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新しいライフスタイルの創出と地域再生に関する調査研究

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新しいライフスタイルの創出と

地域再生に関する調査研究

報告書

平成 19 年 2 月

平 成 1 8 年 度

内 閣 府 委 託 調 査

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はじめに

本報告書は、内閣府の平成18 年度委託調査「新しいライフスタイルの創出と地域 の再生に関する調査研究」における調査内容を取りまとめたものである。 地域の活力・再生の鍵は、従来の生産・消費・流通などの経済活動から、新し いライフスタイルの創出による知的・文化的行為に視点を移すことでもたらされ ると考える。 現在、私達の生活は情報化を含む様々な技術発展に支えられ、ますます多様化して いる。一方、地域の活性化を測るものさしは、変わることなく経済活動を中心に作ら れてきたと言える。地域再生の出発点を、経済活動ではない別の視点、つまり地域の 人々の暮らし・ライフスタイルそのものに置くことで、今後の少子・高齢化時代にお ける地域再生の取り組みに活路が見出せるのではないか。 このような問題意識から、本調査では「新しいライフスタイルの創出」が「地域再 生」をもたらすメカニズムを明らかにすることを目的とし、調査研究委員会、及び千 葉県・北海道それぞれにおいて特定地域検討委員会を立ち上げ、文献調査及び現地ヒ アリング等を行った。 本報告書では、文献調査、委員会での議論及び現地視察から、新しいライフスタイ ルに対する考察、及び今後の地域再生のための考察・提言を取りまとめている。本報 告書が、今後の地域再生事業の更なる発展の一助となれば幸いである。 なお、本調査にあたっては、行政担当者、NPO 関係者、有識者など、地域再生事 業に関わる多くの方々にご協力頂いた。ご多忙の中、現地視察を快く引き受けて頂い た事業者・団体代表者も多く、ご協力頂いた皆様に心より感謝申し上げたい。 平成19 年 2 月 財団法人日本総合研究所 所長 西藤 冲

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目 次

はじめに

目次

I:「新しいライフスタイルと地域再生に関する調査研究」報告書

第1章 調査概要 ···1

1−1:調査背景と目的 --- 1 1−2:調査概要 --- 1 1−3:事務局 --- 3

第2章 中期的未来の展望

∼生活を取りまく環境の変化∼ ···4

第3章 日本におけるライフスタイルの現状

∼理想と現実のギャップ∼ ···11

3−1:「ライフスタイル」とは --- 11 3−2:ライフスタイルを形成するもの− --- 12 3−3:幸福の構造とライフスタイル --- 13 3−4:仕事に対する意識・時間の使い方から見るライフスタイル考察 ∼統計資料から∼ - 14 3−5:ライフスタイルにおける様々なギャップ --- 25 3−6:ライフスタイルのギャップを埋めることが地域の再生へつながる --- 27

第4章 新しいライフスタイルと地域再生のメカニズム ···29

4−1:新しいライフスタイルへの期待と現実のギャップ --- 29 4−2:ライフスタイルと共益の形成・追求 --- 32 4−3:生活の場としての地域と地域再生 ∼場の形成とデザイン∼ --- 32 4−4:地域再生のメカニズム --- 34 4−5:ギャップを埋め、地域再生を図るきっかけとしての 「食」の可能性 --- 34 4−6:ケーススタディー(北海道、千葉県の食を中心に) --- 37 4−7:ケーススタディー参考資料

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第5章 新たなライフスタイル創出と地域再生のための政策展開 ···60

5−1:政策展開の目的・基本姿勢 --- 60 5−2:ケーススタディーからの考察 --- 61 5−3:ライフスタイルの様々なギャップを埋める政策展開 --- 63

II:

「新しいライフスタイルと地域再生に関する調査研究」参考資料

1. 第1回調査研究委員会・第1回千葉県特定地域検討委員会・ 第1回北海道特定地域検討委員会議事概要 --- 71 2.第2回北海道特定地域検討委員会議事概要 --- 80 3.第2回千葉県特定地域検討委員会議事概要 --- 87 4.第2回調査研究委員会議事概要 --- 94 5.第3回調査研究委員会議事概要 --- 103

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I:「新しいライフスタイルの創出と

地域再生に関する調査研究」

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第1章 調査概要

1−1:調査背景と目的

地域の活力・再生の鍵は、生産、流通、消費等の経済行為というより、新しいライフス タイルの創出による知的・文化的行為であると考える。 中期的未来(2020∼30 年まで)を展望すると、生活水準の向上面で、金銭以外の価値が 一層重視される傾向にあり、少子・高齢化がさらに進むなど、ほとんどの地域で人口が減 少し、自立のためのアイデアや熱意の差により地域格差は拡大し、かなりの集落が消滅す ると思われる。このような展望の下での地域再生の枠組は、知的・文化的価値を指向する 新しいライフスタイル、例えば、健康で持続的なライフスタイル(ロハス、LOHAS:Lifestyle Of Health And Sustainability)、芸術・文化指向型ライフスタイルなどによって決定的な 影響を受けるであろう。 このような観点から、今回の調査研究では、未来社会の展望下での新しいライフスタイ ルのイメージを検討するとともに、新しいライフスタイルによる地域再生実現のメカニズ ムを明らかにし、今後の新たなライフスタイル創出のための政策展開のあり方についても 検討し、地域再生の推進に役立てていくことを目指すものである。 本調査研究では、このような考え方に基づき、以下の課題に取り組む。 (1) 新しいライフスタイルのイメージ検討。 (2) 新しいライフスタイルによる地域再生実現のメカニズムの検討。 (3) モデル地域(千葉県及び北海道)によるケーススタディーの実施。 (4) 新たなライフスタイル創出のための政策展開(国民生活政策のあり方、男女共同参 画のあり方等を含む)。 (5) 新しいライフスタイルに対応した暮らしの幸福感、満足度把握指数のあり方の検討。

1−2:調査概要

(1) 調査研究委員会の開催 調査の方法論、調査研究結果について専門的立場の意見を求めるために、調査研究委 員会を設置する。 I 委員リスト

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荒牧 麻子氏(ダイエットコミュニケーションズ 代表) 小瀧 歩氏 (ロハスクラブネットワーク 代表) 小室 淑恵氏((株)ワーク・ライフバランス 代表取締役社長) II 委員会開催日程 第1 回 2006 年 11 月 1 日(水) 第2 回 2006 年 12 月 25 日(月) 第3 回 2007 年 2 月 7 日(水) (2) モデル地域ケーススタディー 新たなライフスタイル創出が地域再生をもたらすメカニズムについて、特に食生活の ライフスタイルの変化に着目し、特定地域検討委員会の開催、現地視察およびヒアリン グ調査などを中心としたケーススタディーを行う。モデル地域として、千葉県と北海道 を選定する。 I 特定地域検討委員会の開催 A.千葉県特定地域検討委員会 a. 委員リスト 座長 荘司 久雄氏 (千葉県総合企画部 理事) 内海崎 貴子氏(川村学園女子大学 教授) 斉藤 剛氏 ((財)千葉県文化振興財団 理事長) 高田 実氏 ((株)サンケイビル 社長室長・執行役員) b. 委員会開催日程 第1 回 2006 年 11 月 1 日(水) (第1 回調査研究委員会と合同開催) 第2 回 2006 年 12 月 14 日(木) B.北海道特定地域検討委員会 a. 委員リスト 座長 越膳 百々子氏((株)食のスタジオ 代表取締役) 工藤 一枝氏 (ペッカリィ(株) 代表取締役) 竹本 アイラ氏((有)PLAN-A 代表取締役)

