(学位論文)
助産師の専門性を活かした学校における性教育に関する研究
兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 教科・領域教育学専攻 生活・健康・総合内容系コース MO8239E
田中 成子
目 次
第1章 序論 1.背景
2.先行研究3.目的
頁1170 1
第皿章 方法
1.質的調査:FGI
2.量的調査:質問紙調査
−凸−凸0り−轟ームー▲
第典章 結果
1.質的調査:FGI (1)分析結果
(2)各FGIの結果と分析考察
55
1凸−占2.量的調査 :質問紙
(1)回収状況
(2)質問紙調査結果と考察
31
第IV章 考察 61
第V章 結論
64引用・参考文献 65
謝辞 66
第1章序論
1.背景
青少年の性行動は,健康に影響を及ぼす危険行動の一つであり, ①人工妊娠中絶の 増加,②性感染症の増加,③拡大するHIVの流行との関連が深い。1)
2006年の東京都幼・小・中・高・二障性教育研究会の調査2)では,我が国の高校3年 生の性交経験率は,1990年代半ばに男女逆転して,2005年において,女子46%,男子 38%と増加しており,昨今の性行動の活発化が示されたとともに,女子の積極的な性行 動の傾向が認められた。(図1)
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図1.東京部における高校生の性交経験寧推移
このような若者の性行動の活発化の中で,1990年代からの人工妊娠中絶の増加と 性感染症の増加が認められ,社会的な問題となっている。
1
10代の人工妊娠中絶件数は,1990年代に増加が著しく,2001年には46,511件
(全中絶件数の13.0%)にまで増加した。それ以降は,減少傾向がみられており,
2005年では,30,119件(9.4%)にまで減少している。
しかしながら,1990年代前半までの6.0%水準までには減少しておらず,今後も 引き続き注視していく必要がある。3)(図2)
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図2 10代の人工妊蟹申絶串の年次推移(堂舷女性人ロ1000人射の件敷)
また性感染症については,性器クラミジアと淋菌感染症において,2003年に減少傾向が 認められているが,依然著しく高率であり,性器ヘルペスと尖圭コンジロームにおいても 増加が続いており,若者に性感染症が蔓延していることを示している。4)(図3)
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図3 性感桑癒の年次推移(感桑虚動向鯛査,定点匿礁犠■当たり年聞轍告数)
クラミジアに感染しても帯下の増量程度で臨床症状が乏しく,.無自覚に経過して受診行
動が伴わないことがあるため,実際の感染者数は数倍上回るとも言われており,女子を介 して感染が拡大していると指摘されている。
また,女性性器の解剖・生理的な特徴から,クラミジアは上行感染して子宮外妊娠や不 妊の原因となり,HIV感染の増加や子宮頚がんが発症し易くなるなどの思春期保健におけ
る問題としても極めて重要な課題である。5)
3
世界のエイズ患者の動向をみると,フランス,ドイツなどの先進国では1994年頃を ピークに減少傾向を示している炉,わが国は近年において再び増加傾向であり,先進国の 中で唯一の動向を示している。
2009年にはHIV感染者1021人, AIDS発症は431人と報告されており,その中での若年 層におけるHIV感染症の報告数も近年において増加傾向である。
15−19歳の年齢で,2009年にはHIV感染者16人, AIDS発症は1人との報告であった。6》
(図4)(図5)
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図4HIV丁丁(15−19R)年齢年次推移
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図5ADS患者《15−19M)年齢年次推移
しかしながらこの数値は検査で明らかになった者のみで,実態はこの数倍の感染者がい ると推測される。そのためこれらの感染症の予防は急務であるが,学齢期においては,対 症療法的な教育に偏ることなく,発達段階を踏まえて豊かな人間教育を基本とした性教育
が求められる。
著者は,臨床現場の助産師として,前述した性行動の問題のうち,以下の2点に関して,
携わる機会が恒常的にあった。それは,①人工妊娠中絶の増加,②性感染症の増加,で あり,これらの性の逸脱行動に起因するハイリスク患者と接する機会が数多くあった。
その中でも特に,10代の患者数の増加を実感したため,この現状は思春期における性に 関する指導にも課題があるのではないかと考えた。
