4 有界作用素
(2011年1月26日更新)
4.1 定義と例
以下しばらくの間, 記号は次の通りとする:
K は R または C,(X, ∥ · ∥
X), (Y, ∥ · ∥
Y) は K 上のノルム空間, X →
TY は K -線形写像
}
(4.1)
例えば,X = K
d1,Y = K
d2(d
i< ∞ ) なら T は d
2× d
1行列で表されるから x 7→ T x は 連続,また,単位球 { x ∈ X ∥ x ∥
X= 1 } はコンパクトだから
sup
∥x∥X=1
∥ T x ∥
Y< ∞ . (4.2)
X が無限次元なら,(4.2) は一般の線形写像では成立しないが,これが成立する線形写 像は有界作用素と呼ばれる重要なクラスである.
有界作用素を特徴づける幾つかの同値な条件を述べよう:
命題 4.1.1 記号は (4.1) 通り,
∥ T ∥ = ∥ T ∥
X→Ydef
= sup
∥x∥X=1
∥ T x ∥
Y(4.3)
とするとき,
∥ T x ∥
Y≤ ∥ T ∥ ∥ x ∥
X, ∀ x ∈ X, (4.4)
∥ T ∥ = sup
∥x∥X≤1
∥ T x ∥
Y, (4.5)
但し ∥ T ∥ = ∞ かつ x = 0 なら,(4.4) の右辺=0 とする. また,以下は同値:
a) T ∈ C(X → Y ).
b) ∥ T ∥ < ∞ .
c) ∃ M ∈ [0, ∞ ), ∀ x ∈ X, ∥ T x ∥
Y≤ M ∥ x ∥
X.
証明:(4.4):x = 0 なら両辺=0 ゆえ,x ̸ = 0 とする。そこで x e = x/ ∥ x ∥ とすると、
∥e x ∥
X= 1. よって、
∥ T x ∥
Y= ∥ x ∥
X∥ T x e ∥
Y≤ ∥ x ∥
X∥ T ∥ .
(4.5):≤ は定義から明らか.≥ は (4.4) による.
a) ⇒ b): 対偶を示す.∥ T ∥ = ∞ なら、∥ x
n∥
X≡ 1 かつ ∥ T x
n∥
Y→ ∞ なる点列 x
n∈ X が存在する。n が十分大なら ∥ T x
n∥
Y> 0.そのような n に対し e x
n=
∥T xxnn∥Y
として,
∥e x
n∥
X= 1
∥ T x
n∥
Y→ 0, ∥ T e x
n∥
Y= 1. よって T は x = 0 で不連続.
b) ⇒ c): (4.4) による.
c) ⇒ a): x, y ∈ X
Xに対し
∥ T x − T y ∥
Y= ∥ T (x − y) ∥
Y≤ M ∥ x − y ∥
X.
2 定義 4.1.2 記号は (4.1) 通りとする.
I 命題 4.1.1 の条件 a)–c) のどれか(従って全て)が成立するとき、T を有界作用素と
いう. また, (4.3) の ∥ T ∥ を T の作用素ノルムという.
I 有界作用素 X →
TY の全体を B (X → Y ) と記す.
問 4.1.1 記号は (4.1) 通り, T ∈ B (X → Y ) は全単射かつ T
−1∈ B (Y → X) とする.
このとき, X がバナッハ空間なら Y もそうであることを示せ.
問 4.1.2 X はバナッハ空間、Y はノルム空間、T ∈ B (X → Y ) とする。次のような δ > 0 が存在すれば T X は閉集合であることを示せ:全ての x ∈ X に対し ∥ T x ∥ ≥ δ ∥ x ∥ . 問 4.1.3 記号は (4.1) 通り, T, T
n∈ B (X → Y ), n ∈ N とする.全ての x ∈ X で T
nx
n−→
→∞T x なら ∥ T ∥ ≤ lim
n→∞
∥ T
n∥ を示せ.この事実を「作用素ノルムは各点収束に関 して下半連続」と表現することがある.
