‑ 4 7 一
( 論 説)
A. H. Ma s l o w による「 自己実現」 概念の探究プロセス
ー GHBノー トと1 9 5 0年論文を中心に‑
三 島 斉 紀 河 野 昭 三
Ⅰ. は じめに
Ⅱ.「自己実現」 の初 出概念 (1943年)
Ⅲ.「自己実現人」 の調 査研究 (1945‑49年)
Ⅳ.「自己実現人」 の共通特徴 (1950年)
Ⅴ.おわ りに
Ⅰ. は じめに
近 時, ビジネ スの グ ローバ ル化 の も とで企業経 営 をめ ぐる状況 が急速 に変転 す るなか,企業 経 営 の在 り方 のみな らず企業 に係 わ る人 間 の本来的 な生 き方 は如何 な る もので あ るのかが問 われてい る。 そ こで経 営学 は,社会科学 の一分科 で あ る以上, ビジネスや企業組織 それ 自体 の発展 に資す る ような研究 だけに と
どまるこ とな く, それ と同時 に ビジネ スや企業組織 に係 わ る人 々の幸福 をも追究 す る とい うミッシ ョンを 有す る もの と考 え られ る。 その経 営学 が そ うした社会 的使命 を追 求 しよ うとす る とき, その理論 的 中核 と な るべ き 「人 間観」 の在 り様 につい て真剣 に討議 を行 う必要 が あ る。本稿 において,人 間 に望 まれ る普遍 的 な在 り方 を探究 したAbraham HaroldMaslow(190&‑70)の心理学説 を検 討 しよ うとす るのは, そ うし た理 由か らで あ る。
Maslow理 論 の 中核 をなす 「自己実現 (self‑actualization)」 は,他 の動物 とは区別 され る人 間 固有 の欲 求概 念 として提示 された もので あ り,1960年代 以 降,経 営学 (特 に人 的 資源管理 論 にお け る動機 づ け理 請) の支柱 的 な概念 として しば しば援用 されて きた。 しか しなが ら,経営学 の一般 的 な教科書 で紹介 され てい る ものは,1943年初 出の当該概 念 に関す る表層 的理解 に よる もので あ るこ とに注意 され な くで は な
らない。
経 営 学 者D.McGregorは,Maslowの1954年 著 作MotivationandPeysonalityl)で述 べ られ た 「自己実 現」概 念 をべ ‑スに して,経 営学 的 な動機 づ け理論 と して の 「Y理論」 を発表 し,彼 の1960年著書The HumanSideofEnteゆriseは学 界 だ けで な く実 業 界 におい で も一 大 ベ ス トセ ラー とな った。 しか し残 念
な こ とに,McGregorの援 用 したMaslowの 自己実 現 概 念 は,Maslowの1954年 著 作 の うち,第5章A TheoryofHumanMotivation(初 出 は1943年) に拠 る もの で あ り,第12章Self‑ActuallizingPeople:A 神奈川大学経済学部助教
甲南大学経営学部教授
1) この1954年著作は1970年に内容の補訂がなされている。Maslowの死後に出版されたMaslow(1970),Motivationand Peysonali&(SecondEdition)がそれである。両著作はしばしば混同される場合があり,訳書を含めて明確な区別が必要であ
る。
‑ 48‑ AHMaslowによる 「自己実現」概念の探究 プロセス
studyofPsychologicalHealth(初 出は1950年)2)におけ る概念 は殆 ど無視 された とい って よい。換言すれ ば,McGregorの主張 したY理論 は,経営学 に よるMaslow理論 の御都合主義的 な摘 み喰い の所産 で あ っ た, と評 し得 るのである3)0
Maslowの考 える本格的 な 「自己実現」概念 は,上記Maslow (1950),Self‑ActualizingPeople等 を経て, 1959年論文CognitionofBeingin thePeakExperiences4)において明確化 され,「B価値 (BeingValues)」
を核 にす るもの として確立 されてい る。 に もかかわ らず,現今 の経営学者 で このこ とを明確 に理解 してい るのは極 めて少 な く, また, この こ とに関す る多少 の理解 を示す研究者がいた として も
,B
価値 の内容 ・ 意味 については等閑視 されてい る とい うのが現状で ある5)0本稿 では,Maslowの本格的 な 自己実現概念が経営学 に援用 で きるか どうかの検討 を念頭 に置 きなが ら, まず は当該概念 の よ りよき理解 を当面 の課題 とす る。 そのひ とつ として,1943年 の初期的概念 が提示 さ れて以 降,本格 的 な 自己実現概念が どの よ うに して形成 されたか を扱 う。特 に,Maslow自身 に よる自己 実現人 の態様 的特徴 に関す る調査 日誌 :GHBNotebook (1945‑49年 ;以下,『GHBノー ト』 と略記)6)と, その調査研究 を取 り纏 めた1950年論文Maslow (1950),Self‑ActualizingPeopleの内容 をみ るこ とに よっ て, 自己実現概念が1943年 と1950年 とでは様相 を異 にす るこ とを明 らかにす る。
Ⅱ.「自己実現」 の初 出概念 (1943年)
1908年貧 しい ユ ダヤ移民 の子 としてニ ュ‑ ヨーク市 に生 まれたA.H.Maslowは, ニ ュー ヨーク市立大 学, ブル ック リン大学,お よび コ‑ネル大学 を経 て,1928年 ウィス コ ンシ ン大学 に移 り, そ こで心理学 に関す る本格 的 な勉強 を始 め る。 その後,同大学大学 院 に進学 し,HarryFrederickHa一low (1905‑81) の下 でサルの欲 求 に関す る研究 を行 う。 当時 の彼 の論文 には,サル社会 におけ る性欲 求 と支配欲 求 との 関係 に関す る調 査 の詳細 が記録 されてい る。1934年博 士号 を獲得 したMaslowは,幸い に もEdwardL.
Thorndikeに見 出 されて コロンビア大学 の特別研究 員 (任期付) の職 に就い た (1935‑36年)01110rndike に対す るカ ーネギ ‑財 団の委託研 究 テ ーマが 「人 間性 と社会秩序」で あ った こ ともあ り,Maslowの研究 関心 は次第 にサルか ら ヒ ト‑ と移行 してい った。
1935年以降,Maslowはナチスか ら逃 れた優秀 なユダヤ人学者 らが集 め られたニ ュー ヨークの新社会研 究学院 (NewSchoolforSocialResearch;1919年 ThorsteinVeblen,JohnDewey等 に よって創設 された私 立 の高等教育機 関)や コロ ンビア大学 におい て, ゲ シュタル ト心理学者MaxWertheimer(188011943) とKurtKof放a (1886‑1941),新 フ ロイ ト派 KarenHorney (1885‑1952)とErichFromm (190011980), 個人心理 学派 Alh・edAdler(1870‑1937),脳神経 医学者KurtGoldstein (1878‑1937),お よび文化人類 学 者RuthBenedict(1887‑1948)等 との交流 に よ り,人 間 の欲求 に関す る研究 へ一層 の関心 を深 めてい っ
2) この1950年論文 の作成時点 は1943年頃 との記述 (Maslow (1954),MotivationandPersonality.,p.xhi) もあるが,後 に み る よ うにGHBNotebook(Lowry(1973),pp.81‑105に収録) におい て,1949年9月28日, 自己実現 に関す る論文 が 完成 し投稿 した旨の記述か ら判 断 され るべ きであろ う。 なお,1950年論文 は,1970年 のMaslow (1970),Motivationand
Penonality(SecondEdition)では第 11章 に収録 されてい る。
3) この点 について は,三 島斉紀 (2008)を参照 の こ と。ただ し,MaslowはMcGregorの Y理論 を必ず しも否定的 に受 け とめてはお らず,Maslow (1970),MotivationandPeysonality(SecondEdittlon).,p.xxiiiで示 されてい るよ うに比較的好意 的である。 しか しなが ら,Maslow (1969),TheoryZでは,「Y理論」 はB認識 を もたない 自己実現 の範噂 のなかに含 め, B認識 を もった本来的 な 自己実現 につい てはそれ を超 える もの として新 たに「Z理論」 と称す るこ とで,Y理論 について やや批判的 な姿勢 を示 してい る。「自己実現人 の中で ̀単 に健康 な'人 々 (the"merely‑health"self‑actuahzers)は一般的 に,McGregorのY理論 の期待す る ところの もの と言 えよ う。 自己実現人 の中で超越 した人 々 (也eindividualswbohave transcendedself‑actualization)はY理論 に適合す るだけでな くY理論 を凌駕 してい る と言 うべ きで あるO彼 らは,私が こ
こでZ理論 と便宜的 に称す る レベル にある。Z理論 としたのは,それが Ⅹ理論 とY理論 の延長線上 にあ って ひ とつの階層 を成す もの と考 えるか らで ある。」(Maslow (1971),771eFwtherReachesofHumanNatureリpp.2711272.)
