日本小児循環器学会雑誌 14巻4号 578〜580頁(1998年)
第24回群馬小児循環器研究会
時 場 長
日会会
平成10年3月13日(金)前橋商工会議所 石川 進
1.生活習慣病予防は幼児期から一6歳児の検診の 試み一
群馬県立小児医療センター循環器科 曽根 克彦,神邊 譲,小林 富男 篠原 真,手島絵史香,小川 久美 はじめに:近年小児肥満が問題視され,それによる 動脈硬化性病変の進行や,成人型糖尿病の若年化が危 惧されるようになった.子供に見られる生活習慣病に は肥満症,成人型糖尿病,消化器潰瘍,本態性高血圧 症,高脂血症などがあげられる.当センターでは群馬 県の幼児における生活習慣病の実態調査を行ったので 報告する.
対象と方法:群馬県における山間部,山麓部,平地 部の3地域を選んで,就学前の6歳児,男児458名,女 児420名,計878名に調査を行った.生活習慣病の危険 因子としての基準は肥満度が20%以上,血圧は収縮期 血圧110mmHg以上,総コレステロールは200mg/dl以 上,トリグリセライドは150mg/dl以上,動脈硬化指数
は3以上,尿糖陽性を基準とした.
結果:危険因子とした肥満症は72名(8.2%),軽度 高血圧は38名(4.3%),高コレステロール血症は51名
(5.8%),高TG血症は71名(8.1%),動脈硬化指数3 以上は55名(6.3%)に認めた.危険因子とした項目の
どれか1つでも持つ児は219名(24.9%)に認めた.地 域性について検討したが危険因子保有児は山麓部がや や少ないように思われたが有意差はなかった.肥満児 の地域性はなかった.食習慣や生活習慣の一っの指標
として動脈硬化指数があげられるが動脈硬化指数が3 以上の児は山間部が19名(9.0%)と高く,次いで平地 部の26名(7.2%)山麓部の10名(3.3%)の順であっ た.調査した山麓部は生活習慣が良好であると言える のかもしれない.
結語:生活習慣病危険因子をもつ子供が6歳児にお いて4人に1人いた.人間も生物であるので寿命があ
別刷請求先:(〒377−8577)群馬県勢多郡北橘村下箱田
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群馬県立小児医療センター 曽根 克彦
るが,寿命を延ばし,QOLを良好に保ち,生活をエン ジョイするためには生活習慣病予防のための啓蒙活動 を幼児期から行う必要があると思われた.
2.胸郭出口症候群の1乳児例 群馬大学小児科
鈴木 雅登,井上 佳也 小林 敏宏,森川 昭広 群馬中央総合病院小児科 田代 雅彦 はじめに1胸郭出口症候群は,第/肋骨を床,鎖骨 を天井とする胸郭出口で,上肢を支配する神経血管束 が圧迫を受けておこる症候群である.その原因は骨・
軟部組織の異常(頸肋など),動脈瘤,腫瘍,血栓など 多彩である.一般に症状は患側上肢のしびれ,痛みや 感覚異常などの神経症状が主であり,チアノーゼや冷 感などの血管症状は稀である.また,これまでの報告 例は成人例がほとんどで,小児例では思春期の例が多
く,乳児例は過去に1例しか報告されていない.我々 は生後1カ月で右上肢に限局する壁血症状を示し,
IVDSA,カテーテル検査で胸郭出口症候群と診断した 症例を経験したので報告する.
症例:患児は生後4カ月の男児で,主訴は哺乳時・
入浴時の右上肢の変色である.既往歴・家族歴に特記 事項はない.生後1カ月頃より母親がヒ記の症状に気 付き,3カ月時にも軽快しないため群馬中央総合病院 小児科を受診し,CT−IVDSAを施行し,右鎖骨下静脈 の狭窄がみとめられ,カテーテル検査目的にて当科へ 紹介され入院した.内転固定時に右上肢の青紫色への 変色が認められたが,カテーテル検査時には再現性は なかった.カテーテル検査でも右鎖骨下静脈の下方か らの圧排がみとめられた.前医でのIVDSAで榛側皮 静脈が確認されており,いわゆる「おぶいひも症候群」
は否定的であった.MRI動脈造影で腫瘍・動脈瘤はな く,解剖学的考察から前斜角筋による圧迫が強く示唆 された.今後も同様の塵血症状が続くのようであれば 上肢の成長障害をひき起こす可能性もあり,外科的処 置を考慮する必要もあると思われた.
結語:従来,おぶいひも症候群といわれていた症例
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日小循誌 14(4),1998
の中に,このような病態があると思われ,注意深い観 察が必要である.
3.著明な大動脈,頸動脈の拡大を伴ったWilliams 症候群の5歳女児例
群馬県立小児医療センター循環器科 篠原 真,曽根 克彦,小林 富男 はじめに:Williams症候群は,妖精様顔貌,精神発 達遅延,大動脈弁上狭窄,末梢肺動脈狭窄などで特徴 づけられる疾患である.今回我々は,上行大動脈,頸 部動脈の著明な拡大を認めた本症の1女児例を経験し たので報告した.