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b. 委員会開催日程 第1 回 2006 年 11 月 1 日(水) (第1 回調査研究委員会と合同開催、東京都内開催) 第2 回 2006 年 11 月 16 日(金) II 現地視察 千葉県内・北海道内において、ライフスタイルや地域再生の分野で特徴的な取 組みを行っている自治体や団体、企業などを下記の通り訪問先として選定した。 <北海道> ・ 砂川市(すながわスイートロード) ・ 札幌市(さっぽろスタイル) ・ NPO コンカリーニョ <千葉県> ・ 道の駅「とみうら」 III ヒアリング調査 ケーススタディーの取りまとめを行なうにあたり、補足的なヒアリング調査を 行った。 ・ 小室淑恵氏((株)ワーク・ライフバランス 代表取締役) ・ 佐藤勇氏(I love Yokohama 代表)

(3) Web・文献調査 論点を整理するため、Web・文献調査を行った。

1−3:事務局

(財)日本総合研究所 特別研究本部 担当:斉藤・藤川 〒102−0082 東京都千代田区一番町10-2 一番町 M ビル 7F

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第2章 中期的未来の展望 ∼生活を取りまく環境の変化∼

私たちの生活は家庭環境・経済状態・人間関係など、環境の変化から大きな影響を受け ている。少子高齢・人口減少時代に突入した現在、生活を取り巻く環境は、劇的な変化を 遂げている。 ここでは、生活を取りまく環境において、どのような変化が起きているのか、特にライフ スタイルに影響を与える重要な要因として「人口と国土」、「情報通信技術とコミュニ ケーション」、「職」、「住」について整理し、中期的未来における生活を展望する。 【人口と国土】 日本の総人口は2005 年に減少に転じ、1899 年に統計を取り始めて以来、初めて出生数が死 亡数を下回る自然減となった(図2−1)。国 立社会保障・人口問題研究所の推計(2003 年 12 月)によれば、2030 年には、3 分の 1 以上 の自治体が人口規模5 千人未満に、また、2025 年から2030 年にかけては 9 割以上の自治体で 人口が減少、このうち、2000 年に比べ人口が 2 割以上減少する自治体は半数を超える。 年齢別の人口では、現在65 歳以上の人口は 21%を超え、欧米を上回るスピードで高齢化が進んでいる。2030 年には、総人口に占め る老年人口(65 歳以上)割合 40%以上の自治体が 3 割を超え、年少人口(0∼14 歳)割合 10%未満の自治体が 3 割を超えるとされている(図2−2、2−3)。 図2−1 総人口の推移(死亡中位)推計 図2−2 年齢3区分別人口の推移 (出生中位・死亡中位)推計 図2−3 年齢3区分別人口割合の推移 (出生中位・死亡中位)推計 出典:「日本の将来推計人口」 国立社会保障・人口問題研究 所(2006 年 12 月推計)

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2030 年には、三大都市圏が全人口の約半分を占め、地方圏特に農山村地域の人口減少・ 高齢化は厳しく、耕作放棄地や放業放棄森林が増大、集落機能が低下する地域が増えるだ けでなく、かなりの集落が消滅の危機に瀕する(図2−4,2−5)。 図2−4 国勢調査人口の推移 出典:平成18 年総務省 図2−5 都道府県人口の増加率

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【情報通信技術とコミュニケーション】 90 年代以降、インターネットや電子メールなどの情報通信技術(ICT)の急速な発展に より、生活の様々な場面でインターネットを利活用するようになった(図2−6)。情報の 収集や共有が容易になっただけでなく、これまで情報の受け手であった市民が、情報発信 者として活躍できる機会が大きく広がった。 また、距離や時間を気にすることなく世界各地と自由にコミュニケーションが取れるよ うになった。これにより、「遠くの友人との連絡」「疎遠になっていた人との連絡」が容易 になったことに加え、「面識のない人との交流」という新しい形態の「つながり」が生まれ るようになった(図2−7)。 地域社会の「つながり」が希薄になったと言われる一方で、ブログやSNS(ソーシャル ネットワーキングサービス)の普及などにより、新しい「つながり」は地域、世代、職業 等に縛られず、興味・関心や問題意識(好縁・志縁)によって結ばれる「弱いつながり(Weak Ties)」として急速に拡大し、つきあい(関係)のあり方や生活行動に大きな影響を与えて いる(図2−8)。「弱いつながり」は消滅し易いという危うさを持つ反面、多様な関係の 構築を可能にし、主体的に働きかけることによって様々な機会を得ることができる。また、 コミュニケーションを通じて、信頼や規範が醸成されれば、より強いつながりへと発展す る可能性もある。 図2−6 生活時間におけるインターネット利用 出典:平成16 年版情報通信白書

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図2−7 インターネットの利用によるコミュニケーションの変化

出典:平成12 年度国民生活白書

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【職】 産業構造を見ると、産業別15 歳以上就業者数の割合は、昭和初期には 2 人に 1 人が第 一次産業従事者であったのに対し、現在では20 人に 1 人となり、昭和 40 年代∼60 年代に 最盛期を迎えた第二次産業も3 人に 1 人から、現在では 4 人に 1 人へと減少を続けている。 これに比べ、第三次産業の就業者数は増加の一途をたどり、現在では3 人に 2 人が従事す るようになり、日本の産業構造は大きく変化している(図2−9)。特に、情報通信技術の 発展により、インターネットショッピングに代表されるような売り手と買い手の直接商取 引が増加し、Web2.0 と呼ばれる現象によって、新しいビジネスモデルの創出やサービス業 の発展に大きな影響を及ぼしている(図2−8)。 戦後の経済成長期においては、大量の若年労働者が地方から都市へと仕事を求めて移動 するなど、仕事は生活を支える収入源として、生活の場所を左右する重要な部分を担って きたが、今後は自分の生活にあった地域と働き方を模索する試みや、起業によって自分ら しい仕事の追求や新しい事業への挑戦、複数の仕事に携わる働き方(マルチワーカー)な ど、収入を伴わないボランティア活動を含めて、働き方が多様化すると思われる。労働者 人口の減少が懸念される環境においては、働き方の多様化によって、働く意欲のある女性 や高齢者の活躍の場も広がるだろう。 図2−9 産業別 15 歳以上就業者の割合の推移 出典:総務省統計局 平成17 年国勢調査速報

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【住】 世帯数は増加傾向にあるが、一世帯あたりの平均世帯人員は、2005 年で 2.68 人と減少 の一途を辿っている(図2−10)。高齢者の独立志向の高まりから、高齢単独世帯と夫婦 のみ世帯が大幅に増えており、以降も世帯数の増加はしばらく継続する(図2−11、 2−12)。 世帯人数の減少は、生活面での分担が増加することを意味しており、必然的に人の助け を必要とすることになる。今後は、コーポラティブ住宅やグループホームなど、個の生活 を重視しつつも、生活の一面を協同によって支え合う生活が増加すると思われる。 図2−10 世帯数と平均世帯人員の年次推移 出典:平成17 年国民生活基礎調査

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図2−11 老後生活における子どもとの同居についての意識

出典:平成18 年版国民生活白書

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第3章 日本におけるライフスタイルの現状

∼理想と現実のギャップ∼

3−1:

