翻刻『名筆傾城鑑』(下)
著者 翻刻の会
雑誌名 同志社国文学
号 46
ページ 54‑89
発行年 1997‑03
権利 同志社大学国文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000005161
﹃名筆傾城鑑﹄︵下︶五四
翻刻 ﹃名筆傾城鑑﹄
︵下︶翻
︑
12
34
56
7
8
9
二︑ 底本を忠実に翻刻することを原則としたが︑次のような校訂方針に拠った︒ 本文は文字譜を手掛かりにして︑適宜改行を施した︒ただし︑道行・景事の類等では改行しなかった︒ 各丁の表・裏の終わりは︑丁数の数字とオ・ウの略号を︵ ︶で示した︒ 仮名は現行の字体に統一した︒ただし︑感動詞︑送り仮名︑捨て仮名の類以外の︑本文中の﹁二﹂﹁ハ﹂﹁・︑・﹂
﹁に﹂﹁は﹂﹁み﹂とした︒
漢字は︑一部の異体字を除いては︑原則として通行の字体に統一した︒
漢字・仮名ともに︑誤字︑脱字︑当て字︑仮名遣い︑清濁は底本の通りとした︒
特殊な略体︑草体︑合字等は現行の表記に改めた︒
畳字は︑平仮名は﹁こ︑片仮名は﹁・一︑漢字は﹁々一に統一した︒ただし︑﹁く一はそのまま残した︒
文字譜の類はすべて採用し︑本文の右傍の適切と思われる位置に翻字した︒
底本の不明箇所は適宜同板の他本で補ったが︑特に断らなかった︒
本文の翻刻は︑次に掲げる翻刻の会︵学部学生の研究会︶の会員によってなされた︒
岡島弓恵︑亀井佐代子︑鶴原利恵︑谷地舘和賀子︑渡辺千尋
文字譜︑改行︑本文の最終確認は山田和人が担当した︒
︵山田和人︶ は
おほつ ゑ 第六 大津絵の段
地ハル いき 中 ウ せき よニ ハル 色 ウ大津八丁走り井を息をもっがず一ト飛に︒心も関の明神を横へ切レた義家の門ト︒又平は声あらく明ヶよくの其声に︒女
あいじやくやハル 色詞てがら フシ
房お徳相借屋どやくと走り出︒お手柄く出来ましたとあふぎ立れば︒詞 地色ウ と書 色 詞 あて先ツおのくのおかげにて︒どふやらかうやらしおふせ集しと一礼に︒隣の八兵衛が引取ツて︒何ンのいのわしらも宛の たるさかな じせつない事はせぬ・こなたのど嚇りが戯るといひ︒土佐の名字はもらはしやる︒相借屋からっなぎ︵三十五ウ︶の樽肴︒時節がらだちん さんようとうせい也まいらせりやたばるで︒夜一トよさ駄賃なしの家来分ン︒是で祝義はずってじやぞや︒扱ツても算用当世く︒コリヤお徳
姫君の御騒は・それはくお悦び将監様一ちやつとしらそふか︒イヤく︒そこら所でない気にか三は似太のばりめを︒ ハルフシ しり ぢやう たるさかな うはさ象ぱあっちに残し置たれば尻のくるは定の物︒コレ長兵衛殿まちっとの所︒こつちから樽肴で頼ます︒此便リ聞迄と噂半へ︒
中 ハル フシ走リくるく似太郎が︒振袖ながらほ一頬か・へ︒
詞 地ハル スヱ ︒工・むごたらしい旦那殿︒こはいめに合ましたと大声上ヶ︒ヱ︑ヱくと泣わめく
で道理く・そふしてあっちの様子はどふじゃ︒あっちでかへ︒ヱ・わしゃ恥かしい︒何が恥かしい事が有︒シテく︒
さあ其してくにほっとよはった︒無理な事ばっかりぬかしくさった︒それでわしも思ひあきらめ︒ア︑一三十六オ一ま︑
ありま たうぢ かく二 わたぼうし ふんよ・わしも十九のやくだ・り︒どふで跡ては有馬へ湯治するぶんと︒覚悟をしたれは︒綿帽子取ツて見て︒それから跡は踏 地ウたり鮒たり︒所をぬかさにゃ切殺すとぬかしくさった︒わしもこはさに所を残らずいひました︒あれくあそこへ大勢がと︒ ウ ウ・レ ぢやうちんウ にはかどう すね ひざ フシ ︑ふる訊の中に高桃燈︒とったくの人音ト足音ト︒皆々俄に胴ぶるひ︒脚もすはらず膝がたく夢になれとぞ震ひゐる︒
﹃名筆傾城鑑﹄一下︶ 五五
﹁名筆傾城鑑﹄︵下︶ 五六
地色ハル 色 詞 いつぞや ゑがい はたらか又平は胴をすへ︒かふ有ふと思ひし故︒道々分ン別して置た︒日外狩野の四郎次郎︒高嶋の館にて虎を画て︒ 働せし事
︑ あきな隠れなし︒それにこりたる館のやっばら︒こっちも手の物大津絵にておどしてくれん︒おのくも明日からは︒みせの商 ハル しコと じやま 地ウ しやうばい たん ろくしやう ウひせねばならぬ身︒顔見しられては為事の邪魔︒幸イの商売がら丹︵三十六ウ︶緑青にて顔をぬり︒追ツ手をあざむく目 ウ ウ せみまる ハル まも ウ 中 ハル たましゐ なうじゆくらまし︒所の明神蝉丸の氏子を守る奇瑞にて︒敵の目をくらまし給ふも神の徳︒主人へ忠義の我魂︒なとか︒納受なか
はたら フシるらん︒姿をかへて一ト働き頼一くに頼もしき︒長兵衛八兵衛も心得たと︒似太も倶々内に入︒
地色ハル 色 詞 うf程なく雲谷大勢引っれ追取リまき︒ヤァく又平︒様子は聞ずと覚あらん︒姫を渡せ渡さずば︒打殺して亀ひ捕いかにく
地ハル おもて 色 詞 しと呼はつたり︒又平表に立チふさがり︒ヱ・無念ン千万ン︒是迄は仕おふせしが︒かく大勢にて取込メられ︒又平が運の極
地ウ ハル ウ かいなつくめ去ながら︒我ヵならひこんたる絵の徳をもって︒今一ト働きの手並を見せんと︒いふより早く刀ひんぬき︒ゆんでの腕突
ぞと見せし目くらまし︒口に茶碗の絵の具をふくみ︒大︵三十七オ︶津絵はりし襖を目かけ︒ぱっとふけばコハいかに︒襖
ウにはか ナラスフシ俄にめいどうし︒ばたくくと鳴リ渡る︒
色 詞△地ハル あざけ がん とれ 地ウ ハル ゥ雲谷大きに醐り笑ひ︒雁がとべば石亀もじだんだ︒アレぶちこぼってうばひ捕︒承はると犬上団八同じく三八︒雲谷が弟
