各種がん 142
卵
ら ん巣
そ うがん
受診 から 診断、治療、経過観察 への 流 れ
「体調がおかしいな」と思ったまま、放っておかないで ください。なるべく早く受診しましょう。
受診のきっかけや、気になっていること、症状など、
何でも担当医に伝えてください。メモをしておくと 整理できます。いくつかの検査の予定や次の診察日 が決まります。
治療後の体調の変化やがんの再発がないかなどを 確認するために、しばらくの間、通院します。検査を 行うこともあります。
治療が始まります。気が付いたことは担当医や看護 師、薬剤師に話してください。困ったことやつらいこ と、小さなことでも構いません。よい解決方法が見つ かるかもしれません。
がんや体の状態に合わせて、担当医が治療方針を説明 します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの方 と話し合ってください。あなたの希望に合った方法を 見つけましょう。
担当医から検査結果や診断について説明があります。
検査や診断についてよく理解しておくことは、治療法 を選択する際に大切です。理解できないことは、繰り 返し質問しましょう。検査が続くことや結果が出るま で時間がかかることもあります。
がんの疑い
受 診
検査・診断
治療法の選択
治 療
経過観察
がんの診療の流れ
この図は、がんの「受診」から「経過観察」への流れです。
大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。
ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。
あなたらしく過ごすためにお役立てください。
目 次
がんの診療の流れ
1. がんと言われたあなたの心に起こること ...1
2. 卵巣がんとは ...3
3. 検査 ...5
4. 病期 ...7
5. 治療 ...9
1 手術(外科治療) ...11
2 放射線治療 ...14
3 薬物療法 ...14
6. 転移・再発 ...16
7. 経過観察 ...17
診断や治療の方針に納得できましたか? ...18
セカンドオピニオンとは? ...18
メモ/受診の前後のチェックリスト ...19
がんという診断は誰にとってもよい知らせではありません。
ひどくショックを受けて、「何かの間違いではないか」「何で 自分が」などと考えるのは自然な感情です。しばらくは、不安 や落ち込みの強い状態が続くかもしれません。眠れなかった り、食欲がなかったり、集中力が低下する人もいます。そんなと きには、無理にがんばったり、平静を装ったりする必要はあり ません。
時間がたつにつれて、「つらいけれども何とか治療を受けて いこう」「がんになったのは仕方ない、これからするべきことを 考えてみよう」など、見通しを立てて前向きな気持ちになって いきます。そのような気持ちになれたらまずは次の 2 つを心が けてみてはいかがでしょうか。
あなたに心がけてほしいこと
■ 情報を集めましょう
まず、自分の病気についてよく知ることです。病気によっては まだわかっていないこともありますが、担当医は最大の情報源 です。担当医と話すときには、あなたが信頼する人にも同席し てもらうといいでしょう。わからないことは遠慮なく質問して ください。
病気のことだけでなく、お金、食事といった生活や療養に関 することは、看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、栄養士など が専門的な経験や視点であなたの支えになってくれます。
1 . がんと言われた
あなたの心に起こること
がんと言われたあなたの心に起こること
1
また、インターネットなどで集めた情報が正しいかどうかを、
担当医に確認することも大切です。他の病院でセカンドオピニ オンを受けることも可能です。
「知識は力なり」。正しい知識は考えをまとめるときに役に 立ちます。
※参考 P18「セカンドオピニオンとは?」
