博 士 ( 水 産 科 学 ) 丸 山 英 男
学 位 論 文 題 名
Adsorptive Bubble Separation Techniques for Enrichment of Organic Substances Dissolved in Water ( 起 泡 吸 着 分 離 操 作 に よ る 水 中 溶 存 有 機 物 質 の 濃 縮 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
起泡吸着分離法(Adsorptive Bubble Separation Technique)とは物質が有する界 面活性を利用してその分子あるいは粒子が存在する溶液中に通気を行い気泡を分散 させ,気泡表面に吸着または付着させることにより浮上させて水相中から分離する方 法の総称である.本分離法は泡沫層を必要とする泡沫分離法(Foam Separation),お よび,泡 沫生成を必 要としない 非泡沫分離 法(Nonfoaming Adsorptive Bubble Separation)に大きく二分されている.起泡吸着分離操作は装置に動力部または可動 部が少なく,容易に連続操作に拡張できることから,低エネルギー・低コストで分離 操作を行えるという利点がある,古くから鉱工業において鉱石中の鉱物を選択的に分 離回収を行なう浮遊選鉱法として適用されていることをはじめ,1960〜70年代には 下水中からの直鎖アルキルスルホン酸などの合成界面活性剤の除去やその他の廃水 処理などに盛んに応用されてきた.水産分野では活魚輸送における養魚水槽水の水 質浄化などに応用され,今後は水産加工場などからの廃水中に希薄に溶存する有 用な水溶性タンパク質の濃縮回収やその廃液一次水処理への適用,さらには,水 産分野に限らず溶存する有用なバイオプロダクツの分離回収などに対して,起泡吸 着分離操作の重要性がますます高まると考えられる.
これまで報告された起泡吸着分離法に関する研究では,気泡分散相内での気 泡と界面活性物質の吸着平衡関係および液相と泡沫相または液滴相との平衡関係は 一部の合成界面活性剤を除きほとんど明確にされていなかった.また,液相と泡沫 相との平衡関係についても検討はされていたものの,厳密に液一泡沫および液滴生 成面でその平衡関係を明らかにした研究はほとんど行われていない.また,上述の ようにタンパク質・酵素の分離・回収などーの関心が高まる中で,その応用的研究 は多数報告されているが,濃縮機構およぴ分離操作に関する化学工学的研究はほ とんど報告されていないのが現状である.さらに,非泡沫分離法に至ってはLemlich らによってその操作原理は提唱されたものの,これ以後,発展的研究がまったく行わ れていなぃ.
本研究では起泡吸着分離法の二大柱である泡沫分離法および非泡沫分離法に よる溶存有機物質の濃縮過程には気泡分散相における吸着,および,液滴または泡 沫相における濃縮という二段階の濃縮機構が存在すると考え,その機構解明に取り 組んだ.各章の内容は以下の通りである,
第 一 章 で は 非 泡 沫 分 離 法 の濃 縮 機 構 解 明 お よ び 応 用 的 濃 縮 操 作に つい て検 討 を 行 っ た. 泡沫 の生 じな い界 面活 性物 質水 溶液 に通 気した 時に 液面 部に は気 泡の 崩 壊 に よ り微 細な 液滴 が多 数生 じる .著 者は この 液滴 中に界 面活 性物 質が 濃縮 され て い る こ とに 着目 し, 液滴 を回 収す るた め吸 引式 捕集 装置を 考案 し, 気泡 塔塔 頂部 に 取 り 付 け , 非 泡 沫 分 離 法 に お ける 有 機 界 面 活 性 物 質 の 気 泡 表 面 へ の吸 着挙 動を 明 ら かにす るの 実験 を行 なっ た. モデ ル物 質と して 分子 量の 異なる2つの有機界面活性 物質であるクリスタルバイオレットとフミン酸を用いた.塔内液面部から発生する液滴中 に 含まれ る目 的物 質に 関す る物 質収支式を用いて非泡沫分離法において成立するラン グ ミュア 型吸 着等 温式 を導 き, 実験結果から吸着平衡定数と飽和吸着量を求めた.さ ら に,この2つの吸着パラメタを用いて液滴濃縮率を計算し,これを実験値と比較し,
両 者は非 常に 良く 一致 する こと を確認した.さらに本研究において開発した液滴捕集 器 を用い るこ とに より 液滴 流量 の鉛直方向分布を明らかにし,液滴捕集器の捕集性能 お よ び 得ら れる 回収 濃縮 液の ガス 空塔 速度 およ び溶 液初期 濃度 の影 響を 明ら かに し た , そ の 結 果 , 特 に 溶 液 初 期 濃 度 の 影 響 は 大 き く ,濃 縮 率 は 濃 度 範 囲 で3つ の 領 域 に 大 別 さ れ , 低 濃 度 領 域 (10ppm以 下 ) で 約15倍 以 上 の 濃 縮 率 で あ る こ と , ま た , 高 濃 度 領 域 (20ppm以 上 ) で は 生 じ る 泡 沫 最 上 部 か ら の 液 滴 捕 集 が 可 能 で あ ることが明かとなった.
