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ミドルリーダーの学校経営参画に関する考察-M-GTAを用いた知識創造プロセスの分析を通して- [ PDF

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Academic year: 2021

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ミドルリーダーの学校経営参画に関する考察

-M-GTA を用いた知識創造プロセスの分析を通して-

キーワード:ミドルリーダー,参画, M-GTA,知識創造 教育システム専攻 畑中 大路 1.章構成 序章 1節 先行研究の検討と研究の目的 2節 本論の構成と研究方法 3節 用語の定義 1章 学校経営におけるミドルリーダーへの期待 1節 学校経営改革の変遷 2節 ミドルリーダーへの着眼 2章 学校経営研究における質的研究 1節 質的研究の検討 2節 学校経営研究における先行研究の検討と修正版グ ラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)の 有効性 3章 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA) を用いた知識創造プロセスの分析 1節 分析の手順 2節 データ収集方法および分析対象者 3節 分析結果 4節 考察 4章 ミドルリーダーによる知識創造の実際 1節 調査手続き 2節 事例の検討 3節 考察 終章 1節 本研究の成果と展望 2節 本研究の課題 2.概要 序章 近年の学校経営改革及び団塊世代の大量退職を背景に、 ミドルリーダーの育成が喫緊の課題となっている。これに 対応する形で研究の蓄積も徐々になされているが、そこに は課題が残る。 その一つはミドルリーダー研究の対象である。従来のミ ドルリーダー研究は、主任や主幹教諭といった職位を担う 教員をミドルリーダーと置き換え、その職位に求められる 役割を述べるものが多数を占めるが、現在の学校を取り巻 く環境の変化は、職位に限定されないミドルリーダーを必 要としている。 二つ目は、ミドルリーダーに求められる力量の曖昧さで ある。ミドルリーダーに関する先行研究は、一般経営学の 理論を学校経営に援用したものや、上述したようにミドル リーダーを特定の職位に限定し、その職位の役割を述べる に終始しており、ミドルリーダーに求められる力量は明確 に示されていない。 ミドルリーダーの育成という喫緊の課題に応答するため には、先行研究が抱える上記課題を乗り越える必要がある。 そして筆者はその方策として、ミドルリーダーの現実から 議論をおこない、そこから求められる力量を把握する作業 が必要だと考える。そこで本研究では、「学校経営へ参画す るミドルリーダーの現実の姿」を示し、そこから帰納的に 「ミドルリーダーに求められる力量」に関して考察するこ とを目的とする。なお、本研究におけるミドルリーダーに は、学校経営の中核であるトップレベルと、教育実践(授 業)に取り組むストリートレベルの「中間(ミドル)」に位 置し、「リーダー」の特徴の一つとして挙げられる知識創造 を行う教員を対象としている。この知識創造は、次章で述 べるように、近年の学校がミドルリーダーに対して期待す る役割の一つでもある。 1章 学校経営におけるミドルリーダーへの期待 本章では、昨今の学校経営において、ミドルリーダーへ 知識創造の役割が期待されるようになった背景を確認した。 学校経営改革は戦後から現在に至るまで断続的に行われ ているが、地方分権改革以降進む自律的学校経営を志向し た近年の改革は、総合的な学習の時間やコミュニティスク

