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少子高齢化社会における技術伝承と人材育成 : 建 設技術者の検証

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Academic year: 2021

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少子高齢化社会における技術伝承と人材育成 : 建 設技術者の検証

著者 山? 雅夫

著者別名 YAMASAKI Masao

その他のタイトル Succession of intuition and pertinent

engineering experience in an ageing society with a low birth rate

ページ 1‑213

発行年 2017‑09‑15

学位授与番号 32675甲第414号

学位授与年月日 2017‑09‑15

学位名 博士(政策学)

学位授与機関 法政大学 (Hosei University)

URL http://doi.org/10.15002/00014278

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博士学位論文

論文内容の要旨および審査結果の要旨

氏名 山﨑 雅夫 学位の種類 博士(政策学)

学位記番号 第641号

学位授与の日付 2017年 9月15日

学位授与の要件 本学学位規則第5条第1項(1)該当者(甲) 論文審査委員 主査 教授 石山 恒貴

副査 教授 樋口 一清

副査(学外)横浜国立大学大学院教授 柴田 裕通

少子高齢化社会における技術伝承と人材育成-建設技術者の育成-

Ⅰ 著作内容の要旨 1.本論文の目的と意義

山﨑雅夫氏は、2005年3月に広島工業大学大学院工学研究科土木工学専攻を修了し、工 学修士の学位を得て、同年4月に土木系設計会社に入社し、5年間勤務した。2011年4月 に法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科に入学し、2012年3月に同研究科 を修了して経営管理修士(専門職)の学位を取得した。その後、法政大学大学院政策創造研究 科博士後期課程に進学し、現在に至っている。

山﨑氏の今回の学位請求論文「少子高齢化社会における技術伝承と人材育成 -建設技術 者の検証-」は、建設技術者に必要とされる能力を「技術者直観」という新しい概念を用 いて整理し、その有効な育成方法を検討している。これまで、「カン」とか「コツ」という 言葉で表現されてきた能力の内実を明らかにし、卓越した技術者になるために習得しなけ ればならない要素を解明した。また、そういった要素を身につけるにはどのような方法が 適切であるかについても丁寧な検討を加えている。自ら土木技術者として建設現場で働い た経験と経営学の研究で得られた分析手法が融合することにより、独自性に富む手堅い労 作となっている。

