第 2 章 距離計測技術と位置計測技術の現状
計測の歴史は古く,古代から様々な計測が行われてきた.近代においては,光波距離計(レ ーザ距離計)や巻尺,トランシット,水準器を使用して,測量を行ってきた.現代においては,
レーザ距離計と角度を計測するためのトランシットが一体となったトータルステーションを 用いた測量が主流となっている.また,2000年5月にGPSのスクランブル信号が解除された ことに伴い,民間でもGPSの高精度測位が可能となり,GPSが使用されるようになった.こ れらの従来の地上からの計測手法は 1 点ずつ計測を行っていくため,多数の箇所を計測する 際には時間がかかった.そのため,広範囲にわたる測量では,航空機による測量手法が用い られている.航空機による測量では,航空写真測量と航空レーザ測量がある.移動計測では 測量機器を搭載した機材の位置を正確に把握する必要がある.そこで,本章では移動計測の 要である従来の距離計測手法と位置計測手法について述べる.
2.2 距離計測手法 2.2.2 概要
測量における距離計測は,大きく直接距離測量と間接距離測量があるが,本章では直接距 離測量について述べる.図 2.1 に,現在主流となっている直接距離を計測するセンサ例を示 す.距離計測では一般的に能動的計測と受動的計測がある.
直接距離測量は,古くは歩測や巻尺などにより行われていたが,近年では高精度な測量に は電磁波測距儀(EDM: Electro-magnetic Distance Meter)が用いられる[57].巻尺や歩測は短距離 では精度が高く,長距離になるに従い精度が悪化する.理論上は,1.2[km]までの計測精度は 巻尺の精度の方がEDMよりも高いが,実際上は不可能である.また,移動計測においては巻 尺のような接触型の計測は不可能であるため,EDMやステレオ法が用いられる.EDMには,
光波距離計(レーザ距離計)と電波距離計がある.電波距離計は,電磁波の位相差を読み取るこ とで距離を計測する.電波管理法の厳しい制約や,反射点での電波の増幅が必要であるが,
透過性が高く天候に左右されづらいため,長距離計測に向いている.しかし,短距離では,
地形の乱反射などの影響を受けやすく,レーザ距離計よりも精度が劣る.そのため,現在は 船の位置計測などの海上での長距離計測に利用されている.レーザ距離計は,電波距離計に 比べ,軽量で簡単に取り扱うことができるため,地上測量にもっぱら用いられている.レー ザ距離計は航空測量でも用いられている.EDM や巻尺のほかに,写真を用いた写真測量
(Photogrammetry)がある.写真測量は,2枚のステレオ写真から対象の大きさや形状を計測す
るものであり,航空測量の分野でよく使われている.現在の国土地理院発行の地勢図や地形 図などはすべて航空写真測量に基づいて作成されているが,撮影高度の問題から 1/500~
1/1000以上の大縮尺図を航空写真測量で作成することは困難である.
Fig.2.1 Distance measurement sensors.
2.1.2 レーザ距離計
測量で用いられるレーザ距離計は,レーザを発射してからレーザが目標物に反射して帰っ てくるまでの時間を計測し距離を求めるTime of flight方式と,目標物から反射されたレーザ の位相差から距離を求める位相差方式が主流である.レーザ距離計は,一定の反射強度があ れば,屋内外,昼夜を問わず高精度に距離を計測することが可能である.一般的な測量の際 には,プリズムと組み合わせて使われることが多いが,近年ではプリズムを使用せずに計測 可能なものが多数存在する.計測可能距離はレーザの強さにより異なるが,航空測量用のも ので2000[m]程度が限界である.
a) 一次元レーザレンジファインダ
一次元のレーザレンジファインダは,1 箇所に向けてレーザ光を発射し,ピンポイントで 距離を計測するレーザ距離計であり,現在の測量ではこの一次元レーザレンジファインダが 用いられる.従来の測量では,トランシット,レーザ距離計,水準計を用いて個別に水平距 離,高度差を計測していたが,手間を省くために,レーザ距離計とトランシットを合わせた TSが1980年代に登場し,以降,現在に至るまで測量機器の主流として利用されている.TS は,1箇所の計測に複数回レーザを照射し,複数回の距離の分散値から距離を計測しており,
高精度な計測が可能である.通常はプリズムと呼ばれる反射鏡と組み合わせて使用される.
計測可能距離が短くなるが,プリズムを使用せず直接対象を計測することも可能である.ま た,プリズムを自動追尾する,自動追尾TSも存在し,計測を簡略化することが可能である.