4) この1959年論文 は,1956年9月1日開催 の アメ リか ♭理学会 におけ るパ ーソナ リテ ィ及 び社会心理学分科会 におけ る 会長講演で あ り, また当該原稿が1957年10月29日付 けで♪urnalofGeneticPsycholoByの編集委 員会 に受理 されてい るこ とが,論文脚注 に示 されてい る。 とい うこ とは,Maslowの本格的 な自己実現概念 は1956年時点でほぼ確立 していた と考 えられ る。
A H Maslowによる 「自己実現」概念の探究 プロセス 49
た7)0 1930年代後半 で の女性 の 「優越感 や 自尊心 (dominan ce‑feeling,self‑esteem)」 に関す る調査研究 を ふ まえ, 1941年Maslowは,B61aMittelmannとの共著PrinciplesofAbnormalPsychology:TheDynamicsof PsychicIllnessの第4章 において,異常人格 ではな く 「正常人格 (normalpersonality)」への研究指 向 を明 確 に した8)。
そ して,Maslowは1943年論 文 におい て,「自己実現」欲 求 とい う新 しい用語 を加 えて,精 神病 で は ない正 常 な一般 的人 間が固有 に内在化 させ てい る5つ の基本 的欲 求 (thebasicneeds)を指摘 し, それ
5) ところで, マ ズ ロー理論 に関す る近 時 の論文 で あ る山下 剛 (2008)「Maslow理論 はモチベ ーシ ョン論 か :経 営学 におけ るMaslow理論 の意義再考」 は,Maslow理論 の本質 を 「心理 的健康 実現論」 で あ る と把握 し, それが経営学 の動機づ け理 論 (人 間操縦論) として矯 小化 され るべ きもので はない 旨 を主張 してい る。 これ はMaslow理論 の正 当 な評価 を行 う上 で 重要 な認識 の提起 とい うべ きもの として注 目 されて よい論考 で はあ る。 しか しなが ら,心理 的健康 の中核 で あ る自己実現 概念 の内容 につい て の議論 が殆 どない こ と,動機理論 と動機 づ け理論 の区別 が あい まいで あ るこ と,引用 で原著頁 が表 示 されず, また引用 におい て1954年著作 と1970年著作 とが混 同 されてい るこ と, さらにバ ーナ ー ド理論 へ の安易 な接合 が な されてい るこ と,等 々 の難 点 を内包 してい る。 また, この山下 の主張 は彼 の オ リジナル とはい えず,既 に同様 の指摘 が 存在 してい る こ とに注意 したい。す なわち,金井毒宏 (1999)『経営組織』(44頁) で は 「自己実現 はモチベ ーシ ョン (動 機 づ け) の問題 で はない」 とされて お り, また金井専宏監 訳 (2001)『完全 な る経 営』(423頁) で も 「マ ズ ローを知 って い るひ との何人 が, 自己実現 は,畢寛 の ところモテ ィベ ーシ ョンの問題 で はない と深 い レベルで知 ってい るのだ ろ うか」
との解説 が付 されてい る。山下 のマ ズ ロー解釈 は一見 オ t)ジナ リテ ィが あ るか の よ うで あ るが, マズ ローを少 しで も深 く 読 んだ人 々 には既知 の事柄 を,単 に リフ レイ ンした に過 ぎない。
さ らに,金井 に よる解説 も実 はMaslow自身 の言 に した が った もので しか ないO その典拠 を挙 げてお こ うoMaslowの 1954年著作MotivationandPersonalib′の第12草 (初 出 は1950年論文)において,「われわれは,自己実現者 のた めに特別 に, 普 通 の とは異 な る動機 の心理 学,す な わ ち,欠乏動機 に関す る もので はな く,表 現動機 , また は成 長動機 の心理 学 を構 築 しなければ な らで あ ろ う。 ‑ (中略) ‑お そ ら く動機づ け とい う概念 は,非 自己実現者 にのみ適用 され るべ きで あ ろ う (Perhapstheconceptofmotivationshouldapplyonlytonon‑self‑actualizers.)」(Maslow (1954),MotivationandPeysonali机 p.211.) とされ, また 「欠乏動機 と成長動機 の相違 は, も し動機 づ け とい うこ とが新 しい意 味 に解釈 され るので あれ ば別 だが, そ うで なければ 自己実現 その ものは動機 づ けに よって生 じた変化 で はない とい うこ とを意味す る。 自己実現,す な わち有機体 の潜在 可能性 を最 大 限 に発揮 し実現 す る とい うこ とは,報酬 を通 じて の習慣形成 や連合 で はな く, む しろ成 長 や成熟 と同 じものなので あ る。言い替 えれば, それ は外部 か ら獲得 され る もので はな く,既 に内在 してい た ものが開花 さ れ る とい うもので あ る。(itisnotacquired血‑omwitllOutbutisrahetranunfolding血omwithinofwhatis,inasubtlesense, already仇ere)。 自己実現 レベルで の健康 かつ 自然 な 自発性 は,動機づ け られ る もので はないo それ は まさ し く動機 づ け と は相矛盾 す る ものなので あ る (Spontaneity attheself‑actualizinglevel‑ beingllealthy,natural‑ isunmotivated;indeedit
isthecontradictionofmotivation.)」(Maslow (1954),MotivationandPeysonality.,p.296.) と明記 されてい る。 この よ うに, 自己実現 はい わゆ る外発 的 な動機 づ け とは異質 な もので あ る こ とは, 山下 の解釈 や金井 の解説 に よらず とも,Maslow自 身 の考 え方 で あ った とい うこ とに留意 され な くて はな らない。
なお,Maslow理論 は モチベ ーシ ョン理論 で はない とした 山下 の指摘 には一定 の啓 蒙 的意義 は認 め られ得 る として も, それ に とどまるのみで は経 営学 の発展 には寄与 しない。す なわ ち, その こ とをふ まえなが ら, マ ズ ロー理論 自体 に関す る 一層 の研究 と当該理論 の経 営学的意義 が探求 され な くで はな らない か らで あ る。 その場合, 山下 の よ うに性 急 にバ ーナ ー ド理論 (特 に,準則 コ ンフ リク ト論) へ飛躍す るので はな く, それ以前 に,Maslow理論 それ 自体 に関す る一層深い考察 , す なわちMaslowの 自己実現 の本来 的 な概 念 とは何 か, その概 念 は どの よ うな プ ロセ スで形 成 された のか, その概念 は心 理学 的 あ るい は経 営学的 に正 当 に取 り扱 うこ とがで きるのか, その概 念 は動機 づ け と本 当 に矛盾 す るのか, その概念 の も つ イ ンプ 1)ケ ‑シ ョンとしで,個人 ・企 業 ・社 会等 に対 す る意義 は如何 な る ものが あ り得 るのか,等 々が考究 され な くて ほな らない ので あ る。Maslow理 論 に関す る深 層 的 な理 解 が行 われず に放 置 され るので あれ ば,かつて McGregorの犯 し た よ うな Maslow 理論の表層的 な摘 み喰い (肯定 的 で あれ否定 的 で あれ) が再 び繰 り返 され る こ ととな り,経 営学 の発展 には何 も寄与 しない ばか りか,む しろ発展 の阻害 とさえな るこ とが懸念 され る。
ところで,EdwardL.Deci(1975),IntrinsicMotivationで提 示 されてい る よ うに,外的報酬 と リンク した外発 的 な動機 づ け よ りも, む しろ外的報酬か ら切 り離 された人 間固有 の 自発 的 な内的動機 に注 目す る考 え方が あ るoDeciの主張 す る内 発 的動機理論 は,人 間行動の大部分 は 自発 的で あ る こ と,人 間 は環境 との係 わ り合い におい て有能 で 自己決定 的で あ りた い とす る内的 な生得 的欲求を有 す る こ とを前 提 に してい る点 で,Goldstein 学説 に近 く, また Maslow理 論 に対 し比較 的 好意 的 の よ うで あ るoLか LDeci理論 におい て議論 されてい る Maslow の 自己実現概念 は 1943年 時点 の もので,1959年 以 降 の本格 的 な概 念 内容 (B価債) に関 して の考察 は何 らな されてい ない。Deciの主要 な関心 が,人 間の 自発 的行動 はな ぜ ・どの よ うに して起きるのかに あ った こ とか ら,Maslow の 自己実現 (潜在能力 の十分 な発揮 な ど) は Deciの主張 す る 有能 さ と自己決定 という内発的動機 か らの 「分化」 として認識 され るに とどまってい る。 しか しなが ら, 内発 的動機 に関 す る Deciの研究 は,基礎理論 として の 「動機理論」 を,応用理論 として の 「動機づ け理論」へ転化 させ る とい うイ ンプ リ ケ ーシ ョンを内包 させ ているo同様 に Maslow理論 につい て ち, 内発 的 な 自己実現欲 求 につい て それ を援 助 ・促進 す る と い う応用的側 面 が含意 されている と考 えるこ とがで きれ ば,Maslow理論 は動機づ け理論 (い わゆ るモチベ ーシ ョン理論) に も成 り得 る とい うこ とになる。確 か に Maslow理論 は 旧来 の よ うな外発 的報酬 に基づ く動機づ け理論 と言 える もので は ない が,人 間固有 の内発的欲求の発展 に関す る動機理論 で あ り,かつ 自己実現 とい う内発 的欲 求 を促進 させ る応 用的 な動 機づ け理論 で もあ る と考えることが可能 で あ る。 なあ "motivationtheory" の訳語 として は,「動機理論」 また は 「動機 づ け理論」 のいずれか を付すべきで あ り,「モチベ ーシ ョン理論」 として カ タカナ表記 を充 て るこ とは誤解 を生 みやすい よ うに思 われ る。Maslow理論につい て は, まず は 「動機理論」 として体 系 的 な精査 を も とに正確 な内容理解 を行い, その 上 で,評価 が積極 的で あれ消極的で あれ,「動機づ け理論」 にな り得 るか ど うか の正 当 な判 断 を行 う必要が あ る。本稿 は, Maslow理論 のそ うした慎重な取り扱い の‑ 階梯 にはか な らない ので あ る。
6) Lowly(1973),AnIntellectual.,pp.81‑105.
