹄ に 本 当 の 意 味 で の 重 要 な 資 料 と し て 位 置 づ け ら れ る も の と 考 え ら れ る か ら で あ る。 要 す る に ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ 自 体 の 究 明 は こ れ ら の 諸 問 題 を 解 決 す る た め の 緒 と な り う る も の で 大 変 興 味 深 く 感 ず る の で あ る。 当 論 は こ れ ら の 問 題 点 が ど の 辺 に 存 す る の か を 検 討 し、 そ の 問 題 と 解 決 の 方 向 性 を 示 し て お き た い と 思 う。 二 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ と ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ と の 関 係 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ と ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の 文 章 の 一 致 に つ い て、 筆 者 は す で に 発 表 し た こ と が あ る が、 便 宜 上 当 論 に お い て も 記 載 す る こ と に す る。 し か し こ こ で は、 紙 面 の 都 合 上、 中 略 の 形 で 示 し、 説 明 に て 重 要 点 を 指 摘 し た い と 思 う。 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ は 大 正 蔵 経 二 〇 巻 の 一 二 九 頁 中 段 か ら 一 三 八 頁 上 段 ま で の、 不 空 訳 と し て は 比 較 的 長 訳 の も の で あ る が、 一 三 〇 頁 上 段 以 下 は 図 像 法 を 説 い た も の で あ る。 そ し て、 最 初 の 部 分 が 大 体 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ に 引 用 さ れ て い る。 ま た 後 の 図 像 法 を 説 く も の の 中 に も ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の 曼 茶 羅 尊 位 の 図 説 と の 類 似 性 を み る も の も あ る。 石 田 氏 の 研 究 に よ れ ば、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の 説 明 よ り ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ の 方 が、 現 図 曼 茶 羅 に 近 い 説 明 が さ れ て い る と 指 摘 さ れ て い る。 け だ し こ こ で は ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ の 文 章 の 特 に 最 初 の 部 分 に 焦 点 を あ わ せ て 検 討 し、 図 像 の 方 は 今 後 の 課 題 と し て お き た い。 先 ず、 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ の 蓮 花 合 掌 者 蓮 花 即 理 也、 理 処 必 有 智 故 以 左 右 手 其 名 日 理 智 左 手 寂 静 故 名 理 胎 蔵 海 右 手 辮 諸 事 名 智 金 剛 海 左 手 五 指 者 胎 蔵 海 五 智 右 手 五 指 者 金 剛 海 五 智 左 手 定 右 慧 十 指 即 十 度 或 名 十 法 界 或 日 十 真 如 縮 則 摂 収 一 開 則 有 数 名 ( 大 正 二 〇 . 一 二 九 中 -下) の 文 章 の 部 分 が、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の ﹁所 三 以 先 作 二 蓮 華 合 掌 一者 蓮 華 即 理 也。 理 処 必 有 レ 智 故 二 手 名 二 理 智 殉 左 手 静 故 名 レ 理。 胎 蔵 也。 右 手 辮 二 一 切 事 一 故 名 レ 智。 金 剛 界 也。 左 手 五 指 胎 蔵 五 智。 右 手 五 指 金 剛 界 五 智。 左 手 定。 右 手 慧。 十 指 即 十 波 羅 蜜。 或 十 法 界。 或 十 真 如。 縮 則 収 一。 開 則 有 二 無 具異 名 ご ( 弘 法 大 師 全 集 第 二 輯、 三 二 -三 頁) に 一 致 す る。 こ こ は 後 に も 文 章 を 利 用 し た い の で 中 略 せ ず に 引 用 し た が、 こ こ で 注 意 し て お き た い こ と は、 理 と 智 の 関 係 と、 胎 蔵 と 金 剛 界 と の こ と で あ る。 