2.本論文の構成と内容 2.1 本論文の構成

本論文の構成は次の通りである。

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2 序論 本研究の問題設定

はじめに

第 1 章 本研究における問題設定と目的 1.1 問題設定と目的

1.1.1 現状と懸案事項

1.1.2 課題 1「何を伝えるのか」

1.1.3 課題 2「どのような方法であれば伝わるのか」

1.2 言葉の定義 1.2.1 技術と技能 1.2.2 ベテランと若手 1.2.3 直観と技術者直観 1.3 本論文の構成

第 2 章 少子高齢化社会および建設業界の現状と課題 2.1 少子高齢化社会の現状

2.2 将来の人口推計 2.3 建設業界の現状 2.4 第 2 章のまとめ

序論のまとめ

本論 1 理論「技術者直観」

はじめに

第 3 章 理論に関わる先行研究 3.1 基盤とする領域

3.2 理論生成のための分析の枠組 3.3 第 3 章のまとめ

第 4 章 理論「技術者直観」の生成 4.1 理論「技術者直観」

4.2 技術伝承研究会における議論とインタビュー調査 4.2.1 技術伝承研究会における議論

4.2.2 インタビュー調査 4.3 第 4 章のまとめ

第 5 章 技術者直観の事例

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3 5.1 はじめに

5.2 事例(道路設計)の全体像 5.3 事例の分析

5.3.1 準備・計画 5.3.2 現地踏査 5.3.3 設計条件

5.3.4 線形決定・中心線測量 5.3.5 平面線形

5.3.6 縦断線形 5.3.7 横断設計 5.3.8 排水工の設計 5.3.9 舗装工の設計 5.3.10 平面交差点設計 5.3.11 事例の分析のまとめ

5.4 第 5 章のまとめ

本論 1 のまとめ

本論 2 方法論 「5 つの活動の連携による育成」

はじめに

第 6 章 方法論「人材育成論」に関わる先行研究 6.1 直観形成系

6.2 教育学系 6.3 技術・技能系

6.4 経営学系 6.5 第 6 章のまとめ

第 7 章 卓越したベテラン技術者の能力開発・キャリア形成 7.1 はじめに

7.2 調査の方法と概要 7.2.1 調査対象 7.2.2 分析方法 7.3 分析の結果

7.3.1 どんな仕事をしてきたか 7.3.2 目標となる上司・先輩がいたか

7.3.3 目をかけている部下・後輩に対して思うこと

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4 7.3.4 ベテランと思われる条件

7.3.5 全ての分析結果の統合

7.3.6 技術者直観水準図と分析結果の関係性 7.4 第 7 章のまとめ

第 8 章 技術者直観が伝わる人材育成方法の検証 8.1 研究の方法と概要

8.2 方法論 「5 つの活動の連携による育成」

8.3 実験の内容 8.4 方法論の検証

8.4.1 技術者・人材育成担当者への実験 8.4.2 就職先が決まっている学生への実験 8.5 第 8 章のまとめ

本論 2 のまとめ

結論 本研究のまとめと提言 はじめに

第 9 章 これからの技術伝承と人材育成の方向性 9.1 はじめに

9.2 問題・課題に対する理論的意義の提示 9.2.1 課題 1「何を伝えるのか」に対する提示

9.2.2 課題 2「どのような方法であれば伝わるのか」に対する提示 9.2.3 問題に対する提示

9.3 今後の研究の方向性 9.4 第 9 章のまとめ

第 10 章 提言:実践的意義としての人事政策への展開 10.1 経営者

10.2 管理職 10.3 個人 10.4 人事部

10.5 労働組合・企業内共済会等 10.6 第 10 章のまとめ

結論のまとめ

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5 参考文献

巻末資料

巻末資料 1 技術者直観の事例 設計細項目の詳細 巻末資料 2 卓越したベテラン技術者の技術者直観水準図

2.2 論文の概要

本論文は、序論、本論1、本論2、結論の4部で構成されている。その概要は以下の通り である。

序論(第1章、第2章)では、本論文における問題設定と目的について述べるとともに、少 子高齢化が建設業界においてどのような問題を引き起こしているかを整理している。

第 1章では、「現状と懸案事項」、「課題1」、「課題 2」、「言葉の定義」を述べている。山 﨑氏によると、建設業界は、3つの懸案事項を抱えているという。第1の懸案事項は、少子 高齢化社会の影響を受け、受注量が減少していることである。第 2 に、建設業の担い手の 減少によって伝えるべきことが伝わらず、これまで蓄積された技術が失われる可能性が高 いことである。第 3 に、すでに人手不足が深刻化しており、この状況は近い将来にわたっ て続いていくことである。これらの懸案事項を早急に解決することがこれまで以上に求め られている。そのため、少子高齢社会において不足すると危惧される建設技術者の能力を 維持・向上させ、わが国の建設業が持続的で活力ある発展を続けるための施策を検討する ことを論文の目的として置いた。この点を解決するために、2つの課題―「何を伝えるのか」

と「どのような方法であれば伝わるのか」―を設定している。

第1の課題「何を伝えるのか」は、ベテランたちが培ってきた知識や知恵、経験から発揮 される能力が、何であるかを特定することである。本論文では、それを「技術者直観」と表 現している。これは、建設技術者の間において、カン・コツとしてあつかわれてきたもので ある。「技術者直観」という新しい概念を導入することで、これまでブラック・ボックスで あった「カン・コツ」の内実に迫ろうとしている。

