8
確率へのイントロダクション
8.1
漸化式を使って数える事
8.1.1
平面の分割
問題
8.1.1平面内に
n本の直線を描くとき平面は幾つの領域に分割されるでしょ
うか。ただし、どの2直線も平行ではなく、また3本以上の直線が1点で交わる事 がない様にします。
n
本の直線によって平面は
Pn個の領域に分割されるとします。小さな
nについて絵 を描いてみると、
となっていますが、それではその次
P6は幾つになると予想されるでしょうか?
上の結果をよく見ると
P2=P1+ 2, P3=P2+ 3, P4=P3+ 4, · · ·
となっていますから一般に漸化式
Pn+1=Pn+n+ 1
が成り立っており、
P6=P5+ 6 = 22となりそうですね。
ではこの漸化式が成り立つことを実際に示してみましょう。
今平面内に
n本の直線が描かれていて
Pnこの領域に分割されているとします。
ここにもう1本の直線を描き加えると領域は幾つ増えるでしょうか。もう1本の直線 をある無限遠方から描き始めて別の無限遠方まで描く様子をスローモーションで見てみ ましょう。
まず無限遠方から領域
Rjの中を
Fig.1の様に直線を描いて来たとします。そして最初 に他の直線と交わった瞬間に(
Fig.2)今通って来た領域
Rjは2つの領域
Rj,1, Rj,2に 分割されます。この時点でまず1個領域の数が増えますね。
そのまま直線を伸ばして行きますが、次に領域
Rkに侵入しているとしましょう(
Fig.3)。
そうしてまた別の直線と交わります(これが2回目です)が、やはりその瞬間に今通っ て来た領域
Rkは2つ(
Rk,1, Rk,2)に分割され、累計で領域数は2個増えた事になり ます。
新たに書き加えている直線は既存の
n本の直線と必ず交わりますからこれを全ての 直線と交わるまで続けて行けば分割領域数は
n本目と交わった瞬間に累計で
n個増え ています。
その後領域
Rmの中を無限遠点まで進んで行きますがもう他の直線と交わる事はあり ません。そして無限遠点に到着した瞬間に(まあ、例えの話しで言っていますが)最後 に領域
Rmが2つに分割されます。これで合計で
n+ 1個領域数が増える事になります から確かに漸化式:
Pn+1=Pn+n+ 1
が成り立っています。
この漸化式を解けば
Pn=12n(n+ 1) + 1が分かります。
8.1.2
円の分割
問題
8.1.2円周上に異なる
n点をとって異なる2点間を全て線分で繋いだとき、
円は幾つの領域に分割されますか。ただし、どの線分も平行ではなく、また1点で 3本以上が交わったりしない様にします。
n
点の場合の分割数を
Qnとしましょう。
例えば円周上に2点とると下図の様に円は二つのパートに分かれ、
Q2= 2ですね:
円周上に1点しかとらない場合はそもそも線が引けないのでこの場合は考えない事にし ましょう。
円周上に3点、4点、5点をとった場合も上の図の様になっていますが、では
Q6は 幾らになると思いますか?
虞らく多くの人が
Qn = 2n−1であると予想して
Q6 = 25 = 32と答えると思いますが、実際どうで しょう?絵を描いてみると・ ・ ・
あれ?変ですね、31個しかありません。どこか がつぶれているのかと云うとそんな事もない様です。
どうやら予想は外れたみたいですね。どうなって るんでしょうか。
2, 4, 8, 16, 31, . . .
