• 検索結果がありません。

第3回 情報化社会と経済学 その3

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "第3回 情報化社会と経済学 その3"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

第9回

IT 革命とニュービジネス・ソーシャルメディア

1、Web2.0 とインターネット市場の拡大(2000 年代)

(1)インターネットの新潮流・Web2.0 1990 年代に入ってインターネットの普及は電子商取引の市場を拡大した。こ れは情報通信産業(IT を供給する産業)とともに既存の企業(IT を利用する産 業)の市場を拡大するものであった。ところが、2000 年代に入っての IT バブ ルとその崩壊は、情報通信産業に大きな打撃を与えた(第7回)。 一方、2000 年代になると、インターネットの特性 に改めて注目し、その潜在的能力を有効に活用し、 従来(Web1.0)とは異なる新しいウェブの世界を構 築する概念、Web2.0 が脚光を集め始めた。Web2.0 とは、特定の技術やサービス、製品ではなく従来の Web(Web1.0)とは異なる新しいウェブの特徴、環 境変化、トレンドを総称したものである1。テクノロジー関連のマニュアルや書 籍の出版社である米国のO'reilly Media の CEO、Tim O'Reilly(1954- )によ って提唱された。「2.0」という表現には、1990 年代半ば頃から普及・発展して きた従来型のWeb の延長ではない、質的な変化が起きているという認識が込め られている。 従来のWeb は製作者が作った状態で完結 しており、利用者は単にそれを利用するだけ の関係であったが、Web2.0 ではブログ、SNS、 そしてWikipedia に代表されるように、多く のユーザが参加して双方向で情報を出し合う ことで、その蓄積が全体として巨大な「集合 知」を形成すると点が象徴的である。 アメリカのジャーナリストのJames Surowiecki(1967- )は多様な集団 が到達する結論は、一人の専門家の 意見よりもつねに優る、というこれ までの常識とは正反対の説を提示し ている2 1 この時期に日本では、日本が得意な「ものづくり」を活かすユビキタスネットワークが注 目され、IT 政策の中心に据えられていった(第 8 回参照)。

(2)

(2)Web2.0 とロングテール現象 米 『 ワ イ ア ー ド 』 誌 の 編 集 長 で あ る Chris Anderson 氏(1961- )は 2004 年に、Web2.0 等 の新しい潮流により、供給者と消費者のネットワ ーク取引においてロングテール現象(小規模で多 様に存在する需要が取引として実現すること)等 が生じ、利用者の様々なニーズが充足されること などがあげている。 販売数と販売数順位をグラフにすると、実店舗に比べてオンライン店舗では すそが長くなる。一般的によく言われる「2 割の商品が 8 割の売上を占める」な ど2:8 で示すばらつきの経験則とは違う現象が起きる。 書店で比較すると。現実の書店だと店舗面積が限られているので売れ筋の商 品を目立つ場所に大量に置く。オンライン店舗なら棚の限界はほぼないため、 品ぞろえは無尽蔵にできる。 実際に数フロアもある巨大な書店であっても品ぞ ろえは10 万品目がせいぜいだが、Amazon では数百万品目もある。つまり実店 舗は頭(売れ筋)までしか入らないから頭で稼ぐが、オンライン店舗では気が 遠くなるほど長いしっぽ(売れ筋以外)も扱える。するとしっぽの売上累計が 全体の売上の一定量を占めるほどになる。 広告なら狙い撃ちではなく乱れ撃ちにな る。検索結果や任意のWeb ページに表示 されるGoogle の広告がそうである。従来 の広告は媒体の性質や客層を考えて狙い を絞っていた。だがGoogle では検索語や Web ページの本文から毎回違う広告を表 示できるので広告としての効率がよくな る。少数をターゲットにした広告も扱える。 実際Google も Amazon のように少数向け の広告の売上割合が多い。

(3)

