[判例批評] フランスにおけるコミュニケーション の自由と法律の留保 : 憲法院一九九六年七月二三 日電気通信規制法違憲判決覚書
その他のタイトル Liberte de Communication et Reserve de loi en France
著者 村田 尚紀
雑誌名 關西大學法學論集
巻 48
号 2
ページ 273‑289
発行年 1998‑06‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00024503
一︑問題の所在ー電気通信規制法第一五条
目 次
一︑問題の所在ー電気通信規制法第一五条
二︑一九九六年七月二三日憲法院判決要旨
三︑フランス第五共和制憲法と法律の留保
四︑むすびー残された問題 フ
ラ ン ス に お け る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 自 由 と 法 律 の 留 保
村
一五
( l )
一九九六年七月二六日に成立したフランスのいわゆる電気通信規制法
(L oi n° 96
‑6 59 du 26 ju i l le t 1 99 6)
は︑
﹁郵
便および電気通信法
(C od de es Po st es et te le co mm un ic at io ns
﹂︑﹁郵便および電気通信の公的サービスの組織に関す)
る一九九0
年七月二日法
(L oi n° 09, 56 8 d
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田 │法院一九九六年七月二三日電気通信規制法違憲判決覚書││'
フランスにおけるコミュ
︿判 例批 評﹀
︵二 七三
︶
尚
紀
ニケーションの自由と法律の留保
テレマティク高等委員会は︑
ユーザーまたはオペレーターまたはサービス
1 1
プロバイダーもしくは専門家組織もしくはユーザー組織の請求に基づき︑第四三条一号に掲げるサービスによる前項の勧告の遵守に関して答申を 行う機関を内部に置く︒答申は利害関係人に通知する︒テレマティク高等委員会が当該サービスによる勧告違反
を認定する場合︑答申はフランス共和国官報に掲載されなければならない︒ フランス共和国官報に掲載する︒ 用者
( c l i e n t s )
に提供しなければならない﹂︒ ビスを提供する活動を行う者は︑ 右の電気通信法第一五条は︑
( 2 )
ることを規定していた︒
︑ ユ ニ ケ ー シ ョ ン の 自 由 に 関 す る 一 九 八 六 年 九 月
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二三日の憲法院の一部違憲判決を受けて︑第一五条の一部が削除されている︒
﹁第四三ー一条
﹁第四三ーニ条
︵二 七四
︶ 一九八六年法に次のような第四三ー一条および第四三ーニ条︑第四三ー三条を追加す
第四三条一号に掲げる一または複数の放送メディアコミュニケーションサービスヘの接続サー
一定のサービスヘのアクセスを制限または選択できる技術的手段をサービス利 放送メディア高等評議会
( Co n s ei l
Su
pe
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r d e J ' Au d i ov i s ue l ) に附置するテレマティク高等 委 員 会 ( l e
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r d e l a t e l em a t iq u e )
関 法 第 四 八 巻 第 二 号
は︑第四︱︱一条一号に掲げる放送メディアコミュニケーション サービスが当該サービスの性質に適合的な倫理規定
( r e g l e s
de
on
to
lo
gi
qu es ) を尊重するよう適切な勧告を作成 する責を負う︒放送メディア高等評議会は︑テレマティク高等委員会の提案に基づき︑勧告を採択する︒勧告は
