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Asian and African Languages and Linguistics, No.3, 2008

はじめに

— 「今どきの品詞論」から「これからの品詞論」へ —

中 山 俊 秀

(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

この特集は,平成 19 年度アジア・アフリカ言語文化研究所重点共同研究プロジ ェクト『言語の構造的多様性と言語理論—語の内部構造と統語機能を中心に』の活 動の中で交わされた議論を踏まえて企画されたもので,言語構造を捉える枠組み としての品詞分類の問題を通言語的コンテクストにおいて考えることを目的とす る。

品詞(より一般的には語類)の分類は,言語現象の規則性を捉えようとする上 でもっとも基本的な枠組みの一つであると考えられてきた。このことは,文法の 記述的研究についても,文法パターンの理論的モデル化を目指した研究について も広く言えることであろう。さらに,品詞分類は,類型的タイプの違いを越えて 文法研究の枠を規定し,言語間の比較・対照の基盤としても用いられうるものと して期待されることが多く,その意味で言語研究の普遍的枠組みの一つとさえ考 えられているようである。実際,様々な言語の研究の中で,言語表現の形式wp 構成する上の規則性の多くが品詞に言及した形で捉えられ,品詞が様々な文法上 の規則性と共鳴する非常に重要なカテゴリーであるという実感を持つことが多い。

しかし,その一方で,近年幅広い範囲の言語の研究が進み言語の構造的多様性 の幅と深さが明らかになってくる中にあって,品詞分類という枠組みの性質をそ うした構造的多様性を視野に入れて問い直す必要がでてきた。個別言語の研究の 中ではこれまでも品詞の立て方や品詞の数などに関して議論がされて来ているが,

通言語的に様々な類型タイプの言語を見渡して議論をする機会は必ずしも多くな い。幸いにも,今回の共同研究プロジェクト活動を通して,多様な品詞分類の実 態と問題点に関する議論を交わし,問題意識を共有することができた。そうした 好機を活かすべく,通言語的な問題意識を強く念頭に置いた考察をまとめる場と して本特集の編集に至った。

さて,品詞分類について通言語的な検討をするに当たって,現在の言語研究の 中で品詞分類がどのように捉えられているのかをまず確認しておきたい。いうま でもなく,品詞分類の性格付けについては様々な立場がとられており,単純な一 般化はまったくできない。しかしながら,共通のレファレンスポイントを設定す ることは議論のよりよい理解につながる。そこで,敢えて,現代の言語研究の中 で前提とされている品詞システムの姿の一般的特徴を抽出してみたい。ここで確 認したいのは,現在の言語研究者が品詞分類について漠然と持つ前理論的な感覚

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アジア・アフリカの言語と言語学 3

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―品詞「感」といってもいいだろうか―であり,それは以下のようにまとめられ るように思う。

a) 品詞は言語構造に内在するカテゴリー

品詞は言語構造の組み立てそのものに「織り込み済み」のカテゴリーである。

例えば,UGレベルで組み込まれている,話者にとっての心理的実在を持って

いるなど,品詞分類を発現させる構造的動機付け,認知機能的動機付けが言 語の中に固有の要因としてある。

b) 品詞分類は基本的に言語のカタチの面のはなしである

「品詞」という概念が捉えようとしているのは,語が表す概念の意味的な性 質からくる語の類別ではなく,語が示す形態統語法上の振舞いの類別である。

したがって,品詞を分類する上では,屈折のパターンなどの形態的特徴およ び文・句構成上の機能や位置などの統語的特徴に基づいて定義すべきである。

c) 品詞は文法構造の中で特別な地位を持った語類である

「品詞」は,形態統語法上のパターンに基づいて認定できるさまざまな語類 の中で特別な位置を占める重要な語類である。たとえば,英語では,自動詞・

他動詞,感覚動詞,同族目的語を取る動詞なども形態統語法上のパターンに 基づき語類として認定できるであろうが,人称や時制の屈折,語順などに関 しては同じ振る舞いを見せるなど共通点も多く,より大きな「動詞」という 語類の下位分類であると考えることができる。「品詞」は文法の組み立ての 中核を成す高次のカテゴリーである。