第2の課題「どのような方法であれば伝わるのか」は、「技術者直観」を若手に伝えるの が難しいことから出てきた課題である。建設業界では、人手不足から各人が多忙を極め、自 分の案件を処理するだけで精一杯という状況が常態化している。ベテランや中堅技術者たち は、若手技術者を丁寧に育てる時間的・精神的余裕をなくしており、このままの状態が続く とベテランたちが培ってきた知識や知恵、経験が十分に継承されないという状況にある。伝 えるべきものが円滑に伝わる方法を見つけ出して検証することが2つ目の課題である。

第2章においては、問題の背景である少子高齢社会の現状と課題について述べている。日 本の少子高齢化の全体像を概観した上で、建設業界・建設技術者の現状と課題について整理 している。日本の急速な少子高齢化の原因は、長寿化と少子化が同時に進んでいることであ る。政府が発表している人口推計によると、わが国の人口は将来にわたって減少することが

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見込まれている。人口減少は、労働力人口の減少を引き起こす。多くの産業において技術者 数の減少が予想されているが、特に、建設(土木・建築)技術者の減少は他業界に比べて著し い。建設業界においては、団塊の世代や今後高齢になっていくベテラン技術者の退職が進む 一方、若手技術者の入職数の減少が顕著になっており、単なる従事者数の面だけでなく、蓄 積されてきた技術やノウハウが次の世代に伝えられずに消えていく危険性が高まっている。

これまでとは異なる技術伝承の手法を開発することが急務となっている。

本論1(第3章~第5章)では、理論「技術者直観」の生成を試みている。本論1は、課

題1「何を伝えるのか」に答えるものである。

第3章では、本論文が基盤とする領域(主として経営学)の先行研究を検討し、本論文 の分析の枠組を構築することにつなげている。検討した先行研究は、小池の「知的熟練」、

ダガンの「戦略的直観と専門的直観」、野中・竹内の「SECIモデル」、金井・楠見の「実践 知」、松尾・中原の「経験学習」である。これらの研究は、建設技術者を直接的に扱っては いないが、山﨑氏が注目している技術者の「カン・コツ」については、一定の言及がなさ れている。しかし、技術者の「カン・コツ」の内実を明らかにするには不十分であり、新 たな理論的枠組みの構築が必要であるとした。そして、「直観」という概念を提示すること が有効であると述べている。

「直観」は「集積する能力」と「使いこなす能力」の 2 つから構成される。先行研究に おいては、この分類がなされておらず、そのために「カン・コツ」の内実を明らかにする ことができなかった。「集積する能力」と「使いこなす能力」は切り離せないものであり、

相互に関係することで「直観」が深まっていく。

第 4 章においては、「技術者直観」という理論的枠組みを提示し、その有効性を検証して いる。技術者直観(Engineer’s Intuition)は、「技術者がある環境下において、問題発見・原 因究明・問題解決を同時に瞬時にこなす能力」と定義されている。第3章の先行研究のレビ ューを受けて、建設技術者の「カン・コツ」の内実を明らかにするために、ベテラン技術 者たちが参加した技術伝承研究会での議論や、ベテランや中堅の建設技術者へのインタビ ュー調査を通して、「技術者直観」という理論を形成していった。この理論を用いることで、

これまではブラック・ボックスのように扱われてきた建設技術者のカンやコツの構成要素 を明らかにすることができると本論文は主張する。

第5章においては、第3章と第4章で検証してきた技術者直観を事例の検討を通して、

より明確にしている。具体的な事例を示すことで、技術者直観について、より深い理解を 促すことに寄与している。事例として取り上げられたのは、道路設計である。事例の全体 像を示すとともに各設計細目について技術者直観のレベルを設定した。

本論2(第6章~第8章)では、技術伝承と人材育成が円滑に進む環境をつくりだす方法 論「5つの活動の連携による育成」について述べている。

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第6章では、技術伝承と人材育成が円滑に進むための方法論を検討するために、これま でに提唱された人材育成論をレビューしている。レビューに当たって、これまでの研究を

