自己契約・双方代理の判断基準について : 民法一
〇八条の改正を契機として
著者 佐々木 典子
雑誌名 同志社法學
巻 68
号 7
ページ 2359‑2464
発行年 2017‑02‑28
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000125
( )自己契約・双方代理の判断基準について同志社法学 六八巻七号二一一二三五九
自 己 契 約 ・ 双 方 代 理 の 判 断 基 準 に つ い て
――民法一〇八条の改正を契機として――
佐 々 木 典 子
一 はじめに 一 ﹁
民法の一部を改正する法律案﹂(以下、﹁法案﹂とする。)によれば、現行民法一〇八条(以下、条文のみをあげる場合には、原則として、現行民法の規定を示すことにする。)についても改正が予定されている。
規定の文言における法案一〇八条の現行法との相違としては、
、、相反行為一般についても第利二項として規定したこと益、なでく
()
形己契約・双方代理の自式でされた代理行為だけな、合いるが、利益相反行為一般の場にしみれさと外例がのは諾許の人本、て持理方を法行現はに合場の維代
2)
外を規に定する但書例ついては、自己約・双契。か文の規定がおれうたことである明い権いすなみと理代と無、て
3)
つに果効( )同志社法学 六八巻七号二一二自己契約・双方代理の判断基準について二三六〇
二 本稿では、前述の変更点の
()
論す討検てしと心中を件の要の条八〇一、分部る)(
(。すなわち、法案一〇八条の審議過程においても参照された )2
(ヨーロッパ契約法原則によると、その三:二〇五条で、自己契約・双方代理は、利益相反を推定するものとして規定され
)3
(、ヨーロッパ私法参照枠草案(DCFR)
Ⅱ
- 六:一〇九条
)4
(でも、利益衝突が推定される場合として、双方代理及び自己契約があげられており、自己契約・双方代理は、利益相反行為を徴表する類型として関係づけられている
)5
(。
これに対して、法案一〇八条では、両者が並列されており、改正の経過をみても、自己契約・双方代理のみについて規定するか、利益相反行為一般のみについて規定するかという二者択一の提案がなされていた
)6
(が、中間試案
)7
(では並列的に規定されることになり、法案一〇八条でも、︱文言等の変更はあるにせよ︱、この点は維持されている。そして、要綱案の解説によれば、法案一〇八条第二項の﹁利益相反﹂は、第一項の﹁自己契約・双方代理﹂以外の法律行為で利益相反行為に該当するものを規定したものと説明されている。しかも、要綱案の解説は、その判断基準として、民法八二六条における﹁利益相反行為﹂の判断基準として判例・通説が採用してきた外形説・客観説をとるとする )(
(。確かに、こうした審議過程の議論は、現行民法一〇八条で規定する﹁自己契約・双方代理﹂も、民法八二六条、八六〇条等で規定される﹁利益相反﹂ )9
(も同じ趣旨の規定である )(₀
(との理解を前提とするものであろう。
ところで、ヨーロッパ契約法原則三:二〇五条は、本人が契約を取り消すことができる場合として、(一)で、代理人の利益相反状態だけでなく、相手方による利益相反状態の認識可能性を要するとし )((
(、ヨーロッパ私法参照枠草案も、同様に、その
Ⅱ
- 六:一〇九条の(一)で、第三者が認識していたか、または、認識していたと合理的に期待しうる利益衝突に代理人があるときに、本人が行為を取り消してよいと規定している。これに対して、法案一〇八条第二項では、本人は当該法律行為が﹁利益相反﹂行為であることを主張・立証するだけで、自己への効果不帰属を導けることになる。
( )自己契約・双方代理の判断基準について同志社法学 六八巻七号二一三二三六一 確かに、第二項の﹁利益相反行為﹂の判断基準は、判例によって確立されている法定代理における﹁利益相反﹂行為の判断基準である外形説に従うと解説され )(₂