子長谷部の等厳︒其外家来下知を請おめいてか・れば︒あらふしぎや︒いひしに違ひも荒奴︒まだほのぐらき暁の︒鳥毛
やり 色の鑓さきふりまはし︒露の命を君にくれべい︒か二うしっかとふれさ︒く︒くふれく︒長兵衛殿︒八兵衛殿合点じ
ウ フシ ウ ナヲスハル △色 フシや︒合点と追まはされ︒虎にかまれしあくたれ共︒こりや叶はぬと跡ずさり︒
地ハル 地ハルとうがん 色 ︑ ○ハル ニ人 フシ みけん等厳いらってぬき打に切こめば︒かた肌ぬいだる立テ髪男︒大盃キをひらり︒くとひらめかし︒眉問にふっ一三十七ウ一
フシたるとうからしヲ・から︒ヲ・から唐錦︒あやめもわかず引返す︒ 色△地ハル ウ ふり Oハル 中 ウキン ウ ウ =下リ歌ウ三八かはって物々しやと︒大太刀ぬいて振まはす︒こなたも振袖女わざ︒にたく笑ひ似太郎が︒藤のしなへにはひまっ
キン 入 ウキン 中ウキン ウ 合 合 ハル ナヲスフシ かひはれて︒よれっもつれつ︒しほらしやく︒ながめもわかぬ花くらべ︒しと:つてば︒ひらりとはづし︒請つほどいつ甲斐
地ウ なまづ ハル 合く\しく︒切てか・る有様は︒なみや総のひやうたんたん︒もつてひらいてはちた・き︒た・けばすべりうてばすべりぬ
フシらり︒くと手に廻らず︒
△地ハル 色 ざとう 歌ウ 中 合 合犬上たまらず入かはれば︒座頭一人一とほくく︒おんらが在所はノ︒奥山のて・打の︒でんぐりくくりの木の︒木
ハル ウ 中ウ ハル 合 合 コハリ しゆもくの根を枕にころび寝︒此小女郎は恋する山家の品者で︒なまい一三十八オ一だんぶっく︒鬼の念一仏かみくだく︒撞木を
ナヲス ウ持一てた・きがねくはん︒く︒くくく︒た・き立たるめった打︒又平も諸共に大太刀かざす勢ひに︒雲谷主従しど
フシろになり逃るをやらじと追フて行︒
ウ ウ
地色ハル むよう 中とうがんハル ウ のが がいな
跡には女房姫君二人ン︒長おひ無用と︒とむる所へ︒等厳団八取てかへし︒おのれ女め遁さじと︒小腕取ツて膝にひっし フシ はやなは すでき︒早縄たぐり既にかうよと見へし所へ︒地真一チ文字にかけ来る侍イ︒二人が首筋両手にっかみ︒大地へどうどもんどりうたせ︒姫君かこひし名護屋山三ふんちかっ
て立ツたりける︒ 色地ハル おき 詞 地ハルニ人はほうく起上り︒ヤァ僚レは山三︒よい所へうせあがった︒しかし我等が手に合ず︒雲谷殿へ御しらせと︒にげ行向
ウ おが フシふにどっ︵三十八ウ︶こい将監立ふさがり︒二人を二人が拝み打四つに成て死てげり︒
﹃名筆傾城鑑﹄︵下一 五七
﹃名筆傾城鑑﹂︵下︶ 五八 詞地中ウ ハル 色 しさい せつしや ざんげん山三将監に打向ひ︒子細は互に存の通り︒いふに及ず拙者が身は︒道犬親子が霞言故︒御勘ン気うけて此仕合︒殿にもお上
とがめ へいきよ きぢやう うはさ さめざや こしの御答︒只今にては閉居の御身︒某忍んで御目にか・り︒貴丈の噂硯のかたわれ︒鮫鞘のお腰の物迄下タし給はり︒い
くふう 地ハル 色うなづ 詞 しあんてうの前を助ヶて殺す︒工夫をせよとの御詞と︒語るに将監打難き︒ム・姫君を助ヶて殺す一ト思案︒成一程く︒将監が
一ん いよく い姜 フシハル思ひあたる事も有レ共︒それは重ねて︒御辺は四郎次郎の行衛を尋来られよ︒いかにもく︒弥頼む早お暇と姫君に一礼
のぷ ウ ウ 色 嗣述ればいてうの前︒必早ふ四郎次郎様︒お供申て下されや︒頼一くの折から又平立一三十九オ一帰り︒是はく将監様先
くも ひきツお悦び︒敵のやっばら蜘の子同然︒一ツ疋も残らず追ツちらし︒次イ手に相借屋のわちよ達チ送りとけて立チ帰った︒ヲ︑
みだい めぐみ 地ハル 色手がらく︒始めて逢し此山三︒姫君の御身の上頼みの印シは此金一子︒御台所の御情姫様への御恵と︒渡せば又平押シ
いた︑・き ウ ハル ウ 中いとま詞 ぜひ載 ︒然らば我等は是より直クに身を隠し︒姫君を忍ばせ申さん︒夜明ヶぬ内に早お暇︒ヲ・此将監はしらぬ顔︒是非某へ
せんぎ しあん ともな ︑詮来らん其時は︒姫君を助ヶて殺す一ト思案︒山三もぬからぬ一ト思案︒姫君伴ひ夜ぬけをするも一ト思案︒さらば︒おさ ウ 地ハル ウ 入 中ウ ウキン 入 な 二 やおび ハルらば︒いざさらばと︒三人三方別れく︒姫のゑにしは山三がたより︒縁をむすぶの名古屋帯ひきわか︒れゆく︒三重三
ひのやま︵三十九ウ︶
あかまへだれ 第七道行思ひの赤槍
ハル 中けいせい フシ かの ウ ことぱ か の いく しかへ うき 本フシ スヱ契情の色を名づけて︒彼とは里のかへ言葉︒其狩野故に幾くるわ仕替らる・も浮ふしの︒まことなりとは思はくの︒人はし 中
しらゆき キン 中ながれハル 長地ウ ウ あひ 中 なには
らじな白雪の︒つもるつるがの遠山も︒同し流を三国にて︒名は勝ツ山のかつふつに逢も見もせぬ人故に︒ならや難波の 三下りウ しの フシ ハルフシ あさか中 もとのぷフシ ハル 歌っとめウ
浮つとめ︒凌ぎくて︒よるべなき︒伏見の里で︒浅香山︒名はかはれ共元信を︒したふ心は川竹の︒外の勤は︒いや ■中キン ハル 中 ウ ハルナヲスフシ ︑ ハル ほうこう中 ウくくよいやくくよ︒いやらしと︒いつも出口一わしや立チ花の︒松の位を引さげて︒やり手奉公に島原へ売リか一 ウ 半太夫 ウ ぜんせい小ヲクリ ハル か二 きもいり中 キンフシヲクリらる・今の身も︒花︵四十オ︶をさかせし全盛のうつり︒残りし︒くるわ駕籠︒おろせ肝煎諸共に︒跡に︒へつらせて︒ ウフシフシ 合 ウ ざうり むらさきウ ハルフシ ナヲス中 ウ しゆもくかちひらふ︒二こく草履も紫の︒色のみばへの︒かむろ引舟やりて迄︒里の名残と見おくるも︒ほんになじみの撞木町︒
