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ある点を固視したとき, 両眼の網膜対応点に結像する外界の点の軌跡 ( ホロプタ ) の前後に形成される融像可能な領域をパナムの融像圏 ( 融像限界 ) という ( 丸尾ら,2009) パナムの融像圏と網膜対応点の関係を図 1.1 に示した 図 1.1 に示すように, ホロプタ上の点 Fを固視点とする

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(1)

融像限界を上回る奥行き知覚の検討

高野礼佳

1

髙橋伸子

2

Depth perception beyond the fusion limit

Ayaka TAKANO

1

and Nobuko TAKAHASHI

2

融像限界を上回る奥行き知覚の検討を行った。目標ドットおよび 2 点の周辺ドットから成る 3 点刺激 の視差を変化させて融像および奥行き知覚について測定した結果,融像限界を越えて奥行き知覚が生じ ていること,さらにその奥行き知覚量は融像限界を越えて二重像が知覚されている場合においても視差 に依存していることが示された。融像限界を越えた奥行き知覚は周辺刺激の視差量や周辺刺激の有無に も依存していることが示され,目標刺激と周辺刺激の視差の差が少ない程,融像限界が広がるとともに 奥行き知覚量についても促進されることがわかった。融像限界が広がると奥行き知覚も促進されること から,融像と奥行き知覚の関係が示されたが,さらに融像限界を越えて二重像が知覚される条件でも視 差に依存した奥行きが知覚されたことから,二重像知覚時にも奥行き知覚に関する処理が働いている可 能性が示唆された。 Keywords:奥行き知覚,複視,二重像,両眼視差,融像限界

depth perception, diplopic images, double image, binocular disparity, fusion limit

1.序論 我々人間は,水平方向に約6cm 離れて位置する 2 つの眼を 持っている。そのため複数の目標物の空間配置によっては投 影される外界の像にはわずかな違いが生じる。この両眼の網 膜像の違い,すなわち両眼網膜像差(両眼非対応,以下「視差」 と呼ぶ)が空間知覚の強力な手がかりになることは古くから 認識されており,今日の 3 次元ディスプレイシステムの多く も両眼に異なる画像を呈示することでリアルな空間知覚を生 起させている (塩入,2007) 。このように目標物が両眼の網膜 上でわずかにずれているときでも,両眼融像は生じ,1 つのイ メージとして知覚されるが,ずれの量が一定以上の大きさに なると複視(=二重像)が生じる。単一視が可能である最大の 網膜上での両眼視差は複視閾値または融像限界とよばれる (Lee,2006)。 1.愛知淑徳大学医療福祉学部 2.愛知淑徳大学人間情報学部・医療福祉研究科 図1.1 パナムの融像圏と網膜対応点

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1.2 下部の半円にパナムの融像限界を上回る視差を割 り当てられたランダムドットステレオグラム ある点を固視したとき,両眼の網膜対応 点に結像する外界の点の軌跡(ホロプタ) の前後に形成される融像可能な領域をパ ナ ム の 融 像 圏 ( 融 像 限 界 ) と い う ( 丸 尾 ら,2009)。パナムの融像圏と網膜対応点の 関係を図1.1 に示した。図 1.1 に示すよう に,ホロプタ上の点Fを固視点とするとき, 点A は,左眼では A1上に像を結び,右眼 ではその対応点 A2上で像を結ぶが,A2か ら一定範囲内のずれであれば融像可能で ある。その融像可能な領域は中心窩から離 れているほど広くなる。 ランダムドットステレオグラムにおける融像については孤立点の融像とは異なる側面がある。図 1.2 のランダムドットステレオグラムにおいて,左眼用図版と右眼用図版を両眼視した場合,下部の半円の ドットにはパナムの融像限界を上回る視差が割り当てられているが,ドットの密度は増加するようには 知覚されない。Lee ら(2006)は,その理由として次の 3 つの可能性を考えた。 (ⅰ)ドットはパナムの融 像限界を越えて融像する。(ⅱ)被験者はドットの二重像を自覚しない。(ⅲ)融像されないドットは抑制 される。Lee ら(2006)は,パナムの融像限界を上回る視差で,表面の奥行き知覚が生じるかどうかを決 定するために,15%の密度の赤と青の等しい数のランダムドットをダークグレイの背景上に示し,ドッ トに視差を設けたランダムドットステレオグラムを用いて実験を行った。一方の眼に赤のドットが割り 当てられた場合,他方の眼には青のドットが割り当てられるようになっており,融像すると薄いスミレ 色のように知覚された。Lee らはこのステレオグラムの視差を変化させて融像の有無と奥行き知覚量を 測定する実験を行い,実験の結果から融像限界と奥行き知覚の閾値に明らかな違いがあり,融像限界を 越えて二重像が生じても奥行きは知覚されるという結果を示した。 しかしLee らの刺激では,視差を増加させていった場合,被験者が二重像を自覚しなかった可能性が ある。すなわち,ランダムドットステレオグラムにおいては,視差がドットの間隔以上の場合,視差に よってずれたドットと隣の視差のないドットが重なる可能性があるため,視差がパナムの融像限界を上 回る場合でも二重像が知覚されない可能性があり,このことによってドット密度の増加が知覚されなか ったと考えられる。すなわち,ドットの視差の増加により,隣のドットと重なってしまい,二重像が気 付かれなかった可能性である。 そこで本研究では,1 つのドットのみを使用することによりドットの重なりを排除し,視差を厳密に 統制した刺激を作成し,融像限界を越えた奥行き知覚について検討を行った。 2.実験 1 2.1 目的 Lee ら (2006) によれば,融像できる限界を越えて二重像が生じても奥行きは知覚されることが分か っている。Lee らはランダムドットステレオグラムを用いて融像限界と奥行き知覚について研究を行っ た。しかし,ランダムドットステレオグラムを用いた場合,視差が増加したときに隣のドットと重なり, 融像限界を越えて二重像が生じてもそれが自覚されず,見落とされた可能性がある。この問題を解決す るために,ランダムドットステレオグラムを使用せず,3 つのドットの中央のドットのみに視差を設け た刺激を用いて融像限界と奥行き知覚を測定する。

