第 21 章 フィリピン共和国投資環境の優位性と留意点
1. ビジネスのし易さと国際競争力の世界ランキング
世界銀行が発表している世界185 ヶ国のビジネス環境(Ease of Doing Business)ランキン グの2013 年版で、フィリピンは前年から順位を 2 つ落として 138 位となった(図表 21-1)。 ASEAN 内では、ラオスに次いで下から 2 番目という厳しい評価である。 特に順位が低かったのはビジネスの始め易さ(161 位)と清算(165 位)である。フィリ ピンでビジネスを始めるには、16 の手続きがあり、36 日間かかると評価された(シンガポ ールでは3 つの手続きで 3 日)。又、事業を清算する際には、5.7 年の時間と、不動産価値の 38%のコストがかかるという評価であった(シンガポールでは、0.8 年で不動産価格の 1%の コスト)。一方で、電力供給を受けるまでの手続き、日数、コストでは57 位、国際貿易のし 易さでは53 位と比較的高い評価を受けている。 図表 21-1 アジア諸国のビジネス環境ランキング シンガポール 1 4 2 5 36 12 2 5 1 12 2 香港 2 6 1 4 60 4 3 4 2 10 17 韓国 8 24 26 3 75 12 49 30 3 2 14 マレーシア 12 54 96 28 33 1 4 15 11 33 49 台湾 16 16 9 6 32 70 32 54 23 90 15 タイ 18 85 16 10 26 70 13 96 20 23 58 日本 24 114 72 27 64 23 19 127 19 35 1 中国 91 151 181 114 44 70 100 122 68 19 82 ベトナム 99 108 28 155 48 40 169 138 74 44 149 インドネシア 128 166 75 147 98 129 49 131 37 144 148 バングラデシュ 129 95 83 185 175 83 25 97 119 182 119 インド 132 173 182 105 94 23 49 152 127 184 116 カンボジア 133 175 149 132 115 53 82 66 118 142 152 フィリピン 138 161 100 57 122 129 128 143 53 111 165 ブータン 148 94 124 136 85 129 150 71 172 37 185 ラオス 163 81 87 138 74 167 184 126 160 114 185 ブルネイ - - - -投 資 家 保 護 融 資 を 受 け る 清 算 電 力 供 給 建 築 許 可 の 取 得 ビ ジ ネ ス の 始 め 易 さ ビ ジ ネ ス 環 境 総 合 順 位 国(地域)名 不 動 産 登 記 契 約 履 行 国 際 貿 易 納 税
(出所)World Bank “Ease of Doing Business Index 2012” (185 ヶ国対象)より作成
もう一つ、世界的によく参照されるランキングに、世界経済フォーラム(WEF)による国際 競争力評価がある。 WEF による国際競争力ランキングにおいてフィリピンは、 2011-2012 版での75 位から 2012-2013 版では 10 位順位を上げて 65 位になった(図表 21-2)。2009 年か
ら比較すると22 位上昇している。まだ順位は低いものの、WEF のランキングで改善が見ら れるのは以下の点である。
(1) 政府機関への敬意(respect to its public institutions) – 23 位向上して 94 位 (2) 政治家への信頼感 (trust in politicians) – 33 位向上して 95 位
(3) 汚職イメージ (perception for corruption) – 18 位向上して 108 位 (4) 官僚主義イメージ (perception for red tape) – 11 位向上して 108 位 図表 21-2 アジア諸国の国際競争力ランキング 制 度 ・ 法 令 イ ン フ ラ マ ク ロ 経 済 環 境 健 康 と 初 等 教 育 高 等 教 育 と 訓 練 物 品 市 場 の 効 率 性 労 働 市 場 の 効 率 性 金 融 市 場 の 効 率 性 テ ク ノ ロ ジー 活 用 の 準 備 性 市 場 規 模 ビ ジ ネ ス の 洗 練 度 革 新 性 シンガポール 2 1 2 17 3 2 1 2 2 