二上リサイモン ナヲス中 ウ すみぞめ 上 わた ウ ふかくさ キン中 フシ跡に見なして墨染の︒か・へ引しめ︒綿ぼうし︒っ・む顔さへ︒深草の︒里をはなれて道草の︒跡や先キなる旅人が︒は
ふうぞくハル あきな ウ ハツミ 歌ハル フシ 中キンでな風俗はでな供︒恋を商ふ身なりとはそれか︒あらぬか︒おぼっか浪の藤の森︒花の︒っほみの︒っき出しよりも︒いと ナヲス
フシ 中つとめ いなり いくたびやす ハル あふうれ ウ ウ
しかはいの︒人故に︒所々の勤して︒稲荷の鳥井幾度か休む玉やのたまくにも︒逢嬉しさがあればこそあはぬっらさのウ フシ ウ ハル ニ上リ歌ハル ウかずくは︒よみっくされぬ︒三の橋︒渡りくらべんはし柱引ふね一四十ウ一かぶろがあだ口も︒今身の上に︒あひそめ川
上 せき キン まぷの︒ふかう成ル程︒あはれはせいで︒こすにこされぬ︒くるわの関よ︒わしも勤メなれば情しらぬでなけれ共︒遠山に問夫 ナヲスがっいてうき名立テるも儘のかは︒あの加茂川も︒流レの身水もらさじとちかひしを︒思へは昔たけぐまの︒松をふたりが
ウ ウな二と ウ くみ フシ たう フシ スヱハル ウキン仲人にて夫婦とならばどふかうと︒末の事のみ組たっる︒八坂の塔のたうとくも︒ふり返り見る東山︒あれくくと︒
ウ ウ 色
かむろハル 中ハル おそ中ウ フシ ハルフシまつすく中ウ ヲクリ すい
禿やりてかゆびをさす︒清水寺の遅桜︒さかり有ル身も︒恋路故︒一ト筋道を真直に︒七条通ほり川のよどみしへ水も粋な ウキンハル ノル 上 引ウ もし ハル
らば思ふ人より其外に仇な枕をかはさぬをかはいと︒思ふてくれよかし︒くれぬ先キにと急ぐ程︒若しる人に大宮の町はさ 三下リながら︒恥しと顔をおほへば今の身に︒︵四十一オ︶あたる唱歌のはやり歌︒あじな所で︒互に顔を︒見合て︒とふいふて
よかろやらア・おまへにとふたらいはしやんしよ︒くぜっした夜は︒互にすまぬ︒其跡は︒どふいふてよかろやらア︑おま
ウ ナヲスハル 中フシ ハル ○地中 ウ おくつ ハルヘにとふたらいはしやんしよ︒うたふ声々ほの聞へ︒早里︒ちかくなりければ︒ほんに皆の衆なじみ速よふこそ送て下さ
﹃名筆傾城鑑﹂︵下一 五九
︐名筆傾城鑑﹄︵下︶ 六〇 詞んした・もふこ︑がらポらばやと・︑いふに皆々がよりて・嚇搬おまめで大夫様ン・什ヤわしや今からもふやりてと・洲ル︑へ 地ハル ウ おぴ色 なを 詞 おさな つら ようゐ ハルフシくれなゐ まへだれをといて帯しめ直し︒わしが稚い名はおみつ︒夫レをかたどりやりてのみやと︒釣せしかごに用意せし︒から紅の前垂
ウ ぢやう あはせ △洞 ○地ハル ニ人 ゆふ姿︒此ふろ敷には八丈の袷しゆすの帯︒ヲ・合点く︒身付キは跡からかごの衆太義︒皆の衆さらば︒さらばくと夕
上 ウあらし しゆしやか おし ウ きもいり さげ嵐︒朱雀ののべに吹そひて︒名残惜げに見返りく行も︒露の肝煎が︒提しふろ敷キひがいきの島原︒さして三重一四十
一ウ︶
おほもんぐち 第八 大門口の段
二上リ欣 ナヲス ハルウキン ウ 下 ハルキン 中 ウ ウキン ウフシ ハルフシ 地中 かよ ウあふて立ツ名が立ツ名の内か︒あはでこがれて立ツ名こそ︒誠たっ名の内なれや︒里は都の︒ひつじさるなり通ひても︒通ひ
とうゐん 中 ウ ぱ ︐︑・ おそ 小ラクリ ハル 長地 かづらき ウたらぬぞ三筋町西の洞院中どうじ︒ゑもんが馬場の遅桜出口の柳こきまぜて所︒がらなる色くらべ︒里に名高き葛城はた
あげ中 ウ かぷろハルきんニウ 中フシ 地ハルすひ色 詞
そかれ前の揚屋入︒引舟やり手禿の金吾︒大門口の腰かけをかいて柳の下かげに︒たばこ吸付ヶコレお亀殿︒向ふからくきやくる人たれ︒またあの子が︒わしが目の近ヵいのをなぶろでの︒あれか︒あれはお客︒ヲ・いしこ︒大夫様ン︒あれをお客じ
やといなヲ・おかし︒︵四十ニオ︶あれはこなんの色︒又ましやるがの︒わしが色とはサア誰レじや︒ハテこなさんは亀︒
まひづる 歌ウキン 詞 地ハル向ふからくるお人は舞鶴やの伝三様︒鶴と亀とが舞遊ぶ︒ヲ・ぽつぽらぽ︒内義様にいふてやろ︒まだべりやるかと︒追ツ
フシかけごくらのほたへざかり︒
地ハルかづらき 色おほ 詞 し いくの しかつ はきだめ蔦城も袖覆ひ︒ア・あぶな︒けが仕やろぞや︒アレとめていの幾野殿︒コレく大夫様の呵てじや︒それく掃溜山へあ
ゑび かは つい 地ハル フシがつて︒海老の皮で足つきやんなや︒突たら大事か心ン中する人さへ有ルと︒あだロチ々の其中へ︒
︑レ ウ地ウ たいこ かふろ 色とら 詞 とが ︑ 地ウ す けつだん ハル 中 詞舞鶴屋の伝三郎牽頭の茂七︒禿やり手を引捕へ︒サア科人はおさへたぞ︒大夫主の決断所さはぎを見よふと引ツ立テて︒是
と・つはく大夫主︒わるあがきのお大将︒此頭取リは一四十ニゥ一葛城様に極つたぞ︒是はめいわく︒此蓑を科人とは一︒ハ ばないちん うらおもて くるは そむ むほんテ開帳場の内陣入と︒裏表の此門口︒外へ出るのに銭が入︒廓の法をお背きはコリヤ茂七︒謀反の腰押か有はいの︒そり
