九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
電場・磁場による人工関節の摩擦摩耗特性制御に関 する基礎的研究
中西, 義孝
九州大学工学機械科学
https://doi.org/10.11501/3134999
出版情報:Kyushu University, 1997, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
第9章 関節液成分を含む水溶液の潤滑性能に及ぼす電場の効果( 3 ) 潤滑モードの影響
9 • 1 研究目的
第7章および第8章において, 導電性シリコーンゴムと ステンレス鋼の往復 動摩擦試験を関節液構成成分含有水溶液 潤滑にて行った. その結果, 摩擦面問 へ電場を印加することにより摩擦挙動が変化することが確認され, その機構に 関する提案も行った. しかしながら, 同じ混合潤滑領域においても, 流体膜形 成の難易により, 交流電場の効力や直流電場の電位に対応した挙動が変化する
ことも観察された.
本章では, 潤滑モードの立場から, より詳細な検討を行うため, 広範な 潤滑 モードにて実験を行い, 関節液構成成分が人工摩擦材の摩擦挙動に与える影響 と電場印加の効果を評価した. さらに, 電場の効果に及ぼす摩擦材組合せの影 響についても考察するため, 第6章において行った, Ti合金と導電性シリコ ー ンゴムの組合せについても同様の実験を行った.
9 · 2 実験および方法
9 • 2 ・ 1 実験装置 試験片および潤滑液
第7, 8章で 用いた往復動試験は, 一 行程中に潤滑モードが変化する条件で の評価であった. そ こで, 本章では, 一定荷重 ・ 一定速度条件下の潤滑性能を 調べるために, 第4章にて用いた, 一方向滑り接触のローラ ・ オン ・ フラット 摩擦試験機 (図9-1)を用いた. 摩擦材とその形状を図9-2に示す. 上部試験片 は, 幅15mmのディスクであり, 外周面は半径30mmの球面である. 材質はチタ
ン 合金 (Ti-6 Aト4V, N+イオン注入材)ま たはステンレス鋼(SUS316)であ る. 下部試験片として, 厚さ3mmの導電性シリコーンゴムを用いることにより,
前章までの実験にもちいた摩擦材合せとの統一性を持たせた.
潤滑液にはO.lwt%, O.5wt%および1.0wt%鶏冠製ヒアルロン酸ナトリウム(以 降HAと略す)水溶液を用いた. これらに人血清yグロプリンを添加したものも 潤滑液として供した. 人血清γグロブリン 添加濃度は同じO.3wt%に設定した.
ー113-
図9-1 ローラ ・ オン ・ フラット摩擦試験機
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図9-2 摩擦 材形状と摩擦材組合せ
ー114-
9 ・ 2 ・ 2 実験条件
第6章にて設定した摩擦条件(表6- 1)を採用し 潤滑モードと電場印加の効 果の関係を調査した. 実 験時間を90分とし, 実験開始30分後から30分間, 摩擦 面聞に電場を印加した. 印加する電場は, 上部試験片治具を電位基準とした直 流電圧, もしくは交流電圧(正弦波形, 周波数10Hz)とした. 電場の供給源と して図9-3に示す直流回路またはファンクションジェネレータを用いた. 各実験 では, ひずみゲージによる経時的な摩擦係数測定を行った. 直流電場印加時に は摩擦面間の 接触状態や潤滑膜形成状態を評価するため, 電気抵抗法を用いた.
電気抵抗法では 通常 分離度(完全接触: 0 完全分離: 1)は分離電圧(図 9-3の電圧計の値)を印加電圧で除した値を用いる. しかしながら , 摩擦材とし て用いた導電性シリコーンゴムは電気抵抗(図6- 3)を有する. ゆえに, 本実 験 では試験片治具間の電気抵抗が31 nとなった場合に完全接触(分離度: 0)と なるように補正 した. 補正法の概略を図9-4に示す.
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図9-3 直流電場印加回路(分離度回路)
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-115-
105
9 • 3 結果および考察
9 ・ 3 ・ 1 摩擦面間への電場印加の影響と影響が現れる潤滑モード
(チタン合金と導電性シリコーンゴムの組合せ)
本節では, HA潤滑液へのγグロブリン添加の有無の影響が顕著に表れ た([ぎ 6 -6) , チタン合金/導電性シリコーンゴムを摩擦材とした場合の結果を検討す る. 本実験では, 回転運動している上部試験片に対し, 下部試験片は常にほぼ 同じ部分が接触する. これは, 表 面膜形成が下部試験片には容易には行われず , 吸着膜の剥離が発生しやすいことを示唆する.
HA水溶液潤滑の結果 を 表6-3の条件のアルファベット順に図9-5に示す.
まず, 負電位直流印加に ついて考察を行う. HAは, 弱酸基の存在により, 水 溶液中で負に帯電する. この印加により, 下部摩擦面HA膜の剥離, ならびに上 部摩擦面HA膜の形成が促進されると推測される. 混合潤滑域(図9-5(A),( B)) では, 印加時間の経過に伴い, 分離度が上昇している. 遷移域(図9-5(C))で は, 印加直後の分離度は1ではないものの, 印加数分後には, ほぼlを示して いる. これらの現象は 潤滑液が電解質(例えばナトリウムイオン)を含むた め, 印加 直後においては, 摩擦面聞が物理的に分離した状態でも, 電気的には 完全に絶縁されていないこと, 印加時間の経過に伴い, HAの正電位摩擦表面へ の吸着膜厚が増大し, 結果として絶縁性が増したことが考えられる. また, 全 ての潤滑モードにおいて 電場 印加による摩擦係数の急変はほと んど観察され なかった. これは下部HA膜の剥離が促 進されても, チタン合金程度のHA親和 性が存在 すれば, 比較的安定した摩擦挙動が得られること を示すと 考えられる.