(3)ロングテールとインターネット広告市場 スタンフォード大学の博士課程に在籍していた 2 人 の 学 生 、 Lawrence Edward "Larry" Page (1973-)と Sergey Mikhailovich Brin(1973-) は、インターネット上に存在する膨大な情報を検索 する際に、重要度の高いページからランクづけする 方法を数学的に解決し、1997 年にこの構想をもと にした検索エンジンを開発3、翌年(1998 年)にグーグル(Google)を創業し た。今や時価総額が2500 億ドルを超え(2012 年 10 月 1 日現在)4、売上高は 500 億ドル、営業利益は 34 億ドルで驚異的なスピードで成長している5。グーグ ルはインターネット上にある膨大な情報を集積し、検索連動型広告サービスを 提供することによって巨額な広告収入を得るシステムをつくりあげている6 『グーグル革命の衝撃』 (NHK スペシャル、2007.1.26) 3 インターネット上の膨大な情報をイメージして 10 の 100 乗個を表す「Googolplex」から 「Google」と名づけられた。 4 2012 年 10 月 1 日の Google の終値は約 1%高の 761.780 ドルで時価総額は約 2499 億ド ル。一方のMicrosoft の終値は約 1%安の 29.49 ドルで、時価総額は約 2478 億ドルとなり、 時価総額で初めて米Microsoft を抜き、米 Apple に次ぐ世界 2 位の IT 企業になった。 5 米 Google が 2013 年 1 月 22 日(現地時間)に発表した 2012 年第 4 四半期(10~12 月 期)決算は、売上高は前年同期比36%増の 144 億 1900 万ドル、純利益が 6.7%増の 28 億 8600 万ドル(1 株当たり 8.62 ドル)だった。 6 その中心は Google アドセンス(クリック回数に応じて参加者に Google の売上げの一部

が報酬として支払われる)とGoogle アドワーズ広告(Google の検索結果や Google AdSense を取り入れているサイト、また提携している複数のポータルサイトなどに、サイトの内容 に適した広告を自動的に配信し表示する)であり、Google の収入の大部分はこの広告収入 から成っている。そしてGoogle メールによってサーバに蓄えられた利用者のメール本文か らキーワードを抽出し、利用者に最適な広告を送るシステムを作り上げている。また、広 告媒体として稼ぎまくると同時に「グーグルアース」など斬新なサービスを次々と輩出し、

(4)

IT 投資は産業・企業の成長をもたらしたが、特にブロードバンド(高速イン ターネット通信)や携帯電話を利用した音楽や映像などの配信=コンテンツ市 場の拡大、産業・企業の成長をもたらしている。特に、携帯電話の普及、端末 の高機能の進展等により、モバイルコンテンツ産業(携帯インターネットビジ ネス)の市場規模が急速に拡大しつつあるのが特徴的である(詳細は「情報産 業論」で講義)。 ブロードバンド化によって放送 と通信の垣根は低くなりつつあり、 インターネットの利用時間や、同 じくインターネットによる動画視 聴時間が増加している。視聴者は これまで地上波放送を視聴してい た時間をインターネットの利用、 特にインターネットでの動画視聴 にあてる傾向が強まっている。その結果、放送業界にはその存立基盤であるテ レビ広告市場規模は漸減傾向にある。 経済産業省「特定サービス産業動向統計調査」より作成 億円

(5)

2、ソーシャルメディアのビジネスモデル

(2000 年代後半~2010 年代)

(1)IT 投資と経済成長 1990 年代に IT 投資=情報化投資を中心とした設備投資が、需要の側面から 景気拡大に貢献しただけでなく、供給の面を活性化させ、労働の生産性を高め 長期的な景気拡大を生み出した。一方でIT 投資は労働の代替、ホワイトカラー のリストラを進めていった(第4 回、第 5 回)。その中でインターネットを使っ た商取引=電子商取引もビジネスとして成立してきた。それは市場をより競争 的し、その流れは労働市場にも及んでいった(第8 回)。 日本は 90 年代始めのバブル経済崩壊以降景気後退を続けたが、1990 年代末 より企業が生産性を向上させ国際競争力を強化するために「IT 革命」が進めら れた。これはまた企業におけるリストラと労働力の市場化をより進める過程で あった(第6 回)。 2000 年初頭になるとアメリカ経済全体の低迷、情報通信機器・サービスへの 需要の一巡等により、IT 産業は低迷し、倒産する会社が相次いだ。IT バブルの 崩壊である。アメリカから始まったIT バブルの崩壊は、日本のネット系ベンチ ャー企業の株価も暴落させ、日本の「未成熟ネットバブル」は崩壊した(第 7 回)。これは IT 産業自身がリストラに直面することを意味しているが、決して IT や IT 産業自体の崩壊を意味するものではなく、特に米国では 1990 年代に起 業したいくつかのIT 企業のうち、より高度な技術とサービスを有する IT 企業 が2000 年代に入って頭角を表してくる過程でもある。

