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流通労働と流通過程
3―1 流通労働の相対的性格をめぐって すでにくり返し述べてきたように,流通労働 には,生産労働にはない相対的性格が見て取れ る。売り手に求められる技能・熟練の内容が, 買い手の有している技能・熟練の内容によって 変わってくるという意味での相対的性格である。 これは,流通労働が対人的な労働であることか ら生まれる必然的帰結といってよい。むろん生 産労働にも,対人的側面がないわけではない。 しかし,不特定多数の顧客を相手にする流通労 働とは違って,一緒に働く労働者たちの顔ぶれ は基本的に固定されているため,相手次第でど うなるか分からないという不確かさをそれほど 意識しないでも済むのである。これまで原理論 で流通過程の不確定性と呼ばれてきたのは,会 社全体や店舗全体での売上高がいくらになるか が分からないという不確かさのことであったが, この不確かさを個別労働者の次元で捉え直した ものが,流通労働の相対的性格であると見るこ ともできよう。 それゆえ,この相対的性格にたいして資本が どのように対応するかという問題は,流通部面 における労使関係のあり方を規定する要因にな るだけでなく,資本の流通過程そのもののあり 方を規定する要因にもなる。本稿の「はじめに」 の(4)で述べたように,従来の原理論には,流 通労働を論じなくても流通過程を論じるのに支 障はないという考え方が根強かったが,本章の 議論を始める上で,まずこの考え方と訣別しな ければならない。 前章までの議論で明らかになったのは,等級 の異なる流通労働者たちを集めて,チーム単位 で協働させることの意義であった。相手次第で どうなるか分からないという不確かさは,1人 の相手に1人で臨むよりも,1人の相手に何人 かで臨んだ方が緩和される。一対多の関係で発 生するミスマッチの確率は,一対一の関係で発 生するその確率よりも低くなる78)。つまり協業 型の等級制の導入は,流通労働の相対的性格に たいする資本の対応として見た場合,これまで 商業資本論や銀行信用論で説かれてきたような 集積効果(多様な商品を集めると全体としての 売れ残りは減る,多様な債権を集めると全体と しての貸倒率は下がる)の応用に基づく対応と いうことができる。 しかしこれは,考えられる唯一の対応ではな い。少なくともこれ以外に,(a)市場を組織化 ないし細分化すること,(b)流通労働の脱接客 労働化を図ること,という2通りの対応が考え られる。 まず,(a)について述べよう。われわれが日 者の雇用のあり方にも一定の変化が生まれる。上位の等級において常傭化と賃金固定化と が進むほど,下位の等級において非正規化と賃金引き下げとが進むという対極的な雇用状 況が生まれる。不況期における流通労働の組織は,等級間の格差が拡大して,傾斜のきつ い階層構造に変形するのである。 JEL 区分:B14,B51,J50,J53,P12,P16張ることに繋がるから,怠けないことに伴う肉体的 負担よりも重い心理的負担を伴うのである。 86)Doeringer & Piore[1971]は,一定の職務を効果
語」(2)も参照せよ。 もっともこの命題は,必ずしもマルクスの創案と はいえない。たとえばマルクスは,『資本論』第1巻 第4篇第12章「分業とマニュファクチュア」のなか でこの命題を提示するに当たって,W.トムソンの 『富の分配原理の研究』から「知識人と生産的労働者 とは遠く引き離されていて,科学は,労働者の手の なかにあって彼自身の生産力を彼自身のために増大 するのではなく,ほとんどどこでも彼に対立するよ うになった」という一節を引いたり,A.ファーガソ ンの『市民社会史』から「反省や想像力は誤りに陥 りやすい。しかし,手や足を動かす習慣は,そのど ちらにも依存していない」という一節を引いたりし ている(K .,!,S.382―383,〔2〕231―232頁)。生産の場 で「頭の労働と手の労働との分離」が現実に進行し つつあるという認識自体は,その現実を生産力の増 大をもたらすものとして肯定的に評価するか,それ とも労働者の不具化をもたらすものとして否定的に 評価するかは別として,マルクスの時代には広く共 有されていたように思われる。 111)これはちょうど,職人の熟練や技能が,本人以外 には分からない「カンやコツ」に支えられていると いう常識的な見方と通底する。 112)小幡[2013]154―156頁も参照せよ。 113)また小幡の場合,個人資本にたいする結合資本の 優位性は「自己=所有」の軸にあるものとされてい るから,その限りでは,資本の「所有」のあり方の 変化を重視してきた従来の株式資本論の考え方とも 大差はない。 114)宇野[1971]は,株式資本では「生産過程の機械 化と,それに対応した経営の組織化」が進むため, 株式資本は「個人的性格」を弱め,株式資本家も「単 なる産業資本家とは異なった性格をもたざるを得な い」という見解を示している(160―162頁)。拙稿[2003] 155頁も参照せよ。 参考文献
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