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著者 椿,真智子

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鳴海邦碩著:『都市の自由空間 : 街路から広がるま ちづくり』学芸出版社,2009年,240p,2,100円

著者 椿,真智子

雑誌名 学芸地理

号 65

ページ 60‑62

発行年 2010‑12‑24

その他の言語のタイ トル

Book Reviews

URL http://hdl.handle.net/2309/110327

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学芸地理 65 号 2010 年 pp.60-62

書評

鳴海 邦碩著:『都市の自由空間―街路から広が るまちづくり―』 学芸出版社,2009 年,240p,

2,100 円  

 道と空地は,本来,出会いの場であった.自 然や人,仕事や情報などさまざまなものが出会 う場であり,都市らしさを支える場であった.

 著者である鳴海氏は,都市空間を,住宅やビ ルなどの建物からなる「イエ的な空間」と,通 行や遊びに利用する道路や広場などの「ミチ的 な空間」とにわけて考える.本書のタイトルに ある都市の「自由空間」とは,後者の「ミチ的 な空間」を指す.著者は,「自由空間」こそが 都市の魅力を表現するもっとも都市的な存在で あり,同時に私たちは「自由空間」を通じてこ そ都市の魅力を感じることができると主張す る.本書は,工学・歴史学・人類学など多岐に わたる研究成果をもとに,古代から現代にいた る様々な都市の「自由空間」の歴史や魅力・意 味を,一般読者にもわかりやすく解説したもの である.

 鳴海氏は,都市計画・都市環境デザインがご 専門の工学博士で,阪神・淡路大震災後は 10 年間の定点調査を行ない,震災復興のまちづく りを検証された.地理学や地理教育の分野でも,

とくに都市環境・デザインや都市空間の認知・

行動などに関心を持つ方は鳴海氏の著書をよく ご存じであろう.本書は,博士論文(工学)『都 市における自由空間の研究』の内容にもとづき 1982 年に出版された『都市の自由空間:道の 生活史から』(中公新書)の改訂版である.前 書で著者が主張した内容が,時代を経てより重 要になりつつあるとの自らの認識のもとに,そ の後の研究成果や都市計画・まちづくりの実践 をふまえ,大幅に加筆修正されたとのことであ

る.

 一方,都市を対象とする地理学研究において,

道路や広場の形態・機能についてはさまざま論 じられてきたが,都市構造や都市景観の議論の 中心は,著者のいう「イエ的な空間」であり,「ミ チ的な空間」はおもに都市空間の形成・変化や 特徴を把握する上での補完的要素としてみなさ れてきたのではないだろうか.建造物や土地利 用の物理的特徴や機能を重視する一方,それら を眺め利用する人や眼差しが存在する側の空間 自体については,やや関心が薄かったように思 われる.また,道路や広場に関して,移動や交通,

交易・流通,生産活動の場としての形態・機能 については多く検討されてきたが,多様な人び と・情報・文化の出会う「自由空間」自体がも つ魅力や,その風土・地域・社会的文脈におけ る意味や変化については,検討の余地が十分残 されているように思う.さらに近年は,各地で みられるまちづくりや地域おこしにおいて「ミ チ的な空間」が重視され活用される場合も多い.

「自由空間」のあり方は,日常生活の基盤づく りや商店街・コミュニティ再生など,今後の地 域ならびに社会的課題に大きく関わるテーマで あろう.

本書の構成は以下のとおりである.

 はじめに

第1章 一筋の道の延長上にはさまざまな道的 空間が連なっている

 1 道の形態のいろいろ

 2 道を利用するさまざまな形態 第2章 古来,道は空地であった  1 江戸の街路

 2 江戸の街路規制

 3 空地としての街路の性格

第3章 空地は集住のための装置である  1 原初的集落の空間構成

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-2-  2 都市──連鎖する集落

第4章 都市に人びとが参集する空間が確立し た

 1 人びとをひきつける空地  2 近世大都市の娯楽空間  3 娯楽空間の特性  4 ヨーロッパ都市の広場 第5章 現代都市における自由空間  1 自由空間とは

 2 近隣型自由空間  3 繁華地区型自由空間  4 公園と水辺

第6章 自由空間づくりの物語  1 都心における自由空間づくり

 2 アーケード:街路をとり込んだ商業空間   の可能性

注 釈 おわりに

 第1章は,アンデスのインカ道からニュータ ウンの道,庇のある道,私道,地下道など,さ まざまな道の形態・機能,法律上の位置づけが 紹介され,また道に存在する自動販売機,市,

移動商,カフェテラスなどの空間利用と利用規 制の歴史が述べられ,道に付随する多様な機能 が示される.