5 37 14 8 香港 9 10 1 15 26 22 2 3 1 4 26 17 26 日本 10 22 11 124 10 21 20 20 36 16 4 1 5 台湾 13 26 17 28 15 9 8 22 19 24 17 13 14 韓国 19 62 9 10 11 17 29 73 71 18 11 22 16 マレーシア 25 29 32 35 33 39 11 24 6 51 28 20 25 ブルネイ 28 31 57 1 31 57 73 13 56 64 124 65 59 中国 29 50 48 11 35 62 59 41 54 88 2 45 33 タイ 38 77 46 27 78 60 37 76 43 84 22 46 68 インドネシア 50 72 78 25 70 73 63 120 70 85 16 42 39 インド 59 70 84 99 101 86 75 82 21 96 3 40 41 フィリピン 65 94 98 36 98 64 86 103 58 79 35 49 94 ベトナム 75 89 95 106 64 96 91 51 88 98 32 100 81 カンボジア 85 109 93 34 85 67 99 88 67 80 31 74 67 バングラデシュ 118 127 134 100 103 126 95 117 95 125 47 108 130 ブータン - - - -ラオス - - - -革新と 洗練要因 国(地域)名 国 際 競 争 力 総 合 順 位 基礎要因 効率性促進要因
(出所)WEF “Global Competitiveness Index 2012-2013” (144 ヶ国対象)より作成
WEF は、「汚職やお役所仕事について、まだまだ横行している実態はあるものの、漸く断 固とした対策がとられてきている」と評価している。マクロ経済環境は18 位上昇して 36 位 と好調であるほか、市場規模も35 位と上位である。又、金融セクターの効率向上とビジネス 活動を支援できる能力も評価され、13 位向上して 58 位となった。一方で、インフラの脆弱 性はまだ改善が必要で、特に海運(120 位)、航空(112 位)では目立った改善が見られないと指 摘されている。又、市場(特に103 位の労働市場)の非効率性や柔軟性のなさも国際競争力 の観点からはフィリピンの弱点であるとしている。
2. フィリピンの投資環境の優位性
フィリピンの投資環境の優位性は以下にまとめることができる。 (1) 豊富且つ安定した労働力供給が中長期的に続く (2) 低賃金且つ安定した人件費 (3) 英語のできる、質の良い労働力 (4) PEZA を始めとする投資優遇制度の整備 (5) 少ない労働争議 (6) 工業団地に空きがある (7) 親日的、対日感情によるビジネスリスクなし (8) グローバルサービス拠点として世界から高い評価を受けている (1) 豊富且つ安定した労働力供給が中長期的に続く フィリピンは9,000 万人を超える人口があり、ASEAN でインドネシアに次いで人口が多 い国である。人口ピラミッドもきれいな釣り鐘型で若年人口が多く、ASEAN の多くの国 で2020-2030 年代に生産年齢人口が減少し始めるのに対し、フィリピンでは 2060 年まで 増加する見通しである。国連の予測では、2050 年のフィリピンの生産年齢人口は 1 億人 を超え、日本の約2 倍近くになる(図表 21-3)。 図表 21-3 日本とアジア各国の若年人口及び生産年齢人口の推移予測 (2050年生産年齢人口の高い順) (単位:千人) 2010年 2025年 2050年 2010年 2025年 2050年 インド 374,587 371,144 321,278 789,750 981,726 1,143,065 中国 260,958 218,495 174,389 970,532 981,261 790,010 インドネシア 64,853 58,922 48,461 161,699 189,665 188,512 フィリピン 33,054 35,552 35,882 56,816 75,676 102,379 日本 16,903 15,437 14,504 80,926 71,327 55,446 タイ 14,194 11,593 10,204 48,785 50,382 43,016 マレーシア 8,616 8,848 8,621 18,431 23,300 28,302 韓国 7,918 7,176 6,193 34,896 33,220 25,424 香港 812 1,066 1,196 5,343 5,316 5,242 シンガポール 885 823 794 3,743 3,845 3,370 若年人口(15歳未満人口) 生産年齢人口(15~64歳人口) 国(地域)(出所) 国連 The World Population Prospects The 2010 Revision より作成 (2) 低賃金且つ安定した人件費 JETRO が 2012 年 10 月から 11 月に実施した「在アジア・オセアニア日系企業活動実態 調査」によると、フィリピンにおける賃金の企業年間負担額77は、アジア諸国内で真ん中