7) Hoffman (1988),TheRight.,pp.86‑115.
50 AHMaslowによる 「自己実現」概念の探究プロセス
らが逐 次 的 に展 開す る とい う仮 説 を提 唱 した。す なわ ち,生命 維持 に直接 的 に係 わ る 「生理 的欲 求 (me
̀physiological'needs)」,環 境 か らの脅 威 に対 す る 自己保 存 と して の 「安 全 欲 求 (thesafetyneeds)」, 情 動 的 な結 合 ・愛 の授 受 とい う 「愛 の欲 求 (Theloveneeds)」(1954年 以 降,「所 属 と愛 の欲 求 (me belongingnessandloveneeds)」へ改称), 自尊 ・自律 に関す る 「承認欲 求 (也eesteem needs)」, そ して 最終 段 階 と して の 「自己実現 欲 求 (theneedforself‑actualization)」 の5つ で あ り, これ らは出現 の優 勢 皮 (prepotency)順 に 「階層 (thehierarchyofbasicneeds)」 をなす とした。す なわち,人 は生理‑安全
‑愛‑承認‑ 自己実現 とい う優勢度順 に従 って欲 求 が満 た されてい くとい う,い わゆ る 「欲求5段 階説」
を提示 した ので あ る。
1943年論 文 で,人 間欲 求 の最 高段 階 に あ る とされた 「自己実現」 の概 念 は,次 の よ うで あ った。下 の
〔イ〕 はMaslow (1943a),PrefacetoMotivationTheory;〔ロ〕 はMaslow (1943b),A¶leOryOfHuman Motivationか らの もので あ る。
〔イ〕「自己充実 (self‑fulfillment)」。
「自己表現 (self‑expression)」。
「自分 自身 の 根 本 を な す 固 有 な パ ーソ ナ リテ ィ を実 現 す る こ と (workingoutofone'sown f
undam entalpersonality)Jo
「潜在 的パ ーソナ リテ ィの実現 (thefu1fi1lm entofitspotentialities)」。
「パ ーソナ リテ ィ能力 の活用 (血euseofitscapaci也es)」。
「自分 自身 の可能性 を最大 限 に しよ うとす る性 向 (也etendencytobe也emost仇atoneiscapable ofbeing)」。
〔ロ〕「た とえこれ ら (生理 的,安全 ,愛,承認 ‑引用者注) の諸欲求 が充足 された として も, 自分 自身 に相応 しい こ とを行 ってい なけれ ば (unlesstheindividualisdoingwhatheisfittedfor),常 で は ない が, しば しば新 しい不満 や不 安 (anew discontentandrestlessness)が直 ちに芽 生
えて くるの を感 じる」 こ と。
「音 楽 家 は音楽 を作 り,画 家 は絵 を描 き,詩 人 は詩 を創 らな くて は,彼 らは本 当 に幸福 で あ る と はい えない (Amusician mustmakemusic,an artistmustpaint,apoetmustwrite,ifheistobe ultimatelyhappy.)。人 は本来 的 に成 り得 る ものに成 らな くてはな らない (Wh ataman Can be, hemustbe.)」 こ と。
「自分 自身 を十分 に発揮 したい とい う願望,即 ち,潜在化 してい る自分 自身 を顕在化 させ たい とす る性 向 (thedesireforself‑fulfillment,namely,tothetendencyforhim tobecomeactualizedin whatheispotentially)」。
「ます ます 自分 ら し くな りたい とい う願 望, か けが えの ない 存 在 に成 りたい とい う とい う願 望 (仇edesiretobecomemoreandmorewhatoneis,becomeevery仇ing也atoneiscapableof becoming)」。
8) Maslowはこの1941年 著 作 (pp.3813)において,正常人格 を構成す る特徴 として次の12点 を挙げてい る。(イ) adequatesecurityfeelings, (ロ)adequateandfirmiybasedself‑esteem, (ノ、)adequatelyfreeexpressionofthepersonality (naturalnessofbehavior,spontaneity), (ニ)adequateself‑knowledge, (ホ)adequateandefficientcontactwithanduse ofreality, (‑)adequateemotionality, (T)adequateintegrationandconsistencyofpersonality, (チ)adequatelife goalS,purposes,ambitions, (リ)abilitytosatis&thesocialrequirementsofthegroup;adequateinhibitionsandsocial adaptability, (メ)adequateemancipation血・omthegrouporculture, (ル)abilitytoacceptlove,affectionandsupport, (オ) adequatebodilydesiresandtheabilitytogratifythem.これらと,基本5欲求との関係については,三島斉紀 (2005a),209‑ 215頁を参照のこと。
A.H.Maslowによる 「自己実現」概念の探究 プロセス ‑ 51 ‑
上 の ようにMaslowは,正常人で ある人 間一般 には共通 した基本的欲求が あ り, それ らは優勢度順 に表 出 し, その最終段階では各人が 自分 らしい個性 を発展 させ る自己実現欲求 な るもの を措定 した。 しか し, この欲求5段階説 を援用 した経営学者 の殆 どが誤解 して も止 む を得 ない ほ どに,1943年時点で の 自己実 現概念 はい まだ 「自己」 中心的 な色彩 を有 してい た。彼 自身 が 自認 す る よ うに,彼 の提示 した 自己実現 概念 は, ドイツ人脳神経学者K.Goldsteinが第一次世界大戦 での脳損傷患者 に関す る研究か ら,患者 が外 部環境 に適応 しよ うとす る行動 (生体 が外界 とうま く折 り合い を付 けてい くこ と :comingtotermsof也e organism withtheenvironment)の こ とを 「自己実現 (self‑actualiation;Selbstverwirklichung)」 と名付 け た こ とに由来す るので あ り,Maslowはそれ を脳損傷 患者 で はな く正 常人 に対 して,「一層特定 的で限定 的 な形 (inamuchmorespecificandlimitedfashion)」で適用で きないか と考 えたので ある。9)
この後,Maslowは,独 自の 「自己実現」概念 の構築 に向けて努力 してい くこ とにな るが,1943年論文 でその こ とを次 の よ うに記 してい る。す なわち,「自己実現 は今後一層,調査研究すべ き挑戦的 な課題 (a challengingproblem forresearch)
」 1 0 )
で あ り,「ここで提示 され る理論 は,将来 の研究 のた めの計画や枠 組 み提示 として考 え られ るべ きもので あ って,本理論 が有効か無効か を決 め るのは,現在利用で きる事実 や証拠 ではな く,未 だ為 されてい ない調査研究 に依存す る (Thepresenttheorythenmustbeconsidered tobeasuggestedprogram or五・ameworkforfutureresearchandmustbestandorfall,notsomuchonfactsⅣailableorevidencepresented,asuponresearchesyettobedone,‑・‑・.)」11)と。
Ⅲ.