■ 病気に対する心構えを決めましょう
がんに対する心構えは、積極的に治療に向き合う人、治るとい う固い信念をもって臨む人、なるようにしかならないと受け止 める人など人によりいろいろです。どれがよいということはな く、その人なりの心構えでよいのです。そのためにも、自分の病 気のことを正しく把握することが大切です。病状や治療方針、今 後の見通しなどについて担当医から十分に説明を受け、納得し た上で、あなたなりの向き合い方を探していきましょう。
あなたを支える担当医や家族に自分の気持ちを伝え、率直に 話し合うことが、信頼関係を強いものにし、しっかりと支え合う ことにつながります。
情報をどう集めたらいいか、病気に対してどう心構えを決め たらいいのかわからない、そんなときには、巻末にある「がん相 談支援センター」を利用するのも1つの方法です。困ったときに はぜひご活用ください。
卵巣は、子宮の両脇に1つずつある親指大の楕だ え ん円形の臓器で す。卵巣の機能には、女性らしい体をつくり、維持を促す女性ホル モンの分泌があります。その他にも、成熟した卵子を月経が停止 する(閉経)まで周期的に放出します(排卵)。
卵巣がんは、卵巣に発生したがんです。卵巣に発生する腫しゅよう瘍に は、良性と悪性、その中間的な境界悪性というものがあります。
卵巣に腫瘍ができたからといって、卵巣がんとは限りません。
図1. 卵巣と周囲の臓器
2 . 卵巣がんとは
卵巣卵管 胃
直腸 子宮
子宮体部
外子宮口 子宮頸部
卵巣 卵管
け い ぶ
膀胱ぼうこう
腟ちつ
大網たいもう/だいもう
はじめはほとんど自覚症状がありません。下腹部にしこりが 触れる、おなかが張る、トイレが近い、食欲の低下などの症状が あって受診することが多いのですが、このようなときにはすで にがんが進行していることも少なくありません。急激なおなか の張りや痛みなど、気になる症状がある場合には、早めに受診す ることをお勧めします。
卵 巣 の 腫 瘍 は そ の 発 生 す る 部 位 に よ っ て、上じょうひせい皮 性 腫 瘍、
胚はいさいぼうせい
細胞性腫瘍、性せいさくかんしつせい索間質性腫瘍などの組織型に分類されていま す。最も多いのは、卵巣の表層をおおう細胞に由来する上皮性腫 瘍です。上皮性のがんは卵巣がんの90%を占めています。この がんは、主に4つの組織型(漿しょうえきせい液性がん、粘液性がん、類内膜が ん、明細胞がん)に分けられ、それぞれ異なった性質をもってい ます。上皮性のがんの次に多いのは、卵子のもとになる胚細胞か ら発生するがんです。
卵巣がんと新たに診断される人数は、1年間に10万人あたり 14.3人です。40歳代から増加を始め、50歳代前半から60歳代 前半でピークを迎え、その後は次第に減少します。
卵巣がんの発生には複数の要因が関与しているといわれてい ます。卵巣がんの約10%は遺伝的要因によるものと考えられて おり、BRCA1 遺伝子あるいはBRCA2 遺伝子変異が発症する危 険性を高めることがわかっています。ほかには、排卵の回数が多 いと卵巣がんになりやすいと考えられているため、妊娠や出産 の経験がない場合や、初経が早く閉経が遅い場合は発症する危 険性が高くなる可能性があります。
卵巣がんとは
2
内診、直腸診、超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査などを 行います。卵巣がんは、画像検査や診察では良性の卵巣腫瘍との 区別が難しいため、病理検査を行うことによって診断を確定し ます。腫瘍マーカー検査は、治療後の経過観察の検査の1つとし て行うことがあります。
内診、直腸診 1
子宮や卵巣の状態を腟ちつから指を入れて調べます。また、直腸や その周囲に異常がないかをお尻から指を入れて調べます。
超音波(エコー)検査 2
超音波を体の表面にあて、臓器から返ってくる反射の様子を 画像にする検査です。より近くで子宮や卵巣を観察するため、