思春期の性に関する課題については,本来,第1次予防としての三三教育での取組が 重要である。
我が国の性教育に対してのこれまでの背景としては,1999年に,文部省(当時)より,
「学校における性教育の考え方,進め方」7》が示されている。その中において,学校にお
ける性教育の基本的な目標は,児童生徒等の人格の完成と豊かな人間形成を究極の目的と し,人間の性を人格の基本的な部分として生理的側面,心理的側面,社会的側面などから 総合的にとらえ,科学的知識を与えるとともに,児童生徒等が生命尊:重,人間尊重,男女
平等の精神に基づく正しい異性観をもつことによって,自ら考え,判断し,意志決定の能 力を身に付け,望ましい行動を取れるようにすることであると示されている。
その具体的な目標として,(ア)男性又は女性としての自己の認識を確かにさせる。(イ)
人間:尊重,男女平等の精神に基づく豊かな男女の人間関係を築くことができるようにする。
5
(ウ)家庭や様々な社会集団の一員として直面性の諸問題を適切に判断し,対処する能力
や資質を育てる。という3点が挙げられており,これらの性教育の基本的な目標は,相互 の関連を確かめながら,児童生徒の発達段階に応じて,学校種別や学年別の目標として具 体化されなければならない。
さらに学校における性教育の進め方としては,すべての教師が性教育の意義や必要性,
学校における性教育の基本的な考え方や指導の在り方などについて共通に理解し,性教育 の全体構想を明確にした上で,その全体構想に基づく指導計画,指導組織を確立する必要 があるとし,性教育の効果を高めるためには,各学校は性教育の目標を達成するために必 要な内容を選択する必要がある。そのため,学習指導要領に示されている各教科,道徳及 び特別活動における性に係る内容との関連を図った上で各学校の教育課程に位置付け,計 画的,組織的に進められるようにすることが望まれる。この冊子の中で,性教育における 家庭・地域との連携や性の逸脱行動に関する指導についても示されているが,その後,こ のような出版物としての形では国の指針は現在に至るまで示されてはいない。
そのような状況の中,2005年7月の中央教育審議会専門部会において,学校教育全体で 取り組むべき課題として性教育が取り上げられ,性教育の在り方,教科における性教育に 関する指導内容の体系三等について審議が行われており,「学校における性教育は,学習指
導要領に則り,児童生徒の発達段階に応じて性に関する科学的知識を理解させるとともに,
これに基づいた望ましい性行動がとれるようにすることをねらいとしており,体育科,保 健体育科,特別活動,道徳等を中心に学校教育全体を通じて,指導すること」と報告され
ている。8)
他方,厚生労働省による思春期保健の取組として,「健やか親子21」9}が挙げられる。
これは母子保健の取組の方向性と目標や指標を示し,関係機関・団体が一体となって,
2001年より2010年までの10年計画で,その目標達成に取り組む国民運動である。この 計画において,大きな4つの主要課題と61の指標(数値目標)設定がなされているが,
この主要課題の一つに,『思春期の保健対策の強化と健康教育の推進』が掲げられている。
その思春期対策の中で,①10代の自殺率の減少,②10代の人工妊娠中絶の減少,③10 代の性感染症の減少,という達成目標が掲げられており,性と生殖に関わる指標と2010 年の目標として,以下のように示されている。 「ア.10代の人工妊娠中絶実施率(減 少傾向へ) イ.10代の性感染症罹患率(減少傾向へ) ウ.性感染症を正確に知って いる高校生の割合(100%) オ,避妊法を正確に知っている18歳の割合(100%)」
2005年には,その計画の見直しが実施されており,計画終了時期を2010年から2014 年までと延長し,取組は継続進行中である。
助産師は性と生殖の領域での高い専門性から,性教育分野で役割を果たすことのでき る関係者として位置付けられる。助産師による効果的なサポートは,このような危険行 動の課題解決に大きな役割を果たすものと期待される。このため専門的な教育を受けた 助産師の視点で,学校における性教育の在り方について研究していくこととした。
2.先行研究
木原10)は性行動調査を重ね,若者の性行動や性意識の現状などを把握して,
日本の若者の性行動の特徴を「活発化・ネットワーク化・無防備化」と表わし,性行動の
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社会要因を明らかにしながら,自ら予防のための教育を開発実践している。
助産師は性と生殖の専門職として,また出産に立ち会う立場から「いのちの教育」に 取り組んでおり,地域・学校と連携して思春期の性教育を担う必要性も高まっている。