次に, 正電位直流印加について考察する. 混合~遷移域(図9-5(A), (B), (C)) において, 印加初期に摩擦係数の上昇が観察された. これは負電位となる上部 のHA膜の剥離が促されたためと考えられる. しかし, 印加 時間 の経過に伴い,
分離度が上昇していることから, 下部摩擦面HA膜が形成されていると推定され る. 流体域(図9-5(D),(E))において, 上部HA膜剥 離によると考えられる若干 の分離度低下が観察され たが, 摩擦係数への影 響はほとんど観察されなかっ た.
これらは摩擦表面HA膜の影響が無視できる厚さの流体膜が存在していること を 示す. したがって 直流電場 が摩擦挙動に影響を与える潤滑モードは, 混合潤
滑域であることが考えられる.
最後に, 交流電場印加 について考察する. これまでの往復動摩擦試験では,
印加周波数10Hz近傍の低 摩擦化 が顕著であった. ま た, 低摩擦化が生じた摩擦 面のAFM像からは, 摩擦材の表面粗さのプロフィルが 表れる程度に, 薄膜化し
ー11 6-
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ー117-
たHA吸着膜が観察された. 以上のことより交流電場印加の2つの作用を提唱し た. それらは, 第一に, 静電 的作用による摩擦由来欠損HA膜の再形成促進作用,
第二に, 摩擦材の表面電位が絶えず変化することによる, HA膜の吸着強度脆弱 化作用である. 第二の作用により生み出された脆弱化したHA膜は摩擦により剥 離され易いと考えられる. なぜ、ならば, 摩擦条件が最も厳しい場合(図9-5(A)) の印加直後に摩擦係数増加が観察されるからである. しかし, 印加時間に伴う 摩擦係数の低下が観察されるように, 交流電場は, 吸着強度を脆弱化させるだ
けではなく, 静電的作用により, 摩擦由来欠損HA膜の再形成 を促進する作用も あるようである. 混合潤滑域(図9-5(A), (B))の電場印加停止後の摩擦係数の増 加 は, 静電的作用を喪失した脆弱 なHA膜が, 摩擦により剥離された結果による ものと考えられる.
遷移域(図9-5(C))においては, 交流電場印加 の効果は観察されなかった.
この現象は, 8章・ 図8-14で観察されたものと同じと考えられる. しかし, 薄 膜流体域(図9-5(D))において, 再びわずかではあるが, 低摩擦化が観察され た. 薄膜流体潤滑域では摩擦材表面吸着膜の影響が非常に僅少となる. 事実,
この 潤滑モードでの直流電場印加は摩擦挙動にほとんど影響 を与えていない.
これは薄膜流体域では, 先に記述した交流電場印加の二つの作用以外に, 別の 機構が存在することを示す. すなわち, 摩擦面間で絶えず変化する電界の方向 が, 流体膜中のHA分子の配向に影響を及ぼし, 粘性抵抗を変化させたのではな いかと推測される.
γグロプリン添加HA水溶液潤滑の結果を, 表6・3の条件のアルフアベット順 に図9-6に示す. 前章までに, HA水溶液にyグロプリン を添加した場合, 疎水 性相互作用により, yグロプリンが摩擦材表面に優先吸着 し, 高摩擦化を引き 起こ す可能性 を指摘した. yグロプリンはペプチド結合に関与しない残基の電 気的バランスにより, 水溶液中で正に帯電する傾向があることが知られている.
負電位直流電場印加の場合, 混合潤滑領域(図9-6(A), (B))では, 電場印加 に よる摩擦係数の減少が観察された. これは, 上部摩擦面のHA吸着とyグロプリ ンの剥離がそれぞれ促進 されたためと考えられる. しかし, この印加条件は高 摩擦 を誘発するγグロプリン を下部試験片へ吸着させる作用も 伴うため, 大き な摩擦係数の低下には至らなかったものと考えられる.
正電位直流電場印加条件では, 混合潤滑域(図9-6(A), (B))において, 摩擦係 数の増加 が観察された. これは負電位印加 の場合と吸着挙動が正反対となるた め, yグロプリン吸着による高摩擦化が顕著に現れたものと考えられる.
第8章, 8 ・ 3 ・ 6において, 潤滑状態が穏やかになると, 直流電場印加時 に極性の効果が逆転する現象が観察されていた. しかし, 今回の直流電場印加
ー118-
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図9-6 潤滑モードが電場の効果に与える影響
(チタン合金/導電性シリコーンゴム, γグロプリン添加HA水溶液潤滑)
ー119-
実験からは, その ような 現象は観察されなかった. この原 因として, 摩擦様式 の違い, 特に, 往復動摩擦のストロークエンドでのスクイーズ膜効果の影響が 考えられるが, 詳細を検討するには更な る研究が必要である.
