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日本におけるニューカマーの言語政策

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著者 園部 陽子

雑誌名 東京家政大学博物館紀要

巻 16

ページ 151‑161

発行年 2011‑02

出版者 東京家政大学博物館

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010328/

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A Study of Language Policy to Newcomers in Japan

Yoko S

onobe 園部 陽子

日本におけるニューカマーの言語政策

1.序論

 この数年間、多文化共生やニューカマーに焦点を当て生活・文化・教育面など様々な角度から日 本だけでなく、イギリスにも特化して研究してきた。しかし、未だ日本ではあまりニューカマーと いう言葉は浸透していないように思われる。ニューカマーとして日本に移り住む理由としては「出 稼ぎ」「留学」「難民」「国際結婚」など挙げられ来日するきっかけは多種多様である。昨今のメ ディアからの情報ではアメリカからのミャンマー人が来日している。しかし、日本にはミャンマー 人のようなとても特殊な民族の受け入れ体制ができていないため、全員を受けれる方向性はなく国 に戻されてしまうような現状である。このように、ニューカマーの来日は加速する中で、本論文は 日本に来るニューカマーの子どもたちの教育問題と言語政策に関して、すでに言語政策を駆使して いる英語圏のオーストラリア、カナダ、イギリスの事例を参考に論ずる。

2.日本におけるニューカマーの現状と問題点

 現在日本には200万人ほどの外国人が住んでいる。2004年の文部科学省の調査によると、日本の 公立学校で学ぶ「日本語指導が必要な外国人児童・生徒」の数は1万9678人ではり、彼らが在籍し ている学校数は5000校以上に達したと報告された。この調査結果は10年前であるから、現在はもっ と多いと考えられる。こうした状況の中で各地方自治体や各学校はほとんど手探りの状態で教育支 援の方法を模索している。残念ながら、外国人に対する言語教育の基盤が固まっていない為、不就 学の子どもも多い。不就学児が多い原因は以下の通りである。これは平成 18 年度文部科学省が発 表した調査結果である。

① 学校に行くためのお金がない…15.6%

② 日本語がわからない…12.6%

英語コミュニケーション学科

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③ すぐに母国に帰る…10.4%

④ 母国の学校と生活や習慣が違う…8.9%

⑤ 勉強がわからない…8.1%

⑥ 仕事・アルバイトをする…8.1%

⑦ いじめられる…7.4%

⑧ 友達ができない…5.2%

⑨ 学校へ行かなくてもいいと考えている…3.7%

⑩ 兄弟姉妹の世話をする…3.0%

 経済的理由と言語問題が 1 位 2 位を占める。移民してきた保護者の言語の問題が少しでも排除さ れることができたら、経済的理由で不就学になる児童・生徒も少し緩和されるかとおもわれる。そ の他の問題点として6点挙げられる(志水2006)。

① 親が働くのに忙しく、落ち着いた家庭生活を送れる環境を作ることが難しい。

② 日本の教室は異質性を排除する傾向が強いので、仲間になじむことが難しい。

③  日常生活に必要な言語の習得は比較的できるが、学校の勉強についていけるだけの言語能力 を身につけることは容易ではない。

④  日本滞在が長期になるにつれて、母語の能力が落ち、家族とのコミュニケーションがとりに くくなる。

⑤  高校や大学に進学する際に、十分な進路情報を得にくく、また外国人であることが障壁とな る場合がある。

⑥ 帰国後に、母国の教育システムや授業についていけないという問題が出てきている。

 また、日本に滞在するに当たり身分保証の問題があったり、経済基盤がしっかりしていない為、

弱い立場に置かれてしまう場合も少なくないようだ。その他、精神的な問題点として異文化やコ ミュニケーションギャップによるストレスや鬱なども報告されている。

 以上のように、家庭の問題、経済の問題、言語の問題、精神面の問題など様々な問題が重なり 合っている。この現状下、言語に関する問題点に焦点を当て問題解決の糸口はないか考察する。

3.様々な国の言語政策の事例と現状

 ここまでは日本の現状と問題点について触れてきた。ここからは、移民を多く受け入れている英 語圏の国オーストラリア、カナダ、イギリスの事例を参考に言語政策について考えてみる。この 3 カ国は早い時代から言語政策を構築し、たくさんのプロセスを踏んで築き上げてきたので、これか らの日本にとって各国の言語政策も多くの利点を学び、参考にする必要がある。

