差異化
著者 柳澤 輝行, 増宮 晴子, 渡邊 春男
雑誌名 循環器病の薬物療法
ページ 188‑199
発行年 2006‑01
URL http://hdl.handle.net/10097/40208
[新目でみる循環器病シリーズ 21 ]『循環器病の薬物療法』
メジカルビュー社、2006 年 1 月 1 日、pp188-199 ISBN 4-7583-0143-3 C3347
II 循環器治療薬剤:分類・作用機序と臨床応用
電位依存性 Ca 2+ チャネルの分子薬理学と Ca 拮抗薬の差異化
東北大学大学院 医学系研究科 生体機能学講座 分子薬理学分野
(略称:東北大学医学部分子薬理)
柳澤輝行,増宮晴子,渡邊春男
(やなぎさわてるゆき,ますみやはるこ,わたなべはるお)
Teruyuki YANAGISAWA, Haruko MASUMIYA, Haruo WATANABE
はじめに 2
1)細胞内Ca2+濃度とCa2+チャネル 2 2)電位依存性Ca2+チャネルの構造と分類 3 3)Ca2+チャネルの細胞内からの修飾 3 ◇α2アドレナリン受容体
◇Ca2+依存性不活性化
4)目でみるCa2+チャネル機能・動態 4 5)Ca拮抗薬の分類 4 6)Ca拮抗薬の結合部位と結合への経路 5 7)Ca拮抗薬の差異化 5
おわりに 6
文献 7
コラム〔βサブユニットの分類と特徴〕 9
図と図の説明 10
表1 電位依存性Ca2+チャネルの分類 24
はじめに
細胞の電気的活動と細胞内カルシウムイオン濃度([Ca2+]i)に影響する細胞内 への Ca2+流入は種々の通路を通って生じる。興奮膜を持つ細胞では電位依存性 Ca2+チャネルが最も主要なCa流入路となっている。ゲノムプロジェクトの進展 とともに,電位依存性陽イオンチャネルの全貌が明らかになってきた。全体の中 の位置づけを知ることは,ともすれば細部にとらわれがちな思考過程からの解放 をもたらしてくれる(図1)1)。このような見方は興奮性細胞だけでなくすべて の細胞のイオンホメオスタシスを考える上でも重要である。Ca 拮抗薬,中でも
1,4-ジヒドロピリジン(dihydropyridine: DHP)系Ca拮抗薬は血管選択性が高く,
その分子機序と組織・生体機能については本シリーズ旧版に詳説したのでそちら を参照されたい2)。現在数多くのCa拮抗薬が販売されているが,基本はニフェ ジピン,ベラパミル,ジルチアゼムである。分子薬理学から臨床薬理学までの知 見を交えて,Ca2+チャネルについて概観し,Ca 拮抗薬の進化と差異化について 所見を述べる。
1)細胞内Ca2+濃度とCa2+チャネル
[Ca2+]i上昇の主なメカニズムは,細胞外からのCa流入と細胞内Ca貯蔵部位
[筋小胞体(sarcoplasmic reticulum: SR),小胞体(endoplasmic reticulum: ER)]か らのCa放出・遊離である3-5).興奮性細胞では電位依存性Ca2+チャネルが最も 主要なCa 流入路となっている.非興奮性細胞をも含めたこの他の Ca 流入路に は,受容体作動性チャネル,Ca放出作動性Ca2+チャネル(容量性Ca2+チャネル,
TRP関連チャネル)がある1,4).前者は,種々のアゴニストの受容体への結合に より開くチャネルであり,Ca2+選択性の高い受容体作動性Ca2+チャネルと,陽イ オンを非選択的に透過させる受容体作動性非選択的陽イオンチャネルとがある.