①直観形成系、②教育学系、③技術・技能系、④経営学系の4つに分類した。各分類から 次のような知見を得ることができた。まず、直観形成系の研究からは、直観という能力形 成のためには、知識を習得し、繰り返し訓練を行い、経験を積み重ねて行くことが重要で あることが明らかになった。これらを段階的に行なっていくことで、直観は形成され、高 度な意志決定・行動が可能となるのである。次に、教育学系においては、(1)気づかせる、

(2)場の提供、(3)具体・実物を示す、(4)引き出す、(5)自発性、(6)教授段階、(7)経験:目的 設定と解決、(8)教授段階と経験の重ね合わせ、(9)反復、(10)時代に応じた方法の発見とい った点の重要性が指摘されている。第3の技術・技能系の研究レビューからは、育成段階 を設定し、指導を重ねることで意識が向上していくことが指摘される。また、個人の能力 向上と相互の教え合いの循環が重要だとしている。最後に、経営学系の研究から見えてく る人材育成方法は、評価、自己啓発、経験(OJT)、外部環境、段階、挑戦、指導、他者との 交流、場の提供である。人材育成のためには、個々人の状況に合わせて育成環境を創造す ることが効果的だという点が明らかになった。

第 7 章では、建設業における卓越したベテラン技術者の能力開発・キャリア形成の実際 を分析することで、若手・中堅技術者を育成するのに何が必要かを考察している。ベテラ ン技術者たちが技術者直観をどのように身につけ、それが各人のキャリア形成にどう影響 してきたかを検討することで、若手技術者の育成に応用できると考えたからである。本論1 において生成した理論「技術者直観」をもとに、卓越したベテラン技術者へのインタビュ ー調査を実施し、彼らがどのように自らの能力を高め、キャリア形成してきたかを分析し ている。その結果、卓越したベテラン技術者の能力開発・キャリア形成には、「責任がある 中での集積と使いこなす力の向上」が有効であることが明らかになった。責任ある仕事を 任せることで様々な経験を積ませて、それらの経験から得た知識やノウハウを整理し、組 み合わせて、さらに発展させていくことの有効性が示されている。

第8章では、技術者直観を伝えるための人材育成方法「5つの活動の連携による育成」の 検証を行っている。建設技術者を効率的に育成するのに適した方法論を新たに生成するた めに、第6章で行った先行研究のレビューから、育成プログラムを 5段階構成にすること を提言している。それが「5つの活動の連携による育成」である。5つの活動とは、①課業 スキル表(作業の全体像の把握とチェックポイントの整理)、②キーワード(作業における キーワードの抽出、データマイニング)、③事例(建設現場で実際に起こった事例の収集と 事例が示す教訓の理解)、④擬似訓練(ベテランを交えた具体的事例に関する討議)、⑤協 働(ベテランとの協働による実務への取り組みと振り返り)である。これらを繰り返すこ とで、技術者直観を身に付けやすくなるとしている。建設現場の第一線で働く技術者たち とこれから企業に入って建設技術者として働くことになる人たち、2つのグループにおいて この方法の有効性を検証した結果、両方のグループから好意的な評価を得ることができた。

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特に、「5つの活動の連携による育成」の活動①~④を行うことで、実際の作業において「気 付く」べき点が明確になり、⑤を前にして、習得しておくべき知識を自ら学ぶという行動 につながりやすいことが確認された。

結論(第9章、第10章)では、問題・課題への解決策の提示、提言を行っている。

第 9章において、本論文で取り上げた問題を解決するために設定した2 つの課題につい て整理している。課題1「何を伝えるのか」の解決策は、「技術者直観」(Engineer’s Intuition) である。本論文における新しい発見は、「直観」をこれまでにない視点で捉え、建設業界の 技術者に適用し、「技術者直観」という理論を生成したことである。「技術者直観」という 理論は、これまで何を伝えるのか諸説あったものを一つにまとめるという理論的意義を持 っている。課題 2「どのような方法であれば伝わるのか」については、「5 つの活動の連携 による育成」であるとした。本研究における新しい発見は、技術者が成長する要因を検討 した上で、方法論を考案したことである。「5 つの活動の連携による育成」は、これまでど のような方法であれば伝わるのか諸説あったものに対して、一定の標準形を提示すること になっている。