はんくはい やふ ふる きこう ほうやしれた婁な慧︒ヲ・ゑら︒此お亀をはんくはいとは︒ハテ門破り︒古しく︒古くば景清︒心はへ︒貴公の頬の赤
地ハル ウ ウさでは︒悪ひつ兵衛に極つたと︒いひ捨門へ逃入ば︒ヲ・景清は平家方︒頼もはたも赤かろふ︒みをのややらぬと追て行︒
フシ郭のほたへさはがしし︒
地ハル 色 じやうぢうきう伝三は跡を見送ツて︒大夫主どふじやいな︒すっきりさへぬ顔持︒常住灸すへた跡のやうに︒又山様を見にお出か︒私は
へんぎおん今日︒町方屋敷方のお客へお見廻次手に︵四十三オ︶四条辺砥園町へも寄たれば︒あの辺でもおまへの身の上︒名古屋帯の
はやりうた︒あはでこがれて立名こそ誠立名の内なれや︒とひく︒うたふ︒所をおまへかひよっと伴様へ気がかたむいて
地中 らち ウ ハルは︒一番此伝三が立ませぬ︒ヲ・いやいな︒伝三さん︒山様といひかはせしは歌の通リ︒身受の堵が明迄は外の客はいふに
ウ やくそく ウ ウ ウ及はず︒此廓では帯とかぬかたい約束︒伴様は歴々︒山様は御浪人︒そこらのいきちを立るのか︒此道での第一かと︒思ふ
はわしが生れ付︒伴様の事いひ出しても下んすなと︒いふに伝三は横手を打したり︒きよといぞ︒女郎の吉粋天一天上照ふ
ひきりなしのお心いき︒私も廓では伝三郎︒商売こそ拙く共︒男一疋やつてくれふと思ふて居︵四十三ウ︶ます︒おまへもしつ
てじや︒此比きた和国主のやり手のみや︒れそは敦賀で遠山といふた大夫職︒色故髪迄仕替にきて︒勤はいやとやりての
ひん ち ゑ はな さうたん 一奉公︒其品のよさ智恵まんく︒きやつと三人心を合せ︒伴左殿に鼻明ヵせ︒山三様一お前の身受ヶ︒此相談はどふあろぞ
茗筆傾城鑑﹄︵下一 六一
﹃名筆傾城鑑﹄︵下︶ 六二
地中 ハル ウ 中 ウ ウい︒夫レは嬉しい︒みや殿にいて頼もふじや有まいか︒いかにもそふと立上り︒アレく向ふへ大じんけ伴左殿に極まつた︒ ヲクリハル ウ ウ どもなそれくこちらへ山様が︒逢てはやかまし大夫主と︒連レて幾野伝三郎伴ひ︒へてこそ門一へ入︒ 地ウ地ウキン ハルフシ 色 中 キン ふかあみ フシ ハルぱおり ゑもん ハル がしら ウ夜ごと日ことに︒通ひくるわの一方口︒両方同し深編笠︒当世風の長羽織︒衡門がばの通ひ路を互にそれと出合頭︒笠かたムけ 中ウ ようすいおけフシ傾 て名護屋山三︒様子有げに用水桶のかげにしばらく︵四十四オ︶ひかへゐる︒
伴左衛門家来を近付ヶ︒わいらは是から直クに屋敷キヘ帰れ︒小用聞クやっ一人ン残せ︒用事あらば早速しらせよ︒帰りがけ
すらうにん ふんざい ざた こよひに名護屋山三︒見付次第にふちのめせ︒素浪人の分際で︒葛城が身受ヶ沙汰片腹いたしぜひ今宵は葛城と手を引合て門ンを
地ウ ハル フシはば出る︒其時は迎イの乗物心得よと︒ぜいの一ぱい門ン一ぱい︒町幅せばしと別れ行︒ 地ウ地ハル 詞 しあん ハル ウ跡に山三がとっ置イっ︒ヱ・につくいほうげた︒四郎次郎に廻り逢迄は大事を身に持ツ此山三︒思案の外の葛城が︒恋路に ウまよ そしり 中 ムん ハル 色 詞 地ハル 中ウ迷ふと世の人の識を受ヶるも合点たり︒踏込一で切さげふか︒イヤくく︒所もあしし帰るを待ツてと︒行っ︒戻りっ忠
ハル フシと︒恋との一ト筋道︒
いきせき急キの早使イ︒山三にどうど行当り︒何者じや道のどう中︒ヱ・此色里の切リ共めか︒︵四十四ウ︶人の懐中宛にす 詞 地ハル 色 ぱか こし ぬかみそじる めくら 地ハル 色るどふずりめらと︒いひ捨行をひっとらへ︒馬鹿め︒眼コを明ヶ身はニタ腰︒糠味嗜汁の明キ盲と︒ほうり付ヶられ口へらず︒
詞 は しそくイヤうぬがニタ腰こはくない︒身が御主人を誰レとか思ふ︒禿くも不破の道犬様御子息︒伴左衛門様へおめでたの早使イ︒待 ウ 地ウ ハル づでんだう おき ふん け ウッておれ此御状をお渡し申︒存分ンにさいなまんと︒かけ行首筋引ずり戻し頭転倒︒起上るを踏づ蹴っ︒目鼻もわかぬ抜打チ
色 ウ フシむね打︒コリヤゆるせ︒御免くと言捨門一へ逃ヶ入ける︒
ウ ウ地ウ めうが おさむ ハル け ふば二 つう ひも ウ 詞ヱ・命冥加な腰ぬけめと刀納る足元に︒蹴ちらかすかに文箱の一通︒紐をとくく月かげに︒上書キ見れば︒不破伴左衛
地ウ ウ ふう よみ おは びつく ウ フシ 詞 へい門殿同名道犬︒封押シひらいて一チ々に︒読も終らず悔りく︒くり返し見る悪事の段々︒ム︑く︒扱は此度義賢卿の閉
きよ なんぎ あた しつけん居の御身︒姫君の身︵四十五オ︶の難義︒四郎次郎と我身の怨は︒将軍家の執権三好国長と︒道犬が心を合せ︒高嶋の家を
おさ たくみ ぷだうしん にぎ しよう︐一 地ウ ぷうんハル伴左衛門に納めさせん工よな︒将軍義輝は色におぼれし無道人と︒道犬が直キ筆手に握りしはよき証拠︒殿の武運我身の
ウ ゥ じせつ つう ウ はい フシ ︑運︒姫四郎次郎の運命もひらくる時節は此一通︒恭しと押シいた︑き︒天を拝し地を拝し悦びいさむぞ道理なる︒ ウハルフシ 中 一ル からかさ ウ ざ 蟹つちんウ 色 詞 亨折からふりくる春雨に︒傘片手に伴左衛門以前ンの使イカ小拐燈︒二人連にてうろく眼︒うろた一者めカ大事の御状︒
地ウ 一︑上リ歌 たしか ハル ウ ニし 上 キン ヘだて ふすま下 詞どこらで落した︒憧隻らと尋廻る大門ンロ︒見越の二かいは三味の音や︒思ふ中にも隔の襖あるにかひなき捨小舟︒伴