最後に, 交流 電場印加で は, 混合潤滑域において(図9-7(A),(B))急激な摩擦 係数の減少が観察された. この現象は , 往復動試験においても確認されており,
この 場合の摩擦面AFM像からは, γグロプリンが主成分と考えられる吸着物が 排除され, 比較的平滑な吸着膜が形成されていることが示されている. 以上の ことから, 交流電場印加によ る低摩擦化は, 摩擦材表面の電位が絶えず変化す ることによる, または , 電気二重層の不安定化がもたらす, γグロブリンの吸 着強度低下, もしくは吸着膜の払拭が原因で はないかと考えられる. また, HA 潤滑時に観察された, 薄膜流体域(図9-5(D))での摩擦係数の変化は観察され なかった. これは, 潤滑液にHAとγグロプリンが共存した場合, 交流電場のも たらす効果が, 主にyグロプリンの摩擦材への吸着挙動変化に現れることを示 すものとみなされる. この原因としては, HAとyグロブリンのチタン合金およ び導電性シリコーンゴムへの競争吸着過程において, yグロプリンに優位性が あると考えられるためであると推測できる. すなわち, 両摩擦面近傍にはγグ ロプリンを主成分とする吸着層が形成され易いため, 結果として電場の 効果は yグロプリンの吸着挙動の変化として現れるものと推測できる.
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9 ・ 3 ・ 2 摩擦面間への電場印加の影響と影響力ず現れる潤滑モード (ステンレス鋼と導電性シリコーンゴムの組合せ)
本節では, ステンレス鋼/導電性シリコーンゴムを摩擦材とした場合の結果 を, チタン合金/導電性シリコーンゴムの結果と比較し検討する. HA水溶液潤 滑結果を図9-7に示す.
はじめに, 負電位印加について考察する. 混合域(図9-7(A),(B))では, 電場 印加による急激な摩擦係数の低下とと もに, 電場印加終了後においても, その 低摩擦状態の継続が観察された. ステンレス鋼 はチタン合金と比較し, やや疎 水的性質を有している. よって, HA親和性が乏しく, その結果これら潤滑モー ド下においては, チタン合金(図9-5(A), (B))より高めの摩擦係数と低めの分離 度が 示されている. このような摩擦状態での電場による上部摩擦面へのHA吸着 促進 は, 著しい摩擦特性の改善をもたらすものと考えられる. 同時に上部試験
片は下部試験片と比較し摩擦条件が穏やかで、あり, いったん吸着したHA膜は剥 離されにくいものと考えられる.
つぎに, 正電位印加について考察する. チタン合金の場合には, 混合域(図 9-7(A),(B))にお いて, 電場の印加による 摩擦特性 の劣化が観察されたが, ステ ンレス鋼の場合には, 摩擦係数の低下が観察された. この原因としては, ステ ンレス鋼を相手材とした場合には, 乏しいHA親和性ゆえに, 第6章, 図6-6に 見られるようにかなり厳しい摩擦条件となっている. そのため, 下部へのHA吸 着促進が行われでも, 摩擦条件の緩和に寄与するためと考えられる.
最後に, 交流電場印加について考察する. 第8章までの研究により, 交流電 場印加には2つの作用 (静電的吸着促進作用, および吸着強度脆弱化 作用)が 存在すること, ならびに, そのどちらの作用が支配的となるかは, 印加する交 流電場の周波数によって決定されることを示した. 相手材にステンレス鋼を用 いた今回の実験では, 交流電場 印加の効果は, かなり広範な潤滑モード(図9- 7(A)�(E))において, 観察された. この結果は, 同じ潤滑モードにおいても,
摩擦材の組合せによって, 交流電場の2つの作用の支配度が変化 することを示 唆する. すなわち, HA親和性に富むチタン合金の場合には, 吸着強度脆弱化作 用が, 逆にチタン合金と比較しHA親和性が劣るステンレス鍋の場合には, 静電 的吸着促進作用が 有効に作用していると考えられる.
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図9-7 潤滑モードの変化が電場の効果に与える影響 (ステンレス鍋/導電性シリコーンゴム, HA水溶液潤滑)
ー122-
yグロプリン添加HA水溶液潤滑の結果を図9-8に示す. 直流, 交流 ともに電場印加 の効果は, チタン合金の場合とほぼ同じであった. 第6章, 図6-6に示すように,比生 水溶液潤滑・ 混合潤滑下の摩擦挙動に関しては大きな差異が認められた両摩擦材組 合せの双方について, γグロプリンが添加されることにより, ほぼ同じ摩擦挙動が 得られている. すなわち, 無印加時のγグロプリン添加HA水溶液中での両者の摩擦 の過酷さはほ ぼ同じと考えられ これが電場を印加した場合にも反映されたものと 考えられる.
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Time,min図9-8 潤滑モードの変化が電場の効果に与える影響
(ステンレス鋼/導電性シリコーンゴム, γグロプリン添加HA水溶液潤 滑)
-1 24-
9 ・ 4 まとめ
導電性シリコーンゴムとチタン合金また はSUS316を摩擦材とし, 広範な 潤滑 モードにて摩擦試験を行った結果, 以下のこ とが示唆された.
1 ) HA水溶液潤滑の場ム
( 1 )混合潤滑モードの摩擦挙動に及ぼす電場の効果は, 金属摩擦材 の 親・ 疎水性の影響を受ける. 特に, チタン合金に比べて疎水的な ステンレス鋼の場合に電場の効果が顕著である.
( 2 )直流電場印加の効果が現れる潤滑モー ドは混合潤滑域である.
