凝血揖27第齢鹿骨)
ベントバルビタール催眠作用の性差に 及ぼす甲状腺ホルモンの影響
東京女子医科大学薬理学教室(主任
藤 井 恵美子●助教授 亀
フジ イ ェ ミ コ カメ
茅根庸子・教授小
チノ ネ ヨゥ コ コ
小山良修教授)
井 照 子
イ テル コ
山 良 修
ヤマ リヨウ シ=r・ウ
(受付 昭和41年6月4日)
1.緒 言
ペソトバルビbe 一一ルによる睡眠時間に性差があ ることは,既によく知られている.ラットでは6 は短かく,♀は長い睡眠時間を示す.
バルビツール酸誘導体は,視床下部の前部,後 部の両方に作用し,体温調節機序にも失調をきた
し,催眠作用を出現すると同時に体温下降をぎた す.したがって体温下降と睡眠時間の持続との間 には密接な関係があると考えられる.著者らは,
これらの点に興味をもち,ベントバルビタールに よる睡眠時間の性差を,甲状腺中毒症,性腺摘除 等の条件下において実験し,特に睡眠時の体温変 動との関係に注目して追究を行なった.
il・実験材料および実験方法
1・実験動物: Wistar−King A系ラツb,当薬理学 教室自家繁殖による生後約40日の雄20匹(体重約130
9),雌20匹(体重約120g)を使用,恒温恒湿下(23±
2。C,55±5%)に飼育,オリエンタル酵母KKのラッ ト用固型飼料(NMF),水を自由に摂取させた.
性腺摘除法は,エーテル麻酔下に,常法に従って行な い,これらの動物は,術後7H目に実験に供した.
2.投与薬物および投与方法
1) ベントバルビタールナトリウム(アボット祉,ネ ンブタール注射液5w/v%)は,30mg1㎏体重を腹腔内注 射した.サイロキシン連続投与直前,あるいは性腺摘除
後,7日目にベントバルビタールを初回投与し,その 後,1週,2週,3週目に,それぞれベントバルビター ルの反復投与を行なった.
2) L一サイロキシンナトリウム(第一製薬,T4と略 す)は,300μg/ml 50%プロピレングリコール溶液/kg体 重/dayを,1日1回3週間(但し日曜日を除く)連続皮 下注射した.対照群には同量の50%プロピレングリコー ルを同様に投与した.
3.睡眠時間の測定
ラットにベントバルビタールナトリウムを腹腔内注射 し,正向反射消失から回復までを睡眠時間とした.
4. 臓器重量測定
ラットを汚血後致死せしめ,各臓器を摘出し,直ちに その重量を1mg感度のトーションバランスで測定した.
5.血清PBI測定
Barkerの灰化法1)を用いて,血清中のPBIを測定し
た.
6.脳および血清中ベントバルビタール濃度測定 Butler法2>を使用して測定した.
1) 脳内濃度の測定
a)摘出した全脳は,直ちに自動天秤(KN・660NS 式マウス天秤M2型,根岸)で重量測定.
b)脳49に同容量の1MNaH2PO4(4ml)を加
え,更に0.5M NaH、PO,を加え,全量を18mlとしホ モゲナイズする.
c) ホモゲネート6m1にエーテル30m1を加え5分 間振盈,3000rpmで5分間遠沈.
Emiko FUJII, Teruko KAmsl, Y6ko CHINONE, Ry6shti KOYAMA (Department of Pharmacology,
Tokyo Women s Medical College): lnfluence o f thyroid hormone on sex difference of hypnosis induced by pentobarbital in rats.
d) エーテル層20mlに0.2NNaOH 10 mlを加え 5分間劇論,3000rpmで10分問遠沈.
c)0.2NNaOH層8mlに0.2M H3BO34m1を
加え242mμ,250mμにおける吸光度を測定.両波長に おける吸光度の読みの差より,ベントバルビタール量を 算出した.