77 1 人あたり社員に対する負担総額(基本給、諸手当、社会保障費、残業手当、賞与などの年間合 計。退職金は除く)。
からそれよりも低い方に位置する(図表 21-4)。製造業、非製造業共に、中国、タイ、マレ ーシア、インドよりも低賃金である。又、同調査によると、フィリピンの賃金上昇率は他 国より緩やかである。ASEAN の多くの国で、ここ数年 10%を超えるペースでの賃金上昇 が続いている。2012 年度の賃金上昇率は、ベトナム 19.7%、中国 110%、インド 12.4%、 インドネシア14.7%、タイ 10.9%となっており、いずれも 2 桁の上昇率であるのに対し、 フィリピンは5%台である。2013 年度についても、インドネシアやベトナムの製造業で 20% 前後の上昇が見込まれるなど、各国・地域の最低賃金引上げなどを背景とする賃金上昇圧 力が高まっている。こうした中、フィリピン進出日系企業での賃金上昇率は2012 年が 5.9%、 2013 年見込みが 5.2%と比較的緩やかである。 図表 21-4 アジア各国の日系企業による賃金の年間実負担額 (単位:ドル/従業員 1 人あたり) (出所)JETRO 在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査レポート(2012 年 12 月) データより作成 (3) 英語のできる、質の良い労働力 英語を公用語とするフィリピンでは、日本人にとって第3 の言語を習得する必要がなく コミュニケーションがより容易である。フィリピン人は習得能力が高く、短期間の研修で 戦力化できるという点でも、フィリピン進出済み日系企業の人材に対する評価は高い。又、 JETRO の日系企業調査では、フィリピン人従業員の定着率や労働者の質に関する不満も 他国と比較して少なく(図表 21-5)、質の良い労働力確保が比較的容易である状況が伺える。
図表 21-5 在アジア日系企業による従業員の定着率や労働者の質に対する不満 (単位:回答社割合) (出所)JETRO 在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査レポート(2011 年版及び 2012 年版のデータ)より作成 (4) PEZA を中心とする投資優遇制度の整備 フィリピン経済区庁(PEZA)や投資委員会(BOI)などの投資促進機関による投資優遇措置 が整備されており、売上の70%以上を輸出する輸出志向企業や、投資優先分野に指定され た事業を行う事業者などを中心に、一定の条件を満たせば最長8 年間までの法人所得税免 除措置や、法人所得税免除措置期間終了後の特別優遇税率(国税、地方税が免除され、そ の代わりに5%の総所得税を賦課)などの優遇措置が受けられる。 インドネシアでは、優遇税制の適用条件が厳しく、活用企業が少ないこと、インドは原 則的に優遇税制がないこと、中国でも優遇税制が年々縮小傾向にあること等を考えると、 フィリピンの投資優遇制度はメリットがあるといえる。 フィリピンに進出している日系製造業の大半は、PEZA の優遇措置を受けており、PEZA にとって日系企業は最重要顧客でもあることから、PEZA は日系企業の満足度を高めるべ く大きな配慮をしている。前出のWorld Bank によるビジネス環境評価において、フィリ ピンビジネスの初め易さが世界で161 位という低い評価であったが、PEZA 区内への進出 手続きに関しては、一般の登記手続きよりも迅速且つスムーズに行われており、進出して いる日系企業からの評価も高い。 (5) 少ない労働争議 2000 年には 60 件あった労働争議だが、その後年々減り続け、2008 年には 5 件(同年 インドの労働争議件数は423 件)、2011 年のストライキ実施は 1 件のみであった。
