求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」と しての役割
著者 菊岡 美津, 浦坂 純子
雑誌名 評論・社会科学
号 129
ページ 45‑76
発行年 2019‑05‑31
権利 同志社大学社会学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000085
要約:本稿では,社会人を対象とする「大人のキャリア教育」の意義と効果について論じ る。公的職業訓練のうち求職者支援訓練・基礎コースにおいて,これに類する教育が行わ れていることから,受講者167名のデータを分析した結果,以下の知見が得られた。
当該コースの受講者は,就業経験が乏しい若年者や女性が多い。正社員歴5年以上と5 年未満の者に分けて分析したところ,双方にキャリア教育の効果は認められたものの,前 者ではエンプロイアビリティがより低い若年者や職歴ブランクが長い人のほうが,訓練受 講後のキャリア意識・就職意識が良い方向に変化していた。正社員歴が5年以上になると 個別性が高まり,意識の変化にも違いが生じている。個別のキャリアカウンセリングによ る支援が,相対的に個別性の高い正社員歴5年以上の者においてのみ有意な結果が得られ たこととも整合的である。
キーワード:公的職業訓練,求職者支援訓練,基礎コース,キャリア教育,社会人
目次 1.はじめに 2.問題意識
2-1.学校におけるキャリア教育 2-2.「大人のキャリア教育」の必要性 3.公的職業訓練(離職者訓練)について 4.先行研究
5.検証仮説
6.求職者支援訓練に関するアンケート 6-1.単純集計の結果
6-2.自由回答の結果
7.「大人のキャリア教育」が受講者にもたらした変化 7-1.変数およびモデルの設定
7-2.推定結果
8.考察
9.インプリケーション 10.おわりに
────────────
1)同志社大学大学院社会学研究科産業関係学専攻博士前期課程 2)同志社大学社会学部教授
*2019年3月1日受付,2019年3月2日掲載決定
研究ノート
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」
としての役割
菊岡美津
1)・浦坂純子
2)45
付録:単純集計および自由回答
1.はじめに
日本でキャリア教育という言葉が公的に登場し,その必要性が提唱されたのは,1999 年
12
月の中央教育審議会(中教審)答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善に ついて」においてである。そこでは「学校教育と職業生活との接続の改善を図るため に,小学校段階から発達段階に応じてキャリア教育を実施する必要がある」とし,さら に「キャリア教育の実施に当たっては家庭・地域と連携し,体験的な学習を重視すると ともに各学校で目的を設定し,教育課程に位置付けて計画的に行う必要がある」と提言 している。また,キャリア教育を「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技 能を身につけさせるとともに,自己の個性を理解し,主体的に進路を選択する能力・態 度を育てる教育」であるとし,進路を選択することにより重点が置かれていると解釈さ れている。キャリア教育は,職業生活への円滑な接続を図るために,主に学校教育の中で実施さ れてきた。しかし,雇用の流動化が進む中,就職後も一つの企業に留まることなく,必 要に応じて望ましい仕事が選択できるような能力を身につけることが重要になる。職歴 のある社会人であれば,誰しも自分が望む仕事を選択できる能力を身につけているのだ ろうか。ハローワークや人材会社で求人提供を受け,容易に転職をしている人も大勢い るが,なかなか決められず,失業状態が長期化している人も多い。また,新卒時に就職 できなければ,次に進むべき道を見失い,ブランク期間が長くなってしまう場合もあ る。そのような社会人にこそキャリア教育が必要ではないか。
社会人へのキャリア教育は,対象となる年齢層の幅が広く,就業経験や生活状況等の 違いによって受講者の個別性が高まる点に特徴がある。キャリアについて体系的に学 び,各自の事情に即した就職活動を進める場所が求められるだろう。社会人に対する再 教育の機会として,最も職業訓練が充実していると思われる公的職業訓練の内容を精査 したところ,その中でキャリア教育に類する教育が行われていることが判明したため,
本稿ではそれを事例として取り上げ分析する。
2.問題意識
2-1.学校におけるキャリア教育
2011
年に中教審は,キャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要 な基盤となる能力や態度を育てることを通して,キャリア発達を促す教育」と定義し求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 46
た。これは,子どもや若者一人一人のキャリア発達を支援し,キャリアを形成するため に必要な能力や態度の育成を目標とする教育的働きかけである。キャリア形成にとって 重要なのは,自らの力で生き方を選択できる能力や態度を身につけることにある。キャ リア教育をより分かりやすく表現すれば,子どもや若者が社会の一員としての役割を果 たすとともに,それぞれの個性,持ち味を最大限発揮しながら,自立して生きていくた めに必要な能力や態度を育てる教育ということになるだろう。
中教審は,この定義を提示した理由を「キャリア教育の必要性や意義の理解は,学校 教育の中で高まってきており,実際の成果も徐々に上がっている。しかしながら,新し い教育活動を指すものではないとしてきたことにより,従来の教育活動のままでよいと 誤解されたり,体験活動が重要という側面のみをとらえて,職場体験活動の実施をもっ てキャリア教育を行ったものとみなしたりする傾向が指摘される等,一人一人の教員の 受け止め方や実践の内容・水準には,ばらつきのあることも課題としてうかがえる。こ のため,今後,上述のようなキャリア教育の本来の理念に立ち返った理解を共有してい くことが重要である」としている。同時に,職業教育を「一定又は特定の職業に従事す るために必要な知識,技能,能力や態度を育てる教育」と定義している。
各学校段階では,キャリア教育と職業教育が並行して実施されているが,社会に出て 就業する時期が近づくにつれ,どちらかといえば職業教育中心となる。特に高等教育で は,専門領域での技能取得や就職支援が中心となり,ガイダンスやセミナーのように多 くの学生を一同に集めた形で行われることが多い。学校におけるキャリア教育は,対象 者の年齢や経験値がほぼ同じであり,職業観が確立されていない状態で実施されるた め,基本的な情報を均等に多くの学生に伝えて意識啓発を図ることが目的となり,画一 的な教育が施されることが特徴である。
2-2.「大人のキャリア教育」の必要性