一五
の限 りで ない
﹂︒
前項に掲げる者は︑テレマティク高等委員会に対して︑前項に掲げるサービスに関する不服申立てを行うこと ができる︒テレマティク高等委員会が︑不服申立てまたは答申の請求の後︑刑事訴追を相当とする性質の事実を 認定する場合︑放送メディア高等評議会議長は︑テレマティク高等委員会の提案に基づき︑共和国検事に遅滞な
﹁第四三ー三条
︵第 四項 以下 略︶
﹂︒ 第四三ー一条に掲げる業者は︑放送メディアコミュニケーションサービスの頒布するメッセー ジの内容の結果生じる犯罪に関して刑事責任を負わない︒但し︑第四三ー一条に掲げる業者が第四一ニー一条の定 めに違反した場合︑または第四三ーニ条の適用により官報に掲載された勧告違反と答申されたサービスヘのアク セスを提供した場合︑または事情を知りながら犯罪を行いもしくは犯罪に加担したことが立証される場合は︑右 電気通信規制法第一五条はインターネットによるコミュニケーションに一定の規制を行うことを目的とする規定で
ある︒フランスは今のところインターネット後進国であるが︑ここでも各国でインターネットがもたらしている新た な問題が現実に生じており︑法的対応が模索されてきた︒同条は︑その最初の立法的対応の試みであった︒
第四三ー一条は︑たとえば暴力的な情報コンテントやポルノグラフィックなそれ︑人種差別的なそれ︵アンチセミ
( 3 )
ストまたはレヴィジョニスト︑ネガショニストの主張など︶が未成年者の眼に触れないように︑フィルタリング"ソ フトをユーザーに提供することをアクセス
1 1
プロバイダーに義務づける︒第四︱ニーニ条第一項は︑インターネットによるコミュニケーションに関する倫理規定を定め︑
ダーなどがそれを遵守するよう勧告する権限を独立行政機関
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)
フランスにおけるコミュニケーションの自由と法律の留保
くこれを通知しなければならない
一 五 一 ︱
︱
アクセス
1 1
プロバイ︵二 七五
︶
である放送メ
ディア高等評議会に与え︑第二項以下は︑勧告違反の疑いのあるサービスに対する審査と不服申立ての手続を定めて
いた︒当該倫理規定やそれに関する勧告を実質的に決定するのは︑放送メディア高等評議会に附置されるテレマティ
ク高等委員会であり︑勧告違反の疑いのあるサービスに対する審査を行い︑不服申立てを受け付けるのも同委員会と
第四三ー三条は︑
している場合︑ アクセス
1 1
プロバイダーが第四三ー一条に定められるフィルタリング1 1
ソフトの提供義務を履行アクセスサービスによって違法な情報コンテントをユーザーに提供することになっても︑但し書きの
電気通信規制法第一五条は︑未成年者の保護を親の権限とする民法第三七一ーニニ条を前提に︑インターネット上
の違法・有害な情報からの未成年者の保護をユーザーの判断に委ね︑アクセス
1 1
プロバイダーにフィルタリングやプロッキングを義務づける方式を斥けているとみられる︒これによって情報の流通そのものが保障され︑情報コンテン
トに対して中立の立場であるアクセス
1 1
プロバイダーとしては︑単に仲介するにすぎない違法・有害情報に関して刑事責任を免除されることになったとみられる︒
インターネットの発展・普及の促進とユーザーの権利保護という二つの目的は︑抽象的には︑大方の異論なく是認
されると思われる︒しかし︑インターネットの技術的性格から︑この二つの目的を同時に法的に確保することはきわ
めて困難であり︑電気通信規制法第一五条の規制消極主義ともいえる立場は︑違法または有害な情報への立法的対応
( 4 )
に固執する場合の必然的な落とし所ともいえる︒
しかしながら︑かりに違法・有害な情報への立法的対応を是とするにしても︑右の条項にはさまざまな問題があっ 場合を除いて︑刑事責任を免じる規定であった︒ されていた︒
関 法 第 四 八 巻 第 二 号
フィルタリング
1 1
