競技種目の違いによる競技中の反社会的態度の比較 : 大学生競技者を対象として
著者 榎本 恭介, 荒井 弘和
出版者 法政大学スポーツ研究センター
雑誌名 法政大学スポーツ研究センター紀要
巻 38
ページ 11‑13
発行年 2020‑03‑31
URL http://doi.org/10.15002/00023595
法政大学スポーツ研究センター紀要 38. 11-13(2020)
11 緒言
スポーツにおけるドーピング,相手競技者への嫌がらせ,
用具の改造や汚い言葉での挑発といった問題行動に関連する 要因として,競技中の不正行為の容認や競技中の駆け引きを 重視する反社会的態度が考えられる。
我が国においては川北ほか (2010)がLee et al. (2001)の社 会的態度についての尺度を翻訳し,Lee et al. (2001)の尺度に お い て 狡 猾 な 行 為 や 不 正 行 為 を 容 認 す る “acceptance of cheating” と,相手競技者を刺激したり混乱させたりすること を受容する “acceptance of gamesmanship” の2因子に別れて いた競技中の反社会的態度についての因子が,日本の大学生 バスケットボール競技者を対象とした場合には1つの因子に 集約されたことを明らかにしている。また,川北ほか (2010)
に対象者を追加し因子分析を行った市村ほか (2013) は,川北 ほか (2010)と同じく“acceptance of cheating” および “acceptance
of gamesmanship” が1つの因子にまとまったことを報告して
いる。さらに,市村ほか (2013) においては,Lee et al. (2008)
において示されていた達成動機の “自我指向” 因子の反社会的 態度への影響が,我が国の大学生バスケットボール競技者を 対象とした場合に確認されなかった。また,高校生競技者を 対象とした深見ほか (2011)においては,達成動機の “自我指 向” と反社会的態度の間に極めて弱い相関が確認されている が,高校生競技者と大学生バスケットボール競技者に調査を 行なった浦井ほか (2014) では,高校生競技者において “自我 指向” と反社会的態度における “不正行為” との間に弱い正の
相関が確認されたこと,“自我指向” と “駆け引き” との間に は中程度の正の相関が確認されたこと,そして,個人種目と 団体種目によって反社会的態度の容認度が異なることを報告 している。
以上のように,競技中の反社会的態度については競技の達 成動機との関連が認められているが相関の強さは一貫してお らず,また川北ほか (2010)や市村ほか (2013)の大学生の対 象者の競技はバスケットボールのみである。そこで本研究で は,我が国の複数の競技の大学生競技者を対象に,競技の違い
(個人種目・団体種目の別,競技における身体的接触の有無)
に着目し,反社会的態度の実態について調査する。
方法
1.調査対象と調査時期
本研究の対象者は,4年制大学の1―4年生で,運動部 (い わゆるサークルは除く)に所属している競技者で,研究参加に 同意した者とした。調査時期は,2018年6―10月であった。
2.調査方法
大学の講義前後における集合調査法,もしくは,縁故法に よって調査を実施し,質問紙の配布・回収を行った。その際,
研究参加に関する説明をするとともに,同意書を配布した。
なお,参加同意書には,本研究の目的や所要時間,回収した 質問紙やデータの取り扱い方法,本研究から得られる結果の フィードバック方法,研究者の情報と連絡先について明記し
競技種目の違いによる競技中の反社会的態度の比較:大学生競技者を対象として
Comparison of antisocial attitudes during games based on athletic events for university student athletes
榎 本 恭 介(法政大学大学院)
Kyosuke Enomoto 荒 井 弘 和(法政大学)
Hirokazu Arai
要 旨
スポーツにおける問題行動の関連要因として,不正行為の容認や駆け引きを重視する反社会的態度が挙げられる。この反社会的 態度についての大学生を対象とした研究は,バスケットボール競技者のみを対象とした研究 (川北ほか,2010;市村ほか,2013;
浦井ほか,2014)のみであることから,本研究では複数の競技の競技者を対象に調査を行った。結果として,個人種目と団体種目 の間で有意差は確認されなかったが,身体的接触の有無で比較をした結果,接触のある競技はそうではない競技に比べ反社会的態 度が有意に高かった。しかし,これらの結果は先行研究と一致したものではなかった。そのため,今後は,競技種目以外の要因に も着目し,競技中の反社会的態度に一貫した影響を及ぼす要因を検討する必要がある。
キーワード:ゲームズマンシップ,チーティング,フェアプレイ Key words : Gamesmanship,Cheating,Fair play
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法政大学スポーツ研究センター紀要
ている。そして,対象者が回答をいつでも中断できる権利を 明記し,倫理的な配慮を行った。なお本調査は,法政大学文 学部心理学科・心理学専攻倫理委員会において審査を受け,
研究実施の承認を得た上で実施した。
本研究のデータは,他の研究論文 (金澤ほか,2019)とデー タの一部を共有している。
3.測定尺度
1)人口統計学的データ
性別,年齢,取り組んでいる競技名,個人・団体種目の別
(判断が困難である場合は,「どちらともいえない」を選択」)
をたずねた。
2)競技中の反社会的態度
Sport Attitudes Questionnaire (Lee et al., 2001) を翻訳した川 北ほか (2010)の尺度の一部を用いる。回答は,「まったくあ てはまらない (1)」,「あまりあてはまらない (2)」,「どちらと もいえない (3)」,「ややあてはまる (4)」,「非常にあてはまる
(5)」の5つから当てはまるものを1つ選択させた。
