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記憶の想起特性と関連する諸要因についての検討 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)記憶の想起特性と関連する諸要因についての検討 ―青年期健常群を対象に― key words:自己物語,体制化,自我同一性,精神的健康. 人間共生システム専攻 藤本 裕子 接的に扱うのはエピソード記憶を主とする顕在記憶な. 【問題と目的】 記憶は,知覚や認知,言語,思考といった諸機能と. がら,抽象化された意味記憶的表象レベルの記憶や手. ともに相互に調整を図り,パーソナリティ全体につい. 続き記憶など,複数の水準の記憶を扱っていると考え. ても同様に調整や秩序づけを行う自我の統合機能の一. られる。よって,本研究では,記憶を広義に「自己に. 端を担っている(小此木・馬場,1989)。自己認知,予. 関する多元的,多層的な経験の集積」 ,記憶特性を「自. 測的行動,対人関係の調節など,人間のさまざまな活. 己の経験に関連した情報を想起するにあたって認めら. 動を根底で支える,きわめて重要な精神機能である。. れる,ある程度の習慣性や一貫性を有する傾向」と定. 言い換えれば,記憶が適切に機能しないとは,自我の. 義して,より多面的に記憶の特徴をとらえていくこと. 統合や,自己表象に支障あるいは破綻をきたすという. としたい。. ことになる。しかし,記憶機能の障害が,具体的には. 【第一研究】. どのような様相や社会適応上の問題を示すのか,健忘. 目的:個人内における記憶特性を多面的に測定する尺. 症などの臨床研究以外には,実証的な検討は少ない。. 度を作成し,その信頼性と妥当性について検討する。. 記憶の構造としては,時間や因果など一定の形式に. 尺度の作成:関連する先行研究や文献,臨床的な事例. 従った語り narrative や物語 story として想起される. 研究および臨床心理士2名へのインタビューによって,. 点が特徴的で(e.g.Fivush et al,1996),やまだ(2000),. 記憶想起における特性を表現していると思われ,かつ,. 妙木(2001)らは,記憶が物語として意味づけられ,ま. 臨床群に特徴的に見られる項目を重点的に収集した。. とまりを持つことの重要性を指摘している。過去の歴. さらに,臨床心理学専攻の大学院生3名との協議によ. 史的な事実は変えられないにしても,それに対する意. り,妥当性を欠くと思われる項目を削除の上,不適切. 味づけ方を変化させることで,われわれはずいぶん生. な表現を改めた計 45 項目について6件法で回答を求め. 1. きやすくなる側面があるだろう。この自己物語 の語り. た。教示の際は,記憶能力の優劣を測定するものでは. やすさについては,記憶情報の取り出しやすさ,すな. ないことを明記した。尺度の名称については,研究の. わち,体制化の程度が大きく関連していると考えられ. 意図,目的をふまえ,《記憶の想起特性尺度》とした。. る。体制化とは,関係情報が検索 retrieval される際,. 対象:大学生,短大生 525 名(男子 205 名,女子 320 名;. 必要な情報が常に的確にアクセスできるように組織的. M=19.78,SD=1.29) 。そのうち 32 名(男子 2 名,女子 30. に構成されることである(桐村,2000)。記憶が,過去. 名;M=18.84,SD=0.45)には,再検査法による信頼性の. 経験を思い出そうとする行為そのものによって,連鎖. 検討のため,同尺度を2週間後に再度実施した。. 的に情報がつながっていく構造だとすれば,記憶の検. 使用尺度: 《記憶の想起特性尺度》のほか,妥当性検討. 索機能が中立的かつくまなく働くかどうかが重要であ. のために,次の2つの尺度についても回答を求めた。. ると言える。体制化が不適切だと,自分の過去と現在. ①解離性体験尺度(DES):Bernstein&Putnam(1986)作成。. をひとつに構成することに困難が生じ,自我の統合や. 100mm の直線上へのチェックから解離性体験に関する. 自己表象に大きな影響を及ぼすと思われる。. 頻度を 0-100 点で求める。全 28 項目。大学生 228 名(男. したがって,本研究では,具体的な記憶想起の特徴. 子 57 名,女子 172 名;M=19.91,SD=1.32)に実施。. から基礎的な体制化の様相について検討し,関連する. ②日常記憶質問紙(EMQ) :Baddeley(1990)作成。28 項. 要因について考察していく。なお,心理臨床では,直. 目について「1.最近6ヶ月間で一度もない」から「9. 日に 1 回以上」の9段階評定。大学生 168 名(男子 42 名,女子 126 名;M=19.94,SD=1.45)に実施した。. 1. 精緻に定義づけられた概念ではないが,ここでは,自分についての ある有意味な連関をもった思考や理解,自他の表象などの集積,とし ておく。. 結果と考察 《記憶の想起特性尺度》因子分析. フロア効果が見ら.