「自己実現人」 の調査研 究 (1945‑49年)自己実現 に関 し初期的 ・暫定的 な概念 を提示 してか ら約2年後,Maslowは, 自己実現 とは何 か につい て具体 的 な研究 を進展 させ るぺ く, 自分 自身 に対 し次 の よ うに言い聞かせてい る。す なわち,「数年 問や きもき した のち,私 はGHB研 究 を推進 し, その研究 を一層公式 的かつ厳密 に行 うこ とを決 めた (After f
ussingalongforsomeyears,IhavedecidedtodigintoGHBresearchanddoitmoreformallyandrigidly.)o とはい え, この研究 は困難 だ らけで問題 が山積 してい る。 その ような現状ではあるが,克服 Lがたい困難 はで きるだけ認識す る よう努 め る として,兎 にか く前 に進 もう」12)と。
そ こで,以下,彼独 自の 「自己実現」概念 の探究 プロセスを示す1945年5月6日か ら49年12月20日 の約4年半 にわた る調査 日詰 『GHBノ ー ト』 (GHBとは,GoodHumanBeingの略語) の大要 をみ るこ
とに しよう。
9) Maslow(1943b),ATheory.,p.382.健 常 者 に あ って は,脳 損傷 患 者 の よ うに外 界 (脅 威) に対 して の 自己保 存 (self‑
preservation)だ けで な く, これ に加 え,脳損 傷 患者 で は見 られ ない よ うな外界 を概 念 的 ・抽 象 的 に把捉 ・克 服 しよ うと す る自発性 (spontaneity)や創造 性 (creativeness)が認 め られ とこ ろか ら, そ うした人 間 の内在 的性 向 を してGoldstein は 自己実 現 と呼 称 した (Goldstei皿.(1940),pp.111‑114,p.170J。Maslowに よる用 語 の借 用 につ い て は,次 の よ うな Goldstein の記述 が参考 にな ろ う。「生体 は一定 の潜在 的可能性 (potentialities)を有 す る。 そ うで あ るが ゆ えに,生体 は潜 在 的可能性 を現実化 .実現 しよ うとす る欲 求 (theneedstoactualizeorrealizethem)を もつ。 この よ うな欲 求 の充足 (the f
u1fi1lmentoftheseneeds)が生体 の 自己実現 を表 す ので あ るoか くな る欲求 に動 か され る とき, われわれ は 自分 自身 が能 動 的 なパ ーソナ リテ ィ (activepersonalities)の持 ち主 で あ るこ とを経験 す るので あ り, 自分 自身 の特性 に一致 しない と思 われ る動 因 に よって受動 的 に強制 され る こ とはない。 (改行) この よ うな 自己実現 の特殊形 態 は,不 完全 な行為 を完全 な もの に しよ うとす る欲 求 (血eneedtocompleteincompleteactions)とい え る. この性 向は子供 にお け る活動 の多 くを説 明す る もので ある。 ‑ (中略)完成 と完壁 (completionandperfection)を求 めてい る と考 え られ る。 そ うした こ とに向か う駆 動力 は,喉 の渇 きで あれ飢 えで あれ不完全 さを経験 す るこ と, あるい は,能力範 囲内 と思 え るい か な る行為 を も完遂 で きない こ とか ら生 じる。 その 目標 は課業 を完遂 す るこ とにあ る(thegoalismeful五llmentof仇etask)。完成 に近づ くほ ど,それ を成 し遂 げ よ うとす る欲 求 は強 くな る。 この こ とは,子供 で も大人 で も同様 に当て は まる。」(Goldstein(1940), pp.146‑147.)
10) Maslow (1943b),ATheory.,p.383. 11) Maslow (1943b),AnleOry.,P.371. 12) Lowry(1973),AnIntellectual.,p.81.
‑ 52‑ A H Maslowに よる 「自己実現」概念 の探究 プロセス
[1945年5月6日]13)=‑・GHB研 究 は,まず調査 対象者 として 「潜在 的 なGHBと思 われ る学生 (students wholooklikepotentialGHB)」 を集 め,い くつか の方法 でふ るい にか けた後 で,彼 らに関す る記録 を 取 った。す なわち,① 外見 的 な判 断 に よって選抜 し,② 彼 らの安定度 ス コア (securityscores)を調 べ,(勤1時 間程 度 の面談 (interview)を行 い,(むその面談 内容 を記録 に残 す た めに憶 えてい る限 り の こ とをメモ した手紙 を提 出 させ, その上 で,⑤ ロール シャ ッノ、検査 (Rorschachtest)を行 った。
しか し, この研究 方法 にはい くつ か の問題 点 が あ った. (ア)選抜 された学 生 の大部分 か らは ロー ル シャッノ、検査 で好 ま しい結果 が得 られ なか った こ と。 (イ) 高安定度 ス コアの学生 は独善 的 で怠惰 で ヤノレ気 が ない ゆ えにGHBとは言 えない こ と. (ウ)創造 的 で将来性 のあ る学生 (mymostcreative andstrongandproiSm ingpeople)の何 人 か は安 定 度 ス コアが高 くなか った こ と。 (ェ) 男子 学 生 よ
りも女子 学生 (それ も美人) を選 抜 す る傾 向が あ った こ と。 (ホ)被験者 として は大人 の方 が好 ま し い が集 め るのが 困難 で あ る こ と。 (オ)選 抜手 法 と して は精 神 分析 学 (psychoanalysis)に よる こ と が唯一有効 的 と思 われ るが,誰 もが何 らか の神経症傾 向にあ る とした ら,GHBの範 噂 に属 す神経症 の程度 を確 定 しな けれ ば な らない こ と。 (カ)外部 に うま く適 応 (adjusted)してい な くて も大変 立 派 な人 々 もい るので,GHBの特 徴 を総 括 的 で は な く局 面 的 に取 り出す こ と(pickingapartvarious qualities)が必要 で あ る こ とO (辛) ロール シャ ッノ、検 査,精 神 医学 的 な面談,精 神 分析 学,主題 統 覚検査 (TAT),基本欲 求 の充足度 ,達成 度 とその質, な どの諸手法 に よって得 られ る良 き適応 状 態 (goodadjustment)の集 団 は部分 的 に重 な った りズ レた りす るこ と。 (ク)GHBの型 は唯一 とい うよ り多様 で あ り (differenttypesofGHBratherthan justonetype), それ ぞれが類 似 した り異 な った り す る こ と。 (ケ)選 抜 す る側 の価 値観 (也epicker'svalues)に問題 が あ るこ と。 (コ) 明 白に心 身症 で ない こ と (noneurosis,psychosis,psychopathicpersonality,orobviouslypsychosomaticdiseases) が選抜 の最低要件 (atleastaminlmumrequirement)にな り得 るが, この基準で は好 ま しい人 を排 除 し,嫌 な人 を選抜 す る こ とが あ るこ と。(サ)何 年 か先 に追跡 的 な調 査 が必要 で あ り, その場合被験 者 を様 々 な事情 の 中で見 るこ と,等。 また,20歳 の学生が将来GHB とな る可能性 はない か も しれな い し,表層 的 な心理学手法 で人 間の深層部 を果 た して掴 め るのか も分 か らない。彼 らが結婚 し,子供 を持 ってか ら しか判 断 で きない のか も しれ ない。 そ こで,50‑60歳以上 の 自己実現 した大人 の研究 (studyingself‑actualizedadultsoverR允yorsixty)か ら得 られた共通す る特徴 点 の リス トを もとに,外 見 が類似 し同様 の特徴 を一定程度 もってい る若者 を選抜 した。
[同年5月14日]14) ‑‑選抜 された学生達 は高い安定度 ス コア (high ersecurityscores)を示 してい たが, GHBで あ るこ ととは異 な ってい た。
[同年5月24日]15) ・‑健康 で あ るこ とは所属社会 の文化 的価値 を受容 す るこ とで あ る と考 えて きたが, しか し文化 的価値 が受容 に値 しない場合 もあ り,健康 で あ るこ とはその価値 に反抗 す るこ とで あ るか も しれない。文化的価値 は相対 的か,絶対的か とい う問題 (thequestionofculturlraelativity,absolute values)が浮上 す る。
[同年6月24日]16)・・・‑選抜 され た学 生達 の大部分 は,GHBとして相応 し くない 欠点 (shortcomings) を有 してい るこ とが判 明 した。
[同年8月28日]17)‑‑印象 で言 うな らば,GHBは ウィス コ ンシ ン大学 よ りもブル ック リン大学 の学生 達, また プ ロテ ス タ ン ト白人 よ りもユ ダヤ人 や黒人等 の方 が多い。『BingCrosby半生記』 は真 実 か
13) bwry (1973),AnIntellectuaLリpp.81‑83, 14)
bw r y
'(1973),AnIntellectualリP.83.15) I.owry (1973),AnIntellectualリp.84, 16) Lowly (1973),AnIntellectual"pp.84‑85.
17) I.owry (1973),AnIntellectualリp.85.
