研 究論文
プライベートクラウドコンピューティングと 会 計 情 報 システムに関 す る一 考 察
荒 井 義 則
要 旨
本稿 では、パブ リッククラウ ド、プライベー トクラウ ドの利 点 と欠点を考 え、両システ ムに共通す るクラウ ドの定義 を提 出 した。つ ぎに、プ ライベー トクラウ ドを用 いた会計情 報 システムを提 出 し、その構造 を考察 した。 さらに、複雑適応系の観 点か ら考 え、 このシ ステムがマ レー ・ゲルマ ン及びジ ョン・ホラン ドの複雑適応 系にあた ることを証 明 した。
キ ー ワー ド :パブ リッククラウ ド、プライベー トクラウ ド、会計情報 システム、
複雑適応系
l.は じめに :
Web2. 0
か らクラウ ドコン ピューティングへ最近 クラウ ドコンピューテ ィングが注 目を集 めてい る。各企業が独 自に情報 システムを所有 す るとい う旧来の概念 を根本的に変 える可能性 があ り、企業の情報 システムに与 える影響 も大 きい。政府や地方公共団体にも広が りつつ あ り、
そ の影 響 は企 業 だ け に と どま らな い1ト 8)。 ITmediaエ ンタープライズ とアイ ・テ ィー ・アー ルが実施 した 「クラウ ドコンピューテ ィングに 関す るア ンケー ト調査」 9)において も 「クラ ウ ドコンピューテ ィング」 とい う単語の認知度は
「よ く知 ってい る」 が44.7%、 「知 ってい る」 が 49.9%で、 2項 目の合計 は94.6%とな り、広 く認 知 されてい ることがわか る。
クラウ ドコンピューテ ィングとい う概念 はす で にWeb2.0において言及 され てい る。Web2.0 は、テ ィム ・オ ライ リーが提 唱 した概念でWeb の新潮流 を総称 した ものである10)。 テ ィム ・オ ライ リーは 「Web2.0の原則」 と して以下 の7 項 目をあげてい る。
1.プ ラッ トフォーム としての ウェブ 2.集合知の利用
3.デ ータは次世代の 『イ ンテル ・イ ンサイ ド』
4.ソフ トウェア ・リリースサイ クル の終鳶 5.軽量なプ ログラ ミングモデル
6.単一デバイスの枠 を超 えた ソフ トウェア 7.リッチなユーザ体験
さ らに論 文 の コラム欄 で 「Web2.0のデ ザイ ンパ ター ン」 として以下の8項 目をあげている。
1. ロングテール
2.デー タは次世代 の 『イ ンテル ・イ ンサイ ド』 (原則 と重複)
3. ユーザによる付加価値創造 4.ネ ッ トワー ク効果 を促す初期設定 5.一部権利保有
6.永久 にベー タ版
7.コン トロール でな く協力
8.単一デバイスの枠 を超 えた ソフ トウェア (原則 と重複)
上記のWeb2.0の特色の中にクラウ ドコンピュー テ ィングの概念が含 まれ てい る。原則1の 「プ ラッ トフォー ム としての ウェブ」はクラ ウ ドコ ンピューテ ィングの概念 と一致 してい る。 クラ ウ ドコンピューテ ィングの発展は ソフ トウェア のあ り方 を 「所有」か ら 「必要時にWebを通 じ て利用」に変化 させ てい る。 この現象 は原則4 の 「ソフ トウェア ・リリースサイ クル の終鳶」
をもた らす可能性 がある。Web上で ソフ トウェ アを提供す る企業は 自社 の ソフ トウェアの改良 を継続 してい くので、Web上 の ソフ トウェアは
「永久 にベー タ版 」 (デザイ ンパ ター ン6)とな る。
Web2.0は クラ ウ ドコン ピューテ ィングの概 念 を含む よ り広範 なwebの新潮流 を指 してい る が、クラウ ドコンピューティングの急速な進展 ・ 拡 大 はWeb2.0の次 の新潮流 とみ な され る よ う になってきている。 この よ うな見方が広が るの はWeb2.0の代表例 として語 られた内容 が
① ブ ログ
②sNS
③集合知
④ ロングテール
とそれ らをもとに した ビジネスモデル が中心で あ り、クラウ ドコンピューテ ィングについては あま り語 られ なかったか らである。 そのため、
ク ラ ウ ドコン ピュー テ ィングはWeb2.0とは異 なる新たな潮流 とみなされ ることが少 なくない。
しか し、クラウ ドコンピューテ ィングの本質 はWeb2.0の原 則 ・デ ザイ ンパ ター ンで述 べ ら れ てお り、新 潮流 とい うよ りは (Web2.0の) 新 たな展 開 とみなす ことが可能である とい う点 を指摘 してお きたい。
クラウ ドコンピューテ ィングにはパブ リック クラ ウ ドとプ ライベー トクラウ ドの2種類 が あ る11)。 プ ライベー トクラ ウ ドとは企業 内あるい は企業グループ内に構築されたクラウドコンピュー テ ィングシステムの ことであ り、 これ に対 して 今 までの クラ ウ ドをパブ リッククラウ ドと呼ん 94 国際経営論集 No.39 2010
でい る。会計情報 システム とパブ リッククラウ ドの関連 については前稿12)で考察 しているので、
本稿では会計情報 システム とプライベー トクラ ウ ドについて考察す る。
2.パブリッククラウ ドの利点と欠点
(1)パブ リッククラウ ドの定義
前稿12)では、パ ブ リッククラ ウ ドについて今 までに提 出 された定義 を考察 し、 これ らの定義 に共通す るもの としてパ ブ リッククラ ウ ドを
多数 のサーバや 巨大なデー タセ ンター を備 えたサー ビス提供者 お よびそのサー ビス提 供者 を利用 した2次的なサー ビス提供者 の 存在 を前提 に、IT資源 が必要 な利用者 が従 来の よ うにIT資源 を購入す るのではな く、
ネ ッ トワー クを通 じて必要なIT資源 を利用 し、利用 した分の料金 を支払 うという汀資 源 の購入 ・所有か ら利用‑の転換
ととらえ、クラウ ドコンピューテ ィングの本質 を
IT資源 の所有か ら利用‑の転換
であるとし、この考え方にもとづいて (パブ リッ ク) クラウ ドコンピューテ ィングを
汀資源 の所有か ら利用‑の転換 とそれ によ り派生す る現象
と定義 した。 この定義では
サーバの存在 を利用者 は意識 しない
とい う条件 は考 えなかった。会計情報や個人情 報 な どの重要な情幸鋸ま保存場所 を明確 に把握 し てお く必要があ り、クラウ ドコンピューテ ィン グを通 じて保存す る場合 に も保存す る場所 を明
確 に把握す る必要があるか らである。
ただ し、現時点では安全性や法制面 を考慮す ると、会計情報や個人情報 な どの重要 な情報 を (パ ブ リック) クラ ウ ドコン ピューテ ィングを 通 じて保存す るのは時期 尚早であ り、安全面で の強化 と法制面での整備 がな された後 に実施す べ きであるとも指摘 した。
( 2)
パ ブ リッククラウ ドの利点パ ブ リッククラウ ドの主な利点は 「所有せず 利用す る」 こ とか ら生 じる以下の2点 に要約 で
きる。
(ヨコス ト低減
②迅速性
コス ト低減 については、まず初期投資がほ と ん ど必要 ない点があげ られ る。ITリソースを購 入 しないので、巨額 な初期投資は不要である。
また、運用 ・管理 はサー ビス提供者側 が行 うの で、運用 ・管理 コス トが低減でき、運用 ・管理 にあた る要員 の削減 による人件費の削減 も可能 となる。 ただ し、既存 システム との連携 な どで 追加費用の発生 も考 え られ るので、十分検討 し てか ら採用す る必要がある。
岡安 はAmazonEC2/S3を使 用 した場合 の コ ス トを試算 して、 コス ト効果 を得 るためには利 用 者 側 で も工 夫 が必 要 で あ る と指 摘 して い る13)14)。 この試算では コス ト効果 を高 めるため には
①パブ リッククラウ ドで利用す るサーバ は 多いほ うが良い。
②環境構築時間を短縮す る。
③無駄 な通信 を減 らす。
とい う点が重要である として、適す るシステム として
(ヨデー タ転送量が比較的少 な く、CPUに負
荷がかか り、 しか も多重事項で処理性能 が求 め られ るシステム
② ごく一部 の期 間にだけ しか トラフィック が発生 しないシステム
③重要度の低 いシステム
を上げ、具体的なシステムの例 として
(∋販促 キャンペー ン用 システ ム
② システム開発 の開発環境
③多重実行 できる月次バ ッチ処理
④受発注予測 システム
⑤ALMシステム
⑥社 内グループ ウェア
を示 している。 ただ し、心情的な安心感 のため にも、個人情報 を生で扱 わない工夫が必要であ るとも指摘 してい る。
迅速性 については、まず システム運用 開始ま での期 間の短縮 があげ られ る。 自社 でシステム を構築す る場合 はシステムの設計か ら運用 まで かな りの期間を要す るが、パブ リッククラウ ド の場合 は申 し込みか ら運用開始 までの期 間は非 常に短 く、必要 な時期 にす ぐ運用できるとい う 利点がある。また、パブ リッククラウ ドの場合、
システムの拡大 ・縮小や システムの変更が短期 間にでき、廃止 も利用 を停止す るだけで よく簡 単である。 迅速性 とい う点については 自社構築 システムよ りはるかに優れてい る。その結果 と
して、業務効率の向上 も期待 できる。
ITmediaエ ンター プ ライ ズ とアイ ・テ ィー ・ アールが実施 した 「クラウ ドコンピューテ ィン グに関す るアンケー ト調査」 9)におけるパブ リッ ククラウ ドの利 点は
自社で資産 を持つ必要がない (57.8%) サー ビス開始 までの時間が短い (47.0%) 初期 コス トが低い (40.6%)
自社 で運用要員 を持つ必要がない (33.7%) どこで もサー ビスが利用できる (32.0%)
トー タル コス トが低い (28.9%)
運用 コス トが低い (27.2%) いっで も利用停止できる (22.7%)
PIC・携 帯 な ど端末 の種類 に左右 されず に同 等 のサー ビスが利用できる (15.50/.)