後者は,Ca放出が生じた後に,細胞外からストアへCaを流入・貯蔵する経路で ある.静脈,特に門脈や消化管・子宮平滑筋ではCa拮抗薬で遮断される自発電 動性を示すが,大動脈や比較的太い動脈では病態以外は一般に示さない.動脈で は,アゴニスト,神経刺激,血管への伸展刺激[伸展受容(stretch activated: SA)
チャネル開口]などにより持続的脱分極が生じ,Ca2+チャネル開口確率が高まる。
また,浅い膜電位でも完全な不活性化が起こりにくいチャネルが持続して開いて おり,血圧・血流調節の基礎である血管トーヌスを保持している。Ca2+チャネル に結合しそれを遮断してその薬理作用を示すものを Ca 拮抗薬(Ca antagonist,
Ca2+ channel blockerなど)と呼ぶとすると,極めて多種類の薬物がこの仲間に入
る2,4,6)。狭義のCa拮抗薬は特異的に電位依存性L型Ca2+チャネルに結合して,
細胞内へのCa2+流入を遮断し,電気的活動と[Ca2+] i を低下させて作用を表す。
2)電位依存性Ca2+チャネルの構造と分類
電位依存性Ca2+チャネルというファミリーは大きな脱分極で活性化される(高 電位活性化)HVA と低電位活性化(LVA)T 型(タイプ)の2つのサブファミ リーに大きく分けられる(図2,表1)。 HVA Ca2+チャネルはDHP系Ca拮抗 薬感受性L型と非感受性のN, P/Q, R型との2グループに分けられる。L型の4 つのクラスは骨格筋(S),心筋(C),神経内分泌系(D),網膜(F)である。
さらにCクラスの中に心筋(Ca),平滑筋(Cb),神経(Cc)に存在するスプ ライスバリアントであるサブクラスがあり,Ca 拮抗薬の分類と作用機序そして 組織選択性の基礎となっている2)。Ca2+チャネルの関与する病態(チャネル病な ど)を表1に掲げた。
3)Ca2+チャネルの細胞内からの修飾
ヘテロマルチマーであるCa2+チャネルはα1サブユニットのみの研究では生体 機能や病態を説明するのに不十分である(図3,コラム)。遺伝子改変動物(ノ ックアウトマウスなど)や共発現細胞を用いたりして,βサブユニットによる修 飾に関する研究が行われている。βサブユニットとα1サブユニットとを共発現 させることにより,α1サブユニットのみの発現に比べDHPの結合数は増加し,
Ca2+電流は大幅に増加することが観察されている7)(図4c)。
◇α2アドレナリン受容体
α2アドレナリン受容体(自己受容体)は GTP 結合蛋白質 Giβγを介して N 型 Ca2+チャネルを抑制し,ノルアドレナリン分泌を抑制するネガティブフィー ドバック機能を担う。神経型のCa2+チャネルα1サブユニット(α1A,α1B,α
1E)のドメインI〜II間の細胞内ループ部分にGTP 結合蛋白質の Giβγサブユ
ニットが結合し,Ca2+チャネルの活性化および不活性化を遅くする(図 4b)。
GTP結合蛋白質Giβγを介する神経細胞のCa2+チャネルの調節は,オピオイド 受容体やヘテロ受容体のα2アドレナリン受容体の鎮痛・鎮静作用の機序として も重要である。薬物としてそれぞれモルヒネやクロニジンとデクスメデトミジン がある。デクスメデトミジンは降圧作用とともに鎮静作用が見られたクロニジン の副作用をさらに鎮痛・鎮静作用に有用に特化したものである8)。
◇Ca2+依存性不活性化
L 型 Ca2+チャネルは[Ca2+]i が上昇すると Ca2+依存性不活性化を起こす.これ は Ca2+シグナルのネガティブフィードバック機構として重要である.カルモジ ュリン(CaM)がα1C サブユニットのカルボキシル(C)末端に結合していて,
局所の Ca2+濃度上昇(チャネルを通じての流入 Ca と筋小胞体からの放出 Ca)
によりチャネル活性を抑制する9)。カルモジュリンに結合しないバリウムBaに は電流不活性化が見られない(図 4d)。L 型 Ca2+チャネルの Ca 依存性不活性 化には意味がある。C 末端に結合しているカルモジュリンへの Ca 結合により、
C 末端領域が Ca2+チャネルのポアに細胞内から入り込んで Ca2+チャネルの不活 性化を生じ,過剰の Ca 濃度(Ca 過負荷)、遅延後脱分極(DAD),ひいては 不整脈などの病態9')を予防する機能を持つと考えられている。
4)目でみるCa2+チャネル機能・動態