症例:患児は5歳11カ月の女児で,在胎36週6日,
正常分娩にて出生した.出生時体重は2,546gで,出生 後にチアノーゼ,多呼吸が認められたため小児科に入 院した.日齢2より心雑音を聴取し,胸部X−P上心拡 大を認め,bounding pulse,頸動脈にthrillを触れるよ
うになったため,動脈管開存(以下PDA),大動脈狭 窄症(以下AS)の疑いで当センターに紹介された.胸 部レントゲン写真では心拡大と肺血流量の増加が認め られ,心エコー検査では,動脈管開存の他,大動脈の 弁上にridge状の突出がみられ,計測上圧較差は25 mmHg程度であった.これらの所見と児の特異的な顔 貌(鼻根が低く上を向いており,目ははれぼったく,
口唇は厚く突出,ふっくらした頬などのいわゆる妖精 様顔貌)からWilliams症候群と診断した.心不全の治 療を継続したが,内科的治療の継続は困難と考え,11 カ月時にPDA ligationの手術を行った.その後,肺 炎,胃腸炎にて数回入院,退院を繰り返し,また精神 運動発達の遅滞も著明であった.心エコー上ASの所 見が増強しドップラーにて圧較差が増強し,大動脈弁 閉鎖不全もみられるようになったため,5歳6カ月時 に再度心カテ,アンギオを行った.上行大動脈から頸 動脈の拡張は著明で,大動脈弁は肥厚し動きは悪く,
左室からの血流はジェット状で,2度の閉鎖不全も認 められた.計測では上行大動脈は最大33.7mmで,弁 上部は20mm, innominate arteryは20.8mmであっ た.肺高血圧症は認めず,左室と大動脈の圧較差は100 mmHgであった.現在,身長は97cmで一3.2SD,体重
は12.8kg,−2.4SDで,言葉は数個の単語しか出ず,運 動機能は坐位は可能だが全体的にfloppyで下肢はあ
まり動かさず,発育不良,精神運動発達遅滞は著明で ある.FISH法による染色体分析を行ったが,7番染色 体長腕q11.23欠失は確認されなかった. ARが強いた め,バルーンによる弁の拡大は不可能と考え,手術を
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検討したが,両親は手術を希望せず,natural courseで followしている.
結語:著明な大動脈,頸動脈の拡大を伴ったWi1・
liams症候群の5歳女児例を経験した.大動脈,頸動脈 の拡大は弁性狭窄によるジェットが原因と思われた が,血管組織の脆弱性の関与も考えられた.
4.Fontan手術術後患者に対するドップラーガイ ドワイヤーを用いた肺動脈血流解析の試み
済生会前橋病院循環器小児科
岡田 恭典,滝沢 琢巳,小野 真康 同 循環器科
石原 茂樹,杉山 喜崇 渡辺 学,三枝 直樹 はじめに:modified Fontan手術を施行した術後患 児5例に対し,ドップラーガイドワイヤーを左右肺動 脈内に挿入し,肺動脈局所における直接的肺動脈血流 速度測定が可能であるか否か,さらにその臨床的有用 性について検討したので報告した.
対象と方法:1997年11月から1998年2月までに当院 で施行したmodified Fontan手術を施行した術後患 児5例(男児4例,女児1例,平均年齢51±16カ月)
を対象とした.全例術後3〜4週間後に心臓カテーテ ル検査を施行し,肺動脈造影検査後にCardiometrics 社製の径0.014inchのドップラーガイドワイヤー(Fro Wire)を左右末梢に肺動脈,中心肺動脈に挿入し,各々 の部位における血流波形を記録した.
結果:全例ドップラーガイドワイヤーにより左右末 梢肺動脈,中心肺動脈において良好かつ安定した血流 波形がbeat by beatで可能であった.得られた波形は 拡張末期及び収縮中期から末期にかけての2峰性パ ターンを全症例が示した.肺動脈造影所見では5例中,
3例は肺動脈形態に問題を認めなかったが,左肺動脈 の低形成により血流量に左右差を認めた症例が1例存
在した.
結語:左右肺動脈の不均衡例では肺動脈動脈造影と 同時に,ドップラーガイドワイヤーを用いることで左 右肺動脈血流測定が可能となり肺動脈血流シンチに代 わり血管量の左右差を定量的に評価できた.また,末 梢肺動脈狭窄を認めた症例では狭窄病変のカテーテル による圧較差の評価は困難であったが,ドップラーガ イドワイヤーを用いることで鋭敏かつ定量的な圧較差 の評価が可能であったことより,今後カテーテルイン ターベンション時における狭窄解除の効果判定に有用 と思われた.
