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中海周辺における言語革新と境港市

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Academic year: 2021

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全文

(1)

中海周辺 にお ける言語革新 と境港市

国語学教室 一削

喜 久 雄

1.1

本稿の内容 鳥取大学教育学部国語学研究室では1984,85両年の夏期休暇に学生有志の協力 を得て鳥取・ 島根 県境地域の言語調査 を行なった。都市市街地の一部 を除 くほぼすべての集落180地点1/Jヽ字単位)を 訪れ

,各

集落生 え抜 き・60歳以上の御老人か ら語い 。音声 についての調査資料 を収集 した。調査資 料 は現在 までに第一回の地図化を終了 している (美坂 (1986))。 本稿では

,特

に境港市 に焦点 をあ わせて言語地理学的な考察 を行 なう。

1.2

調和地域の地理的特色

MapOか

ら分 か るように,中 海 を取 り巻 くように設定 された調査地域 には鳥取県側に米子市・境港 市

,島

根県側 に安来市 。松江市・ 東出雲町・ 美保関町・ 島根町・八東町 (大根島

)の

4市

4町

(な お

, 4町

はすべて島根県八束郡 に所属する

)の

一部 もしくはすべてが含 まれている。 このように多 くの行政区域 にわたる上 に

,本

地域 は自然地理的に も興味深いコン トラス トを示 している。つまり , 米子か ら境港 に至 る弓浜半島地域 と米子から安来 。東出雲を通 り松江南部に至る国道

9号

線沿線地 域 とが共 に平坦 な地勢であるのに対 し

,島

根半島に位置す る美保関

,島

根の両町部 は海岸線か ら急 激 に

200m以

上の険阻 な山塊が盛 り上がる交通 に難の大 きな地勢である。 このように人文地理的にも自然地理的にも錯綜 した地域においてはどのような言語の伝播・ 革新 が生 じるであろうか

?

それが調査開始時において念頭 にあった問題意識であった。

1. 3

調査項 目と調査上の問題点 148項目か らなる調査票 を使用 した。 これ らの項 目のほとん どは『日本言語地図』 (以下LAJと略) お よび『中国地方五県言語地図』(同じく

LA5)所

載の項 目中か ら選んだ ものであ り

,そ

の場合質 問文 (提示する絵 があればそれ

)も

全 く同一である。 フェィスシー ト並びに若子の項 目は『千葉県 館 山市および安房郡言語地図』 より借用 し

,更

に当調査独 自の項 目若干 を追加 している。 当該地域 ではいゎゅる雲伯方言が色濃 く行なわれている。調査実施に際 しては

,こ

の方言の特色 である複雑 な音声の様相 を調査員 (その多 くは初 めて言語調査 を体験する者

)が

正確 に記録するこ とは極 めて困難ではないか と予想 された。調査前数回の ミーティングにおいて筆者が雲伯方言の音 声特徴 を概説 し (その際

,録

音テープによって実際の音声 を聴取 させた

)片

仮名 による表記 を統一 しようと試みたが

,結

果 をみると実効があがった とぃぃ難 い項 目も多い。以下で地図を解釈するに あたつてはこの点 に留意 して煩雑な表記上のバ リアン トを大胆 に整理 していることが多い。

(2)

前川喜久雄 :中 海周辺 における言語革新 と境港市

2.言

語地図 とその解釈 以下の論述 においては調査項 目を く

〉内に

,ま

た調査によって得た個々の語形 (あるいは幾 つかの語形 をまとめた もの

)を

/ /内

に示す こととする。

'

2. 1

〈トーモ ロヨシ〉(Map l) LAJ182図 をみ る と

,今

回 の調査 地域 に は

/T00GIM1/,/KIM1/,/NAMBAGIM1/,/

NAMAGIN/,/NAMMANGIM1/,/N4MBAGIN/が

記録 されてい る。これ らの語形か らは前

)