A H.Maslowに よる 「自己実現」概念の探究 プロセス ‑ 53‑
ど うか が不 明 だが, それ 自体 と して採 り上 げ る こ とはで きそ うだ。 あたか もGabrielAlmondに よ っ てAn血ewCarnegieやAbraham Hewi仕等 の リベ ラル実業家 が研究 ・記述 され るの と同 じ様 に。 だ と す れ ば,GHBと して初 期 ユ ニ テ リア ン派 のParker,Channing,HamelMartineauにつ い て研 究 す
るの も良 さそ うだ。「高徳 な人 (Saintlyman)」 とは誰 か とStroupに尋 ね た ら,MartinBuber,Max Weber,JoachinWach J.Mecklin の著作 を読 む よ うに言 われた. SocialScience誌 (1945年) に掲載
された偉人100名 (血elOOGreatMen)とい う記事 に も目を通 した。
[同年9月4日]18)‑‑‑以前 は性 的 な悩 み を持 ってい たが,今 は結婚 を控 えて幸せ そ うで穏 やか な女 子学 生 を研究対象 に加 えた。
[同年9月6日]19)‑‑‑Ber仇aは人 の もつ習慣 上 の悪 さや欠点 は悪 しき社 会訓練 や社会状況 に原 因 が あ るので はないか と言 うが,実際 ど うで あ るか分 か らない ので,悪 しき環境 にあ る学生 は調 査対象 には しない。
[同年9月8日]20)・・・‑調 査対 象 の学生達 がGHB研究 に協 力 的で ない (mysubjectswon,tcooperate)こ とが明 白 とな った。 かつ てRuthBenedictが言い 聞かせ て くれた よ うに,壮 年 や老年 のGHBが もつ 極 めて強 い 「個人 的 内密性 (privacy)」 の感 覚 が想い 出 され る。彼 らは 自分 の こ とを色 々詮 索 され る の を嫌 う性 向 を もつが, それ は選抜 した学生達 も同 じで,個人 的 な こ とを尋 ね る と倦 怠感 や嫌悪感 を 示 した。 これがGHBの特徴 の1つ だ とす る と,調 査対象 で あ るこ とへ の見返 りを求 めて熱心 に協力
して くれ る人 々はGHBとは言 えない。 自分 の選抜 した学生達 は,褒美 な どを求 めず,純粋 に 自由に 振 る舞 って くれた。
[同年10月16日]21)‑‑・学生達 に面談 や心理 テス トを行 ったが,約束 した時間 に現 れ ない学生 もい た。
[同年10月20日]22)・‑‑外見的判 断 や安定度 テス ト等 に代 えて, これ まで の全記録 を回顧 しなが らGHB として相応 しい と思 われ る人 を選抜す る よ うに した。
[同年10月29日]23)‑‑・女子学生達 と会 うと,いつ もなが ら失望 させ られ る。将来 は きっ と良妻 賢母 に な るので あ ろ うが,一 角 の人物 にな ろ うとす る強 い願望 が ない。
[同年11月9日]24)‑‑学生達 は相 変 わ らず約 束 を反 古 に した り,遅 刻 を した りして,い い加 減 な態度 を示 していた。
[同年11月11日]25) ・・・・‑選抜 した学生達 の支配 一安定度 ス コア を記録 した昔 の得 点簿 を一 覧 す る と,安 定度 とGHBとの間 に相 関 関係 は な く,GHB概 念 と安 定概 念 とは異質 で あ る こ とが判 明 した。学生 連 の大部分 は安定度 ス コアが 中程度 で あ ったが,高い安定度 ス コアを示 した学生達 は独善 的, 自己満 足 的で,無感動 で あ った。過去 の得 点簿 を見 なが ら,何人 か可能性 のあ る学生 を リス トに加 えた。研 究 を進 めて行 くにつ れ,研究 目的 が ます ます薄 れてい った。数十人いた学生達 の うち, 当初私 の想定 したGHB概 念 (InyOriginalnotionsoftheGHB)に合致 す るのは1人 だけで, その可能性 を もつ のは 数人 に過 ぎない こ とが判 明 した。
[同年11月16日]26)‑‑外見 か ら判 断 してGHBの高い可能性 の あ る女子 学 生 を追加 した。 また,外見 とは別 に,高安定度 ス コア を有す る何 人か も調査対象 に加 えた。
18) Lowly(1973) 19) Lowry(1973) 20) Lowry(1973) 21)Lewry(1973) 22) hwry(1973) 23) Lowry(1973) 24) Lowry(1973) 25) Lowry(1973) 26) bwry(1973)
AnIntellectual.,p.85. AnIntellectual.,pp.85‑86. AnblteLlectual.,p.86. AnIntellectual.,p.86. AnIntellectual.,p,87. AnIntellectual.,p.87. AnIntellectual"p.87. AnIntellectual.,pp.87‑88. AnIntellectual"p.88.
ー 54‑ A H.Maslowに よる 「自己実現」概念 の探究 プロセス
[同年11月20日]㌘)・‑‑・某学生 は面接 の約束 を何度 も無断で反故 に した。
[同年11月25日]28)・・・・・・某学生 に対 して ロール シャッノ、検査 を行 ったO
[同年11月27日]29)・‑‑高い安定度 スコアの学生 を検査 したが,陽気で社交的で あ って も人間的 な印象 度 は低い。一層高い安定度 スコアの学生 を選ぶ こ とに した。
[同年12月17日]30)‑‑ GHBの顕著 な特徴 の1つ は,Blackfootlndiansが示 した 「現実 をよ り明確 に見 る能力 (abilitytoseerealitymoreclearly)」で ある と考 えるよ うにな った。 これに関す るテス トとし ては如何 なる もの を採用 した らよい のか。
[同年12月19日]31) ・‑遺憾 な こ とに,地味 な女子学生 を過小評価 し,可愛い女子学生 を過大評価す る とい う誤 りを犯 した。
[同年12月28日]32)‑州 原罪 についてStroupと意見交換 した。悪の大部分 は欲求不満や困窮 の産物 であ るゆえに,人 間は性悪で ある とも性善 である とも立証で きない。健康 な人間 とい えども,質的 な相違 す なわち動機 ・情緒 ・価値 ・思考 ・認知 の有 り様 が異 なる。 ある意味で は,聖人 だけが まさに人 間で
あ ‑,て (onlythesaintsaremankaind),他 の人 々は病人である ともい える。
[1946年1月13日]33) ・‑選抜 された学生 はGHBとしてかな り疑 わ しい場合が多 く見 られた。 それゆえ, 私 自身 の判断,安定度 スコア,対象者 の自己判断 に加 えて,今後 は ロール シャッ‑検査 を選抜 に利用 す るこ とに した。 中産 階級文化 の観点か らして十分 な適応状態 にある某女性 は,心が まった く腐 って い る場合 があ るた めに,GHBの選抜 にあた り 「外界適応 (adjustment)」 の基準 は捨 てた。外界 に う
ま く適応 していて も,健康 であ る とは言 えない ("Adjusted"butnot"healthy.")0
私 の指 向す るGHB観念 とは,少数 の 自己実現 した人 々 (afew "self‑actualized"people)がほぼ示 してい るような人間性 の理想像 (someidealofhum annature)とい うべ きものであ る.彼 らは他 の一 般人 とは大い に異 なる ところか ら,動機 ・認知 ・情感 ・思考 ・価値 ・ユ ーモア ・パ ーソナ リテ ィ ・精 神病理等 々に関 して,異 な った理論が必要 である。 しか しなが ら,一般人が 自己実現人 とは異 なる本 質的な理 由はない ように思 われ るので, 自己実現人 と一般人 の人間性 とは同義 に取 り扱 うこ とがで き る (Wemayuse也esepeopleassynonymouswi血 humannatureingeneralbecausemereseemstobe noin血 ISicreasonwhyeveryoneshouldn'tbethisway.)0
また, 自己実現人 と 「神秘 的体験 ("mysticexperiences")」 との関係 につい て の研究 を始 めた。
神 秘 家 に関す る 自然 主義 的 な定 義 と自己実現 した人 の定 義 とは近似 してい るか らだ。実 際, 自己 実現 した人 々 の大部分 はい わゆ る神秘 的体 験 を有 してい る。GHB以外 の人 々 はす ぐ欲 求不満 にな った り,緊張 した り,不 安 に な った りす るか ら,GHBの研究 に とって は認知 実験 (也eperception experiments)が 有 効 か も しれ な い とWernerか ら助 言 され た。 自 己 実 現 人 (theself‑actualizing man)とは,普通 人 (theordinaryman)に何 か が付加 され た存在 とい うよ りも,む しろ赤 ん坊 の
よ うに何 も奪 われてい ない人 々 の こ とで あ り,他方,一般人 (血eaverageman)とは,能力等 が発 揮で きず に抑圧 された状態 にある人々のこ とだ とい える。
[同年1月15日]34)・‑・・・cheney著 のM enTmu)HaveWaLkedwithGodで扱 われてい る ように,社会改革上, 孔子 は規則や徳育,老子 は自然宇宙 との一体化 を唱道 した ように,聖人や聖者 に も2種類以上 の対照
27) bwry 28) bwry 29) bwry 30) Lowry 31) bwry 32) Lewry 33) IJOwry 34) Lowry
(1973),AnIntellectual.,p.88. (1973),AnIntellectual.,p.89, (1973),AnIntellectual.,p.89. (1973),AnIntellectual.,p.89. (1973),AnZnteLLectualリp.89. (1973),AnIntellectual.,pp.89190. (1973),AnIntellectual"pp.90‑91. (1973),AnIntellectual.,p.92.