第二 章で は卵 白ア ルブ ミン(OA)およびへモグロビン(HB)をモデル物質として水溶 性 タンパ ク質 の泡 沫分 離に よる 分離機構に関して実験的検討を行った.タンパク質は よく知られているように両性電解質であり,溶液の水素イオン濃度(pH)によって見かけ の疎水性度が変化することが知られていることから,pHの影響も併せて検討を行った.
気 泡 層 にお ける 吸着 量を 正確 に測 定す るた めに ,気 泡塔分 離装 置上 部に 取り 付け る 泡 沫 液 捕 集 装 置 を 考 案 し , 泡 沫鉛 直 方 向 の 泡 沫 液 流 量 お よ ぴ 液 濃 度の 測定 を試 み た . 実 験 の 結 果 , 泡 沫 液 量 お よび 液 濃 度 は 泡 沫 高 さ の 増 加 と 共 に 指数 関数 的に 減 少および増加することが明らかとなった.非泡沫分離法で行ったように高さゼロ点(液 一 泡沫界 面) ヘ補 外す るこ とに より実験的に液一泡沫界面における泡沫流量および液 濃度を決定することができた.これらの値とガスホールドアップの測定から推算した塔 内 気泡表面積生成速度から気泡表面/丶丶の吸着量を決定することができた.塔内平衡 濃 度 と 平衡 吸着 量の 関係 はラ ング ミュ ア型 の吸 着等 温式が 実験 を行 った すべ てのpH 範 囲で成 立す るこ とが 明か とな らた,特に飽和吸着量は各タンパク質の等電点で最大 値 を示し た. 飽和 吸着 状態 にお いて は2次 元最 密充 填構 造で あるとの仮定より求めた タ ンパク 質分 子の 円相 等径 は等 電点で最小となり,等電点の両側(酸およびアルカリ 側)ではより大きな値を示した.このことから気泡表面に吸着したタンパク質分子間距離 は 主 に 静 電 気 的 反 発 カ に よ っ て 決 定 さ れ る こ と が 示 唆 さ れ た . ま た ,Tanford‑
Scatchardモ デ ル か ら 推 算 し た タ ン パ ク質 分子 実効 電荷のpH変 化と 上記 の円 相等 径 のpH変 化 は 定 性 的 に 一 致 し た .さ ら に 等 電 点 で 求 め ら れ た 円 相 等 径は 結晶 構造 解 析 や微少 角X線散 乱法 から 求め られた 分子 次元 とほ ば一 致す るものであった.このこ と は 著 者が 行っ た泡 沫流 量お よび 液濃 度の 鉛直 分布 測定と 補外 法の 正当 性を 支持 す るものである,
第 三章 では 非泡 沫分 離法 にお ける 濃縮 率推 算の ための 相関 式の 決定 を次 元解 析 に よって 検討 した .気 泡に 同伴 され液滴となって打ち上げられる塔内溶液は気泡外殻 より平均距離6に存在する塔内液(実効液膜厚さ)であると仮定した.気泡径および6ヘ ー177−
の液物性(液粘度,表面張力)および操作条件(ガス空塔速度)の影響は粘性力,表面 張 力 , 慣 性 カ お よ ぴ重 カ を 考 慮 し , 種 々 検 討 し た 結果 ,気 泡径 と6の 比は 無次 元数 のオーネゾルゲ(Ohnesorge)数Zのべき関数(aZロ;のおよぴ口は実験により決定される)