(6) 工業団地に空きがある フィリピンには前述したとおり、日系商社が開発・運営する工業団地が複数あり、既存 の工業団地の中にもまだ空きがある。例えば、リパに位置するリマ工業団地には取得可能 用地及び賃貸用工場がまだある。又、バタンガスにあるファースト・フィリピン・インダ ストリアル・パーク(FPIP)は 100 ヘクタールの拡張を行っており、2013 年内に販売を 開始、年内に入居可能な予定である。その中には中小企業向けの貸工場(一スペースあた り500~1,000 平米)も計 2 万平米設置予定である。他の工業団地でも拡張及び新規開発 予定がある。 (7) 親日的、対日感情によるビジネスリスクなし 2011 年に BBC World Service が発表した世界 27 ヶ国を対象とした調査では、「日本が 世界に与える影響」について「ポジティブな影響を与えている」と回答したフィリピン人 の割合が84%に上り、全調査対象国中、インドネシアに次いで 2 番目に日本に好印象を持 っている国であることがわかった(図表 21-6)。日本は、中国や韓国との間で尖閣諸島や竹 島の問題を抱え、こうした問題を背景とした反日感情の高まりが日系企業の事業活動に悪 影響を及ぼすリスクがあるが、フィリピンにおいてはこうした懸念は全くない。フィリピ ンと日本との間で領土問題が存在しないだけではなく、フィリピン国民全般の対日感情は きわめて良好である。 図表 21-6 日本が世界に与えている影響に関する意識調査結果 国名 ポジティブ ネガティブ インドネシア 85 7 フィリピン 84 12 韓国 68 20 インド 39 13 パキスタン 34 15 中国 18 71
(出所)BBC World Service Country Rating Poll (2011 年)データより作成 (8) グローバルサービス拠点として世界から高い評価を受けている
英語が堪能で、高度教育を受けた若い人材が豊富なフィリピンでは、2000 年頃から欧米
企業がコールセンター、コンタクトセンター、ソフトウェア開発、ビジネス・プロセス・ アウトソーシング(BPO)等のオフショア拠点を次々に開設し、2012 年までにこうした産業 が就業人口 70 万人超、売上高 130 億ドル規模の産業へと発展した。業界団体の BPAP (Business Processing Association of the Philippines)によると、2013 年末には就業人口 92 万人、売上高 160 億ドルを見込んでいるという。フィリピンを拠点とし、様々なオフ ショアサービスを世界中の顧客に向けて主に英語で提供する産業のノウハウの蓄積が進み、 成熟度が高くなった結果、コールセンター部門はインドを抜いて世界一の売上を誇るまで になった。特に、マニラ首都圏とセブは、オフショアサービス拠点都市としてそれぞれ世
界第3 位、第 8 位の評価を受けている。
3. フィリピンの投資環境の留意点
フィリピンに投資するにあたっての留意点としては、(1)電力コストや物流事情などのイン フラ面での課題、(2)治安イメージの悪さ、(3)サプライヤーの少なさ、(4)VAT 還付に年単位 の長時間を要する、(5)進出よりも撤退が困難であること、などが挙げられる。 (1) インフラ面での留意事項 マニラの電力コストは、アジアで日本に次いで2 番目に高く、又電力供給が不安定な場 合があることから、工場で自家発電設備が必要78であり、投資効率を押し下げてしまう傾 向がある。又、フィリピン進出の日系企業からは、マニラ首都圏及び周辺地域の道路・港 湾・物流インフラの改善要望が極めて強い。 (2) 治安イメージの悪さ フィリピンは、非常に治安が悪い国であるというイメージを持つ日本人は多いが、実際 にフィリピンを訪れたり、生活してみたりすると、日本で恐れていた程神経質になる必要 はないという認識に至る場合が殆どである。但し、油断は禁物で、日本とは大きく異なる 銃社会であることや、警察官による犯罪も少なくないこと、スリやひったくりのような軽 犯罪に巻き込まれる日本人も少なくないこと、外国人を狙った身代金目的の誘拐もあり得 ることは十分に認識し、自衛手段を講じる必要がある。又、犯罪頻発地区はどこか、万が 一被害にあった場合にどのように対処すべきかについても情報の入手と普段からの心構え が重要である。 (3) サプライヤーが少ない 他国に比べて製造業の裾野産業が発達しておらず、副資材を除き部品を調達できる現地の サプライヤーが不足又は育っていない場合が多い。その為、材料を輸入に頼っており原価の 割合が高い業種の場合、労働集約型産業のようなコスト面のメリットがそれほど高くは享受 できない可能性もある。 (4) VAT 還付に長時間(年単位)を要する フィリピンでは、企業が物品やサービスを購入した際に支払った付加価値税(VAT)の金 額(アウトプットVAT 額)が、顧客に物品やサービスを販売した際に課した付加価値税の78 但し、日系企業が進出しているところに限れば、自家発電装置を稼働させる頻度は低く、概ね 安定的な電力供給が得られていると言える。