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2 ール導入のように、学校が教育経営の主体としてイニシア チブをとる環境を整えつつある。しかし学校はその条件を 十分に生かし切れておらず、未だ改革への対応に追われて いると言わざるをえない。またこれに、近年進行する団塊 世代の大量退職と、それに伴う若手教員の大量採用への対 応という課題が合わさることで、事態はより深刻な様相を 呈している。 一般経営学では、企業が外部環境へ適応し、さらに長期 的生存・発展を遂げるためには、イノベーションを起こす 「新しい知識の創造」が必要だと言われている。急速な環 境変化への対応と、自律的学校経営の達成が求められる学 校も同様に、現状改善を志向した「知識創造」が必要であ と言えるだろう。そしてこの知識創造の役割が、ストリー トレベルとトップレベルを媒介し、学校経営へ参画するミ ドルリーダーに求められているのである。 2章 学校経営研究における質的研究 前章で示したミドルリーダーに求められる役割である 「知識創造を通した学校経営への参画」の様子を描く方法 として、本研究は質的研究方法の一つである修正版グラウ ンデッド・セオリー・アプローチ(Modified Grounded Theory Approach、以下 M-GTA と略記)を採用している。 近年、学校組織等を対象とした質的研究は増加傾向にあ るが、それらの性格は以下の三つに整理することができる。 それは、①質問紙等を用いた数量研究の補足や、数量研究 結果の妥当性検証のために用いられたもの、②諸外国や他 領域等の先行研究で示されている既成の概念を分析枠組み として設定し、学校組織の実態を描いたもの、③研究テー マに沿って事例研究等を行い、その対象を通して研究テー マについての理解を深めようとするもの、である。これら の性格を組み合わせた多様な研究が行われている。 しかし質的研究のバリエーションが豊富になる一方で、 学校経営事象そのものを対象として取り上げるものは尐な く、またその一般化を図った先行研究は見当たらない。こ れは、学校経営における「意思決定」のように、人と人の 相互作用によってなされる「プロセス」を描く研究方法が 見出されていないことに起因する。 このような特徴を持つ学校経営事象を分析する有効な方 法として考えられるのが、本研究で用いる M-GTA である。 M-GTA は、グレイザー(Barney G.Glaser)とストラウス (Anselm L.Strauss)によって考案されたグラウンデッド・ セオリー・アプローチ(GTA)を修正・改良したものであり、 人間の行動や他者との社会的相互作用によってなされる “うごき(変化・プロセス)”の説明や予測に有効な理論(グ ラウンデッド・セオリー)生成を目的とする。この M-GTA が持つ性格は、学校経営が兼ね備えるプロセス性という特 徴と近接しており、それゆえ学校経営を分析する方法とし て M-GTA が適していると考えられるのである。 3章 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA) を用いた知識創造プロセスの分析 本章では M-GTA を用い、「ミドルリーダーによる知識創造 プロセス」を分析した。分析では、「知識創造の主体」とい う視点から8名のミドルリーダーを選定し、半構造化面接 を実施して得たデータを用いている。 M-GTA は、データから分析の最小単位である概念を生成し、 概念と概念の関係を検討した上でカテゴリーを作る。そし てこれら概念とカテゴリーを用いて、分析対象の“うごき (変化・プロセス)”を示すグラウンデッド・セオリーを作 成する。この手順を踏み、収集したデータを分析した結果、 16 個の概念と4個のカテゴリーが生成され、グラウンデッ ド・セオリー「ミドルリーダーによる知識創造プロセス」 と本稿最終頁に示す分析結果図を作成した。なお、以下の 本文及び分析結果図では、分析の最小単位である概念は 【 】、カテゴリーは< >で示している。以下は分析結果 図の説明である。 ミドルリーダーは<日常の行動>において様々な手段を 用いて<周囲の他者>とコミュ二ケーションを取っており、 コミュニケーション等で得られた情報から【現実の認識】 が起こる。この【現実の認識】は日常に変化をもたらす【ア イディアの創造】へとつながり、【具体的計画の作成】と【提 案】によって、<周囲の他者>から承認を受け、<知識創 造>を行う。そして、ミドルリーダーは<周囲の他者>の <巻き込み>を図り、創造した知識を実行する。ミドルリ ーダーは以上のようなプロセスを経て知識創造を行うと考 えられる。 また、この分析結果に対して三点の考察を加えた。 第一は、ミドルリーダーに求められる力量具体化の視点 についてである。従来のミドルリーダー研究はミドルリー ダーに求められる力量について十分に言及していない。こ れに対し、本研究では知識創造の主体という視点からミド ルリーダーを捉え、分析結果図に示すように、ミドルリー ダーが知識創造過程でとる具体的行動を提示した。この分 析結果は、先行研究では明らかにされていないミドルリー ダーに求められる力量を検討する視点になると考えられる。 第二は、ミドルリーダーの周囲への着目の必要性につい