TS は1回の計測で1箇所しか計測できず,熟練した作業者でも1[min]に10点程度しか計測 できないため,高密度に計測する用途には向いていない.
b) 二次元レーザスキャナ
一次元のレーザ距離計に,一軸の走査軸を持たせることで,二次元平面を計測することを 可能にしたものが二次元レーザスキャナである.二次元レーザスキャナの応用範囲は広く,
またステレオ法に代表される能動的計測よりも信頼性が高いため,工場における危険エリア の管理[58]や,車両の障害物センサ[59],移動ロボットの環境認識センサ[60][61],遺跡の三次元復 元[62]などに幅広く利用され,多数の製品が販売されている.エリアレーダとして使用する場 合,計測されるデータは二次元となるが,レーザスキャナを傾けて設置し,移動することで 周辺環境を三次元計測することが可能であるため,近年のほとんどの移動計測システムでは 二次元レーザスキャナを搭載して周辺環境の計測を行っている.移動計測では1 箇所に対し 1回しかレーザが照射されないため,TSのような測量機器よりも精度が低下する.
航空レーザ測量で使用されるレーザも二次元レーザスキャナである.レーザは高性能なも
ので,1[s]に20万回程度レーザ光を発射することができる.計測可能範囲は数mのものから
2000[m]のものまであり,価格も数十万円から1億円までと幅広い.長距離を計測可能なもの
は,近距離の計測が苦手なものが多く,1[m]以下の計測ができないものもある.計測可能角 度や角度分解能も製品によって様々であり,用途によって最適なレーザを選定する必要があ る.
c) 三次元レーザスキャナ
三次元レーザスキャナは,二軸の可動軸をもち,三次元的に計測するレーザ距離計である.
本スキャナは,レーザレンジファインダや二次元レーザスキャナと比較し,可動軸が多く機 構が複雑になっているため,非常に高価であり,これまでは測量分野では一部でしか使用さ れていない.近年,三次元レーザにより取得された三次元点群の取り扱いソフトが急速に充 実する傾向にあり,今後さらに使用されるものと予想される.航空機や船舶,プラントの三 次元計測を行い,CAD化への利用,ダムや河川[63],トンネルの計測[64]など,細かい計測や面 で計測が望まれる箇所で利用されている.非接触センサであり持ち運びが比較的容易である ため,遺跡や文化財の解析保存にも利用されている.三次元レーザスキャナの多くはカメラ も搭載しており,同時に計測箇所の色情報も収集することが可能となっている.
三次元レーザスキャナは,一度の計測で 360[deg]の計測が可能であるが,1 回の計測に 15[min]程度かかり,その間は静止していなければならない.移動計測システムにも搭載され た例はあるが[65],計測中は静止していなければならないことや,40000[m2]の計測に1[h]を要 するなど,二次元レーザスキャナ搭載型の移動計測システムに比べ,計測時間が長い.さら に1箇所に固定して使用するため,スキャナからの距離に応じて計測密度,計測精度が低下 するという問題がある.
2.1.3 ステレオ法
ステレオ法は,広範囲にわたる計測技術として,位置の異なる複数の写真から対象物まで の距離を三角測量の原理により求める手法である.基本的な手法である二眼ステレオ法では,
位置関係が既知の 2 箇所に設置されたカメラの画像から,同一物が撮像された画素の位置か ら三角測量の原理により対象物までの距離を求める[66].ステレオ法では二画像間の対応点を 見つけることにより,計測を行う.初期のステレオ法では,人が直接対応点を指定すること で距離の計算を行っていたが,広範囲に渡る計測では作業量が膨大となるため,対応点を自 動で探索するステレオマッチング手法の研究が様々になされている.ステレオ法は,レーザ 距離計に比べ計測装置が単純であり軽量化が見込め,さらにレーザ距離計よりも高密度に計 測することが可能であるが,ロバスト性や計測精度の点でレーザ距離計に劣る.また,ステ レオ処理に時間がかかるため,三次元レーザ計測よりも三次元復元に時間がかかる.本章で は,さまざまなステレオ法について現状を述べる.
a) 二眼・多眼ステレオ
二眼ステレオ法では,上述のように,カメラの位置・姿勢が既知の 2 台のカメラにより撮 影された画像に対し,画像上で各画素の対応を決定することによって,三角測量の原理によ り距離を推定する.ステレオ法の精度は,カメラ間の距離の正確さと,画像内歪みのキャリ ブレーション,対応点マッチングの正確さによって決まる.そのため,ステレオ法を行う前 にはカメラ間の位置関係を求めるキャリブレーションが行われる.代表的な手法として,三 次元位置関係が既知のマーカを用いる手法がある[67].