「ライフスタイル」とは

「ライフスタイル」という言葉の意味するところは非常に幅広く、衣・食・住に関する 選択の結果という単なる生活様式・行動様式だけでなく、人生観・価値観・習慣などを含 めた個人の生き方・アイデンティティーなども含まれる(『大辞林』・『大辞泉』等より)。 しかし、過去におけるライフスタイル研究・分析を見ると、Japan-VALS 等、マーケテ ィングを目的として消費行動に注目したものが多く、また一方で人々の価値観・生き方に 関しては、行政が行う「生活選好度調査」などに代表されるアンケート調査が多い。この2 つの「ライフスタイル」をつなぎ合わせ、人々のライフスタイルが地域コミュニティや社 会にどのようなインパクトを与え、また逆に、社会のあり方によって地域における人々の ライフスタイルがどのような影響を受けているのか、という視点に立った研究・分析を見 つけることは難しい。

2002 年頃、「ロハス(LOHAS:Lifestyles of Health and Sustainability)」という、「環 境や健康に配慮した新しいライフスタイル」が日本に紹介され、LOHAS 層と呼ばれる環 境・健康関心が高く、実際に行動に移すことができる人々が注目されるようになってきた。 「健康意識が高い」「多少値段が高くても、無農薬・有機栽培の食品や、エコロジー商品を 購入する」等の特徴を持つこのLOHAS 層は、20∼30 代の女性が中心であり、様々な業界 が多くの「ロハス関連商品」を販売している。 しかしながら、LOHAS は一時期ブームを巻き起こしたものの、現在は商品開発を行う企 業がその担い手の中心となり、LOHAS 層はその受け手として存在しているものの、将来の 地球環境や社会の持続可能なあり方を共に考え、地域社会で環境・社会問題に取り組んで いこうという、LOHAS 本来の基本的な考え方を広める大きな流れまでには発展していない。 ここでも、「ライフスタイル」における「(消費)行動」と「生き方」という二つの面が、 個別に捉えられている現象が見られると考えられる。 本調査の目的は、地域社会の活性化と、人々のライフスタイルとの関係のメカニズムを 探ることであり、上記の二つの面のどちらが欠けても不十分である。そこで本章では、ラ イフスタイルを形成するものを考察し、次に、ライフスタイルに関する従来の統計資料か ら、「働き方」・「時間の使い方」に特に注目することによって、志向するライフスタイルと 現実とのギャップがあることを確認し、続けてライフスタイルの様々な場面における ギャップを考察する。まとめとして、これらのギャップを埋め、地域社会において人々が

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3−2:ライフスタイルを形成するもの

前項で、ライフスタイルには二つ の面があると述べたが、もう一つ深 く掘り下げると、「志向」・「嗜好」・「環 境」・「行動」の4 つの面で構成され るのではないかと考えられる。 a「志向」とは、ある人が、どのよ うな事柄・社会問題に関心を持って いるのか、ということである。「環境 に優しい暮らしを送りたい」、「安心 して子育てができる社会が欲しい」、「もっとお金持ちになりたい」など、人はそれぞれ個 別の関心分野を持っている。 この関心分野は、何も無いところから、本人の素地だけによって生み出されるものでは ない。本人が生まれ、育った家庭や地域社会、またその時代の流行など、様々な社会条件 により形成されるものである。 b「嗜好」は、「何に喜びを感じるのか」である。「環境に優しい暮らしを送りたいが、自 動車は手放せない」、「働きながら子育てをしたいが、親の助けは借りたくない・借りられ ない」など、志向するライフスタイルはあっても、実際にそれを行う上での嗜好が存在す る。これも、様々な社会条件により左右されるものである。 いわゆる「ロハスブーム」は、「志向」と「嗜好」とのギャップに上手く入り込んだライ フスタイルを提唱したのではないかと考えられる。環境には優しくしたいが、現実の便利 な生活は手放し難いと考えていた人々に、「自分自身の心地よさは捨てなくて良い」と、免 罪符を与えたのではないか。しかしながら結果として、積極的に環境問題を解決していこ うという社会的運動までには発展しなかった。 c「環境」は、実際に本人を取り巻く社会的条件や制約である。目指すライフスタイルが あり、自分が喜ぶ方法を知っていても、人々を取り巻く環境は性別・年代・場所・時代に よって様々に変化する。環境は、ただそこに漠然と存在しているのではなく、本人の「志 向」と「嗜好」を叶えるために、目的を持って努力し、自ら整えることができる場合もあ るであろうし、本人・家族・地域社会に起こる突発的な事故や病気によって、本人の希望 に関わらず厳しくなる場合もある。 d 行動とは、「実際に何を消費し、どのように暮らすのか」、ということである。実際に 暮らしを展開するためには、自分の志向・嗜好を踏まえつつも、環境と照らし合わせ、様々

ライフスタイルを構成する4つの要素

a 志向:何に関心があるのか。 b 嗜好:何に喜びを感じるのか。 c 環境:社会的条件・制約 d 行動:実際に何を消費し、どのように暮ら すのか。

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3−3:幸福の構造とライフスタイル

前述の4 つの要素は、「a 志向」が始まりで「d 行動」がゴール、という一方方向のもの ではない。a → d → a と、常に循環し、またはお互いに影響を及ぼしていると考えられる。 行動することで生まれる新たな「志向」や「嗜好」が、高次、もしくは全く違った「環境」 を生み出し、今までのライフスタイルでは思いもよらなかった「行動」につながることも あるだろう。 ここでは、この循環を人々が感じる「幸福の構造」とする。a∼d の領域を形作るものは 人それぞれに異なるものであり、また地域や国によっても異なるものである。しかし、こ の循環の輪が適切に回っていると、「満足が得られるライフスタイルを送っている」と感じ られる、幸福感の高い状態と言えるのではないか。 この輪を適切に循環させるためには、ライフスタイルに対する希望(a&b)と、実際の 行動間にある「環境」を整えることが大切である。この環境とは、単に社会的な情勢だけ ではない。同じような困難な状況に置かれても、自力で乗り越えられる人と、助けを必要 とする人もいる。前者のような人々を増やすための人材育成、また、後者のための援助シ ステムづくり、または困難な状況自体の解消など、この分野において政府や行政、地域の 力は多いに期待されるとことである。 特に、本調査の目的である「地域再生」に目を向けた時、個々人によるライフスタイル の適切な循環が、地域社会の発展につながることが望まれる。様々な援助の方法が、個人 の能力のみに特化したものではなく、地域社会と人々の暮らしとの関係をつなぎ直すきっ かけとなるようにすることが必要なのではないだろうか。

a 志向

b 嗜好

c 環境

d 行動

幸福の構造

政府の役割

ライフスタイ

ルに対する

満足感・達成感

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3−4:仕事に対する意識・時間の使い方から見るライフスタイル考察

∼統計資料から∼

具体的な個々のライフスタイルを考察しようとすると、育った環境、住む場所、住宅の 形態、仕事の場所、仕事の種類、性別、ライフステージ、消費傾向等、様々な要素が入り 込む。今回の調査でこれらを網羅し、日本人のライフスタイルそのものを詳細に分析する ことは難しいため、今回はライフスタイルに対する考え方や時間の使い方に焦点を絞り、 統計資料を見てみたい。 a ライフスタイルに対する意識 個人と社会との関係性が変化している、と言われている。かつて、「住む場所」と「働く 場所」が同じ地域の中にあり、日々の暮らしの活動範囲が比較的狭かった時代には、自治 会・町内会などの「地縁」により人々がつながり、地域社会を形成していた。しかし現在、 多くの人々がサービス業にて生計を立てるようになり、「住む場所」から「働く場所」へと 通勤するようになった。昼間の多くの時間を「働く場所」で過ごすため、近所の商店や人々 とのつながりは次第に薄れてきた。従来の人と「地域社会」との関係性が変化している中、 人々が社会や個人の暮らし方についてどのような意識を持っているかについては、例えば 下記のような統計により表されている。 例1:「社会志向か個人志向か」(図3−1) (『社会意識に関する世論調査』内閣府、2007 年 1 月実施) 2007 年 1 月の調査では、「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」と考える「社 会志向」の人々の割合は51.0%で、「個人の生活の充実をもっと重視すべきだ」と考え る人々の割合(32.9%)を上回る。