ま た ﹃ 摂 無 磯 経 ﹄ で は、 胎 蔵 海、 金 剛 海 と ﹁ 海 ﹂ の 字 を 使 用 す る が、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ に お い て は、 胎 蔵、 金 剛 界 と あ る 点 が 特 筆 さ れ よ う。 次 に ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ の ﹁ 左 小 指 為 檀 無 名 指 為 戒 ( 中 略) 左 中 指 為 願 無 名 指 為 力 左 小 指 為 智 云 々 ﹂ ( 一 一 九 下) は、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の ﹁ 十 度。 檀 戒 忍 進 禅。 慧 方 願 力 智。 ( 中 略) 先 自 ニ 右 不 空 訳 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ を め ぐ る 問 題 ( 向 井) 二 九 五

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-802-不 空 訳 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ を め ぐ る 問 題 ( 向 井) 二 九 六 小 指 一始 而 可 レ 数 ﹂ ( 二 八 頁) と 左 右 の 五 指 に 配 当 さ れ る 名 称 が 一 致 し な い。 作 者 の 法 流 の 相 違 に よ る も の で あ ろ う か 検 討 の 余 地 が あ る。 次 に ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ の ﹁ 五 部 尊 法 ﹂ と し て、 ﹁ 一 息 災 法 用 仏 部 尊 等。 是 故 有 臨 五 智 仏 (中 略) 五 鉤 召 法 用 掲 磨 部 尊。 是 故 有 鉤 索 鎖 鈴 等 ﹂ ( 一 二 九 下) と あ り、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の ﹁ 以 二 五 種 法 一相 ニ 宛 五 部 殉 一 息 災。 用 ニ 仏 部 尊 ー。 仏 母 ( 中 略) 五 鈎 召。 用 ニ 漏 磨 部 尊 一鈎 菩 薩 ﹂ ( 四 五 -六 頁) の 部 分 に 相 当 す る。 こ こ で は ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ に て は ﹁ 相 宛 五 部 ﹂ と し て ﹁ 宛 ﹂ と い う 字 が 使 わ れ て い る が、 こ れ は 和 習 で あ る と す る 説 が あ る。 次 に、 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ の ﹁ 入 五 智 法 身。 是 故 有 五 智 賢 瓶 ( 中 略) 被 甲 変 化 身。 是 故 有 三 十 二 身 ﹂ ( 一 二 九 下) は、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の ﹁ 入 智 法 身 ( 中 略) 被 甲 変 化 身 ( 等 持 印 妙 観 云 察 智 々) ﹂ ( 四 八 頁) に 相 当 す る が、 こ こ に は 修 法 的 に 五 智 が 拡 大 解 釈 さ れ て い る よ う で あ る。 次 に ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ の ﹁ 五 母 部 室 主 毘 盧 遮 那 如 来 仏 部 主 源 之 故 無 母。 響 如 毘 盧 遮 那 経。 阿 字 為 毘 盧 遮 那 仏 種 子。 噂 字 金 剛 薩 唾 種 子。 金 剛 頂 経。 眸 字 毘 盧 遮 那 種 子。 阿 字 金 剛 薩 唾 種 子。 金 剛 海 儀 軌。 如 是 毎 会。 此 両 字 相 代 当 知 是 互 作 主 伴 利 益 衆 生。 蒲 陀 海 大 悲 遷 化 亦 現 万 億 身。 互 作 主 伴 接 化 群 生 阿 閾 如 来 金 剛 部 主 金 剛 波 羅 蜜 為 母 ( 中 略) 四 仏 為 主。 響 如 錐 父 母 共 産 生 諸 子 名 父 不 為 母。 ﹂ ( 一 二 九 下 -一 三 〇 上) の 文 章 が、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ に お い て は 三 ヵ 所 に 分 散 し て 収 載 さ れ て い る。 即 ち、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の、 ﹁ 五 部 定 ニ 母 主 一 如 何。 