複合現実環境におけるユーザ体験の評価と最適化に関する研究
Evaluation of user experience in Mixed Reality and study of its optimization
1W110535-8 山田 初美 指導教員 河合 隆史 教授
YAMADA Hatsumi Prof. KAWAI Takashi
概要: 本研究は、複合現実感で再生された空間や物体の違和感に着目し、その要因の推定と改善にかかる知見の取得に 取り組んだものである。まずは違和感を評価するための検討を行い、CGの位置把握と映像・CGの自然さに違和感を生じ る要因について2つの仮説を構築した。これらを元に、位置把握と自然さを向上すると考えられる新たな条件を加えた検 討を行ったところ、CGに簡易的な影を付加することでCGの位置把握と映像・CGの自然さを向上できるとわかった。全 体として、複合現実環境における空間や物体の違和感を評価し、それを軽減するための基礎的な知見を得ることができた。
キーワード:複合現実感、ハンドヘルドディスプレイ、3D、実写、CG、違和感 Keywords: Mixed Reality, hand held display, 3D, photographing, CG, discomfort
1. はじめに
複合現実感とは、現実世界と仮想世界を融合した 複合環境の構築および描画技術のことである[1]。本研 究では、複合現実感で再生された空間や物体の違和 感に着目し、その要因の推定と同時に、改善にかか る知見の取得に取り組んだ。まずはユーザが感じる 違和感の有無や程度などを評価するための予備的な 検討を通じて、違和感を生起する要因について仮説 を構築した。次にその仮説を元に、新たな条件を加 えて違和感を確認する検討を行うことで、違和感を 軽減するための知見の取得に取り組んだ。
2. 複合現実環境における違和感の評価
違和感の評価に関する検討では、18種類の呈示条 件を用意した。具体的には、観察者からの距離に応 じて3段階の再生位置(近距離・中距離・遠距離)を設 定し、3段階の大きさ(Sサイズ・Mサイズ・Lサイ ズ)の物体を、実写のみ呈示する方法、CG のみ呈示 する方法、実写とCG を並べて呈示する方法の3種 類の方法で呈示した。参加者にはこれらの刺激をラ ンダムな順序で呈示し、条件ごとに4 つの質問項目 (大きさ把握・位置把握・質感把握・自然さ)に対する 回答を評定尺度法(7件法)で求めた。これを3セット
繰り返した後、インタビューを行った。参加者は20 代の男女 10名とし、実験装置にはキヤノンITS 社 製のビデオシースルー型HHD「MREAL HH-A1」
を用いた。実験環境と呈示刺激例を図1に示す。
図1 実験環境(左)と呈示刺激例(右)
評定尺度法で条件間の有意差が数多く見られたの は、S サイズ・M サイズの位置把握と自然さに関す る項目であった。位置把握については、実写を呈示 する条件で有意に平均評点が高く、M サイズの CG を呈示する条件と実写と CG を並べて呈示する条件 においては遠距離条件で有意に平均評点が高くなっ た。自然さについては、実写を呈示する条件で有意 に平均評点が高く、CGを呈示する条件と実写とCG を並べて呈示する条件においては最も距離が遠い条 件で有意に平均評点が高くなった。
この評定尺度法の結果とインタビューの結果を踏 まえ、「CGの影の欠如とそれにより生じた浮遊感が、
CGの位置把握に影響を及ぼす」「CGの影の欠如や 浮遊感および実写の解像度の低さとそれにより強調 されたCGの鮮明さが、映像とCGの自然さに影響 を及ぼす」という2つの仮説を構築した。
3. 複合現実環境における違和感の軽減
上記の仮説を元に、新たな条件を加えて検討を行 った。呈示条件は全部で20種類であり、Sサイズの 物体を近距離と中距離に、Mサイズの物体を中距離 と遠距離に、それぞれ実写を呈示する方法、CGを呈 示する方法、テクスチャ画像をぼかした CG を呈示 する方法、CGに影を付加して呈示する方法、テクス チャ画像をぼかした CG に影を付加して呈示する方 法の5 種類の方法で呈示した。影を付加した条件は CGの位置把握を改善するため、テクスチャ画像をぼ かした条件は映像・CGの自然さを改善するため新た に加えた。参加者は20代の男女24名とし、実験装 置や評価手法は違和感の評価の検討と同様であった。
評定尺度法の結果の一部を図2と図3に示す。位 置把握については、実写条件は CG 条件より有意に 平均評点が高く、CGに影を付加した条件で有意に平 均評点が高くなった。なおサイズ・距離別では、S サイズ近距離とMサイズ遠距離において有意差が数 多く見られた。自然さについては、CGに影を付加し た条件で有意に平均評点が高くなった。
図2 Mサイズ遠距離_位置把握
図3 Sサイズ近距離_自然さ
インタビューでは、影の有無の違いを認識した者 は15名おり、そのうち11名がそれにより違和感が 少なくなったと回答した。ぼかしの有無の違いにつ いては、別の違い(柄や光沢の違い)として認識したと 思われる回答はあったが、CGの鮮明さが軽減したと いう回答は得られなかった。
したがって、CGに簡易的な影を付加することによ り、CGの位置把握と映像やCGの自然さを向上させ ることが出来るとわかった。また、その効果は画面 サイズにおける被写体サイズの割合が適切な条件下 で強まる可能性があることがわかった。
4. 総括
本研究では、複合現実環境における空間や物体の 違和感を評価し、それを軽減するための基礎的な知 見を得ることができた。今後の課題として、自然さ を改善するための新たな手法の模索や、CGの占める 割合が実写の占める割合より大きい場合における違 和感の検証などがあげられる。
参考文献:
[1] 田村秀行, 太田友一,“複合現実感”,映像情報メディ ア学会誌, Vol.52, No.3, pp.266-272, 1998.