ステレオ法の自動化において,正確な対応点探索手法が課題となっており,それを実現す るために,様々な手法が提案されているが,完全なものはなく,対応点のあいまいさ,ロバ スト性の問題,計算コストの問題を抱えている.対応点のあいまいさを減らす試みとして,3 台以上のカメラを用いる多眼ステレオ法が提案されている[68].さらに,複数台のカメラの投 影中心を同一の平面上に配置し,特定のカメラの画像上で,各画素に対して奥行きを算出す るマルチベースラインステレオ法へと発展している[69]~[71].これらは,多数の画像を取得する ことにより,対応点探索のあいまいさを減少させるものである.
ステレオ法では,長距離を計測する際にはカメラ間の距離(ベースライン)を長く取る必要が あるが,ベースラインを長く取ると近距離で画像間のオーバラップ率が減少するという問題 点がある.また,ベースラインを長く取るためには計測装置の大型化が必須であるという問 題点があるため,現在市販されているステレオカメラでは近距離用のものがほとんどである.
また,ステレオカメラでは,近距離の対象物にピントを合わせて長距離の対象物を同時に 撮像すると,長距離の対象物がぼやけてしまう.当然,長距離に合わせた場合は近距離の対 象物がぼやけてしまい,同時に計測することは困難である.航空写真測量では高高度から撮 影するため,無限遠にピントを合わせているためこの問題は発生しない.
b) モーションステレオ
モーションステレオは,1 台のカメラを用い,連続的に画像を取得し,連続画像間の特徴 点を追跡することで,カメラの運動パラメータと特徴点の三次元復元を行う手法である[72]~[74]. 他のステレオ法とは異なり,任意の移動による時系列的な画像から復元を行うところに特徴 がある.動画像を入力とする三次元復元手法では,特徴点が画像上で連続的に移動すること を利用して,特徴点の追跡を自動化できる.このため,動画像を入力とする三次元復元手法 の研究が盛んに行われている.それらの代表的な手法に,カメラモデルを線形近似し,線形
解法によって撮影対象の形状とカメラパラメータを同時に求める因子分解法[75]がある.この 手法は安定かつ高速に対象の復元を行うことができるため広く用いられ,また手法に関する 様々な拡張が試みられている.しかし,カメラモデルを線形近似するため,カメラパラメー タの復元精度に問題がある.さらに,動画像の全てのフレームに撮影されている特徴点を用 いることを前提としているため,特徴点が全てのフレームに渡って連続して観測できない一 般的な動画像からの三次元復元は困難である.一方で,射影的な復元を利用する手法が提案 されている.これらは,各フレームにおいて,逐次的に射影的なカメラパラメータを復元し,
射影座標系からユークリッド座標系への変換を行うことでカメラパラメータを復元する.し かし,射影的な復元では,多くの自由度を残したまま逐次的な三次元復元を行うため,特徴 点の誤対応による累積的な推定誤差が大きくなり,数十枚程度の画像からの復元を行うにと どまっている.また,一般に,動画像上の自然特徴点のみを用いる手法では,現実世界と復 元されるデータとの位置関係およびスケールの情報が失われるため,カメラ間の相対位置関 係を用いた部分形状の統合は困難である.加えて,上述した手法では部分形状が自然特徴点 の間に面を構成する程度の簡易なモデルとして復元されており,これらを統合に用いること は難しい.これらの問題を解決するため,動画像に加えて,GPS やジャイロなどのセンサ類 を利用する手法が提案されている[76]~[78].しかし,GPSやジャイロを直接位置データや姿勢デ ータとして用いる場合には,一般的にGPSでは10[m]程度の位置推定誤差が,ジャイロでは ドリフトによる誤差の累積が避けらないため,高度なセンサ複合の技術が必要となり,ただ 単純に各センサ出力を基準に処理を行っただけでは,高精度な計測は望めない.
