著者 金藤 正直, 岩田 一哲
出版者 法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員
会
雑誌名 公共政策志林
巻 3
ページ 19‑28
発行年 2015‑03‑24
URL http://doi.org/10.15002/00012111
〈寄稿論文〉
食料産業クラスター事業の現状と展開の方向性(2)
─コーディネーターの視点を基礎として─
金 藤 正 直,岩 田 一 哲
要旨
日本における食料産業クラスター事業については,会計検査院の検査結果によれば,各地に配置され,コア 的な事業支援を行っているコーディネーターが,コーディネート能力をあまり有していない状態で事業を支援 していたために,地域に根ざした「事業(ビジネス)」として十分に成果を上げている取組みが少ないことが 指摘されている。本稿では,事業時に本来担うべき役割とコーディネートすべき能力を明らかにし,また,実 際の事業におけるコーディネート活動状況を調査した結果に基づいて,クラスター事業を持続的に展開してい くための視点と方法を提案した。それは,①食農連携の特性を考慮に入れながら,事業の参加・計画時や実行 時に,「新商品および新事業開発の推進」を主要な目的とし,この目的に基づき食材の生産や加工に関する取 組みに注力すること,②①の取組みを支援していく際には,事業全体(面)および事業を構成している個々の 組織(点)の視点から実施していくこと,③②の実施していくためには,事業化の政策やそれによって変化す る環境に瞬時に対応できるマルチな能力が必要不可欠であること,という3つである。コーディネーターは,
これら3つの視点や方法を考慮に入れながら,クラスター事業を有効的かつ効率的にマネジメントしていくこ とが必要である。
キーワード:食料産業クラスター,農商工連携,6次産業化,コーディネーター,マルチな能力 1.はじめに─研究の視点と方法─
「食料産業クラスター事業の現状と展開の方向性
(1)」の研究(以下,「(1)研究」)では,会計検 査院が行った『食農連携事業による新商品の開発等 について』(2011年検査)と1,『農山漁村6次産業 化対策事業等における事業効果等について』(2014 年検査)の検査結果に関する考察を通じて2,食料 産業クラスター事業と,その後に実施された農商工 連携事業および6次産業化事業が,持続可能な「事 業(ビジネス)」として十分な成果を上げていない 状況とその原因を明らかにした。それは,各地に配 置され,コア的な事業支援を行うコーディネーター が,地域特性や事業の取組主体(事業関係者)が行
うことができる取組みを十分に理解し,それを加味 したうえで,事業計画やその成果目標を設置した り,連携組織体を当該地域に構築することができて いない,という点である3。これら3つの事業は,
個々に政策目的は異なるが,コーディネーターが,
コーディネート能力を有していない状態で事業を支 援していた,という共通するコアな原因が存在して いた。
そこで,この原因に対処し,クラスター事業を継 続的に展開していくための視点や方法については,
表1に示された4点を提案した。
ただし,表1の結果は,「事業関係者の視点」を 中心として,クラスターやその後の事業を継続的に 展開していく視点や方法を検討したものである。そ 19
のために,この結果だけでは,コーディネーターが,
クラスター事業の支援組織として,事業時に本来担 うべき役割とコーディネートすべき能力とともに,
コーディネーターとしての実際の活動状況に関する 考察を通じて,この事業を計画通りに展開できな かった原因に対処していく視点や方法を十分に提案 することはできない。本稿では,コーディネーター の視点を中心にして,「(1)研究」で取り上げた 2011年検査と2014年検査の結果から明らかにされた 原因への対策について検討していきたい。
2.食料産業クラスターにおけるコーディネー ターとしての本来の役割と能力
コーディネーターに関しては,科学技術会議(1995)
によって公表された『諮問第22号「地域における科 学技術活動の活性化に関する基本方針について」に 対する答申』の中で,科学技術等のイノベーション 創出を支援するコーディネーターの存在,役割,能 力,そして,その能力に適した人材が取り上げられ ている。その内容は表2の通りである。なお,この 表1 「(1)研究」における食料産業クラスター事業の継続的展開のための視点と方法