ビジネスス ピー ドが速 くなる (15.0%) 常に最新 ・最高のサービスが選択できる(ll.9%) サー ビスの選択肢が多い (9.1%)
業務効率が向上す る (6.2%) その他 (4.1%)
であ り、 コス ト低減 と迅速性 が中心であること が分か る。
以上見てきた とお り、パブ リッククラウ ドの 利点は最初 に述べた
(ヨコス ト低減
②迅速性
であることが分か る。
( 3)
パブ リッククラウ ドの欠点パブ リッククラウ ドの利点
(Dコス ト低減
②迅速性
は企業 に とって非常に望ま しい条件であるが、
普及率はそれ ほ ど高 くない。
ITmediaエ ンター プ ライ ズ とアイ ・テ ィー ・ アールが実施 した 「クラウ ドコンピューテ ィン グに関す るアンケー ト調査」 9)におけるパブ リッ ククラウ ドの利用に関す る調査では
現在利用 中 (19.0%)
利用す るべ く現在評価 中 (10.1%) 利用計画 はない (34.0%)
分か らない (12.2%)
となってお り、パブ リッククラウ ドを利用 ある い は利 用検討 中の企業 が約30%で あるのに対 し 96 国際経営論集 No.39 2010
て利用 してないあるいは利用す るか ど うか分か らない とい う企業が半数近 く存在 してい る。
また ,株 式会社 野村総合研 究所 が実施 した
「企業情報 システ ム とITキー ワー ドに関す る調 査」 15) にお ける 「重要度が最 も低 い」 あるいは
「重要度 が低い」汀の上位10項 目は
仮想空間 (セカン ドライフな ど)の利用(82,3%) スマー トフォンの導入 (78.5%)
ブログ/sNSによる情報共有基盤 の構築(73.2%) リッチクライアン ト‑の移行 (70.7%) 軽量フレームワークを用いたシステム開発(68.2%) Linuxの基幹系 システムでの採用 (66.9%) WindowsVista‑の移行 (64.1%)
BPOの活用 (63.7%)
(パブ リック)クラウ ドコンピューテ ィングの 活用 (62.7%)
NGNの活用 に向けた検討 (62.1%)
であ り、パ ブ リッククラウ ドコンピューテ ィン グも入 ってい る。
企業に とって望ま しい条件 を備 えていなが ら、
急速 に普及 していかないのは、所有 しない こと による欠点が存在 し、その欠点が企業 に とって 無視 できないか らである。パブ リッククラウ ド の欠点は以下の2点に要約できる。
① 自社 コン トロール の範 囲外の項 目の多 さ
②セ キュ リテ ィに対す る不安
自社 コン トロール の範 囲外 の項 目は
・データ保存場所が不 明 (保 存場所が 自社のコ ン トロール外)
・データが 自社 コン トロール外の社外に保存 され ること‑の心理的抵抗感
・システムの性能 ・機能が 自社のコン トロール外
・サービス提供業者の事業停止あるいは倒産
・システム障害が発生 しても自社で対応できない
・保存場所が外 国の場合はデータがその国の法律 の適用を受ける可能性がある
な どかな りの項 目が存在す る。
セ キュ リテ ィに対す る不安 については
・セ キュ リテ ィ ・レベル が不明
・信頼性 ・可用性‑の不安
・デー タの漏洩 ・喪失
・イ ンターネ ッ ト使用 に対す る不安
な どが存在す る。
ITmediaエ ンター プ ライ ズ とアイ ・テ ィー ・ アール が実施 した 「クラウ ドコンピューテ ィン グに関す るアンケー ト調査」 9)におけるパブ リッ ククラウ ドの不安点は
社外サー ビスのセキュリティ ・レベルがわか ら ない (72.6%)
自社以外のデータセンターに自社情報を保管す ること (47.7%)
サービス提供業者の事業停止や倒産 (41.7%) 緊急時でも自社でサービス復 旧ができない(40.8%) メンテナンスのための停止時期を自社でコン ト ロールできない (33.6%)
サービスがインターネットに公開されている(20.9%) 社外サービスのサービス ・i/J</レが低い (ll.5%) その他 (3.1%)
であ り、 自社 コン トロールの範囲外 の項 目の多 さとセ キュ リテ ィに対す る不安が中心であるこ とが分か る。
これ らの欠点は企業 に とっては無視できない 重大な欠点であるので、パブ リッククラウ ドが 急速 に普及す ることはない。
パブ リッククラウ ドで使用 されるインターネ ッ トについて もセ キュ リテ ィや通信 品質の面で問 題 がある。
イ ンターネ ッ ト利用 に伴 う過去 1年 の被害調 査 (平成20末)16)では、世帯 についての 自宅パ
ソコンの被害経験は
信 (36.3%)
② コンピュータウィルスを発 見 したが、感染 し なかった (24 .7%)
③ コンピュータウイルに1度以上感染 (9.3%)
④架空請求メールの受信 (5.6%) 6)不正アクセス (0.8%)
⑥スパイウェア等による個人情報の漏えい(1.0%)
⑦フィッシング (1.1%)
⑧ ウェブ上での誹誘 中傷等 (1.0%)
⑨その他 (著作権の侵害等)(0.1%)
⑲特に被害はない (41.4%)
であ り、世帯 についての携帯電話 の被害経験 は
①迷惑メール (架空請求 メール は除 く)の受信 (35.6%)
②架空請求 メール の受信 (15.0%)
(ヨコンピュー タ ウィル スを発見 したが、感染 しなかった (0.9%)
④ フィッシング (0.7%)
⑤ コンピュー タ ウイル に1度以上感染 (0.3%)
⑥ ウェブ上での誹誘 中傷等 (0.7%)
⑦不正アクセス (0.3%)
(参スパイ ウェア等 に よる個 人情報 の漏 えい (0.4%)
⑨その他 (著作権 の侵害等)(0.0%)
⑩特 に被害はない (41.5%)
である。 また、企業 にお ける被害経験 は
(Dコンピュー タ ウィル スを発見 したが、感染 しなかった (34.5%)
② コンピュー タウイル に1度以上感染 (21.6%)
③ スパ ムメール の中継利用 ・踏み台 (4.0%)
④DoS攻撃 (1.7%)
⑤不正アクセ ス (1.8%)
⑥故意 ・過失 による情報漏 えい (1.9%)
⑦その他 の侵害 (0.9%)
⑧ ホームページの改 ざん (0.4%)
⑨特に被害はない (41.0%)
①迷惑 メール (架 空請 求メールは除 く) の受
であった。 ともにコンピュー タウィルスや迷惑 メール に関す るものが多いが、被害 を受 けた割 合がかな り大 きい ことがわか る。
イ ンターネ ッ ト利用で感 じる不安 あるいは問 題点の調査 (平成20末)17)では、世帯で感 じる 不安 は
①個人情報 の保護 に不安がある (71.2%) (ヨウイル スの感染が心配である (67.2%)
③ どこまでセ キュ リテ ィ対策 を行 えばよいか 不 明 (61.7%)
(彰電子的決済手段の信頼性に不安がある(40.4%)
⑤違法 ・有害情報が氾濫 してい る (35.5%) (砂セキュ リテ ィ脅威 が難解で具体的に理解 で きない (33.7%)
⑦認証技術 の信頼性 に不安がある (15.6%)
⑧送信 した電子 メールが届 くか どうかわか ら ない (9.2%)
⑨知的財産 の保護 に不安がある (7.9%)
⑩その他 (1.5%)
⑪無回答 (0.1%)
であ り、企業が感 じる問題点 (企業 内LAN等 も 含む)は
①セ キュ リテ ィ対策の確立が困難 (61.8%)
② ウイルス感染 に不安 (59.2%)
③従業員のセキュ リテ ィ意識が低い (40.5%)
④運用 ・管理の費用 が増大 (38.8%)
⑤運用 ・管理の人材 が不足 (36.9%)
⑥障害時の復 旧作業が困難 (26.6%)
⑦通信料金 が高い (21.1%)
⑧導入成果 の定量的把握 が困難 (17.7%)
⑨通信速度が遅い (ll.8%)
⑩導入成果 を得 ることが困難 (ll.6%)
⑪認証技術 の信頼性 に不安 (6.4%)
⑫著作権等知的財産の保護 に不安 (6.2%)
⑬電子的決済の信頼性 に不安 (5.7%)
⑭その他 (1.6%)
⑮特 に問題 な し (4.3%)
⑯無回答 (1.9%)
98 国際経営論集 No.39 2010
であった。
