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新たなライフスタイル創出と地域再生のための政策展開 5−1:政策展開の目的・基本姿勢 5−1:政策展開の目的・基本姿勢

本章のタイトルは「新たなライフスタイル創出のため政策展開」であるが、「新たなライ フスタイル」を「創る」主体は、政策展開を行う政府や自治体ではなく、地域に暮らす人 それぞれであることをまず確認しておく必要がある。

従って、政策展開に求められていることは、それぞれのライフスタイルの中でギャップ を感じている人々が自ら「新しいライフスタイル」を創出し、実行できるような環境や仕 組み、きっかけを作ることである。どのようなライフスタイルが今後望ましいのかという 未来予想図や、その目標に向けたマニュアルを示すことでは決してない。

よく言われることであるが、かつて高度経済成長の時代には、「三種の神器(白黒テレビ、

冷蔵庫、洗濯機)」や「新・三種の神器(カラーテレビ、クーラー、カー)」などの製品に 代表されるような「豊かなライフスタイル」が人々の間で共通の目標の一つとなっており、

日本全国がその目標にたどり着けるよう、政府や自治体も政策を展開していた。しかしな がら、価値観が多様化し、何かのアイテムが日本に住む人々のライフスタイルを象徴する というよりも、世の中に溢れるモノや情報を自分なりに編集し、「自分のライフスタイル」

を作り上げることが期待されるようになってきている。これは、自由な発想に基づく非常 に開かれた考え方である一方、目標が見えないという点で、人々に不安をもたらす可能性 もある。

目標がはっきりしていた時には、その目標に合う情報・モノだけを集めれば十分であっ たが、人々の「個性」に基づくライフスタイルが求められたとき、どのようにしたら自分 に合うライフスタイルが見つかるのか、そして見つかったとしてもどのようにそこにたど り着けば良いのか、そしてそもそも「自分らしさ」とは一体どのようなことなのか、迷う 人も多いだろう。

  従って、環境・仕組み・きっかけづくりが政策展開の目的ではあるが、その展開の方法 にも注意を払う必要がある。人々がどのようなギャップに悩んでいるのかを時間をかけて 適切に明らかにし、様々なライフスタイルモデルをできるだけ多く提示し、そのモデルに アクセス・トライする機会を提供することが求められる。その中でも、やはり「選ばされ た」という感覚よりも、自らが「選んだ」という積極的な姿勢を人々に提供するものでな ければならない。

  また、地域再生の視点からは、人々が求める様々なライフスタイルと地域社会がどのよ うにつながり、お互いの発展につながっていくのかを、地域ごとの幸福の構造に沿って示

を明らかにすることが求められている。

  地域ごとの幸福の構造とは、例えば「幸せになりたい」という人生における希望は、誰 しも持っているものであるが、その「幸せ」が「何を用いて」「どのように達成できるのか」

については、地域社会の持つ様々な要素(地理的環境、歴史、文化等)によって変化する、

ということである。都市・地方という枠組みだけでなく、例えば東京都、札幌市などの大 きな自治体の中では、区によって持つ文化や人々の考え方が異なったり、更に区の中でも 異なったりする場合があるだろう。どのレベルで枠組みを決めるかによって、幸福の構造 自体も異なってくる可能性はある。

  政府・自治体が、政策展開としてライフスタイルのメニューを提示していこうとする時、

このような地域社会が固有に持つ要素の棚卸しが必要となるが、その棚卸しの作業の中心 となるのは、その地域に住む人々であることが望ましい。様々な年齢・性別・ライフスタ イルから構成される人々のコンセンサスをとることは、行政側・地域住民側双方にとって 非常に時間と手間隙を必要とする作業であると思われる。しかしながら、地域社会への愛 着を出発点に、「何があるのか」「何が利用できるのか」、そして更には地域社会のライフス タイルの基礎となる思いの確認などを行うことができれば、それは人々がギャップに直面 した際に、それを乗り越えようとする力の一つになるのではないだろうか。

  本章では、「政策展開」を、「仕組みづくり」として提案し、政府や自治体、民間企業、

市民団体・NPO、または一個人の役割分担まで細かく述べることは行わない。ギャップを 埋めるための仕組みづくりには、それぞれの主体が重要な役割を担うことになろうが、そ の役割分担・責任の置き方を決めるは、やはり地域の人々が自らの役割について考え、お 互いにコンセンサスを図る必要があるからである。