ソフトの提供だけを義務づけられ︑一五 四
二七
六︶
第四︱︱︱ー一条については︑アクセス
1 1
プロバイダーの定義がきわめて広く︑たとえばサーバーを設置管理する大学もこれに該当することになるが︑大学のサーバーを利用する者に未成年者はいないであろう︒また︑
( 5 )
グ"ソフトの有効性も問題である︒
とくに第四三ーニ条と第四三ー三条には憲法上問題があった︒すなわち︑コミュニケーションの自由の規制に関す
る倫理規定を制定し勧告を行う権限が独立行政機関である放送メディア高等評議会に与えられるにもかかわらず︑法
律の文言からは︑同評議会やそれに附置されるはずであったテレマティク高等委員会の権限の範囲が明らかではな
縮しかねず︑ かった︒これによって︑アクセス
1 1
プロバイダーやサービス1 1
プロバイダー︑コンテント1 1
プロバイダーの活動は萎( 6 )
コミュニケーションの自由︑情報の多元性が侵されるおそれが強いと考えられたのである︒
かくして電気通信規制法は︑元老院議員によって︑憲法院に提訴されることになった︒
提訴権者は︑電気通信規制法第一五条により導入された一九八六年法第四三ーニ条︑第四一︱︱ー三条について︑以下
( 7 )
のように違憲論を展開していた︒ こ ︒t
﹁放送メディア高等評議会による倫理規定の制定は︑公的自由の行使に関して市民に与えられた基本的な保障に
関する規定を定める立法府の排他的な権限に対する侵害となる︒とくに法律は︑そのような権限を︑当該倫理規
定の明確な適用範囲を示すことなく︑行政機関に委任することはできない﹂︒
フランスにおけるコミュニケーションの自由と法律の留保
二 ︑
一九九六年七月二三日憲法院判決要旨
一五 五
︵二 七七
︶
フィルタリン
使を︑技術およびその管理の現状に照らし︑
﹁コミュニケーションの自由が問題となる場合︑人および市民の権利宣言第一一条の帰結としてのこの自由の行 い ﹂ ︒
一九九六年七月二三日判決において︑問題の第四三ーニ条および第四三ー三条を違憲と判断した︒その
( 8 )
理由は︑次のようである︒
﹁憲法第三四条の文言によれば︑法律は市民の権利および公的自由の行使のために市民に与えられた基本的保障 に関する規範を定める︒憲法上保障された権利および自由の保護の確保は立法府の権限である︒立法府がこの保
護を命令権に委任することができるにしても︑立法府自身が必要な保護の性質について決定しなければならな 憲
院法
は︑
れた
こと
にな
る﹂
︒
︵二 七八
︶
﹁公的自由に関係する領域に介入する委員会の構成とそこにおける手続とを定めるのは立法府の権限である﹂︒
﹁テレマティクサービスによる勧告の遵守に関する答申の採択の手続は多くの憲法規定に反する︒︵⁝⁝︶機関
︵テレマティク高等委員会︶内に創設される機関が︑いずれも法律によって構成が定められていないにもかかわ らず︑結果的に刑事訴追を引き起こす可能性のある答申を行うことを求められるのである︒テレマティク高等委
員会は︑刑罰法規を解釈する権限と間接的に刑事訴追を行う権限を与えられ︑刑事裁判官はこの解釈に縛られ
﹁テレマティク高等委貝会が勧告違反と答申し︑結果として刑事制裁に繋がる場合︑内容が︿不明確で要するに
認識できない﹀倫理規定に反したという理由で当該答申が行われたことになるのだから︑罪刑法定主義が蹂躙さ る ﹂ ︒
関 法 第 四 八 巻 第 二 号
一方で当該コミュニケーション手段に固有の技術的制約と調整し︑
一五
六
なら
ない
﹂︒
三 ︑ フ ラ ン ス 第 五 共 和 制 憲 法 と 法 律 の 留 保
﹁本
法は
︑
一五
七 一九八六年九月三0日法に挿 他方で公的秩序の保護および他人の自由の尊重および社会文化的表現の多元性の保護という憲法的価値を持つ目
一定の放送メディアコミュニケーションサービスによる倫理規定の尊重を確保するために適切な勧告
を作成し︑⁝⁝放送メディア高等評議会に採択を提案する任務をテレマティク高等委員会に与えているが︑刑罰