A.H Maslowに よる 「自己実現」概念 の探究 プロセス ‑ 55‑
的 な タイ プが見 られ る。
[同年1月18日]35)・・・‑神 秘 家 で 自己実現 人 (amystic,aself‑actualizedman) にな ろ うと した超越 主義 者HenryThoreauの伝 記 を読 む。実 際 の彼 は,妻 も友 人 もお らず, リベ ラルで もなか った。心 は優 しいが気難 しい変人 と見 な されてい たO また,某 ヨーガ行者 は,友人 らに扶養 され,妻子 や友人 との 通常 の交 際 も困難 で, あたか も寄生 虫 の如 きで あ ったO その彼 は,文明 の所産 は認 め る ものの,科 学 は高次 の法則 を無視 してい る と軽蔑 していた。
[同年1月19日]36) I.・自己実 現概 念 の明確化 を試 み る。種 にお け る 「理 想 (ideal)」や 「典 型 (typical type)」 とは何 かoThoreauは鷲 は鷲 ら し く振 る舞 う と指 摘 す るが, それ は人 間 か ら見 た表 現 で し か ない。各種 動物 の もつ行 動 の動機 や 目的 は,種 の本能 とい うべ き遺伝 に よって決定 され,各種 劫 物 の有 す る価 値 は人 間種 の有 す る価値 とは無 関係 で あ る。確 か に,各種 に共 通 す る普遍 的 な基 準 と して種 保 存 の生 殖 可 能 性 とい うもの が あ るが,私 の依 拠 す る基 準 は,生物 分 類 学 で使 用 され て い る 「種 の基 準標 本 (typespecimen)」 で あ る.例 えば,虎 の基 準 標 本 につ い て言 えば,虎 の定 義 に 必要 な他 の動物 とは明確 に区別 され る特徴 を リス トア ップす る こ とで あ る。種 の基準標 本 とは,種 の平 均 そ の もの とい うよ りも,種 の本 質 を完 全 に表 す もので あ る (themostperfect‑in‑its‑own ‑kind ramerthan血emostaverage)。 そ して,種 独 自の潜 在 可 能 性 を最 も発 展 また は実 現 させ た (most developedoractualizedtheumiquepotendalitiesofthespecies)もの こそが, ̀最 良' の基準標本 (the カnestspecimenofitstype)とい える。 それ ゆ え,人 間 の基準標 本 として神経症 の人 (aneurotiC)を
対象 とす るこ とはで きない。 ともあれ,人 間 の定義 を行 うとす れば,超文化 的 な事柄 (asuprac山tual affair)にな るこ とは間違 い なか ろ う。
[同年
1
月2 1
日]37)‑・・・・不適応症候群 が様 々で あ る よ うに,良い健康状態 の型 も多様 で あるこ と (various typesofgoodhealth)を認 めな くて はな らない。選抜 した学生達 の健康 の有 り様 が外 向的で あ った り 内 向的 で あ った り, また創 造 性 (creativeness)に して も観 念 的 で あ った り行動 的 で あ った り, また
ど う見 て も健 全 な人 が同時 に悩 み を持 った りす るか らだ。50‑ 60人 の選抜 した学生達 に ロール シャ ッノ、検 査 を行い得 るのは3‑5人程度 で,さらに面接調査 をす る と2人 しか残 らなか った。外部適応 ・ 正 常性 ・健康 の三者 を結 びつ け る概 念 (也econceptofadjustment‑normalit㌢heal仇)につい て読書 と 思索 を始 めた方 が良 さそ うだ。
[同年2月4日]38)‑・‑ ロール シ ャッ‑検 査 は精神病 の診 断 には有効 的で あ って も,正 常 な健康人 には不 向 きなのだ ろ うか。私 の求 めてい る人 々は思 うよ りも遥 か に少数 ない ので あ ろ うか。 も しもロール シ ャ ッノ、検査 が信頼 で きない ので あれば,私 の調査研究 の基盤 が失 われて しま う。 どの よ うに して,研 究対象 とな るべ きGHB集 団 を選べ ば良い ので あ ろ うか。 ロール シャノ、検査 が うま く機能 す るのは, 年齢 の比較 的高い人 々なので あ ろ うか。
[同年2月9日]39)‑.・・ここ2週 間 ロール シャッ‑検 査 を研 究 して きた ので判定 が上手 にな ったが, これ ぞ と思 う人 になか なか 出会 えない。Beckの著作 に出て くる人 で科学者兼 大学学長 をモデル として利 用 で きるか も知 れ ない。 とにか く,20歳 の子供 達 か らは期待 で きそ うに もない。安定度 ス コアは, 不適応 な人 を除外す るのには役 立つ として も, ロール シャッノ、検 査や観察 の結果 とは合致 しない とこ ろか ら, あ ま り信頼 で きない。調 査研 究 の対 象 に,Whitman,Emerson,James,Dewey,Spinoza, Channing,Pascal,JakobBoehme,Goetheを加 える。
35) IJOWry(1973),AnZntellectualリp.92.
36)LDwr y(1973),AnIntellectual.,pp.92‑94.
37)I.owr y(1973),AnZntellectuaLリp.94.
38) I.owry (1973),AnIntellectual.,pp.94‑95.
39)hwry(1973),AnIntellectual,,p.95.
‑ 56‑ A̲H.Maslowに よる 「自己実現」概念 の探究 プロセス
[同年2月14日]40)・・‑‑pascalは あ ま りに も宗 教 的 なので 除外 す る.L.Brown e著 のSpinoza伝 記 は素 晴 ら しい。最 良 な人 々 (me丘nestpeople)として,‑ ンガ リー人 のKepesは あ る石工 と農婦 を挙 げ た。 ドイ ツ人 のWernerは最 良 な人 々 には野心 が ない と主張 したが,昔Wertheimerも同 じこ とを言 ってい た こ とが想起 され る。 さ らに,Wernerは大部分 の知識 人 は野心家 で あ る としたが,例 外 的 に Spinozaは野 心的 で はない。Bee仇ovenは よ く分 か らない。Wm.Jamesの著作 を読 む。Thoreauは人 生 に関 し大い に正 しい 目標 と考 え方 (merightgoalsandideastoagreatextent)を持 って はい るが, それ に向か って努力 してい るに過 ぎないoWaltWh itmanは偉人 を装 う傾 向が あ る。Goetheはつ ま ら ぬ事 に執着 し愚行 が 多い ので 除外 す る。精 査 は これか らで あ るが,完全 な人物 と思 われ るのは唯一 Spinozaだ けで あ る (Spinozaistheonlyonewhoholdsupperfectlybeforescrutiny)。
[同年2月20日]41)‑・‑ロール シャ ッノ、検査 の最初 の10人分 の結果 が戻 って きた。 その うち調 査研究 の 対象 とな りそ うなのは最大4人 だが, その うちの2人 は疑 わ しい。 ロール シャッ‑検査 に問題 が あ る
よ うだ。
[同年3月 lEl]42)‑‑ さらに6人 の ロール シャ ッノ、検査結果 が 出た。RuthMunroeが その結果 に興 味 を 示 した ので,私 は各対 象者 にお け る適応 の レベル とタイ プについ て特徴 と判 断理 由 を述べ た。私 が絶 対 的 な基準 (absolutestandards)を求 めてい るこ とに対 して,Ruthは文化 の有 り様 い かん に よって 基準 は相対 的 とな るべ きだ と反論 した。
[同年3月14日]43)‑‑ JeanChristopheの伝記 を再読 したが,彼 の よ うに激 し く捻 くれて気俵 な性格 は GHBと呼べ るか ど うか。Bee也ovenは モデル にな るか も知 れ ない が,彼 を判 断す る基 準 や尺度 が見 当た らない。Symonds著 のL,%jTeofMichaelangeloを読 ん だが,彼 は怒 りぼ く,喧嘩好 きで, 月並 み な 性格 で あ る とい うの は信 じられない。彼 の彫像 や絵 画 の素晴 ら しさか らす る と, その性格描写 は疑 わ
しい よ うに思 われ る。
[同年5月22日]44) ・‑仕事 を一 時 中断。 これ まで のGHB調査 か らは当惑や失望 が あ ったか らだ。今学 期 の学生 の 中でGHBだ と確信 で きる人 はい ない が,可能性 のあ るのは6‑ 8人。 その うち3人 はす べ て ロール シャッノ、検査結果 は良い ものの,安定度 ス コアが低 ・中位 で あ るこ とには驚 く。残 りの対 象者 について は調査研究 を続 行す る。
[同年5月 27日]45)・・・.‑調 査 対 象者 の何 人 か に ロール シ ャッノ、検 査 の結 果 を知 らせ て,彼 らが どの よ う な反応 を示 すか を観察 した。落 ち着 いて聞 く人 もいれば,興味深 げ に興奮す る人 もいた。
[同年5月28日]46)・・・・..ロール シャ ッハ の検 査結 果 とその反 応 につい て某女子 学 生 と面談 したO彼 女 は 初 め無 関心 で あ ったが終 わ りには恥 じらい の様子 を見せ た。 も う1人 の女子学生 に 自宅 で イ ンタ ビュ ー したO彼女 は背 が高 くて見 目麗 しいO彼女 は 自分 の こ と,愛 しあ う家族 の こ と,幸福 な少女時代 の こ とについて詳 し く語 った。 お喋 り好 き とい うよ りは 自己顕示 の よ うに思 えたが, 自分 の欠点や弱点 を素 直 に語 った。 それゆ え,GHBの候補者 として選 抜 した私 の当初 の印象 は概 して正 しい もので あ った。 その彼女 は見 か けほ どには成熟 してい ない。
[同年6月21日]47)‑‑ ロール シャ ッノ、の検査結果 と私 の選抜 印象 とは一致 しない こ とが明 白 とな った。
とはい え, ロール シャ ッノ、検査 を うま くパ ス しない学生 をGHB候補者 とす る訳 にはいか ない。
40) Lowry (1973) 41) I,owry (1973) 42) Lowry (1973) 43) IJOWTy (1973) 44) Lewry (1973) 45) I,owry (1973) 46) I̲I)Wry (1973) 47) I,owry (1973)
AnIntellectual.,pp.95‑96.