くる左殿︒く︒誰レじゃ︒イヤくるしうない身共じや︒そっちは苦しうなうてもこっちは苦しい︒それくそれじやないか︒ ハル はな 地ウ ちやうちん 中 ︑ ウイヤこりや鼻かんだ紙︒ヱ・︵四十五ウ︶そちらを尋よ︒心得こちらへ名護屋山三︒挑燈たくつてつつ立テば︒以前ンの使
ハル びつく フシ うせイ始メの手ごりに顔見て悔り︒見返りもせず逃ヶ失ける︒ 詞地ウ ︑レ 中 より めづ けんしやう山三しづくあゆみ寄︒珍らしい秦殿︒春平殿御堅勝︒イヤ此方の無事よりそこ元ト御親子の御堅勝は︒山三が悦び︒
伴左殿︒先キ程よりお尋なさる・は是か︒イヤ其御状は︒イヤ先ツ待タれよ︒此状は其元の親ン父︒道犬老の直キ筆︒三好国
ひけん ぜつたいぜつめい うで長と心を合せ︒主君ンをたばかる親子が悪事︒ふしぎに山三が手に入て︒残らず披見致した上は絶体絶命︒伴左衛門︒腕廻 ウフシ ふみ 二 地ハル つめ 地ウ ハル 的 ・せ︒但シ踏のめしてくこ上ヶふカ何ンと︒くと詰かけられ︒胸に覚一の伴左衛門大小ぐはらりと投ヶ出し︒とっカとす
色 詞 たくみはって首指のべ︒サアさつぱりと遊ばせ︒山三殿︒親の工我身の悪ク事︒一ツ時︵四十六オ︶に事顕はれし其一ツ通︒我筆
﹃名筆傾城鑑﹄︵下︶ 六三
﹃名筆傾城鑑﹄︵下︶ 六四
とか しやう二 ろけん たましゐにて我科の証拠と成ルも皆天命イ︒かく露見の上ヱは申ス事も何ンにもない︒ガ︒山三殿一ト通り聞てたへ︒誠の武士の魂
たくみ まいないは忠孝のニタつ︒其二字の内一トつの願ひ︒成ル程親道犬が工にて︒三好国長に賄賂して︒主君義賢いてうの前を科に落し︒
うぱ ん み・ もつたい高嶋の家国を奪ひ取ラんと父道犬︒某への物語南無三宝︒大悪心と思へ共︒此事御辺の耳に入ラば︒勿体なや親人を︒子の
さかはつつけ まじは すこ うん つき身として逆礫にかくるも同前ンと︒わざと悪ク事に交り︒今日迄は過せしが︒今顕はれしはまだ某が運の尽ざる所︒此伴
きざみ へん まか ゑんたうるさい左衛門を刻なりと︒逆礫なりと御辺の心任せ︒何とぞ親道犬が命を助ヶ︒遠島流罪になしてたべと︒たつた一ト人リの親一
そにん 一︐一くざいにん おがみ ふみ けころト人リの某︒子の口より訴人して︵四十六ウ︶親を殺すは極罪人︒コレ手を合す拝ます︒山三殿︒此足で踏にじり︒蹴殺し
じ ひて下され︒親の命のかはりと思へば︒さらくいとはぬ我命︒今一生の情じや︒慈悲じや︒今首討タる・伴左衛門︒モウ親
たいめん つう かたみ 地ハル フシ人に対面は叶はぬ︒其一ツ通を親の筐に見せてたへ︒山三殿と︒いひならへたる孝心ンに︒
地ハル まよ中 詞 二ん はくじやう山三も心迷はされ︒ム・しほらしき一チ言︒今く・し上ヶ︒将軍の御前にて白状させる其方なれば︒一ツ通迄には及ばずと︒ ハル地ウ ハル ウ ウしよう すみ 中おさ ウ ちやうちん詞たるめばハツア是はく恭しと︒一ツ通そっと手に取上ヶ︒一生の願ひ恭し︒親の墨付キ見納めと︒涙ながらに挑燈の︒
ウ しやうニ フシ やきすて光りにはつと証拠の一ツ通︒一チ字も残らず焼捨たり︒ ウ山三見るよりはっと仰天抜キ打に切付クる︒傘 にてはっしと受ヶとめ︒山三︒こりや何すりや︒イヤ盗人たけく\しい︒証
うで拠の一通なぜやいた︒く・し上る腕廻せ︒ヤ何︵四十七オ︶の科で︒何の為に︒シヤ僑レ︒親子が悪ク事顕はれし上は︒御
からな おがみ前ンヘ引立テ白状さすはいやい︒ム ⁝ハ・・・ ⁝ア・正直キはあほうの唐名︒たった今おれが山三様拝ます︒親の
命が助ヶたいと︒泣イて見せたを誠と思ふか︒あほうよ︒皆うそじや︒親子が悪事くとやかましい︒何ぞ証拠が有一か︒ド
すそレ其証拠見たいの︒イヤ見せて下んせ︒ヲ・見せうと付ヶ入山三︒裾をはらへば飛上り︒かはして打たる太刀先キに刀はか
地ハルフシ中 やみウ だんびら しゆれん 芭 詞らり︒比は春雨︒しんの闇悪に根づよき段平物︒山三は手練の切先キこなたもおとらぬ手たれの末宗︒打合フ太刀音かっし ナヲス 一一上り歌ウキン ハル 中 ゑ おひ ハル 中 ハル 中 ウ 地ウく︒目先キ一ずっと︒ぞっと身もよもあられう物か︒しめて名古屋の二重の帯が三重まはる︒昔しのぶの恋衣︒歌と夜道
どろ ハル ハルの泥道に切ふせ討ふせ三重へ切付られて
ウ 地ウ ゥ ゥ どろ ちしほ ウ フシ あら伴左衛門︒年比日比の︵四十七ウ︶恨の切ツ先キ︒と︑・めをぐつと山三が刀︒泥も血汐も用水桶の水は幸イ手ばしかく︒洗ひ
しがいさいふ色詞
すつれば伴左衛門が死骸の首に金財布手に取上ヶて︒扱は葛城が身請の金︒此儘に捨置ヵば人手に渡り︒我盗しも同然︒捨 ウ ︑ とうぞく しあん 地ウ ふと ハル たち中 はい ざう ウても置れず取レは盗賊︒ム・くと一ト思案︒よいくと死骸の太腹︒十文字に裁切ツて︒肺の臓一押シ込一金︒肺は金なり︒ウ ウくち もとむ ウ ウ まつり 芭 詞 地ハル くるわ まう朽もとろけも同気求る腹袋と︒跡の跡迄心をくばる︒跡の祭一番太のねとぼけ︒ヤレ人殺し︒出合くに廓中︒棒ちぎ ウり木の真ン中を︒さはがぬ侍大門ンロ︒太鼓打ツやらさはがしき︒世の有様ぞ︒三重へ定めなき
第九 相の山の段 フシハル フシ 中 ウ しゆしやか ハル 中名にしおふ︒花の都に︒ゑにしよぶ︒西へ入日のさし扇︒客の顔さへてりもみぢ︒朱雀の町ぞ︵四十八オ︶なまめかし︒
地色中 ウにざ くるわ まふ ハル たい二 もてな つり中 ウ ぎょ かふろ ハル賑はふ廓の其中に打ツたり舞たり舞鶴屋︒伝三は牽頭半分ンのお客饗す釣花生ヶ︒水際の立ツ和国大夫引舟禿が連レ三味線︒