半要素として

{T00},(NAMBA),(NAMBAN},(NAMA),(NAMMAN},後

半要素として

(KIMI),(GIMI}の

各形態を抽出することができるが,こ れらはすべて我々の資料にも出現して

い る。 地理的分布 を見 ると

,/ナ

ンバ(ン)/を前半要素 とす る語形(これをナンバ類 と称 することにする) が松江 を中心 に東出雲 と島根,美保関 を含 む地域 に

,/ト

/を

前半要素 とす る語形(トー類 とする) が米子 と安来 に分布 してお り

,こ

れに対 し

,境

港 を中心 とす る地域 には新 しい方言形

/ナ

マギ ミ

/

が広がっている。

/ナ

マギ ミ

/が

新 しく生 まれた語形であることは次のように論証することができる。 弓浜半島の中程

,

トー類 と

/ナ

マギ ミ

/が

接す るあた りにナンバ類が

7地

点 まとまって分布 してい る。 この分布 は境港 を含む弓浜半島全体が古 くは島根半島 と同 じくナンバ類の地域 であ り

,後

に境 港一帯が

/ナ

マギ ミ

/に

変化 したために取 り残 された もの一― いわゆる

ABA分

布 と解釈するのが自 然である。 美保関の

/ナ

ンマ (ン

)ギ

/も

注 目に値 する。境港の

/ナ

マギ ミ

/は

境水道 を換んだ対岸の美 保関南岸に も

3地

点記録 されているが

,/ナ

ンマ(ン)ギ ミ

/は

ちょうどこの

/ナ

マギ ミ

/が

ナンバ 類 と接する地域 に存在 してお り

,両

者の混交形である と思われる。

Map lで

,境

港 は新 しい方言形 を生み出 し

,そ

れ を周辺地域 に浸透 させつつある。

2. 2く

オタマジ ャクシ〉(Map 2) この地図は続いて紹介す るMap 3と 共 に境港の持つ新 しい方言形の発生源 としての性格 を最 も雄 弁 に物語 っている。 凡例 に (一部 は地図左の備考欄 にも

)記

した12の方言形の うち実 に7つが境港 に存在 し

,し

か も

,

その うち

/ポ

ッポギャー

/,/ネ

ンネンポッポ

/,/ナ

ッポ (ッポ

)/,/ド

デクー

/の

4語

形 は境港 だけにしか見 ることがで きない。各々の語形が小 さな分布領域 を形成 している様 は一―例 えて言 え ば―一生物界 における「棲み分 け」を思わせ るものである。弓浜半島南部 を含 む他 のすべての地域が

/オ

タマジャクシ

/か

,そ

の縮約形

/オ

タマ(ン

)/,さ

もな くば

/キ

ャー コ

/の

類 であることと比 較す ると

,境

港における方言形の豊壌 は際だつた印象 を与 えずにはおかない♂

2. 3〈

カタツム リ〉(Map 3) 柳 田国男の『蝸牛考』以来

,方

言形の多 さで知 られ る項 目である。

Map 2程

ではないにせ よ,こ こで も方言形 に富む弓浜半島 と,それ以外の地域 での標準語形(/カタツム リ

/,/デ

ンデ ンムシ

/)

とが鮮やかなコン トラス トを示 している。 残念なが ら我々の得た地理的分布の資料 のみか らは

,Map 2に

お ける と同様

,境

港 に共存 する多 くの方言形の間の通時的関係 を明確 にすることがで きない。ただ し

,弓

浜半島中部 と米子市東部 と に離れて分布する

/バ

イバイ

/は

米子中心部 に近年受容 された標準語形

/デ

ンデンム シ

/に

よって 分断 された ものであって

,一

時代前 には連続 した分布であつた と思われる。 実際

,LAJ236図

によると鳥取県中・西部か ら島根県東半

,更

には広島・岡山にかけての広い地域

/マ

イマイ

/の

地域であり

,ま た同

237図 (236図

で一つにまとめられていた

/マ

イマイ

/類

を詳

(3)

鳥取大学教育学部研究報告 人文・社会科学 第37巻 第

1号

し く示 した地 図)とこは米 子近辺 に

/BYAABYA/,/BAIBAIMOMoS1/の

両語形 が認 め られ る。

Map 2,3に

お いて は境 港 は多 くの方言形 を生 み出 し

,共

存 させ て い る。

2. 4〈

ッ ララ〉(Map 4)

LAJ262図

に 認 め ら れ る

//SIMIZAE/,/sINZAE/,/sYAGOO/,/SAEBO/,//

SAYA/,/cuRARA/の

各語形 はいずれ も調査資料 に現われている。 (ただ し作図の段階で,例

/サ

イボ

/と

/サ

ェボ

/を

まとめて

/サ

ェボ

/と

したょうなことがぁるので

,凡

例 には必 ず しも すべての語形が示 されていない。)

