教職履修学生の教授言語に対する好みと期待
―英語で行う英語の授業に対する態度―
山口学芸大学 岩中 貴裕
This study tries to clarify what attitudes pre-service elementary school teachers have toward teaching English in English (TEE) and how they are thinking of teaching English at an elementary school. Twenty-five teacher training course students, who took a course taught by the author, were employed as the participants. The course was basically taught in English and each lesson was designed to include input, interaction and output. To investigate their preferences for TEE, the author asked them to answer a questionnaire. They were also asked to write a report to explain how they would like to teach English to elementary school children in the future. The results are: 1) the participants’ preferences for TEE vary and they do not necessarily have a positive attitude toward TEE and 2) they are likely to show an interest in introducing opportunities to negotiate for meaning into class in the future. Based on the results, the author suggests that elementary school teachers do not have to stick to TEE necessarily and argues that input, interaction and output can be assured even if teachers’ use of English in class is limited. 1. はじめに 1.1 研究の背景 2020 年度より小学校で新しい学習指導要領が全面実施される。これに伴い,外国語活動及 び英語科の扱いが大きく変わる。現行学習指導要領,移行期間 (2018 年度~),新学習指導 要領 (2020 年度~) において扱いがどのように変わっていくのかを表 1 に示す。 表1 外国語活動・英語科の単位時間数 学年 現行学習指導要領 移行期間 新学習指導要領 3 年生 15 単位時間(領域) 35 単位時間(領域) 4 年生 15 単位時間(領域) 35 単位時間(領域) 5 年生 35 単位時間(領域) 50 単位時間(領域) 70 単位時間(教科) 6 年生 35 単位時間(領域) 50 単位時間(領域) 70 単位時間(教科) 全面実施は2020 年度からであるが,2018 年度から移行措置または先行実施が始まり,多 くの小学校で3・4 年生を対象としたLet’s Try!1/2,5・6 年生を対象としたWe Can!1/2を 用いて外国語活動が行われている。では新しい学習指導要領は,どのように児童に英語を指
導することを求めているのであろうか。平成29 年 3 月に告示された小学校学習指導要領の 外国語の目標は,以下のように記されている。 外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞く こと,読むこと,話すこと,書くことの言語活動を通して,コミュニケーションを図 る基礎となる資質・能力を次の通り育成することを目指す。 (1) 外国語の音声や文字,語彙,表現,文構造,言語の働きなどについて,日本語と外 国語との違いに気付き,これらの知識を理解するとともに,読むこと,書くことに 慣れ親しみ,聞くこと,読むこと,話すこと,書くことによる実際のコミュニケー ションにおいて活用できる基礎的な技能を身に付けるようにする。 (2) コミュニケーションを行う目的や場面,状況などに応じて,身近で簡単な事柄につ いて,聞いたり話したりするとともに,音声で十分に慣れ親しんだ外国語の語彙や 基本的な表現を推測しながら読んだり,語順を意識しながら書いたりして,自分の 考えや気持ちなどを伝え合うことができる基礎的な力を養う。 (3) 外国語の背景にある文化に対する理解を深め,他者に配慮しながら,主体的に外国 語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。 英語を用いて積極的に自分の考えを相手に伝え,相手の考えを理解しようとする児童の育 成が求められている。英語についての知識の多寡ではなく,コミュニケーションを行うため のツールとして積極的に英語を用いようとする態度が養われているかどうかが重視される。 中学校,高等学校の英語教員は英語を教授言語 (Medium of Instruction,以下 MOI) とし
