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地域蒸発散量の推定に関する研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 岡 田 啓 嗣

学 位 論 文 題 名

地域蒸発散量の推定に関する研究 学位論文内容の要旨

  地表面からの蒸発散量は、地表の熱収支項および水収支項のーっとして、地上の熱と水 の配分を支配している。したがって蒸発散量は、その地域の気象,気候、水資源等を評価す るうえで重要な量として位置付けられている。特に農地では、蒸発散量が作物栽培にとっ て重要な気温、地温、湿度など気象要素を支配しているだけでなく、土壌の水消費量にも 影響しているため、灌漑計画など水利用計画策定の基礎資料としてその把握が重要視され ている。またその場合、広域的な水資源評価と水利用計画を関連付けるため、最近では地 域 全 体 の 蒸 発 散 量 、 っ ま り 地 域 蒸 発 散 量 の 把 握 が 必 要 に な っ て い る 。   観測で蒸発散量を把握するには、熱収支法、空気力学的方法、組み合わせ法、水収支法 などの方法がある。しかしこれらの方法は、そのほとんどが地表面のある一点における水蒸 気輸送現象を観測して蒸発散量を求める方法であるため、これらの方法で地域蒸発散量を 求めるには労カと費用をかけて観測点を増やさなければならない。また、地域蒸発散量を 直接把握できる方法は流域水収支法であるが、この方法は長期にわたる精度の良い水文観 測を必要とするため、実用的ではない。また最近では人工衛星データを使った手法も検討 されているが、実用化には至っていなぃ。このように、広域的な蒸発散量把握の必要性が高 まっている中で、地域蒸発散量を精度良く把握する有効な手法はまだ確立されていない。

  本研究は、このような従来における蒸発散量の観測法あるいは推定法の問題点を踏まえ、

広域的な地域蒸発散量を精度良く推定する手法を開発することを目的に、地表面を、平坦 で均一な地表面、平坦で不均一な地表面、起伏のある複雑地形の地表面の三っに分けて、

それぞれに適した方法を検討し、新しい方法で地域蒸発散量の推定を試みたものである。

  研究結果の概要は以下の通りである。

1.均一な地表面における地域蒸発散量の推定

  まず最初に、従来の方法でも地域蒸発散量の把握が可能な平坦で均一な地表面からの蒸 発散量に焦点を当て、洞爺湖における広域水面からの蒸発量推定法を検討した。観測は、洞 爺湖の湖岸と湖面に浮かべたブイで行い、湖岸では正味放射量を、ブイでは水温(深さ45m まで6点)、 および気 温、湿 度、風速を、1995年から2年間連続して観測した。そのデー タをもとにポーエン比法、ペンマン法で湖面蒸発量を計算し、表面水温を使ったプレスト リ・テーラ法(P‑T法)による計算値と比較した。

  その結果、洞爺湖の蒸発量は夏期に少なく冬期に多い、という深い湖特有の季節変化が 得られた 。また、P‑T法の係数aは0.962という1に極めて近い値が得られた。表面水温を 使った場 合、P‑T法の係数aは理論的に1になるが、本研究はこれをデータから検証した結 果になった。これにより、水面に限らず表面が飽和した均一な地表面では、有効工ネルギ ーと地表 面温度の観測値だけからP‑T法で簡単に蒸発散量が推定できる可能性が示唆され

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た。またこの結果を使って、北大洞爺湖臨湖実験所が観測している湖岸の表面水温のデー タか ら過去16年 間の湖 面蒸発量 を推定し た結果 、蒸発量 の年平均値は約620mmで、1982 年から1990年にかけてはやや減少し、その後は再び増加する傾向にあることが分かった。

2.不均一な地表面における地域蒸発散量の推定

  平坦で不均一な地表面における地域蒸発散量を精度良く推定する手法を開発することを 目的に、今までの人工衛星データを使った手法を改良し、人工衛星データと気象台の高層デ ータを組み合わせた新しい手法を開発した。本手法は、ある面積の地表面の特徴を土地利用 分類をもとに有効粗度長、有効地面修正量などの有効パラメータとして与え、混合層の概念 を使 って熱収 支を計算 する点 に特徴が ある。 具体的に は、まずLANDSATーTMデータをも とにメッシュ毎に土地利用分類を行い、その土地利用構成に応じて各メッシュの有効粗度 長を 計算し、 次にNOAA ‑ AVHRRデ ータから表面温度とアルベドを求める。さらにこれら のデータからメッシュの正味放射量を計算し、最後に高層気象データから求めた混合層の 温位 と地表面 温度から 顕熱伝 達量を計算して潜熱伝達量を求める、という方法である。