(2) れた1項目を削除した上で,因子分析(一般化された最小二乗法,プロ. おいて抽出されたものとほぼ対応すると思われる。 《記. マックス回転)を行い,スクリープロット,因子の解釈可能性. 憶の想起特性尺度》の各因子と DES 下位因子との関連. から4因子を抽出した。さらに,因子負荷量が.40 に満. については,DES3因子の得点分布の偏りを考慮し,順. たなかった項目を削除し,最終的に 24 項目を分析の対. 位相関係数を算出した(Table4)。その結果, 《記憶の想. 象として再度因子分析を行った。. 起特性》の F3「現実性の混乱・検索困難」において,. 第1因子は, 「なかったことにしたいと思うような想. 解離性体験の諸側面と弱いもしくは中程度の相関が示. い出が多い」 「過去を思い出すと、自分が否定的にみえ. された。F3 因子が測定しているのは,解離様の体験に. てしまう」などの項目で負荷量が高く、 「否定的感情の. おいてみられる,情報検索およびソースモニタリング. 随伴・記憶へのとらわれ」と命名した(α=.81)。第2. における障害や,自己の体験について確固とした現実. 因子は、 「昔のことはだれが何と言ったかまでありあり. 感を抱きにくいような状態と言えよう。F3 因子は他因. と思い出せる」 「人が覚えていないようなことでも詳し. 子に比べ,分布が低得点となっており(p<.001),若干. く覚えている」などの項目で負荷量が高く、 「記憶の詳. 病理的な状態であることを裏付けている。. 細さ」と命名した( α=.77)。第3因子は、 「本当にあっ. Table2  記憶の想起特性尺度とDESとの相関. た気がしない過去のできごとがある」 「何かを思い出そ. F1「 否定的感情の随伴・ 記憶へのとらわれ」. DES全体 .321* * *. F2「 記憶の詳細さ」. うとすると、頭がうまく働かなくなることがよくある」. .056. F3「 現実性の混乱・ 検索困難」. .428* * *. F4「 過去体験との近さ」. .319* * *. などの項目で負荷量が高く、 「現実性の混乱・検索困難」 と命名した(α=.74)。第4因子は、 「昔のことを思い出 すと、そのときと同じようにありありと感情がよみが えってくる」 「過去にあったことの場面が、次々に浮か んできて止まらないことがある」などの項目で負荷量 が高く、「過去体験との近さ」とそれぞれ命名した(α. * * * p<.001. 解離は心的. Table3 記憶特性とDES因子との相関  DES因子. F1「没頭・二重の F2「離人・現実感 消失」 記憶特性 主体感覚」 F1 F2 F3 F4. .290* * * .094 .295* * * .387* * *. .342* * * .014 .492* * * .295* * *. F3「忘却」 .171* - .119+ .398* * * .058. * * * p<.001 * p<.05 +p<.10. 外傷に対する 防御的な側面 と,特定の体験 に没頭するた. =.75)。因子間の相関について、Table1 に示す。項目数. めに誰もが発. は、第1因子が7項目、第2因子が5項目、第3因子. 達させる側面があるとされる(Carlson&Putnam,1989). が8項目、第4因子が4項目であった。なお,因子ご. が,記憶想起に否定的感情が随伴しやすい傾向( 《記憶. とに因子負荷量の高い項目の得点を合計し,項目数で. の想起特性尺度》F1 因子)と,他の行為への没頭およ. 割ったものを下位尺度得点とし,後の分析に使用する. び主体感・現実感の消失といった解離的な現象との関. こととした。 Table1 《記憶の想起特性尺度》 因子間相関 F1 F2 F3. F2 F3 F4 全体. .15* * .36* * * .47* * * .83* * *. ー.27* * * .48* * * .41* * *. .11* .56* * *. を推測させる。また,F4「過去体験との近さ」に DES. F4. F1. .73* * *. (* * * p<.001, * * p<.01, * p<.05). 