AnIntellectual.,p.96. AnIntellectual.,p.96.
AnIntellectual.,pp.96‑97.
AnIntellectual.,p.97.
AnIntellectual.,pp.97198.
AnIntellectual.,p.98.
AnIntellectual.,pp.98‑99.
A̲H.Maslowに よる 「自己実現」概念 の探究 プロセス ‑ 57‑
[同年9月5日]4B)‑‑ メ ー ン州か ら帰 ったが,調査研 究 に新 しい発展 は見 られ ない。性的適応 を喜 んで 語 る女子学生が訪 れた。 明 らか に 自己満 足的で 自信 に満 ちて はいたが,彼女 か らは人 間的 に重要 な も
のが何 も得 られ ない。ClarkW.Health著 のTmlatPeopleAre:A StudyofNormalYoungMenで は,選 抜基準 が学業成績 と肉体 的健康 で あ り,正常性 は行為 の機能的調和 とい う無 内容 の定義 が示 されてい
る。
[同年9月24日]49)・・‑∴調査対 象者 と して外見 が小 太 りの可愛 い女子 学 生 を選 ん だ。両親 や親戚 , 男子 学生 か ら好 かれ る タイ プで あ る。
[同年12月某
E l
]50)・・・・・.今 学期 で は調 査対 象者 として選抜 で きる学生 は極 めて少 なか った。外 見 も内面 も申 し分 のない学生 はい たが。[同年12月29日]51)‑‑外見 か ら何 人 か の学生 を追加 的 に選 び,安定度 テ ス トや ロール シャ ッノ、検 査 を 行 った。
[1947年1月10日]52) ‑‑約180人 の学生 の内,選抜 で きた のは僅 か に3人 で あ った。
[同年1月14日]53) ニ ュー ヨークの研究 ス タ ッフか ら離 れて, カ リフォル ニアへ 出向 く。
[同年5月25日]54)‑・‑カ リフ ォノレニ ア に 来 て か ら研 究 ら しい こ とは して い な い が,EIseFrenkel‑ Brum Swik との討議 は興味深 い ものが あ った。彼女 に よれば,GHBは苦闘 を してい る人 か,苦 闘 を既 に終 えてい る人 か, の どち らかで あ る と言 う。私 として は,苦 闘 を した こ とのない人 を も付 け加 え たい。Tolm anがGHB候補者 で あ るか ど うか につい て も討議 した. また,S.Holbrook著 のLostMen ofAmen'CanHistoryとC.A.Madison著 のCriticsandCrusade7Sを読 ん だ. そ こ に は,Ⅰむopotkin, WendellPhillips,Altgeld,EugeneDebsな ど何 人 か の候 補 者 が い た が, そ の殆 どは変 人 で あ る.
JohnBrown,ThorsteinVeblen,DanielDeLe on,Wm.LloydGarrison,MargaretFuller,Emma Goldman,RandolphBourneは 候 補 者 で は な い。 また,お そ ら くJohnReed,Lincoh,Steffens, Thoreauも候 補 者 で ない か も しれ ない。GHB候 補 者 で あ るた め に は,偽 善 的 で ない こ と (1ackof cant),他 人 に対 しユ ーモ ア を も って 接 す る こ と (senseofhumor),狂 信 的 で ない こ と (lackof fanaticism),他 人 に対 し寛 容 で あ る こ と (toleranceofothers)等 が 重 視 され る。 しか る に,John Brown,Garrison,DanielDeLeonは,世界 をすべ て型 に はめて考 え, その固定 的 な枠組 み に従 って 生 きてい るだけで,変転 ,変化,個人,発展 とい う観念 は有 してい ない。
[同年6月10日]55)・‑・・調 査対象者へ質 問紙送付 の指示 とその回収。
[同年6月12日]56) ‑‑調 査 対 象者 として, ここ4ヶ月ほ ど交 際 の あ る男性 は ど うか。彼 は精 神 的 に異 常で はな く,世 の 中に よ く適応 し,仕事 も うま くこな してい る。 良 き夫, 良 き父親 で もあ る。犬 が好 きで,いつ も朗 らかで あ る。 トラックの運転 は一流 で,上 司か ら信頼 され将来 を嘱望 されてい る。 日 曜 日に招待 してみ る と,会話 もな く退屈 で あ った。 しか し,彼 は嬉 しそ うで,快活 で,静 か な午後 を 楽 しんでい るか の よ うで あ った。
[同年8月20日]57)‑・・・2週 間前 ,バ ーク レーでMurphy夫妻 とGIiBについて討議 した。彼 らは,亭主 関 白の夫 や 自分 こそ正 しい と確信 してい る典型 的 な リベ ラル女性 はGHBとして疑 わ しい と言 った。
48) Lowry 49) Lowly 50) I.owry 51)LDWry 52) Lowry 53) I,Owry 54) Lowly 55) Lowry 56) hwry 57)Lowry
(1973),AnIntellectual"p.99. (1973),AnIntellectual.,p.99. (1973),AnIntellectual.,p.100. (1973),AnIntellectual.,p.100. (1973),AnIntellectual,p.100. (1973),AnIntellectual.,p.100. (1973),AnIntellectual.,pp.100‑101. (1973),AnIntellectual,,p.101. (1973),AnIntellectual.,pp.101‑102. (1973),AnIntellectual.,p.102.