c) アクティブステレオ
アクティブステレオ法は,カメラとプロジェクタから構成され,プロジェクタによりパタ ーン光を投射することで,特徴量を人工的に作り出し,ステレオマッチングを容易にする手 法であり,能動的計測手法に分類される.アクティブステレオ法は,通常のパッシブなステ レオ法では特徴がなくステレオマッチングができないため,三次元計測が不可能な単一色の 壁などに特徴量を投影することにより計測を可能にしている.パターン光は,スポット光,
スリット光,コード化パターン光など様々な種類がある.また,パターン光も可視光から近 赤外光を用いたものまで様々なものが研究されている[79].スポット光投影法では,レーザ光 を投影してできるスポット光を異なった角度からカメラで撮影し,レーザ光源とカメラの位 置関係および,スポット光の画像上での撮像位置,レーザ光の発射角度からスポット光の位 置を計測する手法である.通常,スポット光は,周囲の物体よりも輝度が高く簡単な処理で 画像上の位置を算出することができるため,信頼性が高いという特徴がある.しかし,1 点 を計測するために1枚の画像を必要とするため,n×n pixelの画像全体のスキャンにはn2回の 計測が必要であり,時間を要するという問題点があるため,通常は PSD(Position Sensitive Detector)と呼ばれる,半導体位置検出素子を用いることで高速化が図られている[80]~[83].また,
スポット光投影法と通常のステレオビジョンを組み合わせた手法もある[84].スリット光投影 法は,スポット光の代わりにスリット光を投影することで,1 回の画像入力でスリット光上 の位置を計測可能としたものである.n×n pixelの画像全体のスキャンをn回で計測できるた め,スポット光計測よりも高速に計測できる.多数のスリット光を同時に投影することで 1 回の画像計測で三次元計測を可能にするモアレトポグラフィがある.一度に画像全体の計測
が可能であるため,動物などの計測に向いているが,凹凸の判定ができないことや,対象物 の相対変位しか分からないため絶対距離が求められないという問題点がある.コード化パタ ーン光投影法は,投影方向に関する情報を特殊な模様でコード化した光パターンを投影する 手法であり,モアレポトグラフィのように一度の撮影ですむという特徴があるが,コードの 復号化の計算コストが高く,また細部の計測が難しいため実用的ではない.
2.2 位置標定装置
移動計測する際には連続的に機材の位置を知る必要がある.特に移動計測ではその精度は,
距離計測センサよりも機材の位置計測精度に大きく影響を受けるため,機材の位置を知るこ とは非常に重要である.移動体の位置標定は長年の問題であり,様々な手法が研究されてき た.従来の位置標定技術の概要を図 2.2 に示す.移動体の位置を計測する手法は,天体やあ らかじめ位置のわかっているランドマークを基準に位置を計測する手法と,慣性センサやオ ドメータなどの内部センサで位置を推定する手法の2 つに大きく分類される.本章では移動 体の位置標定技術の現状についてまとめ,その問題点を明確化する.
Fig.2.2 Positioning method.
2.2.1 DR(Dead Reckoning)による位置標定
DR方式は,オドメータ,IMU,速度計などのセンサを用い,他のインフラや天体情報を用 いることなく,内部センサのみで初期位置からの相対位置を推測する技術であり,古くから 使われている手法である.航空機では,ジャイロや加速度計などの慣性センサを用いて,機 体の位置・姿勢を求めているが,これもDR方式の一部である.DRで用いられるIMUやオ ドメトリは,サンプリング周波数が100[Hz]程度と高く,連続的な位置標定を行うことが可能 である.一方,DRは,微小時間でのセンサの変位から,積分によって位置を推定しているた め,長距離に渡る位置推定では累積誤差が発生するという問題点がある.車輪型の移動体で は,車輪の軸にオドメータを取り付け,回転数から走行距離を推定するものが多いが,砂利 道や雪道では,車輪のすべりが発生するため誤差が増大する傾向にある.
DR方式単体では累積誤差がリセットできないため,この問題を解決するため,位置が既知 のランドマークなどを用いて位置補正を行い,累積誤差をリセットするランドマークを用い
た位置標定手法が数多く研究されている.
2.2.2 ランドマークによる位置標定
前節でも述べたように,DR方式による位置標定手法では累積誤差が生じるため,誤差補正 を行う必要があり,様々な手法が研究されている.その中のひとつの手法として,ランドマ ークによる位置補正手法がある.これは位置が既知のランドマークを用いることで,移動体 からランドマークまでの見越し角や相対距離を計測することにより,移動体がランドマーク に対し,どの位置にいるかを算出することで位置を補正する手法である.ランドマークによ る位置標定は,一定間隔にランドマークを設置することにより DR 方式による累積誤差をリ セットしながら,長距離に渡る高精度な位置標定が可能となる.しかし,事前にランドマー クの設置とランドマーク位置の計測が必要であるため,例えば工場構内などの限られた空間 であれば問題ないが,広範囲にわたる屋外環境下ではコスト面で問題がある.