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図3−1 社会志向か個人志向か 資料:「社会意識に関する世論調査」(内閣府 2007 年 1 月) 注)社会志向は「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」、個人志向は、「個人生活の充 実をもっと重視すべきだ」との選択肢。 例2:「日本人の暮らし方」(図3−2)(『国民性の研究』統計数理研究所、2003 年実施) 過去 50 年の暮らし方に対する意識の変化をみると、「金や名誉を考えずに、自分の 趣味にあった暮らし方をする」や「のんきにくよくよしないで暮らす」といったマイ ペース型の暮らし方を指向する傾向が強くなっている。 図3−2 日本人の暮らし方

(24)

例3:「これからの生活の力点の推移−高まる余暇生活への志向」(図3−3) (『レジャー白書』財団法人社会経済生産性本部、2006 年) 過去25 年程度の、生活の力点をどこに置くかということに関する意識の推移をみる と、「レジャー・余暇生活」が30%代という高い推移を示している一方、過去 10 年は 「食生活」の意識が高くなってきており、この背景には、食の安全・安心に対する意 識の高まりや、「食育」などを通した食文化への意識の変化が考えられる。 図3−3 これからの生活の力点の推移−高まる余暇生活への志向 上記の例からは、地域社会へも目を向けるべきであると感じつつ、自分自身の「ライフ スタイル」を確立したいという、「社会」対「個人」という二者択一ではない、暮らし方へ の願望が読み取れる。一方社会全体に目を向けても、NPO 数の増加やボランティア活動に 関わる人々の増加は著しく、人々のライフスタイルと地域社会とのつながりは改めて見直 されているのではないだろうか。 b 仕事・余暇に対する意識 自分なりのライフスタイルを確立する上で、「働き方」は非常に重要な要素である。近年、 「ライフ・ワークバランス」という言葉が様々な場面で取り上げられるようになってきて いる。「ライフ・ワークバランス」とは、「仕事と私生活をバランスよく両立させること」((株) ワーク・ライフバランス HP より)である。かつての日本では、特に男性の場合、一度仕 事を持てば、会社や事業の発展に生活の中心を置くよう期待されてきた。しかし一方で、 長時間労働やストレスによる過労死が社会問題化し、また、働く女性が増えることにより 従来の「働き方」に対する見直しが社会で必要とされてきている。

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ている。人々が家庭生活を見直すことによって、家庭生活と地域社会との関係性を再認識 し、様々な世代が男女問わず、地域活動に参加することが地域の再生につながるであろう と考えられる。 ここで実際の働き方や余暇時間に関する統計を見てみると、下記のようなものが挙げら れる。 例1:「仕事と余暇のどちらを重視するか」(図3−4) (『レジャー白書 2006』、財団法人社会生産性本部 2006 年) 「余暇重視派」(「仕事より余暇の中に生きがいを求める」+「仕事は要領よくか たづけ、できるだけ余暇を楽しむ」)が「仕事重視派」(「余暇も時には楽しむが仕 事の方に力を入れる」+「仕事に生きがいを求めて全力を傾ける」)よりも上回っ ているものの、その差は34.3%対 33.6%と、ほぼ拮抗している。 図3−4 仕事と余暇のどちらを重視するか 例2:「余暇時間への希望」(図3−5) (『自由時間と観光に関する世論調査』、内閣府 2004 年 8 月) 余暇時間への希望については、量として「もっと欲しい」と考える人の割合が1988

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例3:「現在の余暇活動に満足かどうかと満足していない理由」(図3−6)(同) 余暇活動への満足感については、「満足していない」とする人の割合が 45.5%、 「満足している」とする人の割合が45.7%となっている。

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例3:「収入と自由時間についての考え方」(図3−7) (『国民生活に関する世論調査』、内閣府 2006 年 10 月) 「収入をもっと増やしたい」人の割合(43.9%)が、「自由時間をもっと増やした い」人の割合(31.2%)よりも多い。前者の割合は平成 15 年以降、連続で減少して いたが、2006 年、約 4 ポイント上昇した一方、後者の割合も、約 7 ポイント上昇し ている。 図3−7 収入と自由時間についての考え方 例4:「従業上の地位、配偶関係、男女別平均週間就業時間」(表3−1) (『2005 年度国勢調査』、総務省 2005 年) 平均週間就業時間を男女、配偶関係別に見ると、男性は「有配偶」が「未婚」よ り2.1 時間長いのに対し、女性は「未婚」が「有配偶」より 6.6 時間長くなっている。

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表3−1 従業上の地位、配偶関係、男女別平均週間就業時間(平成 17 年) 出典:2005 年度国勢調査(総務省、2005 年) 例5:「平成18 年賃金事情等総合調査」(厚生労働省 2006 年) 調査対象月(平成18 年 6 月)の 1 ヶ月間において、週 40 時間を超える労働が 100 時間を超えた労働者が「いた」と回答した企業の数は、集計企業235 社の内、約3 分1に当たる78 社であった。 例6:「夫婦の仕事・家事時間」(表3−2) (『平成13 年社会生活基本調査』、総務省 2001 年) 共働き世帯における、夫婦と子どもの世帯においては、夫の家事関連時間が微 増、妻の家事関連時間は微減しているものの、妻の家事関連時間平均の約 4 時間 に対し、夫は約25 分と、差は大きい。 表3−2 夫婦の仕事・家事時間(週全体の 1 日平均)

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例7:「自由時間の使い方」(表3−3)(同) 「休養等自由時間活動」(「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」及び「休養・くつろぎ」) は男性(15 歳以上)で 1 日あたり 3.58 時間、女性(15 歳以上)で 3.48 時間となり、 「積極的自由活動時間」(「学習・研究」・「趣味・娯楽」・「スポーツ」・「ボランティ ア活動・社会参加活動」)は男性で1.18 時間、女性で 0.59 時間となっている。また、 「ボランティア活動・社会参加活動」の時間は、男女共に1 日あたり 5 分以内。 表3−3 自由時間の使い方(1 日あたり) 例8:「年齢階級別積極的自由時間活動の時間の推移」(表3−4)(同) 「積極的自由活動時間」を年齢階級別にみると、30 歳代前半から 50 歳代が 50 分 台と短くなっている。 表3−4 年齢階級別積極的自由時間活動の時間の推移(1 日あたり)

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c 志向と実際の暮らしのギャップ これまでの働き方を見直し、男女共に家庭生活・地域生活も考慮した健やかな暮らし方 を進めようとする考え方は一般的にも浸透しつつあるようだが、実際の時間の使い方・暮 らし方と比較すると、そのギャップは未だ大きいと言え、前述の「志向」と「現実」を表 す統計のほかに、このギャップを示す統計としては下記が挙げられる。 例1:「ワーク・ライフ・バランスの希望と現実」(図3−8) (『少子化と男女共同参画に関する意識調査』、内閣府 2006 年) 既婚者は、「仕事・家事・プライベートを両立」することを希望する人が男女共 に多いが、現実としては、女性は「仕事と家事優先」、男性では「仕事優先」と なっている人が多い。 図3−8 ワーク・ライフ・バランスの希望と現実