このように,キャリア教育は職業生活が始まる前の学校で実施されることがほとんど であり,社会人になってから受講する機会はまずない。社会に出る前に勤労観や職業観 を育て,自分の進路を見つけるための教育であり,一旦社会に出て,社会的・職業的に 自立した後は不要だと考えられているからである。では,本当に社会人となった大人に は,キャリア教育は不要なのだろうか。
日本型雇用慣行が崩れつつある昨今,雇用の流動化が進むようになって久しい。その 要因の一つとして,非正規雇用者の増加が挙げられる。年齢階級別非正規雇用率の推移
(図表
1)を見ると,総数では 2002
年の29.4% から 2017
年には37.3% となり,ここ数
年落ち着いているものの15
年間で約8
ポイント増加している。15〜24歳の若年者(在 学中を除く)は2011
年をピークに減少しているが,それでも30% 前後で推移してい
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 47
る。25〜34歳も
2014
年をピークにやや減少しているが,2002年に比べて約5
ポイン ト増加している。全体を押し上げているのは,45〜64歳の中高年者の非正規雇用率の増加である。45
〜54歳はここ数年変化が少ないが,働き盛りの年代にもかかわらず,2017年で
3
割以 上が非正規雇用者である。55〜64歳では,2002年の37.5% から 2017
年には47.1% と
約10
ポイント増加している。これは,定年退職もしくは早期退職後に正規雇用で就業 できず,非正規雇用で就業しているためと考えられる。高齢年金支給開始年齢の上昇に 伴う継続就業が議論されている現在においても,55歳以上の労働者の半数近くが非正 規雇用であり,雇用が安定しているとはとてもいえない。また,労働政策研究・研修機構(2016)では,2014年
1〜2
月に全国の20〜65
歳の 男女8000
人に対して調査を実施し,4573人から得た回答をもとに転職状況について述 べている。就業者の過去の転職経験を見ると,正規従業員は「ある」が49.4%,「ない」
が
49.7% であるのに対して,非正規従業員は「ある」が 78.6%,「ない」が 20.9% であ
っ た。転 職 経 験 者 の 転 職 回 数 は,正 規 従 業 員 で は
1
回(24.9%)が 最 も 多 く,2回(22.4%),3回(17.8%)と徐々に減っていくのに対して,非正規従業員では
3
回(21.2%),5〜9回(22.8%)辺りが多く,10回以上(3.3%)という例も正規従業員よりは多 い。
非正規雇用者の転職経験および転職回数が正規雇用者より多いことは,この調査から も明らかである。非正規雇用者の増加は,全体としての転職経験および転職回数の増加
図表1 年齢階級別非正規雇用率(15〜64歳)
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 48
につながり,雇用の流動化の進展要因となっている。働き盛りの
35
歳以降でも非正規 雇用率が約3
割あり,年齢を重ねるごとにさらに比率が高まることから,職業生活にお いて何度かキャリア構築をやり直すことが誰の身にも起こりうる時代に突入したともい える。個人の働き方や社会参加のあり方は多様化し,内部労働市場で働き続けられる人 は確実に減少している。結果として,人生において何度も自らのキャリアの見直しを迫 られることになるのである。総務省「労働力調査」によれば,2017年平均の完全失業者数は
190
万人であるが,うち
67
万人(35.3%)は失業期間が1
年以上であり,このような長期失業者がかなり の規模で恒常的に存在している。労働政策研究・研修機構(2015 a)では,失業が長期 化するきっかけとなった離職理由を尋ねているが,最も多いのは「肉体的あるいは精神 的に健康を損ねた」(21.1%)であり,次いで「人間関係がつらかった」(19.6%),「定 年,契約期間満了による退職」(17.9%),「解雇された,退職を強要された」(16.8%),「倒産,廃業,事業所閉鎖による」(12.1%),「労働時間に不満だった」(10.9%),「給与 に不満だった」(10.5%),「昇進やキャリアに期待できなかった」(9.2%),「仕事そのも のが合わなかった」(8.5%),「希望退職・早期退職優遇制度に応じた」(8.5%)となっ ている。労働条件や昇進が不満で辞めたという自己都合よりも,健康や人間関係の悪化 に加えて,解雇・倒産・廃業といった会社都合で辞めざるを得なかった者が目立つ。
また,同調査では,長期失業者の多くが職業相談やカウンセリングを有用だと回答し ている。主に職務経歴書の書き方や面接・自己アピールのやり方を学んだこと,職業や 職種についての希望を明確にすることができたこと等,就職活動スキルに関する相談が 効果を上げている。ただし,再就職者と求職者の差はそれほど大きくなく,長期失業者 が採用選考時にこれらのことが実践できるよう相談や指導を行えば,長期失業者の再就 職率を高めることが可能であることを示唆している。就職活動スキルだけではなく,相 談によって自己理解や職業理解を深めていることが結果につながっており,悩みや不安 を話すことで精神的に安定して,再就職意欲が高まったという心理面の効果も高い。
このような不本意離職や,その後非正規雇用となり何度も再就職活動を繰り返すこと が誰の身にも起こり得る時代になってきたことを勘案すると,社会人にも何らかのキャ リア教育的措置が必要となるのではないか。学校におけるキャリア教育とは異なり,社 会人に対するキャリア教育は,年齢層の幅が広く,就業経験や生活状況等の違いによっ て受講者の個別性が高まる点に特徴があることは先に触れた。したがって,本稿ではそ のような社会人に対するキャリア教育を「大人のキャリア教育」と称し,「人生経験・
キャリアにより形成された偏った職業観からキャリアチェンジが困難な社会人に対し て,一人一人の社会的・職業的自立に向け,柔軟なキャリアに対する考え方へと導く教 育」という個別支援を要諦とする教育であると定義する。
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 49
では,このような「大人のキャリア教育」はどこで実施され得るのだろうか。公的職 業訓練機関,民間人材会社,民間教育訓練機関,学校(大学や各種専門学校)等が想定 される。まだ普及しているわけではないが,公的職業訓練のうち求職者支援訓練・基礎 コースにおいて,これに類する教育が行われていることから,事例として取り上げ分析 する。まず,公的職業訓練でどのような教育が実施されているかについて確認する。
3.公的職業訓練(離職者訓練)について
公的職業訓練(離職者訓練)の種類は,図表
2
の通りである。公的職業訓練は,雇用保険の受給資格により公共職業訓練と求職者支援訓練に分けら れる。公共職業訓練は主に雇用保険受給者が受講する訓練で,条件により雇用保険受給 の延長も可能である。つまり,直近まで雇用保険が受給できる程度の長時間で長期間の 勤務をしていた者が受講する訓練となっており,主な職業訓練機関は
3
種類ある。ポリ テクセンターは,約6
