論文提出者氏名 玉利 祐樹
論 文 題 目 潜在意味解析モデルによる言語プロトコルと描画を用いた消費者の選好分析 審査要旨
本申請論文は,言語プロトコル・描画データから消費者の意思決定に及ぼす要因の検討を定量的に行う手法の 提案とその適用可能性を検討することを目的としたもので,言語プロトコルおよび描画データに竹村・若山・堀内
(2004)による意思決定の数理モデルを適用した手法(潜在意味解析モデル)の提案を行った。潜在意味解析モデ ルの適用可能性を検討するために,適用例として,ファストフードハンバーガーショップの選択を取り上げた。それら の店舗についての言語プロトコルデータおよび描画データに潜在意味解析モデルを適用し,ブランド選択に影響 を与える要因の探索および,選択に与える影響の程度を定量的に検討した。言語プロトコルデータのみ,描画デー タのみ,両データを統合したデータを用いた分析の結果を基に,本提案手法である潜在意味解析モデルに関し て,適用可能性,消費者の意思決定以外への応用可能性,および課題点に関して総合的に考察を行っている。
消費者が,ブランド選択において重視する属性を探索する方法として,回答者が意識的に把握可能な属性を検 討する言語プロトコル法と,回答者が認知できない意識下の成分を探索する描画法は有効であると考えられる。 し かし,その分析には問題を指摘することができる。言語プロトコル・描画データの分析では,項目をいくつかのカテ ゴリに分類し集計することが多い。この分析から選択に関わる属性を探索することはできるが,その属性が選択を説 明できる程度は,必ずしも明らかにされていない。また,調査対象者の観点に依存して,同じ言葉や絵であってもそ の回答が持つ意味が異なる可能性が存在する。しかし,従来の集計分析では,同じ項目は同一のカテゴリに割り振 られるため,調査対象者の観点が分析に反映されているとは必ずしも言えない。
そこで,本申請論文では,言語プロトコル・描画データから消費者の意思決定に及ぼす要因の検討を定量的に行 う手法の提案とその有効性を検討することを目的として,描画データから得られる項目を単語と同様に扱うことによっ て,従来の意思決定の選好分析モデルを描画データへと拡張し適用している。
本論文の 1 章では, 本研究の概要や目的が記され, 第 2 章では,竹村・若山・堀内(2004)のモデルを概説し,
本論文における適用(潜在意味解析モデル)について述べている。次に,第 3 章では,潜在意味解析モデルを言語 プロトコルデータへの適用を行った結果を報告している。竹村他(2004)のモデルは,言語プロトコルデータを対象に 提案されているため,まず言語プロトコルデータのみを対象に分析し,潜在意味解析モデルの有効性の検討を行 った。第 4 章では,潜在意味解析モデルの分析対象を描画データへと拡張し,モデルを適用した。分析結果から,
潜在意味解析モデルの描画データにおける有効性の検討を行った。第 5 章では,補完的に利用するために収集さ れた言語プロトコルデータと描画データを統一的に分析するために,両データを結合したデータに潜在意味解析 モデルを適用した。潜在意味解析モデルによる分析結果を基に,言語プロトコルデータと描画データの補完的利 用可能性を検討した。第 6 章では,第 3 章,第 4 章および第 5 章における結果を基に,本提案手法である潜在意 味解析モデルに関しての総合考察的な考察を行った。
本申請論文は,人間の意思決定問題を,具体的なマーケティングリサーチにおける消費者行動の予測という課題 において捉え,多属性意思決定と意思決定フレームに関して,言語プロトコルデータを描画データの双方を相互補 完的に解析するモデルとその実践的手続きを明示し,その一定の有効性の示唆と残された課題を議論したものであ る。 一般に,言語プロトコルデータも描画データも,その潜在的な情報の豊富さは誰しもが認められるものの,なかな か定量化しがたく,数理的モデルや理論は机上の空論になりがちだが,本研究では,具体的に収集されたデータに 対して解析の手続きを明示し, 実証研究として成立させている。その成果は, 単に消費者行動の予測などのマー ケティングリサーチを越えて,人間集団の意思決定問題の研究に敷衍されること示唆している。
他方で, 解析の手続きとして, 具体的に用いたロジステック回帰分析の適用の是非や,モデル中で特異値に基 づく(意思)決定フレームの選択などは,今後の検討の余地,課題を残している。しかし,これらの問題を含め,モデルの 有効性と課題を適切に捉えており,本研究が将来への発展へ結びついていると認められる。予備審査段階で, 表 現の不備やその他の定式化について,修正の指摘,応用研究への言及などがなされ,それに適切にこたえて,改稿を 行っている。
以上により、本申請論文は, 心理学における選好分析においての新しい方法論を提示しており, 博士学位の授 与にふさわしい論文と判断した。
公開審査会開催日 2013 年 4 月 4 日
審査委員資格 所属機関名称・資格 博士学位名称 氏 名
主任審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 博士(学術)東京工業大学 竹村 和久
審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 石井 康智
審査委員 統計数理研究所・教授 Ph.D(カリフォルニア大学アーバイン校) 吉野 諒三