イ ンターネ ッ トはその普及度 、利用度か ら見 て明 らかに社会基盤 のひ とつ になってい るが、
セキュ リテ ィ ・通信 晶質の問題 点や上述 の世帯 や企業の不安 の割合 の大 き さを考 えると、イ ン ターネ ッ トの使用 がパブ リッククラウ ドの普及 を妨げる一つの原因 となっていると推測できる。
3.
プ ラ イ ベ ー トク ラ ウ ドとク ラ ウ ドの再 定義(1) プライベー トクラウ ド
パブ リッククラウ ドに関 しては前述 の欠点が 存在す るので、利用 しない とい う企業 も少 な く ないが、セキュ リテ ィに対す る不安 な しにクラ ウ ドの長所 (の一部) を備 えてい るシステム と してプライベー トクラウ ドとい うシステムが注 目を集 めてい る1820)0
プ ライベー トクラウ ドとは、一企業 あるいは 一企業 グループ内にクラウ ド型 のシステムを構 築 した ものであ り、非常に高いセキュ リテ ィ ・
レベル を実現できる。 自社 のデー タセ ンター に サーバやス トレージな どの資源 を集約 し、各部 署 にイ ン トラネ ッ トでサー ビスを提供す る。企 業 あるいは企業 グループの従業員 は利用 したい ときに利用 したい分だけサー ビスを利用す るこ とになる。
プ ライベー トクラ ウ ドはすでにIBMやNECな どで取 り組 まれ てい る。IBMでは研 究開発用の システ ム (IBM Research Compute Cloud)や 社 内コミュニティ用のシステム (IBM technology AdoptionProgram)がプ ライベー トクラ ウ ドを 用いて構築 ・運用 され、またNECでは基幹 シス テムをプライベー トクラウ ド再構築す るとい う
とい うプ ロジェク トに着手 してい る20)。 以下で は、IBMやNECが公表 してい る資料 な どを基に、
これ らの例 を概観 し、プライベー トクラウ ドの 特徴や利点な どを考察す る。
( 2)旧M Res e ar chCompu t eCl oud
(研 究開発用 プライベー トクラウ ド)20ト21)ここでは、20)、21) によ り 「IBM Research computecloud」の内容 を概観す る。
「IBM Research Compute Cloud」は世界各 地 に 点 在 し て い るIBMの 基 礎 研 究 所 の 約 3,000人 の研 究員 が使 用す る研 究 開発用 のプ ラ イベー トクラ ウ ドシステ ムで ある。IBMは この システムについて (プ ライベー トクラウ ドが解 決すべ き)課題 、 ソリューシ ョン、効果 を発表
してい る21)0
1.課題
IBM基礎研 究所の研 究員 がITリソース要求 の 承認 を得てか ら、対応す るイ ンフラの特定 とプ ロビジ ョニ ングを実行 し、稼動状況 をモニター す る準備 を整 えるには通常2週間かかっていた。
したがって、IBM基礎研 究所 の研 究員 は、研究 プ ロジェク トにおけるITリソースのプ ロビジ ョ ニング申請 か らシステム環境提供 までの所要時 間を短縮す る必要があった。
2.ソ リューシ ョン
研究所にプライベー トクラウ ドコンピューティ ングを導入す ることによ り、 1杯 の コー ヒー を 掩れ る程度 の時間で ビジネ ス ・プ ロセ スの ワー クフロー管理、プロビジ ョニ ング、お よびキャ パ シテ ィー ・プ ランニ ングを実行 できるよ うに なった。
3.効果
プ ライベー トクラウ ドコンピューテ ィングの 出現 によ り生産性が向上 し、ITリソースの稼働 率が改善 され、 ここの研究所 の予算 を一本化す ることができた。 さらに以下のよ うな効果 も得 られた。
① ワー クロー ドをダイナ ミックに調整す るこ とが可能 となった。 た とえば、IBMの ワ ト ソン研究所が祝 日で しまってい る間、実行
中のワー クロー ドを世界 中の他 の研究所 に 移行できるよ うにした り、特定のアプ リケー シ ョンが最 もうまく機能す るプラッ トフォー ムにワー クロー ドを割 り当てた りす ること が可能 となった。
②末テス トのコー ドを本番 システムで実行す ることな くベ ンダー ・パ ッチをテス トす る な どの よ り実務 的なタスクにも役立つ。 ク ラウ ドによって、本番 システムに影響 を与 えることな く、大規模 な異機種混合のサー バ構成で ソフ トウェア ・パ ッチ をテス トす
ることも可能 となった。
( 3)旧M t echnol ogyAdopt i onPr ogr am
(TAP:新規技術の試行 プログラム)20)、22)
ここでは、20)、22)に よ り 「IBM technolog yAdoption Program (以 下 で はTAPと略す)」 の内容 を概観す る。
TAPの役割 は、IBMの新 しいテ クノロジーの プ ロ トタイプを作成 して、10万人 の社 内技術者 に試用 して もらうことである。技術者 は新テ ク ノロジーの試用のフィー ドバ ックを提供す る。
IBMでは、 フィー ドバ ックに基づいて多種多様 な新テ クノロジー ・アプ リケーシ ョンの中か ら どれ を製 品化す るか決定 してい る。IBMは この TAPについて (プ ライベー トクラウ ドが解決す べ き)課題 、 ソリューシ ョン、効果 を発表 して い る22)。
1.課題
TAPの課題 は 「最 も有望 なテ クノロジー をい ち早 く特定 して製品化 の道筋 をつ けるために、
新 しいテ クノロジー を素早 く効率的に社 内の技 術者 に展開す るには どうすれ ば よいか」 とい う
こ とで あった。 年 間120件 のプ ロジェク トのプ ロ トタイプを10万人 もの社 内技術者 に渡すのは 難 しく、費用のかかる作業である。標準的なデー タセ ンター環境 で新 しいITテ クノロジー を展開 す るには多 くの労力 を要 し、
I
Tイ ンフラの調達と構築のスケジュール を立て るには数 ヶ月が必 要であった。サポー トすべ きプ ロジェクが年 間 120件 もあ るTAPプ ログラムが 目標 を達成す る には、488台のサーバ を追加購入す る必要があっ た と考 え られ るが、多額 の費用が必要な上 に、
手動でITイ ンフラを配備す る場合 の課題 の解決 も大変であった。
2.ソリュー シ ョン
物理サーバ と仮想サーバの構成 に必要な時間 を大幅に短縮 し、必要 な ときに必要 なだけのIT
リソースを使用 し業務の遂行に必要なハー ドウェ ア と作業 を減 らす手段 としてプライベー トクラ
ウ ドコンピューテ ィングが採用 された。
3.効果
プライベー トクラウ ドコンピューテ ィングに よって、ITイ ンフラの調達 と構築 に必要 な期 間 を数週間か ら数時間に短縮でき、生産性 が大幅 に高め られた。また、TAPの予算 も減額できた。
ハー ドウェアの年 間予算額 は130万 ドル減額 で き (新 たに購入す るサーバ が488台か ら55台 に 減少)、電力料金 の年 間削減額 は69,600ドル を 超 えた。 管理費の年 間削減額 は190万 ドル (必 要な管理者 が15人か ら2人に減少) と推定でき る。 さらに、作業量が減少 したため、人材 をそ の他 のプ ロジェク ト業務 に配属す ることが可能
となった。
( 4)
NECの基幹 システムのプライベー トクラ ウ ド化 20)、23)29)NECは2009年3月2日に 自社 の基幹 システム をプライベー トクラウ ドコンピューテ ィングを 用いたシステムに前面刷新す ると発表 した。対 象 となるのは国内外のNECグループ各社の販売、
購買、経理 の基幹 システムで、グループ全体で 統一の基幹 システムを使用す る体制の整備 を進 めてい る。2010年4月に経理 システム、2011年 4月に販売 ・購 買システ ムの運用開始 を予定 し てい る。20)、28)30)
100国際経営論集 No.39 2010
NECでは、単にプライベー トクラウ ドコンピュー テ ィングを使用す るだけでな く、最初 に、シン プル な組織体制、制度 を導入す る 「事業構造改 革」 に取 り組 み、その上で、 「業務 プ ロセ ス改 革」 と 「ITシステム改革」を行い、経営のス ピー ドア ップ と連結業務 の見 える化 に取 り組 んでい