このような流れを受けて,助産師の職能団体としての思春期への取り組みも重要視され ており,近年,臨床で働く助産師に対し,命の大切さを伝える性教育の講演依頼が増加
しており,さまざまな報告もなされている。
岡山県看護協会職能委員会の報告11)では,教育現場から助産師に何を求めているのか,
また高校での困った対応事項は何なのかを明らかにするため,高校勤務の養護教諭を対 象に実態調査を行い,性教育を担当している外部講師として助産師が最も多かった。
また養護教諭と助産師の連携希望についても,希望すると答えた養護教諭は58%であり,
希望しない(6%)やどちらとも言えない(36%)を上回る結果であった。さらに希望する
具体的連携内容として,講義・講演の依頼(73%),生徒への個別相談,合同研究会や勉 強会,助言,情報提供等が学校側からの助産師への連携希望であった。
一方,日本助産師会においても思春期に対する取組を1998年度から組織的に開始して おり,指導マニュアル等教育内容の基準設定,一定レベルの教材開発等の整備がなされ ている。こういつた教材開発の評価を行うとともに,指導者研修会も各地で開催され,
各支部での独自の活動へと発展され,自治体と交渉し,補助金を得て性教育の展開を行 っている支部もある。活動実績としても,学校への出張教育件数は2006年度2,398件,
2007年度は3, 098件。個別電話相談件数は19,468件との報告がなされ,年々増加傾向で
あり,今後もそのための支援活動を促進していくことを表明している。i2)
佐山ら13)は「思春期応援隊」結成と助産師が性教育に関心をもってかかわっていくこ
との意義を報告した。戸井田14)らは中学校教諭に対し性教育に関する意識調査を行い,
大多数の教諭が授業への専門職の協力が必要であると認識しており,地域の助産師に講 師を依頼したいとの回答を得られたと述べている。
清水ら15)は,高校生を対象とした調査の結果から,性の問題に直面している生徒ほど 医療従事者の性教育を望んでおり,専門性を活かし,リスクに対する早期発見,早期援 助を行うことが必要とした。
木村ら16)は看護師が行う性教育の必要性を述べており,衣料現場の中から中・高校生 の性感染症の増加や10代の出産事例など性にかかわる情報を提供し,親や教師も問題意 識をもてるようなかかわりが大切であるとした。
松本17)らは保健・医療関係者の意識調査を実施し,保健・医療関係者が性を語るメリ
ットとしては「性道徳ではなく,健康問題として理解させ易い」との結果を得, 性 教
育はっまるところ 生 の教育であるとしている。
以上の先行研究から著者は,命の誕生にかかわっている助産師が 生 を語り伝える 効果は大きいと考えた。その上で思春期対象の性教育に対しても,若い時から性と生殖 に関する事柄をすべてしっかり教えておく必要があるという認識を助産師がもっている のではないかと考えた。そこで就業している助産師の思春期における性教育に関する意 識の現状把握を行うことより,助産師の専門性を活かした学校における性教育について,
どのような働きかけが今後有効になってくるか検討していくこととした。
9
3.目的
本研究テーマとしては,医療従事者の中でも性の専門性について学びその職務を遂行し ている助産師に学校教育における性教育について,どのような意識を持っているのか調査 を行うことにより,どのような働きかけが今後有効になってくるか検討することとした。
その際,生徒の中には,性についてハイリスク要因を抱えている生徒が含まれているこ とも考えられるので,大半の生徒を対象とする集団指導とハイリスク対応の個別指導との 指導内容の違いが指導上の課題としてあげられる。それゆえに学校における性教育の指導 に関して,外部専門職である助産師が,どのように介入できるのか,またどのような効果 が期待できるのかということを明確にしていきたいと考える。
そこで,学校における性教育での助産師との効果的な連携の在り方,どのような指導内 容が求められるのかについて検討していくことを目的とした。
今回の研究において検証したい問いは,以下のものである。
(研究上の問い)
「外部専門職である助産師が学校の性教育に参画する際に,生徒の意識の向上につながる 指導とはどのようなものであるか。」
この問いを検証すべく調査を実施し,学校における性教育での助産師との効果的な連携 の在り方,求められる指導内容について明示していくこととする。
以上の研究目的より,助産師の学校における性教育への支援の在り方について,助産師 の立場から考察を行うものとする。
第H章 方法
1.質的調査 :FGI(Focus Group Interview)