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3 てである。ミドルリーダーによる知識創造を可能とする要 因を分析結果から考察すると、あらゆる局面でミドルリー ダーに影響を与える<周囲の他者>の存在が浮かび上がる。 従来のミドルリーダー研究は、特定の職位を担うミドルリ ーダー個人に着目し、その職位に求められる役割を述べる ものが多数であったが、本研究の分析結果は、ミドルリー ダーに求められる力量を考察する上で、ミドルリーダー個 人だけではなく、ミドルリーダーの<周囲の他者>へと視 点を広げる重要性を提起しているといえる。 第三は、本章の分析対象とした教員の属性に関するもの である。本分析では知識創造の主体という視点からミドル リーダーを捉え、分析を行った結果、教職経験年数や職位 に限定されず、知識創造を通して学校経営へ参画するミド ルリーダーの様子が把握された。これはすなわち、ミドル リーダー研究を行う上で、これまでのように職位を担う教 員をミドルリーダーと置き換えることに終始せず、組織に 与える影響力の視点からミドルリーダーを捉える必要性を 提起していると言える。 4章 ミドルリーダーによる知識創造の実際 本章では、3章の分析結果を枠組みとして事例研究を行 った。事例には、筆者が調査活動を行うA小学校において 確認した、K教諭による二つの知識創造「運動会での休憩 スペース確保のための全校舎開放」と「運動会競技観覧ス ペース確保のための一時観覧席設置」を用いている。分析 で使用するデータは、筆者によるK教諭の行動記録と、K 教諭に持参してもらったIC レコーダーによる録音データを 統合し、作成したフィールドノーツを使用した。 上記二つの知識創造事例は、K教諭によるアンケートを 用いた保護者意見の取り入れ、意見を反映させる形でのア イディア創造、アイディアを可視化させた資料作成、企画 委員会及び職員会議での提案という過程を踏み、周囲から の承認を受け、実施へ移されるものであった。そしてこの プロセスは、3章で生成した理論(グラウンデッド・セオ リー)で一定程度説明することが可能であった。グラウン デッド・セオリーの有効性は、データが収集された現場と 同じような社会的な場に戻され、そこでの現実的問題に対 して応用・修正されることで検証される。つまり、K教諭 によって成された実際の知識創造プロセスを一定程度説明 することができた本研究のグラウンデッド・セオリーは、 ミドルリーダーによる知識創造の「説明と予測に優れた理 論」である可能性が示されたといえる。 ただし、作成したグラウンデッド・セオリーの「修正」 という点に着目すると、本事例では3章の分析では示され なかったミドルリーダーの姿が確認され、理論修正の必要 が生じた。それはミドルリーダーが行う情報収集に関する ものである。K教諭による知識創造の契機となった【現実 の認識】は、保護者アンケート実施という積極的な情報収 集がもたらしたものであった。8名のミドルリーダーから 得たデータをもとに作成した本研究のグラウンデッド・セ オリーでは、知識創造の契機となる【現実の認識】は、ミ ドルリーダーが日常的に行うコミュニケーション等で得た 情報から「自然と起こる」ものであると分析したが、K教 諭の事例からは、積極的情報収集によって現実の認識を「起 こす」ミドルリーダーの姿が浮かび上がる。この知識創造 を行うミドルリーダーの積極的行動という点から再度デー タ収集及び分析を行うことで、より現実に即したミドルリ ーダーによる知識創造プロセスを描くことができると考え られる。 また、本事例分析結果は、3章の考察で述べた「ミドル リーダーの周囲への着目の必要性」を確認するものでもあ った。K教諭は知識創造にあたり、A小学校の副校長、教 頭、S教諭という三者からアイディアへの【抵抗】を受け る一方で、同時に知識創造を決定づけるような【後押し】 も得ていた。つまりこれは、<周囲の他者>である副校長、 教頭、S教諭が、K教諭の知識創造に欠かせない存在であ ることを示す結果であり、ミドルリーダーによる知識創造 への<周囲の他者>の存在の重要性を確認する結果である。 終章 終章では、本研究の成果と展望、本研究の課題を述べた。 本研究の成果は三つある。 第一は、近年の学校がミドルリーダーに要求する知識創 造の過程「ミドルリーダーによる知識創造プロセス」を一 定程度説明可能な理論(グラウンデッド・セオリー)を生 成したことである。これは、4章での事例研究によって証 明された。 第二は、教育におけるナレッジ・マネジメント研究の可 能性を示したことである。ナレッジ・マネジメント研究は 教育経営学においてその発展が期待されながらも、分析方 法の不在等を理由に蓄積は進んでいない。このような研究 状況に対し、ミドルリーダーによる知識創造という学校に おいて日常的に行われているナレッジ・マネジメントの存 在を示した本研究は、蓄積が進まないナレッジ・マネジメ ント研究への視座を与えた。 第三は、本研究で用いた研究方法である M-GTA の教育経