  本方 法で石狩 平野に おける2地域の地域蒸発散量の推定を試みた結果、1993年7月にお ける 朝8時の蒸発散量はO.20mm/hから0.25mm/hいうほば妥当な値が得られた。研究の性 質上、厳密な検証はできなかったが、P‑T法による計算値と比較した結果、本方法の方が土 地利用の影響がより強く現れることがわかった。これにより本方法が、土地利用が複雑な 地域における地域蒸発散量の推定に優れていることが明らかになった。本方法は、人工衛星 データを使った新しい方法であり、人工衛星による地上データの取得が徐々に整備されて いる状況の中で、今後の有カな手法になり得ると考えられる。

3.複雑地形における地域蒸発散量の推定

  起伏のある複雑地形における地域蒸発散量の推定法を開発するため、母子里盆地で係留 気球による気象観測を実施し、盆地の地域蒸発散量の推定を試みた。本方法は大気熱収支法 に属するが、大気熱収支法については平坦な地表面での観測例がいくっかあるだけで、起 伏のある複雑地形における観測例・検討例はほとんどない。本研究では、まず複雑地形の 日射量分布を推定するモデルを開発し、そのモデルを使って盆地斜面の日射量を計算した。

次に、係留気球による高層気象観測と地上の熱収支観測、および気圧差を利用した盆地気 層の貯熱変化量を推定する手法を組み合わせ、盆地地形におけるニつの気層(盆底BBL,盆 地全 体WBL)の 大気 熱 収 支 を計 算 し た。 な お 地上 ( 盆 底BBL)の熱 収支は、 渦相関法 お よ び ル ー チ ン 観 測 デ ー タ だ け を 使 うPー T法 で 蒸 発 散 量 を 計 算 し て 求 め た 。   大気熱 収支法で 計算した 結果、2000年夏期 における 母子里盆 地全体(WBL)の昼間の蒸 発散 量は最 大0.8mm/hという 値が得ら れた。ま たこの 値は盆底(BBL)の 値より大 きかっ た。これは盆地斜面では正味放射量が相対的に大きく、また森林植生で覆われているため 盆底より蒸発散量が大きいことが原因と考えられた。したがって、複雑地形における蒸発 散量の分布を大気熱収支法でより詳しく把握するには、正味放射量の分布を精度良く推定 する モデル が必要 であるこ とが分 かった。 また盆 底(BBL)で は、渦 相関法とP‑T法で 計 算したニ つの蒸発散量に高い相関が認められた。以上より、2高度の気圧と日射量、韜よ ぴ気温の ルーチン観測データがあれぱ、大気熱収支法とP‑T法を組み合わせて、盆地地形 の地域蒸発散量が推定可能であることが示された。

  以上のように、本研究は、ある広がりをもった領域の地域蒸発散量を推定する手法を開 発することを目的に、条件が異なる三つの地表面を対象に、従来のP‑T法を修正した方法、

人工衛星データと高層気象データを組み合わせた方法、および重なり合うニっの気層の大

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(3)

気熱収支を計算する方法、の三つの新しい方法を開発し、それぞれの地域蒸発散量の推定を 試みたものである。本研究で得られた結果は、今後の地域蒸発散量の推定に大きく貢献す るものと考えられる。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

地域蒸発散量の推定に関する研究

  本論文は5章 からなる 頁数120の和文 論文で、 図55、表9、引用文献89を含んでいる。

他に参考 論文4編が添 えられて いる。

  地表面からの蒸発散量は、その地域の気象・気候、水資源等を評価するうえで重要な量 である。特に農地では、蒸発散量が気温、地温、湿度などに強く影響を与えているだけで なく、圃場の水消費にも影響するため、灌漑計画などの基礎資料としてその把握は重要で ある。またその場合、地域スケールでの蒸発散量、っまり地域蒸発散量の把握が重要にな る。観測で蒸発散量を把握するには、熱収支法、空気力学的方法など様々な方法があるが、

これらの方法はそのほとんどが地表面のある一点における蒸発散量を求める方法であり、

地域の代表値としては精度が悪い。現在、地域蒸発散量把握の必要性が高まっているにも か か わ らず 、 広 域的 な 値 を精 度 良 く把 握 す る 有効 な 手 法は ま だ 確立 さ れていな い。