2) 血中濃度の測定
a)血清2 mlに1MNaH2PO42 ml,0。5M NaH2 PO42mlを加え,全量6mlとする.
b) これにエーテル30mlを加え,1)の。)d)e)と同様 に操作する.
それぞれの結果は,脳1g,血清1ml中のベントバ
ルビタール量(μg)で表わし.た.
なお,エーテルは使用直前に毎回精製したものを使用
した.
7.肝臓のベントバルビタール分解酵素活性測定 加藤らの方法3)による(原法Brodie).
a) ラットを汚1丘1後致死せしめ肝臓を摘出し,直ちに 重量を測定.鋏で細切とした後,3倍量の冷却した1.15
%KCIを加え,ガラスホモゲナイザーでホモゲナイズ
する.
b)ホモゲネートを8500×gで15分間0℃で遠沈し,
ミクロゾーム・上清分画の3mlを酵素材料とした.
c>それにmedium O.4ml(再溜水中に20μmole G−
6−P,0.4μmole NADP,50μmoleニコチン酸アミド,
50μmole MgC12含有),1MKCI O.!ml,0.工Mリ ン酸緩衝液(pH 7.4) 1。3ml,および基質0.2mlを加 え,全量5m1とした.
基質としては,ベントバルビタールの最終濃度が2×
!0−4Mとなる様に調製した.
d)円底の50mlガラス遠沈管を用いて,37℃,1時 間,空気中で出湯(約120回ノ分) しながら温置した.
e)反応終了後,0℃で反応をとめ,直ちに反応溶液 2m1をエーテル7.5ml中に注略し,以下Butler法に 従って,反応馬煙のベントバルビタール量を測定し,そ の値より消費ベントバルビタール(μ9/h/9)を算出し,
ベントバルビタール分解酵素活性とした.
8.体温測定法
サーミスタ体温計測器(夏目製作所,1−62886)を 使用し,ラットを腹位にして軽く押さえ,挿入子を肛門 から約4 cm挿入し,直腸温で測定した.
9.動物は次の4群に分け,各群雄,雌各々5匹を使
用した.
1)対照群
2) サイロキシン群 3) 性腺摘除群
4) 性腺摘除十サイロキシン群 皿・実験成績
1. 甲状腺重量および血清PBIに及ぼすサイ ロキシン投与の影響(表1,2)
表1 甲状腺重量におよ ぼすサイnキシソ投与 の影響
Mg/ioogb.w,
表2 血清PBIにおよ
ぼすサイロキシン投与 の影響
pg/d[
T4
iPくO.05
表1,2に示す成績は,最終実験の後,直ちに計 測したものである,
1) 甲状腺重量は,相対重量(mg/1009体重)
で表示すると表1の如く,T4群,性腺摘除+T4 群いずれにおいても対照群より小さくなってい
た.
2)血清PBI(表2)は,甲状腺重量とは全
く逆の関係を示しており,T4群,性腺摘除+T4 群は,それぞれ対照群に比べ有意に増加していた,
2.ベントバルビタール睡眠時間に及ぼす各群 の影響(図1A, B,図2A, B,図3A, B}
1) T4群
丁4投与の影響は3では明らかでないが,♀で は睡眠時間が短縮する傾向にあり,3週目に最も 著明で,有意であった.
2) 性腺摘除群
δには性腺摘除の影響がみられないが,♀では 対照群に比し睡眠時間が短縮し,有意であった.
3)性腺摘除十T4群
δでは睡眠時間が延長し,3週目には有意であ ったのに対し,♀では影響がみられなかった.
一 423 一
MIN.
TOO
50 1
δ ロcontr。l ZコT
MIN.
2eo
冒5σ
toe
50
1
ρ []¢ontro【@ 囮η
o
図1
rtEK? 3 O Tvv[Ek 2 3
図1A 図1B
ペソトバルビタール睡眠におよぼすT4投与の影響
MIN.
100
50
6
MIN,
200
Tsa
:oo
50
{
1
9
1 2 3 a } 2 3 a
WEEK WEEK
図2A 図2B
図2 ペソトバルビタール睡眠におよぼす性腺摘除の影響
MIN.
leo
50
d ロtontro[
囮T6
MIN.