る2 7 ) 。
1.業務プ ロセス改革24)
ここでは、24)によ り 「業務 プ ロセス改革」
の内容 を概観す る。
ITシステムの改革 は重要であるが、増大す る 業務パ ター ンを減少 させ ることな しにIT改革 を 実施 して も十分 な効果 は上が らない。 「業務 プ ロセス改革」 と 「ITシステム改革」が一体 となっ て初 めて経営システムの改革が実現できる。
NECが取 り組 んでい る経営 システム改革 の 目 的は国内外の関係各社 の業務 プ ロセスを標準化
し、グループ企業全体で共通 に活用 できる新た な事業基盤 の構築である。業務 プロセスの標準 化 や基盤 システ ムの統合 に よる大幅 なTOC削 減 が最大の狙いである。 同時に、グローバル な 競争力や グループ全体 にお ける リアル タイムな 連結経営管理の実現 も 目指 している。 さらに、
今回の業務プ ロセス とITシステ ムの改革が情報 システム部 門まかせ でな く、経営 トップの リー ダーシ ップによって推進 してい ることも注 目す べ きである。
業務 プ ロセス改革の内容 は、 グループ企業の 経営基盤 である 「販売 ・購 買 ・経理」 とい う3 つの機能領域 にお ける業務 プ ロセスの標準化 と
「sI・装置 ・量販 ・デバイ ス」 の4つ の主要事 業領域 における事業活動の全体最適化 を実施 し、
これ によって国内外 のグループ企業共通の統一 基準 ともい える業務プ ロセスを構築 した ことで ある。業務プ ロセス改革 にお けるポイ ン トは2 つ ある。ひ とつはオーナー制度 の導入である。
業務 プ ロセス標準化 の責任者 として 「プ ロセス オーナー」 を、グループ全体の業務 コー ド (製 品コー ド、取引先 コー ドな ど)共通化 の責任者 として 「コー ドオーナー」 を新たに配置 した こ
とである。各オーナーは今 回の業務 プ ロセス改 革の責任者 としてだけでな く、現状把握や改善 な ど継続的なBPM (ビジネスプロセスマネ ジメ ン ト) において も個別最適 に陥 らない よ う、ガ バナ ンスを効かせ る役割 を担 う。 も う一つはデ ファク トスタンダー ドといえるツール の採用で ある。基幹業務の標準システム としては、世界 中で数多 くの導入実績 を誇 るSAP社 のERPシス テムやIDSScheer社 のBPMツール を採用す るな
ど、グローバル標準 を強 く意識 してい る。
業務 プロセス改革の成果 としては、まず業務 パター ンの大幅な削減が上げ られ る。た とえば、
販売領域 では、 100以上 あった業務パ ター ンを 22の基本パ ターンとその組み合わせ に整理 した。
似通 った業務パ ター ンのシンプル化 によ り、エ リア、製 品、得意先 な どさま ざまな分析指標 か らグループ各社 の事業状況がすばや く可視化で きるよ うにな り、管理会計や意思決定の迅速化 が実現できた。 さらに、業務パ ター ン上の コン トロールポイ ン ト (重要管理点) も共通化 され るため、監査効率が上が り、内部統制強化 にも 大き く貢献 した。 この業務プ ロセス改革 によっ て、グループ全体で関連間接部門費約20%削減 を見込 める。
2.ITシステム改革24ト25)
ここでは、24)、25)によ り 「ITシステム改革」
の内容 を概観す る。
ITシステ ム にお け るTCO削減 は多 くの企業 が抱 えてい る課題 であるが、サーバ統合や仮想 化 、省 エネ対策 な どだ けではTCO削減 に も限 界がある。重要なのは部分的な対策だけでな く、
業務 プ ロセスの見直 しも含 めた全社 レベル の対 策である。
NECでは、まず グループ全体にお ける業務 プ ロセスのシンプル化 を図 り、 これまで グループ 各社で分散運用 していた基幹 システムのシンプ ル化 と統合 を可能 に した。その上で、統合化 し た共通基盤 をNECの高信頼デー タセ ンターで集 中運用す る。 グループ各社 は従来の よ うに個別 の基幹システムを所有す ることなく、共通のサー
ビス として利用す ることで、ハー ドウェア ・ソ フ トウェアの導入 、システムの構築や運用 な ど の さま ざまな負担か ら解放 され る。 この 「エ ン タープライズクラウ ド」活用 を実践す ることに よ り、NECグル ー プ全体 で約20%のTCO削減 が見込 める。
今回の汀システム改革では、クラウ ドコンピュー テ ィング以外 に注 目すべ き点 として、Windows
とSQL Server採 用 に よる低 コス トの基幹 シス テムの構築があげ られ る。マイ クロソフ ト社 と 緊密 な連携 を図 りなが ら高負荷テス トを何度 も 繰 り返 し、グループ約15万人規模 の基幹 システ
ム としての堅牢性 を確保 した。
(5)プライベー トクラウ ドの構築
岩 上 はNECやIBMな どのプ ライベー トクラウ ドを解析 し、プ ライベー トクラウ ドの構築 と運 用 を実現す るための3つのステ ップを提唱 して い る31)。 3つのステ ップ とは
ステ ップ 1 リソースの統合 と共有 ステ ップ2 構築 ・運用 プ ロセスの標準化 ステ ップ3 構築 ・運用 プ ロセスの 自動化
である。
ステ ップ1では、仮想化技術 を活用 し、サー バ、ス トレー ジ、ネ ッ トワー ク機器 な どのITリ
ソースを統合 し、複数 の業務やアプ リケー シ ョ ンで共用す る。 遊休 してい るITリソースを極力 減 らす ことが 目的である。
ステ ップ2では、仮想化 され統合 ・共有 され たITリソースを活用す るポ リシーや手順 を統一 す る。各部署や各拠点で異 なっていたのでは意 味がない。
ステ ップ3では、ユーザ側 が業務処理 の情報 を入力す ることでシステム側が必要な、ITリソー スを 自動的に確保 し、実行で きるよ うになる。
さらに、岩上 は3つのステ ップを実践す るに当 た り、克服すべ き3つのポイン トを挙げている。
3つのポイ ン トとは
ポイ ン ト1 サーバ のみでな くITリソース全 般 の仮想化が必要
ポイ ン ト2 仮想化環境 に対応 した統合 的な 運用管理 の仕組み を整 える ポイ ン ト3 業務 プ ロセスの共通化 ・共有化
に取 り組む
である。
NECの改革 を見 ると、岩上の指摘 どお り業務 プ ロセスの共通化 ・共有化が重要であることが わか る。仮想化 な どの技術面が重要であること は当然であるが、それ に劣 らず業務 プ ロセス改 革 も重要であることを構築に際 しては注意すべ きである。
業務 プ ロセス改革 ・ITシステム改革 は情報 シ ステム部 門だけでな く、全部署あるいは企業 グ ループ全社 に係 ることであるか ら、情報 システ ム部 門が主導す るのではな く、NECの よ うに経 営 トップが全社的あるいは全 グループ的に主導 しなければ成功 しない。他の部署あるいはグルー プ会社 の反対があるときは、情報 システム部 門 では対処できないか らである。経営 トップの強 力 な リーダー シ ップが必要である。それ ゆえ、
岩上が指摘 した3つのポイ ン トに
ポイン ト4 経営 トップの強力な リーダーシッ プのもと全社的 (全 グループ的) に実施す る
を付 け加 えたい。 また、NECは業務 プ ロセ ス改 革 ・ITシステム改革の前にシンプルな組織体制、
制度 を導入す る 「事業構造改革」に取 り組 んで お り、 これ も重要なことであるか ら、岩上の3 ステ ップに
ステ ップo 組織体制、制度のシンプル化 の 実施
を付 け加 えたい。
基幹 システムをプライベー トクラ ウ ド化す る 102国際経 営論集 No.39 2010
には、単にシステムを導入す るだけでな く、全 社的あるいは全 グループ的な経営改革が必要 と なる。経営改革 な しに導入 した場合 は最大の効 果 は得 られない。
(6) プライベー トクラウ ドの利点 と欠点
管理 ・運用の利点はパブ リッククラウ ドの欠 点 とされ るの もが解 消できるとい う点である。