ヶ月の訓練期間でものづくりスキルを学ぶ。職業能力開発校は,約
1
年の長期にわたって専門スキルを学ぶ。都道府県により訓練内容は異なるが,IT スキルや家具工芸,服飾,造園といった専門学校に近い内容の訓練が多い。都道府県か ら委託された訓練は,民間教育訓練機関等で実施され,介護やパソコン,経理等,実務 に役立つ訓練内容で,期間は3〜4
ヶ月程度となっている。一方,求職者支援訓練は,受講者の特徴として職歴ブランクがある,未就職者,ある いは雇用保険が受給できない短時間か短期間の勤務に就いていたことが挙げられる。労 働政策研究・研修機構(2014)は,「2011年
10
月,『職業訓練の実施等による特定求職 者の就職の支援に関する法律』(特定求職者支援法)が施行され,求職者支援制度が始 まった。この求職者支援制度は,リーマン・ショックに伴う経済不況をきっかけに2009
年に設けられた『緊急人材育成・就職支援基金』の趣旨を引き継ぎ,特別な支援 が必要とされている『長期失業者,新卒未就職者,ニート状態の若者,母子家庭の母』などの『特定求職者』に対し,職業訓練・給付・就職支援等を行うための恒久的な制度 である」と求職者支援制度の重要性を論じている。制度発足後は経済状況が徐々に回復
図表2 公的職業訓練(離職者訓練)の種類
対象者 実施機関 特徴
公共職業訓練 主に雇用保険受給者
ポリテクセンター ものづくり分野 職業能力開発校 都道府県実施,長期 民間教育訓練機関等 都道府県からの委託 求職者支援訓練 主に雇用保険を受給できない者 民間教育訓練機関等 厚生労働大臣認定 出所:公的職業訓練パンフレットに基づいて筆者作成
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 50
し,有効求人倍率の上昇に伴い受講者数は減ってはいるものの,2018年
3
月時点で受 講者は累計37
万人を超え,今後も一定の需要が見込まれている(図表3)。
求職者支援訓練の特徴は,基礎的能力を習得するための基礎コースと,実践的能力を 習得するための実践コースという専門コースに分かれることである。実践コースでは,
パソコン操作,介護技術,医療事務,プログラミング等,様々な専門的な訓練(職業ス キル習得)を行うが,基礎コースでは,初めの
1
ヶ月間に「職業能力開発講習」という 訓練を実施する。「職業能力開発講習」は,職業スキルとは別に,就職活動を始め仕事 をする上で役立つビジネステクニック,ビジネスヒューマン,就職活動計画,職業生活 設計の四つを学ぶ内容で,新しい職業生活をスタートするために欠かせないものばかり である(図表4)。この「職業能力開発講習」に,「大人のキャリア教育」に類する要素
が含まれているのではないかと考える。求職者支援訓練は各都道府県労働局が管轄しているが,実際に運営を統括しているの は,ポリテクセンターを運営する独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構であ る。職業訓練の実施は,民間教育訓練機関等に委託され,一任されているが,訓練内容 によってガイドラインがあり,委託時にガイドラインに沿った詳細な内容が決定され る。訓練募集時には,訓練内容や実施期間・時間等が,パンフレットやホームページに も明記される。基礎コースでは「職業能力開発講習」を実施することになっており,内 容もほぼ決まっている。どの内容を何時間行うかは訓練校によって多少の違いはある が,概ね同じような日程が組まれている。一例として,ある基礎コースを確認すると,
3
ヶ月間の訓練期間(訓練時間302
時間)のうち,「職業能力開発講習」は100
時間で あり,全体の約1/3
が充てられている。他の訓練校もほぼ同様である。図表3 求職者支援訓練受講者数(2011年10月〜2018年3月)(単位:人)
2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 累計
基礎コース 13,883 26,256 22,997 16,458 11,653 10,447 8,126 109,820 実践コース 36,875 72,285 51,936 38,544 28,934 21,859 18,696 269,129 合計 50,758 98,541 74,933 55,002 40,587 32,306 26,822 378,949 出所:厚生労働省「求職者支援制度の実施状況について」
図表4 職業能力開発講習
ビジネステクニック 家計管理とライフプラン,社会保険,ビジネスマナー,職業倫理,健康管理 ビジネスヒューマン コミュニケーション,職場のコミュニケーション
就職活動計画 就職活動の進め方,求人動向,応募書類,面接対策,求人情報等の収集 職業生活設計 訓練受講の動機,自己理解,仕事理解,職業生活設計
出所:求職者支援訓練パンフレットに基づいて筆者作成
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 51
ポリテクセンターでも「職業能力開発講習」に相当する内容の訓練は実施されてい る。「橋渡し訓練」と呼ばれるもので,職業意識啓発,コミュニケーション能力の向上,
自己理解と仕事理解,ビジネスマナー能力の向上,就職活動の心構え・面接の受け方 等,地域の雇用情勢,基礎学力の向上というカリキュラムである。2009年度から始ま り,就業経験が乏しいため職業能力形成機会に恵まれず,直ちに実践的な職業訓練等を 受講することが困難な者を対象としている。これまでの公共職業訓練と比較し,平易か つ基礎的な訓練内容で,職業能力形成プログラムによる実践的な職業訓練等への橋渡し となる訓練とされているが,地区によって名称が異なり(ビジネススキル講習や導入講 習等),公開されているカリキュラムの内容も様々で,その詳細は公表されていない。
同じポリテクセンターでも,全てのコースで実施している年度と若年者コース(概ね
45
歳未満が対象者)でしか実施していない年度がある等,統一されておらず,実態も 不明である。公共職業訓練の委託訓練では,「職業能力開発講習」に相当する訓練内容の一部が含 まれているコースもあるようだが,訓練校によって内容や時間も様々で,一律に実施さ れているわけではない。
4.先行研究
労働政策研究・研修機構(2015 b)では,求職者支援訓練のコース別の受講者属性や 働き方,就職支援の内容や訓練受講後の考え方等に関する質問紙調査を実施し,分析し ている。求職者支援訓練の内容として,学科および実技のほか,「自己理解,職業意識,
表現スキル,人間関係スキル等に関するカリキュラム(基礎コースでは
60
時間程度,実践コースでは
30
時間程度を目安に必須とする)」「職場見学,職場体験,職業人講話 等(基礎コースは18
時間以上,実践コースは6
時間以上を必須とする)」の実施が規定 されている。「自己理解,職業意識,表現スキル,人間関係スキル等に関するカリキュ ラム」については,基礎コースでは前述の「職業能力開発講習」として,実践コースの 約2