  提案される政策展開には、不十分な点もあると思われるが、これを一つのヒントとして、

地域において具体的な政策展開がなされることが期待される。

5−2:ケーススタディーからの考察 

本調査で行った千葉県と北海道のケーススタディーの結果は、前章で詳しく取りまとめ ているため、ここでは政策提言の際に鍵となる点について簡単に確認する。

a 千葉県「枇杷倶楽部(道の駅  とみうら)」

  本事例の特徴は、既に地域の人々によって支えられてきた取り組みが、行政の政策を新 たな燃料として花開き、再度地域の人々の新たな力となったことである。

  「道の駅  とみうら」の事業が人々に紹介される前から、地域の人々は「まち歩き」な

たところ、タイミング良く「道の駅」を開設する行政の取り組みが地域にもたらされたの である。

  重要な点は、この行政の取り組みが地域にもたらされた際、独自の判断により事業が進 むのではなく、地域住民と適切に連携がとられたということ、また「枇杷倶楽部」は地域 活動の拠点とされているものの、活動のフィールドは地域の現場(まち、農家、民宿など)

そのものにあり、既存の施設を大切にするという認識の下にまちづくりが企画・運営され ていることである。

  結果として、現在の従業員の多くが、道の駅以前から地域の取り組みに参加する経験を 持ち、また、地域住民の約 6 割が、何らかの形で枇杷倶楽部の運営に携わっている。枇杷 倶楽部が建設されて 14 年が経過したが、「『枇杷倶楽部』」と共に地域社会の発展に参加す る」というライフスタイルが、地域住民に受け入れられ、定着したと言えるのではないだ ろうか。

b 北海道「すながわスイートロード」

  本事業の特徴は、地元の商業者との連携が適切にとられており、その積極的な担い手と なっているのが、行政ではなく、地域住民に愛されている「菓子組合」である、という点 である。

  自治体のソフト事業の目玉として製菓商店を盛り上げる取り組みの発端は、千葉県の枇 杷倶楽部と同様、行政からのアイデアではなく、地域住民からの提案である。ここで基礎 となっているのは、地域で長年培われてきた製菓業の歴史と人々の愛着、そして過去30年 に亘る、クリスマスケーキ作りなどを通した、製菓業を営む商店主と住民との交流である。

行政と共に地域の良さを内外にアピールする活動を通して、商店主たちも自らが地域の活 性化の担い手であることを自覚し、そこに充実感を得るようになっている。

  2003年に事業が開始されてから、北海道内外における認知も広がり、担い手達の大きな 励みとなっていると共に、今まで地域活動に参加してこなかった人々を「応援団」として 巻き込む事業へと成長している。多くの人を巻き込む過程で、新たな地域のコンセプトが 生まれることが期待され、ここでもまた、地域社会への関わりを取り込んだ、地域特有の ライフスタイルが生まれる可能性がある。

5−3:ライフスタイルの様々なギャップを埋める政策展開 

(1)ギャップに応じた政策展開の可能性 

a 「様々なライフスタイルと『自分』とのギャップ」 

〜人生のロールモデルとの出会いを創出する仕組みづくり〜

  例1:学校教育における、非教員による授業・講義の拡大

  例2:地域社会の現場における生きたライフスタイルに触れるインターンシップ制度   例3:地域の人々の関係をつなぎなおす「社交の場」を生み出す仕組みづくり

地域コミュニティの人間関係が薄れ、子どもが成長する過程で親以外の大人達、つまり

「様々な人生のロールモデル」に出会う機会が少なくなっている。価値観の多様化や「個 性」が求められる一方、経済や情報・技術革新の流れは速い。他人とは全く違った、完全 オリジナルのライフスタイルを貫くのは非常に難しく、その偉業を達成できる能力を持つ 人々は非常に限られている。一般の人々にとっては、子どもの頃から、どのライフスタイ ルを選ぶことが、自分の「志向」と「嗜好」を最も満足させることのできる「行動」にた どり着くことができるのか、を考えることのできる機会を多く持つことによって、「今の自 分」と「なりたい自分」とのギャップを埋めることができるのではないだろうか。

  子どもへの影響力が一番大きいのは、学校教育の現場における取り組みである。地域の 様々な分野で働く人々が、学校教育において授業を行うことにより、授業を行う本人に とって、社会貢献欲求を満たしたり、自分のキャリアや学校教育への理解を深めたりする 機会となる一方、授業を受ける子ども達にとっては、通常の授業ではない、話や体験が、

ライフスタイルにおけるギャップを埋める助けの一つとなる。

授業の内容は、特定の「仕事の内容」だけでなく、「仕事を持って生活するとはどういう ことか」「共働きの場合の家庭内分業」など、生活の仕方について学ぶ機会をもたらすもの であることが望ましい。

学校教育の場での機会創出と共に、具体的な現場で経験を積む仕組みづくりが重要であ る。職場におけるインターンシップだけでなく、「子どもと触れ合って生活する」ための保 育所や子育て家庭における「ベビーシッター・インターン」や、地域に住む様々な大人と、

様々な子どもが共有できる経験の場を創出する機会の創出が望まれる。

このような取り組みの結果、単なるロールモデルへの知識・経験だけでなく、実際に子 ども達と信頼できる大人とが知り合うことにより、地域の防災性も向上するという利点も 期待される。

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