をもたらす可能性のある答申がこの勧告に照らして出されうるにもかかわらず︑勧告の決定には一九八六年九月
︱ ︱ 1 0
日法第一条に由来するきわめて一般的な制限以外にいかなる制限も定められていない﹂︒
﹁かくして立法府は︑憲法第三四条の権限の性質を理解しなかった︒したがって︑
入される第四三ーニ条第一項の規定は憲法に反するものとみなさなければならない︒第四三ーニ条の他の規定お
よび第四三ー三条の規定は︑いずれにしても︑第四三ーニ条第一項と不可分である︒したがって︑第一五条によ
り一九八六年九月三0日法に挿入される第四三ーニ条および第四三ー三条は憲法に反するものと宣言しなければ
すでに問題の所在は明らかになっていると思われるが︑若干パラフレーズすると︑
フラ
ンス
にお
ける
コミ
ュニ
ケー
ショ
ンの
自由
と法
律の
留保
的と調整することは立法府の権限である﹂︒
フランス第五共和制憲法上の法
律事項の範囲︑いわゆる独立行政機関の合憲性︑そして独立行政機関に法律事項の規制を授権することの合憲性が︑
一九八六年九月三0日法第四三ーニ条第一項となるはずであった規定の憲法上の問題であった︒
︵ ︱ ‑ 七 九 ︶
る ︒ したオルドナンスは︑法律によらなければ改正できない︒ 務員の基本的保障︑国有化など
一定の期間につき︑通常において法律の所管事項に
︵第
四項
︶︑
財政
法︵
第五
項︶
︑経
済法
︵第
六項
︶が
挙げ
まず法律事項に関するフランス第五共和制憲法の規範構造をごく簡単に確認しておく︒
︵二
八
0)
同憲法第三四条は︑第一項で法律が国会によって表決されることを定め︑第二項以下に法律事項を列挙している︒
その法律事項としては︑公的自由の保障︑国防上の義務︑刑罰・刑事訴訟手続︑租税など︵第二項︶︑選挙制度︑公
︵第三項︶︑国防の一般組織︑地方公共団体の自由な行政︑教育︑所有権・物権・民
法上および商法上の債務の制度︑勤労の権利︑社会保障など
られている︒第三四条を受けて︑第三七条は︑法律の所管事項以外の事項は命令の性質をもつと規定している︒
さらに憲法第三八条は︑﹁政府は︑その綱領の実施のために︑
属する措置をオルドナンスにより定めることの承認を国会に求めることができる﹂と規定する︒いったん有効に成立
みられるように︑第五共和制憲法上︑法律事項が限定列挙され︑その反面で形式的命令概念が導入され︑法律によ
る命令事項の規制には政府が法案の不受理をもって対抗できることになっている︵第四一条︶︒さらに法律に留保さ
れた事項もけっして不可侵ではなく︑政府はオルドナンスによって規制することができることになっているわけであ
( 9 )
以上は︑第五共和制憲法が典型的な行政国家型憲法といわれるゆえんの一端であるが︑ここでは︑法律事項の限定
列挙は︑立法府に対する制約となっているにしても︑論理的には法律留保事項に関して立法府の優位が保障されるの
( 1 0 )
みならず︑立法府がそれを他の機関に譲渡することが制約されることをも意味し︑その例外としてオルドナンスとい いフランス第五共和制憲法における法律事項
関 法 第 四 八 巻 第 二 号
一五 八
フラ
ンス
にお
ける
コミ
ュニ
ケー
ショ
ンの
自由
と法
律の
留保
の維持を目的とする監督機関が置かれている︒ う法形式が認められているといえることが重要である︒
独立行政機関の法的性格
一五 九
2 独立行政機関とは︑主として行政の監督を行う︑政府から一定の独立性が保障された行政機関のことで︑﹁言葉自
( 1 1 )
︵
1 2 )
体が矛盾をなす﹂﹁ヘーゲル的﹂制度であり︑厳密な定義は困難である︒法人格はなく︑国家装置に統合されてはい
るが︑政府機関の監督権の支配を受けない︒独立行政機関が規範制定権を与えられている場合︑その決定は行政裁判
によるコントロールを受ける︒公的自由の保障や行政と国民の関係の監督が独立行政機関の所管と考えられる︒この
( 1 3 )
ような独立行政機関がフランスで目立った存在になるのは一九七0年代後半からで︑具体的には︑主に次の三つの分