で表 現で きる こと が明 かと なっ た. また液 一泡沫界面における泡沫液流量も同様の関 数形で表現しうることが明かとなった.特に液滴流量に対しては液粘度および表面張カ の変化が,また泡沫液流量に対しては表面張カが大きく影響を与えることが明かとなっ た. 本章 で提 案し た相 関式 と第 一お よび第 二章で決定された吸着パラメタである吸着 平 衡 定 数 お よ び 飽 和吸 着量 を用 いて 算出 した 気泡層 の濃 縮率 は非 泡沫 分離 法お よび 泡 沫 分 離 法 に つ い て 各 々 誤 差 30% お よ び35% 以 内 で 評 価 可 能 で あ っ た . 第 四 章 で は 流 通式 泡 沫 分 離 に お け る 泡 沫 鉛 直 方 向 の 濃 縮 率 予 測 の た め に簡 単 な 物 理 モ デ ル を 提 案し た, 物理 モデ ルは 液一 泡沫界 面に 集積 して 泡沫 を形 成す る気 泡の 流動 を考 慮し ,ま た, 気液 平衡 関係に は第ーおよびニ章で求めたラングミュア型 吸着 等温 式を 用い た. さら に本 モデ ルは未 知パラメタとして,気泡崩壊頻度めおよび 補正 形状 係数 のを 含む 形で 構築 した .この2つ のパ ラメ タは 泡沫 鉛直方 向において泡 沫高さの増加に伴い,泡沫中の気泡セルは崩壊または合一により気泡径が大きくなり,
そ の 形 状 は 多 面 体 への 変化 の程 度を 表す 物理 的意味 を有 する もの であ る. 実験 から 得た 泡沫 液濃 度に 対し てモ デル を適 用し, 最小 二乗 法に よっ て2つの未 知パラメタの 決定 を行 った ,モデルはほとんどの実験結果と良く一致し,適切な2つのパラメタを与 えることによって泡沫鉛直方向の濃縮率を予測しうることが明かとなった.このモデルに よ っ て モ デ ル か ら 決定 され た気 泡崩 壊頻 度お よぴ補 正形 状係 数は 塔内 平衡 濃度 の増 加と 共に 減少 した .濃 度の 増加 に伴 い表面 張カも増加することから,タンパク質濃度 が増 加す るに 伴い 鉛直 方向 の気 泡崩 壊は少 なくなり,また,気泡の形状はより球形に 近い形を保っことを示唆するものであり,これまで物理学的観点から説明されている泡 沫の 定性 的性 質と一致した.また,モデルから推算される2つのパラメタは泡沫層の状 態 を 説 明 し う る 化 学 工 学 的 指 標 と 見 な せ る こ と が 明 か と な っ た . 第 五 章 で は 第 一章 から 第四 章の 中で 論じ られて きた 気泡 分散 層で の吸 着濃 縮機 構 , お よ び , 液 滴 また は泡 沫生 成に よる 濃縮 機構を 総合 し, 実操 作を 念頭 にお いた 図解 法に よる 濃縮 率予 測方 法に つい て諭じ た.処理液濃度(塔内初濃度),塔内平衡 濃 度 , 濃 縮 液 濃 度 ,ガ ス 体 積 流 量 , 処 理 液 供 給 体 積 流 量 お よ び 濃 縮 液 体 積 流量 を 操作パラメタとした.実験から得られた平衡曲線と操作線によって任意の操作条件によ る濃 縮率 を予 測す る事 が可 能と なっ た.ま た,本図解法により多段型装置設計の際の 必要 段数 も算 出が 可能 とな った .さ らに泡 沫分離の場合について,実験値と計算値の 比較を行い,誤差35%以内で予測できることが明かとなった.