す なわちその利点 とは
・セキュ リテ ィについては非常に高い レベル に 設定す ることが可能
・デー タ保存場所 が明確
・デー タが 自社 内にあるので社外 に保存 され る こと‑の心理的抵抗感 はない
・システムの性能 ・機能が 自由に選択 できる
・システム障害が発生 して も自社 で対応 できる
な どである。既存の企業 システムに対す る利 点 は
・業務 の標準化
・情報 の共有化
・コス ト低減 (各部 門がITリソースを持つ場合 に比べて)
・迅速かつ柔軟 なシステム構築ニーズ‑の対応
・利用者の利便性強化 (ブラウザな どで利用可)
・集 中管理 ・運用 による各部署 のシステムの管 理 ・運用の負担 の軽減
な どがあげ られ る。業務 の標 準化 はプ ライベー トクラウ ドの利 点 とい うよ りはプライベー トク ラ ウ ドを導入す る際に必要 なことであるが、導 入がなければ進 まない可能性があるとい うこと を考慮すれば利点 として も問題 はない。
一方、パ ブ リッククラウ ドに対す る欠点は
・多額 な初期投資
・設計か ら運用開始までの期間の長期化
・運用 ・管理 コス トの多 さ (パブ リッククラ ウ
ドは運用 ・管理 はサー ビス提供者側)
・情報 システム部員 のクラウ ド技術 の習得 の必 要性
・既存 システムか らクラウ ドシステム‑の変換 (再構築) に伴 う多大な労力 と時間
な どである。業務 の標準化 は完成すれ ば明 らか に利点 となるが、全社的あるいは全 グループ的 な業務 の標 準化 の遂行 は困難 を伴 うので、プ ラ イベー トクラウ ド化の大きなデ ィスインセンティ ブにな りうる。 したがって、業務の標準化 は欠 点に もな りうる。
これ らの欠点はあるものの、企業が懸念す る パブ リッククラウ ドの欠点が存在 しないので、
今後プライベー トクラウ ドはかな り普及す る可 能性 がある。
(7) プライベ ー トクラウ ドとパ ブ リッククラ ウ ドのコス ト比較
プ ライベー トクラウ ドのパブ リッククラウ ド に対す る欠点で も述べた とお り、プライベー ト クラウ ドの方が コス トがかか ると思われてい る が、反対 の結果 が出た研 究が ある32)。 ここでは 32)によ りこの研究の概要 をま とめ、考察 を加 える。
ScottAA Bain、hnesRead、John∫Thomas、 FehminaMerchantは以下の異 なる4つ のプ ラ ッ
トフォー ムを使用 して、5年 間にわたって100 の Linuxイ メー ジを実行 した場合のTCOを見積
り、イ メー ジまたはワー クロー ド当た りの コス トが最小になるプラッ トフォームを特定 した。
(ヨス タ ン ドア ロ ンのⅩ86サ ーバ を購 入 す る (それぞれ 1つのイメージ/ワー クロー ドを 実行)
②Amazon EC2イ ンス タ ンス を レンタル す る (それぞれ 1つ のイ メー ジ/ワー クロー
ドを実行)
③大型 のⅩ86サーバ を購入 し、VMwareを使用 して仮想 サーバ をプ ロ ビジ ョニ ングす る
(プライベー トクラウ ド)
④既存のzlOECマシンをア ップグ レー ドし、
Z/vMを使用 して仮想 サーバ をプ ロビジ ョ ニ ングす る (プ ライベー トクラウ ド)
TCOと して はハ ー ドウェア、 ソフ トウェア、
保守、施設 (電力/冷却)、管理 コス トお よび24
Ⅹ7を想定 したオペ レーシ ョン ・コス トが含 まれ る。 管理 コス トは、IBMの内部調査 か ら算 出 し た。
このTCO比較 の結 果 は以 下 の とお りで あっ た。
(ヨスタン ドア ロンサーバ を購入 した場合 は、
イ メー ジ/ワー クロー ド当た り375,000ドル で最 もコス トが高かった。
②Amazon EC2イ ンス タ ンス を使 用 したパ ブ リッククラウ ドの場合、イメージ当た り 277,000ドルで予想 に反 して高 コス トとなっ た。 高 コス トとなった主 な理 由はWASやD B2の ソフ トウェア ・ライセ ンスの コス ト が大 きい ことと独 自に仮想サーバ をプ ロビ ジョニングす ることによるスケール ・メ リッ
トが得 られ ない ことである。
③大型 のⅩ86サーバ とvMwareの場合 (プ ライ ベー トクラウ ド)は、イメージ当た り62,200
ドルであった。
④既存のzlOECマシンをア ップグ レー ドし、
Z/vMを使 用 して仮想 サーバ をプ ロビジ ョ ニング した場合 (プライベー トクラウ ド) は、イ メージ当た り47,600ドルであ り、最 も低 コス トとなった。
この研 究においては、スタン ドア ロンサーバ やパ ブ リッククラウ ドの場合 に比べて、プ ライ ベー トクラウ ドのほ うが低 コス トであることが 示 されている。
プライベー トクラウ ドもパブ リックラウ ドも 現在急速 に発展 している分野であるか ら、 この 1例 をもって 「スタン ドアロンサーバやパブ リッ ククラウ ドに比べて、プライベー トクラウ ドの
ほ うが低 コス トである」 とは言い切れないが、
「プ ライベー トクラウ ドはパ ブ リッククラウ ド に比べ高 コス トである」 とい うプライベー トク ラウ ドの欠点を覆す結果 を得た点は注 目すべき である。パブ リッククラウ ドより低 コス トなプ ライベー トクラウ ドが構築できた とすれば、企 業のITシステムの構築に大きな影響 を及 ぼす。
( 8)
クラウ ドの再定義前稿12)では、本稿 でも述べた とお り、クラウ ドコンピューテ ィングの本質 を
IT資源 の所有か ら利用‑の転換
であるとし、この考え方にもとづいて (パブ リッ ク) クラウ ドコンピューティングを
IT資源 の所有か ら利用‑の転換 とそれによ り 派生す る現象
と定義 した。
しか しなが ら、プ ライベー トクラ ウ ドはIT リソースの 自社所有を前提 としているので、 こ の定義は当てはま らない。 ここでは、パブ リッ ク、プライベー ト両クラウ ドに共通の特徴 を考 えることで、クラウ ドコンピューテ ィングの再 定義 を行 う。共通の特徴は
① システムを一括管理 ・運用す るセ クシ ョン が存在 し、このセクションがサー ビスをネ ッ
トワークを経 由 して提供す る。
②利用者 はサーバな どITリソースの存在 を意 識す ることな く、利用 したい ときに利用 し たい分だけ、容易な方法で利用できる。
③利用者は利用 した分に応 じた対価 を支払 う。
であ り、これ らの特徴 を備 えたシステムをクラ ウ ドコンピューティング (システム) と定義す る。
①のセクシ ョンに当たるのはパブ リッククラ 104国際経営論集 No.39 2010
ウ ドではサー ビス提供業者であ り、プライベー トクラウ ドでは情報 システム部門である。②の 利用者 はパブ リッククラウ ドでは一般 の企業や 個人であ り、プライベー トクラウ ドでは企業あ るいは企業 グループの役員や従業員である。③ の対価 については、パブ リッククラウ ドでは料 金 を支払 うのは当然であるが、プライベー トク ラウ ドにおいて も支払 うべき対価が存在す る。
プライベー トクラウ ドを用いた情報システムは 企業の各部門あるいは企業 グループの各社 (の 各部門)が共通 して使用す る資産であるか ら、
各部門が使用量や受益量に応 じた コス トを負担 す る (ITコス トとして費用計上す る)必要があ る。一般 に情報 システムの使用量や受益量を正 確 に把握す ることは難 しいが、プライベー トク ラウ ドを用いた情報 システムでは少 な くとも使 用量 に も とづ くITコス トの把握 は容易 で あ る (パブ リッククラ ウ ドの料金 の仕組 み と同様 に 算 出すれ ばよい)。 この よ うに して求ま るITコ ス トがプライベー トクラウ ドの利用者 の対価 と なる。
ここで述べた定義はITリソースを 自社で所有 す るか しないかにはかかわ らず使用可能であ り、
両クラウ ドを統一 したクラウ ドの定義 となって いる。
4.