① 事業参加・計画時に、顧客の視点(消費者ニーズ)を十分に加味した「新商品・新事業開発」を事業 目的とし、この目的をすべての事業関係者に共有化させ、事業化を推進させていくこと
②
実行時および終了時にも、①の目的を事業関係者間で共有化させ、事業への貢献意欲を維持させるた めには、参加・計画時に、この目的を「事業(ビジネス)」に結び付けていくための「ビジョン・戦略」
として策定すること
③
②の「ビジョン・戦略」を実現させるために、事業化されるクラスターに、マネジメントシステム
「PLAN-DO-CHECH-ACTION」やバランス・スコアカード(Balanced Scorecard:BSC)を導入する こと
④ 事業関係者間との連携においては、参加・計画時に行われていた連携を実行時や終了時まで継続させ、
また、今後重要で強化すべき組織との関係も深めていくこと
表2 コーディネーターの存在,役割,能力とそれに適した人材
①存在 地域の限られた科学技術資源を有効に活用し研究開発を行うためには、その触媒役というべ き優れた人材であるために、その存在は必要不可欠である。
②役割 優れた研究シーズとニーズの発掘・結合、優秀な人材の確保、適切な研究チームの組織、資 金の調達等多岐にわたる。これらの活動を通じて、地域の科学技術資源の有効活用と研究開 発の一層の活性化が期待される。
③能力 地域横断的、全国的、国際的な観点から科学技術活動を見ることができる幅広い視野、研究 シーズの価値を見極める能力、人材発掘能力、組織をまとめる能力等を持つことができるこ とが期待される。
④ ③に適した 人材
・ 地域の研究機関は、コーディネータを高い地位のスタッフとして位置づけ、個人をコーディ ネータに指名して相当の権限を与え、共同研究の構築・運営などに責任を持ってあたらせ ることが望ましい。コーディネータとしては、当該関係機関内部の者だけではなく、第一 線を退いた研究者等を積極的に活用することも有用な方策である。
・ 地方公共団体においては、公設試験研究機関、第三セクター等におけるコーディネート機 能の充実を図ることが望ましい。また、これらの機関において専任のコーディネータを設 置することも効果的である。
・ 政府は、地方公共団体の取組に対して、地域のニーズを踏まえた地域内外の人材をコーディ ネータとして派遣するなどの支援を行うとともに、国立大学の地域共同研究センターや国 立試験研究機関のコーディネート機能の充実を図る。
(出典:科学技術会議(1995)『諮問第22号「地域における科学技術活動の活性化に関する基本方針について」
に対する答申』,pp.19-20をもとに筆者作成。)
食料産業クラスター事業の現状と展開の方向性(2)
基本方針後に公表された第1期から第4期の科学技 術基本計画だけではなく4,その他の関連政策にも,
表2に示された内容が反映されている。
また,勝野・藤科(2010)は,表2の科学技術会 議が示した①から④も参考にしながら,当時の食料 産業クラスターにおけるコーディネーターを対象に インタビューした調査結果を,「コーディネーター の特徴」として表3のように整理している。
科学技術会議(1995)の見解と勝野・藤科(2010)
の調査は,それぞれが対象としている事業は異なる が,コーディネーターとしては,当該地域に精通し,
また,事業連携を密にし,うまくまとめあげること ができる,幅広い知識や経験を持った人材や組織で あることの必要性が示されている。
さらに,社団法人食品需給研究センター(2010)
は,食料産業クラスター事業だけではなく,その後 の農商工連携事業や6次産業化事業についても加味 しながら,コーディネーターには,「農業と食品・
関連企業との連携を構築し,関係者間での合意形成
を図り,発生する課題・コンフリクトの解決を図る ことを目的」とし,「地域の将来に向けたビジョン・
戦略を描き,その戦略を展開してゆくための熱意と スキルが求められる」ことを述べている5。
しかし,「連携構築の促進に向けて,取組の促進 に寄与するための活動を行えているわけではありま せん。配置された人材ごとに差異があることも事実 であり,コーディネーターの中には,自身の活動を どのように促進してよいのか,スキルやノウハウの 低さがみられる場合もあります」6,といったコー ディネーターの力量に関する問題が,事業化によっ て地域経済の活性化,新たな産業やイノベーション の創出,食料自給率の向上,地域ブランド化等に結 びつかない結果をもたらしていることを指摘してい る7。そのために,同センターは,コーディネーター には,表4のようなスキル・ノウハウに関する要件 を理解し,身に付けることが必要であることを提案 している。
