記憶の想起特性と関連する諸要因についての検討 [ PDF
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(2) れた1項目を削除した上で,因子分析(一般化された最小二乗法,プロ. おいて抽出されたものとほぼ対応すると思われる。 《記. マックス回転)を行い,スクリープロット,因子の解釈可能性. 憶の想起特性尺度》の各因子と DES 下位因子との関連. から4因子を抽出した。さらに,因子負荷量が.40 に満. については,DES3因子の得点分布の偏りを考慮し,順. たなかった項目を削除し,最終的に 24 項目を分析の対. 位相関係数を算出した(Table4)。その結果, 《記憶の想. 象として再度因子分析を行った。. 起特性》の F3「現実性の混乱・検索困難」において,. 第1因子は, 「なかったことにしたいと思うような想. 解離性体験の諸側面と弱いもしくは中程度の相関が示. い出が多い」 「過去を思い出すと、自分が否定的にみえ. された。F3 因子が測定しているのは,解離様の体験に. てしまう」などの項目で負荷量が高く、 「否定的感情の. おいてみられる,情報検索およびソースモニタリング. 随伴・記憶へのとらわれ」と命名した(α=.81)。第2. における障害や,自己の体験について確固とした現実. 因子は、 「昔のことはだれが何と言ったかまでありあり. 感を抱きにくいような状態と言えよう。F3 因子は他因. と思い出せる」 「人が覚えていないようなことでも詳し. 子に比べ,分布が低得点となっており(p<.001),若干. く覚えている」などの項目で負荷量が高く、 「記憶の詳. 病理的な状態であることを裏付けている。. 細さ」と命名した( α=.77)。第3因子は、 「本当にあっ. Table2 記憶の想起特性尺度とDESとの相関. た気がしない過去のできごとがある」 「何かを思い出そ. F1「 否定的感情の随伴・ 記憶へのとらわれ」. DES全体 .321* * *. F2「 記憶の詳細さ」. うとすると、頭がうまく働かなくなることがよくある」. .056. F3「 現実性の混乱・ 検索困難」. .428* * *. F4「 過去体験との近さ」. .319* * *. などの項目で負荷量が高く、 「現実性の混乱・検索困難」 と命名した(α=.74)。第4因子は、 「昔のことを思い出 すと、そのときと同じようにありありと感情がよみが えってくる」 「過去にあったことの場面が、次々に浮か んできて止まらないことがある」などの項目で負荷量 が高く、「過去体験との近さ」とそれぞれ命名した(α. * * * p<.001. 解離は心的. Table3 記憶特性とDES因子との相関 DES因子. F1「没頭・二重の F2「離人・現実感 消失」 記憶特性 主体感覚」 F1 F2 F3 F4. .290* * * .094 .295* * * .387* * *. .342* * * .014 .492* * * .295* * *. F3「忘却」 .171* - .119+ .398* * * .058. * * * p<.001 * p<.05 +p<.10. 外傷に対する 防御的な側面 と,特定の体験 に没頭するた. =.75)。因子間の相関について、Table1 に示す。項目数. めに誰もが発. は、第1因子が7項目、第2因子が5項目、第3因子. 達させる側面があるとされる(Carlson&Putnam,1989). が8項目、第4因子が4項目であった。なお,因子ご. が,記憶想起に否定的感情が随伴しやすい傾向( 《記憶. とに因子負荷量の高い項目の得点を合計し,項目数で. の想起特性尺度》F1 因子)と,他の行為への没頭およ. 割ったものを下位尺度得点とし,後の分析に使用する. び主体感・現実感の消失といった解離的な現象との関. こととした。 Table1 《記憶の想起特性尺度》 因子間相関 F1 F2 F3. F2 F3 F4 全体. .15* * .36* * * .47* * * .83* * *. ー.27* * * .48* * * .41* * *. .11* .56* * *. を推測させる。