問 4.1.4 X 上の半ノルム s について以下の条件の同値性を示せ:a) s ∈ C(X → K ).
b) M (s)
def.= sup { s(x) ; ∥ x ∥ = 1 } < ∞ . c) ∃ M ∈ [0, ∞ ), ∀ x ∈ X, s(x) ≤ M ∥ x ∥ .
問 4.1.5 (⋆) X, Y をノルム空間,T ∈ B (X → Y ),Z = X × Y (定義 2.2.1 参照) とする.
以下を示せ:i)Z
0= { (x, 0) ; x ∈ X } , Z
1= { (x, T x) ; x ∈ X } は Z の閉線形部分空間, Z
0∩ Z
1= 0. ii)Z
0⊕ Z
1⊂ Z が閉 ⇔ T X ⊂ Y が閉. (特に問 4.1.6 のような T をとれば,
閉線形部分空間の直和が閉でない例になる. )
例 4.1.3 ( 直交射影 ) X を内積空間,0 ̸ = M ⊂ X を閉部分空間,X = M ⊕ M
⊥とす る.このとき,M への直交射影:X →
PM が存在する (命題 3.1.5).X →
PX と見なす とき, ∥ P ∥
X→X= 1.
証明:全ての x ∈ X に対し
∥ x ∥
2= ∥ P x ∥
2+ ∥ (1 − P )x ∥
2≥ ∥ P x ∥
2, よって ∥ P ∥
X→X≤ 1.
一方,x ∈ M に対し P x = x だから,上と併せて ∥ P ∥
X→X= 1. 2 注:直交射影でない射影には非有界な例もある(例 4.1.8 後の注参照).
次の例は「対角行列」の関数空間への一般化と考えられる:
例 4.1.4 (掛け算作用素) (S, A , µ) を σ-有限測度空間,m : S → C を可測,p ∈ [1, ∞ ] と する.このとき,
sup
∥x∥p=1
∥ mx ∥
p= ∥ m ∥
∞. (4.6)
従って T x = mx (x ∈ L
p(µ)) とするとき
29,
T ∈ B (L
p(µ) → L
p(µ)) ⇐⇒ m ∈ L
∞(µ), (4.7)
∥ T ∥
Lp(µ)→Lp(µ)= ∥ m ∥
∞. (4.8) (4.6) を示す.
p < ∞ なら ∫
| mx |
pdµ ≤ ∥ m ∥
p∞∫
| x |
pdµ, p = ∞ なら ∥ mx ∥
∞≤ ∥ m ∥
∞∥ x ∥
∞.
}
よって (4.6) で ≤ が成立.
次に ≥ を示す.m ≡ 0,a.e. なら (4.6) の両辺は 0. よって m ̸≡ 0,a.e., 即ち ∥ m ∥
∞̸ = 0 と してよい.そこで 0 ≤ c < ∥ m ∥
∞とすると,m(s ∈ S ; c < | m(s) | ) > 0. これと σ-有限 性より,
0 < µ(A) < ∞ , A ⊂ { s ∈ S ; c < | m(s) |}
なる A ∈ A が存在する.そこで x
c(s) =
{
1Aµ(A)1/p
, p < ∞ なら, 1
A, p = ∞ なら とすると, ∥ x
c∥
p= 1 より
sup
∥x∥p=1
∥ mx ∥
p≥ ∥ mx
c∥
p≥ c ∥ x
c∥
p≥ c.
c ↗ ∥ m ∥
∞として (4.6) の ≥ を得る. 2
問 4.1.6 i)X = ℓ
2( N ) とし,T ∈ B (X → X) を T x(s) = 2
−sx(s) (s ∈ N ) で定める.T の値域 T X について T X ̸ = T X = X を示せ.ii)(⋆)i) を X = ℓ
p( N ) (1 ≤ p < ∞ ) の場 合に一般化せよ.