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3-1.オーストラリアの言語政策

 オーストラリアは移民の受け入れに対して多い国として認識されている。歴史的背景から見ても 1829 年にイギリスの植民地となり、1851 年のゴールドラッシュの発見によりイギリスだけでなく 中国からの移民が増加し始めた。第二次世界大戦後すぐに移民を積極的に受け入れる方針を決定 し、イタリア、ギリシャ、オランダなどヨーロッパ大陸からの移民が増加した。1966 年には移民 法が緩和されたことにより、ベトナム、中国、韓国、シンガポールなどのアジア系移民が急増し た。その結果 1970 年代後半から移民数の増加に伴い「多文化主義」を国策として推進している。

1998年の人口推定によれば総人口の22.8%が海外の出生者であり、オーストラリア生まれのうち、

少なくとも片親が海外出生者は27%を占める。

 このように、あらゆる人種が交わる中でやはり問題になるのは言語である。オーストラリアで は、子どもをめぐる言語問題は教育の分野で「多文化教育」として構成され、内容は英語教育と英 語以外の言語教育、バイリンガル教育が国レベルで決定された。英語が母語でない子どもたちに対 して、将来オーストラリアの国民として不自由なく生活していけるように、現在 English as a Second Language教育を積極的に行っている。

 また、英語以外の言語教育の必要性も強調されており、Language Other Than English(以下 LOTE)と呼ばれているほど英語以外の言語にも力を注いでいる。そして「言語に関する国家の政 策(National Policy on Language)」が公表された。この政策の中で 9 つの重要な言語は、アラビ ア語、中国語、フランス語、ドイツ語、ギリシャ語、インドネシア/マレー語、イタリア語、日本 語、スペイン語が挙げられている。さらに、連邦雇用・教育・訓練省によって「オーストラリアの 言語:オーストラリアの言語と識字政策(The Australian Language and Literacy Policy)」が出 され、現在これに基づいて言語政策が実施されている。

 LOTE教育はすべての人や国家にとってプラスの効果をもたらすことを目標として、非常に大き な存在がある教育方法である。オーストラリアは州によって教育内容のレベルが異なるが、どの州 においてもLOTE教育に対する積極的な姿勢は共通しているようだ。

 例えばヴィクトリア州は多様な移民コミュニティが特徴的であり、非英語圏からの移民の占める 割合が高い。ヴィクトリア州の初等学校では 1 〜3 言語が教えられているが、学校によって提供さ れる言語は異なり、地域の状況や、保護者、生徒たちの要望によって配慮された上で学校長が決定 する。ヴィクトリア州は中国語、フランス語、ドイツ語、インドネシア語、イタリア語、日本語、

ギリシャ語、ベトナム語の8言語が大きな重要があると考えられている。初等教育では日本で言う と小学校にあたり、6 年間学ぶ。中等学校でも修業年数は同様に 6 年間、最終学年は第 12 学年であ る。

 実際にどのようにLOTE教育が推進されているか事例を考察する。メルボルン周辺の3校を紹介 したい。まず、メルボルン南西の郊外に位置する小学校では、全校生徒数のうち 95%の子どもが 英語以外の言語を使用する初等学校では、フランス語が導入された。リスニングの授業ではマルチ メディア教材を多いに活用し、自主学習もしやすい体制を整えた。次にメルボルン郊外のある学校

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では、トルコ人、ソマリア人が多く住む場所で様々な人種・民族を含む生徒が在籍しているという 特徴からベトナム語が提供された。学校内の廊下をはじめあちらこちらにベトナム語を使用した ディスプレイが見られ、生徒たちにベトナム語の学習への関心を高める為の工夫が環境整備されて いる。最後にメルボルン北部にある、第 2、3 世のギリシャ人が多い学校では、バイリンガルプロ グラムが実施されている。プロジェクトの一環として行政から助成金も出ており、学校だけでなく 保護者からの積極的な支援を背景にギリシャ語教育に力を入れている。