第一は︑民主主義の基盤をなすコミュニケーション・情報の分野である︒この分野においては︑コミュニケーショ
ンのプロセスを政治権力の圧力や新たな技術発展によって生じうる混乱から保護するために︑世論調査委員会
( 1 4 )
(C om mi si on e d s so
nd
ag
es
)︑情報処理と自由に関する全国委員会
(C om mi ss io n a n t io n a le de l' i n f o r m a t i q u e e t
de
s
( 1 5 )
l i b e r t e s
"
CN IL
)︑コミュニケーションと自由に関する全国委員会
(C om mi ss io n a n t io n a le de la
co
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un
ic
at
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de
s l i b e r t e s
1 1
CN CL
)︑放送メディア高等評議会などが置かれている︒
第二は︑市場経済の分野である︒この分野には︑証券取引委員会
(C om mi ss io d n
es
o p e r at i o ns de bou
rs
e)
や不当
条項委員会
(C om mi ss io d n
es
c l a u se s ab u s iv e
s )︑競争評議会
( Co n s ei l de l a conc
ur
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e)
など公正な市場経済秩序 野で監督機関として設けられている︒
︵二
八一
︶
第一二は︑日常的な行政活動の監督の分野である︒この分野には︑共和国行政斡旋官
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︑
行政文書開示請求審査委員会
(C om mi ss io d ' n a cc e s a
ux o d cu me nt s a d m i n i s t r i f a t s )
があ
る︒
独立行政機関は︑①国家的規制に対する不信︵とくに放送行政や市場規制に関して︶②政治的代表の限界︑③右 の各分野の要請に伝統的な権力的行政手法がなじまないこと︑などの理由から正当化される︒
しかしながら︑独立行政機関は︑第五共和制憲法上明文の根拠をもたない︒それどころか︑第五共和制憲法第二〇 条は︑﹁政府は国政を決定し指導する﹂︵第一項︶︑﹁政府は行政各部および軍隊を指揮・監督する﹂︵第二項︶︑﹁政府
は第四九条および第五0
条に定める要件および手続に従って国会に対し責任を負う﹂︵第三項︶と定め︑第ニ︱条第 一項は﹁首相は政府の活動を指導する︒首相は国防に責めを負う︒首相は法律の執行を確保する︒第一三条の規定
[大
統領
の権
]限
︵二 八二
︶ の留保の下に︑首相は命令権を行使し︑文官および武官を任命する﹂と定めている︒したがって︑
独立行政機関は首相による行政の統括を受けない機関として憲法違反の疑いがある︒また︑民主的正統性をもたない 機関が実質的な権力を行使することは︑国民主権の原理に抵触するとの指摘もありうる︒命令権と不服審査の権限を 併せもつような独立行政機関の場合には︑権力分立原則との抵触も指摘されうる︒
( 1 6 )
独立行政機関の憲法上の意味をめぐっては︑すでに相当の議論が行われている︒憲法院は︑放送メディア高等評議
( 1 7 )
会の合憲性が問われた一九八九年一月一七日判決で︑次のように判断を示している︒﹁これらの規定[第五共和制憲 法第ニ‑条]は︑大統領に与えられた権限を除き︑国家レベルの命令権の行使を首相に与えている︒法律を執行する 規範の制定を立法府が首相以外の国家機関に与えることをこれらの憲法の規定が妨げないとしても︑それは当該授権 が適用の範囲においても内容においても限定された措置に関するにすぎない場合に許される﹂︒