会 計 情 報 シス テ ム39)41)とプ ライ ベ ー トクラウ ド
(1)情報 システム と人間
コンピュー タを中心 としたシステムは、コン ピュータシステム、情報処理 システム、情報シ ステム といった名称がつけ られてい るが、浦、
市川 はこれ らのシステムの違いを次の よ うに述 べている33)。
① コンピュータシステム
コンピュー タの物理的機構 (ハー ドウェア) に論理的な機構 (基本 ソフ トウェア) を積み上
げた ものをコンピュー タシステム とい う。
②情報処理 システム
コンピュータシステムに、ある業務 を想定 し てそのための応用 ソフ トウェアを盛 り込んだ も のを情報処理 システム とい う。す なわち、デー タの収集 ・記録 ・加 工 ・配布 に関わる一連 の仕 組みの総称 とい うことができる. ここで 「一連 の仕組み」 とは、ハー ドウェア、基本 ソフ トウェ ア、応用 ソフ トウェアを指 してい る。
③情報 システム
情報処理 システム と、 これ を使 う人間も含 め た組織体 を念頭 にお き、それ らの全体 を指す と き情報 システム とい う。
会計情報システムの研究においては、①、②、
③の どの立場 の研究 も必要 となるが、 ここの定 義では情報 システムに人間 も含まれてい る点に 着 目したい。
また、情報 システム と人間について、関 口は
情報 システの構成要素は、情報処理機器 (コ ン ピュー タや その関連装置)、人 間、通信 情 報 システ ム、情報媒体か らなる34)
と述べてお り、 さらに
人 間の組織 は 「情報 システムを確 立す るため に構築 され る」 ともいわれ ることか らもわか るよ うに、情報 システムを検討す るには、そ の利用者 である人間を考慮 に入れ ないわけに はいかない。情報 システにおいては、人 間が 本来の主役 なのであって、 コンピュー タは不 可欠 の要素ではない。 しか し、今 日的な意味 では、 コンピュー タ と切 って も切れ ないほ ど 関係 が深 く、情報 システム とい うときには、
少 な くとも1要素 として コンピュー タが含 ま れ る と、常に考 えて よいほ どである35)0
とも述べてい る。
浦、市川 の情報 システム も関 口の情報 システ ムも人 間を一要素 として含 んでい る。本稿 では 会計情報 システムに人間を含んでいると考 える。
会計情報 システムの さま ざまな機能の うちで最 も重要 な機能は経営意思決定であるが、商標 が
道具であるコンピュータの性能は随分良くなっ たが、現在お よび近い将来ではまだまだ未発 達の ものであるとい うこと36)
と述べ、 さらに
経営の意思決定 といった社会的、経済的、人 間的要素等 も大 き く含 んだ複雑 な意思決定 と い うことになる と、まだまだ到底人間にはか なわない37)
と述べてい るよ うに、 コンピュー タのみでは経 営意思決定は不可能であ り、 したがって人間が 会計情報 システムの一要素 として必要 となる.
ただ し、浦、市川 の① コンピュー タシステム② 情報処理 システムの立場か らの会計情報 システ ムの研究 も重要である。
また、本稿 では会計情報 システムを複雑適応 系の観 点か ら考察す るが、会計情報 システ ムを 複雑適応系 とみなす とき、与 え られ る情報 か ら 経営意思決定 に関す るスキーマ を生成 し、改良 していかなければな らないが、これ もコンピュー タ単独では不可能であ り、人間が行 わな くては な らない。 したがって、会計情報 システムを複 雑適応系 として考察す る とき、人間を含 めて考 える必要がある。
( 2)
会計情報 システムの概念本稿 で考 える会計情報 システムの概念 は以下 の とお りである。
1. コンピュータを中心 とす る情報通信技術 を
もとに した情報ネ ッ トワー クであること。
2.意思決定 (戦略的な意思決定 も含む) を支 援す るシステムを含み、意思決定者及び意 思決定 グループに有用であること。
3.意思決定者 ない し意思決定グループのデー タに対応す るフィー ドバ ック機構 をもっ こ と。
4.意思決定者 ない し意思決定グループ も重要 な要素の一つであること。
5.システ ムの運用、保守及び改良を担 当す る システ ム要員や会計経理部門の担 当者 も重 要な要素の一つであるこ と。
6.ハー ドウェア、 ソフ トウェアの新 しい技術 や会計情報 システム論お よび会計学、情報 理論、行動科学な どの関連諸科学の新 しい 成果 を取 り入れ ることが可能 なオープンシ ステムであること。
7.集合知 ・巨大知 を取 り入れ活用す るシステ ムを含む こと。
8.ハー ドウェア、 ソフ トウェアお よび人的資 源 が有機 的に結び付 け られてい ること。
これ ら8つの特性 を会計情報 システムの必須 の特性 と考 えてい るが、特 に意思決定者 ない し 意思決定 グループお よびシステム要員や会計経 理部 門の担 当者 とい う人間 も含 まれてい る点に 注意 して も らいたい。
(3)会計情報 システムの機能
本稿 で考察す る会計情報 システムの機能 は以 下の とりである。
1.帳簿作成 ・管理機能 2.外部報告機能 3.内部報告機能 4.予算編成機能
5.意思決定(戦略的意思決定 も含む)機能 6.原価管理 (原価統制 ・原価低減 ・原価企画)
機能
7.環境会計機能
106国際経営論集 No.39 2010
8.集合知 ・巨大知解析機能
本稿 では会計情報 システムに人間 も含 めてい るので、意思決定支援機能ではな く意思決定機 能 となる。環境会計機能、集合知 ・巨大知解析 機能は必ず しも貨幣価値で表 された事象 を扱 う わけではないが、重要な機能 なので会計機能の 拡大 として取 り入れた。
( 3
)会計情報 システムの構造先進的な会計情報 システムの情報処理 システ ム としての構造 は会計情報 システムが単独 で存 在す るのではな く、各業務 システムか ら独立 し た取引入力システム と取引データベースを備 え、
各業務 システムはその取引データベースか らデー タを取 り入れ る統合型経営情報 システムのサブ システム として存在 してい るが、すべての業務 システムは会計デー タの送付や予算 の提 出 ・予 算 の決定 とその通達 によ り会計 システムに結び ついている。す なわち会計 システムが会計デー タ と予算 な どで各 システムを一体 としてま とめ てお り、 このよ うな見方 をすれ ば、統合型経営 情報 システムは統合型会計情報 システム とみな す ことができる。 このシステムに集合知 ・巨大 知 の もととなる膨大な数 の個人 システムがイ ン ターネ ッ トを介 してつながってい るシステムが 38)で考察 したweb2.0型会計情報 システ ムであ り、 さらにこのシステムにパブ リッククラウ ド が加 わ ったシステ ムを12)で考察 した。本稿 で は このシステムに さらにプ ライベー トクラウ ド を加 えたシステムを考察す る
(4)プライベー トクラウ ドを用 いた会計情報 システム
前稿12)では、パ ブ リッククラ ウ ドを用いた会 計情報 システムの構造 を考察 し、3つの 目的の 異 なるグループ、す なわち企業 (企業 に属す る 狭義 の会計情報 システ ム)、集合知 の もととな るイ ンターネ ッ トな どでつなが る膨大な数 の個
人 (携帯電話 あるいはパ ソコンでイ ンターネ ッ トな どに接続す る個人システム)、クラウ ドサー ビスを提供す るサー ビス提供者 (パブ リックク ラ ウ ドシステム)か ら構成 されてい ることを指 摘 した。
プライベー トクラウ ドを構築 しても、パブ リッ ククラ ウ ドシステムは完全 にはな くな らず、会 計情報 システムは企業 に属す るプライベー トク ラウ ドを用いた狭義の会計情報 システム と集合 知のもととなるイ ンターネ ッ トな どでつ なが る 膨大 な数 の個人 システム とパブ リッククラウ ド システム とな り、構造上 は前稿⊥2)で考察 したパ ブ リッククラウ ドを用いた会計情報 システム と 同 じになるが、企業に属す る狭義の会計情報 シ ステムの内部構造は大幅に進化 してい る。プ ラ イベー トクラ ウ ドを用い ることによ り一元管理 が可能 とな り、全社 あるいは全 グループの リア ル タイ ム会計が可能 となる。
5.
