9 酸化的ストレスによる皮膚老化と抗酸化防御系
浦野四郎 東京都老人総合研究所アイソトープ部門 はじめに 人体で最大の臓器である皮膚は、生体の最外層にあるため、紫外線や酸素、電離放射 線やオゾン等に直接さらされ、常に酸化的ストレス下にある。言い換えれば、皮膚はこ れら外的有害因子から生体を守るバリアーとしても機能している。したがって、バリアー 自体に酸化傷害が起きることは自明である。こうした場では、一重項酸素を中心とする 活性酸素が発生し、炎症、アトピー性皮膚炎やガンなどの皮膚障害を起こすと同時に、 病変が直視できるシミやシワなど、皮膚の老化が進行するものと考えられている。こう した点を明らかにするための試みが数多く報告されているものの、その機構の詳細につ いては意外なほど明らかにされていない。光による急性皮膚傷害が、抗酸化物質を含む サンスクリーンなど、化学的光防御により対処が可能であることを考えると、発ガンや、 慢性的な皮膚老化現象においても抗酸化防御機構が機能していることは否定できない。 こうした観点から、我々の行ったヘアレスマウスヘの紫外線照射による、皮膚老化、特 にシワの形成と抗酸化能の変動について述べる。 9.1 皮膚光老化のフリーラジカル説 皮膚が受ける酸化的ストレスは、喫煙、排気ガスやフリーラジカルを含有する化学的 汚染物など、大気中に含まれる活性酸素源と共に、電離放射線や紫外線による酸素の活 性化が考えられている。特に紫外線による炎症や発ガンなどの疾患との関連性が叫ばれ ている中、近年では日焼け、光毒性、光アレルギー等の皮膚傷害やアトピー性皮膚炎、 乾せん等の皮膚疾患、あるいは、光老化などへの関与も示唆されるようになった。皮膚 外部からの酸化的ストレスに加えて、虚血一再灌流由来の、内部からのストレスにも対 応して、皮膚中に活性酸素 ・ フリーラジカルが発生し、皮膚組織を攻撃し、表皮の脂質 過酸化、真皮のコラーゲンの架橋、エラスチンの変性、グリコサミノグリカンの断片化 など、様々な酸化傷害をもたらし、フリーラジカルによる皮膚老化を発現させるものと されている [1]。 9.2 活性酸素の発生 紫外線はその波長によって、UV-A(長波長、320-380nm)、UV-B(中波長、 290-320nm),UV-C(短波長、210-290nm) に分類される。地球をとりまくオゾン層に よって、UV-C は遮蔽され、地表にまでは到達するのは、UV-A と UV-B であると言 われている。紫外線の波長が短いほどエネルギーが高く、皮膚損傷を起こしやすい。近 年、オゾン層の破壊が大きな問題になっているとおり、地表に到達する最もエネルギー の高い UV-C の皮膚への影響は深刻になりつつある。図 9.1 に示すように、大気中に存在する酸素は、エネルギー的に比較的安定な三重項酸 素 (302) であるが紫外線のエネルギーを吸収して励起し活性酸素である一重項酸素 (102) に変えられる。エネルギー吸収の際、光増感の存在が必要であるが、皮膚にはメ ラニンがその役目をしているものと考えられてきた。また、ヒト皮膚の脂腺に生息する 嫌気性菌である propionibacteriumacnes(P.acnes) は、ニキビの発生に深く関係して いるが、この菌は、コプロポルフィリン、プロトポルフィリンなどのポルフィリン類を 代謝し、皮脂の分泌と共に、皮膚表面に移行することが、近年明らかにされた[2]。 ポルフィリンは強い光増感物質であることが知られており、一重項酸素の発生源である ことが示された。したがって、一重項酸素は、多くの活性酸素に比べて皮膚酸化傷害に 深く関与している。テトラサイクリンによる光毒性、ポルフィリア光過敏症発症などに おける重要因子であるものとされ注目されている。その高い反応性から多くの生体分子 を酸化させ、そこから更に数多くの活性酸素を派生するものとされている。 一方、活性酸素は皮膚内部からも発生する。