 以上 3 校からわかるように、LOTE 教育は各学校においてそれぞれの特徴が十分に配慮された上 で、様々なかたちと方法で言語を教えている。

 特徴を簡潔にまとめると第1にマルチメディアを大いに活用することである。この利点は最新機 器に触れられるチャンスでもあるが、学校内での言語学習が国内だけでなく国外の人々とのコミュ ニケーションを可能にした。インターネットを利用した他国の異文化を持つ人々との交流は、言語 学習の動機づけに大いに役に立っている。

 第2にLOTEプログラムの実行には、言語教員だけでなく、保護者の積極的な参加・協力が大き な原動力になっている。このプログラムは保護者が自ら、学校でどの言語を教えるのがよいか様々 な角度とニーズから調べる。そして、学校の教室に赴いて教師と一緒に生徒の識字教育と英語以外 の言語の授業に参加して教える手助けをしている。オーストラリアの教室内での言語政策は教員と 保護者との教育体制によって活発な学習が見られるようだ。

3-2.カナダの言語政策

 カナダは多民族からなる国であり、イギリス系やフランス系などのヨーロッパ系の白人人種が 65%と圧倒的に多い。アジア系、アラブ系、アフリカ系は約 20%という調査報告がある。カナダ では連邦レベルでの英語とフランス語を公用語とする二言語主義の国である。中でもカナダのケ ベック州はフランス語圏でよく知られており、州レベルになると事情が異なる。特に特徴のあるマ ニトバ州を紹介したい。

 マニトバ州はカナダの中央に位置するかなり大きな州である。言語教育に関してはバイリンガル 教育が盛んである。1890 年頃、中欧、東欧から多くの移民が入り、多民族社会になった。現在マ ニトバ州では二言語・多文化主義がいかに言語教育に反映されているかを、①フランス語プログラ ム、②バイリンガルおよび遺産言語プログラム、③先住民プログラムから知ることができる。

 ①フランス語プログラム a.Francais Program

このプロクラムは教科としての英語を除いてすべての教科をフランス語で教えるプログラム である。フランス語を母語とする生徒にフランス的環境を提供し、管理、運営の面でも独立 している。

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b.French Immersion Program

フランス語を母語としない生徒対象に、英語以外の教科をすべてフランス語で行うプログラム である。子どもに、二言語併用能力を身につけてほしいという保護者の要望のもとに、全カナ ダで急速に成長を遂げてきたプログラムである。イマ―ジョン教育は、早期イマージョンと後 期イマージョンがあり、早期イマージョンは第 1 学年から、後期は第 7 学年から始まる。初め は英語を除き全授業がフランス語で行われ、徐々に切り換えられる。

c.Basic French Program

マニトバ州ではフランス語は選択であり、開始時期は幼稚園、第4、7、10学年であるが、第4 学年と第7学年からの開始を進めていて、合計1080時間または720時間のプログラムを設けて いる。

 ②バイリンガルおよび遺産言語教育

マニトバ州では13の遺産言語教育が114校で実施されており、そのうちのドイツ語、ウクライ ナ語、ヘブライ語はバイリンガルのプログラムを持っており、50%の授業が英語で残りの 50%の授業がそれぞれの言語でなされている。

授業で教えられる言語として、スペイン語、アイルランド語、ラテン語、ポルトガル語、中国 語などがあるが、そのほかに5つの言語、イタリア語、パンジャブ語、タガログ語、イディッ シュ語、ポーランド語が放課後に遺産言語として教えられ、他に 26 の言語が補習コースで教 えられる。これらのコースは特定の民族集団にのみではなく、希望する生徒全員に開かれてい る。遺産言語教育は極めてまれな言語であるが、それらの言語を必要としている民族がマニト バ州に多く移住していることがこのことからわかる。

 ③先住民族の言語教育(NSL[Native Second Language]Program)

マニトバ州では先住民族に対して英語教育を行っている。都市部に住む先住民族は英語を話 し、自らの母語を学ぶ必要がないが、先住民のサバイバル学校では、先住民の文化、言語に焦 点を当てて、先住民のアイデンティティの育成を目標に運営されている。

 マニトバ州の3種類の言語教育は多文化問題を実際にカリキュラムに取り入れようと努力してい る。カナダの特徴的な言語教育の1つであるバイリンガルおよびお遺産言語教育はオンタリオ州を はじめその他の州でも実施されている。マニトバ州で行われている言語のドイツ語、ウクライナ 語、ヘブライ語による教育はマニトバ州の特色のある興味深い。