倍の時間を充てて実施されている。また,「職場見学,職場体験,職業人講話等」は約
3
倍の時間を充てるよう規定されており,学科と実技以外の内容が充実している。この調査は,訓練前後と一定期間を置いた後の
3
時点で実施している。訓練前後の調 査を軸として結果を見ることにより,本来,どのような個人属性・特性を持つ者が,ど のような訓練とガイダンスを受け,結果的にどうなったのかという職業訓練+給付金支 給+ガイダンスの効果を示している。質問項目は,性別,年齢,配偶者・子供の有無,学歴,生計の担い手,本人年収,世帯収入,金融資産,生活保護受給の有無といった調 査対象者の属性,直近の働き方,正規・非正規就労経験,求職期間,雇用保険受給状況
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 52
といった就労に関するもの,そして就職支援およびキャリアコンサルティングで役立っ たもの,受講した訓練分野の仕事をこなす自信,希望する仕事の分野・働き方といった 訓練受講後の考え方等,多岐にわたっている。
「キャリア意識・就職意識」の訓練前後の変化は,基礎コース受講者に顕著に見られ た。特に,これからの就職に向けて積極的に情報収集することや,将来の見通しや計画 を立てることに関しては,実践コース受講者と比べてポジティブに変化している。有意 な差が見られた項目は,「職業生活や仕事に役立つ情報を,積極的に収集している」「こ れからの職業生活について,自分なりに見通しをもっている」「職業生活で難しい問題 に直面しても,自分なりに積極的に解決していく」「自分が期待しているような職業生 活を,この先実現できそうである」「今後の就職活動について,自信がある」「将来のた めに,今のうちにやっておくべきことの計画を立てる」「就職情報誌やインターネット サイトで探し利用する」「就職時の面接でうまく対応する」であった。
以上により,求職者支援訓練の受講者は,就職に必要な知識やスキルだけではなく,
キャリアについて考える訓練を受けることでモチベーションを高め,長期的な職業生活 への自信を持つことができると考えられる。ただし,基礎コース受講者の訓練前後の変 化に,実践コース受講者との有意な差が見られた理由までは詳しく言及されていない。
5.検証仮説
求職者支援訓練・基礎コースにおいて,本稿が注目する「大人のキャリア教育」に類 する「職業能力開発講習」が実施されている。労働政策研究・研修機構(2015 b)で は,基礎コース受講者のキャリア意識・就職意識に与える効果が実証されているが,
「職業能力開発講習」の効果かどうかは明らかにされてない。したがって,ここでは独 自に質問紙調査を実施して,「職業能力開発講習」がキャリア意識・就職意識に効果を 与えているのかどうかを,他の教育内容や要因を含めて検証する。
ただし,求職者支援訓練は雇用保険を受給できない者が対象になっていることから,
受講者の大半が就業弱者であることが想定される。就業弱者にキャリア教育が有効であ るという結果は,容易に予想できることである。また,「職業能力開発講習」の内容は,
本稿で定義した「大人のキャリア教育」というよりも,むしろ学校教育におけるキャリ ア教育に近いものを大人向けにアレンジして実施しているという見方のほうが正確かも しれない。限界のある調査・分析になるが,就業弱者の中でも就業経験の程度によって 差を見出すことで,より幅広い層への「大人のキャリア教育」の適用可能性を論じるこ とはできるだろう。
学校教育におけるキャリア教育と「大人のキャリア教育」の内容は重なる部分も大き
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 53
いが,何度も繰り返しているように,後者は対象となる年齢層の幅が広く,就業経験や 生活状況等の違いによって受講者の個別性が高まる点に特徴がある。したがって,個別 のキャリアカウンセリングといった個別支援がポイントになると考え,その効果に注目 する。
6.求職者支援訓練に関するアンケート
求職者支援訓練・基礎コース受講者に対して質問紙調査を実施し,受講者のキャリア 意識・就職意識の変化を確認した。具体的には,京都地区および大阪地区で
2018
年7
〜10月に修了する求職者支援訓練・基礎コースにて,協力可能な訓練校
12
校に質問紙 を送付し,訓練修了日もしくは直近日に教室で受講者に回答してもらい,その後郵送で 回収した。調査の概要は図表
5,有効回答数の月別・訓練校別内訳は図表 6
の通りである。図表5 調査の概要 調査時期 2018年7月〜10月
調査対象 求職者支援訓練・基礎コース修了生(京都地区と大阪地区)
配布数 202
回収数 169(回収率:83.7%)
有効回答数 167(白紙2)
図表6 有効回答数の月別・訓練校別内訳
地区 訓練校 7月 8月 9月 10月 計
京都
A校 7 3 0 13 23
B校 13 0 0 10 23
C校 13 7 9 14 43
D校 0 15 0 0 15
大阪
E校 1 4 3 2 10
F校 5 0 0 0 5
G校 4 0 4 0 8
H校 0 3 0 0 3
I校 0 5 0 0 5
J校 0 0 11 0 11
K校 0 0 10 0 10
L校 0 0 11 0 11
計 43 37 48 39 167
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 54
6-1.単純集計の結果
質問項目は「回答者属性」「訓練受講内容について」「今後の見通し」という三つのカ テゴリに分けられる。それぞれについて,単純集計結果(巻末)の概要を述べる。
6-1-
(a).回答者属性女性が
8
割を超えている(80.2%)。年代は20
歳代と40
歳代が多く,最年少は18
歳 で最年長は71
歳,平均年齢は37.6
歳であった。最後に通った学校は高校が多い(47.9%)。「中退ほか」が
15.6% いる。正社員歴は「なし」が 34.7% と最も多く,非正社員
歴は「10年以上」が26.3% と最も多い。連続して仕事をしなかった期間は,「1
年未 満」と「なし」を足すと5
割を超える。配偶者および未成年の子どもがいない人の割合 が一番高いが,配偶者がおらず子どもがいる人も28
人(16.8%)いる。世帯年収は「600万円以上」の割合が一番高い(17.4%)。
これらの結果より,回答者の全体像は,大半が女性で,学歴は高卒(または中退)が 多く,学校で就職やキャリアについて学ぶ機会が少なかった可能性がある。非正社員歴 が長いのは,若年者の場合は学卒後に正社員で働く機会に恵まれず,一定年齢以上の場 合は家庭の事情によるものと考えられる。世帯年収が高い層は,配偶者もしくは親の収 入によるものだろう。想定していた通り,回答者は概ね就業弱者であることが確認され た。
6-1-
(b).訓練受講内容について受講のきっかけは「ハローワークのパンフレット等の広報」が最も多く(37.1%),
受講理由は「パソコンスキルを身につけられるから」が最も多い(89.2%)個別のキャ リアカウンセリングはほとんどが受けており,回数は