表3 食料産業クラスターにおけるコーディネーターの特徴
① コーディネートする対象である農業は、経営体としても零細、小規模のものが多く、従事者の高齢化といっ た課題を抱えているものの、地域に根差した産業であり、地域の中では重要な役割を果たしていることを 踏まえて活動する必要がある。
② 地域の企業のまとまりのみならず、地域の農畜水産物を原料として活用することが取組みのポイントとな るため、地域農業と地域食品企業との連携をコーディネートすることが必須となる。
③ 単なる商品開発のみならず、地域の活性化がクラスターの活動の狙いとはなるが、地域農業との連携がポ イントとなるため、そこでは、地域の環境、地域の集落の問題が必然的にからんでくる。単なる商品開発 のみならず、地域に根差した「地域の維持・持続的発展」といった広い視野が求められる。そうした意味で、
他産業のクラスターのコーディネータに比べ地域との関わりが強いのが、食料産業クラスターのコーディ ネータの特徴の一つである。
④ 企業論理が通用しない農業関係者とのつきあいが必要であり、一からの出発であれば、他産業のクラスター に比べてその理解や信頼を得るのに時間がかかる。また、生産は季節や気候に左右されるため、他産業ク ラスターのコーディネート業務に比べ原料調達の部分に関する業務負担が大きい。
⑤ 食品企業の企業力(資金、人材、技術力)が脆弱で、開発意欲が低い、研究機関の技術シーズを受け止め られない企業が多い。また、食品企業は、情報のやりとりが閉鎖的で異業種とのつきあいが少ない。これ らの脆弱性を補填するところからコーディネート業務を始めなければならない。
⑥ 食品加工、衛生管理、品質管理、消費者志向といった食品産業を展開する上で必要な知識・経験も求めら れる。
⑦ 食料産業クラスターでは供給、加工、販売の循環を拡大しながら進めていく必要があり、コーディネータ は総合的な知識、モチベーションが必要である。原料調達面では産地育成、供給体制を睨みつつ、加工部 分では企業の技術開発力を睨み、同時に流通、販売戦略を描くというマルチな能力が求められる。
(出典:勝野美江・勝科智海(2010)『食料産業クラスターにおけるコーディネータに関する調査研究』文部 科学省 科学技術政策研究所 Discussion Paper No.71,p.65をもとに筆者作成。)
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社団法人食品需給研究センター(2010)の見解で は,コーディネーターが,食料産業クラスターを「事 業(ビジネス)」として継続的に展開していくため には,他の分野のコーディネートに比べて,構造的 なミスマッチに加え,農業サイドと食品・企業サイド との考え方の違い,地域ブランドの創出等8,といっ た農業とその関連産業の特異な関係を考慮に入れた 対応が求められる,ということが述べられている。
以上の検討から,コーディネーターが,本来これ らの事業で担う役割および持つべき能力とは,そう した特異性を十分に加味しながら,事業全体および その事業連携を構成している個々の組織への的確な 支援,つまり,「面」および「点」のコーディネー トと,そのためのマルチな能力が必要とされる。
3.食料産業クラスター事業におけるコーディ ネーターの役割と能力の現状
本章では,著者が,食料産業クラスター事業に関
わっている全国のコーディネーターを対象に実施し たアンケート調査結果を通じて9,コーディネー ターが,実際にクラスター事業の中でどのような役 割を担い,また,どのような能力を有していたのか,
さらに,クラスター事業を計画通りに展開できな かった原因は,コーディネーターの役割にあるの か,それとも能力なのか,という点を明らかにする。
3.1 調査概要
本調査では,現在あるいは将来において,食料産 業クラスター事業を継続して展開していくために コーディネーターに求められる諸要件を明らかにし ていくことを目的としている。そのために,調査票 には,「(1)研究」で取り上げた「青森県りんご産 業クラスターのアンケート調査票」を参考にしなが ら,事業における参加・計画時,実行時,終了時と いった時間軸を設定し,また,次の質問項目の結果 を動態的に明らかにしている。