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2.2 方法

1) 被験者:視機能が正常(矯正視力 1.0 以上,立体視力 40″)である 21~22 歳の女子大学生 AM,OE,KK,MS の4 名。

2) 装置:刺激は NEC PC-MY33AEZR8 から出力し,MITSUBISHI DiamondtronM2 RDF223H(大

きさ 29.5°×38.1°)のモニターに呈示した。モニターの前に実体鏡(Sokkia 製反射式実体鏡(MS16)) と暗箱を組み合わせてモニターに取り付けた装置(図 2.1)を置き,ディスプレイを観察させた。 図2.1 の実体鏡と暗箱を組み合わせた装置は Sokkia 製反射式実体鏡をパソコンで呈示した刺激に対応 できるように作成されたものである。モニターの画面を覆うような箱を黒い長方形のボードで作成し, 左右眼の視野を分離できるようにモニター中央で縦に黒いボードで箱を仕切ることでモニター画面を分 離し,モニター上の一つの画面で左右の眼に異なった図形を呈示することができた。 3) 刺激:図 2.2 に実験 1 で使用した刺激例を示す。刺激は右眼用及び左眼用 1 枚ずつからなる一対の図 版で,Microsoft Office Power Point を用いて作成した。黒背景(4.6cd/m2)の中央に白の固視目標(32cd/m2),

固視目標の左右に縦1 列に 3 つの白いドット(32cd/m2)を配置し,一方を標準刺激他方を比較刺激とした。 比較刺激の中央のドットを目標ドットとし,上下のドットを周辺ドットとした。固視目標は0.5°×0.5° の正方形で,目標ドットおよび周辺ドットは0.1°×0.1°で作成し,固視目標の右側と左側の 2.5°の位 置に配置した。3 つのドット間の垂直距離は 1°とし,縦 1 列に配置された 3 つドットのうち,中央の目 標ドットのみに両眼視差を設け,上下の周辺ドットはゼロ視差であった。標準刺激の中央のドットの視 差は0.8°の交差視差で一定とし,比較刺激の中央のドット(目標ドット)の視差は-3.6°,-3.2°, -2.8°,-2.4°,-2.0°,-1.6°,-1.2°,-0.8°,-0.4°,0°,0.4°,0.8°,1.2°,1.6°, 2.0°,2.4°,2.8°,3.2°,3.6°の 19 段階であった。(負の数は非交差,正の数は交差視差を表す。) 配置条件として比較刺激を固視目標の右側に呈示する場合と左側に呈示する場合の 2 種類を設定した。 標準刺激は常に比較刺激と比べられるように比較刺激と同時に固視目標の反対側に呈示した。 4) 手続き:ディスプレイから 57.3cm 離れた位置に図 2.1 の実体鏡の接眼部分が位置するように調整し, 暗室で実験を行った。刺激は,SuperLab4.0(Cedrus Corporation)を使用してランダム順に呈示した。 被験者は実体鏡と黒箱を組み合わせてモニターに取り付けた装置を覗いてディスプレイに表示された刺 激を観察した。まず右眼,左眼それぞれに呈示された固視目標が融像され1 つに知覚されたことを確認 した後に実験を開始した。被験者の課題は,目標ドットが融像しているか二重に見えるかを回答するこ とと,標準刺激の中央のドットの奥行きを+10 としたときの目標ドットの奥行きをマグニチュード推定 法により回答をすることの2 つであった。視差条件(-3.6°~+3.6°の 19 条件),配置条件(右配置条件, 左配置条件の2 条件)をランダム順に各 4 試行ずつ,合計 152 試行行った。融像確率、奥行知覚の結果に ついてはSPSS(IBM,ver.15.0)を用い,視差条件・配置条件の 2 要因の分散分析により検討した。 図2.1 実体鏡と暗箱を組み合わせてモニターに取り付けた装置