何らかの理由で皮膚血管の虚血現象が起 きると、ATP がアデノシンを経てヒポキサンチンに変換され、キサンチンデヒドロゲ ナーゼがキサンチンオキシダーゼに変換される。次に血液が再循環され、新しい酸素が 供給されると、キサンチンーキサンチンオキシダーゼ反応が開始されて、多量のスーパー オキシド (02-) と過酸化水素 (H202) が発生する。また、傷や炎症部位には好中球をは じめとする食細胞が遊走され食菌作用などを行うが、この際にも活性酸素が発生する。 さらに、皮膚の諸細胞中、ミトコンドリアの電子伝達系での電子の漏出が常に行われて
おり、抗酸化防御機能が減退すると活性酸素が発生する [3]。 9.3 紫外線傷害とシワ形成 皮膚の老化と酸化傷害を考えるとき、一般的には、紫外線に長期にさらされて発生す る、慢性紫外線傷害が一義的である。日光や紫外線に慢性的に曝されると、結合組織の 損傷、特にエラスチン変性、グリコサミノグリカンやコラーゲン変性が特徴的に現れる [4]。マウスを用いた実験結果では、ヒトの皮膚の変化ときわめてよく類似しているこ とカ報告されている [5]。ヒトの皮膚老化において、まずエラスチン合成が起き、これ がゆっくりと進行的に分解され、エラスチン繊維の規則性のないネットワークが発現す るという [6]。動物実験では、紫外線照射によりこの様な結合組織の酸化変性が認めら れ、この変化は、今まで老化の進行と同じように不可逆的と考えられていた。しかし、 紫外線照射を止めると、損傷部が修復されることが明らかにされている。この際、組織 の形態学的な検討では、新しくできたコラーゲンを含む真皮組織のバンドが認められ、 これらが、変性したエラスチンを押し下げて貯蔵されている。したがって、紫外線照射 により皮膚組織は肥厚するという [7]。 エラスチンの酸化変性により、エラスチン繊維ネットワークが不規則になった結果、 皮膚組織が乱れ、コラーゲンクロスリンキングも手伝って、シワが形成される。図 9.2 に我々の結果を示す。6 週齢、雄ヘアレスマウスに UV-A を 89.4mJ/㎝ 2 で 10 分間、 及び UV-B を 56.69mJ/㎝ 2 で 5 分間 2 日に一度、9 週間にわたって照射した。その結
果、非照射マウス (A) は背にヒダが認められるものの、シワ形成は起きなかった。一般 に、ヘアレスマウスは体の体積に比べて過剰量の皮膚をもっており、折りたたまれた形 のヒダを形成している。したがって、ゆっくりと引っ張れば跡が残らない。しかし、紫 外線照射マウスでは図 9.2(B) で明らかなように、深い溝をもったシワが形成された。 この場合は引っ張ってもシワとして跡が残った。(C) は 60 週齢の老齢マウス (非照射) の場合で、(B) と同じように深い溝をもったシワが形成されている。この場合も引っ張っ ても消えない。この様に、弱い慢性的な紫外線を照射すると、自然老化によるものと同 様なシワが形成されることが明らかとなった。興味あることに、この場合 UV-A と UV-B を交互に照射する事が必須で、UV-B のみでは、シワ形成が不完全で、照射後消 失した。また、紫外線照射を 3 週間で止めると、その後非照射 3 週間後にはシワは消失 した。こうした現象は、慢性的に与えたエネルギーの強弱差と照射時間による、皮膚内 分子の不完全損傷が修復されたものと解釈できる。以上のように、老化にもとづく皮膚 に発現するシワが、日光による慢性的な皮膚の酸化損傷の結果であろう事を示唆してい る。この点を確かめるため、ヘアレスマウスの背中と腹に生成したシワの部分および、 コントロール群における同じ箇所を切り取り、これらの部位における脂質過酸化の程度 を観察した。図 9.3 に示すように、過酸化度を表す指標であるチオバルビツール酸反応 物質 (TBARS) が、紫外線照射群において、背も腹も有意に増加しており、自然老化に よるシワ部分においては更に高い値を示した。