「対角行列」を関数空間に一般化したものが,掛け算作用素だが,対角行列とは限らな い一般の行列を自然な形で関数空間に一般化したものが積分作用素であり,有界作用 素の重要な例である.以下しばらくの間,
(S
j, A
j) (j = 1, 2) を可測空間、k : S
1× S
2→ C , x : S
2→ C を可測 (4.9) とし,次の形の積分を考える:
T x(s) =
∫
S2
k(s, t)x(t)dµ
2(t), s ∈ S
1, 但し µ
2は (S
2, A
2) 上の σ-有限測度.
(4.10)
29(4.6)の証明から分かるように(4.7)の⇐,及び(4.8)の≤には(S,A, µ)のσ-有限性は不必要.
s 7→ T x(s) の可測性について以下に注意する [吉田 (伸), 100 頁,補題 5.3.1]:
• ∀ s ∈ S
1に対し: ∫
S2
| k(s, t)x(t) | dµ
2(t) < ∞ (4.11) なら T x(s) は (S
1, A
1) 上可測である.
• また, µ
1を (S
1, A
1) 上の σ-有限測度とし, (4.11) が dµ
1(s)-a.e. で満たされれば, T x(s) は dµ
1(s)-a.e. で定まる可測関数である.
例 4.1.5 (積分作用素 1) 記号は (4.9) 通りとし,
∫
S2
| k(s, t) | dµ
2(t) < ∞ , s ∈ S
1, 更に j = 1, 2 に対し
X
j= { x : S
j→ C 有界かつ可測 } , ∥ x ∥
Xj= sup
Sj
| x | , x ∈ X
j,
とする.このとき x ∈ X
2に対し (4.11) が ∀ s ∈ S
1で満たされ,(4.10) で定まる T x : S
1→ C は可測.更に,
sup
∥x∥X2≤1
| T x(s) | =
∫
S2
| k(s, t) | dµ
2(t), s ∈ S
1, (4.12) sup
∥x∥X2≤1
∥ T x ∥
X1= sup
s∈S1
∫
S2
| k(s, t) | dµ
2(t). (4.13)
従って,
T ∈ B (X
2→ X
1) ⇐⇒ (4.13) 右辺 < ∞ ,
∥ T ∥
X2→X1= (4.13) 右辺.
(4.12)–(4.13) を示す.
(4.12), ≤ : ∥ x ∥
X2≤ 1 なら、
| T x(s) | ≤
∫
S2
| k(s, t)x(t) | dµ
2(t) ≤
∫
S2
| k(s, t) | dµ
2(t).
(4.12), ≥ : ε > 0, s ∈ S
1に対し x
ε,s=
|k(s,·)|+εk(s,·)∗∈ X
2とすると,
0 ≤ k(s, t)x
ε,s(t) = | k(s, t) |
2| k(s, t) | + ε ↗ | k(s, t) | (ε ↘ 0).
また ∀ s ∈ S
1に対し x
ε,s∈ X
2, ∥ x
ε,s∥
X2≤ 1. よって sup
∥x∥X2≤1
| T x(s) | ≥ | T x
ε,s(s) | = ∫
S2
k(s, t)x
ε,s(t)dµ
2(t)
=
∫
S2
k(s, t)x
ε,s(t)dµ
2(t) −→
ε↘0∫
S2
| k(s, t) | dµ
2(t), 但し,最後の極限で単調収束定理を用いた.
(4.13): (4.12) の両辺で sup
s∈S1をとればよい。 2
問 4.1.7 無限行列 (k(s, t))
s,t∈Nが x 7→ ∑
∞t=0
k( · , t)x(t) で B (ℓ
∞( N ) → ℓ
∞( N )) の元を 定めるための必要十分条件,またそときの作用素ノルムを求めよ.
次に µ
1を (S
1, A
1) 上の測度とするとき,積分 (4.10) について T ∈ B (L
p(µ
2) → L
q(µ
1)) となるための条件を述べる。まず次の比較的簡単な条件がある:
例 4.1.6 ( 積分作用素 2) 記号は (4.9) 通り,µ
1は (S
1, A
1) 上の σ-有限測度,µ
1⊗ µ
2を µ
1,µ
2の直積測度とする.