(6)

(2)クラウドコンピューティング~ビッグデータ クラウドコンピューティング(Cloud Computing) は、2006 年、Google の CEO、エリック・シュミ ット(Eric Emerson Schmidt, 1955-)が命名した 言葉だと言われている7。従来は手元のコンピュー タで管理・利用していたようなソフトウェアやデー タなどを、インターネットなどのネッ トワークを通じてサービスの形で必 要に応じて利用する方式で、IT 業界 ではシステム構成図でネットワーク の向こう側を雲(cloud:クラウド) のマークで表す慣習があることから、 このように呼ばれる。もともとインタ ーネットを図示する際に雲の絵が描かれていたが、シュミットは、インターネ ット上に浮かぶ巨大なコンピュータ群をクラウド=雲と定義した。 クラウドコンピューティングという言葉はGoogle を先頭に、Amazon、さら にSaleseForce.com に代表される 2000 年代に入って台頭してきた IT 企業の拡 大とともに普及するようになってきた。2011 年頃からクラウドによってインタ ーネット上に莫大な「情報」が集まることによってビッグデータという言葉も 登場した。ビッグデータは、その名の通り巨大なデータベースを意味するが、 これらのデータを利用したビジネスまで含めて、マーケティング用語として使 われるケースが多い。 これはWeb2.0 やロングテール同様に特定の技術やサービスを指したもので はないが、90 年代の経済成長をもたらした IT 革命に変わる、新しい技術革新、 イノベーションへの期待、そしてIT 産業への市場拡大の期待が込められている。 だが、これは同時に、IT 化と結びついた労働過 程の強度を増大、労働の不安定化を進めるもの でもある(第8 回参照)。 『社会を変える”ビッグデータ”革命』 (NHK クローズアップ現代、2012.5.28)

7 英エコノミスト誌の特別号「The World In 2007」(2006 年 11 月発行)に「Don’t bet

against the Internet.」という一文を寄せ、Today we live in the clouds. We're moving into the era of "cloud" computing, with information and applications hosted in the diffuse atmosphere of cyberspace rather than on specific processors and silicon racks. The network will truly be the computer. と述べている。

(7)

(3)ソーシャルメディアと独占的ビジネスモデル 2000 年代からの Web2.0 における双方向性、「集合知」、そしてロングテールの 活用、2000 年代後半から 2010 年代にかけてのクラウドコンピューティングや ビッグデータの集積によって、従来のメディアとは異なるユーザ発信し交流す るメディア=ソーシャルメディアを構築している。従来のテレビや新聞に代表 されるマスメディアからの一方的な情報発信とは異なり、YouTube や Twitter、 Facebook などのプラットフォームによって、個人からの情報発信(コンテンツ の生成)がより容易になり、多数の人々や組織が 参加する双方向的なコミュニティも形成される。 また社会や政治を動かす世論も形成されること もある。 さらに、Linux に代表されるオープンソースソフトウェアの開発も、「集合知」 を活用した技術開発であり、上記のプラットフォームにもオープンソースソフ トウェアが用いられている8(第14 回参照)。 既に 1980 年にアルビン・トフラーが『第三の波』 においてコンピュータネ ットワーク上の電子共同体の成立について言及しているが、ここでもトフラー が「予言」したことがある程度実現されていると言えよう。 一方、ソーシャルメディをビジネスに活用し、 インターネット上のユーザ(顧客)の膨大な情報 を集積・分析すると同時に、これをまたユーザ(顧 客)向けのマーケティングに活用しているのは巨 大 IT 企業であり、上記のプラットフォームを運 用する企業に莫大な利益をもたらしているのも事 実である。 8 オープンソースを組み合わせた Web サイトの構築技術は一般に LAMP(サーバ OS の

Linux、Web サーバの Apache、データベースの MySQL、スクリプト言語の Perl、Pyhon、 PHP)と呼ばれていった。最近では迅速で双方向的な開発手法(Agile)とクラウド・コン