関 法 第 四 八 巻 第 二 号
一六
〇
の広汎性を理由に違憲と判断した︒ までもなく別の憲法問題である︒
一六
すなわち︑憲法院は︑独立行政機関に関する憲法の沈黙の意味について︑第ニ一条が独立行政機関を禁止していな
いと解釈し︑法律を執行する規範の制定に関して所管事項の範囲が明確に限定されていれば︑独立行政機関は憲法に
( 1 8 )
反しないという原則論を示したのである︒
( 1 9 )
この判断は︑その後も基本的に維持されている︒独立行政機関が憲法第ニ︱条と両立する
( co m p at i b le )
機関だと
いえるにしても︑憲法の基本原理との整合性
( co n f or m i te )
が説明し尽くされるわけではない︒権力分立原理との関
係では︑独立行政機関を対抗権力
( co n t re ‑ p ou v o ir )
として積極的に位置づけ︑その意味で自由主義的な権力分立原
理と整合するとみる議論もあるが︑憲法院は︑むしろ伝統的な三権分立論に依拠し︑独立行政機関の行政機関として
の性格を強調して︑行政裁判によるコントロールを認め︑独立行政機関の規範制定権が法律や首相の命令に従属する
( 2 0 )
もの
とし
た︒
独立行政機関への﹁立法﹂の委任
独立行政機関が憲法解釈上容認できるとしても︑これに法律事項の規制を授権することが許されるか否かは︑いう
本件で提訴権者は︑
c a t i o n s )
やはり独立行政機関である電気通信規制機関
( Au t o ri t e de re g u la t i on
de
s t el ec om mu ni
,
への授権と放送メディア高等評議会・テレマティク高等委員会への授権を争ったが︑憲法院は︑従来の判
断枠組みに基づき︑前者に関して当該授権規定が明確であるとして違憲の訴えを斥け︑後者に関して授権規定の過度
フラ
ンス
にお
ける
コミ
ュニ
ケー
ショ
ンの
自由
と法
律の
留保
︵二 八三
︶
第二に︑憲法院は︑本判決でも︑ 価が与えられるであろうと思われる︒
︵二 八四
︶
まず注目されるのは︑テレマティク高等委員会の提案に基づいて放送メディア高等評議会が採択することとされて
いたのは︑命令ではなく︑勧告であるにもかかわらず︑憲法院は︑独立行政機関に対する命令権の授権に関する従来
の判断枠組みをこれに適用した点である︒憲法院は︑間接的にせよ︑勧告違反が刑事制裁に結びつく可能性があるこ
とに着目し︑勧告権の授権にも命令権の授権の場合と同程度の授権事項の明確性を要求したのである︒法的制裁とリ
ンクしない勧告権の場合にどうなるかは本判決から窺い知れないが︑少なくとも右の点に関しては︑一定の積極的評
一七八九年人権宣言第一一条によって保障されているコミュニケーションの自由
の規制は︑技術的な理由によるほか︑他の憲法的価値との調整という理由に基づかなければならないとし︑そのよう
な規制は立法府の権限であることを確認している︒憲法院は︑本件の勧告権が一九八六年九月三0日法第一条の規定
する一般的な制約しか受けないことに着目し︑これが立法権を侵害すると判断した︒すでに憲法院は︑多くの判決に
おいて︑公的自由とりわけコミュニケーションの自由の保障の規定に関しては︑独立行政機関が立法府の権限を尊重
( 2 1 )
しなければならないことを述べている︒本判決も︑この判例の流れに属するものである︒
第一ー一に注目されるのは︑独立行政機関に対する立法事項の規制の授権そのものの合憲性が問題になっていないこと
である︒これは︑憲法院の判例上すでに決着済みと考えられているからである︒
関 法 第 四 八 巻 第 二 号
一般にコミュニケーションの自由の
規制に関しては︑行政機関がそれを扱う危うさと立法府が扱う危うさの両方が問題になる︒立法府においてもコミュ
ニケーションの自由が政治的圧力に曝される危険があるからこそ︑その規制を独立行政機関に扱わせる必要性が正当