腟の中から超音波をあてて調べる経腟超音波断層法検査を行う 場合もあります。卵巣腫瘍の性質や状態、大きさをみたり、腫瘍 と周囲の臓器との位置関係を調べたりします。
CT 検査、MRI 検査 3
CT検査では、X線を利用して卵巣から離れた場所への(遠隔)
転移の有無やリンパ節転移などを確認します。MRI検査では、磁 気を利用して周囲臓器への腫瘍の広がり(浸しんじゅん潤)や腫瘍の大き さ、性質や状態などを確認します。卵巣がんの検査では両者を組
3 . 検査
検査
3
み合わせて行うことがあります。
細胞診・組織診(病理検査)
4
細胞診では、胸水や腹水などにがん細胞が含まれていないか を検査します。手術前に胸水や腹水がみられる場合は、皮膚から 針を刺して胸水や腹水を採取し、検査を行うことがあります。
組織診では、手術で採取した組織を検査し、良性・境界悪性・
悪性の判定および組織型の判定を行います。最終的な結果が出 るまでには2週間から3週間かかります。
手術前に境界悪性や悪性が疑われた場合には、手術の範囲を 決めるために手術中に病理検査を行うことがあります(術中 迅じんそく
速病理検査)。術中迅速病理検査は時間的な制約などがあり、
手術後に詳しく行った最終病理検査の結果と異なる場合があり ます。
腫瘍マーカー検査 5
腫瘍マーカーとは、体のどこかにがんが潜んでいると大量に 産生される物質です。がんの種類に応じて多くの種類があり、血 液検査により量を測定します。
卵巣がんの腫瘍マーカーには、CA125があります。卵巣がん の場合、CA125が上昇することが多いのですが、上昇しないこ ともあります。腫瘍マーカーの値の大きさそのものよりも、治療 の前後で値がどのように変化するのかをみることが重要です。
腫瘍マーカーは、再発の早期発見に有効ですが、それだけでは腫 瘍の悪性度や進行具合などの判定はできないことから、画像検 査などを組み合わせて総合的に判定を行います。
治療方法は、がんの進行の程度や体の状態などから検討しま す。がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。
卵巣がんでは、がんがどの程度広がっていたかが手術により判 明した時点で決まる、手術進行期分類を用いています。
4 . 病期
病期
4
日本産科婦人科学会・日本病理学会編「卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 病理編 第 1版(2016年)」より作成
※1 卵巣の表層をおおう膜が破れること。
※2 腹腔内に生理的食塩水を注入した後、腹腔内貯留液とともに回収したもの。
表1. 卵巣がんの手術進行期分類(日産婦 2014、FIGO2014)
I期:卵巣あるいは卵管内限局発育 IA期
腫瘍が片側の卵巣(被膜破綻※1がない)あるいは卵管に限局し、被膜表面への浸 潤が認められないもの。腹水または洗浄液※2の細胞診にて悪性細胞の認められな いもの
IB期 腫瘍が両側の卵巣(被膜破綻がない)あるいは卵管に限局し、被膜表面への浸潤が 認められないもの。腹水または洗浄液の細胞診にて悪性細胞の認められないもの IC期 腫瘍が片側または両側の卵巣あるいは卵管に限局するが、以下のいずれかが認めら
れるもの
IC1期 手術操作による被膜破綻
IC2期 自然被膜破綻あるいは被膜表面への浸潤
IC3期 腹水または腹ふくくう腔洗浄細胞診に悪性細胞が認められるもの
II期: 腫瘍が一側または両側の卵巣あるいは卵管に存在し、さらに骨盤内(小骨盤腔)への進展 を認めるもの、あるいは原発性腹膜がん
IIA期 進展 ならびに/あるいは 転移が子宮 ならびに/あるいは 卵管 ならびに/あるい は 卵巣に及ぶもの
IIB期 他の骨盤部腹腔内臓器に進展するもの
III期: 腫瘍が一側または両側の卵巣あるいは卵管に存在し、あるいは原発性腹膜がんで、細胞 学的あるいは組織学的に確認された骨盤外の腹膜播は し ゅ種 ならびに/あるいは 後腹膜リン パ節転移を認めるもの
IIIA1期 後腹膜リンパ節転移陽性のみを認めるもの(細胞学的あるいは組織学的に確認)