連は,不快情動と,防御的な意味合いでの解離の関係. 信頼性の検. の F1「没頭・二重の主体感覚」と正の有意な相関が見. 討. 各因子. られ,この因子は,過去体験への強い臨場感のほかに,. について,. 「過去においてそれを体験した自分」と「今それを同. Cronbach の. じように体験している自分」という二重の主体感を反. α係 数 を 算. 映していると言えよう。. 出したところ, α=.74-.81 の範囲の値を得た。また,. ②日常的な記憶行動との関連:EMQ について因子分析(最. 再検査信頼性についても,α=.67-.84 の値を得,尺度. 尤法・エカマックス回転)を行ったところ,清水・高橋(2003)と同. としての信頼性、安定性をおおむね満たすと言える。. 様,5因子を抽出し,それぞれ「予定記憶の失念/活動. 妥当性の検討 ①解離性体験との関連: 《記憶の想起特. 記憶の失念/脈絡の把握困難/習慣的行為の失念/空間. 性尺度》の F1(r=.321,p<.001),F3(r=.428,p<.001), F4. 記憶の錯誤」と命名した(α=.69-.80) 。 《記憶の想起特. (r=.319,p<.001)の各因子において,DES との正の有意. 性》と EMQ の相関(Table5)については,まず,F2 およ. な相関が示された。さらに, 《記憶の想起特性尺度》と. び F4 については EMQ とほとんど相関がなかった。①の. 解離性体験の諸側面との関係について詳しく検討する. 結果とも併せると,F2 は比較的よく体制化されている. ため,DES のデータについて因子分析(重みづけのない最小二乗法・バ. 状態を表す因子と言えよう。一方,《記憶の想起特性》. 「没頭・二重の主体感覚 リマックス回転)を行った。その結果,. の F1,F3 は,EMQ の下位因子のほとんどと正の有意な. /離人・現実感消失/健忘」の3因子を得た( α=.77-.83)。. 相関を示した。EMQ の各因子は,未来の予定に関する記. これらは,Carlson et al.(1991)および田辺(1993)に. 憶(展望的記憶)や,習慣的行為の記憶(手続き記憶),.

(3) あるいは,前後関係や筋書きといったある脈絡の保持. 性尺度》の下位尺度得点ごとに上位 25%を High 群,下. に関するものであり,これらのエラー,すなわち認知. 位 25%を Low 群とし,MEIS の各下位因子と t 検定を行. 的失敗を起こしやすい条件として,Cohen(1989)は高不. ったところ, 《記憶の想起特性》の F1,F3 は,MEIS の. 安やストレスに対する弱さを挙げている。また,エピ. 下位因子すべてにおいて,F4 は「自己斉一性・連続性」. ソード的な記憶のみならず,手続き記憶や展望的記憶. 「対他的同一性」において,0.1%水準で有意差が見ら. などにおける失敗は,過去の記憶の利用や予定遂行に. れた(Figure1-3)。F2 は MEIS のいずれの側面とも群間. おける困難さとつながり,日常生活における不適応的. の差がなかった。. な状態も予測させる。. 6.00. Table4  記憶特性とEMQの相関 EMQ因子 F1: 予定記 憶の失念 記憶特性. F2: 活動記 憶の失念. F3: 脈絡の 把握困難. ***. ***. 5.00. ***. ***. 4.00. F4: 習慣的行 F5: 空間記 為の失念 憶の錯誤. EMQ 全体. High群. 3.00. Low群. 2.00. F1. .237* *. .273* * *. .367* * *. .272* * *. .124. .343* * *. 1.00. F2. - .032. - .112. - .029. .025. .111. - .036. 0.00. F3. .252* * *. .412* * *. .370* * *. ,429* * *. .229* *. .433* * *. F4. .180*. .153*. .196*. .180*. .131. .209* * *. 