Ca2+チャネルのCa2+選択性機序と,カリウムチャネルのポア部分の開閉のモデ ルを基にしたモデルを図5に示す1,10)。Ca2+チャネルは静止(rested,閉,closed), 活性化(activated,開,open),不活性化(inactivated)の 三つの状態をとる(図
6)。種々のCa拮抗薬の結合部位をCa2+チャネルの構造上で詳細に明らかにし,
チャネル機能を担う構造部位の解明が追求されている。また,神経,筋,内分泌 器など各種組織に発現している異なった型,クラスの Ca2+チャネルにおける結 合部位の分子レベルでの検討により,Ca 拮抗薬の組織選択性の解明や有用な新 しいCa拮抗薬の開発が期待されている。
5)Ca拮抗薬の分類
広義の Ca 拮抗薬には Ca2+チャネルの型を認識する生物由来のペプチド(性 Caチャネル遮断)毒や他の薬理作用を持ちながらCa2+チャネルも遮断する薬物
(例,キニジン,パパベリン)がある2)。代表的なCa拮抗薬,いわゆる第一世 代のCa拮抗薬は,それぞれ異なった化学構造を持つ3グループとその他に大き く 分類 される。 DHP 系 ( 誘導体 ) のニフ ェ ジピン, ベンゾチアゼピン
(benzothiazepine: BTZ) 系 の ジ ル チ ア ゼ ム , フ ェ ニ ル ア ル キ ル ア ミ ン
(phenylalkylamine: PAA)系のベラパミル,そしてジフェニルピペラジン系のフ ルナリジンなどである(表1,図7,8)2-6,11)。
これらの基本薬物の構造に修飾を加えて,副作用の軽減,高い効力,長時間作 用,そして組織選択性をめざして新しい薬物が開発されてきた。第二世代の Ca 拮抗薬には,ニカルジピン,ニソルジピン,ニトレンジピン、シルニジピン、エ ホニジピンなどのDHP系Ca拮抗薬などがある。さらにそれらの特徴や改良点、
付加効果が組み合わされて新たな特徴を有した第三世代ともいうべき薬物(アム ロジピン,アゼルニジピン)が登場してきている(図7,8)。
6)Ca拮抗薬の結合部位と結合への経路
3つの系のCa拮抗薬はいずれも,L型Ca2+チャネルのα1サブユニットに結合 するが,それぞれ別個の結合部位をもつ2)。例えば,Ca2+チャネルのPAA系Ca 拮抗薬の結合部位は,細胞内からアプローチできる所にあると考えられていて,
この遮断様態は局所麻酔薬(やはり,アミン構造を持つ)が電位依存性Na+チャ ネルに結合する様式と極めてよく類似している2,3)。DHP系Ca拮抗薬はドメイ ンIIIのポア部分とドメインIVのS6膜貫通部(IVS6)を含む疎水性結合部位に チャネルが不活性化状態である時に膜ルートを通じて結合すると考えられてい
る(図6d)2,12,13)。PAA系のベラパミルは,主に細胞内ルートよりチャンネル
が開いた時にその受容部位に結合して Ca2+チャネルを遮断する(open channel block,guarded receptor 説)。Ca2+チャネルを遮断した後,膜電位が静止膜電位 に戻れば,Ca2+チャネルは静止状態に戻り,薬物は比較的遅い速度でCa2+チャネ ルから離れる。この解離は電位依存性である。活動電位の頻度が高ければ高いほ どCa2+チャネルから解離する割合が低くなり,PAA系Ca拮抗薬の作用は蓄積す ることになる2)(使用・頻度依存性遮断)。一方,DHP系Ca拮抗薬(『膜経路』
を持つ)は不活性化状態の Ca2+チャネルにきわめて親和性が高く,静止膜電位 で 静 止 状 態 に な る と 親 和 性 が 大 き く 低 下 す る (modulated receptor 説 , state-dependent block)2, 3)。
7)Ca拮抗薬の差異化
長時間作用型 DHP 系 Ca 拮抗薬(ベニジピン,アムロジピン,アゼルニジピ ンなど)は脂溶性が高く,膜脂質への分配が大きい。脂溶性の高い薬剤では膜脂 質への結合が強く,また解離が遅くなる傾向がある。一方,比較的脂溶性の高い 薬剤では降圧作用発現までの時間が長くなる傾向も認められる(図9)14,15)。
DHP系Ca拮抗薬の中にはL型とともに N型Ca2+チャネルをも遮断するもの
(シルニジピン)がある。交感神経終末からのノルアドレナリンやコトランスミ ッター(ATP, ニューロペプチドY)の遊離にはN型Ca2+チャネルが関与してい
る(表1)ので,これを遮断することにより治療にとって不利益な反射性頻拍を