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例2:「職場環境(子育てしやすい、女性登用)と仕事の満足度」(図3−9)(同) 職場が「子育てしている人が働きやすい」「女性登用が進んでいる」環境である 方が、女性のみならず、既婚男性や独身男女も「仕事の満足度」が高い。

(33)

例3:「ワーク・ライフ・バランス実現度と仕事への意欲」(図3−10)(同) 既婚の男女ともに、ワーク・ライフ・バランスが図られていると考える人の方が 仕事への意識が高い傾向にある。 図3−10 ワーク・ライフ・バランス実現度と仕事への意欲 注)「仕事への意欲」は、「あなたは、今の仕事に目的意識を持って積極的に取り組んでいますか」への回答。 以上のような統計資料から見ても、多くの人が「志向するライフスタイル」と現実との 間にギャップを感じていると考えられる。幸福の構造におけるライフスタイルの輪を適切 に循環させるには、これらのギャップを乗り越えなければならない。そこで次に、ライフ スタイルにおける様々なギャップをもう少し掘り下げて考察する。

3−5:ライフスタイルにおける様々なギャップ

自分らしい、生き生きとしたライフスタイルを送るには、それを望む様々な場面・分野 において、適切な情報・資源・サポートに適切にアクセスできることが必要である。しか しながら、現実には様々なギャップが存在する。 a 様々なライフスタイルと『自分』とのギャップ 高度経済成長時代は、将来やライフスタイルに対する夢・希望には、一定の方向性が あったと考えられる(賃金が上がる、電化製品を手に入れる、等)。しかし現在、価値観は 多様化し、「自分らしさ」を求める傾向が高くなっている。しかし、これは自由を与えられ た一方で、親世代にロールモデルを期待できない以上、メニューが全く与えられない状態

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職や家庭生活、地域とのつながりなど、様々な場面を考慮した上で、「今の自分」と「な りたい自分」のギャップを埋めることが必要である。 b 家庭生活におけるギャップ 統計によると、「家庭のコト」への関わり方には男性と女性とでは差がある。また、地域 で余裕をもった子育てをしたいという希望と、実際の子育て支援の意識とのギャップも存 在する。男女共同参画や子育て支援の視点から、これら家庭生活を取り巻くギャップを埋 める必要がある。 c 食におけるギャップ 地方における生産者と、都市の消費者との間には、食材に対する意識のギャップが存在 する。消費者としても、できれば安全でおいしい食材を手に入れたいと考えているが、今 の段階では、無農薬や有機農法等で作られた食材は高価であることが多く、生産者が努力 しても報われない場合もある。 また観光地においても、地元の人々が本当に美味しいと思う食材、食べ方よりも、外部 から見た目新しさが注目され、また観光施設の食に対する意識の低さなどから地元の食材 が有効に活用されていないこともある。 d 職におけるギャップ 自分の志向・嗜好をどのように職に活かし、自分らしいライフスタイルを送るのが良い のか、自分自身との迷う若者は多い。様々な職に触れ、自分の志向と能力を試す機会が十 分に与えられることが必要である。 また、職と家庭生活とのギャップを埋め、さらに両者を充実させるために融合させると いう、暮らし方・働き方を見直す「ワーク・ライフ・バランス」の仕組みを展開すること が必要である。 e 住におけるギャップ 自分らしいライフスタイルを追求する上で、どこの地域で住まうのかは重要なポイント である。しかし現在、住環境選びに関するコストは高く、本当にその地域の暮らしが自分 に合うのか、試せる機会は少ない。 また、特に職の場所が住む地域から離れていることが多くなった現在、既存の地域コミュ ニティのあり方と、そのようなライフスタイルを送る人々との地域意識へのギャップが存 在する。

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f 学びにおけるギャップ 学校教育と、実際の社会との間にギャップが存在する。学校は、基礎学力の鍛錬だけで なく、その学習を通して社会とのつながりもまた勉強する場であり、保護者や地域の大人 達によって見守られることが望ましい。 また、地域の人々が、地域の実情を知らない、適切な情報・資源・サポートにアクセス できないという、人々と地域の間のギャップという問題がある。情報が適切に地域を循環 する仕組みづくりが必要である。

3−6:ライフスタイルのギャップを埋めることが地域再生へつながる

人々が働き方を見直し、家庭生活を充実させたいと考えた時、家庭生活は地域社会との 適切な関係無しには成り立たないことに気づくであろう。それは日常のゴミ出しの場面一 つにおいても明白である。しかし、地域に関心を持つ全ての人々が家族や地域との適切な 関係を作れているとは限らない。地元とは離れた地域での長時間労働、それに伴う長時間 通勤、また地域コミュニティとのアクセスが無い等、地域とつながりたいと考える人々の 妨げとなるギャップは多い。 多くの人々が「自分らしい」ライフスタイルを望みつつ、現実とのギャップを感じてい る。本調査では、個々の能力を高めたり、社会的阻害要因を取り除いたりして環境を整え ることでこれらのギャップを埋め、人々がそれぞれに持つ「ライフスタイルの輪」を適切 に循環させることができ、結果として人々が住む地域社会が活性化していくのではないか と考える。 近年の傾向として、独りよがりのライフスタイルを求めるのではなく、地域社会に関心 を持ち、趣味活動、NPO・ボランティア活動、コミュニティビジネスにも積極的に関わる 人々も確実に増加している。従来の自治会などに代表される「地縁」から、趣味や問題意 識からつながる「好縁」や「志縁」の輪が広がり、地域を再生させる原動力となっている。 また、様々な分野における技術の発展、イノベーションも、人々のライフスタイルに深 く関わるようになってきており、それらの影響も見逃すことはできない。インターネット を始めとするICT(Information and Communication Technology)の普及は、GREE、mixi に代表される SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を通して新しいコミュニティ を作っている。実社会で既につながりのある人々が、いつでもお互いに連絡が取れるよう バーチャルコミュニティを作る一方、芸能人やスポーツ、時事問題、出身校など、様々な キーワードによってバーチャルなコミュニティが発達し、実社会でのつながりをより深め たり、時には地域社会に貢献する市民グループに育ったりすることもある。このような

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家庭生活を支える技術革新としては、「生活ロボット」の普及も注目すべき流れである。 少子・高齢化による家族構成の変化に対応し、家事支援(調理・片付け、掃除、育児、留 守番等)だけでなく、身体障害者や寝たきり高齢者の日常生活の介助・看護支援や、身体 障害者の社会参加支援を行う「生活ロボット」などの普及がかなり急速に実現する可能性 がある。このような生活ロボットは、志向するライフスタイルが育児や介護等の生活サー ビス供給面での人手不足によって実現できない場合、その人手不足をロボットが代替する ことにより、理想と現実のギャップを埋める働きをしつつあると言える。そして、更に高 度化した生活ロボットの普及は、産業面のみならず、生活面でも「人間とロボットの共存」 をもたらし、まったく新しいライフスタイルが展望できるようになるかも知れない。 このような社会の流行、技術革新と、個人のライフスタイルにおけるギャップを埋める 環境づくりとの適切な連携により、地域社会それぞれの環境や歴史、文化などに根付いた 地域再生が進められるのではないだろうか。