 カナダもオーストラリア同様、ニューカマーの子どもたちに対する言語教育を重要視している。

その理由として以下の8つがあげられる。これは子どもたちだけでなく、教師と保護者にも利点が あるといわれている(河原2006)。

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① 自分自身と自分の背景に対し肯定的な態度をとるようになり誇りが増す。

② 学校、社会によりよく適応するようになる。

③ 他の民族や文化をより寛容に受け入れるようになる。

④ 認識力、情緒面が発達する。

⑤ 他の言語を学ぶ力が向上する。

⑥ 就職の機会が増大する。

⑦ 親と学校間の絆が強まる。

⑧ 民族集団の要求に対応する力が培われる。

 カナダでは、法的にもしっかりと二言語主義が確立されており、きちんとした言語政策教育が行 われている。言語政策的には、二公用語を伸ばす言語教育に重点が置かれている。その背景には、

国や学校だけでなく、家庭の協力も大きい傾向がみられる。

3-3.イギリスの言語政策

 イギリスはアメリカ合衆国と同様に、英語圏諸国の中でも最も中心的な位置に置かれている。し かし、イギリスを詳しく見てみると、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド、イングラン ドの4地域に分かれており、それぞれの地域に伝わっている固有の言語が存在する。イギリスでは、

4 つに地域分けをした地域少数言語とニューカマーに対するコミュニティ言語に分類することがで きる。

 地域少数言語とは次の通りである。ウェールズではインドヨーロッパ語族のケルト語派に属する ウェールズ語がある。ウェールズの国勢調査(1991 年)によれば、ウェールズ語を話す能力があ る人は人口の 19%であることが分かった。ウェールズ語は公用語とは認められていないようだ。

スコットランドではスコットランド・ゲール語があり、ウェールズ語と同じケルト系言語である。

またスコットランド語も存在し、こちらは英語と同じゲルマン語である。北アイルランドではアイ ルランド・ゲール語で単にアイルランド語と呼ばれることも多い。イングランドの少数言語はコー ンウォール語でケルト語起源の言語である。大きく分けて4つの地域少数言語があり、法的な保護 を認められている言語と認められていない言語がある。

 地域少数言語に対し、コミュニティ言語とは移民及び子孫の保持している言語のことを指す。な お、イギリスにおいては英語を母語としない子どもたちの母語を教育の場で扱うことを Mother- tongue education(母語維持教育)と呼ぶことが多い。母語維持教育がどのようなものかという と、以下の通りに指摘される(Tollefson1991)。

① 英語以外の言語を維持しサポートするという目的

② 英語のみの授業に対応できるまで移行期間だけ母語維持教育を指示する。

③ 自分のビジネスという目的のための母語出の読み書き能力を指示する。

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 イギリスにおいて、英語と英語以外の言語を話すバイリンガリズムを、個人的だけでなく社会的 にも価値のある資源として肯定的にとらえていることが拝察される。

 次にイングランドの初等中等教育における言語教育を見てみる。イギリスにはナショナル・カリ キュラム(National Curriculum)という全国共通カリキュラムを導入している。スコットランド と北アイルランドは独自の教育課程を持っているためこのカリキュラムは適用されない。また、私 立学校は除外されている。ナショナル・カリキュラムはkey stageとして学年を4つに分けている。

初等教育段階として、key stage1 は 5 歳から 7 歳(1 学年と 2 学年)で、key stage2 は、7 歳から 11 歳(3学年から6学年)である。key stage3と4は中等教育段階で、11歳から14歳(7学年から9学 年)はkey stage3、14歳から16歳(10学年から11学年)はkey stage4と段階別になっている。

 日本と同じように「基礎教科」や「中核教科」というような、必修科目は key stage1 から key stage4まであるが、「現代外国語」は中等教育から始まる。「現代外国語」は、子どもたちが学ぶ英 語以外の言語を規定している。欧州連合の公用語は 11 言語あり、英語を除くと 10 言語である。10 言語とはフランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、フィンランド語、ス ウェーデン語、ノルウェー語、ギリシャ語である。これらのどれかを学習したのち、他の言語を学 ぶことが認められる。西ヨーロッパの少数言語でありイギリスの少数言語でもあるアイルランド・