複雑適応系 とプライベー トクラウ ドを 用いた会計情報 システム(1) マ レー ・ゲルマ ンとジ ョン ・ホ ラン ドの 複雑適応系
マ レー ・ゲルマ ンは複雑適応系について、地 球上の生命 の起源、生命 の進化、生態系の中で の生物の行動、噛乳動物の免疫 システムの働 き、
動物 (人 間 も含 む)の学習 と思考、人 間社 会 の 進化 、金融市場 にお ける投資家の行動 な どの過 程で共通す る特徴があるとして
それぞれの複雑適応系が 自らを取 り巻 く環境 と、 自分 とその環境 との相互作用 に関す る情 報 を得て、その情報 の中に規則性 を見出す こ と、そ してそれ らの規則性 を一種 の 「スキー マ」 あるいはモデル‑ と圧縮 し、そのスキー マをもとに現実の世界で行動す ることである。
どの場合でも、さまざまなスキーマが競い合っ てお り、現実の世界での行動の結果がフィー ドバ ック されて、 これ らのスキーマ間の競合
に影響 を与 える42)。
と述べてい る。 ゲルマ ンの複雑適応系の本質は
(D系の非線形性
②環境 との相互作用 による情報 の獲得
③情報か らのスキーマの生成
④現実世界か らのフィー ドバ ックによるスキー マの選択
である。 これ に対 してジ ョン ・ホラン ドは複雑 適応 系 に別 の定義 を与 えてい る43)45)。 ジ ョン ・ ホラン ドの定義 によると、複雑適応系 とは 「多 数 の適応 的エー ジェン ト」か らなるシステムで あ り、以下に述べ る4つの特性 と3つのメカニ ズムを持つシステムである。4つの属性 とは
(∋集合的特性
②非線形性
③流れ
④多様性
であ り、3つのメカニズム とは
①標識化
② 内部モデル
③積木
である。
マ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 とジ ョン ・ホ ラン ドの複雑適応 系では対象 としてい る階層が 異なってい る。マ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 は 「単体 としての複雑適応 系」 を対象 とした定 義 で あ り、 ジ ョン ・ホ ラン ドの複雑 適応 系 は
「集合体 としての複雑適応 系」 を対象 と してい る。た とえば、ひ とつの企業 を複雑適応系 とし て扱 うとき、企業全体 をひ とつのシステム とし て扱 う場合 はマ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 と して考察 し、企業 に属す る従業員一人一人 に着 目し、従業員の集合体 として扱 う場合はジ ョン ・ ホラン ドの複雑適応系 として考察す る。ジ ョン ・
ホラン ドの複雑適応系はマ レー ・ゲルマ ンの複 雑適応系の集合体 と考 え られ る。
( 2)
コンピュータと複雑適応系コンピュー タが複雑適応系にな りうるか ど う かは本研究の本質 にかかわる重要事項である。
マ レー ・ゲルマ ンは コンピュー タ と複雑適応 系について以下のよ うに述べてい る。
コンピュー タは複雑適応系 として機能す るこ とができる。ハー ドウェアをそ う働 くよ うに 設計す るか、普通のハー ドウェアを持つ コン ピュー タを学習す る、適応す る、あるいは進 化す るよ うにプ ログラムす るのである。 これ までの設計、あるいはプログラムの多 くは何 らかの生 きてい る複雑適応系の働 きを簡易化 して、それ をまね ることで作 られてい る46)。 そ して
コンピュー タ複雑適応系 として よく知 られて い るものの 1つがニ ュー ラルネ ッ トワー クで ソフ トウェア とハー ドウェアの どち らで も実 行 できる4
7 ) 。
と例 を挙 げて説 明 してい る。
マ レー ・ゲルマ ンの主張 どお りコンピュー タ は単独 で複雑適応系 とな りうる。 さらに新世代 ネ ッ トワー クにおいてはネ ッ トワー ク 自体が複 雑適応系 となるよ うな研究 もな されてお り、今 後 コンピュー タな らびにネ ッ トワークはよ り高 機能 を有す る複雑適応系 として発展 してゆ く。
しか しなが ら、現時点では、高度 な経営意思 決定は コンピュー タには不可能である。
本稿 で考察す るプライベー トクラウ ドを用い た会計情報 システムは高度な経営意思決定 も行 うので、常にコンピュー タが単独 で複雑適応系 とな りうるわけではないが、人間 とコンピュー タの組み合わせ を考 えれ ば複雑適応系 とな りう る。本稿では、プライベー トクラウ ドを用いた 108国際経営論集 No.39 2010
会計情報 システムは人間 も含む と考 えてい るの で、個 々の要素 を考 えるジ ョン ・ホ ラン ドの複 雑適応系の立場では 「人間 とコンピュー タ (情 報処理 システム) の組み合 わせ」が基本的な要 素 となる。
( 3)
複雑適応系 とプライベー トクラウ ドを用 いた会計情報 システムここでは、まずプ ライベー トクラウ ドを用い た会計情報 システムがマ レー ・ゲルマ ンの複雑 適応系であることを示す。
1,非線形性
会計情報 システムが扱 うのは情報であ り、ま た、情報の獲得 に必要なコス トも削減 の対象 と しては重要であるか ら (クラウ ド使用の 目的の 一つはコス ト削減であ りどのよ うなコス トであっ て も重要 な削減対象 とな る)、情報 量 とコス ト に注 目す る。仮 に獲得す る情報量が2倍 になっ た として も、 コス トが2倍 になるとは限 らない ので了 情報量 とコス トの間の関係 は非線形 とな る。情報量 とコス トはプライベー トクラウ ドを 用いた会計情報 システムにおいては非常に重要 な項 目であ り、その間の関係 が非線形 であるの で、 このシステムには非線形性 が存在す ると考 えて よい。
また、別の見方で非線形性 を示す こ ともでき る。線形 システムの特徴 の一つは 「重ね合 わせ の原理」が適用できることである。 システ ムを 構成要素に分解 し、ひ とつひ とつの要素の振 る 舞い を求 めて、その後それ らをすべて足 し合 わ せれ ばシステム全体の振 る舞いが分か るとい う のが線形 システムである。 しか しなが ら、会計 情報 システムでは各構成要素が有機 的に結びつ いて初 めて高度 な意思決定が可能である。各要 素 をば らば らに分解 して しまえば、高度 な意思 決定 とい う概念 自体 も消 えて しま う。その意味 では、会計情報 システムにおける高度 な意思決 定は創発的な性質である。 したがって、会計情 報 システムは非線形 なシステム と考 え られ る。
2.スキーマ
プライベー トクラウ ドを用いた会計情報 シス テムに入 って くる情報 は性質 の異 な る2つ の情 報がある。
ひ とつは経営意思決定に関わる経営上の情報 である。他 のひ とつは会計学や情報科学、 コン ピュー タ工学 な どの関連諸科学の最新 の情報で ある。後者 の情報 は会計情報 システム 自体 を進 化 させ るものであ る。 これ らの情報 か ら2種類 のスキーマ を作成 し、その作成 したスキーマは 経営意思決定の結果 を通 じて淘汰 され、 よ り良 いスキーマ としてスキーマ 自体 も進化 してゆ く。
以上 よ り、プライベー トクラウ ドを用いた会 計情報 システムがマ レー ・ゲルマ ンの複雑適応 系であることが示 された。