( 3 )正弦波 交流電場印加の効果が現れる潤滑モードは主に混合潤滑域
である. 親水的金属の チタン合金の場合, 薄膜流体潤滑域において も交流電場印加による摩擦係数低下が起こる. これは, 摩擦面聞で 絶えず変化する電界の方向が 流体膜中のHA分子の配向に影響を 及ぼし, 粘性抵抗を変化させたためである.
( 4 ) 同じ潤滑モード 印加周波数において も, 摩擦材の組合せによっ
て, 交流電場の2つの 作用(静電的吸着促進作用, および吸着強度 脆弱化作用)の支配度が変化する.
2) yグロプリン添加HA水溶液潤滑の場合
( 1 )直流, 正弦波交流電場ともに, 印加の効果は混合潤滑域で観察さ れる.
( 2 )電場の効果に対する金属材質の差異は認められない. これは, 潤 滑液へのγグロブリン添加により, 摩擦の過酷さ がほぼ同じになる
ためである.
3 )潤滑液にHAとyグロブリン が共存した場合, 電場の効果はγグロプリンの 摩擦材への吸着挙動変化に 現れる.
-1 25-
第10章 関節液成分含有水溶液の潤滑性能に及ぼす電場の効果( 4 ) 小電力化の試み
10・ 1 研究目的
第7章から , 第9章にわたり, 電場による関節液成分の人工摩擦材への吸着挙動 制御と摩擦挙動の変化について実験的考察を行ってきた. 各実験結果は, 潤滑液成 分の摩擦材への吸着という 観点からほぼ説明することがで きた. し かし, 生体内で は, 本条件と異なり, 金属酸化膜形成に必要な酸素が十分 でないばかりか, 金属酸 化膜に影響を及ぼしうる有機酸や血祭蛋白が豊富に存在するなど, 吸着以外の潤滑 液成分と摩擦材表面の相互作用, 特に金属摩擦材の化学反応について考える必要が ある. とくに, 何らかの原因で , いったん破壊された酸化膜は再形成されにくいこ
と が考えられ, 酸化膜破壊に起 因する因子の排除は不可欠である. 電場の適用にお いて, 酸化膜の破壊が起こる可能性があ り, この場合, 電圧値または電力値 に関す る考慮が必要である. 子(138)らは, インプラント金属材料の不動態膜形成能に与える 負荷の影響に関する研究の中で, ステンレス鋼(SUS316L)の不動態膜破壊電位に ついて論じている. Zaki(105)らは, 関節軟骨および人工材料の摩擦において直流電場 印加実験を行い, その結果の解釈の一部を潤滑液の電気分 解により発生した水素ガ スに求めている. これらの事象は, 電場 印加の効果を吸着挙動の制御のみに利用す る目的からすれば 回避すべき課題である.
本章では, 小電力を目指した制御用電場の提案と, その電場が摩擦力に及ぼす影 響の観察を行う.
10・ 2 . 実験装置および方法
実験装置および摩擦材組合せは第7章および第8章に準じた.
小電力対策として, 制御用電 場の波形に着目した. 前章までに用いた代表的な電 場は 正弦波であった. 流体膜形成が比較的困難となる摩擦条件において, この正弦 波形印加がもたらす 効果として2つの作用,
1 )摩擦材電位に対応した静電的吸着促進作用
2 )摩擦材表面電位の連続的変化(摩擦材表面近傍の電気二重層の不安定化)によ る吸着物の吸着強度脆弱化作用
-126-
が存在することを提唱し, この二つの作用のどちらが支配的となるかは, 印加する 周波数により決定されることも示唆した. 本章では吸着物の吸着強度脆弱化作用を 目的とし, 急激な摩擦材表面電位変化と小電力化が期待できるパースト波形電場(図
10-1 )を提案し, その効果および各種波形パラメータの影響を調査した.
Waveform A
) ) GND- ))
巳
u附width fbrr Hz Burst Repetition Rate Waveform 8)) GND- ))
fbrr Hz Bu rst Repetition Rate
刈10-1 バースト波形電場ダイアグラム
ー127-
実験には, HA水溶液と, HA水溶液に人血清yグロプリンまたはアルブミンを添 加したものを用いた. これら潤滑液の粘性特性を図10-2に示す. 村上ら(130)の報告に あるように, HA水溶液にアルプミンを添加した場合, HA水溶液の粘度低下が発現 する. 本実験では すべての潤滑液粘度が0.5wt%HA水溶液となるよう, HA添加濃 度を調整(2.0wt%アルブミンには0.85wt%HAを, 1.0wt%アルブミンには0.75wt%HA をそれぞれ採用)した.
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X O.75wtO/o HA + 1.0wt% albumin
88 ち
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Shear rate,
5-1 図10-2 潤滑液の粘性特性-128-
10・ 3 実験結果および考察
10・ 3・ 1 摩擦材電位変化の頻度が及ぼす影響
摩擦材電位変 化の 頻度(品川が摩擦挙動に与える影響を図10-3に示す. HA水溶液 潤滑では, んη=10Hz (通常の矩形波)の電場を印加することにより, 正弦波電場に 劣るが, 摩擦挙動の改善が認められた. これは本章で提案した電場波形が吸着強度 脆弱化を目的としたものであるため, 摩擦由来欠損HA膜再形成の作用が小さいため と考えられる. 電場無印 加時(実験開始から30分間) の摩擦係数はγグロプリンが 添加される ことにより増加した. fbπ=10Hzの電場を印加することにより, 急激な摩 擦挙動の改善が認められたが, 電場印加の効果は品πが減少するに伴い衰退し, fbπ=
0.20Hzで、はほとんど観察されなかった. これらは, 摩擦材 とyグロプリンの吸着強 度脆弱化には, ある程度の電位変化頻度が必要であることを示す.
