博 士 ( 工 学 ) 鈴 木 恵 二
学 位 論 文 題 名
Hypercube Learning of Autonomous Distributed Systems
( 自 律 分 散 シ ス テ ム の ハ イ バ ー キ ュ ー ブ 学 習 に 関す る 研 究 )
学位論文内容の要旨
こ の 論 文は 以 下 の3っの 自 律 分 散 シス テ ム の 学 習に 関し て研究 した成 果をも とめた もの であ る6す なわ ち遺 伝的ア ルゴリ ズム, 連想 記憶モ デル, および マルチ 口ボ ットシ ステム である 。近 年 ,自律 分散 システ ムはそ の柔軟 性, 適応性 からこ れまで の手法 では 扱いに くかった様々な問題 へ の応用 が進 んでい る。こ れらの 望ま しい性 質を支 えてい るのが 学習 であり ,その能カをさらに 高 めるの もま た学習 手法に かかっ てい る。本研究の課題は各システムにおける適応的能カの拡充,
さ らには 新た な柔軟 性の付 加を学 習を 通じて 行おう とする もので ある 。まず 対象となる自律分散 シ ステム の枠 組みに 関して ,本論 文で 取り上 げられ る自律 分散シ ステ ムが, ハイパーキューブ上 に 定義さ れる ハイパ ープレ ン操作 と, その学 習を陰 的に実 現して いる システ ムである,という特 徴 に共通 して いるこ とを議 論した 。こ の操作 に基づ いた学 習をハ イパ ーキュ ーブ学習と名付けて い る。こ の陰 的学習 を遺伝 的アル ゴリ ズムは 遺伝的 操作に より実 現し ており ,連想記憶モデルは エ ネルギ ー最 小化と いう動 作によ り実 現して いる。 マルチ 口ボッ トシ ステム として,特に口ボッ ト 郡の協 調作 業によ って特 徴付け られ るシス テムを 想定し ,協調 作業 に関わ る口ボット同志の共 有 資源配 置が ,ハイ パープ レン操 作の 枠組み に入る ことを 明らか にし ている 。本論文で提案して い る各学 習手 法は, ハイパ ープレ ン操 作に着 目した もので ある。 すな わち遺 伝的アルゴリズムに 対 して, ハイ パープ レン操 作を陽 に取 り扱う ニっの 学習手 法を提 案し ,特に その一手法は従来の 遺 伝的操 作に よって 陰的に 獲得さ れた ハイパープレンを抽出し,探索制限に利用するものである。
連 想記憶 モデ ルに関 しては ,従来 手法 の能カ を拡充 させる 反学習 操作 を導入 し,提案する手法の イ ンプリ メン トに関 して形 式的・ 実験 的に考察を行なっている。また連想記憶モデルが,ハイパー プ レン学 習に より獲 得した ,引込 領域 からの 知識抽 出とい う課題 を提 案し, 遺伝的アルゴリズム に よるア プ口 ―チに っいて 考察し てい る。マ ルチロ ボッ卜 システ ムに 関して は,ロボット群の組 織 化問題 に対 し,確 率的選 択手法 に基 づく学 習手法 にっい て議論 を行 なって いる。以上,各シス
406
テム に対し ハイパ ーキュ ーブ 学習の 観点から学習法の提案を行ない,その有効性を確かめている。
また 特に遺 伝的ア ルゴリ ズム と連想 記憶モ デルに 関し てはハ イパー キュー ブ学習 によって得られ た学 習結果 を引き 出し利 用す るとい う課題 を提案 し, その課 題に対 するア プロー チを示しその有 効性 を確か めてい る。
本論 文は以 下の6章か ら構 成され ている 。 第1章に おいて は本論 文の 概要を 述べて いる。
第2章 は「自 律分 散シス テム」 と題し ,まず 一般 的な定 義とし て自律 分散 システ ムの行 動関数 と, その行 動から のフィ ード バック を受け て,シ ステ ムの内 部パラ メ一夕 を分散 的な自律系の関 数に よって 変化さ せる動 的シ ステム として の構造 を定 義した 。この 定義か ら自律 分散システムに よる 問題解 決とは ,自律 性を 利用し た代替 え的手 法で あるこ とを議 論して いる。 さらに本論文で 取 り 上げ るシス テム は,n次元 ハイパ ーキュ ―ブ上 に定 義され る。部 分頂点 集合の 表現 形であ る ハイ パープ レンと ,その 上に 重み付 けられ た値に 関す る操作 ,特に 重み付 ハイパ ープレン遷移に 関す る操作 を陰的 に実行 し, また各 システ ムの学 習は ハイパ ープレ ン遷移 に関す る陰的学習でも あ る とい う 特 徴 が ある こ と を 明 かに し た 。 ハ イ パー プ レ ン 操 作に 基 づ ぃ た学習 を, ハイパ ー キ ュ ―ブ 学 習 と 名 付け そ の 構 造を示 した。 一般的 な定 義にお ける構 造とハ イパー キュ ーブ学 習 にお ける構 造の両 者に関 して ,対象 とする 自律分 散シ ステム との対 応関係 を示す とともに以降の 章 で 提 案 す る 学 習 手 法 の ハ イ パー キ ュ ー ブ 学習 の 観 点 に 対す る 位 置 づ け を明 ら か に し た。