3)競技中のフェアプレイ阻害状況における反社会的態度 2)の競技中の反社会的態度は社会的望ましさから回答に床 効果が生じることが懸念された。そこで,2)の各項目の前に フェアプレイを阻害する文章を追加した項目を作成した。フェ アプレイ阻害状況の設定にあたっては,フェアプレイ促進・
阻害要因についての調査結果 (榎本ほか,2020)に基づいて,
各項目の前に「相手競技者が著しくアンフェアな場合」とい う文章を追加した。回答は2)と同じく,「まったくあてはま らない (1)」,「あまりあてはまらない (2)」,「どちらともいえ ない (3)」,「ややあてはまる (4)」,「非常にあてはまる (5)」
の5つから当てはまるものを1つ選択させた。
4.分析方法
全ての統計解析にはIBM社製SPSS Statistics25を使用した。
競技種目の違いによる反社会的態度の比較には,対応のないt 検定を用いた。なお,有意水準は5%未満とした。
結果
1.対象者の人口統計学的データ
本研究の分析対象者は322名 (男性208名・女性114名,平
均年齢19.38±1.18歳)であった。分析対象者の競技は,野球,
サッカー,バレーボール,弓道,空手道などであった。
2.個人種目と団体種目における競技中の反社会的態度の比較 対応のないt検定を用いて,個人種目と団体種目における競 技中の反社会的態度,および競技中のフェアプレイ阻害状況に おける反社会的態度の比較を行った。その結果,個人種目と 団体種目の間に有意な違いは認められなかった (表1)。
3.接触の有無による競技中の反社会的態度の比較
対応のないt検定を用いて,競技中の身体的接触の有無によ る競技中の反社会的態度,および競技中のフェアプレイ阻害 状況における反社会的態度の比較を行った。その結果,身体 的接触のある競技は身体的接触のない競技よりも有意に2つ の反社会的態度が高かった (表2)。
考察
本研究の目的は,競技中の反社会的態度について,競技種 目の違いによる比較から競技中の反社会的態度の実態を把握 することであった。個人種目と団体種目について2つの反社 会的態度を比較した結果,本研究では有意差は確認されず,
効果量も非常に小さい数値であり,個人種目と団体種目の間 で有意差が確認された浦井ほか (2014) の結果と一致しなかっ た。この違いは,浦井ほか (2014)においては,対象者が高校 生と大学生バスケットボール競技者であったのに対し,本研 究の対象者は大学生のみであったことや,浦井ほか (2014)に 比べ多様な競技を対象としていたことが理由として考えられ る。
次に,競技中の身体的接触の有無による比較では,効果量 は小さいものの,身体的接触のある競技はそうでない競技に 比べ2つの反社会的態度が高かった。これは,身体的接触の ある競技はそうでない競技と比べ,競技者同士の身体が接近 する機会が多く,競技中に反社会的な言動を行う,もしくは 受ける機会が多いためであると考えられる。しかし,スポー ツにはドーピングや用具の改造など,身体的な接触の有無に 影響を受けない反社会的行動も存在する。また,15歳から39
個人 団体
度数 平均値 標準偏差 度数 平均値 標準偏差 t値 自由度 p値 ES:d 競技中の反社会的態度 130 2.24 0.94 192 2.34 0.89 -0.93 320.00 0.36 0.11 競技中のフェアプレイ阻害状況における反社会的態度 130 2.50 1.20 191 2.42 1.10 0.59 319.00 0.56 0.07
接触あり 接触なし
度数 平均値 標準偏差 度数 平均値 標準偏差 t値 自由度 p値 ES:d 競技中の反社会的態度 116 2.46 0.92 206 2.21 0.89 2.45 320.00 0.02 0.28 競技中のフェアプレイ阻害状況における反社会的態度 116 2.66 1.14 205 2.34 1.13 2.49 319.00 0.01 0.29
表 1 個人種目と団体種目における競技中の反社会的態度の比較
表 2 接触の有無による競技中の反社会的態度の比較
第 38 号
13 歳のさまざまな競技レベルの競技者を対象としたSofia and
Cruz (2017) においては,競技中の身体的接触の強さの違いに
よって相手競技者に対する反社会的行動に有意差は認められ ていない。今後は,属性や,反社会的な行為,その行為の対 象をより限定した検討が必要である。
結論として,本研究では,(1)個人種目と団体種目の間で2 つの競技中の反社会的態度に違いは見られなかったが,(2) 競 技中に相手競技者との身体的接触がある競技は身体的接触の ない競技に比べ有意に2つの反社会的態度が高かった,とい う2つの結果が得られた。そして,これらの結果は先行研究 と一致した結果ではなかった。Bolter and Weiss (2012, 2018)
においては,指導者のスポーツパーソンシップより勝利を優先す る姿勢が競技中の反社会的行動に正の相関を示し,Kavussanu et al. (2002)や涌井ほか (2014)も競技者の反社会的行動に対 する指導者の影響について言及している。また,本研究で用 いた尺度における競技中の駆け引きについての項目は,主に 相手競技者への駆け引きについてのものであった。しかし,
スポーツにおける駆け引きの対象は,相手競技者だけでなく,
審判員なども対象となることが考えられる。今後は,反社会 的行為やその対象の限定,そして競技種目以外の要因にも着 目し,競技における反社会的態度に一貫した影響を及ぼす要 因を検討する必要がある。
謝辞
本研究は,平成30年度―令和元年度科学研究費補助金 基盤 研究 (C)「大学生アスリートの価値の明確化を促す心理サポー トプログラムの開発」,平成26―28年度科学研究費補助金 基 盤研究 (C)「大学生競技者の生活支援マニュアルの開発: ス ポーツ・ライフ・バランスの実現に向けて」から援助を受け ました。関係各位に感謝申し上げます。また,調査実施にご 協力くださった内田遼介先生 (流通科学大学)・小林未希代先 生 (大阪大谷大学) に厚く御礼申し上げます。
引用文献
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Development of the sportsmanship coaching behaviors scale
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