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図2.2 実験 1 で用いた刺激例(右配置,非交差視差-3.6°) 2.3 結果 2.3.1 融像確率 4 名の被験者の融像確率について視差と配置条件の二元配置の分散分析を行った結果,配置条件の主 効果について有意な差が認められた (F(1,570)=7.364, p<.05)。配置条件別の 4 名の平均融像確率の結果 を図2.3 に示す。図 2.3 から右配置条件よりも左配置条件の方が融像しやすいことがわかる。 また視差条件の主効果についても融像確率に有意な差が認められた(F(18,570)=81.053, p<.05)。視差 条件別の 4 名の平均融像確率の結果を図 2.4 に示し,さらに視差 19 条件間の融像確率において Bonferroni の方法を用いて SPSS により多重比較を行った。多重比較の結果から,-0.4°~1.6°の間 では有意な差が認められず,融像確率が最も高いことがわかった。視差を変化させていくと-3.6°~ -1.6°の間,そして 2.8°~3.6°の間でも有意な差が認められず,融像確率が最も低くなることがわか った。その他の視差条件間においては-1.2°と 2.4°,2.8°そして-0.8°と 2.0°,2.4°を除く全て の視差条件間に有意な差が認められ(p<.05),視差が増加または減少するにつれて融像確率が徐々に減少 していくことがわかった。 2.3.2 奥行き知覚 次に4 名の被験者の見えの奥行き量のデータについて,視差条件と配置条件の二元配置の分散分析を 標準刺激 比較刺激 固視目標 左眼用図版 標準刺激 比較刺激 ゼロ視差 (周辺ドット) 非交差視差-3.6° (目標ドット) 右眼用図版

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図2.3 被験者 4 名の配置条件ごとの平均融像確率(エラーバーは標準偏差を示す)

図2.4 被験者 4 名の視差条件ごとの平均融像確率(エラーバーは標準偏差を示す)

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行った。配置条件の主効果については奥行き知覚量に有意な差は認められず(F(1,570)=.181, n.s.),右配 置条件と左配置条件の奥行き知覚量は同程度であることがわかった。 視差条件の主効果について奥行き知覚量に有意な差が認められた(F(18,570)=77.515, p<.001)。視差条 件に関する4 名の被験者の平均奥行き知覚量の結果を図 2.5 に示した。図 2.5 に示したように交差視差 ではドットが浮いて知覚され,非交差視差はドットが沈んで知覚されていた。交差視差に関しては,1.6° で奥行き知覚量が最大になり1.6°をこえると徐々に減少していくことがわかった。減少してはいくが, 最大の3.6°の視差でもまだ交差視差方向の奥行きが知覚されることがわかった。また非交差視差に関し ては,-0.8°で奥行き知覚量が最大になり-0.8°をこえると徐々に減少した。非交差視差では視差 -2.4°の付近で奥行き知覚量が 0 になるが,さらに視差を増加させていくと奥行き知覚量がわずかなが らプラスの方向に現れた。つまり非交差視差は視差がある程度増加すると,沈んで知覚されていたドッ トが逆に浮いて知覚されるという結果が得られた。視差条件の主効果が認められたため,19 条件の間で Bonferroni の方法を用いて SPSS により多重比較を行った。これらの結果から,-1.2°~-0.4°の間 は有意な差が認められず,奥行き知覚量が最も少ないことがわかった。また 1.2°~2.4°の間は有意な 差が認められず,奥行き知覚量が最も多いことがわかった。-3.6°~-1.6 の間に有意な差は認められ ず,奥行き知覚量は0 に近いことがわかった。その他の視差の間には有意な差が認められた。 図2.6 被験者 4 名の視差条件ごとの(a)平均融像確率,(b)平均奥行き知覚量と融像限界の関係 (a)融像確率 融像限界 融像限界 (b)奥行き知覚量 融像限界 融像限界

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2.3.3 融像と奥行き知覚 4 名の被験者の融像と奥行き知覚の関係を検討するため,図 2.6(a)には図 2.4 で示した視差条件ごとの 融像確率を示し,図2.6(b)には図 2.5 で示した視差条件ごとの奥行き知覚量を示した。図中の垂直線は交 差視差,非交差視差についての融像限界を示した。融像限界は融像確率がそれぞれ 5%未満であった交 差視差3.6°,非交差視差-3.6°と多重比較により有意差が認められた最大の交差視差の 2.4°,最小の 非交差視差の-1.2°とした。交差視差に関しては,視差の増加に伴う奥行き知覚量の増加は,1.6°を 頂点としてそれ以降は視差の増加に伴って減少しているものの融像限界を越える視差条件でも奥行きは 知覚されていた。非交差視差に関しては,マイナス方向の視差の増加に伴いマイナス方向の奥行き知覚 量が増大し,-0.8°を頂点として減少方向に転じている。融像限界を越える視差条件でも奥行きは知覚 され,交差視差のときのようにドットが浮いて知覚されていることがわかった。 2.4 考察 交差視差において,融像が可能である範囲内であれば視差が増加するにつれて奥行き量が増大し,融 像限界を上回る視差になると,ドットは二重像として知覚され,奥行き量は視差の増大に伴って減少す るものの奥行きとして知覚され続けることがわかった。また非交差視差においても融像が可能である範 囲内であれば視差が増加するにつれて奥行き知覚量も増加し,融像限界を上回る視差でも奥行きが知覚 され続けることがわかった。これらの結果は融像限界を上回り,二重像として知覚されていても何らか のメカニズムによって奥行きが知覚されることを示している。 非交差視差よりも交差視差の方が融像限界が広く,奥行き知覚が促進されたという結果は,実験1 で 使用した標準刺激が交差視差であったため,標準刺激に影響されて比較刺激が交差視差のように手前に 知覚されやすかったことによる可能性がある。また,林ら(2001)によると交差視差と非交差視差に機能 差があり,交差視差の方が非交差視差よりも弁別能力が高く,反応時間が高く,検出に必要な呈示時間 の閾値が低い。このことは交差視差と非交差視差の処理機構に違いがあり,非交差視差の方が「劣って いる」ことを示唆すると考えられ,交差視差と非交差視差の処理機構の違いにより融像限界を越えた奥 行き知覚において交差視差の方が優れていた可能性がある。 また,右配置条件よりも左配置条件の方が融像限界が広いという結果の原因として,図形認知におけ る右半球優位性が関係あるかもしれない。沼田ら(1998)の報告によると,正答率や反応時間が右視野呈 示(左大脳半球への刺激入力)に比べて左視野呈示(右大脳半球への刺激入力)で良好であることが示され ている。 目標ドットの融像限界に影響する要因としては,目標ドットの周辺の視差が挙げられる。塩入(2007) の報告によると融像の可否は視差量だけでは決まらず,周囲の刺激の影響が大きいと考えられ,周囲の 刺激と視差の違いが大きくなると融像が不安定になる。実験1 では周辺ドットの視差は常にゼロ視差す なわち奥行き0 に固定されたため,目標ドットの視差の増大に伴い周辺ドットとの視差の差も増大した と考えられる。もし周囲の刺激の視差が融像に影響するなら,周辺ドットの視差量や周辺ドットの有無 によっても目標ドットの融像限界や奥行き知覚が異なることが予想される。そこで実験2,3 では周辺ド ットの視差条件を設定し,周辺ドットの視差が目標ドットの融像限界と奥行き知覚に及ぼす影響を測定 する。 3.実験 2 3.1 目的 実験1 では周辺ドットをゼロ視差に設定し実験を行ったが,実験 2 では周辺ドットの視差を変化させ て目標ドットの融像限界に及ぼす効果を検討する。実験1 で二重に知覚された目標ドットの上下のドッ