(ている。そして、外形説に従うということは、利益相反性についての相手方の認識(可能性)と同視することができるとして、法案一〇八条第二項は、ヨーロッパ契約法原則及びヨーロッパ私法参照枠草案における利益相反に関する規定と同様の判断基準であるということになるのであろうか。しかしながら、﹁利益相反﹂行為の判断は、自己契約・双方代理に比べて、実質的判断という色彩を帯びやすいとされており )((
(、﹁自己契約・双方代理﹂という形式に従った判断と比較すると、判断基準の不明確さをもたらすことにならないであろう )(₄
(か )(₅
(。
三 日本民法一〇八条と類似の規定をもち、日本民法一〇八条の起草に際しても依拠されたドイツ民法一八一条 )(₆
(の立法過程の議論をみると、そこでは、本人の保護と取引の安全の調整弁として、意識的に﹁自己契約・双方代理﹂という行為の形式による規制を採用しており )(₇
(、さらに、本人保護と取引保護という、二つの、ある意味では相互に矛盾する要請の調整という観点は )(₈
(、民法典成立以後のこの規定の縮小、拡大(類推)解釈に際しても、念頭におかれているようである。例えば、代理人が第三者を仲介者として選任し、その者と法律行為をする場合に、通説・判例は、一定の要件のもとに一八一条の類推適用を認めており )((
(、学説の中には、代理人が自己の債務のために本人を代理して保証契約等担保権を設定する契約を締結する場合についても、一八一条の類推適用を認めるものがある )₂₀
(。
こうしたドイツ民法の判例・学説における議論は、日本民法一〇八条の﹁自己契約・双方代理﹂の判断基準、特に、法案一〇八条第一項のみならず、むしろ、第二項の判断基準としても参考になる。何故なら、規定の体裁からすれば、法案一〇八条第二項は、第一項に準じて解釈されるべき関係にあること、第一項に該当しない行為について第二項で判断するという法案一〇八条の審議過程での解説 )₂(
(からしても、ドイツ民法一八一条の類推適用の判断基準を参考にするこ
( )同志社法学 六八巻七号二一四自己契約・双方代理の判断基準について二三六二
とができると思われる。特に、法案一〇八条の審議過程でも、﹁利益相反﹂概念の曖昧さ )₂₂
(が指摘されていることからしても、本人保護と取引保護との調整を明確に意識したうえで一八一条の(類推)適用の可否を検討しているドイツ民法の議論は、法案一〇八条の解釈に関しても、一定の判断基準を示唆するものとなるはずである )₂(
(。
四 そこで、本稿では、まず、日本民法一〇八条の意義に関する、民法典起草過程及びその後の学説を検討した(二)後、法案一〇八条の審議過程をみる(三)。さらに、法案で指摘されている、法案一〇八条第二項の判断基準とされた、外形説に関して、八二六条、八六〇条の﹁利益相反﹂行為の起草趣旨、及び、外形説に関する判例をみる(四)。その後、ドイツ民法一八一条の制定過程及びその後の判例・学説について、特に、﹁自己契約・双方代理﹂の判断基準に関して検討し、民法一八一条の意義が、代理人という一人の人格における本人代理人間の利益衝突の危険性を回避することを通しての本人保護にあり、それは、代理制度の根幹をなす代理人の中立的(本人の利益保護を考慮した)意思形成の確保にあること、そして、一八一条適用の際には、代理人における法律行為の両当事者の人格的同一性という要件に依拠して判断されており、類推適用の際にも、代理人が法律行為の相手方として共働していることが基準とされていることを明らかにする(五)。そして、最後に、ドイツ民法の検討に依拠して、日本民法一〇八条︱法案一〇八条も念頭において︱の﹁自己契約・双方代理﹂の判断基準を考察する(六) )₂₄