1〜5
回未満で9
割以上,時間は60
分未満が約9
割である。相談内容は就職活動スキルに関するものが多いが,「仕事に 対する不安や悩み」も4
割ほどある。求職者支援訓練を受講して役立った内容を尋ねた 問13
では,「キャリア教育」(職業能力開発講習)の内容を6
項目(1.個別のキャリア カウンセリング〜6.キャリアプラン(キャリア形成)),「就職活動支援・専門教育」の 内容を10
項目(7.就職活動の進め方〜16.求人情報の提供)設けたところ,「就職活 動支援・専門教育」に含まれる学科や実技が役立ったとする割合が一番高いが,「4.価 値観の振り返り」等の「キャリア教育」が役立ったとする割合もかなり高い。これらの結果より,パソコンスキルの向上が受講目的であったとしても,キャリア教 育や自己理解,就職活動スキル等も広く役立ったと感じている人が多いといえる。
6-1-
(c).今後の見通し今後は正社員を希望する人の割合が一番高く(52.7%),希望職種は事務職が最も多 い(67.7%)。訓練受講前と比べての変化は,「働く意欲が出てきた」「人のアドバイス をよく聞けるようになった」「仕事の情報を積極的に収集できるようになった」「将来の
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 55
目標について考えられるようになった」「主体的に就職活動ができるようになった」が,
「よくあてはまる」「少しあてはまる」を合わせると
9
割を超える。就職活動への自信 は,「とても自信がある」「少しは自信がある」を合わせると66.5% と高い割合である。
これらの結果より,訓練受講によって前向きな意欲が出てきたことがうかがえる。事 務職で正社員を目指す人が多く,就職に向けて自信が持てるようになったと考えられ る。
6-2.自由回答の結果
「求職者支援訓練を受講して何が一番よかったですか?具体的にお答えください」と いう問いを最後に設けた。167人中
141
人が記入しており,記入率は84.4% と非常に高
かった。全回答は巻末に付した通りである。最も多かったパソコン関連では,「パソコンのスキルが身に付き,資格が取得出来た」
「パソコンの操作に自信がもてるようになった」「パソコンのスキル(ワード,エクセ ル)が使えるようになり,就職活動に自信をもって臨めたと思いました」等の回答があ った。また,ビジネスマナーやコミュニケーション関連では,「パソコンだけではなく ビジネスマナーなども丁寧に学べてとても良かった」「パソコンスキルだけではなく,
ビジネスマナーやコミュニケーション能力など,たくさんの事が学べて,年齢はミドル ですが人として基本的なことを振り返ることができ,良かったと思いました」等の回答 があった。
「大人のキャリア教育」に類する教育であると見なしている「職業能力開発講習」に 関する意見もいくつかあった。「職業能力開発講習が充実していて良かったです」「能開 講習です」等,はっきりと「職業能力開発講習」が一番良かったと明言している例もあ り,その必要性がよく伝わる意見である。
コミュニケーションに付随する内容も含まれるが,「クラス仲間の中での情報交換や スキル取得にむけての姿勢が刺激となって,自分も頑張ろうと思えたことが一番良かっ たです」「年齢を越えて,様々な人達と一緒に同じ目標に向かって努力する事は自分に とってすばらしい体験になりました」「クラスの方と毎日会うことで前向きな気持ちと 活力を頂きました。一緒に頑張る仲間がいること,親切に指導して下さる先生がいるこ とは大きいと感じました」といったクラスメートとのつながりを挙げる回答も非常に目 立った。
その中には,「結婚して長年勤めていた会社を辞め,京都に引っ越してきたので,知 り合いが全くいないこともあり,『お友達ができれば』という理由で申し込みました」
といった友達作りを目的に受講したという回答や「学校生活としても充実していた。主 婦で家にいることが多く,人と接することも少なく,入る前は仕事にも不安を感じ,生
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 56
活リズムも崩れていたが,その立て直しが出来て,毎日新しいことを吸収している実感 もあり,自信と希望を少し持てるようになった。孤独感がなくなった。訓練と仕事の結 びつきは,直接は不明だと正直なところ思う。でも何かしらキッカケを持つと,人は動 いていけるのかなと思う」という人とつながることの充実感を挙げる回答もあった。
これは,様々な世代や経歴のクラスメートと切磋琢磨することで,コミュニケーショ ン能力が身につき,多様な価値観に触れたことが大きいと考えられる。「訓練では別世 代の方々とも交流ができ,人生の中で大変有意義な
4
ヶ月間であった」「いろいろな年 齢の方との交流がためになりました」という回答もあり,自分とは違う世代の人たちと 関わることは,ある意味,会社の縮図のようでもあり,今後組織の中で働く自信にもつ ながっているように感じられた。また,「皆さん一緒になって励むことができたので,就職活動も仲間がいるので積極的に取り組めたと思います」「否定をされなかったこと,
自分を認めてもらえたことが一番うれしかったです。わがままばかり言ってしまいまし たが,最後まで親身になってもらえてうれしかったです」という回答に代表されるよう に,一人で取り組むのではなく,同じ目的意識をもった仲間と共に就職活動を進める中 で,「孤立感」という障害を排除できているようにも見受けられる。
これらの回答から,改めて求職者支援訓練・基礎コースは,パソコンスキルやビジネ スマナー,コミュニケーションスキルといった社会で働くために必要な基本的スキルを 身につける機会にこれまで恵まれなかった就業弱者が受講者の中心であることが分か る。それでもなお,就業経験の程度によって「大人のキャリア教育」の効果は異なるの だろうか。また,集合教育だけでなく,個別のキャリアカウンセリングといった個別支 援による効果は見られるのだろうか。以下,詳細な計量分析を通じて検証する。
7.「大人のキャリア教育」が受講者にもたらした変化
7-1.変数およびモデルの設定
ここでは,訓練受講後の変化(問
16)と役立った内容(問 13)をターゲット変数と
し,前者を従属変数,後者を独立変数とした。訓練受講後の変化は,「よくあてはまる=1」〜「全くあてはまらない=4」という
4
件法を用いた回答の尺度を反転させて「よく あてはまる=4」〜「全くあてはまらない=1」とし,10項目の回答を全て足して合成変 数を作成した。役立った内容は,先に触れたように「キャリア教育」6項目と「就職活 動支援・専門教育」10項目に分け,それぞれ「とても役立った=1」〜「受けていない=5」という 5
件法を用いた回答の尺度を反転させて「とても役立った=4」〜「受けていない=0」とし,6項目および
10
項目の回答を全て足した合成変数を2
変数作成した。コントロール変数の設定は次の通りである。性別は男性=1とする「男性ダミー」,
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 57