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図3.1 実験 2 で用いた刺激例(周辺ドットの視差 0.2°,右配置条件) トに視差を設け,融像が可能になる限界の視差を決定する。 3.2 方法 1) 被験者:視機能が正常(矯正視力 1.0 以上,立体視力 40″)である 21~22 歳の女子大学生 OE,TA,MS の3 名。OE,MS は実験 1 にも参加した。 2) 装置:実験 1 と同様。 3) 刺激:図 3.1 に実験 2 で用いた刺激例を示す。刺激は実験 1 同様,右眼用及び左眼用 1 枚ずつからな る一対の図版で,黒背景上に白の固視目標と白のドットを配置した。固視目標とドットの大きさおよび 輝度は実験1 と同様であった。目標ドットの視差は交差視差 2.0°,非交差視差-1.6°の 2 条件。いずれ も実験 1 で二重像が生じた視差条件であった。交差視差 2.0°に関しては周辺ドットに 0°,0.2°,0.4°, 0.6°,0.8°,1.0°,1.2°,1.4°,1.6°,1.8°,2.0°の 11 段階の視差を設けた。また非交差視差-1.6°に関し ては,周辺ドットに0°,-0.2°,-0.4°,-0.6°,-0.8°,-1.0°,-1.2°,-1.4°,-1.6°の 9 段階の視 差を設けた。配置条件については,3 つのドットを固視目標の右側に配置したものと左側に配置したも のを作成し実験を行った。 4) 手続き: 被験者の課題は,目標ドットが融像しているか二重に見えるかを回答することであった。 実験1 において,二重像であった交差視差 2.0°または非交差視差-1.6°の目標ドットが,周辺ドットと の視差の違い(視差差)によって融像が可能になる範囲が測定された。周辺ドットの視差は,極限法によっ て0.2°ずつ上昇または下降させ,融像限界を求めた。上昇系列と下降系列はランダム順で各 4 試行ずつ 行った。 3.3 結果と考察 実験1 で二重像が生じた目標ドットの視差のいずれの条件においても,周辺ドットの視差が目標ドッ トの視差と同じ,すなわち視差差が0°の条件では融像することが確認された。そこで周辺ドットの視差 と目標ドットの視差との視差差を増大させることにより,融像が可能な限界の視差である上弁別閾と, 融像の限界を越えて二重像になる限界の視差である下弁別閾を求めた。図 3.2 は融像限界の閾値を示し たもので,3 名の被験者の平均結果から,目標ドットが交差視差 2.0°のとき,右配置条件においては, 周辺ドットの融像限界の上弁別閾は目標ドットと周辺ドットの視差差-0.8°,下弁別閾は視差差-1.0° であり,左配置条件においては,上弁別閾は視差差-0.7°,下弁別閾は視差差-0.9°であった。目標ドッ トが非交差視差-1.6°のとき,右配置条件においては,周辺ドットの融像限界の上弁別閾は視差差 0.6°, 下弁別閾は視差差0.8°であり,左配置条件においては,上弁別閾は視差差 0.7°,下弁別閾は視差差 0.9° 周辺ドット 目標ドット 右眼用図版 0.5°×0.5° 1° 0.1°×0.1° 左眼用図版