-129-
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41
05一ぢ一」と04C20580
(a-2)
20 30 40 60 Time [min]
Condition Waveform A
ぬmp:3.0 V
Load: 19.6 N
Stroke : 20.0 mm Period : 4.0 s
摩擦材電位変化の頻度が摩擦挙動に与える影響
句~ ~ ロ
図10・3
20 30 40 50 60 0 10 20 30 40 Time [min] Time [min] 50
�ubricant : Water solution of 0.5wt<>/o HA+ 0.3wt% y-globulin
.匂句"句"句、
句"
句"
白"... 句••• ・AW----句"句、∞%
句句
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国一"
50
20 30 40 50
Time [min]
(b・2) 10
。 10
。
cO.6 UO.5 0
こ0.40 ëO. 0 :s= 豆0.2
�0.1 0
』}ハWOB
10・ 3・ 2 電場の電圧値が及ぼす影響
電場の電圧値(Vamp)が摩擦挙動 に与える影響を図10-4に示す. Vamp=3.0Vの場合.
軟質材である導電性シリコーンゴムが正電位となる条件の方が, 摩擦挙動の改善が 著しいことが判明した. さらに, Vamp=I.0V程度で電場印加の効果が不明瞭となるこ とも観察された. γグロプリンは, 他の球状蛋白と同様に, ペプチド結合に関与し ないアミノ残基により帯電粒子的な性質を有す. 第8章において行った, 摩擦実験 終了後下部試験片のAFM像観察により, γグロプリンは正の帯電粒子の性質を有す るこ とが明らかとなっている. これらの結果は, 摩擦材に吸着したγグロプリンの
吸着強度を脆弱化させる過程に静電的反発も深く関与していることを示唆する.
-131-
Condition Waveform B
Vamp = 3 .0V
fbrr = 1.0Hz
Tbw = 50 ms Load: 19.6 N
Stroke : 20.0 mm Period : 4.0 s Lubricant:
60 l Water solution of 0.5wt% HA b.
・ .匂 J' nr
・ロ
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d
"
ロロ
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ロ ロ
W0
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50 20 30 40
Time [min]
600 10 50
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0 ト
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4
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�0.1
0
Condition
Waveform B fbrr = 1.0Hz Tbw = 50 ms
Load : 19.6 N Stroke: 20.0 mm Period: 4.0 s
Lubricant: Water solution of 0.5wt% HA + 0.3wt% γ-globulin
20 30 40 Time [min]
(b-2) 10
電場の電圧値が摩篠挙動に与える影響
t-一wN'
。
図10-4
10・ 3・ 3 バースト幅が友ぽす影響
バースト幅(Tbw)が摩擦挙動に与える影響を図10-5に示す. Tbwが減少するにつ れ, 摩擦挙動の改善は不明瞭となり. Tbw= 1 msで、は, 電場の影響は皆無で、あった.
これらの結果は 吸着強度を脆弱化さ せるためには, ある程度の電位変化時聞が必 要であることを示唆する. しかし, この電位変化時聞が, 摩擦材表面近傍の電気 重層の不安定化と前述の静電的反発のどちらに大きく影響を及ぼしているかは不明 であり, 今後の詳細な検討を有する.
-133-
�MMMMM..8!飴旬鍋嶋句..
60
ぬmp: 2.5 V
20 30 40 Time [min]
Condition
Waveform B fbrr: 1.0Hz GND : Lower specimen
Load : 19.6 N Stroke: 20.0 mm Period: 4.0 s
Lubricant : Water solution of 0.5wt% HA + 0.3wt% y-globulin
c O.
go
さ
00
cO.
go
t
8
0.l
(4)i-一whヤ
50 60 20 30 40
Time [min]
10
。
市場のパースト|陥が)学線不動にらえる彩管 以1]0・5
10・ 3・ 4 電場の効果に与える蛋自の性質の影響
図10-6および図10-7にアルブミン添加 HA水溶液潤滑の結果を示す. これまで用い てき たyグロ プリンとアルブミンの違いは, 水に対する溶 解度の差であり, 血築に 含まれる球状蛋白のうち, 水に対して溶解するものがアルブミンである.
生理的濃度であるアルブミン2.0wt%含有HA水溶液潤滑(図10 -6 (a) )におい「
は, 流体膜形成が比較的良好な混合潤滑領域にお いて, 直流電場印加の効果が認め られ た. このことにより, アルブミンは yグロプリンと同様に帯電粒子として取り 扱うことができ, 負の帯電傾向を有すると考えられる.
しかしながら, 正弦波交流電場印加の効果は, 生理的濃度の50%である, 1. 0wt9é 添加HA水溶液潤滑時(図10・6 (b) )にも観察されなかった. さらに添加濃度を低下 させた0.13wt%(0.3wt%γグロプリン添加と同じmol濃度)アルブミン添加比弘水溶液 潤滑(図10-7)において, 矩形波を印加すること によって, はじめて低摩擦化現象 が発現した. この結果は, アルブミンと γグロブリンの聞には大きな特性の違いが 存在することを示す. なぜ、ならば, yグロプリン添加HA水溶液の場合, 生理的濃度 の約10倍に当たる, 3.0wt% yグロプリン添加HA水溶液潤滑においても, 正弦波波形 による制御が可能(図8-11)であったからである.