(8)

特にインターネット上の交流サイトであるSNS(Social Networking Service) はコミュニケーションを促進する手段や、新しい人間関係を構築する手段とし て米国で 2000 年代半ばから注目され、そのユーザを伸ばし続け、SNS サイト の提供によって広告や課金を行いなどして新たなビジネスモデルになっている。 また、SNS を利用するユーザも SNS サイトを広告・マーケテ ィングや新たなビジネス上のつながりを構築する手段として活 用している。米国での本格的なSNS は Friendster(2002 年) と考えられ、その後MySpace と LinkedIn が相次いでサービス をスタートさせた(2003 年)。 そして 2004 年にはハーバー ド大学の学生だったマーク・

ザッカーバーグ(Mark Elliot Zuckerberg、 1984 - )が学生の交流サイトとして立ち上げ たFecebook が 2006 年には一般にも開放され、 2015 年現在、世界で 14 億人を超えるユーザが 利用している。 日本でも2004 年に GREE、mixi がサービスを開 始し、そのユーザを拡大している。ま た2008 年には Facebook が日本での サービスを開始した。また、日本に特 徴的な携帯電話(スマートフォン)に よるインターネット接続の習慣を背 景にしたLINE の利用者数の増加が際立っている。 ICT マーケティング・コンサルティング「2015 年度 SNS 利用動向に関する 調査」によると日本のSNS 利用者は 2015 年末までに 6,451 万人(普及率 65%) に達する見込み。2015 年の年間純増者数は 428 万人となると予測されており、 1 ヶ月平均で約 36 万人の利用者が増加を続けている結果となっている。

(9)

ICT マーケティング・コンサルティング 2015 年度 SNS 利用動向に関する調査 より これらのSNS は立ち上げには莫大な初期投資が必要になり(またサービス開 始初期には回収が難しいが)、IT 産業特有の収穫逓増(=限界費用減少)の法則 が働くことによって規模の拡大に追加コストがあまりかからないことと同時に、 ネットワーク効果(消費者が同種の財の消費者に与える外部経済)は著しく大 きくなる9。新規加入者にとって便益は既存加入者の数に依存するために、加入 者数の少ない間はなかなか普及しないが、加入者数がある閾值を超えると一気 に普及する。特定のネットワーク=特定のIT 企業のサービスが拡大し、独占的 利益を獲得することが可能になるビジネスモデルが成立することになる。

9 ネットワークの価値に関しては 1995 年に Ethernet の開発者の Bob Metcalfe が、ネット

ワークの価値がユーザの数に比例して増加することを主張している。このMetcalfe の法則 によるとネットワークの価値は、そのネットワークに接続されたすべでのコンピュータの 数のほぼ2 乗比例して増加するとなっている。相互接続ネットに n 台のコンピュータがつ ながっている場合、「n(n-1)/2」の相互アクセスが可能となる。接続した場合の有用性はそ れぞれのアクセスで同一であると仮定すれば、ネットワーク全体の価値はn(n-1)に比例し、

参照

関連したドキュメント

2)摂津市障害者地域自立支援協議会代表者会議 年 3回 3)各支援学校主催会議や進路支援等 年 6回

2)摂津市障害者地域自立支援協議会代表者会議 年 1回 3)各支援学校主催会議や進路支援等 年 5回

平成3

人の生涯を助ける。だからすべてこれを「貨物」という。また貨幣というのは、三種類の銭があ

(1) 学識経験を有する者 9名 (2) 都民及び非営利活動法人等 3名 (3) 関係団体の代表 5名 (4) 区市町村の長の代表

2007 年スタートの第 1 次 PAC インフラ整備計画では、運輸・交通インフラ、エネルギーインフ ラ、社会・都市インフラの3分野へのプロジェクト投資として 2007 ~

本稿は、江戸時代の儒学者で経世論者の太宰春台(1680-1747)が 1729 年に刊行した『経 済録』の第 5 巻「食貨」の現代語訳とその解説である。ただし、第 5

− ※   平成 23 年3月 14 日  福島第一3号機  2−1〜6  平成 23 年3月 14 日  福島第一3号機  3−1〜19  平成 23 年3月 14 日  福島第一3号機  4−1〜2  平成