金額(インプットVAT 額)を上回った場合、差分の還付を受けることができる。 輸出企業は、顧客への販売時にVAT を課さないため、還付対象となる VAT 金額が大き くなる傾向がある。VAT の還付には数年を要しており、輸出志向製造業が多いフィリピン 進出日系企業の間でも、VAT 還付は長年重要な懸念事項の一つとなってきた。2011 年以 前は、現金還付はごく僅かで、殆どの場合、企業はまず還付請求権を証明するタックス・ クレジット・サーティフィケート(TCC)による還付を受け、他の税金の支払いに充当する か、第3 者に譲渡して現金化することができた。2011 年、まず第 3 者への TCC 譲渡が禁 止された。続いて、TCC 発行か現金還付かを納税者が選択できるようになったという経緯 がある。 (5) 撤退が困難 世界経済フォーラムの国際競争力ランキング調査 2013 年版によると、フィリピンは企 業の清算や破産処理のし易さが185 ヶ国中 165 位という低い評価である。フィリピンにお いて、会社を清算する場合の手続きで最も時間がかかるのが過去3 年分の税務監査への対 応である。特に、清算時点において、操業中の経理事情を良く知っている担当者がすでに 退職している場合が多く、税務監査への対応を更に困難にしているケースが多い。撤退手 続き完了は平均で2 年、最短で 6 ヶ月、最長 3 年かかると言われている。 必ずしも法的に会社を清算する必要がない場合、当面は「清算」ではなく「休眠」状態 として事業活動を停止するだけの状態としておくオプションもある。この場合、会社は存 在し、事業活動を停止しているだけなので、税務申告や証券取引委員会(SEC)への報告は 継続しなければならないが、その手間や費用は大幅な削減が可能である。 上記の他、英語ができる故の人材の海外への流出リスク、日本語人材の確保や育成が困 難であること、時間、納期、品質に関する一般的なフィリピン人の意識には、日本人と大 きな開きがあること、最近のペソ高傾向なども留意すべきである。 又、ラモス大統領時代の1995 年から、4 人の大統領の下で 18 年間変わらず PEZA でリ ーダーシップをとってきたリリア・デリマ長官の力量と人柄に対する評価と信望が非常に 篤いだけに、大半の日系企業が利用しているPEZA の次期長官人事を一つのフィリピン投 資環境リスクとみる声もある。しかし、デリマ長官が築いてきた組織の仕組みや醸成され てきた職員のモラルはトップが交代したとしても継続されるという見方の方が強い。 日本人が駐在する場合、マニラ首都圏やセブの都市圏など、日本人駐在員の多くが生活 している地区は、日本食レストランや日本食材店も数多くあり、日常生活の利便性もよく、 深刻な不便さを感じることはない。但し、公共交通機関が未発達のため、日本人駐在員の 多くは運転手付きの車が必要なのが実態である。家族同伴の場合は、駐在員本人だけでな く、家族の日常の移動手段についても何らかの配慮が必要になろう。
ひとくちメモ (17):駐在員の生活拠点 ~不動産賃貸の状況 外国人駐在員が住む物件としてはコンドミニアムか高級ビレッジ内の一戸建が一般的である。コンドミニ アムはプールやジム、ファンクションルーム等のアメニティが付いており、各ユニットも什器(家具・家電) 備付けの場合が殆どである。一方、一戸建は3 ベッドルーム(当地では寝室の数で間取りを示す)以上と広 く、プール付きの場合も多い。又、コンドミニアムでは制限のあるペットも無制限といったメリットがある (下記、比較表を参照)。 コンドミニアムと一戸建の比較 (出所)ほのぼの不動産㈱ 賃貸相場は下表の通り、スタジオタイプであれば25,000 ペソから、2 ベッドルームであれば 6 万 5,000 ペソから借りることができる。賃料の上昇率は年間7.5~10%である。契約期間は 1 年間の場合が多く、条 件によっては2 年間のこともある。敷金(Security Deposit)は通常 2 ヶ月分で、契約終了後 60 日以内に家 具の破損又は故障に伴う費用を差し引いた分が返還される。経年劣化程度であれば差引きなく全額返還され る。