アルブミンは, 生体内で浸透圧の調整や, 栄養分の輸送を担っている蛋白質であ る. それ故, アルブミンは外部環境の変化にかなりの適応性がある ものと 考えられ る. これは, 交流電場印加時の作用のーっとして掲げた, 電気二重層の不安定化に
よる吸着蛋白の吸着強度脆弱化があまり期待できないことを示す.
-135-
60 50 20 30 40
Time [min]
10
少怖φ
Cω+3自句拘勾旬勾淘ミザ∞∞句∞∞
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20 30 40 50 60 0 Time [min]
Condition
Load : 4.9N Stroke : 20mm Period: 1 s
Lubricant : Water solution of 0.85 wt% HA+2.0wt% Albumin (a・2)
60 0 10 50
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1
・.....
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f=10Hz AC3V)
20 30 40 Time [min]
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60 50 20 30 40
Time [min]
600 10 50 20 30 40
Time [min]
600 10
HU d---
50。
アルプミン添加HA水溶液潤滑における電場の効果( 1 ) Condition
Load : 19.6N Stroke: 20mm Period: 4s
Lubricant : Water solution of 0.75 wt% HA+ 1.0wt% Albumin cO.6
0
ぢ0.5 三0.4 1:0.
0
さ0.2
�O.1
0
。 }ハW小 1
図10-6
Condition
Vamp: 3V Load :19.6N Stroke : 20mm Period: 4s
Lubricant : Water solution of O. 51 wt% HA+O.13wt% Albumin
nu n0 • セ一 " 句日) α一
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87654321Eo・ 晶
図10-7 アルブミン添加HA水溶液潤滑における電場の効果( 2 )
-137-
10・ 4 まとめ
yグロプリン含有HA水溶液を潤滑液とす る, 導電性シリコーンゴムとSUS316の 往復動摩擦試験において以下のことが示唆された.
1 )パースト波形電場は正弦波波形電場と同様に, 摩擦材への蛋白の吸着強度を舵 弱化させ摩擦挙動の改善をもたらす.
2 )パースト波形電場を用いることにより, 正弦波波形電場と比較し, 摩擦面問に 入力する電力値を大幅に減少できる.
アルブミン添加HA水溶液を潤滑液とする実験により, アルブミンはγグロプリン と比較し, 交流電場による制御性が劣ることが示された.
-138-
第1 1章 ステンレス鋼の摩耗特性に及ぼす交流滋場の効果( 1 ) 乾燥摩耗過程における影響
11・ 1 研究目的
第4章および第5章において, ステンレス鋼同士の摩擦摩耗過程に及ぼす関節液 成分 の影響を調査し, 摩擦面への蛋白成分の吸着が摩擦摩 耗特性を変化させる重要 な因子であることを 指摘した. 次世代人工股関節においては, 流体潤滑を主要な潤 滑モードとすることで摩耗を減少させるため, 半径 すきまを小さくする傾向にある.
しか しながら, 半径すきま減少に伴う接触面圧の低下は, 金属同士の摩耗過程にお いては, 逆に摩耗を加 速する因子となる可能性があること を第5章にて指摘した.
この ような条件下で摩耗を減少させるためには, 摩擦により生み出された新生面を 速やかに酸化させる必要がある と思われる. この 摩耗低減のための 酸化膜形成促進 の手法に, 本研究では磁場の印加を取り上げる. しかしな がら, 磁場印加に関する 研究においては, 少なくとも一方の摩擦材が磁性体の乾燥 摩耗過程に関する報告が ほとんどである. よっ て 本報では 常磁性体であるSUS304とSUS316 の乾燥摩耗 過程に及ぼす磁場印加の効果を実験結果 より検討した.
11・ 2 実験および方法
ピ ン ・ オン ・ プレート摩 耗試験機を図11-1に示す. 荷重 ・滑り速度の選択により 各種条件下で の摩耗特性を得ることができる. さらに, オフセット値を変更するこ とに より, 単位滑り距離当たりのプレートの摺動回数も変 更できる ようにし た. ピ ンは電磁コイルのボビンか ら7.5mm突き出した状態で固定した. 磁場は60Hzの交流 磁場 とし, コ イル電流 を制御して所定の 磁束密度 (ピンと プレートを離した状態で のピン先端)を設定した.
実 験に供し たピン・プレート形状を図11-2に示す. 材質 はオーステナイト系ス テ
ンレス 鋼SUS304と Moを添加して 耐孔食性・耐酸性を向上させたSUS316を用い た. 両者とも機械的性質は, ほぼ同じ(HB< 187)である.
試験は, 一定滑り速度(一方向)にて行った. 試験条件を表11-1に示す.
-139-
芯ω位。
/
Strain gaugeDischarge tube Air pump
Upper specimen (Pin) Lower specimen (Plate) 図11-1 ピン ・ オン ・ プレート摩耗試験機
50mm
K
40mm目!