た授業を行うことが学習指導要領によって要求されている。しかし,筆者は MOI を学習指 導要領によって規定することによってもたらされる効果について懐疑的である。その根拠と して,Iwai et al. (2017) の調査結果を報告する。同研究は平成 11 年に告示された学習指導 要領で英語を学んだグループと平成 21 年に告示された学習指導要領で英語を学んだグルー プを,比較調査している。約4,500 人を調査参加者としたデータに基づき,MOI に対する好 みや期待,そして高校時に受けた英語の授業内で彼等が触れた英語の量は両グループ間でほ とんど差がなかったと報告している。平成21 年に告示された高等学校学習指導要領 (外国語) には,「英語の授業は英語で行うことを基本とする」と明記されているが,実際にはそうなっ ていないことが窺える。 MOI の変更は,従来の説明型の授業を言語活動中心の学習者主体の授業へと転換すること を意味していると筆者は解釈している。これに対する十分な共通理解を研修等によって周知 徹底することなく,学習指導要領内に新たな文言を加えることのみで十分な成果が挙げられ ると考えることに無理があると筆者は考えている。 小学校で新しい学習指導要領が全面実施されるのは2020 年度である。それまでに,(1) 現 職教員を対象とした研修,(2) 新しい学習指導要領が求める指導理念を実践できる教員の養 成を,教育委員会や教員養成大学が実施していくことが求められている。本研究は (2) と深 く関わっている。将来,小学校教員を目指している教職履修学生を調査参加者として,彼等 の MOI に対する好みと期待を明らかにする。また将来,彼等が小学生に対してどのように 英語指導を行いたいと考えているのかを明らかにすることを試みる。
1.2 研究上の問い 上述の議論に基づき,研究上の問いを形成した。本研究は以下の研究上の問いに答え,小 学校における英語教育について考察を加えることをその目的とする。 (1) 教職履修学生は英語で教える英語の授業についてどのように考えているのか。また,英 語で教える英語の授業に対する態度を教育的介入によって変容させることはできるのか。 (2) 教職履修学生は将来,小学生にどのように英語を教えたいと思っているのか。 2. 調査 2.1 調査参加者 日本国内の大学に通う 25 名の学部生が調査に参加した。調査参加者は全員が教育学部に 所属し,卒業後は小学校教員を目指している。半年以上の留学経験がある学生,日常的に英 語を使用する環境にある学生は含まれていない。調査開始時点の調査参加者のCEFR の基準 に基づいた英語力を表2 に示す。 表2 調査参加者の英語力 英語力 A0 A1 A2 B1 人数 1 11 8 5 2.2 データ収集
データ収集はStudent Preferences for Instructional Language (以下,SPIL) と呼ばれる アンケート調査紙を使用して行った。SPIL 1) は調査参加者の英語力,留学経験及び中学校入 学以前の英語学習経験の有無などについて確認する前半部分と,MOI に対する好みや期待 を調査する後半部分で構成されている。SPIL の後半部分は 40 の質問項目で成り立っており, この40 の質問項目は 7 つの因子で構成されている (Carson,2015)。 調査参加者が将来,小学生にどのように英語を教えたいと思っているのかを明らかにする ために,文字モードで定性データ2) を収集した。このデータを分析することによって調査参 加者の英語指導観を明らかにすることを試みる。 表2 で示したように,調査開始時点で B1 レベルの英語力の調査参加者が 5 名いた。この うちの2 名が,15 回の授業の終了時に英語の授業では日本語を 80%使用することが望まし いと回答していた。この2 人に対して約 10 分間の半構造化面接を実施した。 調査は筆者が担当した授業内で実施した。第1 回目の授業 (以下,第一時点) と第 15 回目 の授業 (以下,第二時点) で調査参加者は SPIL に回答した。定性データは第二時点の 1 週 間後3) に収集した。半構造化面接は定性データを収集した翌日に実施した。 2.3 調査を行った授業 筆者が担当する共通教育の英語の授業で調査を実施した。授業構成は第二言語習得研究の 知見を考慮した上で検討した。第二言語習得はその学習環境が母語習得環境に似ている時に 効率的に起こると考えられている (Krashen, 1982; Long, 1990; Swain, 2000)。つまり,(1) 形式ではなくて意味に焦点が向けられている,(2) 理解可能なインプットに触れる機会があ る,(3) 不安の少ない場面で目標言語を意味のやり取りのために使用する機会がある,とい