従来より、皮膚中に存在する、コレステ ロールの生合成前駆物質であるスクワレンが、紫外線照射により過酸化されることが知 られている [8]。本研究において、増加した TBARS 含量の中にスクワレン過酸化物が 含まれているかどうかは明らかでない。いずれにしても、自然老化および紫外線酸化ス トレスによる皮膚の傷害が、脂質の過酸化を伴っていることは間違いない。 一方、コラーゲンは真皮の重要な成分で、皮膚の弾力性や柔軟性に関与しているが、 その遅い代謝のために、酸化による化学修飾を受けやすい。酸化されたコラーゲンは架 橋結合し、弾力性の失われたコラーゲンに変性されるものと考えられる。コラーゲンの 架橋結合は、ヒドロキシラジカル (・0H) や 02-よりもむしろ、102 によって行われるこ とが in vitro の実験によって明らかにされている [2]。この様な変化が、老化によって 誘発されるかについては、多くの研究があり、コラーゲンのネットワークが形態的に減 少し、コラーゲン合成が徐々に減退して、皮膚が薄くなるとの報告がある [9]。その一 方で、既に述べたように、老化や、紫外線照射による皮膚の肥厚とエラスチンの真皮下 部での蓄積、新コラーゲンの合成も明らかになっており [7]、この点に関してまだ議論 が多く、結論が着いていないようである。ヒドロキシプロリン含量を指標にした我々の 結果では、図 9.4 に示すように、加齢によっても、紫外線照射によっても、その含量は コントロールに比べて増加した。周知のとおり、アスコルビン酸はコラーゲン中のプロ リンのヒドロキシル化に必須の因子であり、紫外線照射により皮膚中の含量が低下する ことが知られている。酸化的ストレスによりアスコルビン酸が抗酸化的に機能すると共 に、皮膚の酸化損傷により新たなコラーゲン合成に使われた可能性も否定できない。し たがって、本研究の場合、ヒドロキシプロリンの増加が認められたものと推測される。 この点に関しては、詳細な検討の余地がある。
9.4 抗酸化防御系の変動 抗酸化物質を含むサンスクリーンなど、化学的に皮膚の光傷害を防御することが可能 であり、上記のようなシワ形成も紫外線による酸化傷害であるとすれば、酸化的ストレ スにより発生した傷害部位において、抗酸化物質群の変化が認められるはずである。従 来、強い紫外線を照射して、急性の変動を調べた例は報告されている [10,11]。これら の場合、我々の用いた照射量の数百倍も照射しており、しかも照射直後に測定している。 弱い紫外線で長期照射による、慢性的な変化を調べた例はない。したがって、この点を 明らかにする目的で検討を加えた。 02-を選択的に過酸化水素に変換するスーパーオキシドディスムターゼ (SOD) 活性を 調べた。図 9.5 に示すように、紫外線照射によりシワのない場合に比べて、約 1/2 に減 少した。また、老齢マウスにおいても SOD 活性は同様に減少した。紫外線照射により 一重項酸素が発生し、皮脂の過酸化を経由して、新たに 02-が生成したのか、あるいは 日焼け程度の炎症による発生かは明らかでない。しかしながら、これを消去する酵素が 減少したことは、シワ形成部位で酸化反応が行われたことを示唆する。SOD 活性によ り生成された H2O2 は、一般的にはカタラーゼ (CAT) により水と酸素に解毒される。 ここでも活性は、老化および紫外線照射においても約 1/2 に低下した (図 9.6)。SOD 活性の低下に伴い、CAT 活性も低下することは、抗酸化酵素の相互作用を考える上で 興味深い。