ムllllo寸EEc
旧E E
:1: ー1・
Pin specimen (Upper)
苅11-2 試験片形状 -1 40-
表11-1 試験条件
Load [N] ; 17.6N (0.9MPa) Sliding velocity [mm/s] l
Offset [mm]
Lubricating condition Temparature [OC]
Magnetic-flux density [mT ] l
20 --- 70 2.5
---5.0
Dry
22+2
o ---
4 (60Hz) Sliding materials
lSUS304, SUS316
ー141-
11・ 3 結果および考察
1 1・ 3・ 1 SUS304同士の摩耗
SUS304同士の摩耗過程における摩擦条件と磁場印加の効果を図lト3, 11-4に示す.
オフセット値が5mm(図11-3)の場合, 無磁場におけるプレートの摩耗(口印 は滑り速度とともに増加する傾向を示した. オフセット値が2.5rnm(図11-4)では.
摩耗は減少するが, 5rnmの場合と同様に滑り速度が大きい 方が摩耗が大となった.
オフセット値は ピン ・ プレートの摺動条件を変 化させる. 例えば, オフセット値 が小さくなると, プレートの摩耗痕面積が小さくなり, ビンがプレート摩耗面 を被 覆する割合が増大する. さらに, 同じ滑り速度の下では, オフセット値の減少は.
プレート摩耗面の特定領域が再度ピンに摩擦される頻度を増加させる. 本摩擦条件 内においては, 滑り速度が大き く, オフセット値が大きい とき, プ レートの摩耗が 増大する. これに対し, ピンの摩耗は, オフセット値が大きくなると摩耗が大き なる傾向を示す が, 滑り速度の影響はほとんど観察されなかった. この原因として,
常に摩擦を受けるピンは, プレートと比較し, 条件により摩擦の過酷度が大きく変 動しないためと考えられる.
磁場を印加することにより, ピンは, 全ての条件で摩耗 が減少する傾向が観察さ れ, 特にオフセット値2.5rnmにおいては, シビア ・ マイルド摩耗遷移が顕著に現れ た. しかし, プレートの摩耗は, オフセット値が2.5rnmのとき減少, 5mmのとき不 変もしくは増大する傾向を示した. これらの原因は, プレートと磁束の角度に関連 があるものと考えられる. 平塚ら(111,112)は, 強磁性体で あるNi同士, お よびS45C同 士の乾燥摩耗過程において, 摩擦面に水平な磁束が摩耗特性を劣化させることを示 している. 別報(1ω)においては, ステンレス鋼(SUS316)同士の磁場内摩擦 では.
摩擦面上の残留磁束の 検出と摩耗粉の磁化を報告している. これらは常磁性体同士 の摩擦においても, 摩擦面に平行 な磁束が摩耗特性を劣化させることを推測させる.
本実験形態、では, 電磁コイルボビン両端を極として磁束が発生する. そのため, オ フセット値が大きい場合, 荷重域通過後のプレート摩擦面は水平方向成分の磁束の 影響を受けやすいと考えられる. これはプレートの摩耗特性の劣化を示唆する.
本実験でも摩擦面に摩耗粉が吸い寄せられる現象と摩耗粉が磁石に吸い寄せられ る現象が確認された. 常磁性体であるステンレス鋼の摩擦面と摩耗粉の磁化は, 摩 擦により加工ひずみが生じていることを示し, これは摩擦過程によるステンレス鋼 のマルテンサイト変態の影響も考慮に入れる必要性があることを示す . 本研究でば この点に関する検証は行っていないが, 今後検討すべき課題である.
-142-
Pin: SUS304 Plate : SUS304
Load: 17.6N Offset: 5mm
...(7.. Pin : B=OmT -・-Pin: B=4mT
…e.. Plate : B=Om T -・-Plate : B=4m T 200 400 600
Sliding distance, m
200 400 600
Sliding distance, m
200 400 600
Sliding distance, m
1-h宇一wl
SUS304同士の摩耗特性に及ぼす磁場の効果( 1 ) 図11-3
Load : 17.6N ---e---Pin : B=OmT …e--Plate: B=OmT Offset : 2.5mm -・-Pin : B=4mT -・-Plate : B=4m T
(
Pin : SUS304 Plate : SUS30の
10.
CNv:
20mm/sl (}3) v
: 35mm/sI
。ε
,日
200 400 600 0
Sliding distance, m 200 400 600
Sliding distance, m
図11-4 SUS304同士の摩耗特性に及ぼす磁場の効果( 2 )
-144-
SUS304とSUS316の摩耗 11・ 3・ 2
SUS304とSUS316の摩擦材組合せにおける摩耗過程と磁場印加の効果を図lト5に示 かつ滑り速度が す.
本条件内においては, ピンがSUS316, プレートがSUS304で,
20mm/sの場合(図lト5,C)に限り ピン ・ プレートとも磁場印加によるシビア ・ マ イルド摩耗遷移促進と摩耗の低減が観察された. 他の条件では, 摩耗の増大やシビ ア ・ マイルド摩耗遷移の阻害が磁場印加により起こる可能性が示唆された. これら それがもたらす摩擦材 の現象は, 磁場印加による摩擦面聞の接触電位差変化(101)や,
の機械的性質の変化(149,150)なども考慮に入れる必要があると考えられ, 今後の検討 課題である.