化されるのである︒憲法院は︑このようにコミュニケーションの自由にかかわる独立行政機関の存在理由を認めつつ︑
一 六
ンターネット規制立法に対する憲法院の最初の判断としては充分注目に値するであろう︒
一九九七年六月二六日のアメリカ連邦最高裁のいわゆる通信品位法違憲判涎とともに︑
フラ
ンス
にお
ける
コミ
ュニ
ケー
ショ
ンの
自由
と法
律の
留保
本判
決は
︑
電気通信規制法第一五条は︑ 行政機関による規制の危うさも認め︑不明確な授権を非とする判例を形成してきた︒そのため提訴権者も委任の明確
しかしながら︑すでにみたように︑立法府はフランス第五共和制憲法第三四条に列挙された法律事項を他の国家機
関に委任することが制約されており︑その法律事項に関して行政が規範を制定する場合については︑オルドナンスと
( 2 2 )
いう法形式によるべきことが第三八条に明記されている︒とくに︑本件では﹁他の自由の条件﹂と位置づけられるこ
ともあるコミュニケーションの自由の規制という法律事項の独立行政機関への委任が問題であった︒憲法が明文上予
定していない行政機関が︑憲法が予定していない方法によってとりわけ重要な法律事項を規制する規範を制定すると
いう問題は︑なお完全にクリアできていないように思われる︒仮にその点はさておくとしても︑このような授権の際
に法律は何についてどの程度明確に定める必要があるのかはなお充分明らかになっていないうらみがあるといえよう︒
四
︑ む す び ー 残 さ れ た 問 題
最後に本判決の意義と残された問題について簡単に論じておく︒ 性しか争っていないのである︒
一 六
一九九六年六月六日︑法案審議の途中︑政府の提案によって突如追加された条文で︑
( 2 3 )
本件違憲判決が出される前から︑不備が指摘されていた︒また︑憲法院のこれまでの判例に照らせば︑極端に曖昧な
本件の規定を合憲とすることは不可能に近く︑その意味でも判決そのものは当然であり平凡であるともいえるが︑イ
フランスにおけ
︵二 八五
︶
るインターネットの法的規制を今後一定程度方向づけることになるであろうと思われる︒
一九八六年九月三0日法第四三ーニ条第一項となることが予定されていた条文をその授権規範としての
曖昧さを理由に違憲と判断し︑さらに第四三ーニ条第一項を前提とする他の規定については︑同項との関連性を理由
に違憲と判断したにすぎない︒残された問題は少なくないであろう︒
憲法院が述べるように法律事項に関して﹁立法府が必要な保護の性質について決定しなければならない﹂としても︑
どの程度の決定をする必要があるのかは︑困難な問題である︒とくに倫理の尊重を目的としてコミュニケーションの
自由の規制を行うことは︑倫理の内容そのものに不確定要素が含まれざるをえず︑明確に規定することは困難を極め
るであろう︒﹁青少年保護は︑表現の自由と両立しない権威主義の口実になる﹂︑﹁未成年者保護は︑もはや道徳とし
( 2 5 )
て認められなくなった道徳なるものを押し付ける都合のよい口実となりやすい﹂という懸念を解消することは難しい
であろう︒そもそも既存の法律についても︑たとえば刑法第二二七ーニ四条に対しては﹁過度に漠然﹂としたものだ
( 2 6 )
という多くの法曹の批判がすでにある︒
そのうえ︑第四三ーニ条第一項を前提にしていた他の規定のように独立行政機関にサンクションの権限を与える場
合の問題として︑たとえば法的拘束力を持たない勧告をサンクションすることの妥当性をはじめ種々の問題があると
思わ
れる
︒
(1
) 全文 は︑
J .
0 .
27
j u i l
l e t
1 9 9 6
, p p
1 1 3 8 4 ' 1 1 3 9 7 .
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e t s .
(2
)
C f .
J .
0 .
S en a
t , D
e ba t
s ,
1 9 9 6 , p p . 3 4 1 6 , 3 4 1 7 .