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Adsorptive Bubble Separation Techniques for Enrichment of Organic Substances Dissolved in Water
(起泡吸着分離操作による水中溶存有機物質の濃縮)
水 中 に 溶存 し て い る 有機 物 質 を 効 率的 に 分 離 除 去 する 操 作 は , パイ オ 工 業 に よっ て生 産され た反 応物 か ら の 有 用 成分 の 回 収 や , 水圏 環 境 の 汚染防 止に 関連す る工学 にとっ て非常 に重 要であ り,低 コスト でか つ 優れ た性能 をもつ 分離プ 口セス が要 求され ている 。この 分野 に関し ては, これま でにも 種々 の方法 が提案 さ れて いるが ,有機 物,特 に生物 由来 の物質 の多く がもっ てい る界面 活性と いう特 性を利 用し た起泡 分離操 作 は, ランニ ング・ コスト が他の 手段 に比べ て少な いなど の点で有カな方法である。また,一般的な吸着の理 論 に つ い て は ,Langmuirの 有 名 な 理論 以 来 , 比 較的 単 純 な 気 相 吸着 か ら よ り 複雑 な 液 相 吸 着へ と 活 発 に 研 究 が 行 われ て き た が , 気泡 を 吸 着 剤とし た起 泡分離 に関し ては, 未だ吸 着機 構を統 一的に 理解し よう と する 研究は 少ない のが現 状であ る。
本研究 は,水 中に溶 存す る界面 活性を 有する 有機物 質を ,気泡 を吸着 剤とし て用 いるこ とによ って除去あ る いは 回収す る操作 の確立 を目指 した もので あり, この課 題に 対し, 理論と 実験の 両面か ら総 合的に 研究し た もの である 。本論 文で得 られた 重要 な成果 を要約 すると 以下 の通り である 。
(1)起 泡 分離 操 作 を 泡 沫分 離 操 作 と 非泡 沫 分 離 操 作の2っ に 大 別し , そ の 両 者 に共 通 する 分離機 構と, 異 な る分 離機構 につい て,簡 単で有 用な モデル を構築 するこ とに よって ,起泡 分離操 作を統 一的 に扱う ことを 可 能 に し た点 。(2)申 請 者 が 初 めて 提 案 し た 非 泡沫 分 離 操 作 につ い て , そ の濃 縮 機 構 を モデ ル に よ っ て 解 明し ,その 原理に 基づい て実際 にフ ミン酸 とクリ スタル バイ オレッ トの濃 縮分離 を独自 の工 夫を加 えた気 泡 塔 に よ っ て 濃 縮 実 験 を 行 い , 気 泡へ の 有 機 物 の吸 着 に 対 し てもLangmuir型 の等 温 式 が 成 立す る こ と を 確 認 し , それ ぞ れ の 物 質 に対 し て , 気泡に 対す る正確 な飽和 吸着量 および 吸着 平衡定 数を求 めるこ とを 可 能に し,さ らにこ の2つの吸 着バラ メータを用いて回収液滴の濃縮率を計算し,実験結果とよく合うことを確 認 し た 点 。(3)上 部に 申 請 者 が 独自 に 考 案 し た 泡沫 捕 集 装 置 を取 り 付 け た 気泡 塔 に よ っ て, 卵 白 ア ル ブ ミ ン と へ モ グロ ビ ン を モ デ ル物 質 と し た泡沫 分離 実験を 行い, 鉛直方 向の泡 沫液 流量お よびタ ンパク 質濃 度 を 実 測 し ,こ れ ら の 値 が 高さ の 増 加 ととも に指 数関数 的に指 数関数 的に減 少あ るいは 増加す ること を明 ら か に す る とと も に , 塔 内 液平 衡 濃 度 と 気泡 へ の タ ン パク 質 吸 着 量 がす べ て のpHに おい てLangmuir型の 吸 着 式 に 従 うこ と を明 らかに した点 。(4)上述 の測定 結果に 基づき ,飽 和吸着 状態に おいて は,夕 ンバ ク質 が 気 泡 表 面 上 で2次 元 最 密 充 填 構 造 を と っ て お り , そ の 分 子 サ イ ズ のpHに よ る 変 化 はTanford− Scatchardモ デ ル か ら 推 算 レ た 値 と定 性 的 に 一 致す る こ と を 示し た 点 。(5)非 泡 沫 分 離法 に お け る 濃縮
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翼 治
豊 夫
賢
和
木
橋
下
鈴 林
板 宮
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
率推算 におい て必要 な,塔 内液表 面での 破裂液 滴のサイ ズを次 元解析法によって考察し,液滴径が Ohnesorge数の べキ関数に従うことを明らかにした点。(6)流通式泡沫分離プロセスにおける泡沫取り 出し高さを変化させたときの濃縮率の予測する物理モデルを構築し,このモデルが実験結果によく適合す ることを明らかにした点。(7)上述した成果を総合し,実操作に有用な,扱う物質の特性と操作条件が与え られた場合の,図解法による濃縮率の予測法を提案した点。
以上を 要する に,本論文は水中に溶存している界而活性を有する有機物質の気泡を吸着剤として用い た分離操作に新しい概念を導入することによって一般的なモデルを提示し,これに基づいて実用的で優れ た起泡分離層操作が具備すべき条件を明確に示したものである。本研究の成果は,分離プ口セス工学,水 産環境工学,水処理工学の分野のみならず,気液界面に対する吸着の物理化学に対し寄与するところが 大 き い 。 よ っ て 審 査 員 一 同 は 博士 ( 水 産 科学 ) の 学 位を 授 与 さ れる 資 格 あ るも の と 認 める 。
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