1 ≤ p ≤ ∞ , 1 p + 1
q = 1, k ∈ L
q(µ
1⊗ µ
2)
なら µ
1-a.e.s ∈ S
1に対し積分 (4.10) が定まり,T ∈ B (L
p(µ
2) → L
q(µ
1)). また、作用 素ノルム ∥ T ∥ について:
∥ T ∥ ≤ ∥ k ∥
Lq(µ1⊗µ2). (4.14) 証明: 1 < p < ∞ の場合を示す. dµ
1(s), dµ
2(t) を ds, dt と略記する。
1) | T x(s) | ≤
∫
S2
| k(s, t)x(t) | dt
ヘルダー≤ (∫
S2
| k(s, t) |
qdt
)
1/q(∫
S2
| x(t) |
pdt )
1/p| {z }
=∥x∥Lp(µ2)
.
これと k ∈ L
q(µ
1⊗ µ
2) から (4.11) が µ
1-a.e. で満たされるので,T x は µ
1-a.e. で定まる 可測関数.更に 1) の両辺を q 乗して s について積分すると:
∫
S1
| T x(s) |
qds ≤
∫
S1
ds
∫
S2
| k(s, t) |
qdt
| {z }
=∥k∥qLq(µ
1⊗µ2)
∥ x ∥
qLp(µ2).
よって T x ∈ L
q(µ
1) かつ (4.14) が成立.p = 1, ∞ なら,上よりむしろ簡単 (問 4.1.8).
2
問 4.1.8 例 4.1.6 で p = 1, ∞ の場合を示せ.
問 4.1.9 p, q を例 4.1.6 通り, k ∈ ℓ
q( N
2) とする.T x = ∑
∞t=0
k( · , t)x(t) により有界作 用素 ℓ
p( N ) →
Tℓ
q( N ) が定まることを示せ.また,p ≤ q, k(s, t) = δ
s,tとし,k ∈ ℓ
q( N
2) でなくとも T は有界でありうることを確かめよ.
問 4.1.10 例 4.1.6 で µ
1(S
1) < ∞ かつ次を仮定する:
∞ > K
p def= {
µ
1-ess.sup
s∈S1
∥ k(s, · ) ∥
Lq(µ2), p > 1 のとき,
∥ k ∥
L∞(µ1⊗m2), p = 1 のとき
以下を示せ:µ
1-a.e.s ∈ S
1に対し積分 (4.10) が定まり,T ∈ B (L
p(µ
2) → L
p(µ
1)). ま
た、作用素ノルム ∥ T ∥ について ∥ T ∥ ≤ µ
1(S
1)K
p.
問 4.1.11 (S, A , µ) を σ-有限測度空間、k
j∈ L
2(µ ⊗ µ) (j = 1, 2) に対し (k
1∗ k
2)(s, t) =
∫
S
k
1(s, s
′)k
1(s
′, t)dµ(z), T
jx(s) =
∫
S
k
j(s, t)x(t)dµ(t) とする。次の関係を示せ:
∥ k
1∗ k
2∥
L2(µ⊗µ)≤ ∥ k
1∥
L2(µ⊗µ)∥ k
2∥
L2(µ⊗µ)(T
1T
2)x(s) =
∫
S
(k
1∗ k
2)(s, t)x(t)dµ(t)
例 4.1.6 の条件は簡明ではあるが、1 ≤ p ≤ ∞ ,
1p+
1q= 1 の場合に限っても, この条件 では積分作用素 (4.10) の有界性を判定できない場合がある (問 4.1.9 参照). そこで、別 の十分条件を述べる:
例 4.1.7 (⋆) ( 積分作用素 3) 1 < p ≤ q < ∞ ,
1p+
p1′= 1 とし次のような θ ∈ [0, 1], c
1, c
2∈ (0, ∞ ) の存在を仮定する:
sup
s∈S1
∫
S2
| k(s, t) |
θp′dµ
2(t) ≤ c
1, sup
t∈S2
∫
S1
| k(s, t) |
(1−θ)qdµ
1(s) ≤ c
2. (4.15) 積分作用素 (4.10) が定義できて、T ∈ B (L
p(µ
2) → L
q(µ
1)) かつ
∥ T ∥ ≤ c
1/p1 ′c
1/q2. (4.16) 証明 : dµ
1(s), dµ
2(t) を ds, dt と略記する。
| T f (s) | ≤
∫
S2
| k(s, t)x(t) |
| {z }
|k(s,t)|θ|k(s,t)|1−θ|x(t)|
dt
ヘルダー
≤
∫
S2
| k(s, t) |
θp′dt
| {z }
≤c1
1/p′
(∫
S2
| k(s, t) |
(1−θ)p| x(t) |
pdt )
1/p.