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図3.2 配置条件別の融像限界の閾値 であった。図中の1.0°,0.6°,-0.6°,-1.2°の視差差における長二点鎖線は各被験者の上弁別閾と下弁 別閾がほぼカバーされる目標ドットと周辺ドットの視差差で,-0.6°以上または 0.6°以下では融像,1.0° 以上,-1.2°以下では二重像が知覚されることを示す。すなわち目標ドットの視差が交差視差 2.0°条件 では周辺ドットの視差2.0°~1.4°で融像,0.8°以下で二重像,非交差視差-1.6°条件では周辺ドッ トの視差-1.6°~-1.0°で融像,-0.6°以上で二重像であることを示し,実験 1 の条件では二重像が 知覚される目標ドットの視差条件においても,周辺ドットとの視差差が0~0.6°の範囲では融像して知 覚され,1.0°ないし 1.2°以上の視差差になると二重像が知覚されることがわかる。そこで実験 3 では, 交差視差1.4°,非交差視差-1.0°の上弁別閾の視差差をどの被験者でも必ず融像する限界,交差視差 0.8°, 非交差視差-0.6°の下弁別閾の視差差をどの被験者でも必ず融像しない限界として設定し,目標ドット の視差条件ごとに周辺ドットとの視差差が融像および奥行き知覚におよぼす影響について検討すること とした。 4.実験 3 4.1 目的 塩入(2007)によると,周囲刺激の視差により融像が不安定になると報告されている。実験 1 では周辺 ドットの視差をゼロで固定したが実験3 は周辺ドットの視差を変化させ,融像と奥行き知覚の検討を行 う。実験3 では実験 2 で測定した周辺ドットとの視差差による融像の上弁別閾,下弁別閾の値を周辺ド ットの視差条件とし,さらに周辺ドットが無い条件,目標ドットとの視差の差がない条件(垂直 1 列条件) を加え,目標ドットの融像限界及び奥行き知覚に及ぼす影響について測定する。 4.2 方法 1) 被験者:実験 1 と同様。 2) 装置:実験 1 と同様。 3) 刺激: 刺激の配置・大きさ・輝度は実験 1 同様であり,実験 3 ではさらに周辺視差条件を 4 条件加 えて実験を行った。周辺視差条件には垂直1 列条件,上弁別閾条件,下弁別閾条件,周辺ドットなし条 件の4 条件を設定した。図 4.1 に実験 3 で用いた刺激例を示す。図 4.1(a)は垂直 1 列条件,図 4.1(b)は 上弁別閾条件,図4.1(c)は下弁別閾条件,図 4.1(d)は周辺ドットなし条件の刺激例である。垂直 1 列条件 左配置条件 右配置条件 被験者1 被験者 2 被験者 3 平均 目 標 ド ッ ト と 周 辺 ド ッ ト の 視 差 差 ( 度 ) 上弁別閾 下弁別閾 目 標 ド ッ ト -1.6°条件 上弁別閾 下弁別閾 目 標 ド ッ ト 2.0°条件 目 標 ド ッ ト -1.6°条件

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(a)垂直 1 列条件 (b)上弁別閾条件 (c)下弁別閾条件 (d)周辺ドットなし条件 図4.1 実験 3 で用いた刺激例(右配置条件,目標ドットの視差 0.8°) は目標ドットと周辺ドットの視差の差を 0°に設定して刺激を作成した。実験 2 の測定結果から上弁別 閾条件は,目標ドットと周辺ドットの視差の差を±0.6°(交差視差-0.6°,非交差視差 0.6°)に設定し て作成し,下弁別閾条件は,目標ドットと周辺ドットの視差の差を交差視差+1.0°,非交差視差-1.2° に設定して作成した。周辺ドットなし条件は,目標ドットのみで作成した。 4) 手続き:実験 1 と同様の手続きで実験を行った。視差条件(-3.6°~+3.6°の 19 条件),配置条件(右 配置条件,左配置条件の 2 条件),周辺視差条件(垂直 1 列条件,上弁別閾条件,下弁別閾条件,周辺ド ットなし条件の4 条件)をランダム順で各 4 試行ずつ行い,各被験者は合計 608 試行行った。 4.3 結果 4.3.1 融像確率 被験者4 名の融像確率について視差条件・配置条件・周辺視差条件の 3 要因の分散分析を行った。多 重比較と交互作用の検定には,SPSS の Bonferroni の方法を用いた。周辺視差条件の主効果が認められ 左眼用図版 右眼用図版 左眼用図版 左眼用図版 左眼用図版 右眼用図版 右眼用図版 右眼用図版

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(F(3,2280)=12.132, p<.05),図 4.2 に周辺視差条件ごとの融像確率を示した。図 4.2 から垂直 1 列条件, 上弁別閾条件,周辺ドットなし条件,下弁別閾条件の順で融像確率が高いことがわかった。多重比較の 結果,垂直1 列条件とその他 3 条件の間に有意な差が認められ,垂直 1 列条件が最も融像しやすいこと が示された。 視差条件の主効果についても有意な差が認められた(F(18.2280)=178.243, p<.05)。視差条件ごとの融 像確率の結果を図4.3 に示す。多重比較の結果,-0.8°~0.8°の間には有意差が認められず融像確率が 最も高いことがわかった。さらに視差を増加または減少させていくと-3.6°~-2.8°,2.4°~3.6°の 間で有意差が認められず,融像確率が最も低くなることがわかった。その他の視差条件間では-1.2°と 1.2°・1.6°,-1.6°と 1.6°・2.0°,-2.0°と 2.0°・2.4°を除く視差条件間に有意差が認められ, 0.8°または-0.8°を越えて絶対的に視差量が増加するにつれ融像確率が徐々に減少した。その結果, 融像限界は交差視差2.0°,非交差視差-2.4°であることが示された。この値は融像確率がそれぞれ 5% 未満であった交差視差 3.6°,非交差視差-3.6°と多重比較により有意差が認められた最大の交差視差 が2.0°,最小の非交差視差-2.4°であったことによって定義した。 配置条件の主効果についても融像確率に有意な差が認められた(F(1,2280)=13.086, p<.05)。図 4.4 に配 図4.2 被験者 4 名の周辺視差条件ごとの平均融像確率(エラーバーは標準偏差を示す) 図4.3 被験者 4 名の視差条件ごとの平均融像確率(エラーバーは標準偏差を示す)