第10章は提言である。建設技術者の技術伝承を円滑に進めるには、一定の仕組みが必要 であり、その実現のためにそれぞれが果たすべき役割がある。技術伝承の問題を解決する ための人事政策を立てる上で、経営者、管理職、個人、人事部、労働組合・企業内共済会 それぞれの立場から検討している。本論文の成果である「技術者直観」と「5つの活動の連 携による育成」の適応についても言及した。これらが実現すれば、多くの建設企業の人材 育成がより効率的、効果的に行われるようになり、少子高齢化社会において不足すると危 惧される建設技術者の能力を維持・向上することに寄与するとしている。

2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて建設分野の仕事が急増している現在は、

中堅・若手技術者育成の格好の機会である。建設技術者が、この機会を上手に活用し、ベ テラン技術者の技術者直観を若手・中堅技術者に伝承できることを証明していけば、それ は他の技術者のモデルになる可能性がある。そうなれば、少子高齢化社会における人材問 題にも対応していけるであろうと結んでいる。

Ⅱ.審査結果の要旨

1.審査経過

政策創造研究科では、山﨑氏の申請を受けて、学位論文審査委員会を設置し、2017 年 7 月20日、山﨑氏からの口頭説明を受け、審査委員との質疑応答を行った。これを踏まえて、

審査委員会として学位を授与することが適当であるとの結論に達した。

審査委員は以下の3名である。

石山 恒貴(法政大学大学院政策創造研究科教授) 主査

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柴田 裕通(横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授) 外部委員 樋口 一清(法政大学大学院政策創造研究科教授)

なお、山﨑氏の指導教員は法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科藤村博之 教授であり、審査委員会としては藤村教授の意見を適切に聴取して審査を行った。

2.評価

2.1 論文の成果

本論文は、(a)著者の建設技術者としての実務経験、(b)建設技術者に必要とされる能力を 明らかにするに当たって技術者直観という概念を生成したこと、(c)大学院における専門的 訓練の3つが総合された結果生み出された優れた論文であるというのが、審査委員の共通 した認識であった。

これまでの先行研究との関係で言うと、本論文のオリジナリティとしては、次の2点が 特記される。

第 1 は、これまでは「カン・コツ」という形で表現されてきたベテラン建設技術者の能 力の内実を明らかにしたことである。卓越した建設技術者は、異常や問題点を的確に指摘 し、その原因を推定して解決策を考え出し、それを実行して、何事もなかったように異常 や問題を解決している。例えば、若手技術者が描いてきた図面をベテラン技術者が見たと き、一瞬のうちに問題点を見つけ出し、「この部分はまずいぞ。修正しておけよ。」と指導 する。詳細に検討することなく、本当に一瞬で問題点を見抜くのである。あるいは、ベテ ラン技術者が建設現場に入ったとき、「こことここが危ないぞ。気をつけろよ。」と、他の 技術者が気付いていなかった危険を察知して、事故を未然に防いでいる。これまでは、ベ テラン技術者のこういった能力を、「彼はカンが鋭い」とか「彼はコツをわきまえている」

と表現し、その内実に関する議論は十分に行われてこなかった。

建設業は、自然を相手に仕事をすることが大半であり、建設現場には一つとして同じも のがないと言われる。仮に、同じ建物を建てるにしても、場所が変われば地盤も変わるし、

地下水系なども異なる。それらの状況を勘案して、最適な方法を案件ごとに検討して建設 計画を立てるのだが、計画はしばしば予定外の出来事に翻弄される。資材の到着が遅れて いるとか、急な天候悪化で高所作業が難しくなりそうだとか、その場で対応しなければな らない変化や異常が次々と押し寄せてくる。そうした状況下でも、的確な判断を短時間で 下していかないと、工事に遅滞が生じて、納期を守れないことになりかねない。問題点を 瞬時に見抜いて対応する能力の重要性がここにある。