環境では,明示的な文法学習および文法指導を軽視してはならないと筆者は考えている。し かし,英語を運用する能力は実際に英語を用いてコミュニケーション活動に従事することに よって育まれていく。言語構造等についての説明を聞くことによって英語運用能力が育まれ る可能性は低いと筆者は考えている。この点を考慮して,調査参加者がペアまたは小グルー プでインフォーメーション・ギャップのあるコミュニケーション活動に従事するようにした。 英語で行う英語の授業を受講生が肯定的に捉えるかどうかは,その授業が理解可能である かどうかが大きな影響を与えると考えられる (Iwai,2018, July)。調査を行った授業は,基 本的に英語を用いて行ったが,視覚教材等を用いて調査参加者の理解を促すように配慮した。 また,近年の第二言語習得研究では,学習者の母語は第二言語習得において有効に活用さ れるべき資源であると考えられている (Cook,2001)。この点を考慮し,英語と日本語を柔 軟に使い分けて調査参加者の理解を確保した。例えば,課題の指示や複雑な文法規則の説明 は日本語で行った。さらに,小学校における英語の授業がどのようなものなのかを理解させ るために,授業時間の約半分を We Can!1/2 を用いた活動に費やした。筆者がWe Can!1/2 を用いた授業を行い,調査参加者は小学生になったつもりでその授業に参加した。 3. 結果 3.1 TEE に対する態度 SPIL の前半部分にある 3 つの質問に対して,調査参加者がどのように回答したのかを分 析対象とする。 (1) あなたは英語の先生に授業中にどの程度,日本語を使って説明してもらいたいと思いま すか。 (A) 0% (B) 20% (C) 40% (D) 60% (E) 80% (F) 100% (2) あなたはすべてのことが英語で行われる英語の授業についてどう思いますか。 (A) とても望ましい (B) 望ましい (C) どちらともいえない (D) いや (E) 絶対いや (3) 主に英語だけで教えられる英語の授業は,あなたの学習意欲を高めると思いますか。 (A) とてもそう思う (B) そう思う (C) どちらともいえない (D) そう思わない (E) まったくそう思わない 質問 (1) と (2) については,第一時点と第二時点で回答した。質問 (3) には第二時点の みで回答した。以下,結果を報告する。まず,質問 (1) に対する回答結果を図 1 に示す。 図1 日本語の使用割合 0% 20% 40% 60% 80% 100% 第一時点 1 11 10 1 2 0 第二時点 0 3 15 3 4 0 0 5 10 15 20 第一時点 第二時点
図1 は,第一時点と第二時点で調査参加者が英語の授業においてどの程度の日本語の使用 を求めているかを示している。これらの差をχ二乗分析により検討した。その結果,χ2 (4, N = 50) = 8.238,p = .083 であり,時点間で日本語の使用割合に対する希望に差が無いことが 示唆された。 統計的な有意差は無かったが,日本語の使用割合で0%または 20%を選択した調査参加者 の数が第二時点で減少している。第一時点で0%を選択した調査参加者は,第二時点では 20% を選択していた。 次に質問 (2) に対する回答結果を図 2 に示す。 図2 すべてが英語で行われる授業 第一時点,第二時点ですべてのことが英語で行われる英語の授業について調査参加者がど のように思っているかは図2 に示した通りである。これらの差をχ二乗分析により検討した。 その結果,χ2 (4, N = 50) = 4.937,p = .294 であり,時点間ですべてが英語で行われる授業 に対する態度に差が無いことが示唆された。 質問 (1) と質問 (2) に対する回答は,いずれも第一時点と第二時点で有意な差が確認でき なかった。MOI に対する態度を教育的介入によって短期間で変容させることの困難さを示唆 している。次に質問 (3) に対する回答結果を図 3 に示す。 図3 学習意欲の向上 図 3 が示しているように,「とてもそう思う」と「そう思う」を選択した調査参加者の数 が「そう思わない」と「まったくそう思わない」を選択した調査参加者の数を4 名上回って いる。肯定的な反応を示した調査参加者の数が,否定的な反応を示した調査参加者の数をや や上回るという結果になった。しかし,この結果は筆者の予測を下回っていた。前述のよう とても望まし い 望ましい どちらともい えない いや 絶対いや 第一時点 3 4 9 4 5 第二時点 1 7 10 6 1 0 5 10 15 第一時点 第二時点 とてもそう 思う そう思う どちらとも いえない そう思わな い まったくそ う思わない 第二時点 3 8 7 6 1 0 2 4 6 8 10