(3
)
フラ
ンス
では
︑活
字メ
ディ
アに
関し
て︑
犯罪
への
誘惑
や道
徳的
退廃
︑ポ
ルノ
グラ
フィ
ー︑
差別
︑人
種的
憎悪
から
未成
年者
を保護するため︑未成年者向け出版物の規制や未成年者にとって危険と考えられる出版物一般の規制が法的に認められてい
本判
決は
︑ 関
法 第 四 八 巻 第 二 号
一六 四
︵二 八六
︶
フランスにおけるコミュニケーションの自由と法律の留保
一六
五
る(-九四九年七月一六日法第二条•第一四条、一九六七年一月四日法、一九八七年―二月三一日法)。放送メディアに関
しては︑放送メディア高等評議会︑ミニテルに代表されるテレマティクに関しては︑テレマティク高等評議会がそれぞれ︑
人間人格や人間の尊厳の尊重︑未成年者の保護という目的から勧告する権限などを持つ︒また未成年者保護に関しては︑刑
法の規定もある︒たとえば最も一般的な刑法第二二七ーニ四条は︑暴力的またはポルノグラフィックなメッセージ︑人間の
尊 厳 に 重 大 な 侵 害 を 加 え る メ ッ セ ー ジ が 未 成 年 者 の 目 に 触 れ る お そ れ が あ る 場 合 に 処 罰 す る 規 定 で あ る
︒
C f . D e m n a r d , T e l l i e r ( s
o u s l a d i r e c t i o n )
L e m ,
u l t i m e d i a e l e t d r o i t , 1 9 9 6 , p . 5 4 1 e t s .
(4
)
コンセイユ
1 1
デタ調査官のピエロタンを座長とする委員会は︑電気通信規制法に先立って一九九六年三月一六日から三ヶ月間おこなった調査・研究に基づいて一九九七年春発表した報告書の中で︑同法第一五条的な規制方式を推奨している︒ま
た︑アクセス
1 1
プロバイダーが単にアクセスを仲介するにすぎない情報コンテントに関して責任を負わないという点については︑在フランスユダヤ人学生同盟が人種差別的・レヴィジョニスト的・ネガショニスト的な情報のインターネット上の流
通を差し止めるべくアクセス
1 1
プロバイダー会社一︱社を相手取って起こした民事訴訟で示されたパリ大審裁判所の判断が先取り的である︒以上について︑参照︑拙稿﹁フランスにおけるインターネット規制の法的問題憲法学的考察﹂亀田健
二他﹃情報行政問題研究I﹄︵関西大学経済・政治研究所︑一九九八年︶︒
(5
)
C f . V a l e r i e S e d a l l i a n , r D o i t d e ! ' i n t e r n e t , 1 9 9 7 , p . 1 3 8 .
また︑参照︑前掲・拙稿︒
(6
)
そのほかに︑たとえば︑放送メディア高等評議会がオーディオヴィジュアルな放送とはまったく別のオンライン
1 1
サービスという領域の問題を扱うことに対する疑問︑インターネットに関するミニマムの社会的倫理なるものの存在に関する疑問︑
国境を超えるインターネットの情報を一国レベルで規制することの有効性に関する疑問などがただちに指摘される︒
C f ・ T r i b . g r . i n s t . P a r i s , 1 2 j u i n 1 9 9 6 , e L s p e t i t e s a f f i c h e s 1 9 9 6 , n
° 8 3 , p . 2 7 ( n o t e e H r b e r t M a i s l ) .
(7
)
Cf•
D e c i s i o n n ° 9 6 , 3 7 8 D C
d u
2 3 j u i l l e t 1 9 9 6 , e R c .
p p
. 1 0 4 , 1 0 5 .
(8
)
I b i d . , p 1 0 . 5 .
(9
)
これら憲法の規定が現実にどのように運用されてきたかは︑別の問題であることはいうまでもない︒この点と以上につい
て︑詳しくは︑拙著﹃委任立法の研究﹄︵日本評論社︑一九九0年︶五0
八頁 以下
︒ ( 1 0 )
この点を強調する最近の見解として︑
T r e m e a u ,
La
r e s e r v e d e l o i , 1 9 9 7 .
﹁憲法の適用が⁝⁝立法権を保護してきた﹂
︵二
八七
︶