12・ 3 結果および考察
各潤滑条件下における, 磁場印加による 摩耗特性への影響を図12-2に示す. ステ ンレス鋼同士の摩耗特性について , 第11章では酸化膜の形成に着目した. 乾燥摩耗 過程における磁場印加による摩耗低減機構について, 平塚らは(107,111J 12), 磁場が摩 擦 による酸化反応を促進させ, その効果は滑 り速度により変化することを示してい る. この摩耗低減現象は, 磁性体に限らず常磁性体 でも発現(109,110)する.
無潤滑において, 摺動速度 および方向が変化する往復動摩擦様式においても, 上 述の報告と同様に, 磁場印加によりピン ・ プレート共に摩耗が減少することが確認 された.
蒸留水潤滑の場合, プレートのシビア ・ マイルド摩耗遷移と磁場 による遷移促進 が観察されたが, ピンの摩耗過程には変化はみられなかっ た. この原因とし ては,
潤滑液に よる摩耗粉の摩擦面間への介在 (108, 114)の阻害や潤滑液中では無潤滑と比較 し酸素量が減少(102,103)するためであると考えられる.
生理食塩液 潤滑の場合, 蒸留水潤滑よ りも プレートの摩耗が低減し, ピンの摩耗 過程に磁場の効果が認められた. 両条件の相違点は, 潤滑液中のナトリウムおよび 塩素イオン濃度だけであることから, 塩素イオン が金属表面と反応して極圧膜を形 成 し, 摩擦の過酷度を 低減させた可能性 が考えられる. また, 摩擦 条件が穏やかに なると摩擦による酸化反応が発生しやすいため, 磁場によ る効果が現れたも のと推 測される.
蛋白成分含有生理食 塩液においても, 磁場の効果が得られたが, 磁場にお けるビ ンの摩耗低減化は生理食塩液 よりも小となった. この原因として, 今回の接触面圧 (0.28恥1Pa)条件が, 蛋白の存在による摩耗加速領域(第5章・ 図5-3)であること が考えられる. この条件での実験終了後のEPMAによる摩擦材表面元素分析結果を図 12-3に示す. 磁場印加がシビア ・ マイルド摩耗遷移を著しく起こす原因として, 平 塚ら(107)は磁場によって摩擦による酸化反応が促進されることを挙げている. 分析結 果からは, 摩擦による酸化促進反応は認められるものの, 磁場による酸化促進;二プ レー トにのみ明確に認められ, ピン では 認められなかった. この原因としては. ヒ ンとプレートの摩擦の過酷さが異なることが 考えられる. 図12-2(0)にて観察される ように, プレートよりも過酷な状態にあるピンの摩耗量は 滑り距離に対して直譲的 である. ゆえに, 実験中はシビ ア摩耗状態 にあると考えられる. このため, 無潤滑 と比較し酸化膜再形成に必要な酸素量が減少している潤滑液中ではピンのEPMA分析
結果に磁場の効果が認められにくいものと考えられる.
ー151-Load : 5.59 N Stroke: 20 mm Period: 1 s Pin : SUS316 Plate : SUS316
---&--Pin : B=OmT ---8-.. Plate : B=OmT 一・r- Pin : B=1.5mT -・- Plate : B=1.5mT
R」g〉〉
7 6 5
0>
ε4 3 2 1 R」句。〉〉
o 200 400 600 800 1 000 0 Sliding distance, m
7 6
5
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ε4 3 2 1 R』何ω〉〉
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r(D)
Saline solution of Proteins 65
3 2
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1500 3000 4500 0
Sliding distance, m 1 500 3000 4500
Sliding distance, m 刈12-2 各種潤滑液条件における摩耗過程に及ぼす磁場の効果
ー152-(
Accelerated voltage Lubricant�SaJ
ine solution of Prote: 25 kVi
n Lowest •そ-
mean value Highest Elements for quantitative analysis : Fe, Cr, Ni, C, 0, N8=OmT Contact area Pin
8=1.5 mT Contact area
8=0 mT
non-Contact area 8=OmT
Contact area Plate
8=1.5 mT non-Contact area
8=1.5 mT Contact area
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7 8 9 10 11
Concentration of Oxygen, wt%
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図12-3 EPMAによる実験終了後の摩擦材表面の元素分析結果
-153-12・ 4 まとめ
各種潤滑条件下における, SUS316同士の往復動摩擦摩耗実験において,
1 )同じ水系潤滑下でも, 摩耗過程における磁場の効果は, 潤滑液添加物質の影響 を受ける.
2 )水溶液潤滑においても, 磁場印加により摩耗重量が減少する傾向が観察された ことにより, 磁場によるメタル ・ メタル人工股関節の摩耗特性のコントロールの 可能性が示唆された.
-154-第13章 結言および今後の展望
本論文題名に記す研究課題を遂行するに あたり, 研究課題を第2章から第1 2章;二 分割し, 研究を進めた.
はじめに, 人工関節の生体規範設計を行う上での指針を得ることを目的とし, 豚 の肩関節を用いた振子試験を行った. その結果, 生体関節摩擦面は粘弾性特性を有 する軟骨の機械的特性と形状により, 潤滑膜のとじ込め作用やスクイーズ膜保持に 有効な形状を有していることが判明した. しかし, この関節機構は, 長期直立時な どの起動摩擦の点からは, 不利になる可能性が示 された. さらに, 人工関節の摩擦 摩耗特性制御の研究指針を得る目的から, 生体関節に電場を適用した実験を行い,
摩擦条件によっては, 電場による摩擦制御が可能であることを示した.