抑制し,長期的に有益な効果をもたらす可能性が高い(図 10)。アゼルニジピ ンは最も新しく登場してきた DHP 系 Ca 拮抗薬で,注目すべき特徴として若干 の直接の徐拍効果がある16)。房室伝導には影響せず,N型にもT型に対しても 遮断作用が見られないとされているので,その分子機序の解明が待たれる(図 11)。ベラパミルやジルチアゼムは徐拍作用と房室伝導抑制作用が強力であり,
むしろ上室性頻拍に対する抗不整脈薬として用いられている。
ミベフラジルやエホニジピンそしてベニジピンはL型とともに,T型も遮断す る作用を持つ(表 1)17)。ミベフラジルは,動物実験で輸出細動脈により強く
働くことから蛋白尿の減尐作用が強いことが証明されている18)。この薬物は腎 臓の糸球体からの輸出細動脈に存在する T 型 Ca2+チャネル遮断作用により糸球 体内圧上昇を防ぎ,微量アルブミン排泄,ひいては蛋白尿を予防する効果(図
12)が期待でき,臨床的にも有用と考えられている19)。ただし,血圧維持そし
て動脈平滑筋収縮アゴニスト作用は L 型 Ca2+チャネルの働きに主に依存してい ることとCa拮抗薬の最も基本的な作用機序はL型Ca2+チャネル遮断作用である こととを忘れてはならない。
ジヒドロピリジンはピリジン環へと酸化反応を受ける可能性をもつ。その裏の 反応は還元作用で,生体でのラジカルの還元・消去効果が期待できる。この作用 は,酸化LDLをはじめとした動脈硬化作用に対して治療学的に有用である。種々 のDHP系Ca 拮抗薬を検討した結果を図13に示す 20)。アゼルニジピンは強力 な抗酸化作用を示し,実験的動脈硬化に対して抑制効果を持つ。
おわりに
Ca2+チャネルばかりでなく他のイオンチャネルの全貌が明らかになったポス トゲノムの時代
を迎え,構造と機能・病態の知見が深まり
研究と治療に広 大な領域が開けてきている。Ca拮抗薬は最も確実な降圧効果があり24)、脳卒中 の予防に現在最も有用であり,高血圧,狭心症,不整脈などの疾患の重要な治療 薬である。高血圧以外の危険因子も減弱させる付加価値を持つ Ca 拮
抗薬も登場してきた。
今後はここで述べたCa2+チャネルサブタイプが関与す る種々の疾患の特徴を考慮した選択的なCa拮抗薬やチャネル状態を感知して刺 激したり遮断したりするCaチャネル作動薬が登場し,新しい治療が生み出され るであろう。Ca 拮抗薬の重要性に気付いた薬理学者の先鞭に続いて,種々の分 野の成果を取り入れてCa2+チャネルの分子薬理学的研究が行われ,Ca2+チャネル 関連治療薬は著しい進歩をとげている。文献
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コラム
〔βサブユニットの分類と特徴〕
Ca2+チャネルは,α1サブユニットのみの機能発現の研究や観点では生体機能 や病態(チャネル病)を説明できない。細胞質に存在する Ca2+チャネルβサブ ユニット(β1~β4)の生体内での機能は,主要なα1 サブユニットとは対照的 にあまり分かっていない 7)。4種のβサブユニットの各遺伝子には,さらに 2
~3個のスプライスバリアントがある。βサブユニットは5つの異なったドメイ ン(①PDZ 様ドメイン,②SH3 ドメイン,③グアニル酸キナーゼドメイン,④ α相互作用ドメイン,⑤副次的α相互作用ドメイン)からなる一般構造をもつ。
4 種の遺伝子産物の全てが神経細胞に現れる。神経細胞における発現に加えて,
各βサブユニットはチャネルの各型が関連した主なα1サブユニットを持ち,異 なった組織に特異な発現をする(図3)。β4はP/Q 型チャネルと関連した主な サブユニットであり,N型チャネルは主にβ3を含む。Ca2+チャネルα1サブユニ ットのみを発現させると,細胞膜上への発現はごくわずかで,主として細胞内 の小胞体にたまるが,βサブユニットを共発現させると細胞膜上へ移行する(細 胞膜へのトラフィッキング)。α1サブユニットのみの発現に比べDHP系Ca拮 抗薬の結合数は増加し,Ca2+チャネルの開口確率が増加し,Ca2+チャネル電流が 増大し,Ca2+チャネル電流の活性化・不活性化の速度も変化する。βサブユニッ トはα1サブユニットのCa2+ チャネルとしての機能を増強・高速化する(図4c)。
マウスモデルでは,β1サブユニットは多くの組織に発現しており,β1aは骨格 筋に発現する。β1欠損マウスは出生時に呼吸筋機能不全のため窒息で死ぬ。β
2サブユニットは心臓のCa2+チャネルの構成要素なので,心臓の欠陥により胚の 時期に死ぬ。β3欠損マウスは明白な表現型の異常はなく正常な外見であり,主 な内臓にも異常はないが,神経機能の異常が示されている 23)。β4サブユニッ ト欠損マウスはてんかん様状態を呈する7)。