次 に、プライベー トクラウ ドを用いた会計情 報 システムがジ ョン ・ホラン ドの複雑適応 系で あることを示す。
1.集合的特性
会計情報 システ ムの機 能 は多数 の システ ム (人 も含む) が協働 して初 めて発揮 で きる創発 的な性質であるか ら、機能そのものが集合的特 性であると考 えて よい。
2.非線形性
マ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系の証 明ですで に示 した。
3.流れ
すでに述べたよ うに2通 りの情報が存在 し、
これ らがエージェン ト間に伝わるので (情報の) 流れは存在す る。 た とえば、意思決定に関わ る 情報 はまずデータ として取引入力 システムを通 じて取引デー タベースに保存 され、各業務 シス テムはこの取引データベースか ら情報 を引き出 し、加工 して意思決定 に役立っ情報 として意思 決定者 ない し意思決定 グループに提供 され る。
意思決定の結果がフィー ドバ ック情報 として戻っ
て くる。意思決定に関す る情報 の流れの一つは この よ うな流れであるが、人か ら人 に流れて く る情報 も当然存在す るので (人間は単独でもエー ジェン トになれ る)、意思決 定 に関わ る情報 の 流れ は 1つではない。
4.多様性
プ ライベー トクラウ ドにつ ながる各部 門やイ ンターネ ッ トでつ ながる膨大 な数 の個人システ ムが存在す るので、エー ジェン トの多様性 は存 在す る。
5.標識化
会計情報 システム とい う集 団の形成 を促進す るのは会計情報 システム とい う概念 自体である。
この よ うな概念があるか らこそ、会計情報 シス テム とい う集 団が成立 しうるのである。その意 味では、具体的な標識 ではないが、 これ を標識 として よいのではないか。具体的な旗 ではない が、 「会計情報 システ ム」 とい う旗 の下に構成 要素が集 ま り、集 団が形成 され る。
一方、会計情報 システムの最 も重要 な機能で ある意思決定においては、意思決定の対象 とな る事象が存在す るので、個 々の意思決定におい ては、その事象が標識 と考 え られ る。
6.内部モデル
マ レー ・ゲルマ ンの複雑適応 系のスキーマに 当たるもので、全体 としての内部モデル (スキー マ) はすでに考察 したマ レー ・ゲルマ ンの複雑 適応系のスキーマ と同 じであるが、個 々のエー ジェン トについては異 なる内部モデル (スキー マ) を持つ と考 え られ る。
意思決定者 ない し意思決定 グループの内部モ デル は、提供 された情報 をもとに して意思決定 を下す方法論 である。 これ らの内部モデル は下 した意思決定の結果 の善 し悪 しで変更 を受 ける ことになる。
システム要員 の内部モデル はハー ドウェア、
ソフ トウェアに関す る技術 ・知識や会計情報 シ ステム論 な どの関連諸科学の知識 な どが内部モ
デル となる。 これ らの技術や知識 の進歩が取 り 入れ られ、内部モデルが変更 されてい く。
個 々のエー ジェン トの中心 となる内部モデル は異なるが、 これ らのエージェン トが協働 した 結果、全体のシステムの内部モデル (スキーマ) はマ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系のスキーマ と 同一 となる。
7.積木
た とえば、web2.0や クラウ ドコンピューテ ィ ングは新 たな技術の出現ではな く、既存 の技術 の組み合 わせ となってい るものが多いが、 これ こそ積木 の概念 に対応す るものである。既存 の 技術 の組み合わせ を用い るこ とは少 な くないの で、積木 は明 らかに存在す る。
以上 よ り、プライベー トクラウ ドを用いた会 計情報 システムがジ ョン ・ホ ラン ドの複雑適応 系であることが示 された。
前稿12)では、複合 的複雑適応 系 とい う概 念 を提示 したが、プ ライベー トクラ ウ ドを用いた 会計情報 システムを複合 的複雑適応系 とみなす ことも可能である。
ここまで考察 した内容 はパブ リッククラウ ド を用 いた会計情報 システム と同様 であるが、プ ライベー トクラウ ドを用いた会計情報 システム はパブ リッククラウ ドを用いた会計情報 システ ムの突然変異的な進化形であるとみなす ことが できる。複雑適応系で用い られ る適応度地形 を 用いて表現す ると、適応度の高い山か らさらに 高 い別 の 山に飛 び移 った状態 で あ る。Web2.0 型会計情報システムに対 しても同様の関係 となっ ている。す なわち、プライベー トクラウ ドを用 いた会 計情報 システ ムはWeb2.0型 会計情報 シ ステムの突然変異的な進化形であるとみなす こ とができる。
5.終わ りに
本稿 では、まずパブ リッククラウ ドを取 り上 げ、今 までにな されたア ンケー ト調査や コス ト 110国際経営論集 No.39 2010
の試算 をもとに、パブ リッククラウ ドの数々の 利点や欠点 をそれぞれ2つ に集約 し、その本質 を考察 した。次 に、プライベー トクラウ ドを考 察 し、パブ リッククラウ ド、プ ライベー トクラ ウ ドの双方 に適す る新 たなクラウ ドの定義 を提 示 した。最後 に、プライベー トクラウ ドを用い た会計情報 システムを考察 し、 このシステムが マ レー ・ゲルマ ン及び ジ ョン ・ホラン ドの複雑 適応系であるこ とを示 した。
クラ ウ ドコンピューテ ィングはこれか らも発 展 してゆ く分野であるか ら、今後 も注 目に値す
る分野である。
注
1)ニコラス・G・カー[著] 村上彩[訳] (2008)
『クラウ ド化する世界』期泳社。
2)城 田真 琴 (2009)『クラウ ドの衝撃』東洋経 済新報社。
3) 小池 良次 (2009)『クラウ ド』インプ レスR
&D。
4)日経B P社出版局編 (2009)『クラウ ド大全』
日経B P社。
5)ェ リック ・松永 (2009)『クラウドコンピュー ティングの幻想』技術評論社。
6) 西 田宗 千佳 (2009)『クラウ ド・コンピュー ティング』 (朝 日新書)朝 日新聞社。
7)城 田真 琴 (2009)『クラウ ドの衝撃』東洋経 済新報社。
8)湯川坑、前川徹 (2009)「大企業のクラウ ド コンピューテ ィング‑の取 り組みに向けた考 察」『研究 レポー ト』 No.337、富士通総研経 済研究所。
9)http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/09 09/01/newsOll.html
10)テ ィム・オライ リーの原論文 「whatlsWeb 2.0」は以下のサイ トを参照。
httpノ/www.oreillynet.com/pub/a/oreilly/tim/
news/2005/09/30/what‑is‑web‑20.html 日本語訳は以下のサイ トまたは雑誌 を参照。
http://japan.cnet.com/column/web20/story/0,2 000054679,20090039,00.html
http://japan.cnet.com/column/web20/story/0,2 000054=679,20090424,00.htm1
2006年1月号、51頁。
ll)パブ リッククラウ ドとプライベー トクラウ ド を併用するシステムを 「ハイブ リッ ドクラウ