---g.--Plate: B=OmT -・-Plate: B=4mT ---0--Pin : B=Om T
-・-Pin: B=4mT Load: 17.6N
Offset : 2.5mm
600
〈Þ
in: SUS304 Plate: SUS316)
200 400 Sliding distance, m
。�v:
20mm/sI
_____r\0・_--
--
/'ds z,
d
200 400 Sliding distance, m
日
10
ロ3E
� 5
� 0
(
Pin : SUS316 Plate: SUS30の
。v:
20mm/sI
600 200 400
Sliding distance, m
SUS304とSUS316の摩耗特性に及ぼす磁場の効果
600 0 200 400
Sliding distance, m
ー145- 図11-5
11・ 3. 2 SUS316同士の摩耗
SUS316同士の摩耗過程における磁場印加の効果を図1ト6に示す.
無磁場におけるSUS316同士の摩耗は, SUS304同士(図1ト4)と比較し, ピンは増 大し, プレートは若干の減少傾向を示した. これらの結果は, 摩耗過程の大部分が 摩擦による酸化促進作用により支配されるとするならば, SUS304とSUS316の摩擦 による酸化特性を示唆するものとなる. すなわち, 常に摩擦を受けるピンの様な過 酷な条件下では, SUS316はSUS304と比較し, 摩擦による酸化促進が困難となるが , プレートの様な比較的マイルドな摩擦条件下では, 逆にSUS304よりも優れた酸化促 進性を有する, と解釈できる. この議論は, 本実験結果のみより導出されたもので あり, 詳細な検討の必要がある.
前節の仮定が正しいならば, 磁場印加 の効果は容易に説明できる. 磁場印加によ るSUS316の摩耗減少 がピンで観察され, プレートで僅少となった. これらは, 過酷 な条件下にあるピンは摩擦のみでは十分な酸化膜形成が不可能であったが, 磁場印 加により酸化膜形成促進が実現されたものであり, マイルドな条件下にあるプレー トは, 無磁場でも十分な酸化膜形成が行われるため磁場の効果が現れにくい, とそ れぞれ推測される.
磁場印加において, シビア ・ マイルド摩耗遷移の後, 再びビンの摩耗が増大した 結果(図11-6,B)があるが, これはSUS316同士の摩擦によるマイルド摩耗面はあま り安定でなく, 摩擦最中に時々シビア摩耗面に逆戻りする場合がある(109)ことが原因 と考えられる.
-146-
Load : 17.6N ---E)---Pin : B=OmT ---8---Plate : B=OmT Offset : 2.5mm -・-Pin: B=4mT -・-Plate: B=4mT
。
in: SUS316 Plate: SUS316)
〈A)
v : 20mm/sI
o , ae , , a' , o , -e -e a' e e , a, ae , -e o ae e , ae a, ., a, ae a-a, a' , , c ae , , a, , e , , a' , ・ea, ae ,
5
200 400 600 0 Sliding distance, m
200 400 600
Sliding distance, m 図11-6 SUS316同士の摩耗特性に及ぼす磁場の効果
-147-
12・ 4 まとめ
常磁性体であるSUS304とSUS316 を摩擦材に用いた, 一方向滑り乾燥摩耗過程に おける磁場印加の効果について,
1) SUS304同士もしくはSUS316同士の場合, 摩擦面に対して垂直な磁場印加によ り, 摩耗低減現象が起こりうる.
2) SUS304とSUS316を組合せた場合, 磁場印加は, 摩耗の増大やシビア ・ マイル ド摩耗遷移の障害と成りうる条件が存在する.
-148-
第12章 ステンレス銅の摩耗特性に及ぼす交流磁場の効果( 2 )
水溶液潤滑・往復動摩擦における考察
12・ 1 実験目的
第11章において, ステンレス鋼 同士の 乾燥摩耗過程に及ぼす交流磁場の効果につ いて 検討した. 生体内の適用の可能性を 検証するための着目点として, 以下の2つ が挙げられる.
1 )生体内は乾燥摩耗ではなく, 水系潤滑下にある 2 )一方向・定速度滑りではなく往復動滑りである.
本章では, この2点 を考慮に入れた実験を行い, 磁場印加の効果を検証する.
12・ 2 実験および方法
往復動ピン ・ オン ・ プレート摩耗試験機の概略を図12-1に示す. 電気的に絶縁さ れた上下摩擦材の摩擦過程において 摩擦面に対し垂直な磁束(111,112)が加えられる
よう, Helmholtzコイルを設置した. 磁場 は60Hzの交流磁場とし, コイル電流を制御 して所定の磁束密度( ピンとプレートが存在しない場合のコイル間空間)に設定し た.
実験に供したピン ・ プレート形状は, 第11章・ 図11-2と同じである. 材質はステ ンレス鋼(SUS316)であり, 摩擦面には鏡面仕上げ(Rrms=O.02μm)を施した.
試験は, 往復動摩擦(摩擦係数は最大接線力をもとに算出)にて行った. 試験条 件を表12-1に示す.
一部の試験においては, 試験後の摩擦材 表面の元素分析をエネルギ一分散方式 (EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy) EPMA (Electron Probe Microanalysis)によ
り行った. このときの加速電圧は25kVに設定した.
-149-
Oead weight Helmholtz coil
;(
Leaf spring Strain gause図12-1 往復動ビン ・ オン ・ プレート摩耗試験機
表12-1 試験条件
5.59
Load [N]
(0.28 MPa)
E
Stroke [mm] 20
Period [s]
Lubricating condition .Dry
:・Distilled water :・Saline solution
•
Saline solution of Proteins
(
1.0wt% alubmin + O.3wt% γ-globulin)
Temparature [OC]
Magnetic-flux density [mT] l Sliding material
-1 50-
22士2
o � 1.5