また、1 =
(q/p)1+
q/(q1−p)に注意し、測度 | x(t) |
pdt についてヘルダーの不等式を用いて、
∫
S2
| k(s, t) |
(1−θ)p| x(t) |
pdt
ヘルダー≤ (∫
S2
| k(s, t) |
(1−θ)q| x(t) |
pdt
)
p/q(∫
S2
| x(t) |
pdt )
1−pq以上より ∫
S1
| T f (s) |
qds ≤ c
q/p1 ′∥ x ∥
qL−p(µp 2)∫
S1
ds
∫
S2
| k(s, t) |
(1−θ)q| x(t) |
pdt
= c
q/p1 ′∥ x ∥
qL−p(µp 2)∫
S2
| x(t) |
pdt
∫
S2
| k(s, t) |
(1−θ)p| {z }
≤c2
ds ≤ c
q/p1 ′c
2∥ x ∥
qLp(µ2)2
問 4.1.12 (⋆) 積分作用素 (4.10) で, S = S
1= S
2⊂ R
dは有界な開集合, µ = µ
1= µ
2は S 上のルべーグ測度, k(s, t) = | s − t |
−α(0 ≤ α < ∞ ) とする. 以下を示せ:
i) 1 ≤ q < ∞ に対し ∥ k ∥
Lq(µ⊗µ)< ∞ ⇔ α < d/q (例 4.1.6 の条件の適用範囲).
ii)
αd<
p1′+
1q(特に p
′= q のとき α < 2d/q) なら例 4.1.7 の条件が満たされる.
問 4.1.13 (⋆)(ハウスドルフ-ヤングの不等式) 1 < p ≤ q < ∞ ,
1r= 1 − (
1p−
1q), x ∈ L
p( R
d), y ∈ L
r( R
d) とする。例 4.1.7 を用い、∥ y ∗ x ∥
q≤ ∥ y ∥
r∥ x ∥
pを示せ、但し
(y ∗ x)(s) =
∫
Rd
y(s − t)x(t)dt.
非有界な線形写像の例もひとつ挙げておく:
例 4.1.8 (⋆) ( 基底に関する線形和の係数
30) X を線形空間,E ⊂ X を X の基底とする (定義 0.4.1 参照). このとき ∀ x ∈ X は x = ∑
e∈E
x(e)e と一意的に表される (x(e) ∈ K , 有限個の e を除き x(e) = 0, 従って ∑
e∈E
x(e)e は有限和). e ∈ E に対し T
e: x 7→
x(e), (X → K ) の線形性は明らか.一方,X が無限次元かつノルム ∥ · ∥ についてバ ナッハ空間なら無限個の e ∈ E に対し T
eは (X, ∥ · ∥ ) 上非有界.