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第4章 新しいライフスタイルと地域再生のメカニズム

4−1:新しいライフスタイルへの期待と現実のギャップ

3−6で、ライフスタイルのギャップを埋める活動が地域再生へつながることを指摘し た。 つまり、新しいライフスタイルへの期待と現実のギャップが多くの分野で生じているが、 そのギャップを埋めようとする活動がそれぞれの分野を活性化し、地域再生をもたらすの である。 新しいライフスタイルへの期待とギャップは様々な分野で生じているが、2−5では次 のような分野を代表的なものとして掲げている。 (1) 子育て支援:余裕をもった子育てをしたいという期待(希望)と実際の子育て支援の意 識とのギャップ (2) 食の安全 :生産者と消費者の食材に対する意識のギャップ (3) ワーク・ライフ・バランス:職場と家庭生活のバランスに関する期待と現実のギャップ (4) 二地域居住等の居住形態:住みたい居住形態に関する期待と現実のギャップ (5) 生涯学習 :学校教育や生涯教育に関する期待と現実のギャップ そこで生活分野ごとのギャップが生じているとしても、ギャップを埋める活動が起こら なければ地域の再生に結びつかない。そして、ギャップを埋める活動の担い手としては、 a.NPO・ボランティア活動 b.ビジネスとの連携 c.インターネットの活用 などを掲げることができる(図4−1) 上述の(1)∼(5)は主として公的分野であり、それらの分野における活動は PPP(Public Private Partnership)の範疇に属するということができる。

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図4−1 ライフスタイルと地域再生のメカニズム そして、ギャップを埋める活動の重要な担い手である、a.NPO・ボランティア活動は、 最も公共性の強い分野に民間の創意・工夫を注入して、能率を高めようとするもので、近 年急速に拡大している。特に、仲間で資金と労働力を持ち寄り、参加者全員が経営者とし て働くワーカーズ・コレクティブが注目を浴びている(次頁参照)。 また、b.ビジネスとの連携は、公共事業が持続的に減少するなかで、PFI、PPP などと して、急成長している。 さらに、c.インターネットの活用は、ギャップを埋める活動の担い手として、新たな 次元の可能性を開きつつある。3−6で述べたように、インターネットをはじめとするICT の普及は、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を通じて、趣味や時事問題など に、共通の関心を持つバーチャルで新しいコミュニティを作っている。そして、このよう な動向が、どの程度の強い結びつきをもったコミュニティを形成し、また、地域再生にど の程度の強いインパクトを与えることになるのか、今後の興味深い観察の対象となろう。

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ワーカーズ・コレクティブは、地域で暮らす人たちが、より暮らしやすい社会の実現の ために、地域に必要とされるモノやサービスを事業化し、共通の目的を持ったメンバーが、 出資、労働、組織運営など経営のすべてに関わり、責任を持つ「雇われない働き方」とし て注目を浴びている。 業種別では「家事・介護生活支援」が最も多く、「子育て支援・託児・塾」、『生協業 務委託』のほか、「弁当・食事サービス」、「リサイクル」など、生活に不可欠な多岐に わたる分野において事業体が存在し、地域の多様なニーズに応えると共に、働く意志のあ る人は誰もが、個々に持つ生活技術と経験を活かしながら、自分のライフスタイルにあっ た働き方ができる点が大きな特徴となっている(図4−2)。 1982 年に神奈川で最初のワーカーズ・コレクティブが設立され、現在では北海道、関東、 近畿、九州などの地域ごとの連絡協議会や全国組織も活動しており、各地に広まっている (図4−3)。 図4−2 ワーカーズ・コレクティブ業種別団体数 (『平成 18 年版国民生活白書』、内閣府 2006 年 6 月) 図4−3 ワーカーズ・コレクティブの広がり (生活クラブ事業連合生活協同組合連合会資料)

ライフスタイルを尊重しながら地域の共益を

追求する働き方『ワーカーズ・コレクティブ』

左目盛 右目盛

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4−2:ライフスタイルと共益の形成・追求

ライフスタイルの期待と現実のギャップが存在していても、そのギャップを埋めること が、地域やコミュニティの共通の利益(共益)として認識されなければ、ギャップを埋め る活動は発生しない。例えば、子育て支援について地域独自の補助金を支出すべしという 期待があったとしも、それが地域住民の共通の利益(共益)として位置づけられなければ 実行されないであろう。 つまり、共益が形成され、追求されることが、ライフスタイルの期待と現実のギャップ を埋める活動が、実際に起こるかどうかの鍵を握っていると言える(図4−1)。 また、非常に多様化した価値観の社会では、共益(共通の利益または共通の目的)はな かなか見出しにくいという見方もあるが、いかに価値観が多様化しても基礎的生活権、生 存権に係わる事項(例えば、子供の保育、食の安全など)について共益を規定することは 十分可能と考えられる。

4−3:生活の場としての地域と地域再生 ∼場の形成とデザイン∼

中期的未来においては、人口の集中する都市圏においても高齢化と人口減少が訪れ、高 齢者の増加によって、地域で過ごす時間と人口が増加する。その反面、地方公共団体の財 政の縮減に伴う公共サービスの縮減や多様化するニーズへの対応の限界から、身近な生活 の豊かさの実現は益々重要な課題となってくる。 第 2 章で見たように、人口減少、少子高齢化によって、地域の維持が困難となる自治体 が増加しつつある。その上、産業構造や働き方の変化、住まい方に関する意識の変化、可 処分時間の増加、交通機関の発達等、様々な理由により、人口の流動化が進み、規模の大 小にかかわらず、人口が流入する地域と流出する地域が二極化しており、地域の創意と工 夫、努力などにより、明暗が分かれる。 生活者重視の時代では、生活しやすく魅力ある地域が選ばれるようになる。多くの人か ら「住むに値しない」と判断された地域は消滅する。地域を持続的に発展させるためには、 住んでいる全ての人々が、日常生活に困ることなく安心して暮らせ、住みやすいだけでな く、住んでいてよかったと積極的に評価できる充実した生活の場であることが求められて いる。 しかしながら、生活しやすく魅力ある地域の実現は、地方公共団体が単体で行うことは 難しく、個々の生活者が望む生活の豊かさを実現するためには、生活者自らが「新たな公 共」の担い手として生活環境を改善・構築することが必要である。事実、ワーカーズ・コ

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どのような「場」で進められるかが課題である。 いずれにせよコミュニケーションの「場」が必要であり、職場と地域コミュニティとい う 2 つのコンベンショナルな交流の「場」も軽視するべきでない。また、メーリングリス トやSNS のような ICT に基づくバーチャルな「場」の重要性はますます高くなっていくで あろう(図4−1)。 「場」がよく整備されて、うまくデザインされている場合には、共益を見出し、これを 追求しやすくなる。また、ギャップを埋めるのにも効果的だ。 うまくデザインされた「場」の例として愛媛県旧五十崎町の「よもだ塾」を紹介してお こう。 【「場」のデザインの優良事例∼「よもだ塾」(愛媛県旧五十崎町)】 旧五十崎町は典型的な中山間地で、田村明氏の著書『まちづくりの実践』(岩波新書、1999 年)によれば、近隣の「大洲や内子に比べると、五十崎には、とくに取り立てて見るべき ものはない」「山間にある何の変哲もない」人口6 千人弱の町である。 「よもだ塾」は、東京で農業や醸造を勉強して帰郷した亀岡徹氏の発意により、1983 年 頃に誕生した。地域にはそれまでも様々な会合はあったが、「いつ始まったのかも、何が決 まったのかも分からないままに延々と続く」「新しいことは何も起きそうにない」マンネリ 化した集まりだった。 そこで、同氏は町をよくするためには、まちづくりを大上段に構えるのではなく、地域 の人々の気持ちを束ねる話し合いの「場」が必要と考え、自宅で塾をスタートさせた。こ の「よもだ塾」という「場」では、「情報の共有」と「感情の共有」を行いながら、有益で 実用性のある知恵を蓄積し、散在する個々の能力と知恵を引き出すことによって、様々な 地域づくりの実践を生み出し、生活の豊かさの実現に成功している。具体的には、清流小 田川の護岸工事という危機をキッカケに、小田川原っぱ日曜市、小田川映画祭、小田川音 楽祭、小田川祭り、国際水辺環境フォーラム(正式名称「スイスと五十崎・川の交流会」) の開催などを生み出し、県や国、国内大学の有識者、スイスなどとの幅広いネットワーク を構築するまでに発展し、日本の河川行政を転換させる多自然工法の導入に大きな影響を 与えるという偉業を成し遂げた。 以上のように、この「よもだ塾」では、地域の関係性をデザインしなおすことによって 新しい「場」を創出し、地域共通の期待(希望)と現実とのギャップに関する語り合いを 通じて、行動につなげ、生活の豊かさという成果(共益)に結びつけている。 では、この「よもだ塾」は、「場」のデザインにおいて、どのような特徴を持っていたの