ゲール語やウェールズ語、スコットランド・ゲール語の開講も可能である。非西欧諸国の言語はア ラビア語、ベンガル語、中国語、クジャラート語、日本語、現ヘブライ語、ペルシャ語、ポーラン ド語、パンジャブ語、ロシア語、トルコ語、ウルドゥー語などの言語が各学校の判断のもとに開講 される。イギリスはインドなど旧植民地出身の子が正規の学校教育の中で、自分たちの文化背景と もかかわってくる言語を学ぶことができれば、イングランドの多文化・多言語社会において貴重な 教育となることを主張している。

3-4.3カ国の事例から見える共通点と問題点

 オーストラリア、カナダ、イギリスの言語政策の事例を述べたが、3 つの国に共通していること として、

① ニューカマーの子どもたちの母国の文化と母国語を大事にしていること。

② 国レベルのプログラムができていること。

③ 受け入れ体制ができていること。

④ 保護者も協力していること。

⑤ 言語の選択肢が多いこと。

であると考えられる。いずれの国も日本とは歴史背景が異なり、オーストラリアとカナダはイギリ スの旧植民地であり、移住してくる民族も様々あり、人数も多いので国が早急に対応し、言語対策 のみならず、ニューカマーに対する必要な対応が迅速であったように思われる。

 疑問としてあげられるのは、学べる言語は豊富だが、それに対して教員の配置は十分で足りてい

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るのかという点である。以前、訪問したイギリスのニューカマーに配慮している小学校でさえも、

準教員もしくはボランティアとして配置されており、実際の生徒数に対して教員数は非常に少な い。学校教育の中での、言語教育をするだけでなく、やはり、保護者の協力・理解と家庭環境がど の国にも大変重要な要素になってくるであろう。

4.日本の教育分野におけるニューカマーの受け入れ

 日本全体にニューカマーが増加しているということは、教育現場にもニューカマーの子どもたち が急増している。一部の地域では保育園や幼稚園、小学校や中学校に日本語が全く通じない子ども が大量に通っているという。外国籍児童・生との義務教育諸学校への就学の取り扱は日本国籍を有 する日本人の場合と法制度上異なっている。日本人の場合は学齢期の6歳から15歳の子どもの親ま たは保護者には、その子どもに義務教育を受けさせる義務が課せられている。これにより、子ども は基礎的な教育を受ける権利を法的に保障されている。それに対し、日本国籍外の子どもの場合 は、義務としてではなく「許可」という措置によって教育のチャンスを提供される。

 就学の許可を得た外国籍の子どもに対しては日本の子どもと同様に扱うことが原則とされてい る。たとえば、「授業料の不徴収」「教科書の無償配布」「就学援助の措置」というように、公平に 受け入れるよう指導されている。

 しかし、問題点として何度も挙げているように言語の問題に直面する。日本語の理解できない子 どもたちに、日本の子どもと同様の教育を提供するのは実質的な意味を持たないので、文部科学省 は教育支援として「日本語指導」と「適応指導」を柱として政策を行っている。

 日本語指導では、1992 年度から日本語指導が必要な外国人児童・生徒が一定数在籍する学校に、

日本語指導を担当する専任教員を配置した。配置された学校では「日本語教室」や「国際教室」な どを設置して、特定の時間に対象となる子どもを原学級から移動させ、日本語の指導をする。あ た、原学級の中でも授業中に教員がそばについていて、授業内容を分かりやすく説明するなど個別 指導を行っている。

 以上の経緯をみると円滑に授業の運営とコミュニケーション向上に役に立つ方法のように見える が、日本語指導を担当する教員の実態は、たまたま日本語指導を任されたに等しく、今まで、日本 語を教えた経験のない先生がいない状態である。それゆえ、教材の選択から指導方法まで担当教員 がまさに手探りで実践を続けている。ただし、ニューカマーの子どもの在籍数が多い学校には指導 体制を設けているが少数であり、ほとんどの学校は教員の加配さえなく、担任教師や担任以外の教 師、さらに管理職が空き時間を利用し指導にあたっているようだ。そのため、しっかりした授業は できず片手間な指導になってしまうため日本語の習得まで至らない結果が現状である。このよう な、状態では子どもたちは学級内で「児童・生徒」ではなく「お客様」として過ごすことになる傾 向がみられるであろう。

