平成 30 年度 学内研究助成金 研究報告書
研 究 種 目
■ 奨 励 研 究 助 成 金 □研究成果刊行助成金
□21世紀研究開発奨励金 (共同研究助成金)
□21世紀教育開発奨励金 (教育推進研究助成金)
研 究 課 題 名
癌遺伝子産物
HER3-MET複合体を標的としたヒト大腸癌の新規併用 療法の開発
研究者所属・氏名 研究代表者:薬学部創薬科学科 助教 原 雄大
1.研究目的・内容
本研究課題では、癌遺伝子産物であるHER3およびMETを標的とした大腸癌の併用療法の可能 性を追究すること、ならびに両分子の大腸癌における発癌への寄与を解明することを目的とする。
今回は、ヒト大腸癌細胞株SW1116を用い、HER3およびMETに対する阻害薬処置時のin vitro およびin vivoでの抗癌効果、両分子のリガンドおよび阻害薬処置時の細胞内シグナル分子の解析 を行った。
2.研究経過及び成果
まず、in vitroおよびin vivoにおいて、抗HER3モノクローナル抗体および選択的MET阻害 薬PHA665752による抗癌効果を検討した。マトリゲルを用いた3次元培養法において、各阻害 薬の単独処置と比較し、同時阻害時によりコロニー数が減少した。さらに、xenograft モデルに より、各阻害薬の単独投与ではコントロール群と同程度に腫瘍が増殖したが、抗HER3モノクロ ーナル抗体およびMET阻害薬の併用投与により腫瘍体積が有意に減少することを見出した。
続いて、HER3およびMETの癌細胞の増殖への寄与について検討するため、HER3のリガン ドであるneureglin-1(NRG)、METのリガンドである肝細胞増殖因子(HGF)を処置した際の 細胞増殖への影響、および細胞内シグナルへの影響を検討した。In vitro において、各リガンド を添加し、36時間培養したところ、単独処置時と比較し、併用処置した際により細胞増殖が増加 した。また、この時、癌細胞の増殖・生存に関わる細胞内シグナル分子である ERK のリン酸化 レベルが、リガンド単独処置時よりも併用処置時により増強していることを見出した。このERK のリン酸化の増強は、抗HER3モノクローナル抗体およびMET阻害薬の共処置時に、各阻害薬 の単独処置時と比べ、より減弱していた。一方、他のシグナル経路分子である AKT のリン酸化 レベルは、リガンドの単独および併用処置間で変化は認められなかった。
また、NRGを添加し、36時間培養したところ、METのリン酸化が起こることを見出した。こ れは短時間(5分間)のNRG処置では認められなかった。この現象は、HER3とMETが直接相 互作用した結果なのか否かを免疫沈降法により検討したところ、NRGの存在下、非存在下に関わ らず、両分子の相互作用は認められなかった。HERファミリー分子は、リガンドの結合により自 身もしくは他のHERファミリー分子と2量体を形成することが知られている。そこで、NRG処 置時の HER ファミリー分子同士の相互作用を検討したところ、NRG 処置により HER2/HER3 のヘテロ2量体が形成されること、HER2/HER3ヘテロ2量体の形成を阻害する抗HER2抗体ペ ルツズマブの処置により、METのリン酸化が抑制されることを明らかにした。
次に、NRGおよびHGFの共処置におけるERKリン酸化レベルの増強に関わる分子機序の解 明を試みた。転写因子であるFOXM1は、癌との関連が示唆されており、また核内で ERKと相 互作用することが知られている。NRG処置により、FOXM1の発現量が増加するとともに、ERK のリン酸化が増大した。さらに、FOXM1 阻害薬である thiostrepton の添加により、MET のリ ン酸化が減弱した。
以上の成績は、HER3およびMETは、大腸癌の増殖に寄与し、さらに治療標的として有効で ある可能性を示している。
3.本研究と関連した今後の研究計画
NRG処置時にみられたMETのリン酸化の増強、およびHGF・METの共処置時にみられたERK のリン酸化の増強の詳細な分子機序、さらにこれらの現象の大腸癌発癌に対する生理学的な意義 を解明したい。また、大腸癌では、KRASやBRAF等の様々な遺伝子の変異が認められている。
今回用いたSW1116細胞株はKRAS遺伝子が変異していることが知られている。そのため、他の 遺伝子変異を有する大腸癌細胞株についても、HER3およびMETの同時阻害による抗癌効果を 検討したい。
4.成果の発表等
発 表 機 関 名 種類(著書・雑誌・口頭) 発表年月日(予定を含む) 第77回日本癌学会学術総会 ポスター発表 2018年9月29日
日本薬学会第139年会 口頭発表 2019年3月21日