って、もの凄く違和感があります。ちょっとさっきと 同じ様に漸化式を求めてみましょうか。
円周上に異なる
n個の点があって円が
Qn個の領域に分割されている状況で円周上 にもう1点加えます。新たに加える点を
En+1とし、ここから時計回りに既存の点を
E1, E2, . . . , Enとします。
En+1
を加える事によってこの点と既存の各点
Ejとを結ぶ
n本の線分が新たに発生 しますが、これを
En+1E1から順に見て行きましょう。
まず
En+1E1ですが、これは既存の他の線分とは交わりません。従ってこの線分を引 くと2点
E1, Enを結ぶ線分と弧によってはさまれた領域
Rmが2つに分割されますか ら分割領域数は1つ増える事になります。
次に
En+1E2ですが、この線分は
E1と
E3, E4, . . . , Enの各点を結ぶ
n−2本の線分 と交わります。従って線分
En+1E2を、点
En+1から出発して描いて行くと、合計で
n−1個領域が増える事になります(他の線分と交差する度に1個増え、最後に1個増 える)。
一般には、
En+1Ej(2≤j ≤n−1)を引く場合 を考えるとこの線分は
E1, E2, . . . , Ej−1のうちの 任意の1点と
Ej+1, Ej+2, . . . , Enのうちの任意の 1点を結んで作られる様な全ての線分と交わって います。
従って
(j−1)(n−j)本の線分と交わる度に領域は1個ずつ増えて行き、最後に
Ejに到着した時点でもう1個増えますから合計で
(j−1)(n−j) + 1個分割領域数が増え ます。
最後に
En+1Enを引く場合はこれは最初に考えた
En+1E1を引く場合と同じで分割 領域は1個増えます。
この最後の線分と最初の線分の場合も一般の場合の増加数の式
(j−1)(n−j) + 1が
成り立っている事に注意しましょう。
以上から全ての線分を描き終えると
Xnj=1
{(j−1)(n−j) + 1}
個 領域が増えます。これを計算すると
Xn
j=1
{(j−1)(n−j) + 1}= Xn
j=1
{−j2+ (n+ 1)j−n+ 1}
=−1
6n(n+ 1)(2n+ 1) + 1
2n(n+ 1)2−n2+n
= 1
6n(n2−3n+ 8)
となります。以上により
Qnは漸化式:
Qn+1=Qn+1
6n(n2−3n+ 8)
を満たしている事が分かりました(
Q1= 1と考えればこれは
n= 1でも成立します)。
これを解けば
6{Qn+1−Q1}= 6{(Qn+1−Qn) + (Qn−Qn−1) +· · ·+ (Q2−Q1)}
= Xn
m=1
(m3−3m2+ 8m)
=1
4n2(n+ 1)2−1
2n(n+ 1)(2n+ 1) + 4n(n+ 1) Qn+1−Q1= 1
24
©n2(n+ 1)2−2n(n+ 1)(2n+ 1) + 16n(n+ 1)™
Qn+1= 1
24{n2(n+ 1)2−2n(n+ 1)(2n+ 1) + 16n(n+ 1) + 24} Qn = 1
24{(n−1)2n2−2(n−1)n(2n−1) + 16(n−1)n+ 24}
= 1
24(n4−6n3+ 23n2−18n+ 24)
が分かります。
参考までに、
1
24(n4−6n3+ 23n2−18n+ 24) =n−1C0+n−1C1+n−1C2+n−1C3+n−1C4
です(
n≥5)。意味ありげですね〜
8.1.3
出会いの確率
領域の分割数の問題で漸化式を使って考えて来ましたが、これから勉強する確率の問 題でも同様に漸化式を使うものが多くあります。特に編入試験では漸化式がらみの問題 も多く出題されていますね。
その漸化式を使う問題の中でも有名なものに『出会い』の問題があります。元々は1 から13までのトランプ2組を用意してそれぞれよくシャッフルした後にそれぞれの上 から1枚ずつめくって行きます。そのとき、何枚目かで同じ数字が出る事もあると思い ますが、これを『出会い』と言う事にします。出会いが起こらない確率はどれくらいで しょうか?(出会いが起こる確率でもいいですが)。
これは
P.R. de Montmortが1708年に提起した問題で、13枚のカードの場合に
ついては彼自身が1713年に解決し、1740年頃
L.Eulerによって一般に
n枚の時 に解決されました。
ここでもやはり一般の
nについて考えて行きますが、簡単のために一方のトランプ は1から順にnまで出るものと考えてもう一方だけシャッフルする事にします。