 一方、適正指導とは子どもたちへの対応として日本語指導と並行して実践されるものであり、

ニューカマーの子どもたちが学校習慣や地域での暮らしに馴染み、うまく生活していくための指導

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である。自国で生活したり学校に通った経験のある子どもたちにとって日本の学校生活は多くの場 面でギャップを感じるという。日本人にとっての当たり前は彼らにとっては当たり前ではない場合 が多いであろう。日本の学校特有の「決まりごと」は限りなくある。たとえば、服装や所持品の規 制、給食や掃除の当番制、授業時の学習様式や態度、先輩・後輩関係が厳しく、長時間にわたる部 活動などが挙げられる。これは日本固有の文化であり、育つ過程で自然と身につく暗黙の了解の ルールであるかもしれない。日本の学校文化を時間をかけて馴染むこと見守ろうと思ったとして も、日常の教育活動は集団行動や協調性を前提として運営されるため、ニューカマーの子どもたち に理解させるには困難な点が多い上、その保護者にも理解がなければさらに難しくなるであろう。

 以上、「日本語指導」と「適正指導」を駆使して受け入れ体制の基盤を試行錯誤しているが、実 際には教員の確保と指導力にはまだまだ工夫すべき点がたくさんあると見受けられる。

5.社会生活言語と学習思考言語

 ニューカマー問題に対する行政側・学校側の第一の対応は日本語指導が優先であり、現実として 言葉がわからないと何も始まらないと思われる。全く日本語がわからない子どももいるが、先に述 べたように、「日常生活に必要な言語の習得は比較的できるが、学校の勉強についていけるだけの 言語能力を身につけることは容易ではない。」というニューカマーの児童もしくは生徒がいること が明らかになっている。

 日本語レベルを「生活日本語」と「学習日本語」の2つのレベルに分けることは意味があると研 究者は述べている(志水 2006)。「生活日本語」とは子どもが学校という社会の中で、先生や友だ ちと交わり、自分の意思を伝えたり相手を理解するためである。「学習日本語」とは個々の教科の 領域で使用される固有の日本語で、言い換えると専門的言語でもあり、思考するために認知的活動 言語でもある。専門家の中では日本語習得レベルをこの2段階に分けてとらえるのは一般化してい るようだ。そして、日本語指導の優先順位が「生活日本語」に傾いてしまうことも事実であるよう だ。

 この「生活日本語」と「学習日本語」をより学問的な名称に直すと「社会生活言語」と「学習思 考言語」と表現されている。子どもの年齢にもよるが、「社会生活言語」の習得には約1〜2年あれ ば普段の会話は理解ができるようになるが、「学習思考言語」には約 5 〜7 年の時間が必要である。

ニューカマーの子どもたちは日本語の初期指導を受けたのち、原学級で教科学習を受ける中で、ほ ぼ自分の力で学習思考言語を発展させなければいけない。

6.母語の重要性

 ニューカマーの子どもが日本に移住するにあたり、日本語教育の重要性を大きく取り上げるが、

実際にニューカマーの子どもは生まれた国の言葉を学ぶ必要もある。2 で挙げられた問題点の中に も母語の不安があるように思われる。「日本滞在が長期になるにつれて、母語の能力が落ち、家族 とのコミュニケーションがとりにくくなる。」と「帰国後に、母国の教育システムや授業について

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いけない」の2点に関しては生活面と教育面の不安が浮き出ている。ある教育研究によると「母語 による識字能力とその保持が第 2 言語の習得と認知的発達に不可欠な要因である」と述べられた。

つまり、学習思考言語を発達させるには母語の支えが非常に重要な役割を果たす。逆を言うと、母 語能力の衰えや未発達は日本語能力の向上に繋がらず、阻害する危険性を持っている。母語の保持 と伸長を目的とするような母語教育は必要不可欠である。

7.「日本が多言語社会になったら」と考える

 グローバル化が進んでいるといっても、現在の日本の内情はまだまだ単一民族、単一言語に近 い。多言語社会や多文化主義に関心がある人も多くはいないと思われる。実際、日本が多言語社会 になったらということを念頭に、ニューカマーと呼ばれる外国人住民について考えてみる。