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5.左室右房交通症を思わせる三尖弁に亀裂を認め
たVSDの1手術例
群馬県立小児医療センター心臓血管外科 村上 淳,鈴木 政夫,茂原 淳 同 循環器科
曽根 克彦,小林 富男,篠原 真 群馬大学第二外科 森下 靖雄 はじめに:左室右房交通症は,全先天性心疾患の
1%以下の頻度で比較的稀な疾患である.今回我々は 心室中隔欠損症(VSD)に三尖弁中隔尖の亀裂を合併
し,左室右房交通症と思われた1手術例を経験したの で報告する.
症例:患児は6歳,女児で日齢0に先天性食道閉鎖
症,VSD+ASD+PDA+PHと診断された.食道閉鎖
術後,循環器科でフォローアップされていた.5歳時の心臓超音波検査(UCG)で大動脈弁無冠尖逸脱
(NCCP)を指摘され,6歳時に心臓カテーテル造影検
査を受けた.VSDは径約12mmで膜性部中隔瘤
(MSA)を伴い,心室間交通はMSA先端部の僅かな欠 損孔のみであった.Qp/Qsは1.1で,右房,右室での02 step−upはなかった.6歳2カ月時に手術を行った.
手術所見:手術は通常の体外循環下に行った.心停 止後右房切開にて経三尖弁的にVSDを観察すると,
三尖弁中隔炎はMSAと強く癒合し心室問交通孔は
MSA先端に径6mmの孔として認められた.孔を直接 縫合閉鎖し,肺のブローを行ったところ新たなシャン トを2カ所発見した.一つは中隔尖弁輪直下に,もう 一つは三尖弁前交通部近傍の中隔尖にあり,いずれも スリット状で直接縫合閉鎖可能であった.後者は右房 側より左室腔へ交通しており左室右房交通症と考えられた.
考察および結語:本例では1歳4カ月時のUCGで
MSAはなく三尖弁の異常もなかったことから,左室 右房交通の原因として,MSAが徐々に形成され中隔 尖と癒着した後に穿孔を起こしたものと考えられた.また,術中の肺ブローは遺残シャントの発見に有用で
あった.
6.Open palliationを含む3回の姑息手術を行い Fontan手術に到達した単心室,肺動脈閉鎖症の1例 済生会前橋病院循環器センター外科 杉山 喜崇,石原 茂樹 渡辺 学,三枝 直樹
日本小児循環器学会雑誌第14巻第4号 同 小児科
小野 真康,岡田 恭典,滝沢 琢巳 はじめに:non−confluent PAの状態で肺血管抵抗 が左右で異なる場合Fontan手術の適応に関し苦慮す ることが多い.今回我々は間にopen palliationを行 い,Fontan手術に到達した1例を経験したので報告
する.
症例:患児は6歳,男児,診断は左室性単心室,dou−
ble inlet LV,肺動脈閉鎖である.生後1カ月時に,左 のorig{nal BTシャント術を,4歳時に4mmのGore−
Texにて右のシャント術を施行している.5歳時に,
Fontan手術に向け,心カテーテルを施行した.しか し,左の肺動脈圧が平均圧で30mmHgと高値を示し た.Qp/Qsは1.58と高肺血流を示し,アストラップで
もPO,が50mmHg弱と高く,オーバーシャントによ る,肺高血圧の可能性が考えられた.肺動脈造影では 肺動脈は左右つながってはいるが,片肺つつしか造影
されず,血行動態的にはnon・confluentの状態であっ た.肺血流シンチを行うと,1:0.73で右肺動脈の方 が血流が多く,VO2を160で計算すると,左の肺血管抵 抗は4.5,右は1.3となり,左右別々の肺血管抵抗から 求めた全体の肺血管抵抗は1.01とFontan手術可能な 値であった.しかし,左の血管抵抗が高すぎるため,
Fontan手術は危険と判断し3回目の姑息手術とし
て,人工心肺下にPA plasty, PDA ligation, ASD creationを行った.1年後の心カテーテル検査にて肺 動脈圧は左右とも20mmHg前後で, Qp/Qs1.06,計算 上の肺血管抵抗値も1.75であった.左室機能にも問題 なく,Fontan手術可能と判断した.手術は両側シャント結紮後,人工心肺下,心停止下に,心房をダクロン とゼノメデイカのパッチにてObliqe pariatiopnを行 い,右心耳と肺動脈を吻合し,前面をゼノメデイカに て拡大した.大動脈遮断時間は41分,人工心肺時間151 分で,人工心肺からの離脱は容易で,CVPI5mmHgで
血圧80mmHgと良好であった.術後1カ月時の心カ
テーテル検査では,肺動脈圧は平均圧13mmHgで,左 心機能もよく,心拍出量はインデックスで2.62と良好 な値を示した.7.特別講演: Fontan手術の適応拡大への挑戦 福岡市立こども病院心臓血管外科
角 秀秋
Presented by Medical*Online