また,F4「過去体験との近さ」に DES. F4. F1. .73* * *. (* * * p<.001, * * p<.01, * p<.05). 連は,不快情動と,防御的な意味合いでの解離の関係. 信頼性の検. の F1「没頭・二重の主体感覚」と正の有意な相関が見. 討. 各因子. られ,この因子は,過去体験への強い臨場感のほかに,. について,. 「過去においてそれを体験した自分」と「今それを同. Cronbach の. じように体験している自分」という二重の主体感を反. α係 数 を 算. 映していると言えよう。. 出したところ, α=.74-.81 の範囲の値を得た。また,. ②日常的な記憶行動との関連:EMQ について因子分析(最. 再検査信頼性についても,α=.67-.84 の値を得,尺度. 尤法・エカマックス回転)を行ったところ,清水・高橋(2003)と同. としての信頼性、安定性をおおむね満たすと言える。. 様,5因子を抽出し,それぞれ「予定記憶の失念/活動. 妥当性の検討 ①解離性体験との関連: 《記憶の想起特. 記憶の失念/脈絡の把握困難/習慣的行為の失念/空間. 性尺度》の F1(r=.321,p<.001),F3(r=.428,p<.001), F4. 記憶の錯誤」と命名した(α=.69-.80) 。 《記憶の想起特. (r=.319,p<.001)の各因子において,DES との正の有意. 性》と EMQ の相関(Table5)については,まず,F2 およ. な相関が示された。さらに, 《記憶の想起特性尺度》と. び F4 については EMQ とほとんど相関がなかった。①の. 解離性体験の諸側面との関係について詳しく検討する. 結果とも併せると,F2 は比較的よく体制化されている. ため,DES のデータについて因子分析(重みづけのない最小二乗法・バ. 状態を表す因子と言えよう。一方,《記憶の想起特性》. 「没頭・二重の主体感覚 リマックス回転)を行った。その結果,. の F1,F3 は,EMQ の下位因子のほとんどと正の有意な. /離人・現実感消失/健忘」の3因子を得た( α=.77-.83)。. 相関を示した。EMQ の各因子は,未来の予定に関する記. これらは,Carlson et al.(1991)および田辺(1993)に. 憶(展望的記憶)や,習慣的行為の記憶(手続き記憶),.
(3) あるいは,前後関係や筋書きといったある脈絡の保持. 性尺度》の下位尺度得点ごとに上位 25%を High 群,下. に関するものであり,これらのエラー,すなわち認知. 位 25%を Low 群とし,MEIS の各下位因子と t 検定を行. 的失敗を起こしやすい条件として,Cohen(1989)は高不. ったところ, 《記憶の想起特性》の F1,F3 は,MEIS の. 安やストレスに対する弱さを挙げている。また,エピ. 下位因子すべてにおいて,F4 は「自己斉一性・連続性」. ソード的な記憶のみならず,手続き記憶や展望的記憶. 「対他的同一性」において,0.1%水準で有意差が見ら. などにおける失敗は,過去の記憶の利用や予定遂行に. れた(Figure1-3)。F2 は MEIS のいずれの側面とも群間. おける困難さとつながり,日常生活における不適応的. の差がなかった。. な状態も予測させる。. 6.00. Table4 記憶特性とEMQの相関 EMQ因子 F1: 予定記 憶の失念 記憶特性. F2: 活動記 憶の失念. F3: 脈絡の 把握困難. ***. ***. 5.00. ***. ***. 4.00. F4: 習慣的行 F5: 空間記 為の失念 憶の錯誤. EMQ 全体. High群. 3.00. Low群. 2.00. F1. .237* *. .273* * *. .367* * *. .272* * *. .124. .343* * *. 1.00. F2. - .032. - .112. - .029. .025. .111. - .036. 0.00. F3. .252* * *. .412* * *. .370* * *. ,429* * *. .229* *. .433* * *. F4. .180*. .153*. .196*. .180*. .131. .209* * *. 