証明: E
0 def= { e
n}
∞n=1⊂ E とする (dim X = ∞ より,このような E
0がとれる). (X, ∥ · ∥ ) はバナッハ空間だから,絶対収束級数 y = ∑
∞n=1
2
−n e∥enn∥
が収束する(系 2.3.3).この y に対し,y(e) ̸ = 0 なる e ∈ E は有限個. 従って無限個の m ≥ 1 に対し y(e
m) = 0.こ れらの m に対し T
emは (X, ∥ · ∥ ) 上非有界.実際,有界,即ち連続と仮定すると
0 = y(e
m) = T
emy =
∑
∞ n=12
−n∥ e
n∥ T
eme
n| {z }
=δm,n
= 2
−m∥ e
m∥ (矛盾)
2
注:例 4.1.8 は以下で述べるような,幾つかの興味深い帰結をもたらす:
1) 例 4.1.8 で dim X = ∞ なら,X はノルム ∥ x ∥
p= (∑
e∈E
| x(e) |
p)
1/p(1 ≤ p < ∞ ) に ついて完備でない.実際 T
eは (X, ∥ · ∥
p) 上有界なので,(X, ∥ · ∥
p) の完備性は例 4.1.8 の結果に反する
2) e ∈ E を固定し,線形写像 P
e: X → X を P
ex = x(e)e と定めると P
e2= P
eが容易 に分かり,P
e(と 1 − P
eの組) は射影である(定義 0.4.3). 今,X を無限次元バナッハ空 間とし,T
eが非有界となる e ∈ E を選ぶと P
eも非有界.従って無限次元バナッハ空間 には非有界な射影が(無限個)存在する.
4.2 幾つかの一般論
4.1 節で多くの有界作用素の例を挙げた.そこでで少し一般論を述べる:
命題 4.2.1 記号は定義 4.1.2 の通りとする.
30この例は 例10.3.7で再登場する.
a) B (X → Y ) は線形写像としての自然な算法:
(T + S)x = T x + Sx, (cT )x = cT x, T, S ∈ B (X → Y ), c ∈ K , x ∈ X (4.17) で線型空間をなし, 更に作用素ノルムでノルム空間となる.
b) Y がバナッハ空間なら B (X → Y ) もそう.
証明:a) B (X → Y ) が算法 (4.17) で線型空間をなすことは明らか. 作用素ノルムでノ ルム空間となることは問とする (問 4.2.1).
b) { T
n} ⊂ B (X → Y ) をコーシー列とする. このとき δ
n def= lim
m→∞
∥ T
n− T
m∥
n−→
→∞0, M
def= sup
n
∥ T
n∥ < ∞ . 一方、∀ x ∈ X, ∀ m, n ∈ N に対し
1) ∥ T
nx − T
mx ∥
Y≤ ∥ T
n− T
m∥∥ x ∥
X, 2) ∥ T
nx ∥
Y≤ ∥ T
n∥∥ x ∥
X≤ M ∥ x ∥
X.
1) より { T
nx } ⊂ Y はコーシー列. 従って T x
def= lim
n→∞T
nx が存在し, T : x 7→ T x は 線型. また 2) で n → ∞ として,∥ T x ∥
Y≤ M ∥ x ∥
X. よって T ∈ B (X → Y ). また,1) で m → ∞ とした後, ∥ x ∥
X= 1 の範囲で上限をとると, ∥ T
n− T ∥ ≤ δ
nn−→
→∞0. 2 注:命題 4.2.1b) の逆も X ̸ = 0 なる限り真(問 9.1.4).
問 4.2.1 B (X → Y ) が作用素ノルムによりノルム空間となることを示せ.
有界作用素の合成は再び有界作用素である:
命題 4.2.2 (有界作用素の合成) ノルム空間と線形写像の系列:Z ←−
SY ←−
TX に対し
∥ ST ∥ ≤ ∥ S ∥ ∥ T ∥ . 特に S, T が有界作用素なら ST もそう.
証明: ∥ ST x ∥ ≤ ∥ S ∥ ∥ T x ∥ ≤ ∥ S ∥ ∥ T ∥ ∥ x ∥ ( ∀ x ∈ X). 故に ∥ ST ∥ ≤ ∥ S ∥ ∥ T ∥ . 2 問 4.2.2 X, Y, Z をノルム空間,T, T
n∈ B (X → Y ),S, S
n∈ B (Y → Z), 更に n → ∞ で ∥ T
n− T ∥ → 0, ∥ S
n− S ∥ → 0 とするとき,∥ S
nT
n− ST ∥ → 0 を示せ.