IIIA1(i)期 転移巣最大径10mm以下 IIIA1(ii)期 転移巣最大径10mmを超える
IIIA2期 後腹膜リンパ節転移の有無に関わらず、骨盤外に顕微鏡的播種を認めるもの IIIB期 後腹膜リンパ節転移の有無に関わらず、最大径2cm以下の腹腔内播種を認めるもの IIIC期 後腹膜リンパ節転移の有無に関わらず、最大径2cmを超える腹腔内播種を認める
もの(実質転移を伴わない肝臓および脾ひ ぞ う臓の被膜への進展を含む)
IV期:腹膜播種を除く遠隔転移 IVA期 胸水中に悪性細胞を認める
IVB期 実質転移ならびに腹腔外臓器(鼠そ け い径リンパ節ならびに腹腔外リンパ節を含む)に転 移を認めるもの
治療法は、標準治療に基づいて、体の状態や年齢、患者さんの 希望なども含めて検討し、担当医とともに決めていきます。
卵巣がんの場合、手術(外科治療)によって、組織型と手術進行 期分類を基に診断します。手術前の検査で境界悪性や悪性が疑 われる場合には、術中迅速病理検査を行い、その結果が悪性であ れば、手術中に病期を決定するために必要な処置を追加するこ とがあります。術中迅速病理検査ができない施設では、最終病理 検査の結果が悪性であれば、切除可能な部分に対する再手術を 行うこともあります。
卵巣がんは進行した状態で発見されることが多いため、術後 化学療法が行われることがほとんどです。早期に発見された場 合でも、がんの種類によっては再発の危険があるため、行うこと があります。
図2は、卵巣がんに対する治療方法を示したものです。担当医 と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
5 . 治療
治療
5
図 2. 卵巣がんの治療の選択
術後に卵巣がんと 判明した場合
ⅠA /ⅠB
ⅠC
グレード 1※3
●グレード 2 / 3
●明細胞がん
Ⅱ~Ⅳ
肉眼的に残存腫瘍が 認められない場合 最大残存腫瘍径が 1 ㎝未満の場合 最大残存腫瘍径が 1 ㎝以上の場合
初回化学療法中に 可及的に最大限の 腫瘍減量を行う手術
●原発巣が摘出困難で 試験開腹した場合
●全身状態により手術が 困難な場合
術前化学療法を考慮
経 過 観 察
化学療法化学療法
手 術
●進行期の確定 に必要な手技 を含む手術
●腫瘍減量術
手 術 進行期の決定 病理組織学的診断
初回治療 術後治療
{
化学療法 化学療法日本婦人科腫瘍学会編「卵巣がん治療ガイドライン2015年版」より作成
※3 グレードとは、細胞の分化度を示したもので、グレード1〜3があります。細胞の成熟 度合いの順番に並び、グレード1は細胞が成熟して活発な増殖がみられないもので、グ レード3になると細胞が未熟で活発な増殖がみられます。明細胞がんのようにグレード がつかない組織型もあります。
卵巣がんでは、手術により、がんが取りきれたかどうかが予 後に影響し、残存する腫瘍の大きさが小さいほど予後がよくな ります。初回手術では、可能な限りがんを摘出することが原則 です。
標準治療として行われているのは開腹手術です。腹腔鏡下手 術は良性腫瘍で広く行われていますが、卵巣がんでは開腹手術 と比較して勧められるだけの報告がなく、現時点では標準治療 ではありません。
両側の卵巣と卵管、子宮、大網(P3の図1参照)を摘出します。
腫瘍減量術では、手術で完全には切除できない場合でも、で きるだけ多くのがんを摘出することを目指します。残存する腫 瘍の大きさが予後に関わるため、転移が大腸、小腸にある場合 には腸管部分切除、横隔膜にある場合は横隔膜切除、脾臓にあ る場合は脾臓摘出を行うことがあります。
腹水細胞診は病期を決定するために必要な処置です。腹膜上 に小さなかたまりが認められた場合には、腹膜生検を行い、腹 膜播種の有無を確認します。
手術(外科治療)
1
1)基本的な手術法
2)腫瘍減量術
3)腹腔細胞診や腹膜生検
治療
5
病期を決定するために、範囲を広くリンパ節を取る後腹膜リ ンパ節郭清、もしくは腫れている一部のリンパ節の生検を行い、