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・本当に町をよくしたいという気持ちを持つ人が集まる機会と場を提供していた。 ・その日に集まった者が塾生という、外に開かれた柔軟な参加形式を持ち、参加者の自 発性を尊重していた。 ・序列や肩書き、義理やしがらみにとらわれず、自由な発言を尊重した緩やかな人間関 係が形成された。 ・町の問題を話題にする時は、対立を避け、生真面目になりすぎず、時間をかけながら 機運を盛り上げていた。 ・コーヒーなどを飲みつつ、冗談を交えて楽しみながらガヤガヤとやっていた。 ・何かのついでに自発的に集まり、肩肘のはらない気安さがあった。

4−4:地域再生のメカニズム

4−1から4−3まで述べてきた地域再生のメカニズムを要約すると以下の通りである。 (1) 新しいライフスタイルへの期待と現実のギャップの把握・測定 (2) 期待と現実のギャップを埋めることが、地域やコミュニティの共通の利益(共益) に適うかどうかの判定 (3) 共益の追求やギャップを埋める活動のための「場」の設定 (4) 共益の追求やギャップを埋める活動がもたらした地域再生についての評価

4−5:ギャップを埋め、地域再生を図るきっかけとしての「食」の可能性

これまで述べてきた様々なギャップの中で、現在関心が高まっていると思われるのが、 「食・食文化」に対するギャップである。本調査では、「食・食文化」に対するギャップを 埋めることが、地域再生へつながる可能性について更に掘り下げることとし、北海道およ び千葉県にてケーススタディーを行った(4−6参照)。 (1)地域の歴史・文化を表す「食・食文化」

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いる。これは、地球環境の悪化や、食品関連企業の不祥事などを背景に、健やかな食生活 を通して健やかな生活を送りたいという人々の欲求が表れているのではないかと考えられ る。 「食べること」は人間にとって、生命を維持するための基本的な欲求の一つである。し かし人間社会は、この「食べること」に様々な意味を加え、地域ごとの様々な「食文化」 を形成してきた。「食・食文化」は、地域固有の自然環境や歴史と密接に結びつき、地域の 魅力を構成する重要な要素であると言える。 地域における「食・食文化」を見る上で大切なのは、(i)食材、(ii)誰とどのように食べら れているのか、(iii)誰とどのように作られているのか、の 3 点である。 「食材」については、日本の豊かな自然環境や南北に伸びる地勢等を考えると、事例の 数は無限である。正月のおせち、春の七草など、季節の行事に合わせた食事、子どもの誕 生や成長、または結婚式などの人生の節目に沿った食事、更には日頃家庭でよく使われて いる食材・料理方法など、これらは地域ごとに様々な特色を出しており、毎日のようにメ ディアが取り上げている。 「誰とどのように食べられているのか」は、地域の人々のコミュニケーションのあり方 を見る上で注目すべき点である。日本にも昔から「同じ釜の飯を食べた仲」という表現が あるように、「共に食す」という行為は、その場にいる人々の間に深いコミュニケーション を促す。また、ある食卓を囲んで、同席すべき人間、同席すべきではない人間などを決め たルールが、家族や親族、コミュニティ内の人間関係を反映する場合もあり、歴史や文化 に強く支えられていると言える。現在国内では、子どもの「孤食」が問題視されている。 これは、一人で食事をする子ども達への健康の問題だけでなく、家族との関係性にまで踏 み込む、重要な問題であろう。 「誰とどのように作られているのか」も、やはりコミュニティ内の人間関係を表す視点 である。家族と作るのか、複数の家庭が作るのか、親戚との関係は等々、自分たちの暮ら しの要である生産活動をどのように維持していくのかは、地域社会の基盤である。 しかしながら、日本の経済成長に合わせて農業や漁業に従事する人々の数が減る中で、 「食」を産み出す人々を取り巻く環境は大きく変化している。作りながら食べるというラ イフスタイルが少数派となり、人々は「生産者」と「消費者」に分けられるようになった。 そして前者に比べ、後者の人数は遥かに多い上、地域の都市化に伴って両者の「食」への 意識の距離は遠くなり、様々な場面でギャップが生じたのである。 (2)食におけるギャップへの取り組み

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国内外で生産された豊富な食物が国中を出回り、餓死する人間はほとんどいないと言われ るようになったが、その裏では多くの食材が廃棄されている。このような日本において、 地域の「食・食文化」を見直し、地域社会の「共益」とし、「場」づくりのためのきっかけ として活用することは、地域における自然環境や人々のコミュニケーションの改善につな がると考えられる。 一方、人々の「食・食文化」に対する関心が高まっているのは事実である。地球環境問 題を始め、食品業界の不祥事、BSE 問題など、多くの課題がマスコミを賑わせ、人々の食 生活と健康へ目を向けさせており、「食育」「地産地消」「スローフード」「有機栽培」「LOHAS」 など、様々な視点から取り組みが行われるようになってきている。 特に食育は、近年政府や自治体を中心に積極的に推進されている取り組みである。「食育」 とは、「国民一人一人が、生涯を通じた健全な食生活の実現、食文化の継承、健康の確保等 が図れるよう、自らの食について考える習慣や食に関する様々な知識と食を選択する判断 力を楽しく身に付けるための学習等の取組み」((財)食生活情報サービスセンターHP より) であり、学校教育の場だけでなく、様々な現場体験を通して進められている。平成17 年に は食育基本法が施行され、翌年食育推進会議において食育推進基本計画が決定されている。 これらの取り組みで重要視されているのは、生産者と消費者との様々な距離を縮めるこ とである。どのように食物が作られているのかを消費者が知るだけでなく、生産者と消費 者、それぞれの立場の「食」に対する思いを共有すること、両者が協力して作物を育てる ことなどから、お互いのライフスタイルを見詰めなおすという作業が全国各地で行われて いる。 更に、地域再生のきっかけとして「食・食文化」が有効な点として挙げられることは、 作るプロセス、また食するプロセスの両方において「繰り返しに耐えうる」ということで ある。食材の生産は自然環境に左右され、同じ食材を育てるにしても、様々な試行錯誤を 繰り返し、知識・経験を積み重ねることが重要である。地域の人々が協力し、そのような プロセスを経ることによって、より深いコミュニケーションが生まれ、地域再生の力とな るのではないか。 また「食」は消え物で、食べれば無くなってしまう。しかし食材そのものの「おいし かった」という記憶、気の置けない仲間との楽しいコミュニケーションは記憶として残り、 「また食べたい」という欲求につながる。確かに地域再生の取り組みは、風景や施設、商 品を活用したものであっても、地域内外の人々に繰り返し触れてもらうことが重要である。 しかし、いつまでも忘れられない「おふくろの味」があるように、人々の感情に直接訴え る力を「食」は持っているのである。