サイモンハル ウ 詞 もら けんし とめ出口の柳ふり分ヶて︒ア・貰ひく︒きのふの今時分ンは出口の柳のもいやもや︒検使の衆がいひ渡し客の名所留置ヶよと︒
・ せん諸 うはさ すきひしい御詮義︒和国様ン︒相手の噂はお聞なされぬか︒サイナ其相手の詮義がきついといふて農主︒それはくきつ
あん けんし そばい案じ︒ヲツト皆迄おつしやるな︒どこの噂も九分ン十分ン︒おまへのやり手のみやを葛城様のやり手にして︒検使の傍へ
﹃名筆傾城鑑﹄︵下一 六五
﹃名筆傾城鑑﹄︵下︶ 六六
駕出した所に・何が此おみやがふるなの揃請で︒廓へ轍のか・らぬやう︒言ぬけ事は言ぬけたが︒今一ト案じは相手の詮義︒
あ・かた 地ハルなかば フシ 中 ウおまへも多方ナ︒すいして有ふと︒噂半へ︵四十八ウ︶色かへぬ松の位の︒遠山か︒今は落葉の鉾につゐ角くりも里な
フ一ンれて︒草履げたく歩みくる︒
地色ウ ︑レ 色 詞 けんし伝三見るよりぞりやとそおみや御来臨︒扱きのふはきっゐお働廓中が拝んでゐる︒おれは折節持病の病気︒検使の傍へは出
へ たなんだか︒様子はどふしや直に聞たい︒されはいな︒そのいしこらしさ何じややら︒下手そふな侍が二頭︒むせうにそこら
しがい ぷんを睨廻し︒ヤイ︒僚は蔦城がやり手めか︒此死骸は伴左衛門に極った︒葛城を受出す風聞先達て聞及ぶ︒まだ外に身受をす
まつすぐるといふ客有故此時宜に及ぶ︒サア其相手は何者︒僑がしらぬ事有まい︒真直に申上よ︒少にても偽らば水をくれる︒と養
ふても置様に権柄たらく\︒そこでわしも胴がすはっててんぽのかは︒口に︵四十九オ︶任せてやってくれうとずっと出て︒ 獄舳いヲ︑けたい︒金くれるやり手に水くれるとはういた物じや︒わし一人して十二人の大夫様方を廻せば︒弁慶やり手がいそが
ぜつ へだて わざ ウ ウ ゥしさ山舌の中を押シ隔︒打物業にてかなふまじと日に幾度の詮言やら︒夜の身持は揚屋の吸物同前︒ちよっちよと座敷へ
ねむり ウ ウ じゆす きんちやく中 ハルひも かぎ あな︑出る度に一口宛も呑酒に︒ふらく眠のいきだをれ朝から晩迄緋の袴︒花色濡子の巾着も︒中は秋の夜の長紐︒鎗の穴カ
ら天をの磯けばほの▲\明・よね様達の身仕舞ふろの手水の髪織ひ︒鍋よし枡く升よ臼よ杵よ︒正月仕舞ば節句朔日けふは二日の
色 ウ撫ひ日也・郷ともすへたし卯はら脇腱也炉かに腹︒静売とは申ながら︒神仏の奉加と同し事で︒金出しながら拝ますはおそ
地ハル ウ やみ さやらく世界に︵四十九ウ︶傾城計リ︒かふてくれるが嬉しいとて親が・りやお主持チ︒恋路の闇の一寸ン先キ︒目の鞘はづすが ウやり手の役︒大事にかける証拠には世問ンに心中十ヲあれば︒廓に一トっ有かなし︒人を剥のだますのと落る所は廓のなん︒
地ハル てうほう ウ伴左衛門様ンのお身の上大事に思ふ上の事︒道で切ラれさんしたは銘々の不調法︒定メて死とも有ルまいし尤逃ヶても見さん
ぢよざい ウ ウ 色 けんししよし︒そこに如在も有ルまいが先キの相イ手がつよいのか︒身の取廻しのわるさかしらんでやんすとやつたれば︒検使の衆
しがい らう すむ きやく 地ウ ウもほっとして︒モゥよいはく死骸を牢屋へやれ︒詮一義済迄は客の名所一︒一チ々に書キ留よと︒どふやらかうやら其場
詞 はしぢか すはずらりと済一だれど︒其相手といふはナ︒ア・是く︒此伝三も夫一が気づかひ︒奮端近︒和国主おみやマァ奥へ︒コ
地ハル ウ ヲクリリヤ中居共︒お客が見へたらしら︵五十オ一せよと皆々へ奥へ入にける︒
ハルフシ 中ウ なれ ウ よみ ウ くはん フシ よしず 地色中なごや山三︒春平は︒通ひ馴にし六条の︒道には石がいくっ有ル迄︒読覚ヱたる一貫町の茶やが︒葭貴の︒よしやよし︒里
ハル ばん 二うゐん ウ フシに投ヶ打ツ命ぞと︒大門ンロの与右衛門も門ン番には二代の後胤︒平ラの供して口かろく︒舞鶴屋にぞ入にける︒
地色中 ウ あまた ハル る亭主伝三を始一として数多の女郎やり手迄︒是はく様子はお聞なされふが︒先ツ四五日もお出なされぬがよい筈︒昆意
趣有ル伴左衛門︒切リ人は名古屋山三じやとどこ共なしの取リざた︒我等夫婦の気遺イ此みやが弁舌で︒きのふはすらりとや
しがい づけ 地ウりましたが︒伴左衛門が死骸をなら漬にして後日の詮ン義︒殊にお客の名所口︒書キしるせとの言付ヶ︒お身に覚がなふてか
ハル とざま フシら詮ン義まんぎもやかましし︒おまへを外様へっくばはせて此伝三が立チませぬ︒帳︵五十ウ︶面に留メぬ問に先ツお帰りと
いひければ︒
詞 くらうイヤ伝三そふでない︒お手前こそ念ン比︒廓中女郎衆へ苦労をかけた此山三︒せんさくに合が悲しやとか・んで居る程なら
まじり かしば︒里通ひもよね交もあたまからせぬがよし︒先ツ和国様からお礼申︒大事のやり手をお借なされて恭い︒扱みやの働心
かしら ひたい 地ウ ハルしやうざし詞の礼はいふ程ふるい︒三千ン石取ツた山三が手をっいて頭をさげる︒額に千ン石両の手に二千ン石︒主人の外一生
茗筆傾城鑑﹄︵下︶ 六七
﹃名筆傾城鑑﹄一下︶ 六八
しきさほう フシに︒此式作法はみや一チ人是が礼ぞと手をっけば︒
詞 もつたいア・勿体ない何ンのお礼が入ませふ︒ちよっと葛城様に逢せていなしましたい物じやが︒わたしがいけば目に立ツ︒和国様
さそ 地ハル一ト筆しんぜて下さんせ︒イヤ文もいかじやわたしらが直キに誘ふて︒遊ヒに出る顔で運レましてきませふ︒サァ皆ござん
フシせ︵五十一オ︶と座敷キをこそは立にけれ︒