  本研究は、このような従来における蒸発散量の観測法あるいは推定法の問題点を踏まえ、

広域的な地域蒸発散量を精度良く推定する手法を開発することを目的に、地表面を、平坦 で均一な地表面、平坦で不均一な地表面、起伏のある複雑地形の地表面の三っに分けて、

それぞれに適した方法を検討し、新しい方法で地域蒸発散量の推定を試みたものである。

  結果の概要は以下の通りである。

1.均一な地表面における地域蒸発散量の推定

  最初に平坦で均一な地表面に焦点を当て、洞爺湖における広域水面からの蒸発量推定法 を検討した。観測は、洞爺湖の湖岸と湖面に浮かべたブイで行った。そのデータをもとにポ ーエン比法、ペンマン法で湖面蒸発量を計算し、表面水温を使ったプレストリ・テーラ法 (P‑T法)に よる計 算値と比 較した 。その結 果、P‑T法の係 数aは1に極めて近い値が得ら れた。表面水温を使った場合、dは理論的に1になるが、それを実証した研究はほとんどな

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士 宏

慎 正

   

野 沢

   

矢 谷

授 授

授 授

   

   

教 教

教 教

助 助

査 査

査 査

主 副

副 副

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く、本研究はこれをデータから検証した結果になった。これにより、水面に限らず表面が 飽和し た均一な地表面では、有効エネルギーと地表面温度の観測値だけからP‑T法で簡単 に蒸発散量が推定できる可能性が示唆された。また本研究で開発した方法により、洞爺湖 の 蒸 発 量 は 夏 期 に 少 な く 冬 期 に 多 い、 と い う深 い 湖 特有 の 季 節変 化 が 得ら れ た 。

2.不均一な地表面における地域蒸発散量の推定

  平坦で不均一な地表面における地域蒸発散量を精度良く推定する手法を開発することを 目的に、従来の人工衛星データを使った手法を改良し、人工衛星データと気象台の高層気象 データを組み合わせた新しい手法を開発した。本手法は、ある面積の地表面の特徴を土地利 用分類をもとに有効粗度長、有効地面修正量などの有効パラメータとして与え、混合層の概 念を使っ て熱収支を計算する点が特徴である。本方法で石狩平野における2地域の地域蒸 発散量の推定を試みた結果、夏期早朝の蒸発散量としてO.20mm/hから0.25mm/hいうほぼ 妥当な値が得られた。研究の性質上、厳密な検証はできなかったが、P‑T法による計算値と 比較した結果、本方法による推定結果の方が土地利用の相違に伴う蒸発散量の空間分布を より現実的に表現できることがわかった。これにより本方法が、土地利用が複雑な地域に おける地域蒸発散量の推定に優れていることが明らかになった。

3,複雑地形における地域蒸発散量の推定

  起伏のある複雑地形における地域蒸発散量の推定法を開発するため、母子里盆地で係留 気球に よる気象 観測を実施し、大気熱収支法とP‑T法を組み合わせて盆地の地域蒸発散量 を推定した。大気熱収支法については、平坦な地表面での観測例は数例あるが、複雑地形 における観測例はほとんどない。本研究では、まず複雑地形の日射量分布を推定するモデ ルを開発し、そのモデルを使って盆地斜面の日射量を計算した。次に、係留気球のデータと 2高度 の気圧 および地 上観測 データを 使って 、盆地地形におけるニつの気層(盆底BBL, 盆地 全 体WBL)の 熱収 支 を 計算 し て 盆地 全体の 蒸発散 量を求め た。な お盆底(BBL)の蒸 発散 量 は 渦相 関法とP‑T法で計 算した 。その結 果、夏 期におけ る母子 里盆地全 体(WBL) の昼 間 の 蒸発 散量は最 大0.8mm/bという値 が得ら れた。ま たこの値 は盆底(BBL)の値 よ り大きかった。これは盆地斜面では正味放射量が相対的に大きく、また森林植生で覆われ ている ためと考 えられた。  以上の結果から、2高度の気圧と日射量、および気温のルー チン観 測データ があれば、大気熱収支法とP‑T法を組み合わせて、盆地地形の地域蒸発散 量の推定が可能であることがわかった。

  以上のように、本研究は、ある広がりをもった領域の地域蒸発散量を推定する手法を開 発することを目的に、条件が異なる三つの地表面を対象にそれぞれの条件に応じた新しい 方法を提案したものであり、その成果は学術上、応用上高く評価される。よって審査員一 同は 、 岡 田啓 嗣 氏 が博 士 ( 農学 ) の 学位 を 受 け るの に 十分な 資格があ ると認 めた。

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参照

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