150
1ee
5e
図3
〔コcontret
囮互
T T
0 1 2 3 ., 0 1 ? i
WEEK WEEK
図3A 図3B
ペソトバルビタール睡晦におよぼす性腺摘除十T4投与の影響 一 424 一
3.肝ミクロゾームのベントバルビタール分解 酵素活性に及ぼす影響(表3)
表3 肝ミクロゾームのペソトバルビ タール分解酵素活性におよぼす 各群の影響(in vit「o)
刃吻h
CONTROL T6
6
52士6 60士9弓 74±6 誉T2士5
9
23± 1 24±3♀ 40士6 63±6
県PくO.05
この成績は,最終実験時の肝ミクPゾームを試 料としたものである.
1)T4群
6では対照群に比し,ベントバルビタール分解 酵素活性は増加の傾向がみられた.
2) 性腺摘除群
雌雄共に正常対照群に比し,ベントバルビター ル分解酵素活性は増加の傾向がみられた.
3)性腺摘除十T4群
♂は性腺摘除群に比し,尽ントバルビタール分 解酵素活性が低くなり,正常対照群の3と同じ値
になっていた.それに対し,♀では正常対照群の
♀より高い値を示し,性腺摘除群に比べ更に活性 が高くなり,正常対照群の6の値と同様になって
いた.
4.ベントバルビタール睡眠中の体温の変化
(図4,表4)
oC
LO 峯38
窪
臣 36
己
: 34
$
謹32
一 rightfng ref{ex (+ } 一一一 righting ref{ex (一J
蔑・ここ暮、㌃
ベミミ三二;、♂;唇…一…
父〜卜, /9
i?ie
O IO 50 100 150 ?OO 250 300 TIME IN MIN
図4 ベント・ミルビタール睡眠中の体温の変動
表 4
PEユ胤投与圓
覚醒直後 ゼ・後。傾向
CONTROL 3スO土α16 C 356±O.39●C 次序r・上昇
d
T南 38.7土α08℃ ・R78土α29C 刊駐続サ5
9
CON1「鰍 ●R90土qogC ●Rユ6坦01C 急速1戸隠T6 0
R91土q19C DR62ま040C 次耳隠昇 CONTROL 3a1土α05℃ ■R70土0,17C 一瞬を妓脳
弓
Tる 0
Ra2土α08C .R74土α11C 下降2競彊 CONTROL ●R93士OJ5C 曾R45ま0.、5C 下瞭を競彊
曾
Tら 0
R9.3土α19C ●R6.3土q25C ,欠茅rし上昇
一群の体温変動の成績は,サイロキシン投与後 1週目のものである.
1)T4群
雌雄共に,対照群に比し体温下降は少なかった.
2) 性腺摘除群
雌雄共に,正常対照群に比し体温下降は少なか
った.
3)性腺摘除十T4群
雌雄共に,性腺摘除群に比し体温下降は少なか
った.
5.覚醒直後脳内および血清中ベントバルビ タール濃度(図5A, B)
91g, n nAH,.一, ..一 PPImt
80 20 国、.
60
一 425 一 10
[コGonlrol
222Tら 呈.
㌔L 譲
d 9
図5A 覚醒直後脳内ペ ソトノミノレピタール濃度
表5A 覚醒直後脳内ペ
ントノミルビタール濃i度 p9)9
LO
2e
口control
区Z]丁4
i
r E
一
6 ?
図5B 覚醒直後血清中 ペソトバルビタール濃度
表5B 覚醒直後血清中 ベントバルビタール濃度 pglml
CONTROL T4
σ 56.○士30 7QO之1.○
♀ 750士40 720宝20
この成績は,最終実験時にベントバルビタール を投与後測定したものである.
1)脳内濃:度(図5A,表5A)
対照群,T4群,それぞれの覚醒直後における 全脳中のベントバルビタール量には,共に雌雄差 はなかった.δのT4群は,対照群に比べややそ の量が高かったが,♀はあまり変化がなかった.