(。
(
。の当性を判断る際、本文す意係義るくてし関も解理の る、。)。また履何故、﹁債務のてい八れさ討検を否可の用適の条﹂〇一行とが解該の﹂行履の例債、﹁はいるあ、務理るの外さていれのかということ 本七六六頁以下は、づ人の許諾と関連けて社)山﹂のが要必るすも討検係る関のと信諾許の人あ(﹁総、年四一〇二﹄(則法石民⑴系大法民﹃穣田本 (一で双・約契己自﹁の文本、るあ論〇件要、は代てし関に正改の条八方) 理ず﹂、行履の務債﹁るあで定外例、ま﹂検の判断基準を討、するにしても規
( )自己契約・双方代理の判断基準について同志社法学 六八巻七号二一五二三六三 次に、法案一〇八条との関係でいえば、現行民法の判例法理を採用して、法案一〇八条では、一〇八条違反の効果を無権代理とする規定となっている(民法(債権関係)部会資料六六A︹要綱案のたたき台⑴︺一九頁、潮見佳男﹃民法(債権関係)改正法案の概要﹄(二〇一五年、きんざい)二〇頁以下)が、これにより、一一三条以下の(表見代理の規定も含めた)無権代理に関する規定の適用が意図されているのかということの検討も必要である。さらに、例えば、民法(債権法)改正検討委員会編﹃詳解・債権法改正の基本方針Ⅰ︱序論・総則﹄(二〇〇九年、商事法務)(以下、﹃基本方針﹄とのみ引用する。)二二七頁でも示されていたように、一〇八条を忠実義務違反と捉える見解が最近では多い。ただ、忠実義務は代理人本人間の内部的義務であるが、法案は、一〇八条違反の効果を無権代理としている。法案自身、あるいは、その解説は、代理人の忠実義務について言及していないが、無権代理という効果の根拠が忠実義務違反であると解するとするならば、本人代理人間の内部的な義務である忠実義務の違反で、何故、外部関係における代理権の範囲の制限となるのかということの検討も必要である。前掲﹃基本方針﹄二三四頁も、利益相反行為はあくまで内部関係において定型的・客観的に忠実義務に違反していると評価されるだけであることから、本人が実質的に忠実義務に違反していると自ら判断した場合に限って、効果不帰属を認めれば足りるとして効果不帰属主張構成をとっており、自己契約・双方代理違反の行為の効果を忠実義務違反であることを根拠として無権代理と解するのであれば、内部的義務違反が何故外部関係における代理権の制限を導くのかという検討は必要である。そして、そのためには、いわゆる代理権授与行為と、代理権それ自体を発生させる本人代理人間の契約との影響関係、そもそもこの両概念を区別するのかということの検討が必要である。
以上のように、例外規定である﹁債務の履行﹂、﹁本人の許諾﹂との関係、無権代理という効果となる根拠も検討する必要はある。特に、自己契約・双方代理の判断基準を立てる際には、例外規定の該当性の判断にも影響を与える可能性があることから、特に、例外の場合も含めて検討する必要がある。
しかしながら、本稿では、まず、法案一〇八条を念頭におきつつ、規定上は、一〇八条本文のみの判断基準を検討する。しかも、以下では、規定の文言に従って﹁自己契約・双方代理﹂と表記するが、検討の際には、原則として、自己契約の場合を念頭におくことにする(引用、説明との関係で、双方代理についても言及する箇所はある。)。特に、ドイツ民法の註釈書等では、﹁Mehrvertretung﹂(多数代理)として解説されることが多く、いわゆる自己契約の場合と日本民法で規定する双方代理、ドイツ法の﹁多数代理﹂を全く同様のものと解してよいかは検討の必要があると思われるからである(於保不二雄・奥田昌道編﹃新版註釈民法⑷﹄(二〇一五年、有斐閣)(椿寿夫担当)一一五頁以下は、こうしたことも念頭におかれた指摘であろうか。)。(
2集事法務)三八七頁(以下、﹃資料第、一集︿第三巻﹀﹄とする。以後は商年) 会商事法務﹃民法(債権関係)部資一料集第一集︿第三巻﹀﹄(二〇一、