「年齢」は回答をそのまま使用し,最後に通った学校が中学校・高校=1とする「高卒 以下ダミー」,正社員・正規職員歴が
5
年以上=1とする「正社員歴長ダミー」,仕事を しなかった期間が1
年以上=1とする「ブランク有ダミー」を作成し,それぞれ独立変 数とした。また,「大人のキャリア教育」では個別支援にも注目しているため,個別の キャリアカウンセリングの受講回数が3
回以上=1とする「カウンセリング多ダミー」も独立変数として設定した。
以上の変数を用いて,全データによる重回帰分析(OLS)に加え,正社員歴
5
年以上 の者,正社員歴5
年未満の者についてもそれぞれ重回帰分析(OLS)を行った。変数の 設定および記述統計量は,図表7
にまとめている。図表7 変数の設定および記述統計量
〈全データ〉
従属変数 度数 平均値 標準偏差 最小値 最大値
訓練受講後の変化 問16の1〜10を足した合成変数 160 33.87 5.209 20 40
独立変数 度数 平均値 標準偏差 最小値 最大値
キャリア教育 問13の1〜6を足した合成変数 158 20.81 3.144 6 24 就職活動支援・専門教育 問13の7〜16を足した合成変数 157 33.67 4.640 10 40 男性ダミー 男性=1,女性=0 162 0.17 0.379 0 1
年齢 161 37.63 12.900 18 71
高卒以下ダミー 最後に通った学校が中学・高 校=1,
それ以外=0 166 0.52 0.501 0 1 正社員歴長ダミー 5年以上=1,5年未満=0 159 0.36 0.481 0 1 ブランク有ダミー 仕事をしなかった期間が1年以上=1,
1年未満=0 160 0.44 0.498 0 1 カウンセリング多ダミー 個別のキャリアカウンセリングの受講
回数が3回以上=1,3回未満=0 164 0.63 0.485 0 1
〈正社員歴5年以上〉
従属変数 度数 平均値 標準偏差 最小値 最大値
訓練受講後の変化 問16の1〜10を足した合成変数 51 34.47 5.464 20 40
独立変数 度数 平均値 標準偏差 最小値 最大値
キャリア教育 問13の1〜6を足した合成変数 53 20.57 3.729 6 24 就職活動支援・専門教育 問13の7〜16を足した合成変数 52 33.25 5.509 10 40 男性ダミー 男性=1,女性=0 55 0.16 0.373 0 1
年齢 54 48.04 10.958 27 71
高卒以下ダミー 最後に通った学校が中学・高校=1,
それ以外=0 57 0.39 0.491 0 1 ブランク有ダミー 仕事をしなかった期間が1年以上=1,
1年未満=0 56 0.48 0.504 0 1 カウンセリング多ダミー 個別のキャリアカウンセリングの受講
回数が3回以上=1,3回未満=0 56 0.59 0.496 0 1
〈正社員歴5年未満〉
従属変数 度数 平均値 標準偏差 最小値 最大値
訓練受講後の変化 問16の1〜10を足した合成変数 101 33.72 4.998 21 40 求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割
58
7-2.推定結果
全データによる推定結果は図表
8,正社員歴 5
年以上と5
年未満に分けた推定結果は 図表9
の通りである。独立変数 度数 平均値 標準偏差 最小値 最大値
キャリア教育 問13の1〜6を足した合成変数 97 21.01 2.725 14 24 就職活動支援・専門教育 問13の7〜16を足した合成変数 97 33.96 4.200 23 40 男性ダミー 男性=1,女性=0 100 0.18 0.386 0 1
年齢 100 32.25 10.375 18 62
高卒以下ダミー 最後に通った学校が中学・高 校=1,
それ以外=0 102 0.60 0.493 0 1 ブランク有ダミー 仕事をしなかった期間が1年以上=1,
1年未満=0 98 0.42 0.496 0 1 カウンセリング多ダミー 個別のキャリアカウンセリングの受講
回数が3回以上=1,3回未満=0 100 0.64 0.482 0 1
図表9 正社員歴5年以上と5年未満における推定結果
従属変数:訓練受講後の変化 正社員歴5年以上 正社員歴5年未満
B S.E. β B S.E. β
(定数)
キャリア教育
就職活動支援・専門教育 男性ダミー
年齢
高卒以下ダミー ブランク有ダミー カウンセリング多ダミー
13.227 0.629 0.32 1.682
−0.099
−0.529 2.293 2.463
3.736 0.241 0.167 1.615 0.052 1.082 1.227 1.090
0.459 0.331 0.108
−0.195
−0.046 0.208 0.225
***
**
*
*
*
**
0.708 1.084 0.292
−0.111 0.013 0.898
−0.364
−0.588 3.674 0.199 0.129 1.118 0.040 0.825 0.809 0.805
0.564 0.238
−0.008 0.026 0.085
−0.035
−0.055
***
**
R 2乗
調整済みR 2乗
0.707 0.647
0.569 0.531
*** : p<.01, ** : p<.05, * : p<.1 (n=42) (n=88)
図表8 全データにおける推定結果 従属変数:訓練受講後の変化 B S.E. β
(定数)
キャリア教育
就職活動支援・専門教育 男性ダミー
年齢
高卒以下ダミー 正社員歴長ダミー ブランク有ダミー カウンセリング多ダミー
5.894 0.860 0.298 0.019
−0.037 0.564 1.969 0.660 0.440
2.644 0.156 0.105 0.925 0.032 0.669 0.829 0.684 0.663
0.518 0.267 0.001
−0.088 0.054 0.175 0.062 0.041
**
***
***
**
R 2乗
調整済みR 2乗
0.568 0.540
*** : p<.01, ** : p<.05, * : p<.1 (n=130)
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 59
全データでは,「キャリア教育」「就職活動支援・専門教育」「正社員歴長ダミー」で 有意な正の結果が得られた。「キャリア教育」「就職活動支援・専門教育」が役立った人 ほど,訓練受講後に今後仕事をしていく上での意識が良い方向に変化したことが分か る。また,正社員歴が長い人(5年以上)ほど,訓練受講後の意識が良い方向に変化し ていた。
正社員歴
5