砒 盧 遮 那 灘 脳 鰭 留 ﹂ (三 九 頁) と、 ﹁ 砒 盧 遮 那 経。 阿 字 為 ニ 砒 盧 遮 那 種 子 殉 咋 字 為 二 金 剛 薩 垣 種 子 田 ( 中 略) 金 剛 界 儀 軌 如 レ 此。 毎 レ 会 此 二 字 相 代。 当 レ 知 是 互 作 二 主 伴 一之 義 也 ﹂ ( 四 六 ー 七 頁) と、 ﹁ 阿 開 金 剛 部 主。 金 剛 波 羅 蜜 為 γ 母 ( 中 略) 是 故 不 レ 得 二 四 波 羅 蜜 為 レ 主 四 仏 為 フ 母。 響 如 下 錐 三 父 母 共 産 二 生 諸 子 一名 レ 父 不 占 為 レ 母 ﹂ ( 三 九 -四 〇 頁) と の 三 文 に 分 か れ て い る の で あ る。 次 に、 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ の ﹁ 以 五 智 念 怒 相 配。 五 智 不 動 尊 毘 盧 遮 那 愈 怒。 自 性 輪 般 若 菩 薩 ( 中 略) 馬 頭 観 音 無 量 寿 仏 盆 怒 自 性 輪 観 世 音 為 主。 伴 陀 羅 囎 子 尼 是 白 衣 観 世 音 菩 薩 也 ﹂ ( 一 三 〇 上) の 文 章 は、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の ﹁ 以 二 五 念 怒 一相 二 宛 五 智 殉 不 動 尊 砒 盧 遮 那 急 怒。 自 性 輪 般 若 菩 薩 ( 中 略) 又 馬 頭 無 量 寿 忽 怒 自 性 輪 観 音 ﹂ ( 四 七 頁) と い う 文 と 一 致 す る。 し か る に こ こ に も ﹁ 宛 ﹂ の 字 が あ り、 ﹃ 摂 無 畷 経 ﹄ に は ﹁ 配 ﹂ の 字 に な っ て い る 点 興 味 深 い。 因 み に 原 本 と な っ た 栂 尾 高 山 寺 の 古 写 本 は、 配 と 宛 と ち ょ っ と 間 違 い や す い 書 体 に み え た。 次 に、 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ の ﹁ 三 十 七 尊 毘 盧 遮 那 仏 遍 照 金 剛。 已 下 皆 同 四 方 四 仏 如 上 ( 中 略) 鉤 豊口 源 索 等 持 鎖 堅 持 鈴 解 脱 ﹂ ( 一 三 〇 上) の 文 は、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の ﹁ 三 十 七 尊 金 剛 名 号。 砒 盧 遍 召 晒 ロ 目 ハ 剛 不 動 南 宝 平 等 西 観 清 浄 北 漏 磨 成 就 金 波 堅 固 ( 中 略) 鈎 普 集 索 等 弓 鍾 堅 持 鈴 解 脱 ﹂ ( 二 六 -七 頁) の 文 に 一 致 す る の で あ る。 こ の よ う に 不 空 訳 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ は、 経 典 ハ と い う よ り は 儀 軌 の 類 で あ る が、 こ の 中 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の 文 章 と 七 -八 ヵ 所 程 全 同 と い っ て も よ い ほ ど 似 た 文 章 が 窺 え た。 こ れ は ﹃ 摂 無 磯 経 ﹄ よ り ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ へ の 引 用 と 考 え ら れ る が、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ 中 に は ﹃ 摂 無 礫 経 ﹄ の 名 は 示 さ れ て い な い。 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ に い つ 誰 に

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-803-よ っ て 引 用 さ れ た か が わ か れ ば、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の 成 立 問 題 は 勿 論 の こ と、 唐 代 密 教 史 あ る い は 日 本 密 教 史 上 に お い て、 更 に は 弘 法 大 師 教 学 に お け る ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の 扱 い 方 な ど が 明 ら か と な り、 名 実 共 に 重 要 な 資 料 と な る 訳 で あ る が、 こ れ は 今 後 の 課 題 と な る。 