( )同志社法学 六八巻七号二一六自己契約・双方代理の判断基準について二三六四
同様に資料集の後はその順番に従って表記する。)、民法(債権関係)部会資料一三
( す)。頁八八、。)ると(料資会部、下以 - 二
( 用原則﹄とのみ引す約る。)一七九頁。法 3潮ル、法律文化社)(以下、﹃契、編ー六ビ・ーュヒ/ードンラ・レーオ年〇見﹃佳男、中田邦博、松岡久和監訳ヨ〇ーロッパ契) 法原則Ⅰ・Ⅱ﹄(二約 s, ish, Cpuro GutiacqAawLe atrisnC CleciprinPe, livric v Ednr aah Bonriv P E oiaprou E anp CuroGy duStnivrcpCnode, Reseail h G orou4()) Definitions and Model Rules of European Private Law,Draft Common Frame of Referance(DCFR), Full Edition, Volume (, 2009, Oxford.(以下、﹃DCFR﹄とのみ引用する。)(
Ⅱる﹃掲前(し定規とき約でがし消取の約契契法人ッ案草枠照参法私パロ原ーヨ)、頁九七一﹄則は 5知条相を反相益利、で項一第、は五方〇二:三則原法約契パッローヨ手がら場ずにいることがあ) えなかった合知には、本、はたま、かたいてっり
:一〇九条- 六
条﹃できないする(前掲と契二約五〇:三﹄則原法 反本について、人に開示しつ益相パ利が人理代、はで法約契本ッロー、か人は場合も、本人取っり消すこががたとか間な理的な期合内異議を述にべ 、するように・判例通説は後、述。(、はで法民本日るあでとこるい〇一、八理ヨ条らさ。)るいてれさとるなとに代た違反でなれさ代理行為は無権 有れさと効し則原、はて本、る人が取り消しうものとされて果と効)相能可(識の反益)利るよに者三、性認のてに次有とこるい、れと件無要がさ 制みよって規体する裁をとる式のと形うい﹂理代方双・約契己自﹁本日に民なの存在だけでく状、相手方(法態第反相益利、ずま、はのるな異はと oidavれさ待期に的理え合がとことた、たいてっ知はたま、かたいてはっきる、(が、上定規。るいてし定規と)き本でがとこす消取を為行のそは人知 ⑴者三第ていつに突衝益利、も
⑶パ草枠照参法私ッ⒝ローヨ、たま)。案
Ⅱ- 六
:一〇九条
⑶⒝も、同様の規定を有している。 ドイツ民法一八一条は、日本民法と同様の規定の体裁をとり、同条違反の行為の効果についても、当初無効としていた判例も、まもなく浮動的無効であるとして、本人による追認の可能性を承認している(Schilken, Staudinger, Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch, 20(4, §
((( Rn. 45)。比較法的にも、﹁自己契約・双方代理﹂という形式は、実質的には取引安全の観点もその要件の中で考慮する必要があることを示すものである。(
( 6﹃会)五〇〇頁、部資法料二九、六四頁。務事資二料集第二集︿第巻) ﹀﹄(二〇一三年、商
( 補年三一〇二﹄(明説足の信案試間中正改法民﹃部、山編説。頁九三。)るすと﹄明足社補の案試間中、﹃下以)(集 7きき部、頁五一)︺き付要概(⑴台た資たの案試間中︹三五料資会部会料)︹概改訂版︺︺) 一頁、信山社付要)(五1︺(台きたたの案試間中︹八一
( (部会資料六六) 、一九頁以下。A にの基断判の理代方双・約契己自条を八〇一、でえうたれ入に野視も準検行〇討検のみのてしと論釈解の条八一討、はで稿本、がるあが要必るす為 9) 人法社会、条七九一、条四八法法五般一、はていつに為行反相益利三六相規益利の定規たしうこ、りあが定も条に等条一三法託信、条五九五、反