問題
8.1.31からnまでの数字の書かれたカードが1枚ずつあります。これを順に
並べて行ってあるm番目にmが出たとき『出会い』が起こったと言う事にします。
(1度も)出会いが起こらない様な並べ方は何通りあるでしょうか(この総数を
de Montmort数と言います)。
また、全ての並べ方のうち出会いが起こらない確率は幾らでしょうか。
例えば
n= 2の場合は出会いのない並べ方は
2·1の1通りしかありませんね。また
n= 3なら
231, 312
の2通りです。
n= 4の場合は全ての並べ方を書き出してみると
1234× 1243× 1324× 1342× 1423× 1432× 2134× 2143◦ 2314× 2341◦ 2413◦ 2431× 3124× 3142◦ 3214× 3241× 3412◦ 3421◦ 4123◦ 4132× 4213× 4231× 4312◦ 4321◦ですから9通りあります。
一般に出会いの起こらない並べ方の総数を
Mnとしてそのヴァリエーションを数えて 行きましょう。
並べた結果を
a1a2. . . anとします。出会いが起こっていないとすると
a16= 1ですの で
a1=k,2≤k≤nですから、
ak = 1であるかどうかで場合分けして考えます。
a1=k, ak= 1
の場合は、
n枚のうち
1番目と
k番目を抜いた
n−2枚を見ればこの
n−2枚の並べ方には
Mn−2通りの並べ方がある筈です。
一方
a1=k, ak=6= 1の場合は、
n枚のうち
a1=kを抜いて考えれば
a26= 2, a36= 3, . . . , ak−16=k−1, ak 6= 1, ak+16=k+ 1, . . . , an6=nを満たす様に並べるわけで、これはあたかも 1 を k であるかの様に扱って1か らnのうちkを除いた
n−1枚で出会いのない並べ方を考えている事になり、従ってそ の総数は
Mn−1です。
この様に
a1=kを任意に固定するごとに並べ方が
Mn−2+Mn−1あり、
a1の選び方 は1以外の
n−1通りですから結局、
Mn= (n−1)(Mn−2+Mn−1)
と云う漸化式が成り立っています。これを変形すると
Mn−(n−1)Mn−1−(n−1)Mn−2= 0
Mn−nMn−1=−{Mn−1−(n−1)Mn−2}
ですからここで
Mn−nMn−1=Gn
と置けば、
Gn=−Gn−1
ですから
M1= 0, M2= 1に注意すれば
Gn= (−1)n−2G2= (−1)n−2(M2−2M1) = (−1)n
が分かって
Mn−nMn−1= (−1)n
です。この両辺を
n!で割れば
Mn
n! − Mn−1
(n−1)! = (−1)n n!
なので、更に
Hn= Mn!nと置けば
Hn−Hn−1= (−1)n n!
Hn−1−Hn−2= (−1)n−1 (n−1)!
... ... H2−H1= (−1)2
2!
Hn−H1= Xn
k=2
(−1)k k!
ですが、
H1= 0により
Hn= Xn
k=2
(−1)k k!
更に
(−1)00! +(−1!1)1 = 0
から
= Xn
k=0
(−1)k k!
Mn=n!
Xn
k=0
(−1)k k!
が分かります。
また、全ての並べ方は
n!通りありますからこのうち出会いが起きていない並べ方の 確率(割合)は
Xn
k=0
(−1)k k!
となっており、ここで
n→ 1の極限を考えると、正の整数をランダムに並べて行った 時に 出会い が起きない確率は
X1 k=0
(−1)k k!
であり、これは
1e
になる事が知られています(4年生で勉強する
Taylor展開と云う概
念を使います)。こんなところに自然対数の底
eが出て来るのも不思議ですね。
8.2
クラスの中に同じ誕生日の人が居る確率
問題
8.2.1 n人のクラスの中に同じ誕生日の人が1組以上いる確率は幾らでしょう
か。ただし1年は365日とします。
2≤n≤365
の時について考えます(それ以外は自明)。
クラス全員の誕生日の組み合わせには
365n通りのヴァリエーションがありますが、
そのうち全て異なるものは
365Pn通りあります。
従って全員の誕生日が異なる確率は
365Pn365n
であり、少なくとも1組以上同じ誕生日 の人がいる確率
P(n)は
P(n) = 1−365Pn
365n
= 1− 365!