第3章 は「遺 伝的 アリゴ リズム とその 適応的 探索 戦略」 と題し ,まず 従来 型の遺 伝的ア ルゴリ ズム の持つ 性質に っいて 議論 する共 に,悪 構造問 題と しての グラフ レイア ウト問 題を取り上げ,
この システ ムの特 徴であ るブ ライン ド探索 能カを 示し た。一 方,ハ イパー キュ― ブ学習によって 得ら れる探 索能カ では, 解け ない問 題のク ラスに っい て触れ ,この ような 問題に おける適応能カ の 拡 大を 目 的 に , 二っ の 付 加 的学習 手法を 提案し 考察 を行っ た。一 っは探 索戦略 その ものに ス キ ー マ集 団 か ら な る付 加 的 遺 伝アル ゴリズ ムと, 探索 側シス テムの ハイパ ープレ ン操 作を通 じ た相 互作用 により ,シス テム の適応 能カを 拡大す るも のであり,Iもうーっは遺伝的アルゴリズム の陰 的学習 によっ て獲得 され たスキ ーマを ストル ング 集団か ら抽出 ,学習 し,内 的適応度として 用い ること によっ て,環 境か ら受け る効果 を自律 的に 変化さ せて適 応性を 得るも のである。この
第4章 は 「 連想 記 憶 モ デ ルの 拡 張 的 学 習と 引 込 領 域 表現 」と 題し ,特にHopfield型の 自己 想 起型連 想記 憶モデ ルを取 り上げ てい る。そ してこ のモデ ルの記 憶性 能に関 する問 題点を述ベ,こ の記憶 性能 に関す る記憶 容量・ 想起 確率・ 分離性 に関す る性能 の向 上を目 的に, 反学習の導人と インプ リメ ンティ ション に関し て形 式的・ 実験的 に検討 を行っ た。 この形 式的議 論により適用モ デルの 形式 に関し て制限 がある こと が明ら かにな った。 同じく 記憶 性能に 関する 実験的考察によ り従来 の相 関学習 に比し て,極 めて 高い性 能が得られることが示された。ここではさらにハイパー キュー ブ学 習によ り作ら れてい る引 込領域 から,その学習結果を引き出すことを目的に,遺伝的ア ルゴリ ズム による 引込領 域表現 式の 獲得に 関する 手法の 提案を 行な い,幾 っかの 引込領域の表現 手法を ,サ ンプリ ング効 果を規 範と する評 価によ り比較 検討を 行っ た。こ こで獲 得された表現式 は引込 領域 の特徴 的距離 関数と なっ ており ,従来 複雑に 見えて いた 想起課 程の振 る舞いを,容易 な形で 表わ すもの である ことを 示唆 した。
第5章 は 「 柔軟な 生産シ ステム のため の自 律分散 ロボッ ト群」 と題 し,特 に発現 的協調 処理能 カによ って 特徴付 けられ る,マ ルチ クライ アント ロボッ ト群を 想定 し,ロ ボット 群の組織化管理 問題を 取り 扱うこ とを目 的とし てい る。こ のシス テムを モデル 化す るにあ たりペ トリネットを導 入し, 口ボ ットシ ステム のモデ ル化 手法を 示すと 共に, このモ デル 上での スケジ ューリング問題 の取り 扱い を実験 により 考察し た。 さらに ロボット群の持つ階層的性質を表すために,ペトルネッ トの任 意の 部分を 抽象化 できる 構造 化ペト リネッ トを提 案し, これ を利用 したモ デルによって動 的疑似 分散 型管理 手法が 可能で ある ことを 述べた。またタスク処理に見られるようなプロセスを,
代数的 に取 り扱う プ口セ ス代数 を導 入し, 独自の 定義を 加えた 形式 により ,課題 である組織化管 理問題 がハ イパー プレー ン操作 で表 現可能 な口ボ ット間 におけ る平 行的共 有資源 配置問題として 表 され る こ と を 明ら か に し た 。 以上 の考察 を受 けてロ ボッ卜 の組織 化に対 し, 確率的 選択機 構 を 導入 し , そ の 選択 確 率 を 学 習 によ って実 現す る手法 を提案 し,こ の効果 を実 験を通 じて確 か めた。
第6章 で は 本論全 体の総 括を述 べ,以 上提 案した 理論と 手法の 工学 的有用 性を明 らかに した。
408
学位論文審査の要旨