問 4.2.3 X をバナッハ空間, T ∈ B (X → X), ∥ T ∥ < r ≤ ∞ とする.また,f (z) =
∑
∞n=0
a
nz
nを収束半径 r 以上のべき級数とする.以下を示せ:i) B (X → X) における 級数 f (T )
def= ∑
∞n=0
c
nT
nが収束し B (X → X) の元を定める. ii)(⋆) 同じく収束半径 r 以上のべき級数 g(z) = ∑
∞n=0
b
nz
nに対し (f g)(T ) = f(T )g(T ).
命題 4.2.3 ( 有界作用素の制限・拡張 ) X, Y をノルム空間, X
0を X の線型部分空間と する.
a) B (X → Y ) から B (X
0→ Y ) への写像:T 7→ T |
X0は有界作用素.また,X
0= X ならこの作用素は等長(特に単射).
b) Y がバナッハ空間かつ X
0= X なら a) の作用素は全射等長,即ち,任意の T
0∈
B (X
0→ Y ) に対し T |
X0= T
0なる T ∈ B (X → Y ) が唯一存在し,∥ T
0∥ = ∥ T ∥ .
証明 : a):線形性は明らか.また,S
def= { x ∈ X ; ∥ x ∥
X= 1 } に対し
1) sup
x∈S∩X0
∥ T x ∥
Y≤ sup
x∈S
∥ T x ∥
Y. 即ち ∥ T |
X0∥
X0→Y≤ ∥ T ∥
X→Y.
また,X
0= X なら S ∩ X
0= S (問 4.2.4).よって T の連続性から 1) で等号成立.
b): T
0∈ B (X
0→ Y ), x ∈ X を任意, x
n∈ X
0, x
n→ x とすると 2) ∥ T
0x
m− T
0x
n∥
Y≤ ∥ T
0∥
X0→Y∥ x
m− x
n∥
X,
3) lim
n→∞
∥ T
0x
n∥
Y≤ lim
n→∞
∥ T
0∥
X0→Y∥ x
n∥
X= ∥ T
0∥
X0→Y∥ x ∥
X.
2) より (T
0x
n) はコーシー列, よって極限:T x
def= lim
n→∞T
0x
nが存在し,近似列 x
nの 選び方に依らない(問 4.2.4).また,定め方から x 7→ T x は線型かつ T |
X0= T
0. 更に
3) より T ∈ B (X → Y ). 2
問 4.2.4 命題 4.2.3 の証明に関し,以下を確認せよ:i) X
0= X なら S ∩ X
0= S. ヒン ト:x ∈ X
0\ 0 に対し
∥xx∥∈ S ∩ X
0.ii) c) の証明中で T
0x
nの極限が近似列 x
nの選び方 に依らない.
問 4.2.5 X をノルム空間,Y, Z をバナッハ空間,S ∈ B (X → Y ), T ∈ B (X → Z) は共 に等長,SX = Y ,T X = Z とする.Y, Z は等長同型であることを示せ.
命題 4.2.3 から次の系が得られる.後に,この系の特別な場合として有界作用素の共役
作用素の性質を導き出す(命題 4.3.2).
系 4.2.4 X, Y, Z をノルム空間,J ∈ B (X → Y ) とし,J
′: B (Y → Z) → B (X → Z ) を J
′T = T J , T ∈ B (Y → Z) と定める.このとき,J
′は有界作用素.更に:
a) J X = Y なら J
′は単射.
b) Z がバナッハ空間, J X = Y , J が単射, J
−1∈ B (J X → Y ) なら J
′は全単射, (J
′)
−1は有界.更に J が等長なら J
′は等長同型.
証明: ∥ T J ∥ ≤ ∥ T ∥∥ J ∥ により J
′は有界.
a): T ∈ B (Y → Z), T J = 0 なら T |
J X= 0, 故に T = 0.
b): 全射性を示すため S ∈ B (X → Z) を任意とする.このとき, SJ
−1∈ B (J X → Z).
実際,
∥ SJ
−1∥
J X→Z≤ ∥ S ∥
X→Z∥ J
−1∥
J X→X= ∥ S ∥
X→Z.