2.2.3 SLAMによる位置標定技術
SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)とは,地図が無いような未知の環境下におい て,あらかじめ移動体が移動することによって得られた搭載センサからの局所的な地図を重 ね合わせることで,全体の地図の作成と移動体の位置推定を同時に行う技術であり,移動ロ ボットの分野で,様々な手法が広く研究されている.SLAM は移動体に搭載されたセンサの みで位置を推定する技術であり,高度な移動システムの実現のためには必要であると考えら れているが,複雑な環境下では三次元的なデータによるSLAMが必要となり,データ量の多 さから計算量の増加による処理時間の増大が問題となる.また,計測センサそのものが持つ 誤差もあるため実用化には至っていない.
2.2.4 GPS衛星を用いた位置標定
近年,屋外環境下における位置標定技術の中で最も有力とされている技術として,GPS 衛 星を用いた位置標定手法がある.昔から天体の位置を用いて自分の位置を測位する天文航法 が行われており,船の洋上航海では現在でも天文航法が利用されている.この天文航法に用 いられる星を人工的にしたものがGPS測位である.GPS測位は,1970年代にアメリカ国防総 省により軍事目的にGPS衛星が打ち上げられたのが始まりであるが,1990年代後半からカー ナビゲーションシステムや一部測量技術などの民生用技術への転用が図られるようになった.
2000年5月に,一部の紛争地域を除き,スクランブル信号が解除され,民間でも高精度な位 置計測が可能となったこともあり,民生利用が加速した.GPS衛星は,基本周波数10.23[MHz]
の電波と,これを154倍したL1 (1575.42[MHz]),120倍したL2 (1227.60[MHz])の2つの搬送 波を発信している.またそれと同時に,衛星の軌道パラメータ,原子時計の補正値,電離層 伝播遅延の補正値,衛星の健康状態などの航法メッセージも送信している.GPS 衛星による 位置計測では,未知数が,受信機の位置X,Y,Z,および誤差の4 つであるため,最低でも4 つ のGPS衛星を同時に捕捉し,各GPS衛星からの距離から誤差およびGPS受信機の位置を求 める.誤差の中には,衛星の原子時計の誤差,受信機の時計誤差,電離層遅延誤差,対流圏 遅延誤差がある.GPS受信機1 台のみの情報から位置を計測することを単独測位と呼ぶが,
単独測位では誤差が計測できず,その位置精度は20[m]程度であり,このままでは,移動体の
位置計測には使用することができない.そのため,GPS 受信機を 2 台用いることで,2 台の 受信機に共通する誤差を計算し,測位精度を高めるディファレンシャルGPS (DGPS)と呼ばれ る測位手法がある.DGPS測位では1台のGPS受信機を基準局とし,座標が既知の点に設置 することで,もう1台のGPS受信機の基準局からの相対位置を求める.DGPS測位では2台 以上の受信機が必要となるが,現在の日本では,電子基準点と呼ばれる固定のGPS衛星連続 観測点が全国で約1200箇所存在し,電子基準点を利用することで,1台のGPS衛星でDGPS 測位が可能となっている.電子基準点の情報は,国土地理院のホームページ上で公開されて おり,誰でも使用可能になっている.また電子基準点の情報をリアルタイムに配信するサー ビスも一般企業で行われている.GPS 衛星による位置測位は,時間による累積誤差が発生し ないというメリットがある一方で,上述のように最低でも4基以上のGPS衛星を同時に捕捉 する必要がある.特に高精度な測位を行う際にはさらに多くのGPS衛星を同時捕捉できるこ とが望ましいが,都市部のビルが林立する箇所や高木の生い茂る山間部といった箇所におい ては,必要数のGPS衛星を常に捕捉することが難しい.さらにGPS測位のデータ取得周波数
は10[Hz]程度であり,GPS測位のみでの位置標定は高速で移動する移動体や,都市部や山間
部で使用する移動体には向いていない.そこで,この問題点を解決する手法として,連続的 な位置推定が可能な DR 方式と組み合わせることで,累積誤差が発生しづらい連続的な位置 標定手法である GPS/INS(Inertial Navigation System)複合航法が数多く研究されている.
GPS/INS複合航法では,INSからGPS測位の位置観測モデルを予測したものを,GPS測位の 観測値と比較し,観測残差をカルマンフィルタに入力し誤差を予測し,自己位置を標定する 手法が一般的である.GPS/INS 複合航法は,航空機の位置標定にも使用されている.航空機 では,上空を遮るものは存在しないため,常にGPS衛星が観測可能であるが,地上の移動体 では常にGPS衛星を観測することは困難であり,GPS衛星が観測できない時間が長時間続く と累積誤差が蓄積し,GPS 衛星が再度観測可能になった際の位置と予測位置が大きく異なる といった問題がある.