礼金や更新手数料はない。又、仲介手数料(Brokers Commission)は家主が負担するのが慣習である。 支払形態は殆どの場合小切手であり、支払日が月々又は四半期毎であっても契約期間分の先日付小切手 (Postdated Check)を契約時に提出するのが通常である。契約の更新又は退去の連絡は、契約期間終了の 2 ヶ月前までに家主(若しくはブローカー)に行う必要がある。賃貸借契約終了 2 ヶ月未満になってから家 主に退去を告げると罰金を科せられる場合が多いので注意が必要である。 賃貸相場(管理費含む) (注)2013 年 4 月時点における目安 (出所)ほのぼの不動産㈱、ダオ不動産情報より作成 (単位:ペソ/月) 一軒家 スタジオタイプ 1ベッドルーム 2ベッドルーム 3ベッドルーム 3~4ベッドルーム (20㎡) (30~50㎡) (80~120㎡) (120~200㎡) (200~400㎡) マカティ 100棟近いコンドミニアムが あり選択肢が豊富。日本人 居住者が最も多い。 2.5万~4万 3.5万~5.5万 7.5万~10万 9万~18万 12万~20万 グローバルシティ 約20棟。新しく床面積が広 い。小規模モール・スー パー、日本人学校・インター ナショナルスクール近接。 2.5万~5万 4.5万~7万 9万~12万 13万~25万 n.a. ロックウェルセンター 約10棟。高級、殆ど2BR以 上、中規模モール直結。 2.5万~5万 5万~8万 10万~15万 13.5万~25万 10万~15万 アラバン 約10棟。ルソン島南部工場 団地に近く、空気が綺麗。 2.5万~4.5万 4.5万~6.5万 6.5万~8万 9.5万~13万 10万~17万 コンドミニアム 地区 特徴 項目 コンドミニアム 一戸建 間取り スタジオ~3BRまで 3~4BR以上、書斎・運転手室付きも 賃料(月あたり) 2万ペソからあり 7万ペソ以上 什器備品(家具・家電) 殆どあり 殆どなし 非常電源 有 無(Generator又はInverterが必要) 水道 常時あり 停電時給水停止の恐れあり ペット 禁止・制限あり 無制限 交通の便 車なしでも生活可 要自動車(又は自転車) 修理・保守 常駐保守要員が対応 家主の対応次第 水害 少ない 漏水・洪水・冠水の恐れあり 害虫・鼠害 稀 蚊(デング熱)、蟻・白蟻、鼠 アメニティ プール、ジム、ファンクションルーム 散歩道、テニスコート等 警備体制 一戸建より厳格 厳格
ひとくちメモ (18):治安事情 ~フィリピンはどれくらい危険な国か 治安が悪く危険なイメージの強いフィリピン。進出する企業としても派遣する社員の安全確保は最優先課 題であろう。フィリピンを初めて訪れる日本人の多くはビルやコンビニエンスストア、ショッピングモール の入口で目にする銃を持ったセキュリティ・ガードに驚く。しかし実態は抑止的な形式チェックに留まる場 合が多い。又フィリピンは米国の影響もあり銃容認社会だ。一般市民でも警察に登録し許可を取得すれば合 法的に銃を保持・携帯することが出来る。登録されていない銃器も含めるとかなりの数が出回っており、こ れらが犯罪に使われているのも事実だ。ではフィリピンはどれぐらい危険なのだろうか。国連薬物犯罪事務 所の統計によると、フィリピンにおける人口10 万人当たりの犯罪率は殺人 5.4 件、強盗 49.3 件、強姦 6.3 件(2009 年)である。日本は殺人 0.4 件、強盗 3.6 件、強姦 1.0 件なので日本に比べるとフィリピンの危険 度はかなり高いと言える。一方、米国を見ると、殺人4.4 件、強盗 132.8 件、強姦 29.0 件と殺人はフィリピ ンより1 件少ないものの強盗と強姦はフィリピンの 2 倍以上である。ASEAN 他国と殺人件数を比較すると、 フィリピンはミャンマー、インドネシアに次いで3 番目に高い(下表参照)。なお、フィリピンにおける 2006 年以前の10 万人当たり殺人発生件数は 7 件台だったが 2007 年以降減少傾向にある。 人口10 万人当たりの年間殺人件数 (注)各国最新のもののため国により年が異なる。シンガポール・タイ2011 年、米国 2010 年、フィリピン・日本 2009 年、ミャンマー・インドネシア・ラオス・ベトナム2008 年、マレーシア・ブルネイ 2006 年、カンボジア 2005 年 (出所)国連薬物犯罪事務所データより作成 フィリピンにおける日本人殺害件数は2007 年から 2011 年の 5 年間で 25 人、平均すると 1 年に 5 人が殺 人被害に遭っていることになる。