Map 4の上 では

LAJゃ

LA5の

ようなマクロ言語地図では看過 されてしまったい くつもの小規模 な

言語革新の痕跡 を辿 ることがで きる。推定 された通時変化は次のようなものである。

Map 4全

体 で 考 えると

,先

ず松江 を中心 に島根半島全域 と東出雲が

/サ

/で

あった状態が想定 され る。 この有 力であった

/サ

/の

分布 は

,そ

の領域の多 くを

,や

は り松江 を中心 に生 じた

/サ

ィボ

/に

取って 替わ られ ることになった。

Map4で

東出雲 と島根,美保関 に認 め られる

/サ

/は

その残存 である。 一方

,弓

浜半島一帯 は米子 と共 に古 くは

/シ

ミザエ

/の

領域であった。 そこに境港 を中心に新 し く発生 した

/シ

ャゴ

/が

南下 し

,現

Map4で

は半島 を両語形が折半する姿 となっている。 境港 に発生 した

/シ

ャゴ

/は

美保関 にも深 く浸入 した。その結果

,/サ

/は

東西 に分断 されて現 在の

ABA分

布 を示す ことになったのである。また

,美

保関の中海沿岸では松江か らの

/サ

イボ

/と

境港か らの

/シ

ャゴ

/と

が接触 し

,混

交形

/サ

ィボ

/が

発生 した。 さらに上記のような方言形の発生・ 変化 とは別に

,境

港 と米子

,安

来では標準語形の

/ツ

ララ

/

も受容 されつつある。

Map4に

おいて境港 は一方で新 しい方言形 を発生すると同時に

,標

準語形受容 の中のひ とつ とも なってぃる。この意味で

Map4は

,既

に紹介 した

Mapl∼

3と 後述する

Map7,8と

の中間 に位置 づけることがで きる。

2.5(ア

グラ フ ヵク〉(Map 5) 標準語形 を含 めたすべての回答 は

/ヒ

/,/ア

グラ

/等

の前半要素 と

/カ

/,/ク

/等

の後 半要素 とに分 けることが可能である。 ここでは前半要素にのみ注目して作図を行なった。

/ヒ

/が

全域 を覆 うなかで

,境

港一帯 には独 自の方言形

/ア

ブタ

/が

まとまってぃる。 そ して 一―格助詞 は省略 されるものの一― ほぼ標準語形に相当する

/ア

グラ

/も

また境港一 円に多 く分布 する。

/ア

ブタ

/,/ァ

グラ

/の

この共存 は両者の混交形

/ア

グタ

/を

更 に生 み出 している。 境港が独 自の方言形 を有するという点で,この地図 は既出の

Mapl∼

3と 共通 している。しか し ,

LAJ52図

をみると鳥取県東部。中部一帯 に

/ア

プタ

/が

存在 し,とんで美保関 に

2地

点 に存在 してい る(美保関の1地点 は

/ヒ

/と

併用)。 一方

,島

根県 はほぼ全域が

/ヒ

/で

ある。 そ うすると境 港の

/ア

ブタ

/は

元々弓浜半島の全体 を覆っていたものが,/ヒ ///の東進 によって駅立 して しまっ た もの と見 るほ うが妥当であろう。従 って同 じく境港が独 自の方言形を有するといっても

,Mapl

3が

新 しい語形 を発生 させているのに対 し

,Map 5の

/ア

プタ

/は

古い方言形 の残存 である点で , 根本的 に相違 していると考 えねばならない。 境港 は時 として古い方言を保存することもあることを

Map5は

示 している

P

2. 6〈

ステル〉(Map 6)

?Y:争

コ│こ お いて中国蜘互方一 円 を覆 うノ

/SUTERU//,//sITERU//が

Map6で

もヨ司ヨ釜地域と皆体 を 問題 は弓浜半島 と島根半島の北岸 中心 に分布す る

/ナ

ゲル

/と

境 港 と美保 関 の南岸 に合計

6地

(4)