ー 58‑ A H Maslowに よる 「自己実現」概念 の探究 プロセス
彼 らの判断 は受 け入 れ難い が,私 の判 断 も彼 らに受 け入 れ られないで あ ろ う。 とすれば, GHBで あ るこ とを判断す るための客観的 な事実 とは何か。
[1948年2月1日]58)‑・‑某調査対象者 と5時間ほ ど面談 したが,精神 的 な異常 は見 られないがGHB候 補 にな り得 る点 も特 にはなか った。バ ーク レーのモチベ ーシ ョン研究 グル ープ (Krech等) を批判す
る論文 を読 み, そ ろそ ろ私 の考 えを公表す る時期 が来た よ うに思 われ る。
[1949年1月25日]59)・・・・.McLe odやKrechと議論 し合い,文化 的 に狭い伝統 のなか にある某消防士 は 除外 した。
[同年3月某 日]60)・‑‑旅 の途 中, コ‑ネル大学 で聡 明で はない が美貌 のい まだ衰 えぬ調査対象者 と会 う。PopSchrankと会 う。Rum Benedictが他界 した。
[同年 4月某 日]61)‑‑ 自己実現 に関す る公表論文 を執筆。
[同年9月28日]62)‑‑・ブル ック リンに戻 る。家庭環境 の調査 をす るス タッフを募 って,GHB調査研究 を続行す る。 しか し,大学 の校務 に忙 しく疲 れ切 る。 自己実現 に関す る論文が完成 して学術雄誌 に投 稿 したが,査読者 か らは 「あ ま りに も酸味 だ (Too血lZZy)」 と評 された。 ロサ ンゼル ス在 の壮年未婚 女性 は素 晴 ら しい適応 を示 していた。 GHB候補者 の名簿 を再確認 し,バ ーク レー在 の某 男性 は精神 病 の疑いか ら除外。某女性 はす こ しは良 くな ったがい まだ健康的でな く適応的で もない。今や隣人 と
な った子持 ち女性 は良 さそ うなのでその うち面談 しよ う。某女性 については,研究 スタッフか ら悪い 評価 がな されたが,除外 の判断 は留保 した。バ ーク レー在 の某男性 はち ょっとた しなめた ら顔 を見せ な くな った。今 は結婚 してい る某女性 は正気でない場合が見 られ る0
[同年9月30日]63)・・‑・ブル ック リン大学 におい て外見 か ら選抜 された女子学生 は,安定度 テス トや面 談等 でやや問題 がある ものの好感 が持て る学生 ゆえに追跡調査 を しよ う。他 に好感 の持て る男子学生
もい る。
[同年10月7日]64)‑‑・既婚 の某調査対象者 と1‑ 2時間面談 したO子供 が欲 し くてた ま らない のに, 夫が子供 を望 まない こ とに不幸 を感 じる と話 していた。
[同年10月11日]65) ‑‑自宅 で某調査対象者 と長話 を した。某女性か ら調査研究 には非協力 で ある旨の 手紙 を受 け取 る。某女性調査対象者 は家庭環境 が極 めて悪い に もかかわ らず何故素晴 らしいのか。
[同年12月20日]66)・・・‑私 の クラスか ら最後 とな る選抜 を始 めた。 1年生か らは素晴 ら しい対象者 を,4 年生 と大学院生か らは並 の対象者 を得 た.従来通 り,安定度 テス トと外見 チ ェックを行 った。外見 は あ ま り良 くな くて も安全度 スコアの高い場合 には面談 した。外見 の悪い何人かは面談 もせず に除外 し た。面談後 に, ロール シャッ‑検査 とTATの結果 に基づ き除外 した人 は僅 かで あ った。かつて神経 衰弱 にな った旨の手紙 を寄 こ した女性 と会 った。
ここで,上記 の 『GHBノー ト』 を整理 ・要約すれば,次 の ようになる。
(1) 自 ら所属 す るブル ック リン大学 の学生 に関す るGHB研 究 において,Maslowな りの 自己実現人 の モデル を事前想定 し,50‑ 60歳以上 の自己実現人 に関す る特徴 リス トをもとに調査研究 が行 われた
58) Lowry 59) Lewry 60) LDWry 61) I.owry 62) I,owry 63) Lowry 64) I.owry 65) Lewry 66) LDwry
(1973),AnIntellectual.,p.102̲ (1973),AnIntellectual.,p.102. (1973),AnIntellectual"p.103. (1973),AnIntellectual.,p.103. (1973),AnIntellectual"pp.103‑104 (1973),AnIntellectual.,p.104. (1973),AnIntellectual.,p.104. (1973),AnIntellectual.,p.104.
(1973),AnIntellectual.,pp.104‑105.
A.H.Maslowによる 「自己実現」概念の探究 プロセス ‑ 5 9 ‑
こ と (1945年5月6日, 1946年1月13日)67)0
(2)GHB候補者 の選抜 には安定度 テス ト68)が用 い られたが,高い安定度 を示 していて も面接調査 の段 階 で 除外 され る こ との多い こ と (1945年5月14日 ;同年11月11日)。 また, ロール シ ャ ッ‑検 査
もうま く機能 しなか った こ と (1946年2月4日)0
(3)調 査 対 象者 の学 生達 の殆 どがGHB候 補 者 と して は不適 切 で あ る こ とが次第 に判 明 す る こ とで, 1945年8月28日以 降, 自己実現人 の大部分 が もつ神秘 的体験 の研究 が開始 された こ と (1946年1月 13日)。 さらに,神秘 家 だ けで な くい わゆ る偉人 た ちが研究対象 とされた こ と (1946年2月9日)0 (4) GHB (ない し自己実現 人) は実 際 に極 く少数 で あ る として も,一 般人 を して単 に潜在 能力 を発揮
で きず に抑圧 された存在 で あ る とす れば, 自己実現人 と一般人 との間 には根本 的 な本性上 の差 異 がな い こ と(1946年1月13日)0
(5)自己実現人 とは人 間 の 「最 良 な基準標本」 (独 自の潜在可能性 を最 も発展 させ実現 させてい る人) とい うべ きで, それ は超 文化 的 で あ るこ と (1946年1月19日)。 したが って,GHBは相対 的で はな く絶対的 な基準 に よって認識 され るこ と (1946年3月1日)。
(6)外界 に うま く適応 してい な くて も健康 的で あ った り(1945年5月6日),外界 に うま く適応 してい て も健康 的 で なか った りす る こ と (1946年1月13日) もあ るゆ えに,GHBの特徴 は部分 的 に把握 され得 るこ と (1945年5月6日)0
(7)自己実現人 (ない しGHB)の部分 的特徴 として,次 の ものが指摘 され るこ と。
[ア]Benedictが指摘 した よ うに プ ライバ シーの重視 や物事 に見返 りを求 めない こ と (1945年9月 8日)0
[イ]Blacldootlndiansの如 くに現実 を よ り正確 に把握す る能力 のあ るこ と (1945年12月17日).
[ウ]神秘 的体験 を有 してい るこ と (1946年1月13日)0 [ェ]創造 的で あ るこ と (1946年1月21日)。
[オ]Wer血eimerが指摘 した よ うに偉人 で あ って もSpinozaの如 くに野心 家 ではな く,Thoreauの 如 くに人生 に対 す る正 しい 目標 と考 え方 を持 って適進 してい るこ と (1946年2月14日)0 [カ]偽 善 的で な く他人 に対 しユ ーモ ア を もって接 し,狂信 的 で な く他 人 に対 して寛容 で あ る こ と
(1947年5月25日)0
67) 1967年 の論 文Self‑actualizingandBeyond(Maslow (1971),TheFatherReachesofHumanNature,Chap.3として収録) におい て,Maslowの想定 す る自己実現人 モデル は,彼 が師 と仰 ぐRum BenedictとMaxWermeimerの2人 で あ るこ とが 明言 されてい る。
68)安定度 テス トの詳細 につい て は,A̲H.Maslow (1942)とA H.Maslow,EljsaHirsh,MarcellaStein,and Irma Honigmann(1945)を参 照 の こ とO そ こにお け るSecmity概念 は,14の項 目か ら構成 されてい る。す なわち,[1]Feelmg ofbeinglikedorloved,ofacceptance,ofbeinglookeduponwithwarmth.[2]Feelingsofbelonging,ofbeingathomeinthe world,ofhavingaplaceinthegroup.[3]Percephonoftheworldandueaspleasant,warm,hendlyorbenevolent,inwhich aumentendtobebro血ers・[4]Perceptionofotherhumanbeingヲasessendal1ygood,pleasantwarm・出endlyorbenevolent・
[5]Feelingsofsafety;rarefeelingsofthreatanddanger;unanxlOuS.[6]Feelingsoffriendlinessandtrustinothers;little hostility;toleranceofothers;easyaffectionforothers.[7]Tendencytoexpectgoodtohappen;generaloptimism.[8] Tendencytobehappyorcontent.[9]Feelingsofcalm,easeandrelaxation.UnconLLicted.Emotionalstabiliry.[10]Tendency tooutgoingness.Abilitytobeworld‑,object‑,Orproblem‑centeredratherthanself‑orego‑centered.[11]Self‑acceptance, toleranceofself,acceptanceoftheimpulses.[12]Desireforsb・engthoradequacywith respecttoproblemsratherthanfor poweroverotherpeople.Firm,posiivte,wellbasedselfesteem.Feelingofstrength.Courage.[13]Relahvelackofneuroticor psychotictendencies.[14]F'socialinterest"(inAdlerian sense);co6peradveness,kindliness,interestinohetrs,Sym pathy. これ らの うち,[10]「外 部 指 向 ・課 題 指 向」 お よび [14]「社 会 的 関 心 ・他 者 指 向 ・同情 心」が含 まれ て い る こ とが 注 目 さ れ るO [10] のhsecuTity 項 目 と し てほTendencytocompulsiveintrospectiveness,morbidself‑examination,acute consciousnessofself.が挙 げ られ,[14] についてはSelBsh,egocenbic,individualistictrendsが対比項 目 とされ てい る. し たが って,高安定度 ス コアで あ .,で も GHB とは言 えない とい うこ とは,お そ ら く項 目全体 にわた るス コアは高 くて も, [11]と[14] の項 目部分 におい て低 ス コアで あ った よ うに推測 され る。