三 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ を め ぐ る 問 題 入 唐 八 家 の 将 来 で な い と こ ろ の ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ の 名 を 最 初 に み る の は、 興 然 ( 一 一 二 一 -一 二 〇 三) の ﹃ 五 十 巻 紗 ﹄ に お い て で あ る。 そ し て 更 に 注 目 す べ き は ﹁ 繍 鞭 ﹂ と い う 割 注 が あ る。 こ れ に よ れ ば 入 宋 僧 齎 然 ( 九 三 八-一 〇 一 六) に よ っ て 将 来 さ れ た 勅 版 大 蔵 経 の 中 か 若 し く は 書 写 経 典 の 中 に あ っ た も の と 興 然 は 理 解 し て い た こ と が わ か る。 さ て、 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ に お け る 内 容 に つ い て 検 討 し て み た い。 ま ず、 先 に も ふ れ た が、 ﹁ 理 ﹂ と ﹁ 智 ﹂ が そ こ に 説 か れ て い る こ と。 更 に ﹁ 理 ﹂ を 胎 蔵 に、 ﹁ 智 ﹂ を 金 剛 界 に あ て て い る こ と。 第 二 項 に お け る 最 初 に 掲 げ た 文 で あ る が、 こ こ に は 左 右 の 手 を 理 智 に 配 し、 あ る い は 定 慧 に 配 し、 そ し て 左 右 の 五 指 に 各 々 金 剛 界 胎 蔵 ( 界) の 五 智 を 配 当 し て い る の で あ る。 こ こ で 左 右 の 二 手 に 配 す る 意 味 を 考 え る に、 最 初 は 蓮 花 合 掌 の 理 よ り 起 り、 理 に は 必 ず 智 が あ る と し て 左 右 の 手 を 理 智 と す る が、 こ こ に は 少 な く と も、 金 胎 を 並 べ て 扱 う 思 想 が 窺 え る。 換 言 す れ ば 金 胎 両 立 の 思 想 が 窺 え る の で あ る。 ﹁ 理 の 処 に は 必 ず 智 あ り ﹂ と は ま さ に 理 智 不 二 の 思 想 で あ り、 金 胎 不 二 の 思 想 と い っ て も 過 言 で は な い。 こ の 金 胎 不 二 の 思 想 が こ れ ほ ど 明 確 に 説 か れ て い る と い う こ と は、 不 空 三 蔵 の 時 代 に は 未 だ み ら れ な い と こ ろ で あ る。 不 空 訳 の 中 に は、 両 部 思 想 の 萌 芽 は み ら れ る が、 こ れ だ け は っ き り 打 ち 出 さ れ る の は 恵 果 和 尚 の 時 代、 或 い は そ の 後 の も の と 考 え ら れ る。 ま た、 こ こ で 注 意 し て お き た い こ と は、 ﹁ 界 ﹂ を ﹁ 海 ﹂ と 使 用 す る 例 は、 密 教 思 想 史 上 大 変 ユ ニ ー ク と 考 え ら れ る。 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ と い う 儀 軌 の 成 立 年 代 に お け る 作 者 の 背 景 思 想 と し て、 ﹁ 界 ﹂ を ﹁ 海 ﹂ と 理 解 す る 思 想 が あ る い は 法 流 継 承 の 中 に 伝 え ら れ て い た と も 考 え ら れ る。 以 上 要 す る に、 石 田 氏 の 研 究 に お け る ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ を そ の ま ま、 現 図 曼 茶 羅 の 所 依 の 経 典 と 扱 う こ と は、 資 料 的 に 危 険 で あ る と 考 え ら れ る。 し か し こ れ に よ っ て 石 田 氏 の 研 究 が 損 わ れ る わ け で は な い。 ま た、 ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ の 成 立 に 関 す る 従 来 の 説 に、 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ の 成 立 年 代 を 加 味 し た 考 察 が 今 後 必 須 と な る で あ ろ う。 か つ、 ﹃ 摂 無 畷 経 ﹄ は ﹁ 理 と 智 ﹂ の 問 題 を も 含 む 重 要 な 資 料 で あ り、 密 教 思 想 史 上 重 要 な 文 献 で あ る と い う こ と が 理 解 し う る。 ( 紙 数 の 関 係 で 注 を 割 愛 し た) ( 大 正 大 学 助 手) 不 空 訳 ﹃ 摂 無 擬 経 ﹄ を め ぐ る 問 題 ( 向 井) 二 九 七

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