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権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

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カンボジアに渡り、戻ってくる日本の中古コミック (特集 アジアの古本屋)

著者 小島 道一, 初鹿野 直美

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名 アジ研ワールド・トレンド

巻 247

ページ 36‑37

発行年 2016‑04

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL http://hdl.handle.net/2344/00002976

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.247(2016. 5) 36

アジアの古本屋 特 集

  日本の漫画喫茶等で手にする中古コミック本が私たちの手元に届く前に、遠くカンボジアに渡ってから日本に戻ってきているときいたら、多くの人々が驚きを覚えるだろう。現在、年間一〇〇万冊を超える中古コミックが日本からカンボジアにわたり、クリーニング等を施され、また、日本に戻ってきている。本稿では、カンボジアで雇用を生んでいる日本の中古コミックの流れを紹介する。

  日本には、二〇〇〇店あまりのいわゆる漫画喫茶があるという。漫画喫茶に置かれているコミックの多くは、中古本である。新刊を中心に、新品が並べられることもあるが、開業時には、比較的安価な中古本が二~三万冊用意される のが一般的である。  ﹁

春うららかな書房﹂は、漫画喫茶へコミックを納入している企業としては、最大手の企業である。一九九六年以来、一〇〇〇軒以上の漫画喫茶の開業にコミックを供給してきた。しかし、人件費やコミック本保管のコストを考慮すると、日本国内だけで事業を続けていくことに難しさを覚え、海外進出を検討することになった。

  二〇一〇年、同社は、カンボジア・プノンペンのプノンペン経済特区に工場(ハル・プノンペン・コミックセンター、以下ハル社)をスタートさせた。

  ハル社は、日本全国の中古コミック本を引き取り、新規に開店するところに、コミック本を提供す る(図1)。そのあいだに発生する本のクリーニング作業と、出荷までの管理を行う倉庫機能が必要となるが、その大半をプノンペンの工場へと移管したのである。一方、日本では、新刊本など、よりすばやい出荷が求められるコミックへの対応作業のみが行われている。  中古のコミック本は汚れをクリーニングするだけではなく、旧店舗で使用されていた際の店舗名がスタンプで記されていたり、盗難防止のためのシールが貼られているのを取り除く必要がある。ハル社工場では、これらのシールをはがし、コミック本の天・地・小 ぐちなどを機械で研磨するといった一連のクリーニング作業を施す(写真1、2)。新品

  鹿   カ ン ボ ジ ア に 渡 り ︑ 戻 っ て く る 日 本 の 中古 コ ミ ッ ク

同様の状態に加工する作業が終わると、きれいになったコミック本は、シリーズ毎に分類され、本棚に収納されデータベースで管理される。日本からの発注を受けると、納入先の店舗名のスタンプを押し、新たにビニールカバーを施すなどして、出荷する(写真3)。

  一連の地道な手作業は、五〇人

漫画喫茶(インター ネットカフェなどの

複合喫茶)

ハル・プノンペン・

コミックセンター

(カンボジア)

春うららかな書房

(日本)

日本全国からの中古 コミック本の引き取り

クリーニング、前店舗のシールの 除去、研磨、保管、出荷前に 新店舗のシール貼付など。

新規開店する漫画喫茶へ の納入。

(出所)筆者作成。

図1

36_37_特集_初鹿野直美・小島道一 ★海外に1度〜.indd 36 16/03/29 18:02

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37 アジ研ワールド・トレンド No.247(2016. 5)

あまりのカンボジア人のワーカーたちによって担われている。日本語が読めない彼らは、記号やコミックの絵の雰囲気等を頼りに、表紙を整え、本棚に収納する作業を黙々と行っている。多くのワーカーたちは、二〇歳代前半で近隣の村の出身者で構成されている。

  ハル社で行われるこれらの作業は、シールを剥がしたり、研磨をする際に本の表紙カバーをいったんはずしたり、機械化できない作業工程を多く含む。そのため、何よりも労賃がある程度低く抑えられることがカンボジア進出の理由のひとつであった。進出当時の二〇一〇年の月額最低賃金は六一 ドル、その後は急激に引き上げられ、二〇一六年一月からは一四〇ドルとなったが、それでも隣国タイの半分に満たず、日本でのコストよりもかなり低く抑えることが可能となる。さらに、同社の中古コミックはすべて輸出されるため、投資適格プロジェクト(QIP)として輸入関税の支払いが免除される。  日本からの輸送期間が長すぎないということも、プノンペンを選ぶうえで重要な要素のひとつであった。日本からカンボジアへのコンテナ輸送は三週間弱程度かかり、日本への出荷も二週間強かかる。計画生産のため、短期での対応を迫られる必要は少ないが、輸送期間をある程度抑えられるのがプノンペン経済特区であったといえよ う。当初は、カンボジア唯一の外港であるシハヌークビル港を経由していたが、近年は、ベトナム・ホーチミンの港から陸路でプノンペンをつなぐルート(南部経済回廊)を利用して、運搬しているという。  さらに、出版物の輸入に関しての規制が少ないことも、カンボジア進出の理由となったという。国によっては、コミック本の表現が国内法に抵触し持ち込めないケースが生じうるが、カンボジアは比較的寛容であったことから、多様なコミック本の扱いが可能となっている。  現在のハル社の出荷先は、日本が中心だが、将来的には東南アジアの市場も視野にいれているという。カンボジアは東南アジア各国へのアクセスも容易であることから、立地の優位性を活かしていくことが期待されている。

  進出に あたって、当初、カンボジア政府は、廃棄物が持ち込まれるのではないかと懸念をしていたという。一九九九年に、台湾から有害廃棄物が輸入され、環境汚染を引き起こした事件があったことから、カンボジアは、廃棄物ともなりうる中古品の輸入に対して、警戒感を強く持っている。しかし、ハル社の場合は、中古品ではあるが確実に日本に出荷されることが約束されており、作業後に廃棄される包装用の段ボールやプラスチックもリサイクルしやすいため、規制当局の懸念も解消できたという。  二〇一五年一一月現在、ハル社は、ほぼ毎月一〇万冊のコンテナを受け入れ、一冊一冊がカンボジアの人たちの手によってきれいに生まれ変わり、日本へ再度届けられている。漫画喫茶でコミック本を手にとるとき、カンボジアの工場でこれらの本をクリーニングしている若者たちのことを思い起こすと、少し違った気持ちで楽しむことができるのではないだろうか。(こじま  みちかず/アジア経済研究所  新領域研究センター、はつかの  なおみ/JETROバンコク事務所、アジア経済研究所)

写真1:シールを剥がし、汚れをとる作業(2015 年 11 月、

筆者撮影)

写真2:本の天・地・小口などの研磨作業(2015 年 11 月、

筆者撮影)

写真3:発送前に、納入先の店舗の名前のスタンプを押し、

カバーをかける(2015 年 11 月、筆者撮影)

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参照

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