助産師による性教育についての量的調査の問い(Research Question)を作成 するにあたり,基礎調査として質的なグループ・インタビュー法を計画した。
(1)FGIの目的
助産師による思春期の性教育の指導実態および性教育への考え方を把握する ことを目的として,参加者4人のFGIを4回実施した。
(2)調査時期と対象
①2009年1月 ②2009年3月
③2009年6,月④2010年3月
A県 勤務助産師4名 (助産丁丁5年〜18年)
B県 勤務助産師4名 (助産師歴7年)
A県 勤務助産師4名 (助産師歴8年〜30年)
C県 助産師2名(助産師歴25年・30年)
養護教諭2名(教諭歴23年・26年)
(3)調査方法
筆者司会のもと,1時間半程度のグループ・インタビューを行った。
その際,同意のもと録音し逐語記録とした。
①②③のFGIのテーマは「思春期の性教育について」と定め,以下の4柱 (課題設定)を中心にインタビューを行った。(表1)
11
表1FGI①②③の課題設定
柱1 自身の助産師活動を通じて性に対する考え方が以前とずいぶん変わったと エずる経験の有無とその内容。(②③では気になる事例や問題行動とその 燉eも含む。)
柱2 近年の少子化や結婚の形態の変化の流れの中で「命をつなぐ」「次世代を産 ゙」こと自体の意義の変化を感じた経験とその内容。
柱3 現在の思春期の性に関する教育で欠けている点や必妻だと思う点は何か。
柱4
学校での性教育を担当するとしたら性感染症や望まない妊娠出産予防に ツいての内容をいっからどのように導入していけばよいか。サの他,のぞましい性教育の在り方や具体的な指導内容。
④のFGIは,中学校での性教育に焦点化し,2職種によるFGIを実施した。
テーマは「助産師の性教育へのかかわり方(学校で性教育を進める際の助産師 との連携の在り方)について」とし柱(課題設定)を以下の3柱とした。(表2)
表2 FG置④の課題設定 柱1
柱2
柱3
思春期の性教育,特に中学生を対象にした指導で何が大事と考えるか。
自身が性教育実施した際のよかった点と課題となった点。
学校での性に関する教育に関して,養護教諭として外部の専門職(特に助産師)
にのぞむこと。助産師として学校側にのぞむことについて。
(4)倫理的配慮
ア. 事前に,対象者にテー…マの説明と同意をとり,了承の上,調査を行った。
イ. FGI開始時点で,以下の注意点を確認した。
・発言の際には事例の個人が特定できないような表現で発言する。
・録音テープは速記録に起こすが,発言者については,仮名をつけて個人 が特定できないように処理をほどこす。
(5)分析方法
各々のFGIの内容を逐語録とした。その逐語録の内容を切片化し,著者による コーディング作業を行った。該当データを切片化し,意味的にコード化し,著者 を除く3人により討論を重ね,コーディング作業を行った。各々のFGIデータを 分析し,[カテゴリー]に分類した。
抽出されたカテゴリーを変数に要約マトリックスを作成し,マトリックス より,発言内容・回数に着目して,カテゴリーの中での共通点,相違点,背景要 因などの検討を行った。
2.量的調査: 質問紙調査
先行研究やFGIより抽出された結果より,26項目の質問紙を作成し,調査およ び分析を行った。集計,解析にはEXCEL2007, SPSS12. OJ for windowsを使用した。
(1)「助産師の性教育に関する意識調査」の目的
助産師の性教育実施経験や性教育に対する意識についての把握を行い,助産師 の性教育へのかかわり方について検討を行う。
(2)調査時期と対象
2010年9A〜11月
関東・関西・中国・九州地方において臨床経験のある助産師
(3)調査方法
直接手渡し及び郵送による自記式質問紙法
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(4)調査内容
質的調査の結果を踏まえた14項目を組み込み,全26項目の問いを作成した。
FGIデ・一一タより抽出した項目については,*印で示す。
ア.回答者の属性 一3項目一 ・年齢(年代)
・現在の勤務状況 ・助産師職経験年数
イ.(小学校以上の)学校における性教育について 一17項目一 ・参画した経験の有無
・指導件数
・学校種別・学年 * ・依頼元 *
・打ち合わせの有無 * ・打ち合わせ担当者 * ・打ち合わせ内容:*
・指導内容 * ・使用教材 *
・指導はひとりで行ったか ・授業形式*
・評価方法 * ・困ったことの有無*
・実践上の課題(困難点)*
・工夫点*
・学校における性教育についてどう思うか ・その理由
・学校での性教育に助産師が参画することについて ウ.中学校における性教育について 一5項目一
・教育機関との連絡体制の有無*
・連絡体制の概要 ・中学校での指導の意欲
・学校が助産師の性教育に期待するもの*
・中学校への性教育についての考え