然らば髪は人もくる︒二階へお通リなされませ︒ヤレ何がこはふて隠れうぞ︒伴左衛門を切たるを誰レとか思ふ︒此山三が
ゐしゆ わづか ほうばい もの・ふ手にかけ討ツて捨たるぞ︒葛城が意趣は綾の事彼レめと傍輩たりし時︒狩野の四郎次郎といふ男筋目正しき武士故︒身が取
るす うか.︑・ むしつ にんじやうリ持にて御ン目見へさせし所に︒伴左衛門親子雲ン谷といふ絵師を引入レ某在京の留守を窺ひ無実を言かけ刃傷に及び︒四
あまつさへ ちやうあい しうげん はづ さまたげ らうぜき郎次郎は行方知レず︒ 剰御寵愛の姫君いてうの前︒四郎次郎に心をかけ末々にては御祝言有ル筈を︒ 妨入て狼籍し︒
ぢう ゐ二ん某迄も浪人ンの身と成ツたれば重々の遺恨有︒殊に四郎次郎は隠れもなき名筆︒大内絵所の官ンにもす・む身を︒某しゐて国
なんぎにと一め難義をかけ一五士ウ一て見て居られず︒姫君と夫婦になし四郎次郎さへ出一世すれば︒本ン望く生ヶでおかば四
あた 地ハル郎次郎にいかなる怨をなすべきと︒傾城の意趣を幸イに討ツて捨たる伴左衛門︒知レて切ツ腹する計四郎次郎故にすてん命︒
おし ウ ウいさ・か惜いと思ふにこそ武家に生れたふせうには︒大門ンロで立テ腹切新艘衆や禿共︒芝居でする様な事して見せう︒ヤ ウ てんじゆ ウ フシア葛城はどふじやの︒亭主うたへと三味線の天桂に顔を筋かい身︒糸の音色も目の色も人を切ツたる体はなし︒
地箇ウていしゆ けつく ハル あだ ふる フシ亭主は結句色違へ先一お咄しは入ラぬ物︒内外の者共必仇口きくまいぞと︒わなく震ひ手杓にてめつたに呑一でぞ居たりけ
る︒
地色ハル ウ ウ ウみやも聞より驚キて扱は我二世迄と︒思ひ込ンだる四郎次郎様にかく迄深き恩を見せ︒命をも捨テんとはア︑頼︵五十ニオ︶
中 詞もしや奪︒我レこそと名乗一て一チ礼いはふか︒イヤく︒姫君とやらへ聞コ一ては︒御祝言の邪魔ぞと遠ざけら予は知
地中 ウ ハル ウ ウ 色 詞 かく一︐一レた事︒只余所ながらあのお方の為に成リ︒お命を助るこそ我夫トヘの奉公と︒思ひ定メてコレ伝三様︒お侍イの覚悟の上を
りやうけんすいさん おん いづく女の了簡推参な事ながら︒あのお方に腹切ラせ恩を請ヶた四郎次郎︒何国の浦で聞付ヶてもよもや生キては居られまい︒ ウ地中ウ ハル ウ ウ のが くめん ウ し人のゆかりは知レぬ物どれからどれへどふっつて︒たが悲しみとならふやら山三様のお身の難︒遁る・工面は有ルまいか思
あん ウ 中フン ハル案も今でごんすぞやと︒余所をいふのも夫トの事︒案ンじて余る涙の色胸なでおろすも道理なり︒
詞 めいわくヲ・わがみがいふ通リ︒追ツ取ツて廓の迷惑お仕置キには法が有ル︒腹切リたいとおっしやつてもよふあた・かに︒見苦し一五
ざい あは た さみせん十ニウ︶い罪に粟田口下からどふもはからはれぬといへば︒山三はつとしてア・よい所へ気が付イた︒三弦所じやないわい
の・相手は主持チこちは浪人あばれ者に仕なされ・み魚くのとまったやうに尉耐などにさらされては︒先ン祖一ツ家の恥鼻く今 スヱテ しがい おも 地ハル はさっぱりと腹切ツても︒其段からは死骸迄いよく恥は重ふなる︒ヱ・主持タぬ身の無念ンさよと歯切リを︒して涙ぐむ︒ ウみやは聞ク程我夫の︒身にせまりくる悲しさのどうぞよい分ン別して︒しんぜて下され頼ますと身に引かけて歎く体︒亭主
しばら しあん 色 ハル 色 詞暫く思案しコレくよい仕様が有一︒髪へよりやと小声になり︒是を次手に葛城様を︒とんと受ヶ出し農に定メる︒時に
とざま しやくたく たうりう親方と肌を合︒手形の日付ヶをとっと跡の月にして︒外様へは借宅見立テの其間タ廓に︵五十三オ︶少シ逗留分︒すればと
にぎ まおと二 しやう二たしか ゆるうから御夫婦といふ物よ︒此比迄伴左衛門が︒くどいた状文握つてからは密夫の証拠健也︒女敵討チは天下のお赦し千
地ハル ちゑしや 詞人切ても切リ徳︒此分ン別はどふ夏︒みやは悦びヲ・く出来たく︒めでたいく智恵者めとそら立れば︒ア・むし
﹃名筆傾城鑑﹄一下一 六九
﹃名筆傾城鑑﹄︵下︶ 七〇
もし しちもつやうにめでたがるまい︒当分ン請出すお金がない︒若お腰の物を夫レ迄の質物に遣はされば︒私が加判ンで大夫様をたった今︒
門ンを出して見せませふが︒お侍イにお腰の物とはノウおみや︒どふも申兼るはいの︒ハテおぬしのお身計リか不便ンになさ
地 りようけんハル ウ しば 中 ウ しやうる・四郎次郎迄︒命を助かる事なれば御了簡遊ばしませと︒手を合するやら歎ヶくやら山三も暫し指うっむき︒大事の証
ハル拠は焼捨られ︒言訳差き浪人の身と心に涙持ながら︒ヲ・何が扱一五十三ウ一く︒皆の衆に苦労をさせ何しにいなとい
くはぷん色 詞 ぢうたい さ も じ 地中 ハル ウ ゥふべきぞ︒近比過分千万︒コレ是は重代の左文字︒二千五百貫の折紙有︒おししとは思はね共︒七才の時より今ン日迄つい
わきざし こし ウ 上 めうが ウ たましゐ しあんヲクリ小脇指一ト腰で︒他所に居た事しらぬ身が刀の冥加にっきたかと︒涙は雨やさめざやの︒主人の魂我思案奥深く︒へこそ
入にけれ
フシ
うしろ ハルウ ウ ウしゆび上 まき しゆすおび ぢゃう
後姿を︒見送クりておいとしやく︒伝三様どふぞ首尾して下さんせ︒巻ぞへが入ならばわしが濡子の帯も有︒八丈の 色あはせ ウ ウ とも きどく ウ か・ そうか うつ らち袷もごさんすと︒歎けば倶に泣声のヲ・奇特によふいやった︒おれも男じや気遣イすな唄を惣嫁に売てなりと︒堵を明ヶぬウ フシ フシウ 中ウ ハル ぷといふ事は泣て出るぞ頼もしき︒みやがうき身の︒うき思ひ︒口でいはねば気にっかへ目にながる・は百︵五十四オ︶歩一