年以上では,「キャリア教育」「就職活動支援・専門教育」「ブランク有ダ ミー」「カウンセリング多ダミー」で有意な正の結果,「年齢」で有意な負の結果が得ら れている。「キャリア教育」「就職活動支援・専門教育」が役立った人ほど,訓練受講後 に今後仕事をしていく上での意識が良い方向に変化したことが分かる。特に「キャリア 教育」は,「就職活動支援・専門教育」よりも訓練受講後の意識により大きな正の影響 を及ぼしていた。また,若年者ほど,職歴ブランクがあるほど,さらに個別のキャリア カウンセリングの回数が多いほど,訓練受講後の意識が良い方向に変化したことが分か った。正社員歴
5
年未満では,「キャリア教育」「就職活動支援・専門教育」のみで有意な正 の結果が得られた。「キャリア教育」「就職活動支援・専門教育」が役立った人ほど,訓 練受講後に今後仕事をしていく上での意識が良い方向に変化しており,ここでも「キャ リア教育」のほうが,「就職活動支援・専門教育」よりも訓練受講後の意識により大き な正の影響を及ぼしていた。8.考 察
求職者支援訓練・基礎コースの受講者は,パソコンスキルを身につけることを目指し て訓練を始めた人が多く,自由回答でもパソコンスキルを身につけられたことが一番良 かったという感想が目立っている。就業経験のある社会人であれば身についていて当然 のパソコンスキルでさえ,職業訓練で初めて学ぶような就業弱者が対象である以上,学 校教育におけるキャリア教育に近い内容の授業であっても非常に有効であり,キャリア 意識・就職意識は確かに良い方向に変化していた。これは,検証仮説でも述べた通りの 結果である。
その中でも少しは就業経験のある者として正社員歴
5
年以上の者を取り上げて分析し たところ,エンプロイアビリティがより低いと想定される若年者や職歴ブランクが長い 人のほうが,訓練受講後の意識が良い方向に変化していた。正社員歴
5
年未満の者の平均年齢は32
歳,最年少は18
歳で最年長は62
歳である。20
歳以下の受講者が13
人おり,高校を卒業(または中退)してすぐ,もしくはそれほ ど期間を空けることなく訓練をすすめられて受講に至ったケースであると思われる。加求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 60
えて,就業していても正社員としては勤めておらず,パソコンスキルやビジネススキル を身につける機会に恵まれなかった受講者も含まれるだろう。年齢は異なっても,就業 に対する意識や経験が非常に似通った(乏しい),その意味で同質性の高いグループで ある。そのため,「キャリア教育」「就職活動支援・専門教育」による効果のみが表出 し,他の変数による違いが見られなかったのではないか。
一方,正社員歴
5
年以上の者の平均年齢は48
歳,最年少は27
歳で最年長は71
歳で ある。正社員歴が5
年以上あるということは,少しはキャリアを積み,人生経験もある グループである。若年者や職歴ブランクが長い人は,この中では相対的に就業弱者とな り,より効果が見えやすかったと思われる。正社員歴が5
年に満たなければ,就業経験 が乏しいという意味でほぼ同質性が担保されるのは先に触れた通りだが,正社員歴が5
年以上になると個別性が高まり,意識の変化にも違いが生じている。これは,個別のキャリアカウンセリングによる支援が,相対的に個別性の高い正社員 歴
5
年以上の者においてのみ有意な正の結果が得られたこととも整合的である。就業経 験によって培われた偏った職業観や固定概念といったものが,何度もカウンセリングを 受けることで解きほぐされ,キャリア意識・就職意識が良い方向に変化したと解釈でき る。つまり,就業経験が豊富になるほど,集合教育だけではもの足らず,それぞれの状 況に見合った個別支援がより重要な要素となる。就業弱者であれば,学校教育における キャリア教育とほぼ同じ内容でも効果は上げられるだろう。ここで取り上げた求職者支 援訓練・基礎コースの「職業能力開発講習」のような内容は,就業経験が豊かな者にも 有益であるとは考えにくいが,正社員歴が5
年以上の者でも「キャリア教育」の効果は 消えておらず,個別支援の有効性も見えている。これらの知見を踏まえて「大人のキャ リア教育」の意義と効果を,より幅広い対象を視野に入れて,今後検討すべきであると 考える。9.インプリケーション
では,働き続けてきた社会人が方向転換を迫られ,それまでの人生経験・キャリアに より形成された偏った職業観からキャリアチェンジが困難に陥った場合に求められる
「大人のキャリア教育」とは一体どういうものなのか。
例えば,少子化が進み,労働力が減少するに伴い,女性活躍推進が盛んに叫ばれてい る。実態として女性の活躍がそれほど進んでいるようには思えないが,学び直しの機会 として,女性に特化したリカレント教育が各地で始まっている。リカレント教育は大学 で実施され,対象は大学・大学院等を卒業している高学歴女性である。専門職や技術職 として勤務していた経験があり,ビジネス英語や最新の技術等を学ぶ。いわゆるエリー
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 61
ト層のキャリアウーマンが何らかの事情で職を離れた後,社会復帰するために高度な知 識や技術を習得することが目的である。技術は日進月歩で進化しており,知識や情報の アップデートが欠かせない。基礎的能力が高く,経験もある女性が,最新の知識や技術 を学び直すことにより,専門職や技術職として社会復帰できる環境が整いつつあること は喜ばしい。
だが,知識や技術を習得するだけで,容易に社会復帰できるかどうかは疑問である。
いくら経験があるとはいえ,大学で限られた期間に学び直すだけで最新の環境に適応す ることができるだろうか。また,目まぐるしく変化する労働市場において,過去の経験 をそのまま活かせる職場があるのかどうかも疑わしい。仮に活かせる職場があったとし ても,そこにスムーズに参入できるだろうか。キャリアを積み,高度な知識や技術をも ち,一定の役職についている人であっても,「〜ねばならない」という認知の歪みから キャリアチェンジがうまくいかないケースは多々ある。実際のキャリアカウンセリング の現場で頻繁に見聞きすることである。そういったキャリアを持つ人が何らかの事情で 職を離れなければならない場合,まず職を離れること自体に非常に不安を感じ,その後 再就職に苦労する例は珍しくない。職歴ブランクができてしまったことで,過去の自分 の実績にとらわれ,自らと労働市場の現状を素直に受け入れられないのである。
今後は職歴ブランクのある女性だけではなく,キャリアを積み重ねた専門職や技術職 がキャリアチェンジをする場合にも「大人のキャリア教育」が必要になると考える。最 新技術がどんどん出てくる中で,それに対応する専門職や技術職が求められる。内部労 働市場における育成のみならず,外部労働市場からの優秀な人材の確保も増えるだろ う。例えば,キャリアを積み重ねた専門職や技術職が外部労働市場に活路を見出そうと しても,果たしてスムーズに移行できるだろうか。内部労働市場での実績が長くなれば なるほど,これまでの実績に固執し,新しい環境でのルールや価値観を受け入れにくく なる。その際,労働市場の現状を正確に把握し,新しい価値観を受け入れる体制を整 え,自分自身の職業観を見直すことが不可欠である。ゆえに,最新の知識や技術を身に つけるのみならず,集合教育や個別支援といったキャリア教育も重要となる。集合教育 で体系的なキャリア教育を受けつつ,同じ受講者や講師との交流を通して価値観を見直 し,これまでの就業経験や生活状況等を踏まえた個別支援を受けることで,新しい環境 に飛び込む準備ができるのである。