自 己 斉 一 性 ・連 続 性. 対自的同一性. ***. * * * p<.001 * * p<.01 * p<.05 +p<.10. ***. 6.00. このような結果より, 《記憶の想起特性尺度》の構成. 対他的同一性. 心理社会的同一性. Fig1.記 憶 の 想 起 特 性 F1因 子 × MEIS 得 点 (* * * p< .001). ***. ***. 5.00 4.00. 概念妥当性はある程度示されたと言えよう。. 2.00. 【第二研究】 目的. 1.00. 第一研究で作成した《記憶の想起特性尺度》を. 0.00 自 己 斉 一 性 ・連 続 性. の観点から検討する。. 6.00. (2)記憶特. 対自的同一性. 対他的同一性. 心理社会的同一性. Fig2.記 憶 の 想 起 特 性 F3因 子 × MEIS 得 点 (* * * p< .001). 用い,記憶特性と心理的諸側面との関係について,次 (1) 記憶特性と自我の統合状態との関連. High群 Low群. 3.00. ***. ***. 5.00. 4.00. 性とパーソナリティ要因との関連 (3)精神的健康度と 記憶特性との関連 (4)記憶想起に関する態度および認 知的側面についての検討 方法. 対象は大学生 302 名(男子 154 名,女子 148 名:. High群 3.00. Low群. 2.00. 1.00. 0.00. 自 己 斉 一 性 ・連 続 性. 対 自 的 同 一 性. 対 他 的 同 一 性. 心 理 社 会 的 同 一 性. F ig3.記 憶 の 想 起 特 性 F 4因 子 × MEI S 得 点 (* * * p< .001). M=19.82,SD=1.22)。. :まず,否定的な感情を伴う記憶に強くとらわれてい. 使用尺度:①《記憶の想起特性尺度》. ると,自分が連続・一貫した存在であるとの肯定的な. ②多次元自我同一性尺度(MEIS;谷,2001):自己の不変. 実感や,自分がどうなりたいのかという希望や目標を. 性および時間的連続性の感覚「自己斉一性・連続性」,. 持ちにくく,社会生活にも適応感を抱きにくいといっ. 自己についての明確さの感覚「対自的同一性」 ,本当の. たことが示された。強い不快情動を抱いた記憶へのと. 自分と他者から見た自分が一致する感覚「対他的同一. らわれが,自己概念や,他者認知,社会適応感にも強. 性」,社会において自分らしく生活できるという感覚. い影響を及ぼすことがうかがえる。. 「心理社会的同一性」の 4 因子。20 項目,7件法。. 次に,自己の記憶に関し,検索行為じたいが困難だ. ③自己関係づけ尺度(金子,2000):他者評価に対する否. ったり確固とした現実感がもてないと,F1 と同様,自. 定的懸念やとらわれの強さを表すパーソナリティ特性. 分 ―自分,自分 ―他者,自分 ―社会のいずれの軸にお. であり,本研究では,記憶特性に関係する個人要因の. いても,認められるに足る存在であるとの肯定的な実. 検討のために用いる。12 項目,5 件法。. 感が弱いことが示された。ただし,F1 傾向が高い群が. ④自己評価式抑うつ尺度(SDS;Zung,1965):20 項目,4. 否定的な記憶の積み重ねを通して自己概念を形成して. 件法。 :以上に加え,回想行為の頻度と,自己の記憶の. いるとすれば,F3 傾向が高い一群は,過去経験を蓄積. モニタリングに対する困難度(尺度回答への困難さ)に. することそのものに対して制限があり,蓄積がなされ. ついてもそれぞれ 6 件法で回答を求めた。. ているにしても,かなり断片的な形だと思われる。つ. 結果と考察. まり,まとまった自己概念が形成されるにも至らない,. 1.自我同一性と記憶の想起特性との関連. 空虚感にも近いような内的状態が推測され,生きてい. MEIS および各因子の α係数は全体で.89,各因子で も.77-.80 と十分な信頼性が得られた。 《記憶の想起特. る自分という感覚や他者との関係性において,明確な 実感が乏しいのではないかと推察される。.