d) 品詞は語に固有の性質

「品詞」は,それぞれの語がもつ固有の文法的性質に基づいて(つまり語彙 的に)決まっているものであり,語の品詞分類は他の語との関係によって左 右されるようなことはない。

e) 品詞分類はボトムアップに文法構造の大局を枠付けづけする

語の「品詞」上の性質は,ボトムアップ(語彙項目から句・節の構造にむけ て)に文法構造の大局に枠組みをかける。この見方は,「主要部(head)」とい う概念に明確に反映されている。句や節の「主要部」は,それぞれのユニッ トの統語上の性質を決める語といえるが,まさにここでは統語上の高次の構 造の文法的性質が語の文法的性質から投射されると考えられる。

本特集に収められた多様な言語に関する論考を見渡してみると,品詞分類を客 観的,通言語的枠組みとして明瞭に規定することはとても一筋縄ではいかず,分 類の基準,性格づけ,組み立てのどの側面をとっても,個別言語の類型的特徴に 大きく左右され,むしろ通言語的一般化を執拗に拒むようでさえある。こうした 通言語的事実を踏まえたとき,品詞分類というものを考え直す方向性として,ど のような可能性があるだろうか。ここでは,三つの可能性を示す。

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中山俊秀:はじめに 3

i)品詞分類はある類型タイプにしか当てはまらない

「品詞分類がない・不可能」とされる言語における問題は,主として,西欧 諸語などと同じ形態統語的な基準を用いた語の分類ができないこと(形態法 が乏しく基準として使えない;語の統語的自由度がかなり異なるなど)など に起因する。より一般的には,形態統語法などの形式的特徴に関して,すべ ての言語に画一的に適用できる分類・分析枠組みを作ることは可能か,とい う問題である。それがもし可能でないとすると,従来取られてきた形態統語 的品詞分類を言語普遍的な枠組みと考えることが難しくなる。したがって,

品詞分類は,ある類型的特徴(従来の品詞分類を支えてきた形態統語的特徴 群)をもつタイプの言語にのみ有効な枠組みと捉えられることになる。

ii)品詞分類のもっとも基本的な基準・基盤は形態統語的特徴ではない

品詞分類を何よりも人間言語に普遍な枠組みであるとするのであれば,上記 i)で触れた理由により,その基盤は形態統語法上の特徴におくことはできない。

それに代わって意味,概念構造,もしくはそのほかの言語形式以外の要因に おかざるを得ない。

iii)品詞分類はあくまで「方便」

上記i), ii)はともに,品詞分類を,言語の形式であれ,形式外要因であれ,

言語現象自体のあり方に基づいて捉えようとする考え方である。それに対し,

品詞分類を現象自体ではなく,現象の分析の中に意義づける捉え方も可能で ある。つまり,言語現象の中に規則性を浮かび上がらせ,説明づけ,体系付 けるのに有効な枠組みとして品詞分類を考えるのである。その場合,どのよ うな分類が分析上の目的に有効な枠組みであるかは研究・分析上の目的によ って異なるので,その意味で,品詞分類はある目的に沿った「方便」として の性格が強いといえる。もちろん,この「方便」としての品詞分類が言語現 象自体を形成する諸要因と無関係ではないであろうが,この立場では分析上 の要請と客観事実とを分けて考える。

この論集では,人間言語における品詞分類について結論を提示することではな く,むしろ議論の必要性を読者に感じ取っていただくことを目的としている。言 語分析や理論化の中で「言うまでもない」暗黙の前提とされてきた品詞分類の枠 組みについて問い直し考え直してみる,そのようなきっかけとなれば幸いである。

参照

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