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技術規格の標準化競争の勝敗は企業の収益に長期的な影響を与える

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Academic year: 2021

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申請者:高梨千賀子

論文題目 PCインターフェースの標準化競争:IEEE1394とUSBの事例

審査員 楠木 建 沼上 幹 青島矢一

本論文は、ある技術規格が対抗する技術規格をおさえて標準として普及し定着するプロセスに注目して、標 準化競争を決するメカニズムについて、理論的・実証的に検討した研究である。より具体的には転送スピード に優れたデジュール・スタンダードのIEEE1394という規格とUSBとの規格間競争を取り上げ,後者が支配的な 地位を獲得する際にインテルが行なったさまざまな活動がどのように作用していたのかを考察したものであ る。

本論文の評価できる点は、次の2点である。第1に、非常に重要で学術的に興味深い研究対象を誠実に追 究している点である。技術規格の標準化競争の勝敗は企業の収益に長期的な影響を与える。ソフトウェアや メディアが重要な役割を占めるシステム製品やネットワーク製品が増大するにつれて、技術規格の標準をど の企業(グループ)が握るかという問題は企業経営にとってますます重要になっている。このことは、標準化競 争のメカニズムを解明しようとする研究のいっそうの蓄積を必要としている。とりわけ、本研究が焦点を当てて いるIEEE1394と競争したUSBの事例は、(1)デバイス専業メーカーであるインテルがシステム全体にかかわる インターフェースの見直しを主導し、(2)IEEE1394が多くの企業の共同で開発されたデジュール・スタンダード であり、それゆえ初期の段階では賛同企業の数も多く、(3)伝送スピードなどのいくつかの点で技術的にも優 位にあり、(4)インテルの支配力が強くなることを歓迎しない周辺機器メーカーがいたにもかかわらず、結果と して標準化競争に勝利したという点で、きわめて示唆に富む題材である。これまでも標準化競争のメカニズム については、VCRにおけるVHS対ベータ、PCにおけるウインドウズ対アップルなど事例研究の蓄積があるが、

USBとIEEE1394との標準化競争に注目した研究はほとんどない。しかも日本のハードディスク・メーカーなど のいわゆるサード・パーティがなぜ,どのようにして,USB側に与することになったのかを当時の担当者たちに 直接インタビュー調査を行なうことで明らかにしている.この点で本論文には事実発見的な価値も備わってい る.

第2の貢献は、この分野で主導的な研究であるクスマノらの「プラットフォーム・リーダーシップ」の概念を事 例研究によって深めたことにある。事例分析はUSBとIEEE1394との標準化競争のなかでも、とくに勝敗の帰趨 に大きな影響を与えたHDD市場に注目しており、そこでのサード・パーティの支持をインテルがどのように獲得 していったかを解明することによって、プラットフォーム・リーダーシップの内容を明らかにしている。この点も本 研究の貢献点として指摘することができるだろう.

しかしながら、もちろん本論文に問題がないわけではない。第1に、本論文の理論的な位置づけは必ずしも 明確でない。本論文は、技術規格の標準化競争を駆動していくメカニズムとして、「技術優位」と「ネットワーク 外部性」、「特定企業による戦略的リーダーシップ」の3つの理論を併置して、戦略的リーダーシップの影響力 の大きさを説明するというスタンスをとってはいるものの、これらの理論は必ずしも並列的な関係になく、理論 的なインプリケーションを引き出そうとするときに若干の混乱が見られる。

第2に、USB対IEEE1394という一つの事例に集中し、その中でも日本国内のPCとHDDとのインターフェース を深堀して調査するという方法を採用したために、ややローカルな市場に議論が限定されてしまい,デジュー ル規格とデファクト規格とのグローバルな競争という興味深い側面がポテンシャルのままとどまっており,十分 に引き出せていないきらいがある。

第3に、事例記述は詳細であるが、本論文が持つ理論的なインプリケーションについてはもう少し深掘りでき た可能性がある。本論文の分析結果は、先行研究が概念的に提示してきた枠組みの意義や理解を事例分析 によって深めるという意味では貢献が明確ではあるものの、その反面、そこでの成果にもとづいて概念や理論 な枠組みを拡張ないし精緻化する方向での貢献は相対的に小さいものにとどまっている。

以上のような課題を残しているものの、本論文の貢献はこれらを十分に補うものである。よって、審査員一 同は、所定の試験結果をあわせ考慮して、本論文の筆者が一橋大学学位規則第5条第1項の規定により一 橋大学博士(商学)の学位を受けるに値するものと判断する。

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