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置条件別の融像確率の結果を示す。左配置条件の方が融像確率が高く,融像しやすいことがわかった。 図 4.5 に周辺視差条件・視差条件別の融像確率の結果について示す。周辺視差条件と視差条件の交互 作用は認められず(F(54,2280)=0.960, n.s.),図 4.5 から,どの周辺視差条件においても視差と融像確率 の関係は同様の傾向を示すことがわかった。また,周辺視差条件と配置条件の交互作用も認められず (F(3,2280)= 1.551, n.s.),どの周辺視差条件においても配置条件と融像確率の関係は同様の傾向を示すこ とがわかった。 視差条件と配置条件の交互作用が認められた(F(18,2280)= 1.909, p<.05)。視差条件と配置条件の交互 作用の結果を図 4.6 に示す。配置条件と視差条件の単純主効果検定の結果,-1.2°,-1.6°,-2.0° において配置条件に有意差が認められ(p<.05),これらの視差条件では左配置条件が融像確率が高いこと が示された。 図4.4 被験者 4 名の配置条件ごとの平均融像確率(エラーバーは標準偏差を示す) 図4.5 被験者 4 名の周辺視差条件と視差条件が融像確率に及ぼす影響

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図4.6 被験者 4 名の視差条件と配置条件が融像確率に及ぼす影響 4.3.2 奥行き知覚 被験者4名の奥行き知覚量について視差条件と配置条件と周辺視差条件の 3要因の分散分析を行った。 多重比較と交互作用の検定には,SPSS の Bonferroni の方法を用いた。 周辺視差条件の主効果が認められた(F(3,2280)=14.266, p<.05)。周辺視差条件と奥行き知覚量の結果 を図4.7 に示す。多重比較の結果,周辺ドットなし条件とその他 3 条件の間に有意な差が認められ,周 辺ドットなし条件が最も奥行き知覚量が少ないことがわかった。 視差条件の主効果が認められた(F(18,2280)=549.100, p<.05)。視差条件と奥行き知覚量の結果を図 4.8 に示す。多重比較の結果,-2.0°~-1.2°の間は有意な差が認められず,奥行き知覚量が最も少なく, 1.2°~2.4°の間は有意な差が認められず,奥行き知覚量が最も多いことがわかった。その他の視差条 件の間には-3.6°と 0°,-2.8°と-0.4°,-2.4°と-0.8°・-0.4°,0.4°と 3.6°,0.8°と 2.8°・ 3.2°を除く視差条件の間に有意な差が認められ,交差視差においては視差の増加とともに奥行き知覚量 も増加し,2.4°より大きくなると奥行き知覚量は減少することがわかり,非交差視差においては非交差 方向への視差の増加とともに非交差の奥行き知覚量は増加し,-2.0°より非交差視差が大きくなると奥 行き知覚量は減少することがわかった。 配置条件の主効果が認められた(F(1,2280)=116.209, p<.05)。配置条件と奥行き知覚量の結果を図 4.9 に示す。図4.9 から,右配置条件の方が左配置条件よりも奥行き知覚量が多いことがわかった。 周辺視差条件と視差条件の交互作用が認められた(F(54,2280)=4.920, p<.05)。交互作用の結果を図 4.10 に示す。周辺視差条件と視差条件の単純主効果検定を行った結果,-0.8°~1.2°の視差条件では 周辺視差条件による差は認められず,-3.6°~-1.2°の視差条件では周辺ドットなし条件,垂直 1 列 条件,上弁別閾条件,下弁別閾条件の順で奥行き知覚量が増加していくこと(p<.05),1.6°~2.4°・3.2° の視差条件では,垂直 1 列条件,周辺ドットなし条件,上弁別閾条件,下弁別閾条件の順で奥行き知覚 量が減少していくこと(p<.05)が示された。 周辺視差条件と配置条件の交互作用は認められなかった(F(3,2280)=1.071, n.s.)。どの周辺視差条件に おいても配置条件と奥行き知覚量の関係は同様の傾向を示すことがわかった。 視差条件と配置条件の交互作用が認められた(F(18,2280)=4.797, p<.05)。交互作用の結果を図 4.11 に 示す。視差条件と配置条件の単純主効果検定を行った結果,-3.6°~-0.4°,および 2.0°の視差条件 において右配置条件と左配置条件の間に有意差が認められ(p<.05),右配置条件の方が奥行き知覚量が多 いことがわかった。その他の視差条件に関しては配置条件間に有意差は認められなかった。

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図4.7 被験者 4 名の周辺視差条件ごとの平均奥行き知覚量(エラーバーは標準偏差を示す)