【複数選択回答項目】
①クラスター事業に参加した目的と達成度
②クラスター事業に関連する新たな取組み
③クラスター事業の時期に連携した組織
④事業化での具体的な取組み
⑤今後連携を強化すべき組織
【自由記述回答項目】
⑥ 「クラスター事業を今後さらに展開していくた めにはどのようなことが必要だと思われます か?」
調査対象者は,農林水産省のホームページ上で公 開されている食農連携促進事業(旧名称:食料産業 クラスター展開事業)関係コーディネーター名簿
(平成21年7月末現在)のうち,送付先が明らかで あるコーディネーターを中心としている。また,調 査方法は,郵送法を用いて約1カ月間(2012年2月 1日~2012年2月28日)実施した。回収率は22%(31 人 /141人)である。なお,この調査結果の分析方 法については,回答者数が31人と少数であるため に,統計的手法ではなく,単純集計法を用いている。
表4 コーディネーターのスキル・ノウハウに関 する要件
①基本要件
・農業と食品・関係企業の特徴 ・連携の枠組形成と戦略構築 ・枠組や戦略の客観的評価 ・コーディネート手法
②個別要件
・地域の原材料(質と量)
・ものづくり、新製品開発 ・マーケティング戦略 ・地域ブランド化戦略 ・パブリシティー戦略
・技術シーズ利用とイノベーション創出
③付帯的要件 ・知的財産化戦略 ・経営戦略、経営診断 ・食文化、歴史・風土
・関係者の主体性、モチベーション戦略 ・支援事業の獲得方法
・情報の収集・発信
(出典:社団法人食品需給研究センター(2010)
『コーディネーターが目指す食料産業クラスターの 本質』,p.19をもとに筆者作成。)
食料産業クラスター事業の現状と展開の方向性(2)
3.2 調査結果に基づくコーディネーターの役割と能力 複数選択回答項目の結果についてみていくと,ま ず,コーディネーターとしてクラスター事業に参加 した目的と達成度については,図1に示されている ように,参加・計画時には,「(2)新商品,新事業 開発が促進される」,「(5)クラスター内の民間企 業からの市場ニーズを入手しやすい」,「(13)クラ スター内の行政から支援を受けられる」が期待され
ていた。その中でも,(2)については,実行時の 方が,参加・計画時よりも高くなっていることが理 解できる。
次に,コーディネーターがクラスター事業を通じ て行った新たな取組みについては,図2に示されて いるように,参加・計画時および実行時に,「(1)
行政との日常的な交流が増大した」および「(7)
民間企業との日常的な交流が増大した」となってい
図1 クラスター事業に参加した目的と達成度
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図2 クラスター事業に関連する新たな取組み
23
る。また,実行時には,図1の(2)の新商品およ び新事業開発の促進の取組みを実現させるために,
「(8)新製品やアイディア(製品開発や生産・販売 の方法に関するアイディアも含む)について考える ようになった」と「(9)開発された新製品やアイ ディアをいかに事業化していくかを考えるように なった」ことが理解できる。
続いて,コーディネーターがクラスター事業時に 連携した組織については,図3のように,参加・計 画時に考えていた連携先は,「(1)行政(自治体)」,
「(2)業界団体・組合」,「(3)大学」,「(4)公的 研究機関」,「(7)民間企業」である。実行時には,
これらの組織との連携数が増加しているために,組 織間のネットワークをより一層強化しようと考えて いたことが理解できる。
さらに,コーディネーターがクラスターの事業化 で実際に行おうとした,あるいは行った取組みにつ いては,図4のように,参加・計画時および実行時 ともに,「(1)食材の生産に関する取組み」と「(2)
食材の加工に関する取組み」に注力している。この
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図3 クラスター事業の時期に連携した組織
図4 事業化での具体的な取組み
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食料産業クラスター事業の現状と展開の方向性(2)
結果から,図2の(8)や(9)の取組みを実践的 に行っていたことが考えられる。