つぎに, 関節液潤滑下での人工材料の摩擦摩耗試験を行い, 摩擦摩耗特性評価パ ラメータとして, 潤滑液中の両親媒性成分, 摩擦材の親・疎水性, 機械的強度を提 示した. これら評価パラメータの妥当性を検証するために, 摩擦材組合せを限定J た摩擦摩耗試験を行った.
高弾性率の摩擦材同士の組合せの例として, ステンレス鋼同士の摩擦摩耗特性を 検証 した実験においては, 関節液構成成分である蛋白の摩擦材への吸着が摩擦特性 を大きく変化させる因子であることを突き止めた. さらに蛋白成分は, 摩耗特性を 改善もしくは劣化させる両側面を持ち, 特性決定パラメータとして摺動面接触面圧 が挙げられることを示した.
低弾性率材と高弾性率材の摩擦材の組合せの例として, 導電性シリコーンゴムと チタン合金またはステンレス鋼を摺動させた実験においては, 混合潤滑域での摩擦 摩耗特性が, 摩擦材の親・疎水性により影響を受けることを明らかにした. さ らに,
低弾性率材料を摩擦材に用いた場合に, 潤滑液中 の蛋白成分の摩擦面への吸着が摩 擦摩耗特性を劣化させる可能性を示した.
摩擦摩耗特性の制御を試みるにあたっては, 摩擦材組合せによる摩擦摩耗機構の 違いに留意し, 制御手法(電場または磁場)を選択した.
低弾↑生率材の例として導電性シリコーンゴムを用いた研究においては, 関節液成 分の 摩擦材への吸着を制御対象とし, 手法として各種電場を用いた. その結果, 各 関節液成分には, 静電的吸着特性が存在することが判明し, 吸着挙動制御に伴う摩 擦挙動の変化が観察された. この静電的特性を用いた制御は, 主に直流電場によ1) 行い, この電 場の効果は主に混合潤滑域において発現することが確認された. 正弦 波交流電場印加実験においては, 特定の周波数帯において顕著な摩擦特性の改善が 観察された. 摩擦条件によっては, 正弦波交流電場の効果は混合潤滑領域だけでほ なく, 薄膜流体潤滑領域にまで及び, これらの摩擦挙動改善の機構として3つの作
ー155-用(静電的吸着促進作用, 吸着強度脆弱化作用, および流体膜中の溶質分子の再配 向作 用)を提示した. これらの 機構に対応して, 小電力化を中心とした, 制御用電 場設計の指針を得ることができた.
高弾性率材料同士の摩擦の例として, ステンレス鋼を用 いた実験を行い, 磁場印 加による摩 耗特性の改善を試みた. その結果, 常磁性 体(SUS316)同士・往復動摩 擦形態、においても磁場印加による摩耗特性の改善が確認された. さらに, 本実験で 用いた各水系潤滑下では, 磁場印加により摩耗特性が改善されることが明らかとな り, メタル ・ メタル人工股関節の摩耗特性の制御の可能性を示すことができた.
本論文名に記す研究課題を完了するための今後の展望について, 第l章における 次世代人工関節の設計指針を考慮に入れ記述する.
人 工関節からの摩耗粉の発生は, 人工関節の耐周年数を決定するばかりで なく,
生体反応による人工関節と骨界面との緩み を生じさせる. 摩耗粉と生体組織との反 応を防止する一手法として, 人工関節包(86)の研究が行われている. 人工関節包が臨 床応用される 場合においても, フェール ・ セイフの観点から, 充填される潤滑液は ヒアルロン酸水溶液等の生体由来潤滑液が妥当で ある. すなわち, 水系潤滑による 人工材料の摩擦という根本的な課題は残留する.
人 工関節の摩耗を低減させ るためには, 摺動面にPVAハイドロゲルに代表される 軟質材を用いたソフトEHl殺構や, 高弾性率材料 同士を組合わせ, 摺動面形状適合 性を向上させることにより実現される流体潤滑機構の積極的活用が望ましい . しか し, 実際の作動状態では局所的接触を伴う混合潤滑モードとなる場合も予測される.
したがって, 前者に関しては, 電場による摩擦 材表面への 潤滑液成分の吸着挙動制 御を, 後者に代表されるメタル ・ メタル人工関節 に関しては, 磁場による酸化膜形 成促進を, 実現化させることで, 更なる低摩耗化が実現できるものと考えられる.
電場による摩擦摩耗特性の制御に関する研究において明らかとな った 入力電力に 関する問題は, 小電力波形の研究と人工関節包の研究により解決されるであろう.
磁場による摩耗特性 制御に関しては, 電場による制御における問題点である生体 への侵襲は小 さい. しかし, 今後, 永久磁石により発生する静磁場等, 各種磁場を 用いた精力的な研究を行い, より実現的かつ効率的な制御法の確立を目指す所存で ある.
-156-謝辞
終わりに, 本研究の課題を与えられ, 終始親切な御指導を賜った恩師九州大学工 学部教授 村上輝夫 先生に深甚なる謝意を捧げます.
九州大学工学部教授 市丸和徳 先生, 岡 山本雄二 先生には, 研究に際して の実験系や実験データの解釈に関する御助言を頂くと共に, 本論文の執筆に際して 貴重な御意見を頂きました. 研究に関して様々な視点をお持ちの先生方から教えを 頂けたことは, 筆者にとって貴重な経験となりました.
また, 本研究の遂行にあたり終始御援助と御協力を頂いた九州大学工学部設計シ ステム研究室, 設計工学研究室, ならびにトライボロジー研究室の皆様に厚く感謝 の意を表します.