前川喜久雄 :中 海周辺 における言語革新 と境港市 分布す る

/ホ

カス

/の

二つの方言形である。LA」62図か らは

/ナ

ゲル

/が

東北地方 を中心 とす る大 変 に有力な語形であることが分かる。そ して東北

6県

以外では石川 と福井の県境 に

4地

,

とんで 鳥取の東伯郡赤碕町に

/ス

テル

/と

の併用で

1地

,更

に とんで島根の那賀郡旭町 に

1地

,主

と して日本海沿岸 に

/ナ

ゲル

/が

点在 している。LA」の解説書 もこの分布 に注意 を払 つているが

,結

局 今 は

,こ

れ らのナゲルは東北のナゲル とは直接関係 ない ものであ り

,ホ

オルの単 な る言い換 えと考 えてお く。 (日本言語地図解説一―各図の解説

2-一

p.18) としている。 さて次 に

/ホ

カス

/に

ついて

LAJ62図

をみる と

,こ

れ もまた近畿圏に中心 を持 つ非常 に有力な語 形であることが分 かる。 しか し

,中

国地方への影響 ということになると岡山に

/ス

テル

/と

の併用 が1地点認 め られ るだ けであ り

,こ

の場合 も我々の調査地域への直接的な影響 は考 えに くい。 む しろ

/ホ

カス

/は ,後

に述べるように古 く北前船 の時代 か ら海路 を通 して交流が盛 んであった 大阪か ら

,中

間地帯 を飛び越 して境港へ受 け入れ られたのではなかろうか ?こ の推測が正 しい とす れば,その後 に

LAJの

解説が想定 しているような形で

,/ホ

カス

/か

/ナ

ゲル

/が

生 じた とも考 え られ るであろう。いずれにせ よ

,Map6に

ついては我々の資料 は不十分であ り

,単

なる推論 の枠 を 越 えることは不可能である。

2. 7(ス

ッパ イ〉(Map 7)

LAJに

従 って梅干 しの味 をどう言 うかを尋ねた項 目である。先の

Map4で

/ツ

ララ

/が

,Map

5で

/ア

グラ

/が

標準語形 として受容 されていたように

,こ

の項 目では

/ス

ッパ イ

,/が

境港 と米 子 を中心 に受 け入れ られつつある。

LAJ41図

で我々の調査地域 を覆 う

/ス

イー

/と

の併用 も多いが, その内

2地

点 (64132018,64134435弓 浜半島南部 と米子市街

)で

/ス

イー/〉

/ス

ッパ イ

/と

の内 省が得 られている。 美保関 にも

/ス

ッパ イ

/が

多 く認 め られるが

,こ

れは境港の影響 と見なす ことが可能 であろう。

Map7に

おいて境港 は専 ら標準語形伝播の中心 となっている。

2. 8〈

オソロシイ〉(Map 8) この地図で もやは り標準語形である

/ヨ

ワイ

/の

分布が注 目に値する。境港

,米

子の両市が受容 の中心 となっていること

,更

にその影響が美保関 に も及 んでいる点 も

Map7と

同様 であ る。

Map7と

本図の相違点 は

,Map7で

は単一の方言形 (/スイー

/)が

全調査地域 を覆 つていたの に対 し

,本

図では二つの方言形

/キ

ョーテー

/と /オ

ブイ

/が

東西の対立 を示 している点である

P

なお

,も

うひ とつの標準語形

/オ

ソロシー

/の

分布が美保関 を中心 とした島根半島に限 られてい る事実は何等かの解釈 を必要 とす るであろう。 あるいは以前 に境港 を中心 に

/オ

ソロシー

/が

受容 されて島根半島に伝播 し

,そ

の後 に今度 は

/コ

ワイ

/が

受容・ 伝播 された とも考 えられ るが

,現

在 の境港に1地点 も

/オ

ソロシー

/が

記録 されていない以上

,こ

れは全 くの推論の域 を出 る ものでは ない。

2.9〈

正座 スル〉(Map 9)

Map9は

一見 す る と

Map7,8と

同 じ く境 港 が標 準語形

/ス

ワル

/を

受容 し

,周

辺 に伝 播 させ た 結果 か と思 える。 しか しなが ら

LAJ51図

を見 る と中国地 方全体 が

/ス

ワル

/と /カ

シ コマル

/と

に 三分 されてお り

,Map9は

両者 が接 す る前線 の一 部 を捉 えた に過 ぎない こ とが分 か る。

/ス

ワル

/は

(5)