フィリピンの在留邦人数が約18,000 人(在留届ベース)なので 10 万人当 たりの殺人事件件数は約27.8 件とフィリピン全体の発生率の 5 倍となる。但し、殆どの被害者には共通点が ある。それは、①フィリピン人配偶者又は恋人とのトラブルを抱えていた、②フィリピン人との金銭トラブ ルを抱えていた、又は③日本でのトラブルの解決地としてフィリピンに入国していたという点である。殺人 とまで行かずとも日本人が窃盗や恐喝、睡眠薬強盗等に遭うケースが少なからず発生している。これらの多 くも運が悪い場合を除き対応策はある。基本的なことではあるが、①危険な地域(マニラ市エルミタ地区等 の繁華街)には近づかない、②知らない人についていかない(日本語で話しかけてきても気を許さない)、③ 貴重品は出来るだけ持たない、目を離さない、⑥夜、暗い道を歩かない、⑦安易に儲け話に乗らない、⑧一 人でのタクシー利用は出来るだけ避ける(特に女性)等である。なお、①の危険な地域として挙げられる「マ ニラ市」は「マニラ首都圏」の西側に位置する一地区であり、駐在員の居住するビジネス地区マカティ市か らは車で 30 分程離れた場所である。マカティ市で前述を守っていれば危険な目に遭うことは殆どない。在 フィリピン日本国大使館やフィリピン日本人商工会議所等が有益な安全対策情報や注意喚起を発信している のでぜひ参考にされたい。 人口10万人当たりの年間殺人件数 10.2 8.1 4.8 4.6 3.4 2.3 1.6 0.5 0.3 0.4 4.8 5.4 0 2 4 6 8 10 12 ミャ ン マ ー イン ドネ シ ア フ ィリピンタイ ラオス カンボ ジア マレ ーシ ア ベ トナム ブルネ イ シン ガ ポ ール 日本 米国 人口 10 万人当た り の殺人 件数/年
ひとくちメモ (19):フィリピンの食・家事環境 フィリピンの食は中国やスペイン、米国文化の影響を受けており、他の東南アジア諸国に見られる辛さ・ スパイシーさとは味が異なる。フィリピン料理で主に使われるベースは、ニンニク、生姜、玉葱、トマトで あり、これに酢や塩、コショウ、醤油、魚醤油(パティス)、海老や魚の塩辛(バゴオン)が使われる。主食 は米で日本米と比べると細長いインディカ米が一般的である。 これに魚や肉を煮込んだものや揚げたもの、炒めたものがおかずと なる。フィリピン人一人当たりの米消費量は日本の約2 倍 (約115kg/年/人)と多い。又、フィリピンでは「メリエンダ」と 呼ばれる間食を取る習慣があり、午前10 時前後、そして午後 3~4 時頃に麺類やパン・バーガー、揚げバナナ等を食べる。日本のコン ビニエンスストアでも販売されている「ハロハロ」という甘く煮た 豆やフルーツ、アイスクリームの載ったカキ氷や日本のお餅を甘く したもち米で作ったものもメリエンダの代表メニューである(右写 真参照)。なお、「ハロハロ」とは「混ぜこぜ」という意味で多様な 文化が交じり合ったフィリピンを表す特徴的な言葉でもある。 ハロハロ(カキ氷) (写真は日本アセアンセンター提供) マニラ首都圏には100 軒以上の日本食店があり、日本食にはそれほど困らない。マカティ市内の日本食レ ストランでは200~300 ペソ代でお昼の定食を食べることが出来る。又、日本の食材店も数軒あり、調味料 や加工食品、菓子類が日本の価格の1.5~2 倍程で手に入る。外国人駐在員が多く居住する地域のスーパーで も代表的な日本の調味料や菓子、麺、飲料類を販売している。更に、数多くある韓国食材店でも豆腐や乾燥 ワカメ、枝豆等を購入することが出来る。日本食以外にも、スペイン料理やイタリアン、韓国料理、中華料 理等が一通り揃っており食には困らない。 自宅での食事についてはメイドを雇う場合、味噌汁や煮 物等の日本食を作ることが出来るメイドも多いので安心 だ。但し、フィリピン人は一般的に塩や砂糖、醤油等を 多めに入れ「濃く、甘い」味を好むため、嗜好や調味料 の分量などは始めに指導しておく必要がある。なお、メ イド等家庭内労働者(住込み)の最低賃金は 2013 年 1 月に19 年ぶりに改定され月に 800 ペソから 2,500 ペソ となった。但し、外国人駐在員家庭の場合、月に 6,000 ペソ~1 万ペソと一般フィリピン人家庭に比べ高額を支 払っている場合が多い。単身赴任で外食が多い場合は、 掃除や洗濯のみをパートタイムで頼むことも可能であ る。 魚に玉葱やトマト、ニンニク等を詰めて焼いたもの