自 己 斉 一 性 ・連 続 性. 対自的同一性. ***. * * * p<.001 * * p<.01 * p<.05 +p<.10. ***. 6.00. このような結果より, 《記憶の想起特性尺度》の構成. 対他的同一性. 心理社会的同一性. Fig1.記 憶 の 想 起 特 性 F1因 子 × MEIS 得 点 (* * * p< .001). ***. ***. 5.00 4.00. 概念妥当性はある程度示されたと言えよう。. 2.00. 【第二研究】 目的. 1.00. 第一研究で作成した《記憶の想起特性尺度》を. 0.00 自 己 斉 一 性 ・連 続 性. の観点から検討する。. 6.00. (2)記憶特. 対自的同一性. 対他的同一性. 心理社会的同一性. Fig2.記 憶 の 想 起 特 性 F3因 子 × MEIS 得 点 (* * * p< .001). 用い,記憶特性と心理的諸側面との関係について,次 (1) 記憶特性と自我の統合状態との関連. High群 Low群. 3.00. ***. ***. 5.00. 4.00. 性とパーソナリティ要因との関連 (3)精神的健康度と 記憶特性との関連 (4)記憶想起に関する態度および認 知的側面についての検討 方法. 対象は大学生 302 名(男子 154 名,女子 148 名:. High群 3.00. Low群. 2.00. 1.00. 0.00. 自 己 斉 一 性 ・連 続 性. 対 自 的 同 一 性. 対 他 的 同 一 性. 心 理 社 会 的 同 一 性. F ig3.記 憶 の 想 起 特 性 F 4因 子 × MEI S 得 点 (* * * p< .001). M=19.82,SD=1.22)。. :まず,否定的な感情を伴う記憶に強くとらわれてい. 使用尺度:①《記憶の想起特性尺度》. ると,自分が連続・一貫した存在であるとの肯定的な. ②多次元自我同一性尺度(MEIS;谷,2001):自己の不変. 実感や,自分がどうなりたいのかという希望や目標を. 性および時間的連続性の感覚「自己斉一性・連続性」,. 持ちにくく,社会生活にも適応感を抱きにくいといっ. 自己についての明確さの感覚「対自的同一性」 ,本当の. たことが示された。強い不快情動を抱いた記憶へのと. 自分と他者から見た自分が一致する感覚「対他的同一. らわれが,自己概念や,他者認知,社会適応感にも強. 性」,社会において自分らしく生活できるという感覚. い影響を及ぼすことがうかがえる。. 「心理社会的同一性」の 4 因子。20 項目,7件法。. 次に,自己の記憶に関し,検索行為じたいが困難だ. ③自己関係づけ尺度(金子,2000):他者評価に対する否. ったり確固とした現実感がもてないと,F1 と同様,自. 定的懸念やとらわれの強さを表すパーソナリティ特性. 分 ―自分,自分 ―他者,自分 ―社会のいずれの軸にお. であり,本研究では,記憶特性に関係する個人要因の. いても,認められるに足る存在であるとの肯定的な実. 検討のために用いる。12 項目,5 件法。. 感が弱いことが示された。ただし,F1 傾向が高い群が. ④自己評価式抑うつ尺度(SDS;Zung,1965):20 項目,4. 否定的な記憶の積み重ねを通して自己概念を形成して. 件法。 :以上に加え,回想行為の頻度と,自己の記憶の. いるとすれば,F3 傾向が高い一群は,過去経験を蓄積. モニタリングに対する困難度(尺度回答への困難さ)に. することそのものに対して制限があり,蓄積がなされ. ついてもそれぞれ 6 件法で回答を求めた。. ているにしても,かなり断片的な形だと思われる。つ. 結果と考察. まり,まとまった自己概念が形成されるにも至らない,. 1.自我同一性と記憶の想起特性との関連. 空虚感にも近いような内的状態が推測され,生きてい. MEIS および各因子の α係数は全体で.89,各因子で も.77-.80 と十分な信頼性が得られた。 《記憶の想起特. る自分という感覚や他者との関係性において,明確な 実感が乏しいのではないかと推察される。.