この論文は次の3っの自律分散システム,すなわち遺伝的アルゴリズム,連想記憶モデル,お よびマルチ口ボットシステムの学習に関して研究した成果をまとめたものである。近年,自律分 散システムはその柔軟性,適応性からこれまでの手法では扱いにくかった様々な問題への応用が 進んでいる。これらの望ましい性質を支えているのが学習であり,その能カをさらに高めるのも また学習手法にかかっている。本論文は各自律分散システムにおける適応的能カの拡充,さらに は新たな柔軟性の付加を実現するための有用な視点としてハイパーキューブ学習を提案し,その 有効性を論文中で取り扱っているシステムにおいて確認したことにっいて論じたものである。本 論文は以下の6章から構成されている。
第1章 に お い て は 本 論 文 の 背 景 と 目 的 お よ び 概 要 に っ い て 述 べ て い る 。 第2章では自律分散システムの一般的ナょ定義を行い,このシステムを用いた問題解決法にっい て議論している。この議論を通して本論文で取り上げているシステムの挙動とは,重み付きハイ パープレン遷移に関する操作を陰的に実行するものであり,また各システムにおける従来の学習 法がハイパープレン遷移に関する陰的学習を実現するものであることを明かにしている。以上の 考察に基づきハイパ―プレン操作に基づいた学習を,ハイパーキューブ学習と名付け,対象シス テム構造の定義とこの学習法の対応関係から,学習能力拡充と柔軟性の付加を実現するための有 効な各視点を明確化している。
第3章は探索手法としての遺伝的アルゴリズムに関して,ハイパーキューブ学習の視点からの アプ口ーチにより探索能カの拡充,さらには未知の探索空間の性質獲得が有効に行えることを論
昇 侑
東 次
侑 公
香
数
内
内
嘉 島
大 栃
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
出,学 習し, 内的 適応度 として 用いる ことに よっ て,環 境から 受ける 効果 を自律 的に変化させて 適応性 を得る もの である 。この 両提案 手法に より 従来で は困難 であっ た問 題クラ スでも柔軟な適 応 性 を 示 す こ と が 可 能 と な り 探 索 能 カ が 向 上 す る こ と を 確 認 し て い る 。 第4章 で は連 想 記 憶 モ デル , 特 にHopfield型 の 自 己 想起 型連 想記憶 モデ ルの記 憶性能 に関す る問題 点を述 ベ, 記憶性 能向上 を目的 に,ハ イパ ーキュ ーブ学 習の視 点か ら反学 習法の導入が有 効であ ること を示 し,そ のイン プリメ ンティ ショ ンに関 して形 式的・ 実験 的に検 討を行ない,そ の結果 ,提案 学習 法によ り従来 の学習 法に比 較じ て,極 めて高 い性能 が得 られる ことが示されて いる。 ここで はさ らにハ イパー キュー ブ学習 によ り作ら れてい る引込 領域 から, その学習結果を 引き出 すこと を目 的に, 遺伝的 アルゴ リズム によ る引込 表現式 の獲得 に関 する手 法の提案を行な い,そ の有効 性を 示して いる。 この手 法によ り獲 得され る表現 式が引 込領 域の特 徴的距離関数と な゛っ ており ,従 来複雑 に見え ていた 想起過 程の振舞いを,容易な形で表わすことが可能であるこ とを示 唆して いる 。
第5章 は 柔軟 な生産 シス テムの フレー ムワー クと して, 発現的 協調処 理能カ によ って特 徴付け られる マルチ クラ イアン トロボ ット群 を想定 し, 口ボッ ト群の 組織化 管理 問題を 取り扱うことを 目的と してい る。 このシ ステム のモデ ル化手 法と してぺ トリネ ットの 任意 の部分 を抽象化できる 構造化 ペトリ ネッ トを提 案し, これを 利用し たモ デルに よる動 的疑似 分散 型管理 手法を新たに提 案して いる。 また プ口セ ス代数 を独自 の定義 を加 えた形 式とし て導入 し, 課題で ある組織化管理 問題が ハイパ ープ レーン 操作で 表現可 能なロ ボッ ト間に おける 平行的 共有 資源配 置問題として表 される ことを 明か にして いる。 以上の 考察を 受け てロボ ットの 組織化 に対 し,ハ イパーキューブ 学 習 法 を 実 現 す る 確 率 的 学 習 選 択 機 構 を 提 案 し , こ の 有 効 性 を 確 認 し て い る 。 第6章 は 結 論 で あ り , 本 研 究 で 得 ら れ た 成 果 を 総 括 し , 要 約 し て 述 べ て い る 。 これを 要す るに, 著者は 自律分 散シ ステム におけ る根幹 的学習 手法 の枠組 みとし て,ハイパー キュー ブ学習 法を 提案し 種々の 計算機 実験に より その有 効性を 検証し ,自 律分散 システムの高度 な自律 ・学習 機能 実現へ の新た な視点 を明か にし たもの であり ,精密 工学 及び情 報工学に寄与す ると こ ろ 大 で あ り, よ っ て , 著者 は 博士( 工学) の学位 を授 与され る資格 あるも のと 認める 。
410