に調査は筆者が担当した授業で行った。調査参加者の授業に対する積極的な態度と授業全体 の雰囲気から「授業の大半を英語で行う授業」が受け入れられ機能しているように思ってい たが,調査結果はこれを反映していなかった。この理由については3.3 で説明する。 3.2 英語指導観 収集した定性データをKH Coder 4) を用いて分析した。KH Coder はテキスト型 (文章型) データを統計的に分析するためのソフトであり,無料で一般に公開されている。まず,どの ような語が高頻度で用いられているかを分析によって明らかにした。出現回数 25 回以上の 高頻出語の一覧を表3 に示す。 表3 高頻出語 ランク 抽出語 出現回数 ランク 抽出語 出現回数 (1) 英語 171 (6) 思う 36 (2) 授業 68 (7) 発音 35 (3) 教える 51 (8) 小学生 29 (4) 考える 51 (9) 子ども 28 (5) 児童 48 (10) 活動 26 次に語と語の共起関係を明らかにすることを試みた。分析の結果,高頻出語である「英語」, 「授業」,「教える」,「考える」,「児童」は共起関係が高いことが明らかになった。本研究で は「授業」と「教える」という語に焦点を当てる。これらの語がどのように用いられている かを分析することによって,調査参加者が将来どのように英語を教えたいと思っているのか を明らかにする。 調査参加者の授業観は多岐にわたっていたが,「児童主体の活動がある授業」,「児童が楽し く学べる授業」,「音声指導を重視する授業」という3 つの特徴が,多くの調査参加者によっ て共有されていた。 1 つ目のキーワードは「児童主体の活動がある授業」である。以下の例が示すように,児 童がインタビュー等の活動を通して英語を話す機会がある授業を行いたいと多くの調査参加 者が考えていた (下線は筆者による)。 (1) 将来,私が小学生に英語を教える時は,活動を通した,活発的な授業をして,英語を教 えていきたい。 (2) そのために,まずは児童が英語を話す機会を授業の中で多く作ることが重要である。チ ャンツや単語カード・インタビュー活動などを多く活用し,少しずつ英語に触れること で英語を話すことに抵抗感をなくすことができると考える。 (3) …どうしても英語をしゃべる機会を授業のなかで多く設ける必要があります。 2 つ目のキーワードは「児童が楽しく学べる授業」である。児童が英語嫌いにならないよ うにするために,楽しさを感じることができる授業を行いたいという記述が多かった。 (4) まずは,英語,外国語活動に対する難しそうだというマイナスイメージを無くし,児童
が楽しく取り組める授業にするということである。 (5) このように,楽しく授業をすることを教員が心がけることによって,児童が英語に対し て否定的な意見を持つことなく,また,英語の学力の向上に繋がるのではないかなと私 は考える。 (6) 初めて英語に触れる児童を基準として英語を楽しんで学ぶことのできる授業にしたいと 考える。 3 つ目のキーワードは「音声指導を重視する授業」である。アルファベットの読み方,歌, チャンツを自分の授業に取り入れたいと考えている調査参加者が多かった。 (7) まず1つ目は英語の歌をたくさん使った授業をしたいと思う。 (8) だから,教師の立場になったら,小学生の頃から良い発音ができるように子どもたちに 教えたいと考えている。 (9) 2 つ目は,口の形や舌の位置を意識して発音するように教えることである。 授業を英語で行いたいと述べていた調査参加者は,1 名だけであった。以下のように記述 していた。 (10) また,教師もできるだけ英語で授業を進めていきたい。教師が英語を積極的に話すこと で,児童も英語の授業に切り替えることができ,意欲も上がるのではないか。 3.3 半構造化面接 半構造化面接はSPIL の結果を解釈する際に参考となるデータを収集するという目的で実 施した。一般的には,英語力が高い学習者の方が MOI を英語とした授業を肯定的に受け入 れる傾向がある (岩中他,2015)。今回の調査参加者の中に,英語力は B1 レベルであったが, 第二時点で英語の授業では日本語を80%程度使用して欲しいと回答した調査参加者が2名い た。彼等に対して,アンケートの回答に触れながらその理由を確認した。また,調査を行っ た授業についての感想も尋ねた。2 名の調査参加者が SPIL の 3 つの問いに対してどのよう に回答したのかを表4 に示す。 表4 SPIL 回答結果 調査参加者 (1) 日本語の使用割合 (2) すべてが英語の授業 (3) 学習意欲 の向上 第一時点 第二時点 第一時点 第二時点 B1(1) 20% 80% とても望ましい とても望ましい とても そう思う B1(5) 80% 80% どちらとも いえない どちらとも いえない どちらとも いえない B1(5) の MOI に対する態度は,大学入学までに受けた英語の授業が影響を与えているよ うであった。調査を行った授業に対しては好意的な印象を持っていたが,これまでに受けた 英語の授業と自身の英語学習を通して形成された MOI に対する態度は変わらなかったよう