図と図の説明
図1.電位依存性陽イオンチャネルスーパーファミリー(VGL-Chanome) カルシウムイオン(Ca2+)チャネルが属する電位依存性陽イオンチャネルの全 貌がゲノムプロジェクトにより明らかにされてきた 1)。全ての型のαサブユニ ットの構造的特徴は4量体または4ドメインを基本にする。膜を貫通する6個の セグメントTMを1ドメインとし,このドメイン構造が 4回(I〜IV)繰り返さ れる点で,このドメイン1つ(α1 サブユニットの 1/4)は電位依存性カリウム イオン (K+) チャネルサブユニット(4つでチャネル導管αサブユニットを形 成)の遺伝子生成物と同じ膜貫通構造である。電位依存性チャネルは,K+チャ ネル,その遺伝子重複により4個のユニットが連なった Ca2+チャネル,次いで ナトリウムイオン(Na+) チャネルの順に系統発生してきたと考えられている 21) 。αサブユニットの膜貫通部位 TM の数とポア P の特徴そして細胞内に存 在するループの構造と機能から,143メンバーの VGL: voltage-gated and related
cation channels(VGLチャノム)スーパーファミリーは8つの群に分類できる。
時計回りで説明すると,以下のようになる。
①CaV: voltage-gated calcium channelsとNaV: voltage-gated sodium channels。6TM を直列に4ドメイン結合し4つのポアを持つもの。それ自身単量体でαサブユニ ットとなる。
②TPC: two-pore channels。6TMを直列に2ドメイン結合し2つのポアを持つも の。2量体で導管αサブユニットをつくる。
③TRP: transient receptor potential and related channels。代表的機能には受容体依 存性 Ca2+チャネル,容量性 Ca2+チャネル,機械刺激・熱・痛み・辛味受容体な どと極めて幅広いシグナリングに関与する。
④Kir: inwardly rectifying potassium channels。2つのTMとその間にポアを有す るもの。静止膜電位維持,イオン輸送,迷走神経(アセチルコリン)の洞房結節 徐拍,インスリン分泌・虚血プレコンディショニング(ニコランジルのターゲッ ト分子 KATP)などに関与する。Kir の1番目の TM と2番目の TM はそれぞれ S5とS6に相当する。
⑤KCa: calcium-activated potassium channels。最大のコンダクタンスをもつ
BKCaはS0αヘリクスをもち7TMである。
⑥KV: voltage-gated potassium channels。多彩な機能を担う。ある種のLQT症候 群の責任遺伝子でもある 22)。ただし、KV10–12 は⑧の CNG に似た構造と機能 を持つ。
⑦K2P: two-pore potassium channels,2つのTMとその間にポアを有するKirが 2つ直列につながったもので,イオン輸送,吸入麻酔薬のターゲット分子。2量 体でαサブユニット。
⑧CNG: cyclic nucleotide-modulated ion channels,視覚(cGMP),嗅覚(cAMP)
に関与。HCN: hyperpolarization-activated and cyclic nucleotide–gated channels,過分 極で内向き電流を生じペースメーカー細胞(神経、洞房結節からプルキンエ線維 まで)の浅い膜電位・ペースメーカー電位に寄与。
図2.Ca2+チャネルの分子進化1,21)
L型Ca2+チャネルを別名DHP受容体と呼ぶ。それは,DHP 系Ca拮抗薬が高親 和性に結合し,その結合を指標に骨格筋のT管に存在するDHP受容体が精製さ れ,α1サブユニットはCa2+を選択透過させるイオン透過孔(ポアpore)をその 構造の中心にもちCa拮抗薬の結合部位を有し,Ca2+チャネルの主要な機能部で ある。電位依存性Ca2+チャネルは従来までは10種のαサブユニットが知られて いたが, Ca2+チャネルの主要なアミノ酸配列は保ちながらも, Na+も通しうる イオンチャネルVGCNL (voltage-gated sodium and calcium like channels, FEBS Lett.