よって SJ
−1は B (Y → Z) の元に一意的に拡張される(命題 4.2.3).そこでその元を S b と記す.このとき任意の x ∈ X に対し
J
′Sx b = SJ x b
J x∈=
J XSJ
−1J x = Sx, 従って J
′S b = S.
次に (J
′)
−1の有界性を示す.J
′は単射なので,全射性の証明で (J
′)
−1S = S. b 従って
∥ (J
′)
−1S ∥
Y→Z= sup
∥y∥=1
∥ (J
′)
−1Sy ∥ = sup
y∈J X
∥y∥=1
∥ SJ
−1y ∥ ≤ ∥ SJ
−1∥
J X→Z< ∞ .
最後に J が等長と仮定し J
′の等長性を示す.X, Y の単位球面をそれぞれ S
X, S
Yと記 すと,J の等長性より J S
X= J X ∩ S
Y. よって J S
X= J X ∩ S
Y= S
Y(問 4.2.4). 以 上から,
∥ SJ ∥
X→Z= sup
x∈SX
∥ SJ x ∥
Z= sup
y∈J X∩SY
∥ Sy ∥
Z= ∥ S ∥
Y→Z. 2
4.3 リースの表現定理
定義 4.3.1 K を R または C , (X, ∥ · ∥ ) をノルム空間とする。
I 集合 B (X → K ) に次の算法
31とノルムを与えたノルム空間を X の共役空間 (dual space) と呼び X
∗と記す:f, g ∈ X
∗,c ∈ K に対し,
(f + g)(x) = f(x) + g(x), (cf )(x) = c
∗f (x), x ∈ X, (4.18)
∥ f ∥
X∗= ∥ f ∥
X→K= sup
∥x∥=1
| f (x) | . (4.19)
X
∗の元を連続線型汎関数と呼ぶ. X
∗はバナッハ空間である (命題 4.2.1 で Y = K ).
ノルム X, Y が等長同型なら,X
∗, Y
∗も等長同型であることを確認しておこう:
命題 4.3.2 X, Y をノルム空間,J ∈ B (X → Y ) とし,J
∗: Y
∗→ X
∗を J
∗g = g ◦ T で定める
32.このとき,J
∗∈ B (Y
∗→ X
∗). 更に:
a) J X = Y なら J
∗は単射.
b) J X = Y , J
−1∈ B (J X → X) なら J
∗は全単射,(J
∗)
−1∈ B (Y
∗→ X
∗). 更に J が 等長なら J
∗は等長同型.特に X, Y が等長同型なら,X
∗, Y
∗も等長同型.
証明:系 4.2.4 で Z = K の場合. 2
例 4.3.3 (内積空間) X を内積空間とするとき,写像:
R
X: X → X
∗(y 7→ ⟨ · , y ⟩ ) (4.20) は等長作用素.また, N (f) = { x ∈ X ; f(x) = 0 } とすると,
R
XX = { f ∈ X
∗; X = N (f ) ⊕ N (f)
⊥} . (4.21) 証明:R
X(y + y
′) = R
Xy + R
Xy
′は明らか.また c ∈ K , x, y ∈ X に対し
R
X(cy)(x) = ⟨ x, c y ⟩ = c
∗⟨ x, y ⟩ = c
∗( R
Xy)(x)
(4.18)= (c R
Xy)(x).
よって R
X(c y) = c R
Xy.更に
∥R
Xy ∥
X∗= sup
∥x∥=1
| ( R
Xy)(x) | = sup
∥x∥=1
|⟨ x, y ⟩|
(2.17)= ∥ y ∥
X.
31定数倍の規約を(cf)(x) =c∗f(x)ではなく、単に(cf)(x) =cf(x)とする流儀もある。共役をつけ る理由は例4.3.3参照.また,x∈X,f ∈X∗に対しf(x) =⟨x, f⟩と記すこともある。
32J∗はJの共役作用素と呼ばれる.第9章でより一般的に論じる.