最後に,コーディネーターが,クラスターの事業 展開において今後強化すべきと判断した組織につい ては,現実の取組みの中では,図3に示された
「(1)行政(自治体)」,「(2)業界団体・組合」,
「(3)大学」,「(4)公的研究機関」,「(7)民間企 業」の連携先が中心であった。しかし,図5の結果 を見ると,実際は,「農家(食料生産者)」,「食料加 工業者」,「食料流通業者」,「商工団体」との連携を 強化すべきであった,と考えていたことが理解でき る。
以上の図1から図5に示された調査結果から,
コーディネーターの活動における全体の傾向は,
「(1)研究」で取り上げた参加・計画時に回答数が 多かった事業関係者に比べて,実行時に,参加・計 画時に設定された事業計画に基づく取組みを実施し ていたことが考えられる。その中でも,図1の
「(2)新商品,新事業開発が促進される」が,コー ディネーターと事業関係者に共通して回答数が多い ことから,両者は,この目的をクラスター事業の主 要な目的として設定し,それを実現させたいと考え ていたことが理解できる。
ここまでの検討から,クラスター事業の実践的な
取組みでのコーディネーターの役割とは,参加・計 画時や実行時において,新商品および新事業の開発 の中でも,食材の生産や加工に関する取組みに注力 し,また,その取組みを促進していくために,行政,
業界団体・組合,大学,公的研究機関,民間企業と 連携し,新製品・新商品やアイディアの検討とその 事業化を支援することであると考えられる。
また,コーディネーターの能力については,⑥の 調査結果の中で,「6次産業化への政策シフトの影 響でマーケティングが不十分」や,「補助金・助成 金等の資金のショートの影響によるコーディネータ の継続的関与や新製品の試行・販売への継続性と いった問題が発生」といった内容に関連する回答が 多かった10。この結果から,食料産業クラスター事 業が継続して展開できなかった原因には,上述の コーディネーターの役割ではなく,コーディネート 能力が関係していると考えられる。したがって,
コーディネーターが,事業関係者の取組みを参加・
計画時から終了時まで支援していくためには,クラ スター事業に関連する新たな政策への変更にも瞬時 に対応できる総合的なマネジメント能力を獲得すべ きであろう。
図5 今後連携を強化すべき組織
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4.おわりに-コーディネーターによる持続可 能な食料産業クラスタ─事業の展開方法─
本稿では,コーディネーターとしての本来の役割 とコーディネート能力,そして,コーディネーター としての実践的な取組みに関する調査結果の考察に 基づいて,食料産業クラスター事業を支援するコー ディネーターが,地域特性や事業関係者による可能 な取組みを考慮に入れながら事業計画を設定し,ま た,それに基づいて当該地域に連携組織体を構築で きない原因を明らかにするとともに,その原因に対 処し,継続的な事業展開を行っていくための視点と 方法を検討した。
コーディネーターが本来,食料産業クラスター事 業を地域に根ざした「事業(ビジネス)」として展 開していくためには,食農連携の特異性を十分に加 味しながら,事業全体およびその事業連携を構成し ている個々の組織への支援である「面」および「点」
のコーディネートと,そのための幅広い知識や経験 からなるマルチな能力が必要である。
クラスター事業での現実のコーディネーターの取 組みでは,コーディネーターは,参加・計画時や実 行時において,新商品および新事業開発の推進を主 要な目的とし,それに基づく取組み,特に,食材の 生産や加工に関する取組みを促進していくために,
行政,業界団体・組合,大学,公的研究機関,民間 企業との連携を強化し,新製品・新商品やアイディ アの検討とその事業化の支援を担っていた。した がって,コーディネーターとしての本来の役割は,
実践的にもある程度果たしていたと考えられる。
しかし,事業政策のシフトによるマーケティング が不十分であったことや,資金ショートによるコー ディネーターの事業への関与と新製品の試行・販売 が継続的に行えなかったこと,といった総合的なマ ネジメント能力が十分に備わっていなかったことか ら,持続可能なクラスター事業が展開できなかっ た。したがって,コーディネーターとしての本来の 能力は,実践的にはほとんど機能していなかった可 能性がある。