である。半期の授業で MOI に対する態度を教育的介入によって変容させることの困難さを 示唆してと考えてよいだろう。 表4 に示した回答結果から分かるように B1(1) は英語の授業を英語で行うことに対して好 意的な反応を示している。しかし,日本語の使用割合については第一時点では20%と回答し ていたのに対して,第二時点では80%と回答していた。調査を行った授業については,B1(5) と同様に高く評価していた。第二時点で80%を選んだ理由として,自身の英語力不足と自信 のなさを挙げていた。第一時点ではあまり深く考えずに20%を選んだが,第二時点では今の 自分には英語で行う英語の授業は難しいと思ったという回答であった。授業は自分たちが英 語を使って話す機会が多くてためになったが,授業内の英語での指示が理解できなかった時 は不安になったと述べていた。最終的には英語の授業は英語で行うことが望ましいと思って いるが,現時点では日本語のサポートがないと安心して授業を受けられないという説明であ った。B1(1) のように考える学習者は少なくないと筆者は考えている。すべてが理解できな くても心配しなくてもいいと教師が言っても,それを学習者がすぐに受け入れるわけではな い。曖昧さを寛容に受け入れる資質も,MOI に対する好みや期待と同じように自らの学習経 験を通して徐々に形成されていくものである。筆者が予測したほど「授業の大半を英語で行 う授業」が調査参加者に受け入れられなかった理由はここにあると思われる。授業内で英語 での指示や説明が多少理解できないことがあっても,それほど気にする必要はないというこ とを,英語学習を開始した時期から日々の授業内で経験的に理解させることが求められる。 3.4 研究結果のまとめ 調査参加者に対して行ったアンケート(SPIL),定性データ,半構造化インタビューの分析 から得られた結果を表5 に示す。 表5 研究結果のまとめ 研究上の問い 結果 (1) (a) 調査参加者の英語で教える英語の授業に対する態度は多岐にわたって おり,一般化することは困難である。 (b) 教授言語に対する好みと期待を半期の教育的介入によって変容させる ことは困難である。教授言語に対する好みと期待はこれまでの英語学習 経験によって形成されており,比較的安定していると考えられる。 (c) 英語で行う英語の授業を肯定的に捉えている学習者であっても,理解に 不安を感じるとより多くの日本語使用を求めることがある。 (2) (a) 調査参加者は「児童主体の活動がある授業」,「児童が楽しく学べる授 業」,「音声指導を重視する授業」を行いたいと考えている傾向がある。 4. 考察 本研究が明らかにしたことに基づいて,小学校における英語の授業をどのように行うべき かについて考察を加える。図1,2,3 で示したように,調査参加者の TEE に対する態度は 肯定的とは言えない。また,教授言語に対する態度を短期間で変容させることは非常に困難 であるという結果になった。しかし定性データの分析から,「インタビューに代表されるペア でのやり取りを自分の授業に取り入れたい」,「音声の指導を重視したい」,「児童が楽しめる
授業をしたい」と考えている調査参加者が多いことが明らかになった。彼等は英語科教育の 専門の授業は受講していない。また,第二言語習得についての知識も限られている。しかし, 英語を意味交渉 (negotiation for meaning) のために使用する活動を授業に取り入れること については肯定的な意見が多かった。簡単なスピーチ等を授業に取り入れたいという意見も 見られた。このような指導観を持った人材が小学校の教員になることは望ましいことである。 筆者は小学校の教員に中学校,高等学校の英語教員と同じような英語指導を求めることは望 ましくないと考えている。教科の専門家が授業を行っている中学校や高等学校の英語指導を 小学校に持ち込もうとすることによって,小学校教員の強みが損なわれてしまう可能性があ るからである。 小学校教員の最大の強みは,全教科の指導と学級経営に携わることによって児童を多面的 に理解する能力である。教科の指導を通して生徒を理解することが基本となる中学校,高等 学校の教員と異なり,児童を学校生活全体から包括的に理解する能力に長けている。 専科教員を導入せずに担任が英語の指導を行うのであれば,現在,小学校で働いている現 職教員,小学校教員養成課程の学生が実践可能な現実的な英語指導方法を確立する必要があ る。英語をコミュニケーションのためのツールをして使用する能力を養うためには,インプ ット,インタラクション,アウトプットの3 つが確保されなくてはならない。これは英語を MOI として使用しなくても可能であると筆者は考えている。
例えばWe Can! のLet’s Watch and Think,Let’s Listen,Activity,Let’s Read and Write は,仮に指示を日本語で行っても,児童が英語のインプットに触れ,他の児童とインタラク ションを行い,アウトプットに従事する機会となる。教員がロールモデルとなって積極的に 英語を使用する姿は,児童と一緒に活動に従事することによって見せることができる。