445, 231-236 (1999))が ヒ ト ゲ ノ ム か ら 見 出 さ れ て き た 。 HVA: high voltage-activated, LVA: low voltage-activated。
図3.ヘテロマルチマー電位依存性 Ca2+ チャネル
Ca2+チャネルはα1,β,α2,δと呼ばれる尐なくとも4つのサブユニットで構 成された複数のサブユニット蛋白質複合体(ヘテロマルチマー)である.組織に よってはγサブユニットも存在する.α1サブユニットはイオンの通るポアや電 位センサー,開閉(gate)装置,Ca 拮抗薬分子と毒素に対する薬物結合部位を もち,細胞内シグナリング経路の標的でもある.α2/δやβ,γサブユニットは α1サブユニットの機能を調節する付属サブユニットである7,23)。
図4.Ca2+電流の調節機構。
a)電位依存性Ca2+チャネルの構造とCa2+電流量の調節機部位を示す。
b)α2アドレナリン受容体(自己受容体)はGiβγを介してN型Ca2+チャネルを 抑制し,ノルアドレナリン分泌を抑制するネガティブフィードバック機能を担う。
神経型のCa2+チャネルα1サブユニット(α1A,α1B,α1E)のドメインI〜II 間の細胞内ループ部分とC末端領域にはGTP結合蛋白質のGiβγサブユニット が結合し,Ca2+チャネルの活性化および不活性化を遅くする。
c)β サブユニットはα1サブユニット発現を増加し,Ca2+チャネルの開口確率 が増加し,Ca2+チャネル電流が増大し,Ca2+チャネル電流の不活性化の速度を速 める(コラム参照).
d)Ca 依存性不活性化機構 。カルモジュリン CaM が細胞内 C 末に結合してい て,局所のCa2+濃度上昇(チャネルを通じての流入Ca,筋小胞体からの放出Ca)
によりチャネル活性を抑制する。カルモジュリンに結合しないバリウムBaには 電流不活性化が見られない。
図5.Ca2+チャネル開閉に際してのS5-S6領域の想像図。
a)各ドメインの第5〜第6セグメントの間の細胞外ループ部分はポア内に折れ込
むように配列して,イオン選択フィルターとして機能する。高閾値活性型 Ca2+
チャネルのポアにはグルタミン酸 E が保存されており(図 4a),Ca2+に対する 選択性を決定している。 Ca2+を選択的に結合して流入させる機序はポアに存在 するグルタミン酸 のカルボキシル基が,ちょうど選択的な Ca キレーターの EGTAのカルボキシル基をポアの立体構造に組み込んだものを想像するとよい。
b)K+チャネルαサブユニット(KcsA と MithK)のポア領域のホモロジーモデルに 基づいた Ca2+チャネルα1サブユニットの Ca2+チャネル開閉に際しての想像図
1,10)。ポア領域とS6の細胞内領域が開くことが導管の開状態形成に重要である
とされる。
図6. Ca2+チャネル動態とDHP系Ca拮抗薬による遮断
第 4 膜貫通セグメント(S4)は 3 個のアミノ酸ごとにプラスの電荷をもったア ミノ酸(アルギニンまたはリジン)を持ち、αヘリックスをつくり、膜電位セン サーとしてはたらく。脱分極によりαヘリックスが細胞の外側へ向かって動き,
Ca2+チャネル全体の構造を静止状態(a)から開状態(b)へと変化させる。不活 性状態(c)は基本構造として開状態をとり,S6細胞内領域や細胞内C末端の一 部が細胞内を向いたチャネル導管内にせり出してきて塞ぐと考えられている。
(d)DHP系Ca拮抗薬による遮断。Ca2+チャネルポアを形成するIIIS6とIIIS5-S6 リンカーおよびその外側のIIIS5とIVS5で囲まれたポケット(ファマコフォア)
にDHP系Ca拮抗薬 が入り込み,ポア構造とも相互作用するものと推定される
12).膜脂質に溶け込んだDHP系Ca拮抗薬は不活性化状態イオンチャネルに極
めて高親和性であり,膜に溶け込み定常状態になる(作用発現)のに時間がかか り,作用持続時間も長くなる傾向がある。(文献13より改変引用)
図7.差異化をねらう新世代DHP系Ca拮抗薬の構造