以上から,コーディネーターの視点から考えられ る食料産業クラスター事業を継続して展開していく ための視点と方法については,次の3点に整理でき る。
① 食農連携の特性を考慮に入れながら,参加・計 画時や実行時に,「新商品および新事業開発の 推進」を事業目的とし,この目的に基づき,食 材の生産や加工に関する取組みに注力すること
② ①の取組みをコーディネートしていく際には,
事業の「面」および「点」の視点から実施して いくこと
③ ②の実施していくためには,事業化の政策やそ れによって変化する環境に瞬時に対応できるマ ルチな能力(総合的なマネジメント能力)が必 要不可欠であること
現在,農商工連携や6次産業化の政策に基づく事 業が実施されているが,これらの事業においても,
コーディネーターが闇雲にコーディネートしていけ ば,2011年検査や2014年検査と同じ結果になり,地 域活性化にはほとんど結びつかなくなる可能性が高 いと考えられる。このような状況を繰り返さないた めにも,コーディネーターは,表1の①から④を考 慮に入れながら,また,上述の①から③に基づき事 業関係者を支援し,両事業を有効的かつ効率的にマ ネジメントしていくことが必要である。
ただし,上述の③に示した「マルチな能力(総合 的なマネジメント能力)」の必要性については,そ れぞれの事業の特性によって,求められる能力の優 先順位が異なる可能性があると考えられる。第2章 で取り上げた先行研究・調査には,次のように,想 定されているコーディネーターに違いがみられる。
すなわち,科学技術会議(1995)では,大学を含め た研究機関の研究者,勝野・勝科(2010)では,農 家・食品企業との結びつきを重視したコーディネー ター,そして,社団法人食品需給研究センター
(2010)では,全般的な取組みが可能なコーディネー ター,である。また,農林水産政策研究所(2013)
では,ドイツやフランスにおいて,「リージョナル
食料産業クラスター事業の現状と展開の方向性(2)
マネージャー(Regional Manager)」や「農村アニ メーター(Rural Animator)」,という人材育成の 取組みが紹介されている11。したがって,今後は,
個々の事業の取組状況やその内容を十分に考慮に入 れながら,コーディネーターに求められる能力を検 討していくことが必要である。
[付記]
本稿は,科学研究費補助金 若手研究(B)研究 課題番号(24730381)「地域資源の利活用事業を支 援する環境会計モデルに関する研究」(2012年度−
2014年度)(金藤正直)および科学研究費補助金 基 盤研究(C)研究課題番号(24530448)「曖昧で突 発的な仕事状況に置かれた従業員のストレス並びに その軽減についての解明」(2012年度−2014年度)
(岩田一哲)の研究成果の一部である。
注
1 会計検査院(2011)『食農連携事業による新商品の開 発等について(平成23年10月19日付け 農林水産大臣宛 て)』,pp.1-7。
2 会計検査院(2014)『農山漁村6次産業化対策事業等 における事業効果等について(平成26年10月24日付け 農林水産大臣宛て)』,pp.1-9。
3 コーディネーターの概念については,「(1)研究」で も次の定義を利用している。「コーディネーターとは,
事業関係組織間の連携調整(合意形成)を図りながら,
事業対象地域の活性化策を考慮に入れたクラスター形成 のための戦略・計画を立案・設定していくとともに,形 成後のクラスター事業を有効的かつ効率的に運営・管理 していく活動を主体的に行う個人または組織(クラス ター協議会等の専門家集団)である」(金藤正直・岩田 一哲(2013)「食料産業クラスターを対象としたバラン ス・スコアカードの適用可能性」『企業会計』Vol.65 No.10,p.125)。また,6次産業化での事業支援を行っ ている「プランナー」は,個々の農林業業者による案件 の発掘や計画策定等といった第1次産業を主体とした事 業化の総合的なサポートが中心であることから,「(1)
研究」では,コーディネーターの概念に含めて考えた。
そのために,本稿でも,「(1)研究」と同じように考え ていく。
4 科学技術基本計画は,1995年11月に公布・施行された 科学技術基本法に基づいて,科学技術の振興に関する施 策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な計画 である(文部科学省「科学技術基本計画」〈http://www.