ひとくちメモ (20):駐在員子弟の通う教育機関 家族帯同で駐在員を派遣する場合、駐在員子弟の教育環境がどうなっているかも気になる点の一つであろ う。フィリピンにも他の近隣諸国同様、日本人学校や米系、英国系のインターナショナルスクールが揃って いる。在フィリピン日本国大使館附属のマニラ日本人学校は小学と中学の部があり、2013 年 4 月時点で計 388 名が在籍している。マニラ日本人学校があるボニファシオ地域にはインターナショナルスクールやブリ ティッシュ・スクール、チャイニーズ・インターナショナルスクールも立地している。 日本語環境の幼稚園としては、「オイスカマニラ日本語幼稚園」(2~5 歳)がある。保育園及び幼稚園は外 国人の子どもやフィリピン人富裕層の子どもが通う地元の私立校に通わせ、小学校から日本人学校やインタ ーナショナルスクールに、という場合も見られる。 駐在員子弟の通う主要な教育機関 (出所)各教育機関ホームページ情報より作成 教育機関以外の習い事としては、サッカーやタッチラグビー、格闘技、バレー、水泳、乗馬、英会話等があ る。又、ショッピングモール内等に1 時間単位で創作・音楽活動等に参加させられる教室もある。日本でも お馴染みの公文は当地でも全国に240 教室あり、算数と読解の 2 科目を教えている。 子ども向けタグラグビーの練習風景(写真はマニラハポンズ提供) 学校名 学年(年齢) 学期 授業料 連絡先 在フィリピン日本国大使館附属 マニラ日本人学校
(Manila Japanese School (MJS)) 小学校1~6年(6~12歳) 中学校1~3年(13~15歳) 4月~3月 (3学期制) 入学金:20,000ペソ 授業料:約160,000ペソ/年 教材費:4,180~12,120ペソ 寄付金:個人2,000ドル、企業11万 ~225万円
add: University Park, Bonifacio Global City, Taguig City
Tel: 63-2-840-1424~27 website: http://www.mjs.org.ph/
International School Manila (ISM) 保育園(3~4歳) 幼稚園(5歳) 小学校Grade1-4(6~9歳) 中学校Grade5-8(10~13歳) 高校Grade9-12(14~17歳) 8月~6月 (4学期制) 授業料:4,680(保育園)~12,860 (高校)ドル/年 その他費用:5,900ドル/年
add: University Parkway, Fort Bonifacio, Taguig, Metro Manila Tel: 63-2-840-8400
website: http://www.ismanila.org/
The British School Manila (BSM) 保育園・幼稚園(3~5歳) 小学校Year1~6(5~11歳) 高校Year7~13(11~18歳) 8月~6月 (3学期制) 授業料:2,100(保育園)~5,475 (高校)ポンド/年 入学金:130,000ペソ
add: 36th Street, University Park, Bonifacio Global City, Taguig City Tel: 63-2-860-4800
website:
http://www.britishschoolmanila.org Brent International School
Manila (BISM) 保育園(3~4歳) 幼稚園(5歳) 小学校Grade1~5(6~10歳) 中学校Grade6~8(11~13歳) 高校Grade9~12(14~17歳) 8月~5月 (2学期制) 授業料:2,844(保育園)~7,964(高 校)ドル/年 その他費用:5,825ドル/年
add: Brentville Subdivision, Mamplasan, Binan, Laguna
Tel: 63-2-697-9043
website: http://www.brent.edu.ph/ (スービック、バギオにもキャンパスあり) Chinese International School
Manila (CISM) 保育園(4歳) 幼稚園(5歳) 小学校Grade1~5(6~10歳) 中学校Grade6~8(11~13歳) 高校Grade9~12(14~17歳) 8月~6月 (2学期制) 授業料:205,000~390,000ペソ/年 その他費用:523,350ペソ/年
add: Upper McKinley Road, McKinley Hill, Fort Bonifacio, Taguig City Tel: 63-2-798-0011