 ニューカマーは日常生活で言語が原因で不利に立たされることが多い。医者のかかり方がわから ない、ゴミの出し方が分からない、アパートを借りることができないなどである。おそらく、来た ばかりだと誰に聞いたらいいのかわからないという問題もあるかと思う。言語面での負担を少しで も減らすために、行政から何かしらのサポートが必要である。そのために、地方自治体はボラン ティアからの言語サービスを必要とする。しかし、あくまでも日常生活においてのボランティア サービスなので、主要な外国語は英語、中国語、韓国語が多く、これから多く入ってくると思われ る東南アジア諸国の言葉をできる人は少ない。つまりボランティアサービスにもいずれ限界が来る のではないかと私は考える。

 学校での生活はどうだろうか。現在英語教育が盛んに行われ、異文化理解も小学校から取り入れ られている。子どもたちは異文化理解には比較的興味を示し、その場では習った言語を使用する が、まだ実際に利用する場面は少ないであろう。しかし、確実にニューカマーは増加している。日 本語がゼロに近いニューカマーの子どもにどう接すればいいか、せめて英単語をつなげて、習得し た英語を使用してほしいと思う。

 一方、ニューカマーも日本語を徐々に覚えていくだろう。日本人が外国語を習うように、ニュー カマーも日本語の単語と単語をつなぎながら話せるようになるとする。これはある意味、日本人が 使用する日本語と異なる日本語にあたるので、ピジン日本語になるかもしれない。もし、日本に移 住している期間が長くなればなるほど、日本語も上達し中間言語(Interlanguage)を話し始める かもしれない。そうなれば、ニューカマーの子ども保護者も心地よく日常生活や学校生活を過ごす ことが確立されていくだろうし、少しは条件のいい職も確保できるかもしれない。

 学校教育の中でできることはなんであろうか考えてみる。学校には先生がいる。教員は言語教育 だけでなく、その他の教科、生活指導をしなければならない。よって担任が一人でできる仕事量で はない。やはり言語教育は、専門の教員の配置がいる。コーディネータのような人を育成し、学校 で活躍してもらうことも可能かと思う。そして、オーストラリア、カナダ、イギリスの言語教育よ うに放課後や休み時間の時間を利用し、補習の時間を作るべきであると思う。また、学校や市民会 館のような公的施設を利用し、ニューカマーの保護者向けの言語の授業や情報交換の場を週1回で

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も作ることも1つのアイディアだと思う。その基盤を作るためには、地方自治体や地域の連携、学 校の協力的な姿勢が理想とされる。

8.まとめ

 日本の学校教育の外国語教育も他国同様、様々な工夫を積み努力をしている。しかし現在は、私 たちが理解していた日本語や英語の姿は徐々に変化してように感じる。つまり、今まで馴染みの薄 かった言語が多数、日本社会に入って来ている。そのような現状下、目の前まで来た多言語社会に 備える言語対策が、早急に必要だと考える。2 でも述べた通り、すでに日本に住んでいるニューカ マーの子どもたちは様々な問題の壁にぶつかっている。言語教育だけでなく、労働、生活、家庭環 境など総括して問題点を解決していくためには、日本にとって先輩の国にあたるオーストラリア、

カナダ、イギリス、その他多くの国の言語政策を学び、どのような方法が日本の多言語社会にプラ スになるのか考察しなければならない。今後の展望として、言語政策をするうえで、英語に限らず 他の外国語の必要性、学校数に対して必要な教員数の確保、時間割の中に特別カリキュラムを実施 するための方法の研究を続けていく。

謝辞

 本研究を行うにあたり、東京家政大学の矢田教授にご助言とご指導を承りました。本当にありが とうございます。

参考文献

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6) 河原俊昭.多言語社会がやってきた.くろしお出版,2004,p.247.

7) 河原俊昭.外国人と一緒に生きる社会がやってきた.2007,p.152.

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9) 志水宏吉.ニューカマーと教育.明石書店,2006,p.413.

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11) 田尻英三.外国人の定住と日本語教育.ひつじ書房,2004,p.202.

12) 田中慎也.移民時代の言語教育.ココ出版,2009,p.279.

13) 春原憲一郎.移動労働者とその家族の為の言語政策.ひつじ書房,2009,p.168.

14) 山本忠行.世界の言語政策2.くろしお出版,2007,p.264.

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