鳥取大学教育学部研究報告 人文・ 社会科学 37巻

1号

Map6に

お ける

/ス

テル

/と

同様

,古

くか ら存在す る語形であ り

,真

に近年受容 された と見 なすべ きものは

,米

子 を中心 とす る

/セ

ーザスル

/で

ある。 この項 目における境港の働 きは

Map5の

場合 と同 じく古い語形の保存である。

3.1

境港 の果 たす役割 紹介 して きた

9枚

の言語地図を

,今

回の調査地域 の言語草新において境港が果た している役割 と いう観点か ら分類 してみよう。

A

境港が新 しく方言 を発生 させ

,ぁ

るいは更 に周辺地域 に伝播 させているもの。

Map 1 /ナ

マギ ミ

/

Map 2 /ポ

ッポギャー

/,/ネ

ンネンポ ッポ

/

/ナ

ッポ (ッポ

)/,/ド

デクー

/

Map 3 /ゴ

ンゴ

/,/メ

ーダシ

/,/ツ

ノーメ

/

Map 4 /シ

ャゴ

/

境 癖鍾 準 房了テ

9,中

心 とな 男 ぁるいは更 に周辺地域 に伝播 させているもの。

Map 5/ァ

グラ

/

Map 7 /ス

ックヾィ

/

Map 8 //コ

ヮィ

/

C

境港が古 い方言形 を保存 しているもの。

Map 5 /ァ

ブタ

/

Map 9/ス

ワル

/

A,Bは

言語革新 において積極的な役割 を果たす場合

,Cは

反対 に言語革新 に抵抗する場合であ る。一見 して明 らかなように境港 は積極的な役割を果たすことが多い。

Map5は

Cの

他 に

Bに

も分 類 されているし,こ こで分類か ら除外 した

Map6に

おける

/ホ

ヵス

/が

2.6で推測 したように海上交 通 を経 て

,大

阪か ら流入 した ものであれば

,こ

れ は標準語の受容 に類 した現象であるか ら

,Bに

分 類 して もおか しくはない。総 じて境港の積極的役割は一層強調されることになる。 本稿でここまでに紹介 した

9枚

の地図は

,言

うまで もな く境港の この性格 を強調するために選 ぼ れた ものであるか ら

,上

記の分類 においてこの ような結論が生 じるのは当 り前のことではある。 し か しなが ら一―例 えば――都市の規模 として境港 とほぼ同一である安来については

,既

に境港 に与 えた もの と同様 の性格 を付与する地図を選び出すことはほとんど不可能であることを指摘 してお き たい?また松江 は多 くの地図において有力な語形の中心地 と見なせるのであるが ,それ は

LAJに

も広 範囲にわたって記録 されているような語形であって

,Map 2, 3に

典型的 に見 られたような

,新

い方言を次々 と生み出す働 きは絶えて見せていない。

3.2

「浜言葉」の範囲 境港 を中心 とす る弓浜半島の言葉が一種独 自の まとまりを示すことは地元人の言語感覚にも明 ら かであ り

,こ

れ を特別 にさして「浜言葉」 と呼ぶ ことがある。それでは

,

この浜言葉が行なわれ る 地理的な範囲 は どのようなものであろうか?その答 えを得 るための一つの方法は

,各

地図に表われ

(6)

前川喜久雄 :中 海周辺 における言語革新 と境港市 た境港の影響 を加算 して一枚 の地図の上 に示す ことであろう。

Map10は

境港固有の語形 と見 なされ るものが各調査地点で どの程度共有 されているかを示 した ものである。

Map4を

例 に とれば,境港が伝播の中心 と見 なされた

/ツ

ララ/。

/シ

ャゴ

/と

/シ

ャゴ

/の

影響 によって生 じた と考 え られ る

/サ

イゴ

/の

3語

形 を境港固有の もの として

,こ

れ らの うちいずれか 一つが記録 されてい る地点 に数量 1を

,そ

れ以外の地点 には数量0を与 える。同様 の作業 を

9枚

の 地図に施 して加算 した結果が

Map10に

示 されている。境港の数値が高いのは当然であるが

,そ

れに 加 えて弓浜半島の南部 と美保関のほぼ全域が境港の影響下 にあることが分 かる。 浜言葉の範囲を調べ るもう一つの方法 は

,地

元人 によって典型的な浜言葉 と見 なされている語形 の分布 を調べ ることである。

Mapllは ,そ

の ような語形 としての

/ア

イキ ョー

/を

調べた結果であ る。 浜言葉 としての

/ア

イキ ョー

/は

軽 い驚 きの意味 を表わす間投詞であ り

,弓

浜半島を少 しで も歩 けば必ず といっていいほど耳 にす ることがで きる。 この語形 はた また ま標準語 において も「愛敬」 として存在するので調査 にあたってはそれを利用 している。インフォーマン トに