リンパ節転移の有無を確認します。
卵巣がんの手術では1)〜4)を行います。卵巣と子宮を摘 出した状態では妊娠する力を温存することは不可能です。しか しながら、ある条件下では妊孕性温存手術が検討されています。
妊孕性温存が可能な条件とは、組織型が漿液性がん、粘液性 がん、類内膜がんに分類されるもので、進行期がIA期および分 化度がグレード1または2とされています。これらを判定する ためには、初回手術において、がんの完全摘出はもちろんのこ と、手術進行期分類による診断を行うために十分な切除が必要 です。妊孕性温存手術の基本的な手術法として、腫瘍のある側 の卵巣と卵管、大網の切除、さらに腹水細胞診を行うことが勧 められています。
4)後腹膜リンパ節郭かくせい清もしくは生検
5)妊にんようせい孕性温存を希望する場合
図 3. 腹部の構造
脾臓 横隔膜
大腸 卵巣 小腸
卵管 子宮
● 更年期障害のような症状
閉経前の患者さんでは、両側の卵巣を摘出することにより、女性 ホルモンが急激に減少し、更年期障害のような症状が起こること があります。ほてり、発汗、食欲低下、だるさ、イライラ、頭痛、
肩こり、動ど う き悸、不眠、腟分泌液の減少、骨粗しょう症、高脂血症 などがみられます。これらの症状は時間の経過と共に徐々に軽快 していきますが、日常生活に支障が出るようであれば、担当医に 相談してみましょう。
● 性機能障害
がんが浸潤していなければ、基本的に腟は残りますので、手術後、
創きずの状態が安定して、体力が戻ったら性交渉を行うことが可能で す。卵巣がんの手術では、身体的な変化に伴い、心理的な変化も 生じやすくなります。性交時の痛みや性欲の減退が生じる場合も あります。パートナーとよく理解し合うことが大切です。
● リンパ浮腫
手術の際にリンパ節郭清を行うとリンパ浮腫が生じることがあり ます。あらわれる場所は、リンパ節郭清を行った範囲に応じてみ られます。
また、組織学的な条件以外にも、以下のことが必要です。
(1)妊娠可能年齢であり、妊娠への強い希望がある。
(2) 患者と家族が、卵巣がんや妊孕性温存治療、再発の可能 性について十分に理解していること。
(3)治療後も長期にわたり厳重な経過観察を続けること。
これらの条件を満たした上で妊孕性温存手術が可能となります。
手術が広範囲にわたること、また卵巣を摘出することにより、
QOL(生活の質)に影響する合併症が起こることもあります。
6)手術の合併症について
治療
5
放射線治療は、再発した場合の疼とうつう痛や出血などの症状を緩和 するために行うことがあります。また、脳に転移している場合 には、症状の緩和だけでなく、予後の改善のために行うことが あります。
卵巣がんは進行した状態で発見されることが多いため、術後 化学療法を行うことがほとんどです。早期に発見された場合で も、がんの種類によっては再発の危険が高いことがあるため、
術後に化学療法を行うことがあります。術後の化学療法を省略 できるのは、病期がIA期もしくはIB期で、さらに分化度がグ レード1の場合のみです。なお、明細胞がんについては、高悪 性度として扱われているため、IA・IB期であっても術後に化学 療法を行います。
また、初回手術が安全もしくは十分に行えないと予想される 場合に、術前に化学療法を行うことがあります。手術で取り切 れない腫瘍の大きさが1cm以上になってしまうと予想されるほ ど進行している場合や、合併症がある、高齢である、腹水や胸 水がたまっているなどのことから全身状態が悪い場合が当ては まります。術前の化学療法により腫瘍が小さくなり完全切除が 可能となったり、全身状態が改善したりした段階で手術を行い ます。
放射線治療 2
3 薬物療法
5
治療細胞障害性抗がん剤を用いて、がん細胞を破壊する治療法で す。タキサン製剤とプラチナ製剤の併用療法が基本となります。
がんの増殖に関わっている分子を標的にしてその働きを阻害 します。卵巣がんの場合、化学療法と併用して行われることが あります。