また,「大人のキャリア教育」を実施する側も,それに対応しなければならない。特 に,教育を担当するキャリアコンサルタントには高度な対応力が要求される。キャリア コンサルタントは国家資格となり,企業内や公共機関での存在感が増しているが,現状 は就業弱者への対応が中心であり,能力にもばらつきがある。高度な知識や技術を持つ 専門職や技術職にも対応できるようなキャリアコンサルタントの育成は急務であり,支
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 62
援する側の体制を整え,「大人のキャリア教育」が広く普及することが,質の高い労働 市場の形成につながると考える。
10.おわりに
本稿では,労働力の流動化が進み,職業生活において何度かキャリア構築をやり直す ことが誰の身にも起こり得る時代に突入したことを踏まえ,社会人においてもキャリア 教育が必要であるとの観点から,その意義と効果について論じた。社会人に対するキャ リア教育を「大人のキャリア教育」と称して,「人生経験・キャリアにより形成された 偏った職業観からキャリアチェンジが困難な社会人に対して,一人一人の社会的・職業 的自立に向け,柔軟なキャリアに対する考え方へと導く教育」という個別支援を要諦と する教育であると定義し,それに類する教育を公的職業訓練のうち求職者支援訓練・基 礎コースにおいて見出した。受講者を対象に質問紙調査を実施し,167名のデータを分 析した結果,以下の知見が得られた。
第一に,求職者支援訓練・基礎コースは雇用保険の受給資格がない者を対象としてお り,受講者は就業経験が乏しい若年者や女性が多い。したがって,キャリア教育も非常 に効果があり,訓練受講後のキャリア意識・就職意識が良い方向に変化していた。第二 に,就業経験が乏しい中でも,正社員歴が
5
年以上の者と5
年未満の者に分けて分析し たところ,双方にキャリア教育の効果は認められたものの,前者ではエンプロイアビリ ティがより低いと想定される若年者や職歴ブランクが長い人のほうが,訓練受講後の意 識が良い方向に変化していた。正社員歴が5
年に満たなければ,就業経験が乏しいとい う意味でほぼ同質性が担保されるが,正社員歴が5
年以上になると個別性が高まり,意 識の変化にも違いが生じている。個別のキャリアカウンセリングによる支援が,相対的 に個別性の高い正社員歴が5
年以上の者においてのみ有意な結果が得られたこととも整 合的である。事例としたキャリア教育は,就業経験が豊かな者にも有益であるとは考えにくいが,
正社員歴が
5
年以上の者でもキャリア教育の効果は消えておらず,個別支援の有効性も 見えている。これらの知見を踏まえて「大人のキャリア教育」の意義と効果を,より幅 広い対象を視野に入れて論じる端緒になったと考える。質問紙調査では,各訓練校に調査協力を要請し,任意での回答を依頼した結果,有効 回答数が
167
と少なく,十分なサンプルサイズを確保できなかったことに課題を残して いる。さらに地域や対象者を広げて,精緻な調査を実施すべきだろう。特に本稿で十分 に扱えなかったキャリアを積み重ねた人に対する「大人のキャリア教育」はどうあるべ きかを含め,地域や対象者を広げて検証を継続し,エビデンスの蓄積に努めたい。求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 63
謝辞
質問紙調査の実施にあたり,京都労働局,大阪労働局,独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 京都支部および大阪支部のご担当者様には,資料提供ならびに各訓練校への周知等,大変なご尽力を賜り ました。また,各訓練校のご担当者様と受講生の皆様には,快く調査にご協力を賜り,自由回答まで丁寧 にご記入いただきました。心よりお礼申し上げます。本稿が微力ながら今後の公的職業訓練の発展の一助 となれば幸いです。
付録:単純集計および自由回答
〈あなた自身についておききします〉
問1.あなたの性別と年齢をお答えください。
性別 度数 %
男性 女性 無回答
28 134 5
16.8%
80.2%
3.0%
合計 167 100.0%
年齢 度数 %
20歳以下 21〜25歳 26〜30歳 31〜35歳 36〜40歳 41〜45歳 46〜50歳 51〜55歳 56〜60歳 61〜65歳 66〜70歳 71〜75歳 無回答
13 25 19 23 15 21 17 13 7 5 2 1 6
7.8%
15.0%
11.4%
13.8%
9.0%
12.6%
10.2%
7.8%
4.2%
3.0%
1.2%
0.6%
3.6%
合計 167 100.0%
問2.あなたが最後に通った学校について,あてはまるもの1つに○をつけてください。また,その学校を
出た年(西暦)をご記入のうえ,「卒業」「中退ほか」のいずれかに○をつけてください。
最後に通った学校 度数 % 中学校
高校
専門・専修・各種学校 短大・高専
大学・大学院 無回答
6 80 23 27 30 1
3.6%
47.9%
13.8%
16.2%
18.0%
0.6%
合計 167 100.0%
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 64
最後に通った学校を出た年 度数 % 1966〜1970年
1971〜1975年 1976〜1980年 1981〜1985年 1986〜1990年 1991〜1995年 1996〜2000年 2001〜2005年 2006〜2010年 2011〜2015年 2016〜2018年 無回答
1 2 1 6 12 16 17 19 15 17 17 44
0.6%
1.2%
0.6%
3.6%
7.2%
9.6%
10.2%
11.4%
9.0%
10.2%
10.2%
26.3%
合計 167 100.0%
卒業or中退ほか 度数 % 卒業
中退ほか 無回答
105 26 36
62.9%
15.6%
21.6%
合計 167 100.0%
問3.問2の学校を出てから,「正社員・正規職員」「非正社員・非正規職員」を何年くらい経験しました か?それぞれあてはまるもの1つに○をつけてください。
正社員 度数 %
なし
3年未満
3〜5年未満
5〜10年未満 10年以上 無回答
58 28 16 22 35 8
34.7%
16.8%
9.6%
13.2%
21.0%
4.8%
合計 167 100.0%
非正社員 度数 %
なし
3年未満
3〜5年未満
5〜10年未満 10年以上 無回答
25 43 21 27 44 7
15.0%
25.7%
12.6%
16.2%
26.3%
4.2%
合計 167 100.0%
求職者支援訓練における「大人のキャリア教育」としての役割 65