2) 血清中濃度(図5B,表5B)
対照群では,♀がδの1.4倍のバルビタール量 を示したが,有意差はみられなかった.6のT4 群は対照群に比し,ペソトバルビタール量が高か ったが,♀においては変化がなかった.すなわ ち,ベントバルビタールの濃度は覚醒直後には,
いずれの群においても,対照群に比し,大差はみ られなかった.
rv.考 察
ペントバルビター一一ル,あるいはヘキソパルビタ ールを成熟ラットに投与すると,その作用出現お よび生体内代謝に著明な性差がみられることは,
既に報告されているが4)5),ペソト・ミルビタール の作用の性差には種属差があり,イヌ,ウサギ,
モルモット,マウス (Swiss−Webster系マウスを 除く6))はみられないと報告されている.ラット においては,著者らの成績からも,対照群でベン
トバルビタール睡眠時間に明らかな性差をみとめ
た.
一方,性腺摘除のみでは雌雄共,対照群に比べ 睡眠時間に対して著明な差はみられなかったが,
性腺摘除群にT4を投与した場合には,6では性 腺摘除群より睡眠時間の延長をきたし,薬物代謝 酵素活性は有意に減少していた.♀においては,
睡眠時間の延長はみられず,薬物代謝酵素活性に も影響はみられなかった.このような性差の現象 は,言い換えればandrogenがペソトバルビター ル催眠に及ぼすT4の影響に対して,大きな役割 を果たしているものと考えられる.これを更に推 論すれぽ,ペソトバルビタール催眠作用の性差 は,アンドロジエソが甲状腺ホルモンとの関係に おいて,性差を生ずるものと思われる.
薬物代謝酵素の活1生化に必要なNADPHは,
また,性ステロイド代謝に関与する肝ミクrrゾー ムに含まれる酵素の活性化にも同様に必要である ことは,Conneyら7)8)9)によって明らかにされて おり,この一面をとりあげてみても,性ステPイ
ドとペソトバルビ劃一ル催眠とが密接な関係に.あ るといえる.
次に,睡眠時の体温変動についてみれば,T4 群において,ベントバルビタール投与の際にみら れる体温下降が少なく,最低体温および覚醒直後 体温は,対照群との間に著明な差がみられた.性 腺摘除群においても,T4投与の影響は同様な結 果を示していたことから,性腺の有無だけでは体 温.変動の傾向に差異はなく,したがって体温調節 中枢の興奮性に雌雄差があり,体温変動に性差を
もたらすのではないかと思われる.
甲状腺ホルモンが体温保持機構に不可欠な因子 であることは,Kassenaarら10)により既に報告さ れている.一方,バルビツール酸誘導体による睡 眠は,体温を下降する条件,例えばレセルピン,
クPルプロマジンの前処置,あるいは,低温下実験 などで,促進されることが証明されている11)12).
他方,体温産生には,.血中遊離セロトニン量が関 与すると,山田ら13)が主張しているところがら,
甲状腺ホルモンは,体温調節をする機構に関与す るセPトニン,あるいは,カテコールアミンの代 謝に影響し,間接的にベントバルビタール睡眠時 間の変動をきたしていることが推論される:
なお,当然のことであるが,覚醒直後ペソトバ ルビタール脳内濃度には,性差およびT4群と対 照群との間の差は認められなかった.
V・結 論
1.成熟した雌雄ラットを用いて,ベントバル ビタールの催眠作用および体温下降作用とそ2ZUC 及ぼす甲状腺ホルモンの影響を,性差を主眼とし て実験を行なった.
2.ベントバルビタールの体内代謝は,甲状腺 ホルモン投与により促進され,その結果ベントバ ルビタールの催眠作用は抑制された.
3.ベントバルビタール投与により,催眠と同 時に体温下降を起こすが,その際の体温下降は,
甲状腺ホ>Vモン投与により,著明に抑制された.
参考文献
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