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4−6:ケーススタディー(北海道、千葉県の「食」を中心に)

「食」を中心に大きなポテンシャルを持つ北海道と千葉を取り上げる。地域資源(モノ・ ヒト・コト)をどのように活用しているのか、また現在の活動に至った経緯における「場」 の役割やキッカケについて考察する。 両地域を端的に書くと次のような特徴を持っている。 北海道…農業産出額第1 位(平成 16 年)。食材が豊富で、観光地として様々な人々を惹 きつけるポテンシャルが高い。豊富な資源を有効活用できずに景気の回復が遅 れており、地域内外の流通と雇用創出による自律した地域再生のあり方が課題。 千葉県…農業産出額第2 位(平成 16 年)。全国 1∼2 位の産出額を誇る食材が多い。大き な市場に隣接し、都市型・農村型ライフスタイルが混在する。流通や人的交流 の面で高いポテンシャルを持つが、それを持続的に展開させる文化的つながり が薄い。 共にエリアが広域にわたるため、ここでは両地域の委員から推奨された事例に絞って説 明する。 (1)北海道 砂川スイートロード(砂川市) 【砂川市の概要】 札幌と旭川の中間に位置し、豊かな緑と水に囲まれた商工農のバランスがとれた人口 2 万人弱の町。市街中心部は平地地帯で南北に細長く展開し、中央には基幹道ともいうべき 国道12 号のほか、JR 函館本線や道央自動車道がそれぞれ南北に伸びる。昭和 59 年に環境 庁から道内初のアメニティ・タウン(快適環境都市)の指定を受け、市民一人あたりの都 市公園面積192 平方メートル(平成 19 年 3 月現在)は日本一を誇る。 かつては商業と交通の要衝として栄え、大手企業の肥料工場や周辺地域の炭鉱労働者が 大勢暮らしていたが、肥料工場の経営悪化や鉱山の閉山等の影響により、4 万人以上いた昭 和20 年代をピークに現在も減り続け、厳しい財政事情の中、現状を打開する地域再生を模 索している。

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くから愛されており、製菓産業は多くの労 働者を支えてきた。鉱山の閉山後も、お菓 子好きの地元住民からの支持は厚く、菓子 業を行う企業は市内に9 社 10 店舗(うち 半数が個店)あり、全国的な知名度やシェ アを持つ店も多い。どの店もそれぞれの特 性を活かしながら腕に磨きをかけており、 商品の質は極めて高い。また、小さな市に 9 社も存在するのは、過密なように見えて 仲の悪さが心配されるが、ライバル心はあっても、それをプラスに捉えて互いが切磋琢磨 しており、菓子組合を結成して協同事業を続けながら、緩やかな良い関係を継続している。 協同事業として特筆すべきは、約20 年にわたる「ケーキづくり講習会」を通じて市民との 交流を続けており、地域貢献に力を入れてきたことだ。この積み重ねが市民や行政との連 携を円滑に進める上で、大きな役割を果たしている。 【すながわスイートロードの誕生】 菓子によるまちづくりというと伊勢のお かげ横丁や小布施などが想起されるが、これ までは中核となる企業の旗振りで進められ たケースがほとんどだ。ところが、砂川の場 合は、菓子組合からの働きかけではなく、衰 退する地域に危機感を抱いた市民から湧き 上がったことに注目したい。このキッカケと なったのが平成12 年に策定された市の第 5 期総合計画である。これまで行政主体で策定 してきた総合計画を、第 5 期に初めて市民の声を取り入れている。これに勢いを得た行政 は、「すながわスイートロード構想」を立上げ、市と地元菓子組合、商工会議所を始めとす る関連団体、民間の有識者で「すながわスイートロード協議会」を結成した。市は事務局 として事務作業のサポートをすることに徹し、運営の主体は民間が担っている。2 年間の検 討の末、平成15 年に事業が動き出し、現在では PR とサービスの向上を含む 4 つの事業(a 体験型事業、b ディスプレイ事業、c 商業界レベルアップ事業、dPR 事業)を軸に展開して いる。このうち、市民参加型の交流を深める事業が2 種(a と b)、関係者の意識を高める 事業が1 種(c)あることも重要なポイントとなっている。また、事務局には菓子組合が入

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【事業の評価】 レベルの高さとPR 事業の効果が功を奏し、多くのメディアで取り上げられ、消費者の反 響も大きかった。これにより、旅行会社によるバスツアーも誕生し、これまで通過交通の 多かった同市を目指す来訪者が増加している。また、この盛り上がりを契機に、市民によ る応援団(20∼70 代の女性 88 人)が立ち上がった。一時的な流行に終わらせないために も、地域内コミュニケーションを密にして、生活者と活動主体とのギャップを解消する努 力が今後も必要となるであろう。 【「場」を盛り上げる工夫∼「白いプリン大作戦!」】 じゃらん北海道の編集長を務めるヒロ中田氏は、道内で低迷する牛乳消費を向上させる ため、「明るい牛乳消費大作戦!」「職場で牛乳×1 日 1 杯運動」を推進している。次なる一 手として、牛乳の加工品(乳製品)による消費拡大を目指し、「白いプリン大作戦!」を 行った。このキャンペーンは、北海道の地域資源を活用した条件付の商品開発を自由参加 形式で展開した運動で、個店のオリジナリティを発揮と北海道発の新しい食ブランドを育 成しようというもの。 商品開発の条件は次の3 つだけ。 a 商品名は○○○の「白いプリン」とすること。 b 北海道の生乳をたっぷり使うこと。 c 北海道で生産すること。 砂川市の菓子店もこれに参加し、個々の店が 競うように創意工夫を行っている。同キャンペ ーンは自由度を尊重しつつ、個々の魅力を引き 出す牽引役として、すながわスイートロードと いう「場」を共通のテーマで上手に束ね、盛り上げることに一役かっている。自由度があ り、かつ具体的な行動を促す共通のテーマは、一度できあがった「場」を再活性化させる キッカケとして有効である。 【「場」のデザイン 成功のポイント】 ・行政や産業主導ではなく、地域の生活者である市民による発意が発端となっていること。 この勢いを殺さずに後押ししたこと。 ・テーマは老若男女が誰でも親しめるお菓子(食)であり、他地域と差別化ができ、かつ 地域の歴史(文脈)に基づいた資源であること。 ・長きにわたって市民との関係を培ってきており、市民による応援団ができあがったこと。

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・地域の魅力の向上と地場産業の発展が共通の利益として理解され、合意形成が得られた こと。 ・中核となっている菓子店は、相互に刺激しあい、身銭を投じた地域貢献と自己研鑽を続 けると共に、共通の利益に向かって連携し、相乗効果を発揮していること。 ・外部の知恵や評価を更なる発展に活かし、長期的な視野に立って継続的な改善を行う習 慣が関係者に浸透したこと。 【今後の課題】 ・リピーターの把握とその育成。 ・イメージと実態のギャップの解消。 ・市全体としての更なる魅力の増進。 ・現在行っている地元農産物のPR など、他業種への展開。 ・2007 年に完成する砂川駅直結の文化施設「砂川市地域交流センターゆう」の有効活用。

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