図4.8 被験者 4 名の視差条件ごとの平均奥行き知覚量(エラーバーは標準偏差を示す)

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図4.10 被験者 4 名の視差条件と周辺視差条件が奥行き知覚量に及ぼす影響 図4.11 被験者 4 名の視差条件と配置条件が奥行き知覚量に及ぼす影響 4.3.3 融像と奥行き知覚 周辺視差条件別の融像と奥行き知覚の関係を検討した。図4.12(a)には図 4.5 で示した視差条件ごとの 融像確率を示し,図 4.12(b)には図 4.10 で示した視差条件ごとの奥行き知覚量を示した。図中の垂直線 は交差視差,非交差視差について4 つの周辺視差条件の融像限界を示しており,図 4.12(b)から,融像限 界を越えても奥行き知覚が可能であることがわかった。また垂直1 列条件,次いで上弁別閾条件・周辺 ドットなし条件,そして下弁別閾条件の順で融像が促進され,奥行き知覚も促進されることがわかった。 4.3.4 実験 1 と実験 3 の比較 実験1 では周辺ドットの視差 0°,実験 3 では周辺ドットの視差は目標ドットとの視差差 0°,±0.6°,1.0°,-1.2°であった。そこで実験 1 と実験 3 の融像限界の比較をするために,図 4.13 に図 2.4 と

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図4.12 被験者 4 名の視差条件ごとの(a)平均融像確率,(b)平均奥行き知覚量と融像限界の関係 図4.5 のデータをあわせて視差条件ごとの融像確率を示した。 交差視差に関しては,実験1 のゼロ視差条件が最も融像が促進され,次いで垂直 1 列条件,上弁別閾 条件・周辺ドットなし条件,下弁別閾条件の順で融像が促進されることがわかった。また,非交差視差 に関しては,垂直1 列条件が最も融像が促進され,次いで上弁別閾条件・周辺ドットなし条件,下弁別 閾条件,ゼロ視差条件(実験 1)の順で融像が促進されることがわかった。 次に実験1 と実験 3 の奥行き知覚量の比較をするために,図 4.14 に図 2.5 と図 4.10 のデータをあわ せて視差条件ごとの融像確率を示した。交差視差に関しては,ゼロ視差条件(実験 1)が最も奥行き知覚量 が多く,次いで垂直1 列条件,上弁別閾条件・周辺ドットなし条件,下弁別閾条件の順で奥行き知覚量 が多いことがわかった。また非交差視差に関しては,周辺ドットなし条件が最も奥行き知覚量が多く, 次いで垂直1 列条件,上弁別閾条件,下弁別閾条件,ゼロ視差条件(実験 1)の順で奥行き知覚量が多いこ とがわかった。 4.4 考察 実験3 の結果から,融像限界は交差視差 2.0°,非交差視差-2.4°と考えられる。これは融像確率が それぞれ5%未満であった交差視差 3.6°,非交差視差-3.6°と多重比較により有意差が認められた最 (a)融像確率 (b)奥行き知覚量 融像限界 融像限界 融像限界 融像限界

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図4.13 被験者 4 名の視差条件ごとの融像確率(実験 1・実験 3) 図4.14 被験者 4 名の視差条件ごとの奥行き知覚量(実験 1・実験 3) 大の交差視差が2.0°,非交差視差が-2.4°であったことによる。 被験者全体の周辺視差条件の主効果から,垂直1 列条件が最も融像しやすく,次いで上弁別閾条件と 周辺ドットなし条件が融像しやすく,最も融像しにくいのが下弁別閾条件であることがわかった。塩入 (2007)によれば,融像の可否は視差量だけでは決まらず,周辺刺激の影響が大きいため,周辺ドットを 配置するか否か,また周辺ドットの視差が目標ドットの視差やゼロ視差と比較してどのくらいかという ことによって融像限界が異なる可能性があると考えられる。周辺ドットなし条件は,周辺刺激による影 響を受けることがないため純粋な融像限界を示すと考えられる。目標ドットの周辺に目標ドットと同じ 視差の周辺ドットを配置する垂直1 列条件では融像が促進される。融像が可能になる限界の視差である 上弁別閾条件では垂直 1 列条件と同様,融像が促進されるが,下弁別閾条件では融像限界を越えて二重 に知覚されるため上弁別閾条件の方が下弁別閾条件よりも融像がしやすくなるはずであり,結果はこの 予測を支持するものであった。一方周辺ドットなし条件は,周辺に融像を促進する刺激がない条件であ るが上弁別閾条件と同等の融像確率であった。このことは周辺ドットがない条件の方が,目標ドットと の間に融像限界を越える視差がある場合よりも融像しやすいことを示し,視差差のない周辺ドットによ って融像が促進されるというより,むしろ視差差のある周辺ドットによって融像が阻害されている可能