大切なことは英語を用いて授業をすることを目的とするのではなく,どうすれば効果的な 学びがもたらされるのかについて検討することである。
図4 Let’s Watch and Think (We Can!2 の p. 12 より)
例えば図4 に示した活動を行う場合,“Class, please open your textbook to page 12. Are you ready? OK, let’s watch the videos.” と言っていきなりビデオを見せても学習効果は限 られる。ビデオを見る前に「ブラジル,インド,エジプト,オーストラリアについて知って
いることをペアで話してみましょう」と指示を出してウォームアップの時間を確保すること によって,背景知識を活性化し学習効果を高めることができる。“What do you know about Brazil, India, Egypt and Australia? Please talk in pairs.”と英語で指示を出すべきだという 主張もあるかもしれないが,筆者はこれを小学校教員に求める必要はないと考えている。 教科の専門家が担当する中・高等学校の英語の授業と,全人的な生きる力を児童に育むこ とを主眼とした教育に取り組んでいる小学校学級担任が行う英語の授業が同じである必要は ない。児童を「見取る」能力に優れた小学校教員の強みを活かす英語指導方法の確立が求め られている。 謝辞 本研究はJSPS 科研費 26284080 の助成を受けたものである。 注) 1) SPIL の後半部分の質問項目については,Carson (2015) を参照。 2) 調査参加者に対して,「将来,小学生に英語を教えることになった時どのようにして教え ようと思いますか。」という指示で600 文字程度の長さのレポートを提出させた。 3) 調査参加者数は 25 名であるが,レポートを第二時点の 1 週間後に提出した人数は 17 名 であった。本稿ではこの17 名のレポートを分析対象としている。 4) KH Coder の詳細については,樋口 (2014) を参照。 引用文献
Carson, E. (2015). Introducing a new scale: Student preferences for instructional language (SPIL). JACET Chugoku-Shikoku Chapter Research Bulletin, 12, 19-36. Cook, V. (2001). Using the first language in the classroom. The Canadian Modern
Language Review, 57 (3), 402-423.
Iwai, C. (2018, July). A qualitative examination of learners’ preference for English classes taught in English. Paper presented at the 16th Asia TEFL International Conference at University of Macau, Macau SAR.
Iwai, C., Willey, I., Takagaki, T., Kawamoto, J., Carson, E., Konishi, K., & Iwanaka, T. (2017). The influence of the teaching English in English (TEE) policy on English education and learners. JACET Chugoku-Shikoku Chapter Research Bulletin, 14, 19-36.
岩中貴裕,ウィリー イアン,岩井千秋,高垣俊之,小西廣司,カワモト ジュリア,カーソ ン エレノア.(2015).「日本人大学生の教授言語に対する好みと期待-外国語としての英 語の授業におけるL1 使用に対する態度」『香川大学教育研究第 12 号』117-128. Krashen, S. (1982). Principles and practice in second language acquisition. Oxford, UK:
Pergamon Press.
Long, M. (1990). Maturational constraints on language development. Studies in Second Language Acquisition, 12, 251-285.
Swain, M. (2000). French immersion research in Canada: Recent contributions to SLA and applied linguistics. Annual Review of Applied Linguistics, 20, 199-212.