DHP 系のニフェジピンを第一世代として、長時間作用型,L 型以外の Ca2+チャ ネル遮断作用,それらに加えて付加価値(腎保護効果,徐拍作用,抗酸化作用)
をまとった新世代Ca拮抗薬が登場してきた。極性(水),非極性(脂質)の溶 媒に対してともに親和性をもつことを両親媒性という。アムロジピンは一端に DHP構造という疎水基をもち,側鎖の一端に-NH2というアミン基をもつ。アゼ ルニジピンもDHP環にアミン基を持つ。ともに両親媒性であるリン脂質二重層 の膜に溶け込みやすい性質を有する。
図8.Ca拮抗薬の心血管作用プロフィルとDHP系Ca拮抗薬の血管選択性 イヌ摘出血液灌流心標本を用いて得られたCa拮抗薬の心血管作用プロフィル である。5種類のCa 拮抗薬の冠血管拡張作用(0時)に対する洞房結節自動能 抑制(2時)・房室結節内伝導抑制(4時)・心室内伝導抑制(6時)・心室自 動能抑制(8時)・心室筋収縮力抑制作用(10時)の相対効力比(選択性)を 示す。冠血流量が薬物非投与時の2倍になる用量のCa拮抗薬を心標本に動脈内 注射した時に,種々の心機能がどのように変化するかを一目で読み取れるように 工夫したものである。パターンが正六角形に近ければ,冠血管と5種類の心臓機 能のいずれにもそのCa拮抗薬は選択性がないことを示す。逆に六角形の中心に 近ければ近いほど,その Ca 拮抗薬は問題にしている心臓機能に対してよりも,
冠血管に選択性が高いことを示す。ニフェジピンは他の心機能に大きく影響しな い。これを血管選択性があるという。血管拡張作用が十分に生じている時,ベラ パミルとジルチアゼムの心拍数低下・房室伝導遅延作用が顕著である。この作用 を積極的に利用して上室性頻拍の治療に用いられている。 DHP系Ca 拮抗薬の 血管選択性の機序は,血管のCa2+チャネルα1サブユニット(Cb)は心筋のCa2+
チャネル(Ca)よりも感受性が高く,血管の静止膜電位が 心筋のそれよりも浅 いために不活性化状態のチャネルの割合が高いことによる2,11)。
図9.脂溶性(Log PHPLC)と降圧作用持続時間(t1/2)の相関
長時間作用 DHP 系 Ca 拮抗薬は脂溶性が高く,膜脂質への分配が大きい。脂溶 性の高い薬剤では膜脂質への結合が強く,また解離が遅くなる傾向がある。一方,
比較的脂溶性の高い薬剤ではlog PHPLCが大きくなると降圧作用発現までの時間 Tmaxが長くなる傾向も認められた。Amlo:アムロジピン, Aze:アゼルニジピン, Ben:ベニジピン, Fel:フェロジピン, Laci:ラシジピン, Man:マニジピン, Nic:
ニカルジピン, Nif:ニフェジピン, Nim:ニモジピン, Nis:ニソルジピン, Nit:ニ トレンジピン, Pra:プラニジピン。 (文献15より引用)
図10.心筋活動電位・Ca2+チャネルと自律神経系
血管選択性の高い短時間作用型のCa拮抗薬は動脈圧受容器を介する反射性頻拍 を生じやすい。反射性頻拍には,交感神経系の活性化と副交感神経系の抑制とが あいまって生じる。N 型 Ca2+チャネル遮断薬は交感神経からの伝達物質遊離を 抑制し,反射性頻拍が尐ない。交感神経の過剰な働きは心血管系疾患のリスクで もあるのでN型Ca拮抗薬の有用性が期待できる。洞房結節や房室結節にはL型 の中の CaV1.3 (D)チャネルが CaV1.2 (C)に比べて相対的に多く発現している。
CaV1.3はCaV1.2に比較して活性化の閾値電位が15mVほど過分極側にありペー スメーカー活動に寄与している。ニカルジピン(図 8)や徐拍をきたす DHP 系 Ca拮抗薬がCaV1.3チャルにも選択性を示せば,徐拍の機序を説明する可能性が ある。
図11.降圧作用と心拍数変化との関係
麻酔犬にニフェジピン(0.001~0.1 mg/kg)、アムロジピン(0.03~3 mg/kg)