 第2章は江戸を事例に,街路の形態,牛馬・

車輌の通行や振り売り・露天商,商売などの利 用状況,利用規制や街路整備の実態などから,

街路のはたした役割や性格について解説してい る.江戸の住民にとって,街路は公道というよ りは店先の空き地であり,街の庭であったと著 者は指摘する.また江戸と現代とを比較し,街 路の利用規制の基本が交通の円滑化と安全の確 保であること,移動商や露天商にみられるよう に街路が本来,空地としての性格を有する点で 江戸と現代とに本質的差異がないことを指摘す

る.すなわち道や空地に人間の集住における普 遍的空間システムが存在することになる.

 第3章は,この普遍的システムについて,縄 文時代の集落やアフリカ・南米の部族集落の事 例から,集落は住居と空地とで構成され,空地 はおおまかに共同利用の空地と住居に附属した 空地とにわかれることが指摘された.その上で,

この集住空間の原理が都市にいかに適用された のかを,バリ島とヨーロッパ中世都市を事例に 解説している.著者は原初的集落において中央 空地が担っていた役割は中世都市では街路に追 い出され,施設化していったと考えている.

 第4章は,空地の機能として祭祀・交易・社交・

娯楽空間をあげ,それらが重層的に機能したこ とを,近世~近代の江戸・東京を中心とする 遊山地,社寺境内,空地(明地)・広小路,河 原などを例に解説している.とくに著者は日本 の娯楽空間の特性として空地性と無主性とをあ げ,独自の利用・管理システムが存在すること,

多様な形態・規模をもつ娯楽空間の集積が界隈 性をもたらした点に言及した.その一方で,日 本とは異なり広場として確固たる空間が設定さ れたヨーロッパの都市についてもふれている.

 第5・6章では,前章までの都市空間の歴史 をふまえ,多層化する現代都市の空間のあり方 やまちづくり実践について議論している.ここ でまず著者は,現代の都市空間を議論する前提 として新たな空間概念の必要性を説く.たとえ ば従来の「オープンスペース」は非建ぺい空間 であったのに対し,近年,建物の内部に都市広 場がつくられる場合もある.すなわち空間の形 態や所有・管理主体,利用の公・私性などの異 なる枠組みを包括し,利用者の立場から都市空 間を議論するための概念として,著者は「自由 空間」を提示し,「不特定多数の人びとが,一 時的に,自由に,利用することの可能な空間」

と定義した.

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学 芸 地 理 第 65 号 (2010)

 まず第5章では,現代都市の「自由空間」を 住宅に附属する「近隣型」と「繁華地区型」に わけて解説している.「近隣型」として,著者 はたとえば日本の都市によくみられた長屋の路 地や前庭の植栽をあげ,それらが狭小ながらも アイデンティティ表現の空間でもあり,住宅に 欠くことのできない空間であると指摘した.ひ いては増加するマンションなどの集合住宅にお いて,入口や通路を生活の気配と豊かな表情の ある空間にすることを提唱する.人びとのコ ミュニケーションと社会的接触が極端に減少す ることにより生じる弊害をあげ,マンションや 高層住宅,街路の自由空間のあり方をいくつか の実践事例をあげつつ論じている. 一方,「繁 華地区型」として商店街,複合商業ビル,地下 街,ショッピングセンターの事例をもとに,そ れらの特徴や新たな取り組み・課題などに言及 した.本章最後には,公園に対する新たなニー ズや水辺空間の可能性についてふれている.

 続く第6章では,著者が注目あるいは関わっ た自由空間づくりの事例として,北海道旭川の 買物公園,名古屋市東部の商業施設星ヶ丘テラ ス,福岡市新天町商店街,大阪のリバーカフェ と水上テラス,大阪 OCAT モールとポンテ広場,

帯広の屋台村,八戸市みろく横丁,青森市さん ふり横丁などの取り組みが紹介されている.そ れぞれ歴史や立地条件は異なるが,賑わいを生 み出そうとする担い手の熱意と多彩なアイディ アが新たなエネルギーをもたらした.その一方 で,日本の商店街の典型でありながら現在その 多くが転機にたたされているアーケード街につ いてもふれられている.一般に覆いのある商店 街を指すアーケードは,昭和 30 ~ 40 年代にか けて全国に普及した.日本のアーケードのモデ ルになったと考えられるアメリカのアーケード や,パリのパッサージュ,また植民地期の台湾 についてふれ,日本のアーケード街の特徴や歴

史について解説し,街路ネットワークに組み込 まれたアーケード街の可能性を指摘している.

 最後に,本書は平成 21 年度「不動産協会賞」

を受賞された.これまで述べたとおり,本書の 内容は都市空間にかかわるあらゆる分野に通底 するものである.加えて,新しい都市づくりや 都市の魅力づくりに多くのヒントを与えてくれ るのではないだろうか.

 本書末には「自由空間が成立するためには,

その地域の人びとがまず,その空間の価値を発 見することが不可欠」と記されている.本書 を,私たち一人一人が都市空間や生活に根ざし た場所を見直し,地元の魅力や場所の意味を再 発見するための参考にしていただければ幸いで ある.

   (椿 真智子:東京学芸大学地理学研究室)

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