山﨑氏は、ベテラン建設技術者が持つ高い能力に注目し、それが中堅や若手の技術者に 十分に伝わっていないのではないかという問題意識を持った。それは、山﨑氏自身が若手 建設技術者として働いた経験に根ざしている。1990年代半ばまでは、公共事業も含めて建 設需要は旺盛で、多くの仕事があり、建設業従事者も多かった。しかし、1997年以降、建

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設業の仕事は減少し、従業員数も減っていった。以前は、多くの現場を経験することで建 設技術者たちは高い能力を身につけていたが、建設需要の減少とともに、経験できる現場 の数は減少し、以前と同じ育成方法では十分ではないのではないかという懸念が出てきた。

まずは、ベテラン技術者が持つ能力のうち、どの部分を中堅・若手技術者に伝える必要 があるのかを確定しなければならない。そこで、山﨑氏は、技術者直観という概念を生成 し、伝えるべきものを明らかにしようとした。どんなに高い能力であっても、それを言語 化できなければ伝えることは難しい。建設業のベテラン技術者たちが持つ高い能力を「技 術者直観」として言語化したことが山﨑氏の論文の第一の貢献である。

第2のオリジナリティは、技術者直観の育成方法を「5つの活動の連携による育成」とし て定式化したことである。ベテラン技術者の高い能力を中堅・若手技術者に伝えていく方 法として、昔は「先輩の技を盗め!」とか「背中を見て育て!」と言われていた。建設需 要が多くあり、中堅・若手技術者がベテラン技術者と長い期間にわたって一緒に仕事をす ることができた時代はそれで良かったかもしれない。しかし、建設現場が減少し、建設技 術者の数も減っていく中では、以前と同じような育成方式は機能しなくなっている可能性 が高い。この点に着目して、新しい育成方法を提起し、その検証も行ったのが山﨑氏の論 文である。

技術者直観を発揮するには、知識や経験を自分の中に集積していく能力とそうやって集 積したものを組み合わせて使っていく能力の 2 つが必要である。前者を「自分の中にデー タベースを作り上げていく能力」、後者を「データベースを駆使して目の前の問題を解決し ていく能力」と表現することも可能である。同じデータが得られたとしても、データベー スへの整理の仕方に優劣があれば、使いこなす際に差が出てくる。いかに効率的にデータ ベースを作っていくのか、そして、作り上げたデータベースを有効に使うにはどうすれば いいのか―山﨑氏の論文は、これらの点に対して新しい貢献をしている。

2.2 残された課題

以上のように山﨑氏の論文は、学術的な寄与においても、また建設技術者の効率的・効 果的人材育成手法の開発という点においても、多くの成果を認めることができる。しかし、

残された課題もある。例えば、審査会では、次のような点が指摘されている。

第1は、技術者直観は建設技術者に特有の概念なのか、他の技術者にも適用可能なものな のかという点である。山﨑氏は、第9章において、他の分野の技術者への適用可能性につ いて述べているが、十分な検証が行われているとは言えない。他の技術者への適用可能性 を明らかにすることは残された課題の一つである。

第2は、国際比較の視点である。今回の研究は、日本の建設技術者を対象として行われた ものであり、技術者直観を他国の建設技術者に当てはめたときに、同じようなことが言え るかどうかという点である。同じ業種でも国が異なると、そこで必要とされる能力やその 育成方法が異なる可能性がある。技術者直観を国際比較の視点でとらえてみると、新たな

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11 側面が出てくるかもしれない。

3 結論

以上のように山﨑雅夫氏が提出した学位請求論文は、テーマ設定、分析手法と内容など、

いずれの点をとっても、オリジナリティと学術的な寄与が認められ、博士号の授与に値す るものと考えられる。

本論文審査小委員会は、委員全員の一致した意見として、山﨑雅夫氏に博士号(政策学)

が授与されるべきであるとの結論に達した。

参照

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