そしてアゼルニジピン(0.03~1 mg/kg)をボラスで静脈内投与すると、左図の ような心拍数変化が降圧作用に伴って生じる。圧受容器反射を除くために薬理学 的除神経を行って同様にCa拮抗薬を投与すると右図となる。薬理学的除神経と は,β遮断薬により交感神経の神経伝達を遮断し,ムスカリン受容体遮断薬アト ロピンにより副交感神経伝達を同時に遮断することにより動脈圧受容器反射に よる心拍数への影響をなくす方法で,それぞれのCa拮抗薬のもつ直接の徐拍効 果を推定することができる。頻拍は心循環系疾患のリスクファクターである。(文 献16より引用)
図12.糸球体内圧と蛋白尿に対するCa拮抗薬の作用
a)ネフロン数が減尐すると,プロスタグランジン等により輸入細動脈が拡張す る。一方,アンジオテンシン II(AII)によって輸出細動脈の収縮も起こり,糸 球体内圧が高まる。b)T型Ca2+チャネルを遮断すると,輸出細動脈が拡張し,
それによって糸球体内圧が低下し,同時に糸球体過剰濾過,微量アルブミン排泄,
ひいては蛋白尿 が是正される。糖尿病性腎症初期には可逆性の微量アルブミン 尿(UAER 20~200 μg/ 分)が唯一の症状であり,やがて不可逆的に腎不全に 進行する。また,高血圧症,高齢者などでも微量アルブミン尿は危険因子と認知 されている 19)。T 型 Ca 拮抗薬(ミベフラジル,エホニジピン)は,動物実験 で輸出細動脈により強く働くことから蛋白尿の減尐作用が強いことが証明され ている18) 。
図13.DHP系Ca拮抗薬の抗酸化作用
ジヒドロピリジン環が酸化されピリジン環になる際に生じる水素はラジカル消 去作用を持ちうる。酸化アゼルニジピンには抗酸化作用はない。*:インキュベ ーション時間2時間,アゼルニジピンとアムロジピンは8時間で測定。両薬物は 定常状態を得るのに長時間必要なことを示す。脂溶性の高い薬物ほど膜内では高 濃度になりうるので,ラジカルによる脂質過酸化に対する抗酸化作用が生体内で も生じている可能性が高い。(文献20より引用)
表1 電位依存性 Ca
2+チャネルの分類
L N P/Q T
局在 興奮性細胞全般 ニューロン ニューロン 興奮性細胞
機能 興奮収縮連関 神経伝達物質の遊離 神経伝達物質の遊離 ペースメーカー活動
(骨格筋 S・心筋 Ca・平滑筋 Cb) (ノルアドレナリン遊離) 神経筋接合部 (洞房結節・ニューロン・
興奮分泌連関 Gi 共役受容体により (アセチルコリン遊離) 内分泌細胞・輸出細動脈) (内分泌細胞 D・ニューロン Cc・ 調節される 神経活動 細胞増殖
網膜 F)
遮断毒 カルシセプチン ω-コノトキシン GVIA ω-アガトキシン IVA クルトキシン
遮断薬(ブロッカー) DHP 系 Ca 拮抗薬 シルニジピン FTX エホニジピン
ベラパミル ミベフラジル、Ni2+
ジルチアゼム フルナリジン(非選択的)
病態(チャネル病) 悪性高熱症・低カリウム血性 LEMS CaV3.2 欠損マウスで
周期性四肢麻痺(CaV1.1) 周期性運動失調症 NO 性冠動脈拡張消失1
性染色体停止性夜盲症(CaV1.4) 脊髄小脳失調症 6 型
γ* 25 pS 12-20 pS 9-19pS 8 pS
活性化電位(以上) 高(心筋:-40 mV) (神経:-10 mV) 高(-20 mV) 中(-50 mV) 低(-70 mV)
不活性化速度 遅い(τ>500 ms) 中 非常に遅い、無 速い(τ=20~50 ms)
脱活性化 速い(τ=0.2~0.4 ms) ---- ---- L よ り 遅 い ( τ = ~ 5 ms)
細胞内 Ca2+による 有 有 無 無
不活性化
再分極時の再活性化 速い(τ=144 ms) 遅い ---- L、N より遅い
*:単一チャネルコンダクタンス、~100 mM Ba2+を電荷キャリアーとして測定したもの。
FTX:funnel web spider toxin. LEMS: Lambert-Eaton myasthenic syndrome ランバート-イートン筋 無力症症候群.
R 型チャネル遮断薬として SNX-482 が知られている。健常脳動脈は L 型のみ発現しているが、ク モ膜下出血後の脳動脈収縮に R 型の関与が報告された(Circ Res 96: 419-426, 2005)。
1Science 302:1416-1418, 2003