一方、活性酸素で脂質が過酸化され、生成した過酸化脂質 (ヒドロペルオキシド、 L00H) はグルタチオンペルオキシダーゼ (GSHpx) で LOH と水に分解される。また CAT 活性が比較的低い部位では CAT の代わりに、H202 を分解する。皮膚中の CAT 活性が、他の臓器に比べて低いかについては、明らかではないが、図 9.7 に示すように、 紫外線照射によって活性が増加した。非照射老齢ラットでもコントロール群に比べて高 い値を示している。ただし、腹のシワにおいて紫外線の影響を受けず、老化に伴って低 下する傾向を示した。この原因は明らかでないが、紫外線は背に直接照射され、腹には あたりにくい点が関係しているかもしれない。あるいは、紫外線による活性酸素の発生 が外部由来であって、内的な発生が少ないために、腹から背に GSHPx が移送され、背 で活性が増加することも考えられる。いずれにせよ、他の抗酸化酵素活性とは違う挙動 を示すことは、興味が持たれ、今後の詳細な検討が待たれる。 小分子抗酸化物質に関しては、L.Packer 等が [10]、多量の紫外線照射による急性損 傷において、アスコルビン酸の低下、それに伴うグルタチオンの低下を報告している。 我々の慢性的損傷の実験では、ビタミン E 含量が背で極度に低下し、非照射、老齢マウ スでも同様に低下した。腹において、紫外線照射群では同じようにビタミン E 含量の低 下を認めたものの、老齢マウスでは、ほとんど変わりなかった (図 9.8)。この事は、加 齢に伴い、背より腹の皮膚脂肪が蓄積するため、そこに存在する多量のビタミン E は変 動が少なかったものと推察される。この老齢マウスに紫外線を照射すれば腹部の含量も 低下するものと思われる。
変化した。抗酸化物が変動して補充されない分だけ、結合組織の酸化損傷を来たし、皮 膚老化、シワの発生に結びつくものと思われる。 9.5 酸化傷害の防御 シワの形成には、紫外線の広範にわたるエネルギー、および、長期にさらされること が必要なようである。既に述べたように、紫外線照射 3 週目でシワの形成が認められ、 この時点で照射を中止すると、更に 3 週間後にはシワが消失した。しかし、照射開始か ら 8 週間後には、もはや照射を中止してもシワの消失は認められなかった。また、 UV-B のみの照射でも一時的にシワが発現するものの、その後中止すると消失した。一 方、抗酸化物質であるビタミン E や、ベータカロチンを塗布して照射しても、この実験 条件条件ではシワの形成が認められなかった。こうした事実は、紫外線による酸化的ス トレスが皮膚に酸化傷害を与えていることを示唆している。本実験におけるような低エ ネルギーの紫外線に、長期にわたって皮膚がさらされた結果の損傷が、加齢によるシワ 等の変化に対応するものと思われ興味が持たれる。抗酸化物質による傷害防御に関する 研究は、意外なほどなされていない。ベータカロチンは一重項酸素の有効な消去剤とし て知られている。ベータカロチンの代謝産物であるレチノイン酸は局所、又は経口投与 により、照射によりコラーゲン合成を促進するし、紫外線による傷害の修復、シワの消 失効果があるという (図 9.9)[12]。こうした現象がベータカロチンの抗酸化性にある のか、あるいは他の効果によるものかは明らかでないが、この機構に関する検討はほと んど行われていない。
おわりに 皮膚の酸化的ストレスによる損傷、特に紫外線に長期にわたらてさらされた、慢性的 皮膚傷害として特徴的なシワが形成され、その際に抗酸化防御機構が大きく変化するこ とは、皮膚老化のフリーラジカル説を支持する。つまり、長時間にわたり慢性的に紫外 線にさらされると、活性酸素 ・ フリーラジカルが発生し、これが皮膚組織に酸化傷害を 与え、皮膚の老化を誘引するとの説である。皮膚におけるフリーラジカルの発生が、皮 膚老化の原因であるのか、あるいは結果であるのかは、他の部位における老化原因と同 じように、未だはっきりしない。上記のように、皮膚に限っては、抗酸化物質で予防、 治療ができる可能性が残されており、今後の詳細な検討結果が待たれる。 引用文献
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