ほね中 フシ ウ ハルチ︒胸に涙のとこほり山三様に骨おるも︒男の心の悲しみを︒思ひやり手と成ツたるものらぞんざいでなられふか︒恋が
ウ 上 ウ ウこふじて遠山が此ざまになったとは︒しらぬか聞ぬか男めかどこに居るやら死ンだやら︒なしもっぶてもうっとりとたばこ ウ呑ンでもきせるより咽が通らぬうす煙︒人の見ぬ問に思ふ程泣をしよざいか︒あじきなや︒
ハル地色ウ しゆび はし 色 詞 せ わ内を首尾して葛城は走ってくるよりかけ上り︒みや殿麦にかいかゐ世話て有ツたげな︒黍いぞや土に成ツても忘れはせぬ︒
ひなか やせ くわしが心をさつしてたも︒ほんにく物日半に痩たはいの︒こなたは今は何一の苦もなうてらくであろ︒やり手の身は浦山
ウ 地ハル のち フシ 地色ウ ︑ ︑ ウし山様は奥にかの︒ちよっと逢てこふぞや︒後にくといひ捨て行を見るにもなを涙つらいぞういぞと一五十四ウ一いふ中
にも男を傍へ引付ヶては︒うきを凌ぐもカラが有ル此身には苦も有ルまいとや︒明ヶ暮付キあふ人目にさへらくなやうに見ゆる
おん二くへだて ウ ウ 上ウ ウ ウ フシ物︒遠国隔た男気に思ひやりのない事は︒無理共いはれず去リとては︒せめて有リしよが聞たいと声を︒立テねばないじや
くり︒地中 しづみ ウ ︑ ハル あはれ キンヲクリユリ相ノ山 ︑気も沈入ル時しもあれ心ほそげなこきうの声︒哀もよほす相の山︒われに涙をそへよとや︒ゆふべあしたの︒カねのこ
詞 地ウゑじやくめっ︒ゐらくとひ・け共︒聞て︒驚く人もなし︒とをりや︒只の時さへ相の山聞ヶば哀で涙がこぼれる︒悲しうて
・し 色 ウ フシならぬどうぶくらに︒あた聞とむないとをりや︒くといふて涙にくれゐたる︒
相ノ山ハル ウ 中 じゆず 詞のべより︒あなたの︒友とてはけちみやく︒一っに珠数一チれん是が︒めいどの友となる︒ア・した・るい手の隙がない︒
地ハル く しんざうかぷろ り 色 詞 すき 地ハル しよも一五十五オ一とをりやくといふ声に心に苦のない新艘禿︒ばらくと走リ出︒こちら好じや相の山︒聞て泣たい所望く ウ
と立か・る︒ヱ・意路のわるい子供じや︒それ程何か泣たい事︒やっていなそときんちやくの紐をといて取出す︒銭は一せ
ん二世の縁切レても切レぬ笠の内︒泣しつみたる顔見れば恋しゆかしの四郎次郎︒互にハア︑︒ハア︑と計に目くれ︒心は 中ウ だき ハル ウ スヱテ ︑しみ▲\と︒抱付キたうてもあたりには禿が目もと小ざかしく︒こらへるたけとっ・め共むせびふくろぴ泣ゐたり︒
戸・いなせましたらよい物か︒まちつと哀な心をうたふて聞せて下さんせ︒あつと涙にするさ・ら︒胡弓のつるもほそきこ
ゑ︒定めなき世に︒捨られて身のじやく︒めっがしらせたく文は︒かけ共便リなし︒ひとりねさめの︒友とては夢︵五十五
ハル フシウ︶に︒見たよのおもかげが是が︒ねざめの友となる︒
﹃名筆傾城鑑﹄一下一 七一
﹃名筆傾城鑑﹄︵下︶ 七ニ
ハル かい 色 地ハル ウ おそ 上折しも二階奥座敷こいよくと手をたミ︒アイ︒あいくと禿共︒立一問遅しと走リ寄︒コレかふした事も有ふかとうき フシ ウ ウ ウ いだき命をも捨なんだ︒よう顔見せて下んせと︒すがれば男も抱しめ涙の︒外は声もなし︒
中ウ ウ ハル ウ そむなふ恋しいの床しいのとは大てい恋路のならひぞや︒それをとんと打こして主親方にも背きし故︒奈良伏見迄売リ渡され今
此京でやり手と成リ︒花の都も我身には鬼界が島に住ム心︒ひ霜やけにくるしみても手足の苦労は成リもせう︒心をいため
ウ さいかく ウ フシ中 ハルる計じやないカラわざにも才覚にも︒叶はぬ物は逢たいと︒思ふてやるせがなかったとあまへ︒くどくぞふびんなる︒
中ウ つき ハル 色 詞 ほまれ けいやく四郎次郎も尽せぬ涙ヲ・道理く︒そなた一五十六オ一のかげにて大事の絵を書誉を取︒契約たがへず身請をせうと思ふ
りよ おん間に︒不慮の事共命が有一といふ計リ︒恩をきた名古屋山三我故の浪人一︒行キ先もくめでたいといふ字は書やうも忘れて︒
あふぎうちわ あしやがま ろめい なには 地中 うねめ今は扇団の絵芦屋釜の下絵に露命をつなぎ︒大津でとへば奈良にといふ難波で聞ヶば伏見とやら︒是は宋女寄之助二人の
ハル ウ かいはう ウ まへだれかぎ弟子の介抱で︒丸四年ンめに顔を見て嬉しい事はどこへやら︒おれといふ者ないならばとうによい仕合︒前垂鎗はさげまい
ウ スヱテと親御の事迄思はれて︒生キた心はせぬぞとて男泣に泣ければ︒ ウなふそふ打明ヶて下んすがほんく\の御真実︒わしはいっそ親の事思ふ所へいかなんだ︒わたしにばちが当らずばあたる者
とも 中フシ ハルは有ルまいと︒くどき立れば四郎次郎二人の弟子も倶︵五十六ウ︶涙︒さ・らの竹もいにしへのしちくに染る計なり︒
や・有ツて四郎次郎先ツいふべきは︒名古屋山三此所にて不破の伴左衛門を討ツて︒詮義にあふ由洛中の取沙汰︒遺恨のもと
あいさつ せつ わは某故聞捨られぬ挨拶︒廓の説はさればいな︒くはしい事も聞ました山三様にする世話は︒こな様への奉公︒十ヲの物が九
らち たいめんつ追ツ付堵か明ク筈で︒アレ奥にじやはいな︒是は大慶先一彗て対面せう︒イヤく待一せそりやならぬ︒こな様を尋出し︒