1)化学療法
● 化学療法の副作用について
細胞障害性抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を 及ぼします。特に毛根(髪の毛)、口や消化管などの粘膜、骨こつずい髄など新 陳代謝の盛んな細胞が影響を受けやすく、一般的に、脱毛、口内炎、下 痢が起こったり、白血球や血小板の数が少なくなったりすることがあり ます。その他にも、肺や腎臓に障害が出ることもあります。
2)分子標的治療
● 分子標的治療の副作用について
主な副作用には、出血、高血圧、タンパク尿、神経毒性、疲労・倦けんたい怠感、
食欲減退、悪お し ん心、口内炎、脱毛症などがあります。
転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れなどに乗って別の 臓器に移動し、そこで成長することをいいます。また、再発とは、
治療の効果によりがんがなくなったあと、再びがんが出現するこ とをいいます。
卵巣がんの場合、初回の治療効果はあるものの、半数以上が再 発します。再発の時期としては、治療後2年以内が多くみられま す。
再発した場合は化学療法が主な治療法になります。
化学療法終了後から再発までの期間が6カ月未満の場合、前回 の治療で用いた薬剤では効果が期待できないため、異なる薬剤で の単剤による治療が基本です。再発までの期間が6カ月以上の場 合は、プラチナ製剤を含む多剤併用療法が行われます。
放射線治療は、再発した場合の疼痛や出血などの症状緩和に対 し行われることがあります。また、脳転移に対しては、症状緩和だ けでなく、予後の改善のために行われることがあります。
6 . 転移・再発
転移・再発
6
7
経過観察再発の早期発見と、治療に伴う合併症に対処するために、定期 的な外来通院と検査を行います。
経過観察は、治療後1 〜 2年目は1 〜 3カ月ごと、3 〜 5年目 は3 〜 6カ月ごと、6年目以降は1年ごと、を目安としています。
必要に応じて、問診、内診、腫瘍マーカー検査、経腟超音波断層 法検査、CT検査などを行い、再発だけでなく合併症の有無につ いても確認します。
7 . 経過観察
治療方法は、すべて担当医に任せたいという患者さんがいます。
一方、自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたいという 患者さんも増えています。どちらが正しいというわけではなく、
患者さん自身が満足できる方法が一番です。
まずは、病状を詳しく把握しましょう。わからないことは、担当医 に何でも質問してみましょう。治療法は、病状によって異なります。
医療者とうまくコミュニケーションをとりながら、自分に合った治療 法であることを確認してください。
診断や治療法を十分に納得した上で、治療を始めましょう。
担当医以外の医師の意見を聞くこともできます。これを「セ カンドオピニオンを聞く」といいます。ここでは、①診断の確 認、②治療方針の確認、③その他の治療方法の確認とその根拠 を聞くことができます。聞いてみたいと思ったら、「セカンドオピ ニオンを聞きたいので、紹介状やデータをお願いします」と担当 医に伝えましょう。
担当医との関係が悪くならないかと心配になるかもしれませ んが、多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的なこ とと理解しています。納得した治療法を選ぶために、気兼ねなく 相談してみましょう。
診断や治療の方針に納得できましたか?
セカンドオピニオンとは?
診断や治療の方針に納得できましたか?/セカンドオピニオンとは?
メモ/受診の前後のチェックリスト
参考文献:
日本婦人科腫瘍学会編.卵巣がん治療ガイドライン2015年版,金原出版
日本産科婦人科学会・日本病理学会編.卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 病理編 第1版.