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性を示唆する。 奥行き知覚に関しては,実験 1 と同様,融像限界を越えても奥行きは知覚され,融像限界と同様に, 垂直1 列条件が最も奥行きが知覚されやすいことがわかった。奥行き知覚量は実験 1 と同様に視差の関 数として変化し,融像限界を越えても視差や周辺刺激の有無,周辺刺激の視差量に依存して奥行き知覚 量が変化すると考えられる。 交差視差と非交差視差を比較すると,実験1 と同様に交差視差の方が融像限界を越えても奥行きが知 覚されやすいという結果が得られた。融像限界を越えた奥行き知覚において交差視差の方が優れていた 可能性を支持するが,標準刺激が交差視差であったため,標準刺激の影響により全体的に奥行き知覚量 が交差視差側にシフトした可能性もあり,今後の検討が必要である。 5.総合考察 実験1~3 を通して,融像限界と奥行き知覚の関係について検討した結果,融像限界を越えて奥行き知 覚が生じていること,さらにその奥行き知覚量は融像限界を越えて二重像が知覚されている場合におい ても視差に依存していることがわかった。融像限界を越える奥行き知覚の特徴として,①視差の増大に 伴って奥行き知覚量は減少すること,②交差視差より非交差視差の方が融像限界が狭く,融像限界を越 える非交差視差では視差の増大に伴い,奥行き知覚量はマイナス方向からゼロになり,さらに本来とは 逆の交差視差の奥行きが知覚されることがわかった。このような,交差視差と非交差視差の違いは両者 の処理機構の違いが影響している可能性(林ら,2001)が考えられる。また本研究では,融像限界を大き く越える非交差視差の比較刺激では,交差視差を伴った標準刺激の奥行きに影響されて奥行き方向が逆 転して知覚された可能性も考えられる。 融像限界を越えた奥行き知覚は周辺刺激の視差量や周辺刺激の有無にも依存していることが示された。 本研究の結果から,目標刺激と周辺刺激の視差の差が少ない程,融像限界が広がるとともに奥行き知覚 も促進され,さらに融像限界を越えた奥行き知覚量についても促進されることがわかった。周辺に目標 刺激と同様の視差の刺激を配置することによって目標刺激の融像が促進されて融像限界が広がり,さら に融像限界を越えた奥行き知覚が促進される。周辺刺激がない条件においては,周辺に融像を促進する 刺激がないが,上弁別閾条件と同等の融像確率であり,このことは周辺刺激がない条件の方が目標刺激 との間に融像限界を越える視差がある場合よりも融像しやすいことを示している。実験1 と実験 3 の結 果を比べると実験1 の周辺視差がゼロ視差の条件で,交差視差では融像限界が実験 3 のどの条件よりも 広く非交差視差では狭かった。この結果については周辺刺激がゼロ視差の条件とその他 4 条件を別々の 実験により行ったことの影響を考慮しなければならない。また,4 人の被験者のうち 3 人が重複してい るため,実験3 では実験に対する慣れが生じた可能性もある。 本研究から,融像限界が広がると奥行き知覚も促進されることから,融像と奥行き知覚の関係が示さ れた。さらに融像限界を越えて二重像が知覚される条件でも視差に依存した奥行きが知覚されたことか ら,融像にかかわらず奥行き知覚に関する処理が働いている可能性が示唆された。 融像限界を越えた奥行き知覚のメカニズムに関しては明確なことがわかっていないため,今後更なる 検討が必要であると考えられる。 引用文献 福田一帆・Wilcox,L.M.・金子寛彦 (2010) 二重像からの奥行き知覚における両眼視差の効果と網膜 像位置の影響 社団法人映像情報メディア学会技術報告 34(11)75-78. 林部敬吉 (2004) 3 次元視研究の展開 酒井書店 林部敬吉 (1995) 心理学における 3 次元視研究 酒井書店

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図 1.2  下部の半円にパナムの融像限界を上回る視差を割 り当てられたランダムドットステレオグラム  ある点を固視したとき,両眼の網膜対応点に結像する外界の点の軌跡(ホロプタ)の前後に形成される融像可能な領域をパナ ム の 融 像 圏 ( 融 像 限 界 ) と い う ( 丸 尾ら,2009)。パナムの融像圏と網膜対応点の関係を図1.1 に示した。図 1.1 に示すように,ホロプタ上の点Fを固視点とするとき,点A は,左眼では A1上に像を結び,右眼ではその対応点A2上で像を結ぶが,A2から一定範囲内の
図 2.2  実験 1 で用いた刺激例(右配置,非交差視差-3.6°)  2.3  結果  2.3.1  融像確率  4 名の被験者の融像確率について視差と配置条件の二元配置の分散分析を行った結果,配置条件の主 効果について有意な差が認められた   (F(1,570)=7.364, p&lt;.05)。配置条件別の 4 名の平均融像確率の結果 を図 2.3 に示す。図 2.3 から右配置条件よりも左配置条件の方が融像しやすいことがわかる。  また視差条件の主効果についても融像確率に有意な差が認められた (F
図 2.3  被験者 4 名の配置条件ごとの平均融像確率(エラーバーは標準偏差を示す)
図 3.2  配置条件別の融像限界の閾値  であった。図中の 1.0°,0.6°,-0.6°,-1.2°の視差差における長二点鎖線は各被験者の上弁別閾と下弁 別閾がほぼカバーされる目標ドットと周辺ドットの視差差で,- 0.6°以上または 0.6°以下では融像,1.0°  以上,- 1.2°以下では二重像が知覚されることを示す。すなわち目標ドットの視差が交差視差 2.0°条件 では周辺ドットの視差 2.0°~1.4°で融像,0.8°以下で二重像,非交差視差-1.6°条件では周辺ドッ  トの視差- 1.6°~-
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参照

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