(/ア

イキ ョー

/

という言葉 を

)1自

分で使 う

, 2自

分では使 わないが聞いた ことはある

, 3聞

いた こともない

,

と い う選択肢 を示 して選択 して もらい, 1,` 2の場合 にはどうい う意味か を質問 してい る。 Mapllと

Map10と

の間に強い相関が存在することは一見 して明 らかである。

/ア

イキ ョー

/を

浜言 葉 として用いる地域 は

Maploに

おいて

3以

上の数量 を与 えられた地域 にほぼ一致 している。 地元人の言語感覚 として も

,ま

た従来 この地域の方言 を解説 した書物 において も

/ア

イキ ョー

/

に代表 される浜言葉 は「 弓浜部特有の語」(生田(1975)p.117),「 弓浜半島の ことば」(境港市(1984) p.151)等 と規定 されているが,実際 には美保関 もまた浜言葉の範囲に入 っている とすべ きであろう。

3.3

境港の影響 を支 えるもの 以上の考察 によって境港の言語的影響が弓浜半島および美保関のほぼ全域 に及ぶ ものであること が確認 された。本節ではこの影響力 を可能な らしめた言語外的な条件 について初歩的な考察 を加 え てみたい。

Map12は

フェイスシー ト中の質問項 目「嫁入 り道具 は昔何処で買 ったか?」 に対 す る回答である。 大局的に見て この地図は美保関の住人が消費経済 において境港 に強 く依存 していることを示 してい る。この項 目で境港 と回答 した地点の分布 と

Maploに

おいて

3以

上の数量 を与 えられた地点 とは, 美保関に関す る限 りほぼ一致 していると見てよいであろう。 今少 し詳 し く

Map12を

眺 めてみると,美保関町の西側では境港 と松江の両方 を回答 した人が多 く, 東進す るにつれ境港単独 の回答が多 くなる。 そして (国研方式の地点番号で上

4桁

)6403の

地域 に入るとほぼ境港の地域 なのだが

,こ

れには交通路の問題が関係 している。Map131こ は実線で島根 半島における主要道路 を示 したが

,美

保関北岸の東半分 は自動車等 による交通が不可能である。美 保関西半の住人が直接松江行 きのバスを利用で きるのに対 し

,6403地

域北岸の住人 は一旦南岸 に出 てか らでない と松江へ移動す ることがで きない。 この ような理由で美保関東半の回答 には松江が減 少す るのである伊 境港が美保関 に及 ぼす影響の基盤 はこのように経済圏 と交通路 によって形成 されていると解釈で きるが

,弓

浜半島の南部への影響 については同断ではない。Map12とこ明 らかな ように

,こ

の地域 は 経済的には米子 に依存 しているのである。 ここではむ しろ入植 の歴史が重要な基盤 を形成 しているようである。

Map13の

矢線 は

,江

戸時代 以降に境港か ら弓浜半島南部へ入植 した農民の移動の方向を示 した ものである。(岩永 (1978)p.95

(7)

鳥取大学教育学部研究報告 人文・ 社会科学 第 37巻 第

1号

の図150を参考 に,弓浜半島内部 における移動の大略を示 した。この他に大根島か らの入植 も行なわ

れている)。

Maploと Map12を

重ね合わせ ると

,Maploで

5以

上の数量が分布 している地点 は境港市 域以外では

Map12の

矢印の先端 に集中 していることが分かる。永続的な人間の移動である入植によ る言語の影響 は一時的な移動 しか伴わない経済依存による影響 よりもはるかに強いことが予想 され るが

,Maploの

分布 はこの違 いを反映 しているもののようである。 4。 まとめにかえて 以上の論述 によって境港が言語地理学的にみて非常に活発な活動 を行なっている地域であること を示 しえた と思 う。1861年 (安政