2016年,金原出版
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」地域がん登録全国推計値2012年
受診の前後のチェックリスト
□ 後で読み返せるように、医師に説明の内容を紙に書いてもらったり、
自分でメモをとったりするようにしましょう。
□ 説明はよくわかりますか。わからないときは正直にわからないと伝え ましょう。
□ 自分に当てはまる治療の選択肢と、それぞれのよい点、悪い点につい て、聞いてみましょう。
□ 勧められた治療法が、どのようによいのか理解できましたか。
□ 自分はどう思うのか、どうしたいのかを伝えましょう。
□ 治療についての具体的な予定を聞いておきましょう。
□ 症状によって、相談や受診を急がなければならない場合があるかどう か確認しておきましょう。
□ いつでも連絡や相談ができる電話番号を聞いて、わかるようにしてお きましょう。
□ 説明を受けるときには家族や友人が一緒の方が、理解できて安心だと 思うようであれば、早めに頼んでおきましょう。
□ 診断や治療などについて、担当医以外の医師に意見を聞いてみたい場 合は、セカンドオピニオンを聞きたいと担当医に伝えましょう。
●
メモ
( 年 月 日)● がんの種類 漿液性がん ・ 粘液性がん
類内膜がん ・ 明細胞がん ・ その他
● 病期(ステージ) [ I 期 ・ II 期 ・ III 期 ・ IV 期 ]
● 大きさ [ ] cm 位
● リンパ節への転移 [ あり ・ なし ]
● 別の臓器への転移 [ あり ・ なし ]
メモ/受診の前後のチェックリスト
協力者(五十音順): 岡本 愛光(東京慈恵会医科大学産婦人科)
清水 華子(国立がん研究センター中央病院婦人腫瘍科)
がんの冊子 各種がんシリーズ 卵巣がん
編集・発行 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター 〒 104-0045 東京都中央区築地 5-1-1
印刷・製本 図書印刷株式会社
2008 年 9 月 第 1 版第 1 刷 発行 2017 年10月 第 3 版第 1 刷 発行
上記の冊子や書籍は、全国のがん診療連携拠点病院などの
「がん相談支援センター」で閲覧・入手することができます。
ウェブサイト「がん情報サービス」で、冊子ファイル(PDF)を 閲覧したり、ダウンロードして印刷したりすることができます。
0570-02-3410 ( ナビダイヤル 平日 10 時 ~ 15 時 )
*通信料は発信者のご負担です。一部の IP 電話からはご利用いただけません。
● がんの冊子
各種がんシリーズ、小児がんシリーズ、がんを知るシリーズ がんと療養シリーズ
がんと心/がんの療養と緩和ケア/もしも、がんと言われたら/他 社会とがんシリーズ
家族ががんになったとき/身近な人ががんになったとき/他 がんと仕事のQ&A
● がんの書籍 (がんの書籍は書店などで購入できます)
がんになったら手にとるガイド 普及新版 別冊 『わたしの療養手帳』
もしも、がんが再発したら
がん情報サービス http://ganjoho.jp
上記の冊子・書籍の閲覧方法や入手先がわからないときは、
「がん情報サービス」または「がん情報サービスサポートセンター」
でご確認ください。
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● インターネットで
● 病 院 で
● インターネットで
● お 電 話 で
国立がん研究センターがん対策情報センター作成の本
各種がん
卵巣がん
国立がん研究センター がん対策情報センター
142
「がん情報サービス」http://ganjoho.jp
がん相談支援センターやがん診療連携拠点病院、がんに関するより詳しい情報は ウェブサイトをご覧ください。
国立がん研究センターは、皆さまからのご寄付で 全国の図書館に信頼できるがんの冊子をお届け するキャンペーンを行っています。
ぜひご協力ください。
について
がん相談支援センターは、全国の国指定のがん診療連携拠点病院などに 設置されている「がんの相談窓口」です。患者さんやご家族だけでなく、 どなたでも無料で面談または電話によりご利用いただけます。わからない ことや困ったことがあればお気軽にご相談ください。
がん相談支援センターで相談された内容が、ご本人の了解なしに、患者さ んの担当医をはじめ、ほかの方に伝わることはありません。どうぞ安心して ご相談ください。