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4 営研究への活用可能性を提示したことである。教育経営研 究では近年質的研究が増加しているが、プロセス性を伴う 学校経営事象そのものを対象として分析し、一般化を図っ た先行研究は見当たらず、その分析方法を模索している。 その点、M-GTA を用いてミドルリーダーによる知識創造プロ セスを示した本研究は、教育経営研究に有効な新たな研究 方法の可能性を提示したといえる。 また、更なる検証が求められはするものの、本研究の展 望として、3章、4章の考察で言及した3点が挙げられる。 再記になるがそれは、「ミドルリーダーに求められる力量具 体化の視点」、「ミドルリーダーの周囲の存在への着目の重 要性」、「組織に与える影響力の側面からミドルリーダーを 捉える必要性」の提示である。これらの視点は今後ミドル リーダーに求められる力量を考察する上での手掛かりにな ると想定される。 本研究の課題としては、主に分析結果の精緻化に関して 以下のものが挙げられる。 第一は分析対象者に関するものである。本研究では、知 識創造の主体としてミドルリーダーを捉え、分析対象者を 選定したが、分析結果の精緻化を進めるためにも、分析対 象の属性等を考慮した多様なデータ収集及び継続した分析 が求められる。 第二は分析結果の検討である。本分析では知識創造にお いてミドルリーダーに求められる行動を、概念・カテゴリ ーという形で提示したが、その内実については検証できて いない。これら分析結果について先行研究のレビューや参 与観察による検証を進め、より具体的なミドルリーダーに 求められる力量を示す必要がある。 第三は授業と学校経営をつなぐミドルリーダーの役割の 検討である。ミドルリーダーはトップレベルとストリート レベルの中間(ミドル)という位置ゆえ、授業と学校経営 をつなぐ役割を担う可能性を持つが、本研究ではこの点に 十分に言及できなかった。今後先行研究を参照するととも に、この点からのデータ収集・分析を行い、検討を進める 必要があると考えられる。 そして、本研究結果を介した学校現場との対話の必要性 も課題として残る。ミドルリーダーの育成という喫緊の課 題に応答するためには、ただ単に理論を生成し、その理論 の精緻化を進めるだけでは意味がない。生成した理論、検 討したミドルリーダーに求められる力量を介して学校現場 と対話し、研究と実践を繋げる取組みが求められる。 これら課題を踏まえ継続して研究を行うことで、よりリ アリティのあるミドルリーダーに求められる力量の把握が 可能であると考える。 3.主要参考文献 ・小島弘道「スクールミドルの役割-「中間概念」の創造」 『月刊高校教育』43(3)、2010 年、pp.82-85。 ・織田泰幸「学校の組織能力を構築するための知識経営論 に関する考察-D.H.Hargreaves の知識創造学校論に着目 して-」『日本教育経営学会紀要』50、2008 年、pp.50-64。 ・金井壽宏「リーダーとマネジャー-リーダーシップの持論 (素朴理論)と規範の探求-」『國民經濟雜誌』177(4)、 1998 年、pp.65-78。 ・木下康仁『グラウンデッド・セオリー・アプローチの実 践 質的研究への誘い』弘文堂、2003 年。 ・野中郁次郎、竹内弘高著、梅本勝博訳『知識創造企業』 東洋経済新報社、1996 年。 ・八尾坂修『学校改革の課題とリーダーの挑戦』ぎょうせ い、2008 年。

・Harvard Business Review 編、DIAMOND ハーバード・ビジ ネス・レビュー編集部訳『ナレッジ・マネジメント』ダ イヤモンド社、2000 年。

参照

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