(365−n)!365n
= 365n−
n個
z }| {
365·364· · ·(365−n+ 1) 365n
です。
これを幾つかの値で計算して表にすると
n 6 10 20 22 23 30 40 50
P(n) 0.0405 0.1169 0.4114 0.4757 0.5073 0.7063 0.8912 0.9704
となっており、クラスが23人以上になると同じ誕生日の人がいる確率が
12
を越えます。
50人に至っては97%ですか。凄いですね。
8.3 Buffon
の針
問題
8.3.1幅4の間隔で平行線が沢山引かれている床に長さ2の針を落としたと
き針が平行線のどれかと交わる確率は幾らでしょうか?
針の中心点と平行線との距離(当然最も近いものとの距離です)を
x、針と平行線と の成す角度を
θとします(
0≤θ≤ π2)。
針をランダムに落とすと云う事はこの2つのパラメーターがランダムだと云う事で す。
xは
0≤x≤2の範囲ですね。
針が平行線と交わるための条件は
x≤sinθですから、
θx-平面を考えてその中の長方 形領域
£0,π2§
×[0,2]
の中で領域
R : x≤sinθが占める割合が求める確率になります。
すると、図のとおり領域
Rの面積
Sは
S=Z π
2
0
sinθdθ= 1
ですから、求める確率
Pは
P = 1π
2·2 = 1 π
となります。
確率に
πが出て来ますね。不思議です。
8.4 Bertrand
の逆説
問題
8.4.1円に1つの弦をランダムに引くとき、その弦が内接正3角形の1辺よ
り長い確率は幾らでしょうか。
【解答その1】 回転対称性があるので弦の始点を 図の点
Aに固定して終点
Pをランダムに考えれ ば、点Pが弧
BC内にあるとき弦の長さが内接正 3角形の1辺を越えます。従って長さの比から確 率は
13
です。
【解答その2】 回転対称性があるので水平な弦だ けで考えれば、点Pが図の線分
EF内にあるとき 弦の長さが内接正3角形の1辺を越えます。従っ て線分
ADとの長さの比から確率は
12
です。
【解答その3】 内接正3角形の内接円を考えると 半径は
12
になります。弦の中点がこの円内にあれ ば弦の長さが内接正3角形の1辺を越えます。従っ て面積の比から確率は
14
です。
どうでしょうか?もっともらしい解答が3つありますがどれが正しいのでしょうか。
いや、それともどれも正しくない?
これは
Bertrandの
Paradox (1889)と呼ばれている有名な問題ですが、実は 全て正 解 と言わざるを得ません。いや、正確に言うなら、『問題が不十分なので答えられな い』でしょうか。
弦をランダムに引くと言いますが、その『ランダムさ』について標準的な解釈があり ません。どう考えるのが自然かが不明なのです。ですから本来は問題文で指定すべき事 柄なのですがそれがありません。
従って答え様がないか、あるいは解答者ごとに違った『ランダムさ』の解釈に基づい て解答する事になり、結果的にこの様に違った『もっともらしい』解答が出て来てしま います。
それぞれの『ランダムさ』の解釈に従って実際にランダムに弦を引いてみると下図の ようになります:
これは
wikipediaからの画像ですが、具体的な描画方法は不明です。
いずれにせよ、確率を考える時に最も重要な点はそこで言う『ランダムネス』がどう 云う意味なのかをきちんと把握する事です。
そこでふと疑問が湧いて来るはずです。 『じゃあ、さっきの
BuÆonの針もアレも怪し いんじゃないか』と。
確かにあの場合も『針をランダムに落とす』と云う事がどう云う事かが問題になるは ずです。しかし今回の問題と違うのは『自然な』ランダムさに関する解釈が存在すると 云う事でしょうか。実際に針を落とす実験で確かめる事も出来て確かに確率は
1π