5年

)の作 といわれる『伯脅志』は当時の境村 (237石,330戸 ,2023

)に

ついて次のように伝 えている伊 当村 は浜の北極 に して北出雲島根郡 に相対す。其間

3丁

50間の海水 を隔 つ。西方水路外江浦 を左 に回れば内海 を経て米子 に至 り直に行 けば出雲松江に至 る。東方鼻浦を過 くれば外海にて 北 は彼島根郡 な り。

3里

に して三穂 の関 に至 る〔略〕。故に大船時に暴風 を避 けて此浦に入 り諸 国の商船且暮往来 して万物 を交易 し帆柱の東西時を措かす。且境内の海水深数尋にして大船 と 云へ ども窓下 に泊す るが故 に水陸の便他 に異 な り実に中国の大港 と云ぶべ し。一村 これが為め に豊穣 にして恒 に夜絃朝歌の声 を絶たす。又二国の山水風景を尽 くせ り。 この記述か ら既に明 らかなように境港は古 くか ら山陰における交易の一中心 として発達 してきた 集落である。そ して

,そ

の交易 の相手方 としてまず第一に挙 げられるのが大阪である。江戸時代 に も北前船 によって大阪 と結 ばれていた境港 には明治以降 も海路大阪から文明開化の文物が運び込 ま れ ることが常であった。明治17年には大阪―下関―境港を結ぶ定期航路が就航 し

,同

38年 には私鉄 鶴阪鉄道 (舞鶴一大阪

)を

利用す ることによ り境港 と大阪は一 日で結ばれた。 一方

,や

がて海路 に とって替わる鉄道に関 して も

,明

45年の山陰線 (京 都一出雲今市

)開

通 に 先立 って既 に明治35年に境線 (境港―米子

)が

開通 していることは弓浜半島南部への境港の影響 を 考 える際 に重要であろう。 松江

,米

子 といった人 口 も多 く政治 。経済の中心 にある都市に狭 まれなが ら

,境

港が言語 に関 し ては予想外 に大 きな影響 を有 していることの背景には

,こ

こに述べたような種々の歴史的な因子が 介在 しているであろうことが予想 される。地域社会における言語革新の歴史の理解にはその社会の 住民の背負 っている生活の歴史 とで も言 うべ きものに対する理解が必須の条件 となることを今回の 調査結果 は改めて教 えて くれている

p

まず誰 よ りも調査 にあたってご協力 をいただいた180名の皆様 に改めて心か らお礼 を述べさせてい ただ きます。境港

,米

子両市の社会福祉協議会か らは調査の計画段階でご助力をいただきました。 境港市役所 の市史編 さん室では貴重な文献 をコピーさせていただきました。記 して感謝のしるしと いた します。

短 い夏休 みをつぶ して くれた学生諸君

,本

当にご苦労 さまで した (Last but not least!)

(8)

前川喜久雄:中海周辺における言語革新 と境港市 註 弓浜半島東岸 に沿 って

/ネ

ンパ

/の

類 が分布 しているが

,こ

の語形 は境港 に生 まれた もので は ない と思われ る。本図で

/ネ

ンパ

/が

分布す る地域 に限 つての小規模 な言語革新が

,今

回は と りあげなか った他の何枚かの地図で も確認 され るのである。 この現象について はいずれ他の機 会に論 をまとめる予定である。 徳川編 (1979)は