(4) 他方,記憶をさして詳細に覚えていなくても自我同. 4.回想傾向,メタ認知の困難さについての検討. 一性の感覚には影響しないとの結果は,適当に忘れる. まず,回想傾向の High 群−Low 群を設定した上で, 《記. ことで自己の一貫性や安定性を維持するという、いわ. 憶の想起特性》因子ごとの尺度得点および MEIS,自己. ば適応機能としての抑圧の存在をうかがわせる。. 関係づけ,SDS に関しマン・ホイットニーの検定を行っ. 2.自己関係づけ傾向と記憶の想起特性との関連. たところ, 《記憶の想起特性》F3 以外すべてに有意差が. 自己関係づけ尺度について確認的に因子分析を行っ. 見られた(p<.001-.01)。 :回想傾向の高さは,否定的な. た(主因子法,バリマックス回転)ところ,一因子構造が適当と判断さ. 記憶想起や,記憶を詳細かつ臨場感をもって想起する. れた( α=.90)。各項目得点を単純加算したものを自己. 傾向と関係し,あまり回想をしない人は,自我同一性. 関係づけ得点とし,得点の性差(t(293)=-3.59,p<.001. の感覚が高く,自己関係づけや抑うつ気分を生じにく. 女子>男子)も加味して,まず,自己関係づけ得点を従. いことが示された。個体内の一貫性や安定性を守るた. 属変数,《記憶の想起特性》F1,F3 の High 群,Low 群. めに,過去体験に過度にアクセスしないようにすると. および性別を独立変数とした2要因分散分析を行った。. いった防衛のあり方が改めて示唆された。また, 《記憶. その結果,F1「否定的感情の随伴・記憶へのとらわれ」. の想起特性》F3 は回想傾向とは独立な因子と言える。. F3「現実性の混乱・検索困難」それぞれの尺度得点の. 自己の記憶に対するメタ認知に関しては,マン・ホ. 主効果のみが有意(F1:F(1,135)=49.06,p<.001 F3:. イットニーの検定の結果, 《記憶の想起特性》の F1,F3. F(1,150)=15.28,p<.001)であった。否定的な記憶への. において困難群・非困難群の差が有意 (p<.001-.01)で. とらわれの強さが他者評価に対する懸念や妄想的な認. あった。否定的な記憶とは,常に意識されているとい. 知的バイアスにつながっていると言える。また,F3 が. うよりは,場面依存的・感情依存的に,あるいはより. 反映している肯定的で一貫した主体感覚や他者とのつ. 病理的な場合は侵入的に想起されるものかもしれない。. ながりの実感の乏しさが,自己関係づけ傾向にも関連. 平常は,抑圧や解離のメカニズムが働いて,むやみに. しているのかもしれない。. 意識せずに済んでいる可能性も考えられる。. 次に,自己関係づけが記憶特性の形式的側面に及ぼ. 【総合考察および今後の課題】. す影響について検討するため,F2「記憶の詳細さ」F4. 本研究では,否定的感情を伴う記憶へのとらわれや. 「過去経験との近さ」を従属変数とし,自己関係づけ. 記憶の検索機能および現実性識別に関する困難と,解. 得点の High 群,Low 群および性別を独立変数とする 2. 離性体験との部分的な関連や,意味記憶や手続き記憶. 要因分散分析を行ったところ,F4 における自己関係づ. といった潜在記憶の層における遂行困難とのつながり. け得点の主効果のみ有意(F(1, 164)=5.20,p<.05)だっ. が明らかになった。さらに,記憶情報の検索が感情に. た。自己関係づけ傾向が高いと,場面の臨場感は保持. 過度に干渉されないことや,過去体験における時間. されやすいが,想起の詳しさには関係しないと言える。. 軸・現実性認識の成立が,自我同一性の感覚や抑うつ. 自己関係づけは内的な他者イメージが不安定な者に起. 感・自己関係づけ行動の有無といった精神的健康を考. こりやすいとされ(小林,2003) ,内的な他者イメージ. える上で重要であるということも実証されたと言える。. へのとらわれの結果として,現前する他者や場面に関. 生体としての安定性を維持するため,抑圧もしくは解. する客観的な認知や検討は行われにくいのだろう。. 離が適応的な方向で働いている側面も示唆された。. 3.抑うつ感が記憶の想起に及ぼす影響. なお、本研究では,自己物語の生成に関する重要な. SDS 得点(α=.79)については,全項目の合計得点を算. 要因として体制化という概念を用い,記憶をいくぶん. 出し,青木・松本(1997)にならって 48 点以上を抑うつ. static に位置づけたが,今後,自己物語が生成されて. 群,未満を非抑うつ群に分類した。この2群間で《記. いくプロセスを検討していくにあたっては,想起や回. 憶の想起特性尺度》下位因子ごとに t 検定を行ったと. 想行為そのもの,あるいは想起の状況によって記憶が. ころ,F2 を除く残りの因子ですべて有意差が見られた。. 再構成され,体制化の様相が変容していくといったダ. :抑うつ感の高さは,記憶の詳細さとは関連しないが,. イナミクスも重視していく必要があろう。. 否定的感情を伴う記憶へのとらわれ,記憶の現実性識. 【文献】. 別や検索行為における困難,過去体験に対する臨場感. Conway,M.A. 1996 Autobiographical knowledge and. と関連していると言える。抑うつは記憶の具体性を低. autobiographical. 下させるとの先行研究と異なる結果だが,健常群と臨. Remembering our past. Cambridge University Press.. 床群の相違の可能性もあり,今後の検討を要する。. 小此木啓吾・馬場禮子. memories.In 1989. Rubin,D.C.(Ed). 精神力動論. ,. 金子書房.
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