mext.go.jp/a_menu/kagaku/kihon/main5_a4.htm〉(閲覧 日:2015年1月7日)。
5 社団法人食品需給研究センター(2010)『コーディネー ターが目指す食料産業クラスターの本質』,p.18。
6 前掲書,p.18。
7 前掲書,p.19。
8 前掲書,p.19。
9 この調査結果の内容については,次の文献を参考に整 理している。金藤正直・岩田一哲(2014)「クラスター 形成の成否を握る参加者の意識の変遷」二神恭一・高橋 賢・高山貢編著『地域再生のための経営と会計─産業ク ラスターの可能性』中央経済社,pp.159-174。
10 経済産業省(2010)によるコーディネーター調査で実 施された「自信に不足していると感じるスキル」に関す る調査でも,「専門性(技術,特許,法律,語学,経済・
経営等)」が最も多く,次いで「ネットワーク形成力」
や「人脈」といった人的要因および「目利き力」,「交渉 力」,「企画力」という技術移転等に必要な能力かつ研修 等では身につきにくい能力が不足していると感じている コーディネーターが多い結果となっている(経済産業省 地域経済産業グループ(2010)『地域イノベーションの 創出支援に携わるコーディネータに関する調査・研修等 報告書』,pp.12-13)。
11 農林水産省農林水産政策研究所(2013)『海外におけ る農村イノベーション政策と6次産業化』,pp.21-68。
参考文献
Porter, M. E.(1998), ON COMPETITION, Harvard Business School Press.(竹内弘高 訳(1999)『競争戦略論Ⅱ』ダ イヤモンド社)
石倉洋子・藤田昌久・前田昇・金井一頼・山崎朗(2003)『日 本の産業クラスター戦略:地域における競争優位の確 立』有斐閣。
岩田一哲(2014)「産業クラスターにおける組織・人・資 源の連携」二神恭一・高橋賢・高山貢編著『地域再生の ための経営と会計─産業クラスターの可能性』中央経済 社,pp.133-138。
会計検査院(2011)『食農連携事業による新商品の開発等 に つ い て( 平 成23年10月19日 付 け 農 林 水 産 大 臣 宛 て)』,pp.1-7。
会計検査院(2014)『農山漁村6次産業化対策事業等にお ける事業効果等について(平成26年10月24日付け 農林 水産大臣宛て)』,pp.1-9。
科学技術会議(1995)『諮問第22号「地域における科学技 術活動の活性化に関する基本方針について」に対する答 申』。
勝野美江・勝科智海(2010)『食料産業クラスターにおけ るコーディネータに関する調査研究』文部科学省 科学 技術政策研究所 Discussion Paper No.71。
金藤正直・岩田一哲(2013)「食料産業クラスターを対象 としたバランス・スコアカードの適用可能性」『企業会 計』Vol.65 No.10,pp.125-131。
金藤正直・岩田一哲(2014)「クラスター形成の成否を握 る参加者の意識の変遷」二神恭一・高橋賢・高山貢編著 27
『地域再生のための経営と会計─産業クラスターの可能 性』中央経済社,pp.159-174。
金藤正直・岩田一哲(2015)「食料産業クラスター事業の 現状と展開の方向性(1)─事業関係者の視点を基礎と して─」『人間環境論集』第15巻第2号(刊行予定)。
経済産業省地域経済産業グループ(2010)『地域イノベー ションの創出支援に携わるコーディネータに関する調 査・研修等報告書』。
経済産業省地域経済産業グループ(2010)『コーディネー ター キャリアパス』。
社団法人食品需給研究センター(2010)『コーディネーター が目指す食料産業クラスターの本質』。
高橋賢(2013)「食料産業クラスター政策の問題点」『横浜 経営研究』第34巻第2・3号,pp.35-47。
農林水産省農林水産政策研究所(2013)『海外における農 村イノベーション政策と6次産業化』。
二神恭一・高橋賢・高山貢編著(2014)『地域再生のため の経営と会計─産業クラスターの可能性』中央経済社。
細谷祐二(2010)「我が国コーディネーター人材の現状─
アンケート調査の分析結果から─」『産業立地』Vol.49 No.4,pp.47-51。
本間正義(2013)「経済教室 TPP 参加への環境整備㊦
農業の国際化の好機に」『日本経済新聞社』2013年4月 4日朝刊,24面。
文部科学省「科学技術基本計画」〈http://www.mext.go.
jp/a_menu/kagaku/kihon/main5_a4.htm〉(閲覧日:2015 年1月7日)。