,/オ

ブイ

/を

「オ ソロシイよ りもさらに古い西 日本のいい方であろう。」(p. 109)と し

,ま

た「中国地方の東部 にキ ョー トイ類

,そ

の西 にイブセー類がある。 いずれ も「け うとし」「 いぶせ し」であ り,「恐 ろしい」の意味では『日葡辞書』その他 にのっているか ら, この意味で

,少

な くともこの ころ使 われていた ことが分かる。」(執筆 は野元菊雄氏

)と

述べて いる。 いずれにせ よ全国的に見 ると非常 に古 くか ら存在する語形であると思われ るが

,美

保関 に

/キ

ョーテー

/が

広がったのはそう古い ことではないであろう。美保関町東端 の

4地

点 に

/

オブイ

/が

記録 されてお り

,島

根県の

/オ

ブイ

/と

共 に

ABA分

布 を形成 している。島根半島は 以前 には

/オ

ブイ

/一

色であった と考 えられ る。

1983(昭

58)年

3月 末の住民基本台帳 による人 口は次の とうり (十位で四捨五入)。 米子市

129500

境港市

38300

松江市

134700

安来市

33300

島根町

5100

美保関町

8700

東出雲町

11300

八東町

4700

また参考 までに朝 日新聞社編 (1978)による「1人当た り民力水準」(全国平均

=100)を

4 市についてだけ示す。 米子市

106.5

境港市

90.9

松江市

110.6

安来市

89.7

人 口で も民力水準で も米子 と松江

,ま

た境港 と安来が各々ほぼ同一の水準 にあ ることが分か る。

Map12で

美保関の東端 に

2箇

所 だけ「松江」の回答が記録 されている

(1地

点 は「米子」「境港」 と併答

,

もう1地点は「松江」単独)。 本文で述べた ようにこれ らの地点か ら松江へ買物 に行 く のは境港 と比較す ると大変に困難であるのだが

,

この地域の住人 にはそれだけの動機が存在す

るのであろう。

Map4や

Map 8に

おける

ABA分

布が,この地域の住人が松江 を中心 とす る語形 を保持す ることによって形成 されていることは言語地理学的に見て大変興味深 い ことである。 佐伯元吉編(1972)p.326よ り引用。引用 に際 しては旬点 を施 し

,ま

た一部の漢字 を現行の もの に改めた。 Grootaers(1977)は千葉県館山市が境港 と同様 に方言形標準語形 を問わず言語革新 の中心地 と なっていることを報告 している。館 山市 もまた港湾・ 水産型の都市であることは大変 に興味深 ヤゝ。 参 考 文 献 朝 日新聞社編

(1978)

明J冊民カエ リア・ 都市別民力測定資料』朝 日新聞社 生田弥範

(1975)

『因伯方言考』国書刊行会 (初版1937年) 岩永賞

(1978)

『鳥取県地誌考』岩永先生記念論文集刊行会 国立国語研究所

(1970)

『日本言語地図』

1∼ 6巻

大蔵省印刷局 佐伯元吉編

(1972)

『因伯叢書 第四冊』名著出版 境港市

(1984)

『境港 昔 と今』境港市

(9)

鳥取大学教育学部研究報告 人文 。社会科学 第 37巻 第

1号

.9

佐々木英樹

,W.A.グ

ロータス

(1984)『

千葉県館山市および安房郡言語地図』 上智大 1学大学院 言語学研究室 徳川宗賢編

(1979)

『日本の方言地図』中公新書533 広戸惇

(1965)

『中国地方五県言語地図』風間書房 美坂朗生

(1986)

「美県湾i中 海周辺地域の方言地理学的研究――弓浜半島を中心に一―」鳥取大 学教育学部卒業論文

GroOtaers.w.A.(1977)tTHE■

INGUISTIC ROLE OF A PROVINCIAL CITY IN JAPAN"

soPrrrA L盪蠣

G3ヽ

TrC4 HI(TokyO;Sophia Uhiv.)

付記:本稿の内容の一部は1986年 4月27日 に広島方言研究所主催の第15回

方言研究ゼ ミナールで回 頭発表 したものです。席上 ご批正を賜 りました皆様にお礼申しあげます。

(1986/07/24.初

校時)

(10)

前 川 喜 久 雄 :中 海 周 辺 に お け る 言 語 革 新 と 境 港 市

点国 習い ヽ ど ザヨ 細謡   O as ぐ 占

(11)

鳥 取 大 学 教 育 学 部 研 究 報 告 人 文 ・ 社 会 科 学 第 37巻 第

1号

″ , キ ︵︹ ︶ レ ︹ ヽ   o 打 , ャ レト   ● ″ 等 ヽア ヽ ︹ ヽ h キ ︵ ︹ ︶k お ︷   o ” 坪 1 エ ・ 劇 キ ー ユ   ︼ れロ ロ 甲 上  B Aふ 周口 中︱ とV

(12)

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(13)

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(15)

鳥 取 大 学 教 育 学 部 研 究 報 告 人 文 ・ 社 会 科 学 第 37巻 第

1号

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鳥 取 大 学 教 育 学 部 研 究 報 告 人 文 ・ 社 会 科 学 第 37巻 第

1号

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鳥 取 大 学 教 育 学 部 研 究 報 告 人 文 ・ 社 会 科 学 第 37巻 第

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参照

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