(4) 他方,記憶をさして詳細に覚えていなくても自我同. 4.回想傾向,メタ認知の困難さについての検討. 一性の感覚には影響しないとの結果は,適当に忘れる. まず,回想傾向の High 群−Low 群を設定した上で, 《記. ことで自己の一貫性や安定性を維持するという、いわ. 憶の想起特性》因子ごとの尺度得点および MEIS,自己. ば適応機能としての抑圧の存在をうかがわせる。. 関係づけ,SDS に関しマン・ホイットニーの検定を行っ. 2.自己関係づけ傾向と記憶の想起特性との関連. たところ, 《記憶の想起特性》F3 以外すべてに有意差が. 自己関係づけ尺度について確認的に因子分析を行っ. 見られた(p<.001-.01)。 :回想傾向の高さは,否定的な. た(主因子法,バリマックス回転)ところ,一因子構造が適当と判断さ. 記憶想起や,記憶を詳細かつ臨場感をもって想起する. れた( α=.90)。各項目得点を単純加算したものを自己. 傾向と関係し,あまり回想をしない人は,自我同一性. 関係づけ得点とし,得点の性差(t(293)=-3.59,p<.001. の感覚が高く,自己関係づけや抑うつ気分を生じにく. 女子>男子)も加味して,まず,自己関係づけ得点を従. いことが示された。個体内の一貫性や安定性を守るた. 属変数,《記憶の想起特性》F1,F3 の High 群,Low 群. めに,過去体験に過度にアクセスしないようにすると. および性別を独立変数とした2要因分散分析を行った。. いった防衛のあり方が改めて示唆された。また, 《記憶. その結果,F1「否定的感情の随伴・記憶へのとらわれ」. の想起特性》F3 は回想傾向とは独立な因子と言える。. F3「現実性の混乱・検索困難」それぞれの尺度得点の. 自己の記憶に対するメタ認知に関しては,マン・ホ. 主効果のみが有意(F1:F(1,135)=49.06,p<.001 F3:. イットニーの検定の結果, 《記憶の想起特性》の F1,F3. F(1,150)=15.28,p<.001)であった。否定的な記憶への. において困難群・非困難群の差が有意 (p<.001-.01)で. とらわれの強さが他者評価に対する懸念や妄想的な認. あった。否定的な記憶とは,常に意識されているとい. 知的バイアスにつながっていると言える。また,F3 が. うよりは,場面依存的・感情依存的に,あるいはより. 反映している肯定的で一貫した主体感覚や他者とのつ. 病理的な場合は侵入的に想起されるものかもしれない。. ながりの実感の乏しさが,自己関係づけ傾向にも関連. 平常は,抑圧や解離のメカニズムが働いて,むやみに. しているのかもしれない。. 意識せずに済んでいる可能性も考えられる。. 次に,自己関係づけが記憶特性の形式的側面に及ぼ. 【総合考察および今後の課題】. す影響について検討するため,F2「記憶の詳細さ」F4. 本研究では,否定的感情を伴う記憶へのとらわれや. 「過去経験との近さ」を従属変数とし,自己関係づけ. 記憶の検索機能および現実性識別に関する困難と,解. 得点の High 群,Low 群および性別を独立変数とする 2. 離性体験との部分的な関連や,意味記憶や手続き記憶. 要因分散分析を行ったところ,F4 における自己関係づ. といった潜在記憶の層における遂行困難とのつながり. け得点の主効果のみ有意(F(1, 164)=5.20,p<.05)だっ. が明らかになった。さらに,記憶情報の検索が感情に. た。自己関係づけ傾向が高いと,場面の臨場感は保持. 過度に干渉されないことや,過去体験における時間. されやすいが,想起の詳しさには関係しないと言える。. 軸・現実性認識の成立が,自我同一性の感覚や抑うつ. 自己関係づけは内的な他者イメージが不安定な者に起. 感・自己関係づけ行動の有無といった精神的健康を考. こりやすいとされ(小林,2003) ,内的な他者イメージ. える上で重要であるということも実証されたと言える。. へのとらわれの結果として,現前する他者や場面に関. 生体としての安定性を維持するため,抑圧もしくは解. する客観的な認知や検討は行われにくいのだろう。. 離が適応的な方向で働いている側面も示唆された。. 3.抑うつ感が記憶の想起に及ぼす影響. なお、本研究では,自己物語の生成に関する重要な. SDS 得点(α=.79)については,全項目の合計得点を算. 要因として体制化という概念を用い,記憶をいくぶん. 出し,青木・松本(1997)にならって 48 点以上を抑うつ. static に位置づけたが,今後,自己物語が生成されて. 群,未満を非抑うつ群に分類した。この2群間で《記. いくプロセスを検討していくにあたっては,想起や回. 憶の想起特性尺度》下位因子ごとに t 検定を行ったと. 想行為そのもの,あるいは想起の状況によって記憶が. ころ,F2 を除く残りの因子ですべて有意差が見られた。. 再構成され,体制化の様相が変容していくといったダ. :抑うつ感の高さは,記憶の詳細さとは関連しないが,. イナミクスも重視していく必要があろう。. 否定的感情を伴う記憶へのとらわれ,記憶の現実性識. 【文献】. 別や検索行為における困難,過去体験に対する臨場感. Conway,M.A. 1996 Autobiographical knowledge and. と関連していると言える。抑うつは記憶の具体性を低. autobiographical. 下させるとの先行研究と異なる結果だが,健常群と臨. Remembering our past. Cambridge University Press.. 床群の相違の可能性もあり,今後の検討を要する。. 小此木啓吾・馬場禮子. memories.In 1989. Rubin,D.C.(Ed). 精神力動論. ,. 金子書房.

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